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そのまま、どれほどの時が経過しただろうか。
傍(はた)から見れば、単に、間合いを取り合っているだけの単純な動作である。
しかし、熟達した剣士である二人には、それだけで、双方の力を見抜くに充分であった。
しかも、今のアンドレスには、これは夢だと、あのプノ戦の時と全く同じ情景を繰り返しているだけなのだと、どこかで分かりながらも、その意識は、まるでブラックホールに吸い込まれていくがごとくに、あの時の状況に、身も心も無抵抗に呑み込まれていく。
(ああ…これは、夢だ…!
夢なのに……!!)
…――やがて、それが夢か現(うつつ)かも定かではなくなり、彼の意識は、完全に、その戦場の場面へと舞い戻っていた。
剣を握る手の平に、確かな発汗さえ覚える。
己の目の前で、馬の手綱を手繰りながら間合いを計り続けるフロレスの動きは、舞うように優美でありながらも、完璧に隙が無い。
その鍛錬され抜かれた相手の動きと、同様に研磨され抜かれた相手の全身に、アンドレスは睨むような険しい視線を走らせた。
(くっ…!
フロレス…こいつ……!)
きつく唇を噛み締めながらも、彼の全身には、師たるアパサと対決した時にさえ覚えたことのない手応えに、ゾクゾクと鳥肌が立たずにはいられない。
互いの喉元を、心臓を、腹部を――血に飢えた魔物のごとく狙い定めて微動する剣先に、真昼の陽光が滑(ぬめ)るように反射する。
さして動いているわけでもないのに、恍惚の滲んだアンドレスの鋭い横顔には、既に幾筋もの汗が伝っていた。
【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆
≪アンドレス≫
トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。
若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。
≪フロレス≫
ラ・プラタ副王領のスペイン軍総指揮官として、当地の反乱鎮圧の総責任者をつとめる。
副王の信任も篤く、かつては最高司法院の議長まで務めた有能、且つ、武勇に秀でた麗人。
植民地生まれであるためか、他のスペイン人高官とは異なり、偏見を持たぬ公明正大な人物。
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