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この春、ヘドウィグ・アンド・アングリーインチの舞台の前に

アンコール上映で観ることができました。

【善き人のためのソナタ】
ベルリンの壁崩壊前の１９８４年、国家統制の嵐吹き荒れる東ドイツの中で、
劇作家・ドライマンをはじめとした芸術家達は
西側の思想・文化にいち早く接する機会を持っていた。
ドライマン脚本の舞台の初日、彼の恋人の女優・クリスタは、その魅力ゆえに
国家保安局・シュタージのヘムプフ大臣に見初められてしまう。クリスタを奪うため、
ヘムプフはドライマンが反国家主義である証拠をつかむよう命令を出し、

芸術、愛、仕事と、人生で大きな位置を占める要素が
国家体制の名を借りた権力に踏みしだかれ、
人は人との間に壁を築いてゆく。
そんな中でも、なんとかわずかな隙間を穿って光を見出し、
ギリギリの選択をしつつ、人は進まずにはいられない。

何十万人もの人々が、シュタージと関わり、家族同士でさえ、
互いを監視、密告し合っていたという状況が描かれた今作。
ベルリンの壁崩壊後には、シュタージが克明に記録していた情報がすべて開示され、
誰が何をどのように調べていたかさえも明らかにされているそう。

第二次大戦後には、欧米で戦時中の密告者が告発されたことも。
国家事業のもとの職業とも言える行為に

シュタージに関わったすべての人たちを完全にはじき出すことはせず、
新体制のもとで共に歩もうと模索したのが、ドイツでのこの十数年間だったのでは。

隣人を隣人として、家族を家族として、苦しみ受け入れる過程を経て、
ようやく当時を振り返る作品が産まれることができたのでしょう。

ヴィースラー役のミューエ氏自身も、俳優という芸術家として同様の経験があるとか。

良心という一条の光に従う役を演じていることは、音楽の力を感じさせ、
観る側も観られる側も、大きなカタルシスを感じられる要素になっていると思います。

さて、冒頭でも少しお伝えしたように「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」を
今作の前に観賞しようとしていたのは、壁繋がりの作品や出来事に
何故かご縁があるからなのです。

ベルリンの崩壊直後に、韓国の友人と足を運んだこと、
その一年後に、同級生が北側のラインの向こうに拉致されたこと。

内容も知らずに足を運んだ三上博史さんの舞台が
ベルリンの壁がモチーフの「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」で、
昨年来、にわかにファンになった山本耕史さんの舞台もヘドウィグ。

「ヘドウィグ～」は、壁崩壊前に東側から西側に渡った人物の物語、
「善き人のためのソナタ」もベルリンの壁繋がりの作品のためか
しきりに心のアンテナが「観ておきなさい」と指差していて、
年内に観賞できることに。
しかも観賞当日、出かける前に見たポストには
待望のへドウィグ再演の舞台案内が入っていたのでした。

来年の山本さんの再演は、熱狂的にヘドウィグが上演されたという
韓国の方との共演だそうで、東西を越えた現地の共感とともに、
今回の映画にこめられた思いと同様の力が音楽を通して
より鮮明に伝わるのではないかなと思います。

１９８９年の壁崩壊から１８年経った今年、韓国の芸術家の手によって
ベルリンの壁跡に「南北の壁」というプラスチック製のアートが誕生、
１１月９日に取り払われるという象徴的なパフォーマンスが行われたそう。

１８年前、東側を向いて泣いていた友人の姿、いまだ帰らぬ友人の面影。
これから１８年後に、今の状況を振り返り、作品を生み出す兆しが、
もう現れていることを願わずにはいられないのです。

ヴィースラー役のミューエ氏は、映画完成で役割を終えられたかのように、
今年、ガンで逝去されました。
ご冥福を心よりお祈りし、この作品に出逢わせてくださったことに感謝します。

アンコール上映は１２/２１（金）まで。
「伏見ミリオン座さんＨＰ」

「１１.９に思うこと」
「欧州鉄道の旅・ベルリン～壁越え」
「ヘドウィグ観賞」
「ショート・バス観賞」
「祈り・失踪した同級生に」

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