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ユメ十夜・観賞　２

テーマ：最近観た映画。(40112)

カテゴリ：山本耕史くんの舞台＆映画＆ドラマ

「余は吾文を以って百代の世に伝えんと欲する野心家なり」

夏目漱石は、自分の書いた文章が理解されるためには
長い年月がかかると予言していたそうで、
その「１００年後の答え」のひとつが、今作。
「ユメ十夜観賞　１」

監督１１人が一夜ずつ１０分のフィルムを披露する「ユメ十夜」。

【映画の内容に触れますので、お読みになりたくない方はどうぞスキップなさって下さいね】

【第三夜】

「もう少し行くと解る。丁度こんな晩だったな」

原作を読んで、第一夜に次いで印象に残っていたのが、このお話。
背中に負ぶった我が子に、こんな風につぶやかれたら…
小学校のときの地域のキャンプで教えてもらった怪談話をも思い出して。

この第三夜に相応しい監督として選ばれたのは、清水崇さん。

確かにぴったりです。

漱石役は堀部圭亮さん。
原作には出てこないものの、映画ではキーパーソンになる妻・鏡子役に香椎由宇さん。

「パビリオン山椒魚」では、オダギリジョーさんや、
第九夜にも主演されている緒川たまきさんを向こうにして
１０代の美しい驕慢の裏に秘めた悲哀を見事に表現していらした香椎さんは、
今回もしっとりと和装を着こなして、３０代の年齢設定である鏡子も
難なくこなしていらっしゃいました。

原作をお読みになってもそうですけれども、
特に第一夜と第三夜に共通するモチーフと思われるのが
「前の世にも、御契りや深かりけむ（源氏物語　桐壺より）」

「あなたとは、どこかでお会いしたことはありませんか？」とは
とどのつまり、「前世からの縁」ということ。

何度も夢に出てくることは、前世の記憶という可能性もあるとか。
他生での人との関わりの中で過ちや学び切れないことがあるときは
再びの旅において、第三夜の親子のように、ごく身近な存在として縁を結ぶことも。

「 月日は百代の過客にして行きかふ年もまた旅人なり 」

☆　ラストのシーンでは、ついつい明治村の漱石・鴎外住居跡を
　　思い出してしまいました。☆

【第四夜】

「今になる、蛇になる、きっとなる、笛が鳴る」

待ってましたの二枚目看板、二段の二乗の四段目、山本耕史くんの登場。
つぶらなアーモンドのような瞳がいきなりアップになったときには
一番前の席で思わず小さく拍手しておりました、ごめんなさい☆

さてさて、大道芸や見世物小屋につきもので、子供たちにも一番人気、
道の端や暗幕の闇で一箇所にとぐろを巻いている感のある縄蛇の芸当に
ぴーひょろひゃりらの音色に合わせた動きを加えて、水辺にいざなう第四夜。

原作では、自分（漱石）が子供であるという視点で物語が進みますけれども、
映画の耕史くん演じる漱石は、ツィードスーツの似合う大人視点で
記憶の底に沈んでいた淡い思い出の、真実が焙り出されてくる趣向に。

草鞋や手拭や手桶、煮しめや瓢箪や床机といった
純日本風な小道具を散りばめた原作の印象のまま、
英国紳士風の漱石が闊歩するこのフィルムを観ると
そんなお話だったかしら…と最初は思ったのですけれども。

縄蛇の不可思議な雰囲気にハーメルンの笛吹き男の
ジャポネスクバージョン的な部分を重ねてクローズアップされたところも、
シェイクスピア役者さんにもご縁があり、
武士道の権化にして、洋装散切り頭を誰よりも早く実践した副長を生きた彼をもって
この役柄に任じたところも、やはり慧眼だなあと思います。

ラストシーンで広がったのは、ふたつのイメージ。
ひとつは、大戦の空襲で海に逃れた幼児たちの呼び声。
もうひとつは、百年の百乗前に盛り栄えた文明の滅びるさま。

あの水辺は私がよく見る夢にも似て。
リアルに思い出した方がよいのかどうか、迷うところ。

監督の清水厚さんは、エピローグとプロローグも担当されていますので
「ユメ十夜」に収められているお話は、正確には十夜ではなく「十二夜」に。
ここにも日英の文豪を結ぶ縁を感じて、少し嬉しかったりするのです☆