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これほどの大群衆が集まっているにもかかわらず、今、広場は怖いほど静かになっていた。
人々は恍惚とした表情で、息を詰めて壇上の人を見る。
午後の頭上からの陽光のせいだろうか。
コイユールは、あまりの眩しさに目を細めた。
まるでトゥパク・アマルの全身から、神々しいまでの白く輝く強い光が放たれているように見えるのだ。
トゥパク・アマルは静かな微笑みを湛えながら、群集に頷き返すように再び瞳で礼を払った。
それが合図であったかのように、傍に控えていた側近のディエゴが、豪奢な布に包んで持参した、黄金に輝く笏杖を掲げ持ち、それをトゥパク・アマルに捧げるように手渡した。
それは、代々インカ皇帝の皇位継承者に受け継がれてきた、まさしく、権威の象徴…――インカ皇帝としての証の笏杖であった。
トゥパク・アマルは片手で手綱を取ったまま、もう一方の手でその黄金の笏杖をしっかりと握り、そして、天空に向けて高々とその笏杖を捧げ上げた。
黄金の笏杖は、真昼の陽光を反射して、直視できぬほどの強烈な輝きを放つ。
トゥパク・アマルは、まるでその笏杖に誓詞を立てるかのように、まっすぐにその光輝く笏杖を見つめた。
それから、再び群集の方に、熱を帯びた視線を向ける。
群集は酔いしれるような恍惚感の中、輝く笏杖を手にしたトゥパク・アマルを、憑かれたような眼差しで見つめている。
トゥパク・アマルは一つ、すっと深く息を吸い込むと、群集を包み込むような眼差しになり、それから、穏やかな、にもかかわらず、非常によく通る声で、「皆の者よ、よくぞ集まってくれた!」と美しいケチュア語で話しはじめた。
群集の間に、強い興奮の色が沸き立つ。
その空気をさらに高揚させるかのように、トゥパク・アマルが堂々と力強く響く声で続ける。
「わたしは、亡きインカ皇帝トゥパク・アマル1世の直系の子孫、トゥパク・アマル2世である!!
我こそ、このインカの地の正当なる皇位継承者である!!」
トゥパク・アマルは力強く名乗りを上げると、燃え立つような眼差しで、群集を見下ろした。
広場中の大群集から、驚きと歓喜のどよめきが渦巻くように湧き上がる。
いっそう激しい炎を燃え上がらせた眼差しで、トゥパク・アマルはさらに続けた。
「わたしはインカ皇帝の末裔として、そなたたちインカの地に生きる者たちを守る義務がある!!
現在のこの国におけるスペイン人による圧政を、これ以上野放しにすることはできぬ!!」
トゥパク・アマルの話は、単刀直入であった。
さらに、彼は、スペイン人でも決して真似できぬ程の流麗なスペイン語で、同じように名乗りを上げた。
広場にいたスペイン人たちは、すっかりど肝を抜かれた表情で、驚愕と呆然との混ざり合った眼で壇上の人を見やっている。
広場中の数千人に及ぶインカ族の者、そして、同様に数千人に及ぶ混血の者たちは、「インカ皇帝」という響きへの激しい興奮と感動から頬を紅潮させ、トゥパク・アマルの方に一心に身を乗り出している。
トゥパク・アマルはこの機を見計らうように、白馬の手綱を引いた。
白馬が天に届くがごとくに高くいななき、それに触発されたように上空のコンドルが、トゥパク・アマルの頭上で優雅に羽ばたくと、天空に巨大な弧を描いて力強く飛び去った。
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