全56件 (56件中 1-50件目)
人は誠だ、誠をつらぬき、義に生き抜く者こそ、人間玉となる伊東一派が本陣である長円寺を出た後に、織之助と倉原が到着します。押し込み強盗をやっていた山本と村上は伊東一派に入ったのですが、隊の列から離れ何かをしようと企んでいるようです。織之助と倉原は、衛士隊本陣の中に入ります。人けのない内部を見ていると、黒頭巾をかぶった二人の男が、盗みを働いているところを目にします。勤皇の名をかたり押し込みをやったのが分かってしまい、織之助と倉原にかかっていった、ものの一刀のもと斬られます。 ちょうどそこへ、住職がきました。隊士の中に前畑三十郎というものがいるか住職に聞きますと、「いる」という返事が返ってきます。織之助がその者は今夜は何処へと聞くと、新選組の近藤様の首をとるとか申して東洞院へでかけた、と住職が答えます。織之助は驚きの表情を、・・・。 そして、飛び出して行くのです。「何処へ行くんだ」と追いかけて来た倉原に、織之助「拙者、近藤さんに恩義がある。たとえ同士の非難をあびようとも、知らぬ ふりはできん」倉原 「よく言った。主義は主義、情けは情けだ。俺も一緒に行こう」織之助「うん」 近藤を、端筒が狙っています。近藤は左肩に銃弾をうけます。近藤が「何奴だ」というと、「伊東だよ、薩摩藩への手土産に、君の首がいるんだ」と正体を見せたことに、近藤は傷を負いながらも力を振り絞り斬り倒しているところへ、織之助と倉原が助勢します。「君たちは・・・」という近藤に織之助が・・・答えます。近藤に伝わります。 織之助は、前畑を見つけます。(ここから大立廻りとなります)斬りあいの中、前畑を追い詰め斬りました。 弱った近藤に斬りこんだ伊東も倒れ、残った隊士達は逃げ帰っていきます。織之助と倉原が近藤のところに駆け寄ります。大丈夫だという近藤は、近藤 「まさか、まさかあんたがたに、危急の場合を救われようとは思わなかっ た。・・・近藤は、幸せものだ」 織之助が近藤の傷に手当てをし終え、新選組の隊士達がくる気配を感じたので、織之助も「ご健在を祈ります」と挨拶をし行こうとしたとき、近藤が織之助を呼び止め、近藤 「長古堂のお香代さんは、あんたを好きで好きでたまらんらしい、即いたわ ってやることだな」織之助「はい」 二人を見送ったところへ、隊士達が駆けつけた。近藤は隊士達に「人は誠だ、誠をつらぬき、義に生き抜く者こそ、人間玉となる。・・・分かるか」と言うと、隊士達から「はい」という返事が返ってきました。 (終)
2023年04月29日
コメント(0)
但馬織之助近藤はかかって来る志士達を次々と一刀のもと斬っていきます。そして、織之助の前に姿を現しました。近藤に向かって斬り込んでいった織之助は右腕に傷を負います。 近藤は容赦なくじりじりと織之助を追い詰めていくのです。そのとき、宮部貞三がやって来たことにより、織之助は救われます。宮部「ここで犬死するではない、但馬、逃げろ」宮部が”但馬”と呼んだとき、近藤は驚き「但馬・・・但馬織之助・・・」と呟きます。織之助が近藤に向かっていこうとするのを宮部は「逃げろ、逃げるのだ」と押しやります。織之助は屋根づたいに逃げていきます。 倉原の方も苦戦をし、なんとか逃れて行くときに、端筒を落してしまいました。織之助は必死に新選組の追手をまき、幾松の家にたどり着きます。 池田屋に新選組の手が入ったが、桂さんは無事ということを言い、織之助はとにかく倉原さんのところにまでと言うと、幾松がそんなことをすると捕まってしまうと引き止めます。しかし幾松のところにもやって来るかも知れない、思いついたのは、隣りの千恵菊の家にかくまってもらうことでした。 千恵菊の家にお香代が来ていました。おかねは怪我をした織之助を幾松から預ります。ちょうど出かける千恵菊には知らん顔してお座敷へ行くようにいいます。新選組が幾松の家に踏み込み引き上げるとき、千恵菊の姿を見た沖田は、家はこの辺りだったなと聞き、先ほど但馬織之助は来なかったかと・・・聞かれた千恵菊が今夜ずっと家にいたが知らないと言うと、土方が「手ぬるい」としびれを切らし踏み込もうとしたとき、千恵菊「あかんあかん、いけまへん」土方 「何故だ、何故いかんのだ」その様子を聞いていて、織之助は身構えます。 千恵菊は、お母さんが具合悪く寝ているというと、沖田が、御上の命令だからな我々の義務としてと言うと、千恵菊「なんぼ、御上の命令やかて、うちのおかあはんが」土方 「おのれ、まだ申すか、この上邪魔だてすると、ただではおかんぞ、どけ」千恵菊「いえ、どきまへん、たとえ、たとえ、殺されたかて」土方が力ずくでも中へ入ろうとしているとき、近藤がやってきました。近藤は、千恵菊の必死のかばいだてを見て、今夜は見逃すと言います。そして、近藤 「その代わり、お母さんに伝えてくれ。新選組の近藤勇は、鬼でも閻魔でも ない。次第によっては、人の真心に泣くおとこだとな」織之助の胸に、近藤勇の言葉が響いていたのです。 続きます。
2023年04月01日
コメント(0)
君は友情に熱い男だね祇園ばやしが響くなか、幾松は倉原を呼び出し、千恵菊が近藤から預かった手紙を書いた当人を突き止めてほしいと頼み、橋の下にいる変装した桂小五郎と会わせます。長州の藩論は討幕に一致、薩摩との連合も土佐の坂本龍馬を通じてすすめている、そこで在京の同志を奮起さすために、今夜四つ三条小橋の池田屋で会合をする、と桂は倉原に伝えます。倉原の家で織之助が待っていました。幾松からの呼び出しは、鴨の河原で桂小五郎に会ったこと、それからもう一つ、といい織之助に読んでみるようにと手紙を渡します。倉原「押し込みの下手人は、君だと書いてあるんだ」織之助は、どういうことかというような顔をし、手紙を開け読み始めます。 織之助は手紙を読んていて、何かに気がついたように動揺したとき、倉原が聞いてきたことに心が乱れます。 倉原 「同志の間を聞いて回ったのだが、誰も心当たりがないんだ。どうだ、その 筆跡に見覚えはないかね」織之助「いや、ありません。・・・全く見たこともない字体です」 倉原は、織之助が言った言葉に念を押します。倉原 「確かにないんだね」織之助「確かに」その様子を見ていて、倉原がいいます、倉原 「そうか・・・但馬君、・・・君は友情に熱い男だね。見あげたもんだよ」そう言った倉原に織之助が何かをいおうとしたとき、「まあ、いい」万事引受けるからと、織之助には池田屋に行くようにいい、倉原が席を立っていなくなると、織之助は心で呟きます。織之助「あの前畑が、拙者を裏切るとは」少しの間そのままじっとしていたが、自分が今思ったことを打ち消すように、織之助「・・・そんな、・・・そんなはずはない」 前畑に会うため同士の集まるところを訪れた倉原でしたが、前畑は留守、池田屋に行く前に一度戻ってくるというので帰りを待つと話しているのを、帰って来て外で聞いた前畑は、倉原が感ずいていることを知り、新選組へ情報を流しに走ります。勤皇派の動きについて耳に入れたいことがある、と近藤に面会します。今夜桂小五郎一派のものが、長州藩と申して幕府に反旗を翻すための会合を催す予定と話します。場所は三条小橋の池田屋、時刻は四つ、と聞いた近藤は、真偽のほどを確かめるため、藤堂平助を走らせ、伊東甲子太郎には手勢を集めこの界隈をお願いし、土方達にも抜かりないよう指示をだします。織之助も池田屋にやってきます。勤王派の同志が集まっているところへ、桂小五郎に取り急ぎ薩摩屋敷へ桂に来てほしいという連絡がきます。藤堂は池田屋へ勤皇派の出入りをものかげから見ています。 前畑の姿がないので聞くと、倉原と一緒に来るはずだと聞き、織之助は倉原は前畑と気づいていたことを察知します。 倉原は帰ってくるはずの前畑が戻ってこないことに、「ひょっとすると・・・」と、不信を持ちます。その頃、街は警備でうめつくされ、池田屋での会合が行われようとする時刻が迫ったとき、藤堂は新選組が待機する場所に報告に、警備の方も万端整ったとの報告があり、近藤の「よし、出発」で”誠”の旗が動きます。倉原が池田屋へ行く途中、新選組の伊東に声をかけられ、所司代屋敷へ同行するよういわれます。同じころ、池田屋の戸を叩く音が響きます。 「倉原さまで」という池田屋惣兵衛問いに「いかにも倉原です」という返事が帰って来たので、戸を開けると近藤を先頭に新選組が入って来ました。惣兵衛の「皆様、新選組のお調べでございますぞ」という声に、灯りを消し一同動き、織之助と宮部は証拠となる物を燃やします。 新選組が取り囲み、二階にも押し寄せ、修羅場と化します。 織之助も一階へと階段を降りたところで土方と沖田にそして二階からも阻まれてしまいます。 土方 「但馬織之助、今度こそ逃さんぞ」織之助「黙れ」織之助は下には降りられず、二階へと引き返し応戦するのです。 倉原も河原まで追い込まれていました。池田屋では近藤の剣が次々に志士達を斬り、織之助に近づいていました。 続きます。
2023年03月28日
コメント(0)
命を粗末にしてはいかんよ新選組が但馬織之助を取り逃がしたため、心当たりのある者は直ちに届け出るようとの高札が立ちます。指名の高札が立っては、織之助の弁明を聞かなければならないと、勤王派の面々が集まりました。それに対し織之助は、織之助「何を弁明するのだ、身に覚えのないことを弁明しろといわれても・・」宮部貞三が、「理屈はそうだがしかし・・・」と言ったところで、織之助「いや、よろしい、諸君がそれほどお疑いなら、腹を切りましょう」宮部 「なに、腹を」織之助「拙者は、これまで誠心誠意及ぶ限りのことをつくしてきました。にもかか わらず、かような汚名を着せられるとは、甚だ心外です。・・・この上 は、腹を切って身の潔白を・・・」そのとき、「待てよ」と倉原が織之助の言葉をさえぎります。 倉原 「但馬君、命を粗末にしてはいかんよ」織之助「けれど、倉原さん」 倉原は、織之助にこう言います・・・君の気性では押し込みはできない、するはずもない。そして、隣りにいた前原に言います・・・但馬君とは同郷で親友だ、何か彼のために弁解することはないか。・・・前原は、それに対し、その気持ちは十分にあるが、同居していないので・・・。但馬君の夜の行動までは保証できない。・・・前原は「はあ」と答えます。だがね、高札によると、押し込みはいつも二人だ、かりに但馬君が下手人だとすると、さしづめ君は、その相棒ということになるが。・・・前原は驚いた様子で「よしてください、拙者はそんな」この件は、桂が帰ってくるまで保留にすることになりました。料亭山清の座敷で近藤は千恵菊を呼び、織之助のことを聞いていたところに、大野屋治兵衛が是非とも会いたいということでやってきます。用件は芹沢鴨のことでした。近藤は芹沢を嵐山に誘い、大野屋が隊の者に筋違いの扱いを受けたようで、芹沢さんの名を騙っていたといい、芹沢に泥をぬった奴はあなたの手で始末するように、と話します。お蝶は近藤から耳打ちされ、お梅の家を探っていたところに芹沢が帰ってきます。芹沢の帰りを待っていた村山や隊員に、大野屋が近藤にすがったことで、大野屋の口を封じることが先決だが、その前に脅しで今夜火をつけると出かけて行こうとしたとき、庭の方に人の気配を感じたようです。大野屋に向かった芹沢一行をつけてお蝶はよしずがあるところに隠れます。先へ行ったはずの芹沢が戻ってきてお蝶が隠れているよしずのところで立ち止まり、刀を抜くとよしずの中へザクッと刺しました。わき腹を刺されながらも、お蝶は近藤のもとにたどり着きます。近藤の「誰にやられたんだ」に「芹沢・・・お聞きになったことはみんな本当でした」「その芹沢は何処にいるのだ」お蝶は「・・大野屋」と言って息絶えます。大野屋に火をかけた芹沢達の前に現われた近藤は、一刀のもと芹沢を倒します。その様子を伊東甲子太郎がみていました。翌日、お梅が屯所に連行されます。土方が近藤にお梅の自白から、勤王派の名をかたって押し込みをはたらいたのは山本と村上ということが分かりました。 続きます。
2023年03月18日
コメント(0)
おてまえ方に踏み込まれる覚えはない山本と村上は芹沢に呼び出されお梅の家に行きます。芹沢は二人を前にして、和泉屋へ押し込んだのだろう、黙っててやるから金をよこせといい、これからも大いにやれというのです。それが勤皇派の仕業となれば、やがては総召し捕りの口実ともなるとけしかけます。次から次にと高札が立つのを見ていた前畑は、何を思いついたのか・・・新選組本部の玄関先に書状を置いて走り去って行ったのです。織之助が好きなお香代に失恋した前畑が、織之助を陥れるためにとった行動でした。「先般より洛中を騒がす押し込みの首謀者は仏光寺新町上る長古堂内但馬織之助と申す勤皇派の者なり・・」と書かれていました。近藤は、織之助を召し捕り真偽を確かめるため、土方に指揮をとるよう命じます。外出先から帰った織之助を迎えたお香代はお香代「お食事は?」織之助「未だだ」お香代は、すぐに支度をと台所へ、織之助は二階へ行こうとしたが、気になることがあったのか、食事の用意をしているお香代のところに行きます。 織之助「お香代さん」お香代「はい」織之助「先日のことですが、・・・あのとき、前畑は、あなたに何か失礼なこと を」お香代は、そんなことはない、ちょっとからかっただけ、「ほんで私」とお香代が言っいかけたとき 織之助「では、拙者、前畑を友人として、信頼していていいのですね」そのとき、お香代の表情が一瞬暗くなりますが、明るい顔で織之助にこたえます。 織之助「いやあ、よく言ってくれました。これで気持ちが晴れましたよ」 そう言って二階へ上がっていった直後、新選組が乗込んで来ます。土方の「我々は新選組の隊士だが・・・」の声が、着替えをしていた織之助に聞こえ ました。 新選組が二階に上って行くと、織之助が待っています。土方 「但馬織之助だな」織之助「いかにも但馬だが、おてまえ方に踏み込まれる覚えはない」土方はおとなしく同行するよういいますが、織之助「いやだ」と言ったので、手向いするのかと織之助を押えこんだので、「何をする」と言うと、屋根伝いに走り、辺りを見廻し倉原のところへ逃げ込みます。 織之助「倉原さん」倉原 「どうした」織之助「新選組です」そこへ新選組がやってきます。倉原は「いよいよやる気だな」と呟き、「ここはわしが引き受ける、早く行け」と織之助をにがします。 倉原は鉄砲で威嚇すると、「無益な殺生はしたくない、いつか、祇園の山清で近藤さんがいわれたように、主義や主張は違っても、国を思う心は一つだ。では、諸君のご健闘を祈ります」と言いその場を去って行きます。 続きます。
2023年03月04日
コメント(0)
こうするんでございましょう天野伝八郎達は竜神山のところで藩金を狙うことに決めたようです。根来達が護送する前に一番に現われたのは丹下左膳、・・・その左膳に根来一味が刀を抜いて対していると、天野率いる尺八を吹く虚無僧軍団が姿を見せました。そこへ反対側の山の上から姫と呼ばれる糸路率いる野伏の一行が攻めようとしたところへ、水戸藩のお目付け役はじめ大勢の捕り方たちが藩金を積んだ馬から、気をそらすように遠ざけていきます。すると、チョビ安を先頭に子供達が現れ、馬の前に竹笹にしばりつけたニンジンを見せ、まんまと藩金を持っていってしまいます。それを大笑いして見ていたのは泰軒でした。崖の下に落ちそうになっていだ石灯籠を積んだ荷車がありましたが、あれからどうなったのでしょう。どうにもならないので、崖から落そうと決め四人で荷車をかたむけ始めたとき、「そんなことをしてはいかんな」と虚無僧姿の者がいってきます。「貴公らは藩命によって運んでいるはず、運ぶものがどんなにつまらん石灯籠でも、それを捨てては使者の役目がたちますまい、二宮殿」と虚無僧がいいます。「誰じゃ」といわれ虚無僧は笠を取りニコッとします。(おや源助に似ていますね)二宮金五郎と谷左内は首を傾げていると、もう一人の虚無僧も笠を取ります。そうすると、二宮が天野伝八郎はすぐに分かりました。谷がじっともう一人の方を見ていて、そして二宮も分かったようです。「あなた様は」というとひざまずいたのです。 とんがり長屋に戻って来た左膳と与吉は、チョビ安から馬を引っぱって来たと聞き、大判小判が詰まっているはずの箱を開けると、入っていたのは石ころでした。相馬藩江戸下屋敷では、藩金を江戸まで持って来られなかったと、永見隼人や根来一角達が相馬主膳のところに行くと、失敗ではない、彼らが運んでいたのは藩金ではないただの石ころで本物の藩金は間もなくここに来る、というのです。石灯籠を積んだ荷車が屋敷内に入ってきました。「ついては、その灯篭じ゛ゃが・・・」と主膳がいうと、人足姿の者が燈籠の底を金づちで割り、「こうするんでございましょう、旦那」といい主膳を見ます。 主膳がじっと見ていて・・・分かったのです、「源之助様」と。源之助「如何にも、相馬家の次男源之助じゃ」 源之助「その方、御家安泰と称し、国表より取寄せた藩金着服しせんとした企み、 すでに明白じゃ」主膳に調べはついていることをいいと、主膳は報酬は思うままと、根来らに源之助を斬るように命じ、家臣達も出てきます。(ここから立廻りになります)相馬藩江戸下屋敷に入った源助が危ないと、お藤が急いで左膳に知らせると飛んで行きます。(相馬藩江戸下屋敷では、立廻りの真最中、大勢の主膳一味を敵に回し、源之助と伝八郎が奮闘しています) 左膳がやってきます。「俺にも斬らせろや」といい大暴れ。源之助が鏑木と相馬主膳を斬り、左膳が根来を斬り一見落着、三人に笑顔がありました。 ただの石ころだと思っていたのが、金山の石だったのです。数日後のとんがり長屋で、左膳と源之助が顔を合わせていました。源之助「おい、・・・貴公、俺を必ず斬ると誓ったくせに、なぜ下屋敷に助成に駆 けつけた」左膳 「えっ、それは、・・・あたりめえじゃねえか、俺が斬らなきゃならねえ おめえを、人に斬られてたまるもんかい、えっ分かったかい、ざまあみ やがれ」源之助「あっはは、なるほど、その手もある」「あっはっはっはっ」と大笑いするのです。左膳が、物陰に隠れてこちらをみている萩乃の姿を目にし、源之助に目配せで教えます。源之助の左膳をきずかう様子を感じとり、「俺だって、慕ってくれる者がいるんだからな」と、源之助の肩をたたき、長屋の皆の輪の中に入って行きます。左膳が皆と和んでいるのを見ながら、源之助は萩乃が待っている方へ去って行くのです。 (完)
2022年03月16日
コメント(0)
こてえられねえ野郎だなあ根来達に追いついた萩乃は行動を共にします。翌日、一同休憩をしているところに左膳が現れます。左膳、源助、萩乃らの目があいます。 左膳は日当分は稼がなければとやって来たのです。かかって行く侍達は皆やられる始末。鏑木又五郎も相手になったが駄目、それを見ていた萩乃は自分が相手になると出ようとしたとき、源助がとんでもない、と慌てて止めに入ります。萩乃は道場で手合わせをしてかっている、と強気です。源助は萩乃に、源助「何を言いなさる。あの時はこの男が、すげえ勢いのお嬢様に見とれて、ポカ ーンとしていたから・・・」その時、源助の言葉を遮るように、「やかましい」と左膳が刀を振り上げてきたのを源助が素早くよけたのを見て、おやっと思います。 源助「なんでい、無茶すんねい」という源助に左膳は、左膳「おっ、・・・おめえやるじゃねえかえ・・」といい、源助にかかって行ったのですが、源助は軽々と身を交わしていきます。それを見ていた根来一角も驚きます。 左膳は剣の構えから柳生新陰流とみました。左膳「俺の濡れ燕をはじいたのは、おめえがはじめてだぜ。・・・これは面白いこ とになってきた。・・・ゆくぜ新陰流」源助が構えます。左膳「極意、水流の構えか、ええい、水月もくそもあるかい」と吠えると、源助にかかって行きます。 萩乃や周りが二人の勝負に気をとられているとき、天野伝八郎の配下の岩吉が出てきて萩乃に当て身をくらわせ連れ去るところを、左膳、源助、根来らが見ていました。源助が「待てー」と・・・馬で走り去って行くのを、源助も馬で追いかけます。左膳も走って追いかけます。 萩乃は天野伝八郎達のところに連れて行かれたところへ左膳が乗り込んできます。天野は左膳に萩乃を渡します。その夜、気を失ったままの萩乃を左膳は一睡もせずじっと見守っていたのです。朝になり、目を覚ました萩乃が、左膳の顔を見るなり、何をする、近寄ると容赦しない・・と左膳を罵倒し恐れます。それを見て、左膳は一言もいわず、目に涙をためガックリして小屋を出ます。朝もやの中、誰かがいるのが分かった左膳が飛びます。源助は一晩中左膳が萩乃を静かに見守っていたのをそこで見ていたのです。 左膳が源助に対し身構えますが、左膳をじーっと優しい目で見つめる源助に、左膳もなんもいわず源助の前を通り過ぎて行きます。左膳の後ろ姿を見つめながら、源助は何を思ったのでしょう。 萩乃は源助に好きだと打ち明けます。 源助が萩乃に「男と女の深い思いがお分かりとは思えない」と一晩のこと左膳という男のことを話していきます。源助「私は、はじめて男のひたむきな心を見た。・・・頭の下る思いがした」何のことかと聞く萩乃に、丹下左膳という男が昨夜一晩中身動きもせず萩乃を見つめ泣いていたことを話します。それに対し、あの化け物が・・という萩乃に、源助「化け物?・・・片目片腕、それ故に化け物か」馬鹿な主人に一途に使えたからあの姿になったまで・・・。源助「あれは己が醜いと思っている。それだけに、美しいものに激しい憧れをもっ ている。・・・愛情に飢えている」かかわりのないことと言い放つ萩乃に、源助「だから、おめえさんには、男と女の情なんかわからねえといったんだい」 源助「おめえさん、俺が好きだという、何故だ。・・・へっへ、俺の面がのっぺり していて、さっきバレタところじゃ、やっとう。の腕も少しはたちそうだ。 これなら道場の婿にしても・・・なんてことに違えねえが、俺にとっちゃお めえさんなんか、あまたいる女の中の一人にすぎねえ。(ここで声のトーン が変わります)ところが、左膳にとっちゃあ、おめえさんは女神だぜ」萩乃は左膳みたいな男を押し付けるのかといってきます。源助「・・・自惚れなさんな、あいつの心の美しさは、おめえさんなんかにゃもっ たいねえ。その証拠が、あの男を追ってきた子供らだ。子供らの無邪気なこ ころには、あの男のやさしさが、ちゃんと分かるんだ」 小屋の外で、左膳が源助の話を聞いていました。源助は外での物音にきずきます。竹藪の方へ駆けて行くと、「ちきしょう、あの柳生新陰め・・」、竹を斬り、「あの野郎、・・俺の心の中まで見通しみたいなことをぬかしやがって・・・」といい喚き竹を斬っている左膳を見ていた源助に刀を抜けといってきます。源助「ほーう、それはまた何故だ」左膳は、源助と勝負がしたいのだ、というのです。 二人がしばらく剣を交えたとき、左膳「やるじゃねえかい、・・・頭もいいが腕もいい、・・・こてえられねえ野郎 だなあ」源助「いったい、どうして俺を斬らねばならんのだ」左膳はうれしくてうれしくてたまらなくて源助にかかっていくのです。その二人の間に蒲生泰軒が割って入り、ひとまず勝負はお預けとなりました。その泰軒は池田大助に何事かの手配をしたようです。 続きます。
2022年03月08日
コメント(1)
あの手で行きましょうわがままな萩乃と源助の道中はまだ始まったばかりなのですが、二人の間にはいろいろと難問がありそうです。旅になれていない萩乃は足が痛くなったようです。それを見て源助が萩乃に話かけます。源助「お嬢さん、ちょっと休んで行きましょうよ。駕篭には乗らねえ馬はいらねえ などと、女の足じゃ無理でござんすよ」というと、萩乃「二言目には女、女と・・足の豆など・・」と強気にでたところはよかったのですが、痛みが襲ったのでしょう。「あっっ」と言うと道端に倒れ込んでしまいます。「そーれ、ごらんなさい」と駆け寄る源助に、萩乃「何がそれじゃ、その方が休むといったから座ったまでじゃ」と介抱しようとする源助は素直になれない萩乃に手をやきます。 源助「ああ・・なんてじゃじゃ馬だ」萩乃「なに」源助「いや、その・・・別にさあ・・えっへ・・」と笑ったところに、一、二、三と子供の声が聞こえてきます。 源助が目を向けた橋の上には、とんがり長屋に戻ってきてしまったチョビ安と長屋の子供達が案山子をめがけ石を投げています。源助が傍に寄って、何をしているのか、声をかけますと、チョビ安が武芸の稽古をしているといい、源助に相場より安くするので荷物を持たせてくれと勝手に持っていきます。チョビ安は小さい女の子をおんぶすると茶店のあるところで待っているといい行ってしまいます。 チョビ安が小さい子をおぶった姿を見た源助は、何か閃いたように萩乃の方を振り返ると、源助「お嬢様、あ、あの手で行きましょう」と大きな声でいうと、萩乃のところに戻ってきて「こっちも負けずに・・・」といい、おんぶをする姿勢をとりますが、萩乃は「みっともない」と歩きだします。 呆気にとられる源助です。 源助の荷物を運び先に行ったチョビ安達は、茶店に着き源助達の来るのを待っていました。そこへ・・・さっきはおんぶなんてみっともないと言い張っていた萩乃が源助におんぶされて茶店から見えるところまでやってきました。源助の背におぶられた萩乃の満足げな顔・・・が、茶店からこちらを見ている子供達が目に入ったとたん、表情が変わります。 萩乃「源助」源助「へえぇ」萩乃を背負い疲れた様子の源助が答えると、萩乃「わたしは降ります」源助「いやあ、もうそこが茶店でございますから、もう少しの辛抱で」萩乃「子供が見ている、みっともないではないか」 源助「へっへっ、足が痛てえのにそんな体裁なんか」萩乃「馬鹿」そういうと、源助の頭をねじ伏せるように抑えながら「降ろせ」といってきたから、源助の態勢がくずれ、二人とも地面に尻もちをついてしまいます。 慌てて駆けよってきた子供達を振り切って、萩乃は気丈に足を引きずりながら歩き出しますが、来るだろうと思った源助も呆気にとられていると、萩乃「何をしているのです・・・早く来て私をおぶりなさい」と、いわれた源助は源助「あぁっ、・・・へえ」痛くした足を引きずりながら、萩乃をおぶっていきます。 その頃、江戸に向かっていた誰も気には取られないような石燈籠を積んだ荷車が相馬藩に行く連中の邪魔になり振り払われたはずみで崖に落ちぎみの態勢で止まりました。 続きます。
2022年02月28日
コメント(3)
源助を共にいたせ時代劇ファンには爆発的人気の丹下左膳シリーズ「姓は丹下、名は左膳」妖刀濡れ燕を片手に斬りまくる丹下左膳、相馬六万石の浮沈をかけて宿命の対決に火花を散らす柳生新陰流の達人相馬源之助。大友柳太朗さんと大川橋蔵さんの顔合わせで見せる痛快時代劇。妖刀濡れ燕を片手に斬りまくる豪快大友柳太朗さんの丹下左膳と、美剣士大川橋蔵さんの相馬源之助のコンビが相馬藩の浮沈をかけ宿命の対決で火花を散らします。荒れ狂い斬りまくる大友さんの剣に対し、橋蔵さんの静かなる剣のさばきは、一本の糸のように乱れることなく、新しい殺陣さばきとして注目をあびました。また、病気で7ヵ月スクリーンからはなれていた桜町弘子さんが復帰、源助への慕情を好演し、橋蔵さんも桜町さんとの絡みで新しい一面を見せてくれました。◆第59作品 1960年1月15日封切 丹下左膳 妖刀濡れ燕 丹下左膳 大友柳太朗糸路 丘さとみお藤 青山京子チョビ安 松島トモ子萩乃 桜町弘子岩吉 伏見扇太郎黒田弥左衛門 原健策永見隼人 沢村宗之助鼓の与吉 多々良純池田大助 片岡栄二郎鏑木又五郎 戸上城太郎鹿島外記 香川良介相馬主膳 徳大寺伸伊庭一心斎 明石潮谷左内 柳谷寛二宮金五郎 清村耕次蒲生泰軒 大河内伝次郎作爺 薄田研二天野伝八郎 岡田英次大岡越前守 山形勲根来一角 月形龍之介相馬源之助 大川橋蔵今回のお話は、相馬藩で起きた百姓一揆の不始末をもみ消すため密かに老中に送ろうとした藩金護送事件の話が左膳に転がり込みます。年に一度の三社祭りだというのに、とんがり長屋の子供達は晴着もご馳走もないのです。大名の子になってしまったチョビ安がいれば面白い遊びを考えてくれたのにといっているのを聞いていた鼓の与吉が左膳の家を覗いてみると、やはりチョビ安がいなくなってふさぎこんでいる丹下左膳がいました。左膳は子供達を喜ばせようと、与吉を連れて道場荒しに出かけます。一件目二軒目は簡単にいきましたので、欲を出し三軒目もということで伊庭一心斎の道場へ入って行きます。一心斎は病気、師範代は留守で、門弟が相手をするが左膳の腕には歯が立たず、看板代をと言ったとき、奥から一心斎の娘萩乃が相手をすると出てきます。萩乃の無謀さに下男の源助が「何をなさいます」と慌てて止めに入りますが、萩乃は源助を払い飛ばして左膳の前に進みます。 左膳は萩乃に一目惚れし、萩乃の口上など耳に入らずぼーっと立っているところに足を払われ座り込んでしまいます。びっくりしたのは萩乃そして源助の方でした。それでもしばらくぼーっとしている左膳でしたが、我に戻って急いで退散していきます。源助はその様子に呆気にとられています。 とんがり長屋では相馬藩の江戸留守居役・鹿島外記が左膳の帰りを待っていました。相馬藩存亡にもかかる重大な話でやって来たというのです。その頃、大岡越前守は蒲生泰軒と共に、池田大助から相馬藩の内情を聞いていました。重臣一派が百姓一揆の不始末もみ消すため、密かに老中に多額の賂を贈ることに決めたというのです。大岡越前守は蒲生泰軒を相馬に行く手配をします。重臣一派は筆頭が相馬靭負、それに加担するは江戸家老相馬主膳ということです。その相馬主膳の屋敷では、一心斎の道場師範代の根来一角と鏑木又五郎に藩金江戸送りの護衛を頼みます。外記から、重臣一派が賄賂に使う藩金を領内の百姓達に与えれば、百姓一揆など起こさずに済む、この考えをする者は、自分外記と国表では武術指南役天野伝八郎ほか軽輩の若侍達と聞かされます。外記は左膳に、伝八郎と共に藩金奪還に力を貸してほしい、元は相馬の家臣だったのだからというと、左膳はこのような姿になったのは誰のためだ、相馬藩には恨みはあっても恩義はもたない、といい断りますが、帰ろうとした外記に、相馬藩のことはまっぴらごめんだが、銭のためなら話の乗ると言います。一心斎の道場では、根来一角と鏑木又五郎が藩金護衛する者達を集めていました。支度金の多さに鏑木が驚いた様子をみせると、根来一角は「これは素直に護送する手はない。気を伺って二人の手に」・・・と言ったとき、人の気配を感じ廊下に出ますと、そこにいたのは廊下の拭き掃除をしている下男の源助です。根来が「源助か」と聞きますと、源助 「へえ、何ぞ御用で」鏑木が「その方、今」と言ったところで根来が止め、道場に戻ります。 根来と鏑木達が動きだします。一心斎は萩乃に命に代えても根来、鏑木の不逞を成就させないことだといい、萩乃を一人でやるのは心がかりということで、一心斎「おお、そうじゃ、源助を共にいたせ」萩乃はその言葉に驚き「源助を・・」と源助を見ると、源助も困ったような顔をします。 左膳と与吉は追ってくるお藤を振り切って相馬藩に向かいます。萩乃は源助をお供に街道を行きますと、途中山賊が待ちかまえています。駕篭に乗ってくださいといい寄るのを「いらない」、しつこくするので「うるせえな」と源助がいったから大変です。「何をこの野郎」とこぶしを振り上げて来たのに源助はびっくり、そこへ「こっちはおとなしく下からお願いしますといってればいい気になりやがって」源助に手を出したとき萩乃が立ちはだかります。 萩乃 「源助、下がっておりなさい、私が相手をします」と言い、山賊達を痛めつけていきます。これはかなわないと退散しようとするのを見て源助 「えっへへっ、ざまあみやがれ、女でさえこの腕めえだ、俺が本気になった ら、てめえらの十人や二十人・・・」といったものの不安になって萩乃を振り返ると、さっさと先を行っているので、慌てて追って行きます。 道中日割りを手に入れた左膳は待ち伏せし阻止しようと思いましたが、根来一角の指図によって行列を作り、左膳の両脇を通って行きました。 続きます。
2022年02月20日
コメント(0)
おさらばでござりまする元禄十五年十二月十四日、その日は朝からの大雪でした。十平次が玄蕃の道場を訪れると、留守番をしていたお兼が玄蕃からの預かりものだと槍を持ってきて十平次に渡します。二人は何処に行ったのか聞くと、雪の中お詣りだといっていたというのです。十平次は来るかと待っていた玄蕃と妙でしたが、夜になってもくる気配はないので床につきます。赤穂浪士が終結し、吉良邸に入りました。内蔵助が打ち鳴らす山鹿流陣太鼓の音を聞いた玄蕃は「やったな」というと、布団から飛び起き身支度をすると、「神棚に燈明をあげて、平次の武運を祈れ」といい槍を持って雪の中を走り吉良邸の門の前にやってきます。 玄蕃が門の中にいる内蔵助に声をかけ、十平次も邸内に入り働いているということを聞き安堵して、自分はこれから両国橋に行き、上杉勢が押し寄せて来たら立ちはだかり、一人たりとも通さず防いでみせると伝え、玄蕃は両国橋の上に立ちはだかったのです。吉良邸内では入り乱れての決戦のなか、十平次、武林唯七、神崎與五郎の前に和久半太夫が立ちはだかります。十平次が槍をかまえたとき、「強敵だ、俺がやる」という武林を振り切り和久にかかって行きますが跳ねのけされてしまいます。その十平次に和久が刀を向けて危なくなったとき、とっさに畳に槍を突き立てたのです。 しかし、畳みは上りませんでしたが、二度目挑戦したとき畳があがり、和久がひるんだ隙に十平次の槍は和久を突いていました。 それを見ていた神崎に「どうしたんだ、その技は」といわれ、我に返った十平次は「出来た、先生できたあ」と喜びます。その後は、次々と畳が宙を舞いました。 両国橋では上杉の侍たちと斬り合いになったが、猿橋右門が家来たちをひき戻します。そして「かかる身でおぬしと対するのも武士の定めだ」という猿橋に「御意」と答えた玄蕃を残し帰って行きます。そのとき、「えいえいおー、えいえいおー」という勝ちどきの声を聞き玄蕃は微笑みます。翌朝、四十七士が泉岳寺へと向かう通りに玄蕃と妙の姿がありました。その前に来たとき内蔵助は玄蕃のところに行き礼をいい、列に戻ると、玄蕃のところへ・・・と主税が十平次に伝えに行きます。十平次は急いで二人のところへ行くと、十平次「先生、畳みが、畳みが跳ね上がりました」玄蕃 「そうらしいな、・・・わしも大石殿から、そなたが働いたと聞いて・・・ そう、察していた」十平次が「お嬢様」というと、「妙と、一言」と妙がいうが、十平次は「おさらばでござりまする」と二人に頭を下げると、かけて列に戻って行きます。 列に戻って来た十平次は泣いていました。堀部安兵衛に肩をたたかれた十平次は十平次「安兵衛殿、お笑いくだされ。武士らしくもない、この取り乱し方」安兵衛「おれら、武士としての本懐はもう遂げた。泣くもよい、笑うもよい、 ・・・十平次は思いっきり泣け、俺は思いっきり笑う」というと、高笑いをします。十平次も明るい顔になります。見送った玄蕃は妙に「わしの槍は、ついに十平次に生きた。が、そなたは・・・」というと、「いいえ、妙の幸せも、あの方の額のかんざしに・・・」「うん」と頷く玄蕃と妙のさびしさただよう姿が人ごみに消えていきました。 (完)
2021年08月31日
コメント(2)
お蘭の真の優しさに感謝松野屋の座敷に、お蘭と十平次が二人きりでいます。お蘭は恋い焦がれた十平次にしなだれかかり、十平次を誘ってきます。 お蘭「平次さん、あなたあたしを少しは好いててくださるの」十平次「はい、・・・好きでございます」 お蘭 「これからずーっと来てくださるんでしょうね」十平次「ええ、参ります・・・でも」お蘭 「でもって」十平次「お蘭様が、吉良様へ上がる日は、だめでございましょう? そのときは、前 に教えてくださいますね」ついに十平次は我慢できなく言ってしまったのです。 その言葉に、お蘭は十平次から身体を離し、じっと十平次を観察するのです。 お蘭は隣の部屋に行き、何かピンと来た様子で、その日のことは隣の布団が敷かれた部屋で教えてあげるといい、鏡の前で紅を落としながら、十平次の様子を見ているのでした。十平次はどうしたらよいか困惑しています。 お蘭が見ていないと思い、十平次は懐からかんざしを出し、妙のことを考えていたのでしょう。辛そうに見つめて、悲しそうにあきらめるように懐へしまう姿を鏡から見たお蘭は、鏡に映った自分があさましく思えるのです。 十平次は、自分をなくすために酒を飲み、泪をぬぐい隣りの部屋を見ますとお蘭の姿がありません。奥の部屋かと覚悟を決め行って見ますと、どこにも姿はなく、布団の上に十四日と書かれた手鏡が置いてありました。それを見て最初はうれしかった十平次だったのですが、十平次は自分に対するお蘭の真の優しさに感謝するのです。 そのお蘭は泣いていました。十平次がいじらしくてたまらなかったのか、自分のあさましさがたまらなかったのか、あの人を諦め、きれいなまま帰してしまった、吉良様が松坂町に泊まる日まで教えて・・・。十平次の素性を知っていながら、どうしてこんなことをしてしまったのか、・・・吉良様を憎む心が潜んでいたのかもしれない。一生にたった一度覚えた恋心を綺麗に守りたかったのかもしれない、と呟くのでした。 続きます。
2021年08月22日
コメント(1)
松野屋へ参りますその夜、十平次は玄蕃の道場から出て来た猿橋右門を見かけます。十平次を迎えたお妙が、玄蕃に士官の口がかかったと言います。士官の先の察しは先ほど猿橋右門で察しは付いた十平次だが、お妙の注ぐ酒を受けながら二百石の士官先は何処かと玄蕃に聞と、玄蕃はあまり気がすすまないと・・・「勤めは吉良家の付け人だ」と聞かされます。その瞬間、酒の入ったどんぶりをこぼしてしまう十平次をじっと見つめる玄蕃です。 玄蕃は十平次のあわてぶりを見逃しませんでした。玄蕃が二百石の仕官に気がすすまない理由を話します。「去年の三月、殿中松の廊下で浅野内匠頭が吉良上野介を斬ったために、浅野家は断絶、長矩公は切腹」、十平次が「その話なら、私も聞いて存じております」といいます。玄蕃は続けます。「斬られた吉良殿には何のおかまいもなし、このお裁きには当時の世間にもとかくの取り沙汰があったから、赤穂浪士がおさまるはずはない。赤穂には大石内蔵助という用心がいるし、忠義の臣もいる、必ず吉良上野介を討って、亡君の恨みをはらすとともに、お裁きの片手落ちを天下に訴える所存にちがいない」。それを聞いていた十平次は「世間の噂では、その内蔵助ってのは、祇園の遊女にうつつをぬかし、仇討ちをする気なんか全くねえと」いいます。すると、千坂兵部は赤穂浪士の討入りがあるとみていて、そのために腕のたつ武芸者を集めている、と玄蕃は言うのです。そして続けます。「千坂兵部の招きに応じて、吉良の付け人になれば、赤穂浪士の面々を敵にまわして戦わねばならん・・・槍を取って吉良家の玄関に立ちはだかるときは、赤穂浪士はめったに奥へは通さん。・・・とは言え、この腕をこのような事で汚すのは誠につらい…たまらん」と嘆き玄蕃は十平次を、十平次は玄蕃を、お互いに何かを感じているようです。すると、「そば屋、稽古をしてやろう」と玄蕃は道場に向かいます。そして、真槍を取りだし、十平次に持たせると石突の部分を切ります。 十平次「何をなさるんですか」玄蕃 「その方、仇を討つにあたって、屋内に踏み込んだ場合の、戦い方を教えて やろう」 仇は外であうとは限らない、というと玄蕃 「平次、見ておけ」そういうと、畳みに槍を突き刺し、空中に投げ上げていく、無辺流畳み返しの手本を見せ、十へ平次にやってみろと槍を渡します。十平次は夢中になり畳を持ち上げようとしますが、それは無理なこと。切り取った石突の部分で十平次を打ち、玄蕃 「立て、平次、この位のことが出来んで、大事な仇討が出来ると思うか、 立て」十平次は何回も試みますが、これ以上というところで、お妙が玄蕃を止めに入ります。 翌日、十平次は大石内蔵助たちが集まっている美作屋に出向き、「松野屋へ参ります」と決心を固めたことをいいます。十平次「ふがいなしの十平次には、かかること以外に、お役に立つ手立てがないと 思いしりました」武士の面目にそぐわぬこの仕事胸中は察するが恥じることはない、と内蔵助の言葉に力づけられます。 そして、十平次は、いま一つ申し上げたいことがといい、千坂兵部から吉良家の付き人になる誘いの手が俵星玄蕃にのびたことを伝えるのです。玄蕃は、思っていた客が来ることを察知していたようです。道場に前田藩中納言綱広の家臣奥村勘解由と名乗り、内蔵助が訪ねて来ました。前田藩の槍術指南役として迎え入れたいという奥村勘解由の言葉を聞き、「かほどまでのご信頼、それがし武士の本懐でござる。他藩よりの求めを断りご随身仕る」簡単に承知してくれた玄蕃に、内蔵助は感激するのでした。内蔵助が帰った道場にじっと座っていた玄蕃に妙が声をかけると、玄蕃は妙に「平次はあきらめねばならぬぞ」というのです。 続きます。
2021年08月14日
コメント(0)
鍵は、松野屋のお蘭美作屋の奥座敷では、岡野金右衛門が手に入れた吉良邸の絵図面を、大石内蔵助を招き報告しています。そのころ、十平次は、吉良邸の門番に蕎麦を注文されていました。門番に寒さしのぎにと酒を渡し、手持ちの水が少なくなって困っているので、お屋敷の井戸水をもらえないかと頼みこみます。 門番は、屋敷に人を入れることはやかましくなって、出入りするものには門鑑をもたせるようになっていると渋りますが、もう一人の門番が、水を汲むだけならこっそり入ればかまわないだろうと言ったので、中に入ることが出来ました。入り込み周囲の様子をうかがっていたとき、声が聞こえてきたので奥庭の方へ行ってみると、試し斬りをしているそのとき、お蘭が十平次の肩をたたいたので、十平次は慌てますが、人の気配を感じた猿橋に誰もいないとお蘭が言い、十平次は助かります。和久半太夫とそれを見ている猿橋右門の姿を目にします。 そのとき、お蘭が十平次の肩をたたいたので、十平次は慌てますが、人の気配を感じた猿橋に誰もいないとお蘭が言い、十平次は助かります。 道場では、この日顔を出さなかった十平次のことを案じているお妙に、玄蕃が気になるのかと聞くと、「だって親の仇を・・」とお妙が言うと、玄蕃は「そば屋は助かるまい」というのです。それをちょうど門前に来た十平次が聞いていました。 お妙が、玄蕃が助太刀をしてあげればよいのだというと、弟子の助太刀は出来ないが、お妙の婿であったら、助太刀しなければなるまい、といいお妙を見ると恥ずかしそうにしています。玄蕃は槍術の弟子を得ることだけ考えて、お妙のことを考えなかったことを悔い、幸せになるのだぞと言います。その話をじっと聞いていた十平次はそっと帰っていきます。 翌日、やって来た十平次に玄蕃は厳しい稽古をつけます。人の何倍も努力しなければ仇は討てないと、十平次は立ち上がることも出来ないほどでした。年明けとともに上野介が松坂町から上杉家に引取られること、そして数日来ほとんど上杉家に泊まり、松坂町での最後のお茶会もお流れになるという具合で、喜兵衛が残された機会はもはや後二旬というと、「もはや後二旬ではござらん。まだ後二旬、あと二十日、その間すべて上杉家泊まりとは限るまい。上野介殿必ず松坂町に一、二夜は泊まるはず」総力をあげてそれを探知してほしいと内蔵助がいいます。すると、喜兵衛が安兵衛に、喜兵衛「鍵は、松野屋のお蘭」安兵衛「十平次の器用でござるか」喜兵衛「杉野がやってくれればのう」というと、安兵衛は十平次が恋をしたと報告します。お妙と川のほとりを歩いているとき、お妙の気持ちを聞いて、十平次「お嬢様のお心、この平次めどのようにか・・」お妙 「平次さん」十平次「だが、これは所詮かなわぬ定めでございます。私は仇を討つ日までの命」それに対しお妙は、兄の玄蕃が助太刀をしてくれるからといいますが、十平次「それが・・・それが・・・」というと、お妙のすがる手を振り切って行こうとする十平次を追って、お妙 「平次さんは、私が、私が嫌いだからそんな・・・」十平次「何をおっしゃいます・・・私は・・・」赤穂の浪士で死を覚悟している十平次には何もいえませんでした。 二人の様子を船から見ていたのはお蘭でした。お妙と仲睦まじく寄り添っている十平次に嫉妬心を覚えるのです。 堀部安兵衛は十平次に、松野屋のお蘭のもとに言ってくれるよう話をします。十平次「安兵衛殿のお言葉、よくわかりました」安兵衛「それでは松野屋へ」十平次「この後におよんで、未練ものめとおさげすみだろうが、今宵一夜・・・ 一夜だけのご猶予を・・・今宵一夜考えさせてくだされい」安兵衛は十平次を思いやり承知をします。 お蘭のところに間喜兵衛が手代を連れてやってきていました。お蘭は平次を連れて来たのだと勘違いをして喜んで喜兵衛の待つところへ。しかし、お蘭が期待していた平次ではなかったので、平次っていう人がきたくないと言っているならはっきり言ってくれと憤慨します。そして喜兵衛に十平次には女がいる、女と河原で出会っているのをこの目で見たと・・・本気で十平次を好きになってしまったお蘭です。 続きます。
2021年08月05日
コメント(0)
せめて敵に一太刀でも、一槍でもつけて死にたい・その夜、お妙はそば屋の十平次が来るのを待っていました。今朝のお礼をいい、十平次がおいて行ったお金を返しに来たのです。十平次「何をいうんです、これはお嬢様からお預かりした簪を売ったお金」すると、お妙は前に売りに行ったことがあるが、醤油一樽を買えるほどの値段ではなかったと言います。それに対して、十平次は、買い手によって値段が違うとお金をうけとらず、十平次はお妙に「私からお願いがある」と言います。今朝は何もわからないままに弟子入りの芝居をうったが、十平次「今は何としても、本当にお弟子入りができねえもんかと・・・」 お妙はとてもうれしそうな顔をします。十平次「今日という今日は、しみじみ自分のような者でも、武芸の一手かど身につ けたいと思うことがございましてね」お妙が何かあったのか、と聞きますと、十平次「なあに、仲間通しの益体もない喧嘩でしたが・・・それにつけても、もう すこーし腕がたちさいすりゃあと・・・へっ、・・悔しくってね」十平次は悔しさをじっと抑えます。 玄蕃が酒を飲んでいるところへお妙が十平次を連れて帰ってきます。十平次が本気で槍術を習いたいということをはなします。今朝の様子ではと渋った玄蕃であったが、十平次の「お願いいたします」と頼む様子を見て、道場で稽古をつけはじめます。槍のかまえ方はこうだと教え、かまえた十平次を見て、何かを感じとったようです。 十平次がかかっていきますが、簡単にいなされてしまいます。それでも、十平次は何度も立ち上がり必死に立ち向かいますが無理なこと、気を失ってしまい、あまりのふがいなさに泣きだしてしまいます。お妙は兄の玄蕃が手荒くしたので、痛がって十平次が泣いていると勘違いをしてしまいます。 玄蕃は一杯やろうかと十平次を呼びよせると、玄蕃 「その方、元からの町人ではないな。それに槍を習うのもこれが初めてでは ない。あまり筋が悪いので師匠に愛想をつかされたというところだろう」十平次は、玄蕃に見抜かれ観念し、十平次「お許しくださいませ…先生ほどの達人の目をごまかそうとしてもだめだ、 ・・・その通りでございます」 玄蕃が「まだある、その方、仇持ちだろう」といってきたとき、十平次はどきっとします。玄蕃 「腕と気合が違い過ぎる、必死なものを感じる」 隠しごとなどすべきではなかったと謝り覚悟をした十平次は、「旧主の名前はご容赦下さい」といい、さる西国すじの大藩の足軽の子で、父の仇を願って兄と共に江戸へ来た、兄はじげん流をつかうが、自分はこの通りの不器用もの。今までは、斬り合いになったときは、敵にわが身を投げつけてきり殺されるときに、兄に相手を討ってもらおうと言うのが、心に秘めた覚悟だった。しかし、この頃になって、同じ葬られるにしても、せめて敵に一太刀でも、一槍でもつけて死にたい・・・その思いが日に日につのって・・・。十平次は泣き出してしまいます。 続きます。
2021年07月27日
コメント(0)
それでは、それでは十平次死に切れません翌日、十平次は美作屋に行き、間喜兵衛に零落した俵星玄蕃のことを話し、そして五両の金を借ります。五両の金を持って帰る十平次に目を留めたのは、表座敷に来ていた美作屋の得意客である松野屋の女将のお蘭でした。 俵星の家では、お妙に仕立物の仕事を持ってきているお兼が毎日の玄蕃の態度に説教をし、お妙がかわいそうだといいかえって行こうとしていました。お兼が戸を開けたところに、醤油樽と酒樽を荷車からおろしている十平次がいました。十平次が「これは先生の好きな酒樽だ」というと、横になっていた玄蕃が「これはいったい・・どうしたわけだ」といってきたので、十平次が「夕べお嬢さんの話でね・・・こいつもひとつ・・・」といい金を渡そうとするとお妙が慌てて、お妙 「このおそば屋さんが、兄上様の指南を受けたいと、たってのお頼みで ・・・その入門証としてこのように、ねっ、そうでございましょう、おそ ば屋さん」十平次「えっ?」 お妙が言葉に出さず十平次にお願いする様子を見ていて、「分かった」という顔で金をお妙に渡します。 それを聞いて、玄蕃は早速教授するから、道場へくるようにいいます。十平次は驚き、お妙に「勘弁しておくんなさいよ、朝つぱらから目をまわしたんじゃ・・・」といいますが、「ちょっとだけよ」と道場に連れて行かれます。 お妙に促され、どうしても槍の稽古をやらなくてはならなくなり、防具をつけたんぽ槍を持ちますが、武芸は苦手な十平次は、構えろといわれてもたんぽ槍の使い方も出来ず、へっぴり腰でたんぽ槍を振り回すだけ。玄蕃のたんぽ槍が目の前にきたとき、突かれてもいないのに目を回してしまう始末です。 美作屋の座敷では、間喜兵衛と小野寺十内が柳橋で料亭を営んでいるお蘭という女が、十平次に一目惚れしたという話をしています。そのお蘭は吉良の思い女で、常時吉良の屋敷に呼ばれているので、十平次が上手くとり入れば、お蘭が吉良邸に上る日には必ず吉良上野介は屋敷にいるという情報がとれるのだが、十平次は芯は根っからの堅物だから無理だろう、と話していると、縁側で聞いていた武林唯七が、「杉野には身に余る面目であろう。奴が役に立つといったら女たらしが関の山だ」と言い、「杉野を一味に加えるのは反対、武士たるものが武芸の武の字ぐらいは心得るべき、いざ討入りとなったら足手まといになるだけ」と言っているのを、十平次が庭先で聞いてしまいました。十平次は辱めを受け武林に反論します。十平次「武林殿、足手まといとは、お言葉がすぎよう」すると、武林が「それでは、吉良の付け人一人でも討ち取ってみせるか」とあざけります。 十平次「・・・拙者、武芸にかけては仰せの通り、生来の未熟者・・・」武林 「それで」十平次「しかし、討入りの場合・・・拙者、敵に斬られます・・・刺されます ・・・・・その隙にどなたかが討ってくだされば、よろこんで斬られま す。・・・・・だが、吉良の思い者などに・・・・・それでは、それで は十平次死に切れません」そういうと、耐えきれずその場を去って行きます。 続きます。
2021年07月19日
コメント(0)
その分では捨て置かんぞ玄蕃に突き付けられたたんぽ槍で肝をつぶした十平次、お妙に介抱してもらえるともたれかかったのですが、そうは問屋が卸しませんで、大丈夫だと言って立ち上がり、引き揚げていきます。お妙はハッと気が付き十平次を追いかけ、「お払い・・」というお妙に「なあに、明日いただきにまいります」と十平次が言いますと、お妙 「明日来ていただいても・・」十平次「それじゃ、・・・またそのうち、へえ」と明るくいうと、お妙は母の形見のかんざしを髪から取り、払いの足しにして欲しいと言ってきたので、十平次はかついでいた屋台をおろし、 十平次「折角のお形見持っておいでなさいまし。なあに、こっちの勘定なんぞは」 しかし、お妙は「どうぞ」と言い十平次の手にかんざしを持たせます。十平次は、一応預かるということにします。 兄玄蕃の無体を詫びるお妙に、十平次は同情して、十平次「私なんかのことよりも、お嬢様は毎日あの先生とじゃ・・・さぞね え・・・」というと、兄はいい人、ただ寂しいのだ、とお妙はいうと恥じらうようにあいさつをして帰って行き、玄関先でうれしそうにするのです。恋心が芽生えたようです。 十平次「今は蕎麦を売る気分じゃねえんだい」と切れたように強気で言うそば屋十平次に、「どうしても食いたいんだ」としつこいので仕方なく作ることにします。 その男が蕎麦を作っている十平次に、「何時ごろから商売を始めたんだ」と話しかけてきます。それには十平次は答えません。「この界隈じゃあんまり見かけない顔だ」と気になることを言ってきたとき、十平次の顔色がちらと変わります。 出来上がった蕎麦を黙って男に渡すと、その男は蕎麦をすすり「うーん、こいつはまずいや」と。黙っていた十平次もその言葉に腹が立ち、十平次「まずい」 男は、蕎麦を美味しそうにすすり「こんな蕎麦は食ったことがない・・・まずい蕎麦だ」といいながらぺろりと平らげ、そのあげく今持ち合わせがない、「今度払ってやる」といい行こうとしたので・・・こうなると十平次も黙ってはいられません。十平次「おう、待て。持ちあわせがねえとは何事だ。銭がねえのに、何故食った」男 「銭がねえから食ったんだ。銭があったら、誰がそんなまずい蕎麦食うも んか」十平次「黙れ、下郎の分際で、重ねての悪口雑言、今一度申してみよ、その分では 捨て置かんぞ」男 「てえへんなそば屋があったもんだ」と男は言うと笑って「杉野、俺だよ」と頬かぶりをとったのを見て、「貴公、堀部」と十平次が発しますと、安兵衛「声が高い」と制します。二人は周りを見渡してから、話をします。 十平次「貴公、また何でこんな無茶を」と聞いて来たことに対し安兵衛「無茶ではない、喜兵衛老人から、杉野が夜鷹そばに出たと聞いて、心配し て後をつけたら案の定だ。もう一度申してみよ、その分には捨て置かんぞ と、もし拙者が、吉良家の中間だったらどうなる」といわれ、十平次は未熟さを反省するのです。そして安兵衛は、大石内蔵助らが江戸へ入ったことを告げ、充分配慮するようにいうのです。 続きます。
2021年07月11日
コメント(0)
そば屋、求め遣わす俵星玄蕃と杉野十平次との話となると、私などは、三波春夫の長編歌謡浪曲「俵星玄蕃」がすぐに浮かんできます。「おお、そば屋か・・」とね。作品「血槍無双」は講談や浪曲でおなじみの俵星玄蕃と杉野十平次の物語を、忠臣蔵のかげに秘められたはげしくもあたたかい真の男の友情を中心に描いた異色時代劇になります。作品内容は、忠臣蔵を題材にしての作り話ですから、剣術には全く腰抜けだった十平次が、討入り本番にいきなり技を使いこなすという、まさに痛快娯楽映画としての展開になっています。十平次は討入りの際にせめて敵に一太刀でも浴びせたいと偶然知り合った玄蕃のもとで槍を習い始めます。玄蕃は自分の奥義を十平次に授け、吉良方の誘いを断り赤穂浪士の手助けをするようになります。わが身とともに終わりを告げようとしている槍の極意を十平次にたくし、その大願が果たされた時その極意も途絶え、可愛い妹の恋も終りになるというやりきれない想いを描いていく展開の中に、貫かれる男の潔さを見ることが出来る忠臣蔵はやっぱり面白いですね。四十七士はいろいろエピソードを描けますが、俵星玄蕃に妹がいて、夜鳴きそば屋に身をやつしている杉野十平次を足手まといの浪士に仕立て、玄蕃と十平次の友情を描いていくところがいいのですね。 そこへ十平次を好きになる妙とお蘭をセッティングして恋模様も入れるというファンにとってはたまらないほどのサービスになっています。片岡千恵蔵演じる豪放磊落な玄蕃に対し、剣術が苦手だが他の浪士たちに負けまいとする十平次を演じた大川橋蔵は、颯爽たる赤穂浪士姿で槍での立廻りと討入りまでの苦悩がファンの喝采を浴びまた新しい芸域の役柄を好演しています。◆第56作品目 1959年11月1日封切 「血槍無双」 俵星玄蕃 片岡千恵蔵俵星妙 花園ひろみ武林唯七 若山富三郎お蘭 長谷川裕見子片岡源五右衛門 原健策岡野金右衛門 南郷京之助𠮷田忠左衛門 香川良介和久半太夫 小堀阿吉雄神崎与五郎 若杉恵之介吉良邸門番A 杉狂児吉良邸門番B 伊東亮英堀部安兵衛 黒川弥太郎 猿橋右門 山形勲間喜兵衛 薄田研二大石内蔵助 大河内伝次郎杉野十平次 大川橋蔵 浅野内匠頭が吉良上野介相手に刃傷沙汰を起こしてから、浅野の家臣達は仇討の準備を進めていました。商人になりすまし吉良邸を見張っていました。その一人杉野十平次は夜泣きそば屋になりすまして・・。十平次は武士でありながら武芸が苦手で、仇討ちの際、みんなの足手まといになるのではと悩んでいました。ある日、俵星玄蕃と知りあい槍を習い始めるが、なかなか上達しない十平次に、玄蕃は厳しく指導するが・・・そしていよいよ討入りに・・・。桜の下で浅野内匠頭が切腹の場面と共にキャスティングが流れていきます。風さそう花よりもなお我はまた 春の名残をいかにとやせん亡君のご無念はらさん時が来た、いざ吉良殿を討たんかな、元城代家老大石内蔵助らは、雨の中江戸へ向かっていました。時元禄十五年十月七日、原惣右衛門の出迎えを受け江戸に入ります。内蔵助は迎えられた屋敷で配下の中に上杉藩の前田平内が間者として入り込んでいるのを見抜きます。前田は慌てて逃げたところを武林唯七に斬られます。落ち着いたところで、江戸の同志の人々の様子を聞いていきます。本所林町五丁目三の橋の際に難波屋という酒屋を出し、小野寺十内が十兵衛という名で主人役を務め、神崎与五郎が与七という名で、勝田新左衛門が新吉という名で共に働いている。本所二つ目相生町に間喜兵衛が美作屋という呉服屋を出し、間十次郎、村松三太夫、岡野金右衛門が働いている。横川勘平が魚屋に、倉橋伝助が八百屋に、奥田孫太夫は大道占いになり吉良の動静を探っていると言います。ただ、その中でも堀部安兵衛は喧嘩安兵衛とか知られているので、隠密活動にさわりがあると、自ら顔に煮え湯をかぶったことを伝えます。岡野金右衛門が奥にいる間喜兵衛の所へ帰って来た挨拶に行くと喜兵衛はそばをすすっていました。そして金右衛門が裏庭に来ていた杉野十平次に気がつきます。夜泣きそば屋の屋台から十平次が顔を出します。その姿は・・・という問いに、十平次は十平次「えっ?・・へっへっへ、へっ」 金右衛門にこう言います・・・生来の不器用で、武芸はもとより何をやらせてもものの役にもたたん。せめて、このそば屋でもとやらせたら、やあ、この味は・・・と言いながら蕎麦をすすって「うまい」。そしていうのです。「十平次、これなら商売繁盛間違いなし、大当たりじゃ」お墨付きをもらった十平次は、夜泣きそば屋「当たりや」を松坂町辺りでやっていると、五人の男達は蕎麦を注文すると、道場での気が遠くなるような厳しい稽古の話をしはじめ、そこの先生は厳しいがお嬢さんに介抱されると気分がスーッとすると言っているのを聞いていた十平次、十平次「へえー、気付け薬みたいな娘さんがいるんですね」この先の俵星玄蕃という槍の先生の妹で妙ということを知ります。その槍の道場の先生という俵星玄蕃が酔いから醒めたとき、妹の妙の姿も見えず徳利に酒もなくどうしようかと思っていたとき、いい具合にそば屋の声が聞こえて来ました。玄蕃 「おい、そば屋」十平次「へい」玄蕃 「求め遣わすから、門から入れ」という声がかかったので十平次「へっ、毎度ありがとうございます」門の表札を見ると無辺流槍術指南・俵星玄蕃の看板とあります・・・ああ、さっきの客たちが話していた・・・というような表情をして門をくぐります。 玄蕃は玄関先に座り込むと、早速十平次に絡んできます。玄蕃 「そば屋」十平次「へっ」玄蕃 「そのほう、何のために、嘘を言う」十平次「嘘?」 玄蕃 「毎度ありがとうございますと、申したではないか。そのほう、当家は初め てのはずだぞ」十平次「へっへへっ、嘘はひどうござんすよ、そりゃあ、商人の世辞ってもんで、 へっへへっ」そう聞いて、玄蕃は、商人が空世辞をたたくから、当節は武士にまでに移って世辞をいうようになった、と嘆きます。 そんな玄蕃に「お待ちどうさま」と作った蕎麦を渡そうとすると、玄蕃 「何だこれは?」十平次「何だって・・・蕎麦ですよ」すると、「蕎麦はいらん」頼んでないというのです。十平次が、蕎麦売りと流していたら、「求め使わす」と呼んだではないかというと、「蕎麦を求め使わす」といった覚えはないと言ってきます。十平次は飽きれたように、 十平次「なーるほど、こいつはへそ曲がりだ」と蕎麦を引っ込めながら言ったのが聞こえたのか、「何のことだ」と言う玄蕃に、十平次「えっ、へい、そうでしたかと」と答えたのに対し、「へそ曲がりと申したではないか」と食ってかかってきたので、「耳は曲がっちゃいねえようだ」と十平次は独り言をいうのです。 それでは何を使わしてくれるのか聞きますと、「水だ」といってきます。酔い覚めの水を所望したい、というのです。返事をしないで立っていた十平次は、「ないのか」と聞かれ、十平次「いやあ、それはございますよ。しかし、水なら何もお宅にだって」あるじゃないかというと、「そのほうの水が、特に飲みたい」というのです。 仕方なく水を汲みながら十平次はふて腐れ呟きます。十平次「何を言ってやがんでい、汲みに行くのが面倒くせいもんだから・・・」といいながらも、玄蕃に水を持っていきますと、「甘露甘露」と言いいっきに飲み干します。 あきれた十平次が「お世辞はいいからどんぶりを返してほしい」というと、今度は酒を持ってないか、と言ってきます。ムッときた十平次でしたが、十平次「そりゃー、少しは持っておりやすが」 そういうと、玄蕃はうれしそうな顔をして、玄蕃 「すまんが、それをくれ」十平次はしぶしぶ返事をして、酒を渡します。 すると、玄蕃は上手そうに飲み玄蕃 「夜泣きにしては、なかなかいい酒をもっておるな。・・・いや、これは世 辞ではないぞ」玄蕃は酒を飲み干し、あきれて何も言わずに屋台に戻った十平次に、今度は玄蕃 「おっ、さっきの蕎麦くれ」十平次「えぇっ? だって蕎麦いらねえと一口飲んで人心地ついたら、急に腹が空いてきた、というのです。・・」 なかなかいい味だと蕎麦を食べているのを見て、十平次「ちぇっ、お世辞じゃねえか」食べ終わると、勘定は明日にでも取りに来い、と言い奥へ行こうとした玄蕃に、十平次の堪忍袋の緒がきれます。十平次「そりゃぁ、無茶だ」玄蕃 「何が無茶だ」十平次「無茶でござんすよ。・・・こっちはしがねえその日暮しの夜鷹そば屋、そ れを偉そうに求め使わすなんて呼び込んで、やれ水だ、酒だと好き放題の 五択を並べ、おまけにいらねえとケチまでつけた蕎麦をペロリと平らげて 挙句に払わねえときやがった」 「誰が払わんと申した」に、「じぁ、いただきやしょう」と詰め寄ると、今はないし妹もいない、と言い奥へ入ろうとしている玄蕃に、堪忍袋が切れた十平次が、十平次「妹さんがいたってあるとは限りますまい。ちえっ、手の内はちぁーんと呼 んでるんだ、嘘をいうのはそっちじゃねえか」と言ったから大変です。嘘つきとは・・・許さないというと、奥から練習用のたんぽ槍を持ってきて「えい」とばかりに顔面前につき出します。 「なるほど、目から火が出た」と言い、肝をつぶし倒れ込んだところへ玄蕃の妹お妙が帰ってきます。お妙に起こされ気が付いた十平次は「なるほど、こいつはきつけ薬だ、気分がすーっとしてきた」とお妙に持たれようとしたところ、お妙がそれを避け立ち上がったので、十平次の思惑通りにはなりませんでした。 続きます。
2021年06月26日
コメント(0)
正々堂々と闘ってくれよ必死に槍の先を押えていた大内記が、大内記 「又右衛門、よくぞ教えてくれたの」その言葉を受け又右衛門も「おそれいります」とひざまずきます。そして、只今までの無礼の数々許してくださいと頭を下げます。 それに対して大内記が本心を明かします。大内記 「何を申す。・・その方が別れに望んで、余に極意を授けくれんとの心 根、礼を言うぞ」又右衛門がその言葉に驚きを見せます。又右衛門「えっ・・・では殿には・・」大内記「うん、初めから知っておった。甚左が教えてくれたのだ」 大内記に呼ばれ川合甚左衛門が入ってきて、又右衛門の隣に座ると、「おぬしもか」との又右衛門の問いに「うん」と答える甚左衛門、大内記が荒木」といい、大内記 「甚左が申すに、いずれ荒木がお暇をいただきに参るはず、その節はきっ と皆伝を免許していくであろうとな。あっははは、・・・だが今真剣だ ったぞ。飛騨守の真剣を素手で交わした荒木又右衛門よと思えば、必死 にならざるを得なかったぞ」明るく言う大内記に対し、「おそれいります」という又右衛門の顔には明るさはない。 大内記 「それにしても、今ここに二人を手放すことは、余としては淋しいかぎり じゃ」又右衛門も甚左衛門も下を向き何もいえません。大内記が続けます。大内記 「仲の好いそち達が、一人は川合又五郎に、一人は渡辺数馬につき、仇同 士に分かるともすべては武士道の意気地、・・・お互いに正々堂々と闘 ってくれよ」二人は深く頭を下げます。 舞台は江戸に変ります。又五郎は、旗本阿部四郎五郎のところに身をかくしていました。池田宮内少輔忠雄の申し付けにより川合半左衛門と交換で又五郎を渡してもらいに阿部四郎五郎のところに行きますが、親子の別れをしてやってほしいといわれ、阿部の陰謀にかかってしまいます。江戸城では、旗本阿部と池田藩の双方から手を引かせる考えにします。四郎五郎の屋敷に匿われた半左衛門が腹をきったところに、又五郎に腹きらそうとやって来た甚左衛門でしたが、兄半左衛門の又五郎を頼むの言葉に・・・。池田藩では宮内少輔忠雄が急死、藩邸に行こうとする数馬に、又右衛門は、今となっては公儀をはばかる又五郎の敵討ちなど池田家藩中にはどうでもよいこと、といい「わしがついておる」助太刀に来たといいます。甚左衛門が又右衛門の足を止めている間に、援護をつけて又五郎を九州相良方面へ逃がすことを阿部史郎五郎は考えます。又右衛門と甚左衛門が戦っているところへ、数馬が又五郎は中仙道を行く模様と知らせに来ます。すると、甚左衛門が違うと言ってきます。又五郎を追って行こうとする又右衛門に甚左衛門は勝負をつけるよう挑んで倒れます。又右衛門は「なぜ勝を譲った」と甚左衛門を抱き起こすと「これでいいのだ」と答え、ゆみに一言伝えてほしい「落ちゆく先は九州相良、三州形原にて勢揃い、総勢三十六騎東海道をくだり、大阪より船路をとって九州へ」と言うと「かたじけない、ゆみ殿に伝えるぞ、わかったぞ」と又右衛門。本懐を遂げたときは、ゆみ殿を数馬の妻にすると約束し、娘婿数馬の手を握らせるのです。 又五郎は、三州形原にて甚左衛門の死を知ります。又右衛門、数馬、用人の武右衛門と孫右衛門の一行は鍵屋の辻で待ち伏せし、数馬の仇討ちをさせるため又右衛門は助太刀にまわり、宿願を果たします。「又五郎、お主がつまらぬことをしでかさねば、すべての者が死なずにすんだのだ」、「甚左・・お主が生きていれば・・・」と嘆く又右衛門です。 (完)
2021年06月15日
コメント(0)
柳生流真剣白刃取りの極意あれから二年が経ちました。又右衛門は子にめぐまれ平和な日々を送っていました。妻みねの弟数馬は甚左衛門の娘ゆみと恋仲になり、みねに届けものを口実に今日もゆみに逢いに来ています。渡辺靭負のところには、川合又五郎が碁をうちにやってきていましたが、金のむしんをしますが断られお説教をされているうちに靭負を斬ってしまいます。又右衛門の家に甚左衛門と娘のみねが遊びに来ていたときに、岡山から渡辺靭負が人手にかかって死んだということを知らせる手紙が届きます。そして、又右衛門のところから帰る甚左衛門のところにも弟の桜井半兵衛により、又五郎が渡辺靭負を殺害したことが知らされます。数馬が又右衛門の家にやってきます。みねがまずは上ってと数馬に促していると「上がるな」と又右衛門の声がします。「何しに来た」と聞かれ、数馬は殿に仇討ちをお願いのため江戸へ向かう途中だといいます。又右衛門は本田家の家中であるから数馬の助太刀は出来ないこと、親の仇はいかなることがあっても自分の力で果たす決意が必要だ、と送り出します。又右衛門はいとまを・・というみねに、助太刀をする決意があることを告げます。しかし又五郎が江戸へ逃げ込めば、直参旗本面々が後ろ盾をすることは明らか、そうすると池田藩と旗本の間に軋轢を生じ天下の一大事になるかもしれない。が、いかなることになろうとも、数馬を助けて、必ず又五郎を討つ、とみねにいいます。ただ、又右衛門にとって本田家に仕え何ら報いることなくこのまま立ち去ることが心残り・・・しかし、みねに心配するなといい、本田家に三年の暇を申しでる書状を見せ、子供のことは頼むと、別れをします。その書状を読んだ大内記は、大内記 「武芸修業のため、3ヵ年暇がほしいと申すのだな」又右衛門は頭を下げます。 大内記 「その方ごとき、充分に武芸をわきまえたる者が、いまさら修業とはどう いうことだ」又右衛門「ちと、所存がございまして」大内記 「その所存を申せ」 又右衛門「恐れながらその義は、殿の御意をそんずるやも知れぬことなれば」大内記 「許す、申せ」大内記も又右衛門のいうことを素直には聞きません。又右衛門は、指南役として2年だが、殿の上達が見えないのは、自分の腕のいたならないためというと、大内記 「なに、・・・ではそちが暇をとるは、余のせいなりと申すか」又右衛門「御意」 大内記 「黙れ。言わしておけば・・」と大内記が羽織を脱ぐと立ち上がり大内記 「しだいによっては手討ちにいたすぞ」 これにたいし又右衛門が、許すというから申上げたのに「お手打ちとは」というと「ええい、黙れ」聞く耳もたぬと、大内記は襷がけをすると槍を取り、又右衛門の顔の前に持っていきます。 又右衛門はその槍の先の大内記の顔をじっと見つめていて 又右衛門「これは面白い。・・・かような未熟な構えにて・・・この又右衛門が討 たれるものと思われますか」大内記 「言うな」 大内記が又右衛門にふりだした槍の先を両手で抑え込むと、二人が力の入った状態でしばらく向き合っていると、 又右衛門「柳生流、白刃受けの伝」大内記 「うぅん?」という表情を見せたとき、又右衛門が槍を跳ね返します。 向かって行った大内記の槍を取り上げ払いのけ槍を下に置いて、又右衛門「柳生流、白刃落としの伝」大内記「なに?」という表情で又右衛門を見たとき、 今度は槍を回して、大内記をめがけ槍を向けていきます。必死に後ずさりする大内記に容赦なくかかっていく又右衛門。追い詰められた大内記は段に足をとられ、上向きに倒れてしまいます。 そこへ、槍を浴びせる又右衛門、それを必死に両手で止め上半身起き上がり顔の前で槍をしっかりおさえ又右衛門を睨みつける大内記。そのとき、又右衛門の顔が和らぎ、 又右衛門「お見事、ただいまの俊敏、体のこなし、足の踏みよう、これぞまさし く・・・柳生流真剣白刃取りの極意」それを聞いた大内記は「えっ?」という表情を見せ槍先を見つめ、又右衛門の心に深く感謝ます。 続きます。
2021年06月07日
コメント(0)
吉川英治の長編小説「恋山彦」は雑誌『キング』1年間連載になったもので、連載完結後、マキノ雅弘監督が京都の映画会社・マキノトーキー製作所が映画化権を取得し、同社の比佐芳武が脚本を執筆したのですが、1937年に解散、同シナリオを携えてマキノ監督は日活入りし、入社第1作として阪東妻三郎主演で1937年に公開されました。ここでの映画「恋山彦」は マキノ雅弘監督によるセルフリメイク映画になります。小説『恋山彦』は吉川英治が1933年に封切られた映画『キングコング』に感銘を受け作り上げた物語が、「恋山彦」であったといわれています。主人公・伊那小源太の江戸城ならびに江戸城下での小源太の暴れっぷりにみられるような壮絶な活躍については「現代科学へ挑戦したキング・コングの怪躍に似ている」と形容していたというところからしても影響は明白だったのでしょう。正義にたちむかう伊那の若武者小源太と豪快な立廻りを見せる江戸の剣客無二斎の二役を、見事に演じわけ、くしき縁で夫婦の縁を結ぶようになった小源太とお品の初めての夜、白無垢の絹の着物を着た二人のラブ・シーン。ファンの胸に深く広く印象づけ、演技派橋蔵ここにありを立証しました。橋蔵さんは、平家の落人ということもあり、いくつもの豪華な衣裳で登場するし、江戸城内で将軍綱吉を下がらせ小源太が大見得を切る所など、凛々しく、颯爽、見せ場中の見せ場です。優雅な中に、小源太の槍と長袴での流麗な立廻りや無二斎の涙を誘う壮絶な大立廻りと、橋蔵さんの剣さばきが冴えわたります。◆第54作品目 1959年9月20日封切 「恋山彦」 伊那の小源太 大川橋蔵島崎無二斎 大川橋蔵お品 大川恵子おさめの方 日高澄子おむら 丘さとみ伊那禅司宗経 薄田研二鐘巻七兵衛 田崎潤矢走右近太郎 田中春男英一蝶 伊東雄之助柳沢吉保 柳永二郎深瀬大全 戸上城太郎堀鶴之丞 片岡栄二郎村上修理 加賀邦男市橋妥女 原健策文七 沢村宗之助十寸見源四郎 明石潮将軍綱吉 小柴幹治紀の国屋文左衛門 香川良介お千代 三井京子三吉 花房錦一辰 大村昆舞台は徳川綱吉の時代で、幕府の実権は、大老柳沢吉保が握っていました。伊那の虚空蔵山に住む平家一族の小源太は、三味線の名器「山彦」を所望されたのを断り柳沢吉保に父を殺されたというお品を館に迎いいれます。小源太らは、将軍綱吉と柳沢吉保と対決するため江戸へ。しかし、あえなく破れ小源太は江戸城の堀に入水します。伊那のお品は「山彦」を奪われ江戸に向います。画師の英一蝶に救われ、小源太は生きていた。一蝶の友人・島崎無二斎とそっくりだったため、無二斎は小源太として幕府に立ち向かい・・・。小源太はお品と再会、文左衛門の手引きで、柳沢吉保の屋敷の盛大な宴の能舞台で舞い・・と展開していきます。そちは、”あでびと”よのう輿を担いだ一行が、夜、地元の神社へやって来ます。 古びた神社の社の前に娘が乗っている輿を置いた一行は、突如、怪しげな鳥の鳴き声を聞き一斉に逃げ出します。人けがなくなったところで、社の扉が開くと連獅子の白い髪を付け兜に面当てた鎧武者姿の者が現れ舞いながら輿の中の様子をうかがいながら近づいていきます。 そして、輿に乗っていた人影を覗き込んだ武者は、「違う!伊奈の村の娘ではない」と小さく叫び、刀を抜き、輿の上の箱の部分を斬り捨てていきます。娘は気を失ってしまいます。(あとでこの娘の素性は分かっていきますが、江戸から大切な三味線を持って逃げて来たお品というものです) 伊那村からさらに奥の虚空蔵山の麓に平家の子孫が密かに流れ住み、伊那禅司宗経の指揮下で平和な日々を送っていました。今宵ここに来た若者は宗経の嫡男小源太でした。一族の血統を絶やさぬために、いけにえ神社の人身御供と偽り、村の若い娘をさらってくる姫迎えの習慣がありました。小源太が、お品を抱え白馬で走っていきます。途中、気を失っている娘に、小川の水を手に掬い、飲まそうと近づきますがこぼれてしまいうまく行かないため、もう一度手で掬うとためらいはしますが、自分の口に含み娘を抱き上げ口移しに飲ませます。 一瞬気がついた娘を小源太は優しく見ていると、娘は目の前にいる小源太の顔をはっきり見るとまた気を失ってしまいます。 もう一度口移しで水を飲ませ、お品に、小源太「渇きを覚えたであろう」と声をかけ、立ち上がり 小源太「そちは、”あでびと”よのう」優しく声をかける小源太・・・お品を気に入ったようです。 すると、お品が「あたし・・・あたしは生きているのでしょうか」と問いかけるのです。(そのときの小源太の表情です) 小源太「死なせてなるものか お品に小源太は、思いをいうのです。小源太「姫、御身は儂の嫁御寮となるのじゃ・・・参ろうぞ、あの山の果て、虚空 蔵山の頂きへ。そこに我等、平氏一族が住む館へ参ろう」 続きます。
2021年02月02日
コメント(0)
あっしをご存知ねえんですかい左近は巻物を持って登城し、老中水野出羽守がいうように天下騒乱のもとと事件の全貌を告げます。左近も道満も相手の動きを見ています。牛久の宿場にいる道満のところでは、速水周平が道満の門を離れたいと言うと、道満は餞別に戸田流音無しの太刀を授けるといい立ち合い討たれてしまいます。場面はかわり・・・・江戸。雨の中を旅姿で次郎吉が我が家へ帰ってきます。ずぶ濡れになった次郎吉は玄関を入るなり、お悦を呼びます。 次郎吉の声を聞き、玄関先へ飛んで行ったお悦の声には嬉しさが溢れています。そして世話を焼くお悦でしたが、次の瞬間冷静になったのか、「お前さん」と言い次郎吉を睨めつけます。 次郎吉「ええ?・・・あっ、そうだ、・・・おめえどうしたんだよお、・・迷子に なったんじゃねえかと心配したぜえ。 ・・まあ、なんにしても、無事に 江戸へけえれて、よかったよ、よかった、よっ。・・・おれは本当に心配 したぜえ」お悦 「ほんと?」次郎吉「本当だともよ」 その言葉を聞いてお悦は「まあー」と言い次郎吉によろうとしましたが、お悦 「だめだめ、そんな甘いこと言って、もう二度とお前さんと口を利かないつ もりで帰って来たんだから」そう言ってそっぽを向き、次郎吉が謝り慰めてくるだろうとほくそ笑むお悦でしたが、お悦のその様子を見逃さない次郎吉の方が上手でした。 次郎吉「そうかい、そいつはありがてえや、お蔭で当分静かになれりゃ・・」と言いい、次郎吉は火鉢のところに座り煙草に火をつけます。「まあ、憎らしい」と言い、お悦は次郎吉のそばに行き、濡れている着物を見てお悦 「 お前さん、何か着なくちゃ風邪ひくじゃないかあ」それに対して次郎吉は、指を口に持っていき口を利かない仕草をして見せます。 お悦は、次郎吉に半纏をかけ、もう口を利いてやらないと言いながらかいがいしくするのです。 次郎吉が二階でする音に気づきます。次郎吉「二階に誰かいるのか?」「覗いちゃだめ」といわれ、「何だってんだい」と不機嫌になる次郎吉。 車坂の井上先生のお客様で、江戸にいる間部屋を貸してやってくれと、大家さんからの口利きだ、というのです。何やかやと話してくるお悦に、次郎吉「お前、口きかねえにしちゃ、よくしゃべるなあ」お悦は次郎吉にメロメロなのです。 その二階に部屋を借りていたのは、島田虎之助と佳永です。 道満が江戸に向かって動き出し、左近は妹斐姫と一緒に井上傳兵衛道場にやって来ます。斐姫は井上道場の門下生には歯が立たないほどの腕前です。そこに左近が来ていることを知らず、虎之助がやって来ます。井上道場からの知らせは、虎之助が出かけた後に届きました。佳永は井上道場に出かけて行きます。井上道場からの使いが来て涙ぐんで出かけて行った佳永の様子がおかしいと、お悦はちょうど帰って来た次郎吉に話します。次郎吉は井上道場に様子を見に走って行きます。 その井上道場ではその頃、斐姫と勝負をと木の葉一刀流の田島虎之助がやって来ました。井上傳衛門と左近は、虎之助の構えが尋常でないことを見抜きます。斐姫が踏み込むと竹刀が左近めがけて飛んでいきます。それを手ではじいた左近、じっと左近を見据える虎之助。左近は、虎之助に「余に挑戦いたすきか」と。左近は「余の目は節穴ではない」、虎之助「お立会いくださるか」できれば真剣でという虎之助。次郎吉がその様子を見ています。 二人が真剣を抜いたとき、「お待ちくださいまし」必死に駆け込んできた佳永は二人の前に身を投げ出して嘆願します。道場を後にしだ虎之助と佳永の姿がありました。仇を前にして止めた佳永の思いをくみ取ってはくれない虎之助に必死に縋りつく佳永・・・そのとき、次郎吉が見かねて声をかけます。次郎吉「旦那、・・・もう、お嬢様を許しておあげなさいましな」虎之助「何?」次郎吉「息のつまるような、旦那と本田の殿様の間へ、止めてくれ、と飛び込ん だ・・お嬢様の気持ちも察しておあげなさいましなあ・・・そういっ ちゃ何だが、剣術なんかに打ち込んでなさるお武家は、娘心なんてえ ものを、さっぱりご存知ねえ」 次郎吉にそう言われ、二人は顔を見合わせます、佳永が恥じらいをみせます。(その二人の様子がどのようであるかは、次郎吉の顔を見れば・・・ね。) 次郎吉「それに、旦那が左近を斬らなくたって、ものすげえのがあの白装束をね らってまさあ」虎之助「お前はいったい何者だ」次郎吉「ええっ? まだ あっしをご存知ねえんですかい・・旦那の宿のさ、お悦の 亭主ですよお」虎之助も佳永もびっくりします。 そう言って二人のびっくりした様子を見て笑い溜息を大きくつくと、次郎吉「じゃあ、ごめんなすって」と去って行くのです。 続きます。
2020年03月23日
コメント(0)
今度ばかりは何が何だかさっぱりお悦が、ちょっと目を離した隙にいなくなった稲葉屋次郎吉を探しています。(お悦ではありませんが、次郎吉は何処へ行ったのでしょう、次郎吉のこと気になりますね) その次郎吉は、江戸に向かう仙台黄門の藤木道満一行の後をつけていたのです。 先回りしていた次郎吉は、道満達が行き過ぎていくのを確認すると、次郎吉「へっへへ・・どうでも牛久の宿で勝負はつけるぜ」と、ほくそ笑みます。 次郎吉が言った「牛久の宿で勝負を」が聞こえたのでしょうか。馬方が「若けえ衆」と声をかけてきます。そして、何を勘違いしたのか、馬方が「牛久の賭場は大きくて、とてもおめえさんじゃ手が出ねえよ」と言ってきたのでます。次郎吉「えっ?」 馬方は、次郎吉に「同じ勝負をするなら、いい所に案内する」と言ってきますが、次郎吉は笑って取り合いません。次郎吉「またにしとくぜ」 と言われ、行きかけた次郎吉は振返って、ポカーンとしている馬方に、次郎吉は「それよりおめえさん、へっへっへ」と声をかけ戻って来て、次郎吉「自分の財布はちゃんと紐で結んでおきな、せっかく稼いだ一貫五百、落と しちゃ大変だぜ」と笑いながら行ってしまいます。 牛久の宿、藤木道満一行は密かに江戸方の動静をうかがっていました。同行する速水周平と高柳又四郎は、道満の恐ろしい一面を除いて心が揺れ始めています。その宿の別室には左近を仇とねらい江戸へ向かう島田虎之助と佳永が泊まっています。「左近は必ず井上道場に現われる」仇は井上道場で討とう・・と、悔いのない相手だと、虎之助は佳永に話すのです。その夜、寝静まった宿に、稲葉屋次郎吉が忍び込みます。 障子越しに物音を聞いた尾岩たちは跳ね起き廊下に出ましたが人影はなし。部屋に戻り道満も安堵していたとき、次郎吉が天井から降り。目の前で布団の下にあった巻物を持ち去ります。道満の「追え」の声で尾谷たちが次郎吉を追います。又四郎がひとり行った方向に人影を感じ小柄を投げます。次郎吉は樽を倒しながら逃げようとします。 追い詰めたところで又四郎が呟きます。又四郎「見事なやつ」次郎吉「おめえさんだって、てえした侍だぜ」 次郎吉「へっへへっへっ」又四郎「おい、出て来い」次郎吉「やだよお、出たら斬られちまう」又四郎「貴様、誰に頼まれた」次郎吉「冗談いうねい、頼まれて人様の物に手をかけるような、そんなケチな男 じゃねえ」次郎吉が逃げようとしますが又四郎が遮ります。 又四郎「ただの盗人か」そう言われては、次郎吉も黙っている訳にはいきません。次郎吉「盗人じゃねえやい、すぐ後で返すことにしてるんだ」又四郎「ええっ?」次郎吉「つまりおいらの、道楽だよ」又四郎「道楽?」 次郎吉「そうだい、おれはねえ、鼠小僧の昔から・・おっと、その昔からよ、大物 ぶってる奴の面を見ると、無性に鼻を明かしてやりたくなるんだ」次郎吉はここで懐からいま盗んできた巻物を出して見せ次郎吉「それに一旦こうと狙ったら、空天竺まで追っかけて、おう、ものにするん だぜ」それを聞いていた又四郎は、刀をおさめるから、巻物を返してくれるか、と言ってきます。次郎吉「気に入った、旦那、物分かりがいいや。よし、それじゃ、おう、返えしま すぜ」と巻物を又四郎の方に差し出したとき、「又四郎斬れ」と声が飛びます。 現われたのは藤木道満と尾岩、速水でした。「斬るのだ」という道満の言葉に躊躇していると尾岩千左衛門が次郎吉を追って行きます。そこに白装束の本田左近が現れ、追われている次郎吉を助けます。左近と道満が刀を抜きますが、・・息詰まる・・・簡単に決着がつくものではありません。そのとき、次郎吉が左近に話しかけます。次郎吉「殿様、こうなったらあっしは死んでもこの品は返さねえことにしますぜ」 道満は構えを止め、「貴様の命はその一巻と共にしばらく預けておく、行け」と左近に言います。左近は「いつ、どこででも、お相手いたす」と言うと次郎吉と共に去って行きます。 左近と次郎吉が道々話をしています。次郎吉が左近の手伝いをするようになる出会いになります。左近 「ほう、わしを本田左近と知っているのか」次郎吉「それを分からねえようじゃ、豆腐に頭をぶっつけて死んじまったほうがま しでい」 左近 「(笑)しかし、大胆な奴、そちの相手が何ものか知って忍び込んだのか」次郎吉「あっしはね、こう見えたって不見転は買いませんぜ・・・」と言い、藤木道満ということをわかってのことと言います。そして、普通なら返すのだが、盗んだこの巻物はどうしましょうと左近に聞くと、左近は次郎吉に「怪我の功名だな」と言います。 次郎吉「ええっ?じゃ、殿様もこれを。一体何ですこいつは・・・」左近 「異存がなければ、余が預かりたいが」次郎吉「ええ、異存もくそも、あんな気違い野郎相手じゃ、返えそうにも返しよう がなくて困っちまう。・・さあ、どうぞ」と言って、巻物を左近に差し出しますと受取り左近 「よし、・・その方に面倒なことがおきれば、いつ何時たりとも余の所へ駆 け込んでまいれ、よいか」というと、白馬に跨り「さらばじゃ」と消えていきました。 次郎吉「長年この道楽やってるが、今度ばかりは何が何だかさっぱりわからね えや」と次郎吉は首をひねるのでした。 (次郎吉が盗んだ巻物は大切なもののようです。次郎吉の道楽が役に立ったのですね。これは次郎吉がかかわったほんの始まりだったのです) 続きます。
2020年03月15日
コメント(0)
まあ、見ていておくんなせ市川右太衛門が全身白ずくめでみるからに正義の味方を演じ、大友柳太朗が、強くて優しい剣士、大川橋藏がやんちゃな義賊を軽快に演じ、という定番の楽しさに、水戸黄門そっくりな、仙台黄門と称し伊達家の実権を握り天下を狙う藤木道満悪役を月形龍之介というキャストでの作品です。 正義旗本退屈男と悪役水戸黄門の対決のよう、たまにはこの様な趣向の時代劇も面白いかもしれません。作品の中、義賊次郎吉の存在が、ほっとさせるものがあります。橋蔵さまのひょうきんで茶目っ気を失わない明朗な性格が、二枚目半の役に生きています。長谷川裕見子の芸者ぶりはなれたもの。小粋な姉御お悦の雪代敬子は、橋蔵さまとのオキャンなカップル振りがとても楽しくよい具合です。風雲急をつげる維新前夜、勤王思想の美名に隠れて天下を己のものにしようとする仙台黄門の野望の前に敢然と立った白衣の剣士、気まぐれ左近、その手足となって陰謀に挑戦する義賊次郎吉、剣と恋の大ロマン時代劇です。 ◆第49作品目 1959年5月5日封切 「風流使者 天下無双の剣」 本多左近 市川右太衛門島田虎之助 大友柳太朗稲葉屋次郎吉 大川橋蔵藤木道満 月形龍之介高柳又四郎 若山富三郎竹千代 長谷川裕見子斐姫 桜町弘子お悦 雪代敬子佳永 大川恵子尾岩千左衛門 加賀邦男水戸斎昭 三島雅夫速水周平 片岡栄二郎木下孫兵衛 堺駿二水野出羽守 柳永二郎吉沢左文次 吉田義夫井上伝兵衛 市川小太夫室賀三太夫 明石潮 伊達藩主が病弱なことを利用して藩の実権を握り、勤皇の志士を扇動して天下転覆を謀る藤木道満。その野望に敢然と立ち向かうきまぐれ左近こと飯山城主の弟・本多左近。芸者竹千代を使って道満の内情を探るが勘づかれてしまう。小野派一刀流の達人島田虎之助に左近を討たせようと、道満は左近に成りすまして虎之助と恋仲の娘佳永の父、室賀三太夫を討つ。この一部始終を見ていた道満に従う剣士・高柳又四郎、速水周平は道満の行動に疑問を抱く。一方左近は、江戸に帰って侠盗・次郎吉の協力で入手した道満一派の血判状を証拠に老中・出羽守に事の全貌を告げるが・・・。今回の物語の出だしは変わった趣向で始まります。豪華な扇を背景にキャストがで終わると、・・・? 鼻掛け姿の稲葉屋次郎吉が何かをしでかして逃げて来たのでしょうか。後ろを見て誰も追ってこないのを確認すると頬かむりを取ります。そして、画面を見ている私達に話しかけてきます。(稲葉屋次郎吉はこの物語の案内人というところです。次郎吉「えっへっ、鼠小僧? あっしが・・とんでもねえ、鼠小僧はとっくにお仕置 きになったはずでい。まあ、済んだことは言いっこなしにしましょうや。 ・・えっ?あっしは誰だって?へっへっへ、あっしは江戸の遊び人で稲葉屋 次郎吉ってえんでい。いやなにね、今少々道楽をしているんで、まあ、見 ていておくんなせ・・・おっと、来たようですぜ」というと、次郎吉は素早く身を隠します。 道遠くに四人連れの侍達がやって来ます。藤木道満が又四郎、周平、千左衛門の三青年剣士を従え水戸に入ろうとしていました。すると突然、藤木道満だなと水戸へ入れまいと道を塞ぐ侍達が現れます。藤木道満だなと尋ねられ「わしは仙台黄門、連れは助さん格さん」というと、水戸へ向かうことはさせない、という侍達を後ずさりさせる迫力で進んで行きます。行かせてはならぬと刀を抜いた侍達は簡単に斬られてしまいます。その様子を見ていた次郎吉は、次郎吉「こうなりゃ、いよいよ、ひっこんじぁいられねえ」と言い、仙台黄門の後をつけて行きます。 あとをつけ、祭りの最中の水戸に入った次郎吉は、宿に「仙台黄門様御事藤木道満様御宿」と立札が出ているのを見て、次郎吉「ちきしょう、大きく出やがったぜ」 次郎吉は、藤木道満の何かをねらっているようです。宿の様子を伺おうとしていたときです、「ちょいと、お前さん」という声に、次郎吉の顔色が変わります。振り向くと一緒に暮らしているお悦だったのです。 おえつに、嘘をついて家を出ていたのがわかって捕まってしまい慌ててお悦から逃げるのです。(次郎吉のひょうきんさをご覧ください) その夜、水戸藩家老大島妥女は道満のために同志を集め宴席をもうけました。その席についた竹千代という芸者が、道満が脱いだ羽織と巻物を預かり床の間に置くときに巻物を袂にいれました。お銚子の空になったのを持ち座敷を出て行く竹千代の行動を見逃さなかった道満。「格さんや」と尾岩千左衛門を呼び、助三郎こと高柳又四郎も連れて今の芸者を・・と耳打ちします。その様子を不思議に思った大島に「江戸の回し者だ、今の芸者が巻物を盗みとって行った、・・しかし、本物は道満が持っていたのです。別座敷で竹千代が巻物を広げ偽物と分かったとき尾岩千左衛門と高柳又史郎がやってきます。竹千代は本田左近の使いで道満の内情を探っていたのです。「女、気の毒だったな、出てもらおうそこまで」・・・千左衛門の手が刀の柄にかかった瞬間、「待て」と言う声がして白覆面白装束の本田左近が立ち塞がります。左近は又史郎に道満と縁を切るように忠告します。道満は「左近が現れたことを聞くと「強敵だのう」と言い、「水戸に島田が来ていたな」何か思惑ありげな含んだ笑いを見せます。そして、無念流室賀三太夫の道場に白覆面白装束で現われた道満は”江戸の気まぐれ左近”と名のり、「一手所望」とやってきます。三太夫はこれを受けるが、木刀を置きかなわぬというと「まだじゃ」と言い、道満は三太夫めがけ打ち込みます。三太夫の息は止まりました。室賀三太夫の通夜の席で、本田左近を討つため江戸へ行くと言ったのは島田虎之助でした。 続きます。
2020年03月09日
コメント(0)
しっかりやってくれよ香炉が奪われとんがり長屋に張込む必要がなくなった大作はお艶に思いを残しながら奉行所へ帰っていたのです。与吉が香炉を奪った一味が鈴川道場にいると南町奉行所の伊吹大作に知らせます。お酒を飲んで部屋にこもっている左膳のところへ泰軒が訪れます。投げ込まれた文の差出人の名から大海賊の子孫か豊臣の残党という泰軒に、そんなことはどうでもよい、左膳はどうしたらいいんだというのです。泰軒は左膳に「我々にまかしておけ。大作が」上手くやってくれる」と言います。左膳「大作?」泰軒「伊助のことよ。南町奉行所きっての腕利き、鬼与力と評判のある伊吹大作と は、あいつのことじゃ」左膳「なに、りゃんことは察していたが、あいつが与力だと」泰軒「そうじゃ、すでに手掛かりを掴んでおる」左膳「手掛かり・・」泰軒「そこは商売、一つの手がかりは次のてがかり、今頃は敵の中へ潜りこんでおるじゃろ」左膳「なに、敵の中?・・いってぃ何処のどいつだい」泰軒「これ、静まれ。へたに動くと二人の命がないぞ」左膳「・・・」 泰軒「そのうち、お主の腕が必要になれば、大作が知らしてくれる」左膳「ほんとかい・・・おい大作、しっかりやってくれよ、なっ、ほんとに、頼むぜ、なっ、なっ」与吉が長崎屋に人夫になって潜りこんでいます。荷を積んだ船が明朝出ることを耳にした与吉が、急いで外にかけていきます。長崎屋の近くの材木置き場に店を出しているまんじゅう屋に与吉が来ます。与吉「おい、まんじゅうくれよ」大作「へい、・・どれを差し上げましょう」 与吉はまんじゅうを取りながら大作に「明朝船出をするようだ」と告げます。大作「明朝?」与吉「積荷は食糧ばかりでさあ・・・で、姐御とチョビ安の行方は」大作「先刻潜りこんでみたんだが・・」わからないと言います。大作「夜になったらもう一度やってみるか」 その夜、長崎屋の奥座敷では二つの香炉を合わせて隠されている秘密を解いています。「東海大和の国の南端、黒島の南四十二里の海上にある一孤島なり・・・」財宝のあり場所が解けたとき、安藤上総介がやって来ます。その様子大作と与吉が庭木に隠れ聞いています。財宝をもとに徳川の天下を倒そうというのです。 新助がお藤とチョビ安は明日にでも返しますかと聞くと、返すと秘密の漏れる恐れがあると長崎屋が、鈴川が今夜のうちに消してしまえと言うとここに連れてくるように言います。南蛮人から譲り受けた薬を試してみたいというのです。長崎屋は、薬を兵器として使えるか考えていると言って、ハツカネズミにその薬をかけるとすぐに死んでしまいます。これが人体にも作用するかどうか、お藤とチョビ安で試そうというのです。大輔「わしは二人を助けるぞ、お前は連絡を取れ」与吉はとんがり長屋の泰軒のところに走ります。お藤とチョビ安に薬をかけようとしたとき、大作が小柄を投げ、踏み込みます。 「貴様は」と鈴川が言いますと、大作「南町奉行所与力伊吹大作」 長崎屋の「なに与力、ええい斬れ」で立回りになります。 左膳が走ります、長屋の連中も泰軒と一緒に助けに行くことになります。与吉は越前守に知らせます。奮闘つづける大作、そこに左膳がやって来ます。 左膳「おう大作、今度は俺が一暴れさしてもらうぜ」大作「うん、二人は拙者が引き受けた、さあ、思う存分やれ」 鈴川が左膳に斬られると、安藤上総介や長崎屋は表へ逃げだしますがご用提灯に囲まれます。「余は若年寄、安藤上総介じゃ、不浄役人の分際で無礼であろう」と言い逃れようとしたが、「黙れ」と言う声の方を見て安藤の表情が変わりました。大岡越前守は「上意じゃ・・召し捕れ」といいます。愚楽老人と大岡越前守が、金龍銀竜の二つの香炉を持ち、吉宗に報告に上がっています。吉宗の意向で、財宝は総てを泰軒に一任することになりました。 越前守の邸には、愚楽老人、そして伊吹大作とお艶も来ています。お艶は愚楽老人の養女として、早速、式の日取りを決めようという話になり、越前守「双方に異存はないな」大作「はっ? ・・・はい・・」大作はお艶の方を見ますと、お艶も恥じらいながら大作を見て・・甘―い雰囲気の二人・・・大作は越前守と愚楽老人がいるのを忘れているようでしたが、気が付き平身低頭。 その頃、泰軒、左膳、とんがり長屋の人達は財宝を求めて船の旅に出ました。 (完)
2019年10月25日
コメント(0)
あの香炉は百萬両にもなるしろものだ騒動から少し経った日、伊助が香炉の番をして、一人いるところへ、お艶が泰軒にお礼に・・とやって来ます。大作「おう、お艶さん」戸を開けてお艶は大作を見て恥ずかしそうにしています。お爺さんが元気になったことを言うと、大作がお艶に「上がりませんか」と明るい顔で言います。大作「話して行きませんかね」と言われお艶は、戸惑い・・お艶「はい・・・でも・・」恥ずかしくなり、とっさに外へ飛び出して行きます。(大輔はお艶に心を引かれているようで、お艶も大輔が好きなようですね) 左膳が与吉を掴みあげ、香炉がある泰軒の家へ連れてきます。その家にいた大作を見て与吉が「あれ?」といったので、左膳が二人は知っていたのかと聞いてきます。(左膳に分かっては大変ですよ) 大作は、話をそらし左膳に与吉を連れて来たのをみてどうしたのかと聞きます。左膳は、与吉から香炉の買い手を聞くために連れて来たというのです。一寸の虫にも五分の魂、左膳がやさしくしてくれるなら喋るが、脅かそうと言うなら意地でも・・・と、与吉がここまで行ったとき、黙って聞いていた左膳が刀を握り「なに」と来たから大変。与吉は「言いますよ、言いますとも」と言いながら、大作の方を見ています。大作は、与吉に「言うな」と合図をします。与吉は「分かった」と。 与吉から百両で引取る約束だったが急に取りやめになったと聞いた左膳は、人を喜ばせておいて・・・「どっかの川へ叩きこんでやる」と来たから大変です。大作はびっくりして、与吉にどうにか止めるように合図をします。 与吉からもう一度心当たりをあたってみると聞くと左膳は「まだ脈がある?」と言い飛びついてきます。それを見て大作も一安心、大作「そりゃあそうだろう、変な野郎が何時も狙っているところをみると、どこか 値打ちがあるのかも知れねえな」左膳「ふーん、なるほど、そう言えばそうだな」左膳はその気になりました。表には長崎屋の手下が様子を伺っていました。 その夜、大岡越前守の屋敷に大作が来ています。大作「惜しいところで左膳に阻まれ、残念ながら敵の正体をつきとめることも出き えず・・」越前守は、同も敵の動きを見ていると、こちらの狙いを察知しているように思えると言います。 長屋では、お艶のお爺さんの病気がよくなり、泰軒の大判振舞いで賑やかに宴が開かれています。左膳は家で香炉を抱えて留守番をしています。そこへ文が投げ込まれました。“現物と引き換えに即金百両にて買い受けたい。氷川神社境内で待つ”というのです。みんなのところへと呼びに来たチョビ安に、香炉を百両で買ってくれる人が見つかった、がみんなには内緒にと言って出かけて行きます。買い手は、勿論長崎屋一味やって来たのは鈴川源十郎です。香炉と百両を交換して帰ろうとする左膳に、我々の仲間に入らないかと声をかけますが、左膳が断ると「後悔するぞ」といってきます。チョビ安から話を聞いた泰軒が左膳を追いかけ行ったのを見計らって、黒装束の一味がお藤とチョビ安をさらって行きます。泰軒が左膳を見つけたが、左膳は百両を手にしていました。泰軒は香炉を打ったのかと聞き、百両で売れたと喜ぶ左膳に、「馬鹿者、あの香炉は百萬両にもなるしろものだ」と言い、左膳が驚いているところへ、お艶がお藤とチョビ安が曲者にさらわれたと知らに来ます。左膳は狂気したように深夜の通りを二人の名を呼びながら駆け巡ります。 続きます。
2019年10月15日
コメント(0)
やつぱり、睨んだとおりだな隣の爺さんの娘が身売りをしなければ・・と泰軒が話していた作爺さんのところへ半助という男が、娘を連れていくのが嫌なら金10両耳を揃えて返せと怒鳴り込んでいるところへ、とんがり長屋に来たばかりの大作(伊助)が、中に入ってきます。大介「まあまあ、まあ、えっ、そう言わずによ、爺さんもこんなに頼んでいるじゃ ねえか」 「てめえは何のようだ」といってきた半助に、大作「それに何分、相手は病人のことだから」という大作に頭にきた半助は「金でも持って来ればともかく、てめえなんかすっこんでろい」と大作をつこうとして交わされ、やる気かと向っていきますが、大作に腕をとられやり込められたところで、泰軒が「10両を渡せばいいんだろう」と半助に握らせます。 作爺とお艶は、大作に礼を言い、所と名前を・・と言うと、泰軒が「心配無用、この男は、今日からわしのうちの居候になる男だ」と話します。お艶が「このお方が」といいますと大作「へえっ、拙者・・」お艶「はあ?」大作「・・いえ、うんそのぅ、伊助ってもんで、どうぞよろしく」お艶「こちらこそ」すると、お艶が恥ずかしそうに言い、大作も「はあ」と・・二人の間に一目惚れでしょうか・・恋が芽生えたようです。 その夜、長崎屋が動き左膳の家を襲います。物音に気付くのと同時に黒装束の一味がかかってきます。その物音で、大作が飛び起き急いで外に出ますと、左膳と黒装束一味の大立回り、泰軒も手伝います。 その隙に、一人が香炉を奪い逃げていきます。お藤とちょび安の「香炉が・・」と言う声に大作が賊を追いますが、香炉は次から次へと渡され、大作も香炉を取り返すことがなかなかできませんでしたが、追い詰め刀を握ればさすが大作、相手が香炉の箱を落としたとき取り返すことができました。 一味は手傷を負って退散します。その後を追おうとした大作は、「おい、待て」と賊を追いかけて来た左膳の声で立ち止まります。左膳「てめえの、仕業だな」大作「違う」 左膳は大作に向かって斬り込んで来ます。身をかわす大作に、左膳「やつぱり、睨んだとおりだな」大作「違う、おぬしの勘違いだ、刀を引け」左膳「引かぬと言ったら」大作「ちぇっ、仕方がない、黙っておぬしに斬られるわけにもいくまい」左膳が容赦なく斬り込んできます そこへ泰軒が「いいかげんにせんか」と仲裁に飛んで来ます。泰軒が大作に目で合図をすると、大作も目で解ったというように合図をし、かかえていた香炉の入った箱を下に置きます。泰軒が左膳に、「これなら文句はないだろう」と言うと、左膳が「返すぐらいなら初めから盗まなきゃいいじゃないか」と言ったので、大作「聞き分けのないやつめ」 大作が左膳に、自分が盗んだのではない、取り返してやったのだ」と言いますが、左膳は何とでも誤魔化せると言い信用しません。そこで、大作は左膳が納得するように話をします。大作「では、この刀を見ろ。これは曲者から奪い取った刀、またこの血は曲者の血 だ。お主への言い訳だけでこんな芝居ができるか」左膳「うーん、すると・・おめえに礼を言うのが・・」泰軒「当然じゃが、まっいい、固いことは言わずに手を握って仲直りせい」左膳は単純ですから、左膳「うん?・・うん、おい、俺が悪かった、(刀を鞘におさめ)勘弁してくれ」と、握手を求めていきます。大作も、刀を捨て、笑って握手に応じます。そして大作「だが、お主は強い」左膳「こっちこそびっくりしたぜ。俺の太刀先をかわすとはなあ」大作「かわさなきゃ、こっちの命がなくなるよ」 左膳「ところでおめえ、何者だ」大介「いやあ、拙者、鳶職の伊助だ」左膳「えっ、拙者?」大介は言葉が出ずにいると、泰軒が「また、拙者か」と言い、三人は大笑いします。 ずっと様子を陰でうかがっていた長崎屋と鈴川がいました。「一筋縄ではいかぬ相手だ」という長崎屋に、「心配することはない、手はいくらでもある」という鈴川です。 続きます。
2019年10月01日
コメント(0)
鳶職の伊助ってもんでえ 大岡越前守の屋敷から越前守の娘弥生が弾くことの音が聞こえています。伊吹大作が越前守の帰りを待っている間、弥生の琴を聞かされていて、退屈している様子でいます。 弥生「うっふん、聞き飽きたの」大作「いえぇ、・・決して」 弥生「そうかしら、さっきからもじもじしてたくせに」大作「いやぁ、そのぅ、・・もしお奉行さまのお帰りが遅いようであれば、失礼い たそうかと」弥生「どうして?」大作「はあ、いやそれは・・夜分お嬢様のお部屋に、あまり長くいることは」弥生「いいじゃないの。それとも誰かに」大作「はあっ?」 弥生「お父様のことなら心配いらないのよ」と大作に言っているとき、越前守が廊下に立っているのを、大作が気が付きびっくりしたような顔をしますと、越前守は、大作に「言うな」というように首を横に小さく振ります。大作も「わかりました」と言うように。 弥生は、そんなことに気が付かず、「お父さまは、絶対に私に頭が上がらない」と。そして、越前守が立っているのに気づきます。(弥生は大作が好きなようですが、大作にはその様子はありません) 越前守は大介と別室に行き、愚楽老人の話では、銀竜の香炉を奪ったのは、豊臣の残党らしい、と話をします。「張竜鬼の財宝を軍資金にでも・・」と大作が言うと、「与吉を追いかけた一味もその者達の後裔と思われる」と越前守が言います。 大作「されば、金竜の香炉を渡せば、大変なことに」越前「それで愚楽老人とも相談したのじゃが、丹下左膳とか申す男の手元に今しば らく置いて、網を張って敵の正体を掴む」大作「なるほど」その時、廊下の方に人がいる様子を感じた大作が、小柄を投げます。すると、その小柄を手に持ち現れたのは蒲生泰軒です。 大作「何奴」越前「待て、わしの友人じゃ」大作「はあっ?」 話を聞いていた泰軒は、出来れば張竜鬼の財宝を手に入れたいと言います。泰平の世を維持するにはもう少し金が欲しいというのです。この金詰まりでは貧乏人はますます増え世の中は険悪になる一方・・そして、実は隣の爺さんが病で久しく寝込んでいて薬代に困って、娘が身売りをするところまでいっている、と越前守に融通してもらいたく来たようです。愚楽老人が越前守にお願いしたことは、城内に入れた間者により長崎屋に筒抜けになっています。若年寄の安藤上総介は長崎屋と鈴川一味の仲間のようです。蒲生泰軒と越前守は伊吹大作を鳶職に仕立てて長屋に居候させ、香炉を狙う一味を探ることにします。泰軒が大作を連れてとんがり長屋に帰ってきます。泰軒が左膳に紹介します。泰軒「おう、左膳、この男は今日からわしのうちの居候じゃ」大作「へえっ、鳶職の伊助ってもんでえ、よろしくお願いいたしす」 左膳「鳶職?」大作「へぇっ」と言うと、濡れ燕に手をかけたので、大作は後ろへ下がり身構えます。 暫く、そのままじっとしていましたが、左膳が笑い出しその場は何事もなく済みました。 続きます。
2019年09月21日
コメント(0)
橋蔵さまはこの作品で初めての同心役、越前守の腹心、伊吹大作役で丹下左膳二回目の出演です。同心役は、私の記憶では、この作品と「まぼろし天狗」の兄弟二役で弟の方で同心役を演じただけだと思います。大工になって長屋に入り込み活躍する伊吹大作。例のごとく最初の左膳との対決場面、そして悪党一味に立ち向かう立回りは、見ていて気持ちのよいものです。大友柳太朗さんの丹下左膳と気の合ったコンビぶりで、迫力にとんだ数々の場面をみせる娯楽時代劇です。◆第45作品目 1959年1.月封切 「丹下左膳 怒涛篇」 丹下左膳 大友柳太朗徳川吉宗 里見浩太朗お艶 桜町弘子弥生 大川恵子お藤 長谷川裕見子鈴川源十郎 山形勲鼓の与吉 多々良純長崎屋重兵衛 三島雅夫安藤上総介 宇佐美淳也三吉 杉狂児源三 富田忠次郎速見左兵衛 神田隆半助 沢村宗之助作爺 左卜全蒲生泰軒 大河内傳次郎愚楽老人 薄田研二大岡越前守 月形龍之介伊吹大作 大川橋蔵 大昔の支那の大海賊がその財宝のすべてを隠した場所を記す青銅の一対の香炉をめぐり、その財宝で江戸の天下を転覆させようとする豊家の残党・鈴川源十郎らと大岡越前守の配下の名与力伊吹大作らとの香炉争奪戦が行われる。その香炉の片割れが丹下左膳のもとに転がり込んできたから、さあ大変。その片割れをめぐって、源十郎一派、越前守一派、丹下左膳が乗り出しての結末は・・・密貿易の割符をめぐって、火花をちらし、大陰謀をたくらむ旗本一派を絶つという人気の丹下左膳シリーズ”怒涛篇”。おまかせくださいその昔、長崎で処刑された海賊の頭目が明の国へ持ち帰った青銅の香炉が、金竜、銀竜の一対のもので双竜の香炉と呼ばれている。珍しいものなので時の長崎奉行が上様に献上したものであるが、途中行列を襲った者がいて一つの香炉が奪い去られた、と聞いていると、一つの金竜の香炉を前にして、将軍吉宗に愚楽老人が話をしています。すると、吉宗が、一対のものであると思って、日光造営を遂げた柳生対馬守に与える約束をしたと言うのです。愚楽老人は、それだけではない、双竜の香炉には大きな謎が秘められている、というのです。その頃、銀竜を持っている大海賊の子孫長崎屋重兵衛と徳川幕府を倒すことが門敵の豊臣の残党鈴川源十郎が手を組んで金竜の香炉を手に入れんと結託していました。金竜の香炉は伊賀の柳生にやることになったらしいので香炉を奪うにはまたとない機会という鈴川に、ただ町奉行の大岡越前守は油断のならぬ人物であるから悟られないようにと、長崎屋は手下たちに言います。その大岡越前守の屋敷では、越前守が、同心伊吹大作を呼び内々に話をしています。金竜の香炉は、柳生と一旦約束されたものをいまさら引っ込めるわけにもいかず、一先ず香炉の行列は伊賀へ向かって出立することになった、と言うのです。大作 「では、なれ合いの上、それを奪い取るということで」 越前守「うん、だが・・」極秘のことなので友侍の末端まで知らすわけにもいかない、越前守「・・といって、おぬしやわしが乗り出すわけにはいかぬ。・・そこで、失 敗しても差しさわりのない人間といえば」大作は、越前の言う意味がすぐに分かり明るい顔で大作 「わかりました、おまかせ下さい」 伊吹大作は、牢獄に入っている鼓の与吉を釈放します。大作 「わしの言ったこと、分かっておるか」与吉 「へえ」大作 「万一の場合は、拙者が上手く取り計らってやるが、圏外の者達は存ぜぬこ とゆえ十分に気を付けろよ」与吉は、「まかしときなって」と。 伊吹大作に与吉が支持された品川の宿はずれです。公儀御用の木箱を乗せた駕籠を守って行列がさしかかります。近づいて来る行列の様子を茶店から見ている長崎屋一味の侍達がいる前を、道中姿のなりをした与吉が通り過ぎていきます。行列に膝まづいていましたが、突然何かを投げつけますと凄まじい音と白煙で駕籠はバラバラになり、その隙にまんまと木箱を持って逃げて行きます。木箱を守っていた共ぞろいの者達が追いかけます。すると、茶店で様子をうかがっていた長崎屋一味の侍達も動き出します。ともぞろいの者達をうまくかわして行ったところで、怪しい侍達に今度はしつこく追いかけられます。逃げ込んだのはとんがり長屋の姐御と呼ぶお藤のところでした。お藤に牢から早く出られたじゃないかと聞かれ、与吉はこれのおかげでと言い、ある所へ持って行くと百両になると言うのを、屏風の向こうで左膳が聞いていました。これは大変と急いで出て行こうとしたとき、侍達が押しかけてきますが、左膳に助けを求め、その間に与吉は表へ逃げます。神社の境内で甘酒を打っているちょび安に木箱を一寸預けたのが間違いでした。親のないちょび安を養子にした左膳のもとへ木箱に入った香炉も転がり込んだのです。 続きます。
2019年08月31日
コメント(3)
汝も武士なら名を惜しめ 陣馬弥十郎の泊まっている旅籠に宗次郎が訪ねてきます。弥十郎は早速、京都の様子を宗次郎に聞きます。所司代は四千両盗難のことをひた隠しにしているので噂はたっていないこと、直接関係のないことだが、二条城に押し入ったとき弥十郎が斬った相手は三輪与一郎という二条城の番士で、弟の滝太郎が雪江という許婚と仇討のためにやってくること、一刀流の使い手の浅香恵之助というもう一人の番士が姿を消していて、所帯を持っているお駒が鳥追い姿で東海道を下がっていると聞き、弥十郎は昼間会っている虚無僧だと確信します。鏡月院に言い寄るが相手にされない倉地要は、鏡月院の部屋から小判を盗みます。恵之助の部屋、倉地から逃げて来た鏡月院に、いやな思いをしたので尺八の音を聞かせてほしいと頼まれ吹いていると、外から尺八の音に合わせて引くお駒の三味の音が聞こえてきました。恵之助は京には帰らないというお駒に、これからは表向きは赤の他人だと・・二人は別れます。部屋に戻った鏡月院は小判が盗られているのに気が付き、知らせに行った先は陣馬弥十郎のところでした。倉地は同僚の日下部孫八と宗次郎に呼び出され裏切り者と斬られ、倉地が盗った小判を拾い二人が逃げるところを見ていた恵之助は、死体の傍に落ちていた一枚の小判が盗難品であることを知るのです。大井川を渡る人達で賑わっています。恵之助は急用のため先に行くという弥十郎と別れます。あとから川を渡っていた滝太郎が虚無僧を見つけます。恵之助は先に川を渡っていたお駒にあとからくるように言い、弥十郎のあとをつけ先を急ぎます。その恵之助を追ってきた滝太郎がお駒の姿を見て追いかけます。 滝太郎「あれは確かにお駒さんだな・・とすると、あの虚無僧は・・・」 滝太郎と雪江が恵之助を追っていきます。滝太郎「浅香恵之助、待て」 恵之助「おう、滝太郎殿ではないか、どうしてまた、かようなところへ」滝太郎「嘘偽りのないところを、お聞かせ願おう。京出発の前夜、お手前お城の堀 端で人を斬られたか」恵之助「如何にも斬った」滝太郎「確かに斬られたか」恵之助「斬った、が、しかしそのものが」 滝太郎「問答無用、覚悟せい」 恵之助「なにをする」滝太郎「兄与一郎の仇」恵之助「なに、与一郎の仇」滝太郎「胸に覚えがあろう」 恵之助「いや、ない、断じてさような覚えは」滝太郎「言うな」と言い、斬りかかっていきます。 恵之助「まっ、またれい。なるほど、拙者はあの晩堀端で人を斬った。斬ったがそ れは与一郎殿ではなかった」滝太郎「ええ、まだほざくか」雪江 「卑怯者」 二人が打ち込んでいきます。恵之助は打ち込んで来た雪江の手を掴むと滝太郎に「間違えでござる、拙者は断じて・・」と言いますが滝太郎「黙れ、汝も武士なら名を惜しめ」 恵之助「されば、さればどうあっても」というと、捕まえていた雪江の手を払いのけ、恵之助「やもおえん」と言い尺八でかまえます。滝太郎は斬り込んでいきますが、恵之助の腕にはかないません。滝太郎の剣は空を切り、打ち込まれ刀を落してしまいます。 恵之助はその滝太郎を見て、「委細は後日、江戸の拙宅にて」と言い残し、さきを急ぐ恵之助を滝太郎が追って行こうとしたとき、お駒が立ちはだかります。「斬るならあたしを、あたしをお斬りなさいまし」捨て身で迫るお駒に、滝太郎と雪江は恵之助を追うのを止めるのです。 続きます。
2019年03月19日
コメント(0)
すぐさまあとを追いかけて猜疑を確かめたい 三輪滝太郎のところに氏家宅弥が雪江とやって来ています。恵之助は三日も姿を見せないし、お駒までが姿を消したということは、逐電は疑いのないこと、「ひょっとすると下手人は」と宅弥が言いますが、宅弥も雪江も恵之助に限って・・と半信半疑なのです。滝太郎は、武士として、兄弟としてこのままには出来ない、「すぐさまあとを追いかけて猜疑を確かめたい」と言います。 宅弥が雪江をお供させると言いますと滝太郎「それには・・」宅弥は遠慮はいらぬこと、この秋には祝言をあげる間柄なのだから、旅を共にし生死を共にしても誰にも隠すことはない、宅弥 「拙者は兄として、是非ともそうしてほしいのだ」じっと滝太郎を見つめる雪江を見て、滝太郎「ご配慮の程、痛み入ります」 滝太郎は宅弥の申し出を有難く受け入れます。 宅弥 「では、承知してくれるのだな」滝太郎「ただし、祝言の儀は、この一件の落着まで」宅弥は、それまで待とうと言い、雪江に帰って支度をするよう言います。宅弥に恵之助の行先の見込みはと聞かれ、滝太郎は、東海道江戸へ向かったと思われるといいます。 浅香恵之助は虚無僧姿で尺八を吹き行脚して江戸へ向かっていました。恵之助はある一座の格好で旅をしている者達に目をつけていました。茶店によったとき、美しい謎の女鏡月院が、尺八が素晴らしかったと声をかけてきました。そこへあとからやって来た男と鏡月院が知っているかのような雰囲気を恵之助は感じとりました。茶店であった男は陣馬弥十郎と名乗る剣客で、恵之助に東を目指して行くのならご一緒しようと近寄ってきます。道中腰の刀の話になり弥十郎が、恵之助の後ろにまわったとき、つけていた印籠を見て顔色が変わったのを見逃しませんでした。深夜、宿で恵之助の部屋に印籠を盗みそこなった黒いねずみがいました。お駒も恵之助を追って鳥追い姿で江戸へ、滝太郎と雪江の二人も恵之助を追って江戸へ向かっています。滝太郎の草鞋の紐が緩んだようです。雪江 「わたくしが」滝太郎「いや、それには」雪江 「いえ、わたくし、わたくしがいたします」滝太郎「すまん」雪江 「何をおっしゃいます」 滝太郎「先を急ぐ道中ゆえ、疲れたであろう」雪江 「いいえ、ちっとも」雪江は、滝太郎と一緒にいられるのが嬉しそうです。 滝太郎「祝言も挙げぬうちから、何かとそなたに苦労させるな」雪江 「お止めなさいまし、さようなお言葉はこれから二度と・・」滝太郎は雪江に頷き、二人の間は近くなったようです。 大井川近くまで来たとき大雨になり、滝太郎と雪江が雨宿りに入った軒下に、先に雨宿りをしていた宗次郎がいました。この宗次郎は、三輪与一郎が遺体で上がったところにも、お駒が遠藤但馬と恵之助のことを話している時にも様子を窺っていた男です。宗次郎が声をかけてきます、「この空模様じゃ、長雨になりそうでござんすね」・・・宗次郎「先をお急ぎになったって、大井川は昨日から川止めでござんすよ」滝太郎「川止め」 東から来た者に聞いたのだから間違いはない、三日位は水が引かないと聞き、困ってしまうのです。お駒も近くで雨宿りをしています。 続きます。
2019年03月12日
コメント(0)
前回の大川橋蔵主演、市川右太衛門が共演での「濡れ燕 くれない権八」に続いて今回は市川右太衛門主演、大川橋蔵共演で送る「修羅八荒」の作品になります。行友季風原作の「修羅八荒」は各映画会社で作られていたもので、東映では1952年に市川右太衛門主演、比佐芳武脚色で制作されています。今回は脚本も同じく比佐芳武によるものでリニューアル版といったところです。橋蔵十八番の若衆が重厚右太衛門と激しく演技の火花を散らします。三輪滝太郎は重要な人物なのですが、この「修羅八荒」は主演が右太衛門御大ですから、そこは仕方がないといったところでしょう。二条城の闇に消えた四千両行方と三輪与一郎の下手人を求めて、旅を急ぐ浅香恵之助と三輪滝太郎の波乱に満ちた日々を、右太衛門と橋蔵はそれぞれの個性に満ちた演技で描きだした時代巨篇です。右太衛門御大と共演した橋蔵さまは、迫真の個性にあふれた演技で、人間修羅、愛憎の悲劇を描きだして、独自の境地を開きました。「僕にとって勉強のひとつになります」橋蔵さまの胸には、深い感激があったようです。丘さとみさんが本格的相手役として橋蔵さまの許婚者雪江の役で出ています。やっとこの作品で実現しました。丘さんポチャっとして可愛いです。橋蔵さまの若衆髷姿は「修羅時鳥」にちょっとだけ回顧シーンで見られましたが、若衆髷のままでの作品はこの時だけになります。(ビデオフィルムが傷んでいたため、画像の質ががあまりよくありません。少し修正はしてみましたが、画像の色彩が一定していませんが、雰囲気だけでも感じとっていただけたらと努力してみました)◆第42作品目 1958年11月封切 「修羅八荒」 浅香恵之助 市川右太衛門雪江 丘さとみ江戸節お駒 雪代敬子お蘭 花園ひろみお紺 日高澄子鏡月院 花柳小菊陣場弥十郎 大河内傳次郎松平安芸守 山形勲日下部孫八 加賀邦男倉地要 原健策氏家宅弥 尾上鯉之助板倉内膳正 柳永二郎宗次郎 徳大寺伸遠藤但馬 香川良介松五郎 阿部九州男半次 渡辺篤三輪滝太郎 大川橋蔵京都所司代、二条城の御金蔵から、御用金四千両が煙りの如く闇に消えました。御金蔵破りの汚名をそそぐべく、行方を求めて江戸表へ旅を急ぐ浅香恵之助と三輪滝太郎の波乱にみちた苦難の道。残された手掛かりはただ一つの印籠です。四千両奪還、江戸へ嵐の夜、黒装束大勢の盗賊がお堀から二条城を狙って入り込もうとしています。その二条城の勤番部屋では、三輪与一郎と氏家宅弥が浅香の掘出し物の刀のことで言い争いをしています。そこへやって来た浅香恵之助が三輪与一郎に刀をあらためるように差し出しますと、与一郎は刀の鑑定はどうでもよい、朝香恵之助そのものが気にくわないというのです。歌舞音曲に熱中し、江戸から芸者風情を連れて来ての恵之助の行状が直参旗本の面汚しだと言います。そのことは認めるが、務めを怠り、武士の性根を失ったことがあるか、という恵之助に「ある」という与一郎。恵之助の「いつ」「申されい」と言う問いに、言えなく困っていた時、太鼓が聞こえ務めの時間が終わります・・与一郎が恵之助に大手門前の堀端での果し合いを挑んで来ます。しかし、恵之助は裏から退出してしまいます。その頃、四千両が盗まれていました。恵之助を待つために堀端にいた与一郎は、盗賊達の姿を見つけますが斬られてしまいます。裏から出た恵之助は闇討ちにあいますが、相手を傷つけ難をのがれます。翌朝、三輪与一郎の死体が堀からあがり弟の滝太郎が許婚の雪江と駆けつけます。 恵之助のところにおじの遠藤但馬から、番所組頭として四千両を盗まれた責任を取るとの書状が届き、恵之助は登城します。そこで、板倉内膳正から曲者の詮議、四千両の奪還、背後で糸を操る者の正体を明らかにすることの命を受け内密に江戸へ出立することになります。唯一の手掛かりは、落ちていた剣かたばみの定紋入り印籠だけでした。三輪家の一部屋では、滝太郎が氏家宅弥に何かを聞いています。滝太郎「拙者はやがてお手前様の義弟となる者、隠さずに言っていただきます。 昨夜ご城内で兄上と、浅香殿が口論に及んだことは事実でございましょ うか」誰から聞いたのだ、という氏家に滝太郎「田宮様です。田宮数馬様が先ほどお悔やみに見えられて」 田宮がそのように申したならば、これ以上隠し立ては出来まいと氏家が話します。口論になり果し合いに及ばんとしたことは事実であるが、浅香氏は与一郎殿の挑みには応じないで、別の門から・・と話を聞いていた滝太郎の感情がだんだんと・・そこまで聞いたところで、滝太郎は「暫時、失礼いたします」と席を立ちます。 氏家が「何処へ行く」と言いますと、滝太郎「ご心配にはおよびません、本日のところ拙者、事の真相を確かめたいだけ の存念、万一にも浅香殿が下手人と決まれば、後日改めて作法通りの対決 をいたします」と言って出て行く滝太郎を、氏家宅弥と雪江が心配そうに見ています。 その滝太郎は浅香恵之助の住いに行っていました。滝太郎「あっ、浅香殿はご在宅か」お駒 「只今出かけておりますけど」滝太郎「いずれへ参られた」お駒 「それが、今朝ほど早くお城へ上がりましたっきり」滝太郎「ところが、お城には見え申さぬ」お駒 「では、あの、おじ様の」滝太郎「但馬様のお屋敷にも参っておらん」そう言いイライラしている滝太郎は、部屋の方に目をやると、滝太郎「失礼いたす」と言い、部屋の中を見てまわり留守を確認すると滝太郎「恵之助殿お帰りのせつには、三輪滝太郎が、ちとお聞きしたいことがあり 推参いたしたとお伝えください。ご無礼は平に」滝太郎が帰っていったのを確認すると、お駒は恵之助を探しに通りまで出たとき、家を訪れようとしていたおじの遠藤但馬に会い、恵之助は深い仔細があり旅に出て、行先は江戸だと聞かされます。 続きます。
2019年03月07日
コメント(0)
青空の下、江戸を発つ駕籠行列司馬道場では源三郎が門弟に稽古をつけています。次々と向って行くのですが太刀打ちできません。・・・「次」・・の声に源三郎の前に出て来たのは萩乃です。が、かまえた源三郎は気がつきません。ちょっとしてよく見ると・・・源三郎「おう、お前は」 萩乃 「だって、一人でいてもつまらないんですもの」源三郎「だが、女だてらに、木刀をふりまわすことは」萩乃 「いえ、私も司馬十方斎の娘です」源三郎「よーし、教えてやろう」 萩乃は押し返されたとき、とっさにかまえたのを見て、「ほほう、不知火十方流木立のかまえ、なかなか筋がいいぞ」 そこへ国表から早籠でやって来たということを知らせにきます。田丸と大之進は、一大事が・・源三郎から頂き持ち帰ったこけ猿の壺が偽者だったことを伝えます。居酒屋で左膳にこけ猿の壺が偽者であったということを話します。「俺が怪しいというわけかい」という左膳に、源三郎「おぬしのことは信用している。だが、おぬしにも考えてもらいたいのだ」 そこで左膳が考えだします。与吉はそんなこはずはない、お藤、ちょび安、それから・・「あっ」 左膳 「分かった、あの乞食野郎だ」源三郎「乞食野郎?」左膳 「そうよ、泰軒だよ」源三郎「ううーん、蒲生泰軒。そう言やあ、あのとき・・」 左膳 「そうだろう、掏り変えられたとしたらあの時だい」源三郎「なるほど」左膳は、泰軒はちょび安の守り袋をとったことをいいますと、源三郎が、先夜ちょび安をさらおうとしたのは、峰丹波の一味であったことを左膳に話します。左膳 「そうかい。・・・俺たち二人が手をくんでりゃ、野郎ら手の出しようがね えだろうがな」源三郎「そこで、ちょび安をさらって、おぬしの力を削ぐ」左膳 「なるほど、俺の弱みはちょび安かい。(にっこり笑って)・・すると、おぬ しの弱みはさしずめ萩乃さんというところだなあ」源三郎「萩乃か、はっはっはっはっ・・(笑っていましたが、急に不安が)・・・萩乃・・・」 左膳が家に帰るとお藤が縛られていて、ちょび安が連れて行かれていました。源三郎もいい気分で家に帰ると萩乃がいません。机に峰丹波からの書状がありました。萩乃の身柄を一先ず預かった、萩乃が心配ならば、根岸の別邸まで一人で来い、他の人には知らせるな、伊賀の一党を連れてきた時は、萩乃の命はない、とありました。源三郎「しまった」 左膳はちょび安がいなくなったことで司馬道場へ、萩乃が捕まり源三郎が単身根岸の別邸へ行ったことを知り、ちょび安も峰丹波がさらったなと、一目散にと飛び出して行くのです。雷が鳴り嵐になってきました。根岸別邸には源三郎が来ています。お蘭 「ひどい嵐になりましたこと」源三郎「無事におさまりますかな」 お藤「さぁっ」と言って笑い・・・侍女に毒身をさせた酒を勧めます。隣の部屋には峰丹波一味が様子をうかがっています。源三郎は丹波の来るのを待つのに、お蘭がすすめる酒を飲んでいましたが・・・侍女が酒を持ってきたとき、苦しむのを見て 源三郎「さては、謀ったな」(源三郎さん、左膳とも相当飲んでいたし、お酒に弱いのだし、萩乃さんが心配なのだから、そんなに飲んじゃいけないのに) その頃、伊賀の安積達や泰軒の知らせで町方も根岸へ急ぎます。お蘭は、源三郎に毒ではない、痺れ薬を入れたのだ、このまま帰すわけにはいかない、すると待機していた丹波一味が現れます。源三郎は、痺れがまわって倒れてしまいます。丹波は、萩乃をたてにこけ猿の壺と道場の実権を得るよう談合しようと思っていたが、こうなったら殺すほかはないと、一味が刀を抜いて近寄って行ったとき、不気味な笑い声をたてる源三郎に、丹波たちは後ずさりします。そして、源三郎が顔をあげると斬りかかっていきます。しびれ薬で体が思うようにならない源三郎ですが、そうは簡単にはやられません。 源三郎「やい、丹波、とうとう姿を現したな。・・・柳生流秘伝、”不破の関守” どうだ・・やぶれるかな」 丹波が「流石は伊賀の暴れん坊、やせ我慢も相当なもんだ。さらば、不破の関守、通ってしんぜよう」とかかり、立回りになります。そこへ左膳が到着、源三郎との大立回りに・・・勝ち目がなくなった丹波は、萩乃とちょび安を助けたければ十数えるうちに刀を捨てろと言います。そして、「九つ」と言ったとき、口惜しいが刀を捨てます。 そのとき、安積達伊賀の侍達がやって来ます。左膳と源三郎も刀を拾い応戦します。退散する丹波一味の前には町方が、後方には伊賀一門が、・・捕えられました。ちょび安は守り袋から、柳生対馬守の御落胤と分かりました。数日後、大岡越前守の計らいでこけ猿の壺とちょび安を対馬守のところへまで届ける駕籠行列が青空の下江戸を発ちました。源三郎と萩乃が一緒です。左膳、お藤、与吉、泰軒達が見送ります。 源三郎と萩乃がそれに手を振って答えています。それにしても仲の良い二人ですね。(源三郎の手を掴む萩乃の自然な仕草、橋蔵さまとひばりさんのコンビでなくては出来ない自然な仕草ですね。とっても良い感じ!!) (完)
2018年05月23日
コメント(0)
萩乃殿と道場を申し受けました源三郎が星の流れるのを見て、芝の十方斎がなくなったのでは・・という心配は本当でした。斎場の準備も出来、民衆が集まってきて撒き銭が行われようとしています。その中にたった一つ、萩乃が「御礼」としたためた包みがあり、それを拾った人は、一同の代表として中でご焼香ができ、萩乃からのご供養があるというのです。撒き銭が始まります。民衆がそれを取ろうと必死になっています。二つ目の三方の銭を撒いているとき、馬に乗った侍達が、民衆の中に入ってきます。白馬に乗って先頭にいるのは、柳生源三郎です。 源三郎「司馬道場の人と見てお訊ね申す。柳生源三郎、只今国表から当直いたしま したるに、お屋敷の内外この騒ぎは何事でござーる」 柳生家とは何の関わりもない通りすがりの方と見た、不幸があって当道場のしきたりで銭を庶民に撒いている。勝手ながら他の道を通るように、という峰丹波です。最後の三方になります。丹波「これが打ち止めのひと巻き」と言って、源三郎の方をめがけて投げます。 御礼と萩乃のお札を拾われた方は奥へ案内するという声がかかりますが、民衆の中からはその声はありません。「あるぞ。この包、御礼とあるぞ」と言ったのは源三郎です。 お経があげられている斎場には、萩乃とお蓮が・・そこへ丹波がやって来て、お蓮に目配せをします。入口に源三郎が・・祭壇を見つめる源三郎・・・案内しようとする方には行かず、祭壇の前にまっしぐらに進みます。 一礼をして持参した刀を焼香台の上に置きます。そして読経のなか、祭壇の十方斎に向い(大きな声で)述べ始めます。源三郎「義父司馬先生の御霊に物申す。・・生前にお目にかかる折がなかったこ と、伊賀の柳生源三郎深く遺憾存じまする。実は我ら、早くより品川に 到着いたしおりましたが、ここ道場内の一派の策動に妨げられ、只今 やっと参りましたるところ、先生におかさられてはすでに幽冥境を異に され、痛恨の極みに耐えません。・・・しかし、遅ればせながら婿源三 郎、確かに萩乃殿と道場を申し受けました。礼を供えしましたが、柳生 家の寵、鉢我不動の名刀、婿引出のしるしにござる」 萩乃はじっと源三郎を見つめていました。 夫婦になった源三郎と萩乃のいる司馬道場に、丹下左膳はちょび安を連れて毎日のように来ているようです。 萩乃とちょび安が庭に、左膳と源三郎は部屋で一杯やっています。 左膳 「おい、なかなかいい嫁御了じゃねえかい」 源三郎「うん、いいぞう、俺には過ぎたる花嫁だ」 左膳 「おい、手放しは勘弁しろよ」 源三郎「うん?」 二人は大笑いをしていますと、萩乃が「楽しそうですわね」とやって来ます。 萩乃 「何を話してらっしゃったのですか」 急に二人の口が重くなり、慌ててた様子で 、源三郎も「いや、そのう、実は、お、おまえの、・・・・」と口ごもってしまっています。 萩乃 「あたしの悪口?」 ちょび安「悪口じゃねえよ。褒めてるのに決まっているじゃねえか」 ちょび安は左膳が言っていたことを話します。 「あの源三郎は、鼻の下が長すぎる」・・・源三郎「えぇっ」と言うと左膳を睨みつけるのです・・・(こんな顔でね) ちょび安が萩乃に 「全然まいっているんだってさ、勿論おばさんにだよ」 と言いますと、左膳が「これ!」と言ってちょび安を制止ます。「だーってお父上自分で言っただろう」とやりこめわれます。ちょび安の言うことには敵わず、みんなで大笑いする様子を見ていたお蓮は丹波に、手を加えて見ているつもりかと。丹波は二人にも弱みはある・・左膳にはちょび安、源三郎には萩乃がいるというのです。左膳 「あっそうそう、ところでおめえ、金のほうは」源三郎「おおぅ、すっかり失念しておった」 左膳 「おい、大丈夫かい」 源三郎「はっはっはっ、心配するな、ちょうど大之進が国表へ着いた頃だ。 そうだ、わしも兄上から少々いただかんと、日光御改修がどれほど掛かろ うとも、なにしろ百万両、百万両だからなあ」 左膳 「うーん、百万両なあ、百万両ものが二百両かい。おい、もうちょっと高く ふっかけてやるんだったな」 またまた大笑いをする二人です。 髙大之進が、こけ猿の臺をもって柳生対馬守のところへ帰ってきました。早速二重底になっている臺を開けてみますと百万両が隠してあるところを書きつけたような書きつけがはいっていました。対馬守自身で開いて見て、何も言わず出て行ってしまいます。 偽壺だったのです。 泰軒があの時掏り変えた本物の壺は、大岡越前守のところにありました。愚楽老人から将軍吉宗の意向を聞いています。大名に余分な金を持たせるのはよくない・・・柳生家に壺を返すのはよろしくないというのです。 その頃、泰軒はちょび安が黒覆面一味にさらわれるところに出くわし、ちょび安を助けます。その足で、待っている大岡のところへ、その時拾った由緒ありげな守り袋が気になり、同席していた愚楽老人に調べてほしいと言います。 司馬の屋敷では 、源三郎と萩乃が、楽しそうに縁側で話をしています。思い出し面白そうに笑う萩乃・・ 萩乃 「面白い子」 源三郎「誰が」 萩乃 「ちょび安さん」 源三郎「ああ、あいつには勝てん。あの源三郎の奴は鼻の下が長すぎる、全然ま いってるんだってさ、勿論おばさんにだよ・・・とくるからなぁ。 はっはっはっはっ」 萩乃が笑っていますと、源三郎は萩乃に真面目な顔をして言うのです。 源三郎「だが、本当のことだ」 その言葉を聞いて萩乃も、源三郎の傍に座ると 萩乃 「でも、あなただけではございません」源三郎「ううん?」 萩乃 「あたしも、あなたに・・」 と恥じらうようにいいます。 源三郎「わしに・・」 萩乃 「お分かりになっていらっしゃるくせに」 萩乃をじっと見つめていた源三郎が笑うと、「いや、おわらいになっちゃ」という萩乃。 萩乃 「だって、本当なんですもの」 その言葉に源三郎は真剣なまなざしで萩乃を見つめると、源三郎「よかったぁ」 萩乃 「何が?」 源三郎「兄上から、司馬道場へ婿入りせよと言われたときは、わしの気持ちも聞か ずに、独り決めする勝手な兄上だと腹も立ったが、・・今となっては兄上 に感謝したい」 萩乃 「本当ですか」源三郎「本当だとも」萩乃 「・・・うれしいわ」源三郎「萩乃」 その様子を峰丹波が見ていました。大岡越前守と愚楽が将軍吉宗のところに来ています。いよいよ本物のこけ猿の臺を開けることになりました。愚楽が吉宗の前まで行き、臺を開けそこを割って書きつけを吉宗に渡します。開いて読んだ吉宗が「なんじゃこれは」と二人の方へ投げます。そこに書かれていたのは「欲にくらんで臺を開けたる馬鹿者よ、目に見ゆる黄金より、心の黄金を磨くことをわすれるな、なればいかなる事態におよぶとも、書する道を間違うことなし」・・百万両はなかったのです。困るのは吉宗でも越前守でもない、伊賀の柳生対馬守が気の毒だ、と吉宗は言うのです。そこで愚楽の考えで一計を講じることになります。それは、日光御改修に必要なだけの金子を何処かに埋め、その在処を図にしたため壺に入れ、柳生の手元に送ってはどうかと言うのです。御改修の費用は、吉宗が出すということになるのです。吉宗は「結局、余が損をしたということか。弘法も筆の誤り、たまにはこのようなこともなくてはのう」と、笑うのでした。心が本当に通じ合った今宵の源三郎と萩乃の幸せに、丹波の影が気になりますね。 続きます。
2018年05月18日
コメント(0)
この壺ん中には百万両のカギがある峰丹波はその夜、昼間の植木屋が伊賀の暴れん坊の源三郎とわかり、また与吉に盗ませたこけ猿の壺に百万両の隠し場所が封じられていることも分かりました。丹波の部屋の様子を源三郎が屋根の上から伺っています。門弟が丹下左膳という風体怪しげなものが師範代に会いたいと来ていることを伝えに来ます。左膳はこけ猿の臺を丹波に百両で買ってもらいたいとやって来たのです。約束は五十両それ以上出さないという丹波に、左膳は、伊賀の暴れん坊に買い戻してもらうと言い立ち上がり帰ろうとした時、門弟たちが左膳を取り巻き、丹波が素直に壺をおいて行けば命は助けてやるといいます。さもないと・・・門弟が左膳に斬りかかります。左膳の濡れ燕がサッとふりあげられました。左膳 「おう、われはもう死んでるんだぜ・・・」僅かばかりの銭を惜しんだばかりに、濡れ燕が血を吸わせてもらった、と左膳が言います。やかましい」と丹波が刀を抜いた時、「待て」・・・源三郎が入ってきます。 丹波が怪訝そうな顔で 丹波 「貴殿は・・」 (この時丹波の方をちらっと見る源三郎の目線と表情が何とも言えません) 源三郎「植留の金八。・・・でも、この化け物は旦那にはちと無理だな。あっしが 変わりましょ」 というと、半纏を脱ぎ、刀を握ります。 左膳 「何だい、てめえは」 源三郎「植木屋剣法」 刀をかまえますと、左膳が一歩引き 左膳 「面白れえや・・・やるじゃねえかい」 刀を振りあげます。二人の真剣勝負が始まりましたが、決着がつかないでいると、奥座敷で十方斎がなくなったと言うことを耳打ちされたのでしょうか、丹波が門弟たちと同情を出て行きます。 (このシーン格好よいですよ。橋蔵さま素敵でしょう。体の線がはっきり見えるでしょう。剣をこんな風に構えて橋蔵さまのように線が綺麗な人はいないと思います) 左膳も源三郎も何事があったのか分かりません。 左膳 「おう、なんじゃ、ありゃぁ」 源三郎「知らん。家の中で何事か起こったらしいな」 左膳 「ところで、おめえ、なかなかやるじゃねえか」 源三郎「それは、こっちで言いたい台詞だ」 左膳にこれほど汗をかかせるのは、・・「おめえ、伊賀の暴れん坊源三郎だな」 源三郎ちょっと顔を背けとぼけた様子でそれには答えず 、源三郎「おい左膳、邪魔者がいなくなったぞ。来るか」 左膳 「うん?いや、後日の勝負だ。おめえをぶった斬るには、もうひと工夫いり そうだい」 源三郎「おぬし、拙者が言いたい台詞をみな先言うのう」 大笑いする二人です。 (源三郎は、奥の部屋で大変なことが起きているとは考えもしなかったのですね) (ふとしたことから刀を交え、意気投合した二人。こけ猿の壺を売る?買いとる?で値段交渉が始まりますが・・・この二人のおかしな会話をしばらくお楽しみください。) 帰る道すがら、こけ猿の壺のいきさつを聞いた左膳は、源三郎に買ってもらうのが本筋だと言います。源三郎「そう言うことになるかなあ。だが、へんだなあ、・・もともと自分のもの に、どうして金を払わねばならんのだ」左膳 「なあんだ、そんな事ぐらいが分からねえのかい」 源三郎「おぬしには、分かるか」 左膳 「むろんだ。教えてやろうか」 源次郎「うん」 左膳 「まず、でいいちに、与吉に臺を盗まれちまったということが大きな落度 だ」 源三郎「そうかなあ」左膳 「そうだとも、盗まれっちまったものは、売られようが壊されようが文句 のつけようがねえじゃねえかい」 源三郎「なるほど」 左膳 「第二にはだ、命がけで臺を盗み出してきた与吉の努力と労力、こいつは 五十両の値打ちはたっぷりあるぜ」 源三郎「そうかなぁ」 左膳 「そうだとも。さらにはだ、その与吉から臺を巻きあげてわざわざここま で持ってきた丹下左膳の・・」 源三郎「努力と労力は、五十両でも安すぎる」 左膳 「そう思わんかい」 源三郎「思わん」 左膳 「ええっ?」 源三郎「あっはっはつは、だが、おぬしの腕前は気に入った。それに免じて、気持 ちよく譲ってもらおう。二百両ではどうだ」左膳 「二百両、おい、ほんとかい」 源三郎「武士の言葉に二言はない」 左膳 「さすがは柳生源三郎だ、気に入ったぜ。じゃ、気持ちよく手を打とう」 その源三郎の様子がおかしいのです。 源三郎「ただしだなあ・・」 左膳 「ただし・・があるのかい」 源三郎「ううむ、・・ううーん、、今手元に金がないのだ」 左膳 「ううん、それは分かっているよ。だが、おめえのことだ、心配いらねえ や。明日にでも宿に取りに行かあ」 源三郎「ところが宿にもないのだ」 左膳 「えっ、・・・おいっ・・・ほんとかい」 源三郎「残念ながら本当だ。・・なにしろ、貧乏で 通っている二万三千石、国表でも二百両はちと難しい」 左膳 「すると、俺との約束は」源三郎「だからしばらく待ってほしいと申すのだ」 左膳 「あてはあるのかい」 源三郎「おおありだ、その壺さえ渡してもらえればな」 左膳 「この臺を」 源三郎「おぬしは知るまいが、この壺ん中には百万両のカギがある」 左膳 「百、百万両・・」 源三郎「いかにも」左膳 「ううーん、この壺が百万両なあ。・・・だが、おめえ。百万両なのに 二百両とは・・少し安すぎはしねえかい」 源三郎「安いかな」 左膳 「安いどころじゃねえ、酷すぎらあなあ」 源三郎「まあ、そう言うなあ。・・・そもそも、おぬしからきり出した値段じゃね えか。それに、この壺の金も拙者がもらうわけではない。日光改修の費用 にあてるもんだ、我慢してくれ」 左膳 「うーん、よくは分からねえが、めんどくせぇや、じゃ、おめえに譲ると決 めたぜ」 左膳から源三郎が臺を受け取ろうとした時、臺が宙に・・・蒲生泰軒が屋根の上から釣り糸をかけて捕ってしまいます。 (ちょうど壺の上に、泰軒が投げた釣り竿の糸があるのが画像からだと分かりずらいですね。映画を見るときは気をつけて見てください)源三郎が投げた小柄をかわし、屋根を伝わって行ってしまいました。 追おうとして塀の戸を開けようとしていると、「騒ぐな」と声がします。「ここは南町奉行大岡越前守の屋敷だ」「大岡越前・・・それがどうしたい」「つべこべ言わずに早く壺を返せ」に、分かったから静かにしろと言い。「伊賀の暴れん坊にけもの相手では勝ち目がない。大事にしろ」言い臺を放り投げて返してきました。(ここで、臺はニセモノにすり替えられてしまっています。そんなこと露とも知らずふたりは・・・) 左膳 「なーんだい、あいつは」 源三郎「だが、腕は確かなもんだ」 左膳 「それにしちゃ、おとなしく壺をけえしたじゃねえかい」 源三郎 「ともかく、変わった奴よ、あっはっはっは」といながら見上げた空に・・・星が流れるのを見た源三郎は、 源三郎「ひょっとすると・・・司馬道場の老先生の命が・・」 不安がよぎったのです。 源三郎様、早く司馬道場の萩乃様のところへ行ってあげて・・・ 続きます。
2018年05月13日
コメント(0)
源三郎さんてぇのが、あっしみてえ男だったら田丸は早籠で柳生対馬守に日光造営奉行を将軍吉宗から賜わったことを知らせます。倹約を勤めて来た対馬守はそんな資金はないどうしたらよいかということで、一風宗匠に聞こうと出かけます。宗匠は金さえあれば済むことであろうと。但馬守がもうろくしてしまった宗匠に聞いても無駄と帰りかけたとき、蒲生泰軒が宗匠の話はまだ終わっていないと引き留めます。半紙に書かれたものを泰軒が読み上げると、先祖が隠してある金子百万両があるというのです。その所在は、こけ猿の壺に隠されているといいます。そのこけ猿の壺とは薄汚い源三郎の婿資金として源三郎に渡してしまったものでした。ところは、左膳が転がり込んでいるお藤の住いのある長屋になります。鼓の与吉が長唄の稽古をしているところへやって来ます。師匠お藤の機嫌が悪いのを手振りでお美代が与吉に伝えています。お藤は退屈そうにしている左膳に、そして身寄りのないちょび安を連れてきたのに腹が立っているのです。与吉は、源三郎から盗んで来たこけ猿の壺のことでやって来たのです。いい加減にふんぎりをつけて、臺を司馬道場の峰丹波のところへ持っていけば五十両になる、と言いますと左膳は、与吉が五十両なら、百両にも二百両にもできる、と言いかけたとき、与吉が峰丹波の目的を話し始めます。目的は、臺ではなく、源三郎の婿引出を盗んで、婿入りを送らせることだというのです。司馬道場の峰丹波のところへ石川半次郎が柳生家の動きを知らせに来ます。柳生家の国表からの侍達が品川宿に着いたが、源三郎の婿入りを速めるためではなく、こけ猿の臺を探すのが目的のようだと言います。そして、婿引出は、別のものにするというのです。源三郎を品川宿に留めておくのも無駄になるということに、臺を持ってくるはずの与吉も半月も現れない・・と。奥の座敷には、病に臥せっている主の司馬十方斎のために萩乃が歌を歌って聞かせています。違う座敷では丹波とお蓮が何事か内密の話をしています。十方斎の命は明日までは持たないというのです。司馬道場は偽の遺言状で丹波とお蓮のものになると話していますと・・・木の上から何かが落ちる音がしました。すると、木から飛び降りた植木職人は植木鋏を拾い、丹波の方を見て、「へっ」と頭をさげます。(木の上で様子を見ていて、よいタイミングで降りてきた源三郎です) 丹波 「植木屋だな」源三郎「植留の若いもんで金八と申します」植留は挨拶をして帰ったはずだと。源三郎すかさず二人の顔色を見ながら源三郎「そうですかい・・・親方もつめてえな・・・あっしを置いてきぼりにする なんて」 と言い、半纏をとって源三郎「じゃ、ご免なすって」見ていて丹波が「怪しい、ただ者ではない」とお蓮に言います。縁側で萩乃が小鳥に餌をやろうとして駕籠を開けた瞬間に小鳥が逃げてしまいます。その小鳥を通りかかった源三郎が片手で捕まえます。 小鳥をさがすように庭に出て来た萩乃は、植木職人の源三郎を怪訝な様子で見ますが、源三郎が手に持っていた小鳥を見てニコッとします。(はい、ここからは、お待たせいたしました、トミイ・マミイの楽しい会話となります。しばらくは、じっくりとお聞きください)萩乃 「あっ」源三郎「これはお嬢さんのですかい」と言って萩乃の手に小鳥を返します。萩乃 「どうも有難う」そのあと、しばらく見つめ合う二人の様子です。 (よい笑顔ですね、二人を見ていると心がなごみます) 源三郎は真面目な顔でじっと萩乃を見つめ心配そうに十方斎の病状を聞きます。源三郎「お嬢さん、お父様の様態いかがです」萩乃 「えっ」萩乃は何故この植木職人がそんなことを聞くのかとびっくりします。 源三郎「近々、お婿さんをお迎えになるんですってね」 萩乃 「これ、言葉をお慎み・・・他のものに聞かれたら、酷い目にあいますよ」源三郎「へぇっ、誰も見ちゃいませんぜ。・・・ああぁ、それとお嬢さん、こんな 植木屋風情とお話するのか・・」萩乃が源三郎の言葉を遮ります。 萩乃 「いいえ、あたしは別に身分の隔てにはこだわりません」源三郎「こいつは、話せる。やっぱり、あっしの思った通りのお方だねえ。お嬢さ ん花嫁様になる気持ちって、へっへっ、嬉しいものでござんしょうね」 萩乃 「それが、そうでもないのよ」 萩乃 「あたし、何だか怖いみたい」源三郎「どうしてです」 萩乃 「源三郎様ってどんな方か、全然知らないんだもの。それに伊賀の暴れん坊 なんてあだ名があるんですもの、山男みたいこわぁい人だったら・・・」源三郎「お嬢さん、・・もし、源三郎さんてぇのが、あっしみてえ男だったら」萩乃 「お前みたいな」萩乃はじっと源三郎を見つめ、「あなたみたいな人ならいいわ」というような表情をします。 源三郎「いかがです」というと、萩乃の手を掴んだので、萩乃は源三郎の頬を思いきり叩き、家の中へ走っていきます。(この時、小鳥は逃げてしまいます) (源三郎は、萩乃に会ってこの人とならと思ったでしょう)長居をしましたが帰ろうとした時、丹波に呼び止められます。丹波 「植木屋、何をしておる」源三郎「いえ、別に」丹波 「素直にわしの問に答えろ。その方、根っからの植木屋ではないの」源三郎「とんでもございません、あっしゃ、ちいせい時から親方のとこんで育った 人間なんで」丹波は白状しろと詰め寄ります。源三郎は、「そいつは無理というものだ。旦那が考えているように喋れと言ったって、そいつは無茶だ」と言い行こうとしたとき、丹波が小柄を投げます。それを源三郎は手で受け止めます。 源三郎「へっへっへ、旦那、あまり人を脅かすものじゃござんせんぜ」 丹波 「待たれい、只今の手は、まさしく柳生流秘伝銀杏返し、もしや貴殿は、 ・・貴殿のご尊名は」源三郎「ご尊名ときたね、こいつは驚き桃の木だ。旦那ぁ、忘れっぽいなあ。 さっき言ったばかりじゃありませんか。あっしは根岸の植留の若いもん で、金公って半ちく野郎でさ、へへへぇー」 柳生源三郎・・伊賀の暴れん坊・・といい峰丹波といい、なかなかのものですね。苔ざるの壺は左膳の手元にあるのですが、お金になると考えている左膳は、どう動くつもりなのでしょう。 続きます。
2018年05月08日
コメント(0)
東映スコープ公開一周年記念作品らしく大川橋蔵、美空ひばり、東千代之介と当時の東映人気スターが顔を揃えています。そして脇役に、大河内伝次郎、月形龍之介、団徳麿と以前に左膳を演じた人達が出ているのです。声を出して笑えて見終るとスカッとするコメディ・アクションです。コメディタッチで左膳を描いた大河内伝次郎主演で山中貞雄の『丹下左膳余話・百万両の壷』が傑作として有名ですが、この「丹下左膳」も負けてはいないくらいの面白さがあると思います。大友さんの丹下左膳は 一目散に駆けていき、敵に囲まれても嬉しそうに、首を振りながら斬るというスピーディーなテンポの楽しいチャンバラ映画です。この作品がヒットしたことから、大友柳太朗の丹下左膳がシリーズ化されました。このシリーズで、橋蔵さまは助演で好演しました。5作品の内4作品丹下左膳と共に活躍いたしました。やはり美男の橋蔵さまが出てくると華やかな雰囲気が加わります。左膳の大友さんと美男役の橋蔵さまの共演が、贔屓目なしに見て、作品をより楽しいものにしているように思えます。ところで、百万両の謎を秘めた柳生家の家宝の壺で、これをめぐって丹下左膳、徳川幕府、柳生源三郎、峰丹波たちが対決をする臺ですから、いい加減な臺では重々しさを感じない。そこで小道具さんが駆けずり回って某家から借りたそうですが、時価十数万円するというものでした。そのため、借主の橋蔵さまは、すっかり壺ノイローゼにかかるというひと幕があったそうです。 ◆第34作品 1958年3月封切 「丹下左膳」 丹下左膳 大友柳太朗大岡越前守 月形龍之介愚楽老人 薄田研二蒲生泰軒 大河内傳次郎お藤 長谷川裕見子ちょび安 松島トモ子 お蓮 喜多川千鶴峰丹波 山形勲柳生対馬守 三島雅夫田丸主水正 左ト全石川半次郎 徳大寺伸鼓の与吉 多々良純安積去心 沢村宗之助新見嘉門 明石潮髙大之進 上代悠司司馬十方斎 高松錦之助谷大八 富田仲次郎お美津 美山れい子萩乃 美空ひばり将軍吉宗 東千代之介柳生源三郎 大川橋蔵 伊賀の暴れん坊として知られる剣の達人柳生源三郎は、家宝のこけ猿の臺を引出物に司馬道場に婿入りすることになります。ところが、こけ猿の壺には百万両の秘宝が封じられているとの噂が流れ、柳生家、柳生源三郎、大岡越前守、丹下左膳を巻きこんでの一大争奪戦が始まります。 婿引出物としての古ぼけた茶壺江戸在中の諸大名、名代達を集め、日光東照宮御改修の件で今回は誰に下命したらよいかと、将軍吉宗は大岡越前守と知恵袋の愚楽老人と相談をしています。越前守が伊賀の柳生対馬守がよいといいます。「いい年をして妻も娶らないけちん坊の貧乏大名にか」と吉宗は驚きます。伊賀の蒲生泰軒から、柳生家に軍用金があり、その秘密はこけ猿の壺に隠されているという便りが来たと言うのです。地方大名が、普段から大金を持っているとろくな事は無い、幕府が合法的に巻上げようというのです。 ということで、これから広間に集められた大名達の中から、日光東照宮御改修を誰にするか「金魚くじ」という方法で選ぶことになります。各人の前に、水だけが入ったガラスの金魚鉢がおかれます。そこに愚楽老人が、金魚を入れていきます。大名達は鉢に入れられた金魚が泳ぎだすのをみて、「助かった、よかった」というホッとした顔、嬉しそうな顔をしています。吉宗もその様子を見ていて笑みを浮かべています。 (誰が当るかということをわかっているのですから見ていて楽しいでしょう)進んでいき、愚楽老人が柳生但馬守の前にやって来ます。柳生家は田丸主水正が名代で来ています。愚楽がおもむろに金魚を鉢に入れます・・主水正は泳いだ金魚を見て安心したとたん、金魚が動かなくなります。愚楽が吉宗に、「日光東照宮御改修の大役は柳生対馬守殿に定まりましてございます」と報告し、吉宗直々の「然らば明年の日光造営奉行は、伊賀柳生藩柳生対馬守に申しつける」に「有難き幸せ」とひれ伏す田丸です。ここは品川宿の柳生源三郎が泊まっている宿になります。安積去心は二階座敷から急いで階段を降りてきた男(鼓の与吉)とすれ違い「若はおられるか」と声をかけますと、もうやすんだと返事をして急いで行ってしまいます。安積が「もう休まれたか」と階段を降りようとした時、「爺・・爺」と大きな声で源三郎が安積を呼びます。安積が部屋へ行きますと、源三郎が宿の入口辺りが騒々しいのを見ています。安積 「おお、若、確かお休みとのこと」源三郎「何を寝とぼけておる、・・・爺、ちょっとここへ来てみい」源三郎「あれは、田丸ではないか」田丸は早籠に乗って出発をしようとしています。源三郎「早とは大仰だなあ、一体何が起こったんだ」 これは容易ならざる一大事と行こうとする安積に源三郎「待て、・・ほっておけ。・・・まさか、日光造営奉行を仰せつれられたわ けでもあるまいに」 安積は、万一ということがあるというと、源三郎は「その万一になってほしいな」 (橋蔵さまのえくぼが可愛いな)というのです。 源三郎「爪に火を灯すような、あのけちん坊の兄上が、それこそ腰を抜かさんばか りに驚くかと思うと、あっはっはっは、あっはっはっは」安積は但馬守のことをそのように悪し様にいってはバチが当るというと、源三郎の表情が険しくなりました。源三郎「バチ⤴、何がバチだ。大体四十にもなって嫁をもらわんという、あのけち ん坊の兄上だ」 但馬守が妻帯されないのにはわけがある、好きだった次女が宿下がりの時に急病でなくなってからだと、安積がかばいます。源三郎はそのことは知っていると。源三郎「だが、兄上に、恋など分かるはずがあるもんか。・・・爺、よく考えて見 ろ。かりにもだ、兄上は二万三千石の当主だぞ。・・それに引換え、次男 坊のわしは、妻恋坂の司馬道場へ婿入りさせられるのだ。・・江戸で評判 の道場といえ、たかが町道場の主ではないか。・・・わしが兄ならな、 (手振りをつけて話します)源三郎、手許不如意で思うようにはまいらぬ が、せめてもの兄の志じゃ、さあ受け取ってくれ、・・と千両箱の五つ ぐらいは持たしてやるところだが、兄上がくれたものと言えば、婿引出 物として、あの古ぼけた茶壺が一つ」 (長い長いセリフでした。切り替えはないですから通しです。さすが橋蔵さま凄い) 源三郎の言うことを聞いていた安積が、柳生家伝来門外不出のあのこけ猿の壺は、と指をさした床の間にないことに気がつきます。「おかしいなあ」と呑気な源三郎に対し慌てる安積。 安積 「若の婿入りを快くせぬ、師範代峰丹波の動きをご存知ないのか」源三郎「すると、盗んだのは峰丹波かな」と、呑気にいう源三郎にいらだち、落ち着いてはいられない安積は、家臣たちを呼びこけ猿の壺を探すように言います。源三郎は、慌てることなく何を思い何を考えているのでしょう。 こけ猿の臺を峰丹波の所へ持っていくと小判五十両と変わるといい喜んでいる鼓の与吉に声をかけたのは左膳でした。左膳「その古壺が五十両かい」左膳に睨まれた与吉が臺を左膳に渡そうとした時、柳生家の家臣がちょうどやって来て臺を返すように言いますが、左膳は「おれも、この壺が欲しくなった」返すわけにはいかないと、凄みをきかせ柳生家臣が呆気に取られている間に行ってしまいます。こけ猿の壺は与吉から左膳の手に渡ってしまったようです。 続きます。
2018年05月04日
コメント(0)
必ず元通りにお返しいたしやすここは日光奉行所のお白洲となります。堀田備中守は、今回不祥事について、企ての目的は将軍家の命を狙ったもの、不敵きわまる逆賊どもを徹底的に究明し天下の見せしめとすると、取調べを遠山金四郎に申しつけます。お白洲には、虎姫弥左衛門が、長岡有楽斎と大郷筑前守は何食わぬ顔で、上段に座っています。遠山金四郎景元による取調べが始まります。大越にこのたびの日光仮御殿造営の件で将軍を恨んでいないか、江戸から行方不明となった大工が仮御殿造営に送り込まれたことに覚えはないかと聞きます。大越は全部虎姫に任せていたので覚えのないこと、と言うのです。次に、虎姫弥左衛門も覚えはないと。そこで、藤兵衛に作成させた吊り天井の絵図面ではないかと確認をさせますと、大越は藤兵衛が自分で書いて、大工を使って企んだ事だというのです。藤兵衛はどこにいると聞かれた大越は、自分が造った仕掛けに押しつぶされ死んだと言います。金四郎に呼び出されて藤兵衛は、虎姫弥左衛門に頼まれたと言います。虎姫が、根も葉もないことを言うな、と言った時、「ふん、よせやい」と声がしたと思うと、奉行所の塀を乗り越え入ってきたのは侠盗ねずみです。 ねずみ「もし、お侍さん方、あっしを覚えていなさるかね。・・まさか知らねえと はおっしゃりますめい。江戸から連れてきた七人の大工を殺したあげく、 その墓堀をおれにさせたのは」 と、ねずみがそこまで言ったとき、金四郎「ひかえ」ねずみ「へっ」金四郎「お白洲である」ねずみ「へっ、へえ」といって座り頭をさげます。金四郎に、人は終りが大切、もはやのがれぬところと観念して・・と言われた大越は、素性も知れぬ大工や町人の証言で罪に捕らわれるとは不本意と。金四郎が、たとえ町人、大工といえど証人の身分に上下はないと言いますと、有楽斎が、天下の大名を罪に落さんとするのは・・証拠をだしなさい、確たる生き証人を出してきなさいと言ってきます。 さあ、生き証人金さんの出番です。片肌脱いで桜吹雪が悪の息の根を止めます。残った有楽斎の番です。上様を亡きものにして妹のお牧の方の子を跡継ぎにして、徳川の天下を思いのままにしようとした大悪人、白状しないかという金さん。証拠はという有楽斎に、お牧の方が書き残した書状だと懐から出します。すると、有楽斎が金さんに斬りかかってきます。金さんが見せた書状は白紙でした。これで一件落着。あっ、まだ、一人お白洲に吟味をしなければならない者がいました。金さん「ねずみこと、泉屋次郎吉」ねずみ「へっ」 金さん「その方、このたびのことにつき格別の働き、誠に神妙のいたり。上様の 御身につつがなかりしは、まったくもってその方のお蔭じゃ、よって今 までの罪状はなきものとして忘れとらせる」ねずみ「(うれしそうに)・・有難き幸せ」 金さん「ただし」ねずみ「へえっ?」 (何事か・・と顔色が変わります) 金さん「世の人のためなど埒もなき事を申し、今後慮外を働くにおいて容赦なく 余が手をかけるやもしれぬ。その義をしかと心得、その背に影をおわぬ 正しき世渡りをいたせ。・・よいか」金さん「わかったな」ねずみ「へぇぃ」 ねずみ「仲間との約束で、先刻盗みました日光奥殿の金具は、必ず元通りにお返しいたしやす」 これで、全ての吟味がおわりました。東照宮参拝している家慶公を待っている駕籠行列の傍に遠山金四郎の姿があります。その金四郎が見上げた陽明門の脇の方向に、ねずみの姿が見えました。約束通り奥殿の金具を返したようですが、何やら手に持っている物をいただいてゆくというようなそぶりを金さんに見せ懐にしまい去りました。金さんも苦笑いです。 駕籠行列は金四郎の合図のもと江戸へ出立します。 (完) 千恵蔵御大の金さんと橋蔵さまの怪盗みずみの顔合わせは、ピッタリ息があってとても良い雰囲気がでています。まず始めの出会い、金さんが町方に追われ家に入ってきたねずみと出会うシーン。「ねずみだな、てめえ」「図星」「逃げるんだったら、逃がしてやるぜ」「ちぇ、なーんて図々しいやろうだ」「つきだしなさるかい」「先ばかり越しやがる」「すばしっこいのは、ねずみの看板でさあ」「だから今までは無事に逃げおおせたというのか?」「なあに、おれはただの一度だって逃げようと思ったことはねえ」「現に逃げてるじゃねえか」「ふん、奴らを追いかけているんだよ。いつも奴らの後ろから付いていきゃぁ、捕まろうにも捕まりようがねえからね」と金さんとねずみのやり取りから、この後の筋がきに期待がもてますね。二度目の出会い、植木屋になりすまし松の木の上でのやりとり。ねずみが金さんの気風に惚れ自分勝手に兄貴となれなれしく呼ぶところ。「あれ、てめえ、いつから俺の弟になったんでい」「えへっへっへ、惚れたが因果ってえやつでね、・・勝手に決めちゃったんでい。仲良くしようぜ、兄貴ぃ」「また、兄貴っていう、そう心安くゆうねい」聞いていてとても気持ちがよいですね。三度目の出会い、日光への道中途中でねずみの危機を金さんが助け、「おめえとは、いつも、妙なところで逢うな」「・・ちえっ、とんだところで、借りがまた増えちまった」「おう、兄貴・・どこまでついて来るんだい」「また、兄貴って言いやがら、しつこいぞ」と、さばけた男同士の会話ですっきりとして気持ちがよい。御大と橋蔵さまが、役柄を自由自在に発揮している。剛の千恵蔵御大と柔の大川橋蔵の顔合わせで、とても面白い作品でした。
2018年02月04日
コメント(0)
江戸のねずみは、そう簡単に・・舞台は、日光に移ります。東照宮陽明門のところで大工になりたいと東照権現様にお願いをしている甚五郎という男がいます。そこへ、声をかけてきた女がいました。男が振返ります・・金さんです。危ないところ水中に潜って逃げて、変装して事件の真相を調べようと、日光に来ていました。そして、女の方は、古河の水海亭で金さんを誘い込んだお半でした。お半は甚五郎が侍ということを見抜きましたが、お半の口利きで仮御殿の建設場へ大工としてもぐりこむことができます。 一方、侠盗ねずみの方も、お景、お通、千吉を助け出して日光山中の華厳の滝まで来ていました。 して入り込むことができます。 千吉が川の方へ降りて行ったので ねずみ「おう、千吉、川下の普請場の方へ行くんじゃねえぞ」(ねずみのセリフの「千吉」と言っているところ、ロケの時のセリフでは違う言葉でいっているような、「千吉」とは言ってはいません。アフレコの時に変えたようですね) ねずみは、金さんを探してくると言います。 ねずみ「おう、明日の昼下がり、陽明門の前で落ち合おうぜ、な」 と言うと、身軽に岩を飛び越えて行きます。 千吉が流れてきた赤い葉っぱを見つけます。その葉には穴で字が書いてあります。お景の父大工の藤兵衛のしるしでした。その葉が流れてくる方向に三人が行ったとき、男に捕まってしまいます。有楽斉、虎姫、大郷が集まった部屋では、藤兵衛が二十三個の歯車を使っての吊り天井の仕組みを話しています。金さんはその話を庭に忍び込んで聞いていました。人手が足りないと、甚五郎は歯車を造っている現場に連れて行かれます。ねずみが、日光陽明門の前で待ち合わせを約束した三人を待っていますが、ねずみ「・・来ねえな、お景ちゃん達は・・・ひょっとするとひょっとしたか な・・益々忙しくなりやがったぜ」 (ねずみは、お景達も心配、金さんも、そして商売の?盗み御逗子の金具一組を盗むことと忙しくなりました) その夜、ねずみが活動します。陽明門を入るところを探していると、地下に入る扉が開いたので、奥へ入って行きます。 将軍家慶の日光御参詣の日が来ました。金さんは、家慶を亡き者にしょうとする首謀者とその一味を一網打尽にすること・・まず、その証拠を掴むことが大事だと考えます。金さんが屋敷に忍び込み証拠になるものを探し戻ってくると、祝いの酒だと皆が飲んでいました。金さんは遅ればせながら盃を・・毒が入っていることに気づきましたが、他の人達は毒がまわっていました。甚五郎はさほど苦しんだ様子がない、念のため止めを刺そうとしたとき、起き上がります。「じたばたするねえ~・・」そして、もろ肌脱いで桜吹雪の刺青を拝ませます。「散らすには惜しい遠山桜」短筒が金さんを狙い撃ちします。金さんは銃声と共に崖上から下の川に飛び込みました。 毒殺した死骸を埋めている侍の中にねずみが潜りこんでしました。が、見抜かれてしまいます。「お前は誰だ」に、「ねずみで・・」 何しに来たと言われ、 ねずみ「なに、ちょいとした、探し物でしてね」侍達がかかってきます。 ねずみ「えへっへつ、江戸のねずみは、そう簡単に手軽には斬られねえんだ」 日光仮御殿では、家慶を迎え舞が舞われています。その中、鈴の合図が来た洞窟では歯車がまわり始めます。金さん、そしてねずみがその場にやってきます。金さん「おい、ねずみ、あとのことは頼んだぞ」ねずみ「いいってことよ」歯車に縛り付けられていた藤兵衛は助けられます。金さんが仮御殿に急ぎます。吊り天井が少しずつ下がってきている音に、家慶が天井の異変に気がつきます。その時、金さんが入ってきて家慶を間一髪で救います。 続きます。
2018年01月31日
コメント(0)
「日光だ・・おめえは」「俺も日光だよ」(1)でも金さんとみずみの会話が楽しくて集中してしまいましたが、(2)でも、二人の会話の部分がとてもテンポがよく楽しいのです。そこへ持ってきて、またまた、橋蔵さまでなくては見せられないカッコいいねずみの見せどころにもなっています。お景たちを載せた3台の籠が古河に向かって日光街道を走って行きます。その籠が通り過ぎるのを見るように、金さんも日光街道を急いでいます。また、有楽斉を載せた駕籠行列も日光街道を急いでいます。道脇にひかえていた男が行列が近づいた時、前に立ちはだかります。侠盗ねずみです。ねずみは何をしでかすつもりなのでしょう。楽しむように?言うのです。ねずみ「へえ、ご免なすって」 ねずみ「長岡のお殿様・・そうでござんしょう」 (そうでござん笑の言い方、橋蔵さまらしい、上手い) 侍 「何者だ」ねずみ「いえ、名乗る程の者じゃありません。・・もっともお屋敷の方には、つい 先だって、お邪魔にあがりましたがね」 それを聞いて刀を抜こうとする侍達に、ねずみ「おっといけませんやあ、こっちは御前様に、こいつをお届けしようと、 わざわざ江戸から追いかけて来たんですぜ」と言って、懐からこれみよがしに書きつけを出します。 それは何だと言われ、ねずみ「借用書で」侍「借用書?」ねずみ「へっ、この間ちょいと申し上げておいた、二千両と娘一人、確かに拝借 いたしましたんでねえ・・」 侍 「貴様、ねずみだな」ねずみ「そうよ」侍達が斬りかかろうとした時、駕籠の中から「待て」と有楽斉の声がします。有楽斉は、借用書まで持ってきたので、二千両は貸すと言います。ねずみはその回答に一瞬「えっ?」と思いましたが、 ねずみ「・・流石は御前様、ぐっと分かりがいいや」でも、それだけではすまなかったのです。有楽斉は、続けてこういうのです。かねを借りるのには 形が必要なのは知っているだろう。ねずみは、この通りの風来坊で、土地も家もないといいますと、有楽斉「命はあろう」ねずみ「何だと」 有楽斉の「もらっておけ」の一声で侍達がねずみに斬りかかっていきます。白刃をくぐり、ねずみは逃げていきます。有楽斉が短銃で狙いを定め、ねずみを撃とうとした時、飛んできた小石が短筒にあたりねずみを救いました。ねずみ「あっ、金さん」 (ここで、ちょっとした立回りがあります)「引きあげい」の声で侍達が引きあげます。金さん「今のは確か、長岡有楽斉だな」ねずみ「うぅん」金さん「おめえとは、いつも、妙なところで逢うな」ねずみ「・・ちえっ、とんだところで、借りがまた増えちまった」 ねずみ「おう、兄貴・・どこまでついて来るんだい」 金さん「また、兄貴って言いやがら、しつこいぞ」ねずみ「えっ・・・何を言ってやがんでい。・・いってい行先はどこだ」 金さん「日光だ。・・おめえは」ねずみ「おれも日光だよ」金さん「おう、人並みに日光見て、結構と言いたくなったのか」ねずみ「へっ、冗談じゃねえ、男の意地だ」 金さん「こいつは驚いた、盗人の意地ってえのは、はじめて聞いたぜ」ねずみ「仲間三人で、賭けをしたんだ」ねずみは、日光東照宮の奥殿から、御逗子の金具一組を盗むことだと言います。 金さん、巻き添えでもくったら大変、道連れは願い下げだと言います。ねずみも、それの方が有難いと。ねずみは、別れ際、思い出したことを金さんに伝えます。藤兵衛さんから古河の水海亭にいるという手紙が来て、お景さん達が訪ねて行ったということを。 古河に入った金さんは、藤兵衛から手紙を頼まれたというお半に案内されて、水海亭にいきます。金さんを待っていたのは白刃のお出迎え・・・そして、見たものはお景、お道、仙吉の三人が猿ぐつわをされた姿でした。金さん、仕方なく刀を捨て縛られます。縄をかけられ連れて行かれるとき、塀の外からねずみが覗いているのに気づきます。 そして、金さんは、ねずみに聞こえるように、金さん「ねえだんな、あの子供と女二人、なんとか助けてやってくれませんか ねえ」ねずみに三人の救出を頼みます。金さんが連れて行かれた後、ねずみは塀を乗り越え中に入って行きます。 小舟に乗せられた金さんは、殺される前にいつの間にか縛られていた縄をほどいて、水中に飛び込みました。 (金さんは水中を潜って逃げられたのでしょうか。ねずみは、お景達を救い出せたのでしょうか。) 続きます。
2018年01月26日
コメント(0)
片岡千恵蔵の十八番シリーズ“遠山の金さん”の桜吹雪が、カラーワイド画面で初登場した記念すべき作品です。雄大な日光東照宮を背景に、金さんと侠盗ねずみが事件解決に活躍します。セットに日光東照宮そっくりのものまで造りました。道中行列はさすが東映ならではのロケ―ションとエキストラの多さに感心してしまいます。侠盗ねずみ小僧に扮した橋蔵さまは千恵蔵御大から、「君はねずみ小僧の末裔じゃないのかい。身は軽いし、黒の忍び込みの装束がピッタリじゃないか」とからかわれるほどでした。この風変わりな役柄を楽に演じたのです。橋蔵さまは、若い時はやはり、明るくカラッとした役柄が似合いますし、二枚目半の役柄はイキイキとしています。ですから、この侠盗ねずみは橋蔵さまにぴったりでした。橋蔵さま自身、力を抜いて普段の感じでできた役ではないでしょうか。表情を見ても、必要以上に作らずにすんなり演じていて、ねずみの優しさ、かわいらしさがとてもいい感じです。次々と起こる不可解な猟奇殺人に興味を覚えた金さん。残された手掛かりから浮かび上がってきたのは、六郷藩の屋敷でした。六郷藩は、将軍家慶が日光参拝の折、その宿舎となる日光仮御殿の造営の任を申しつけられた藩でした。これらの事件の裏には時の将軍家慶暗殺の陰謀がありました。その陰謀を暴くために渦中に飛び込み、暗殺計画の詳細を知った金さん・・それは日光仮御殿の建物に仕掛けられた天井のからくりでした。いよいよ御参詣の当日、金さんは危機を救うことができるのでしょうか。◆第30作品目 1957年11月17日封切 「はやぶさ奉行」 遠山金四郎 片岡千恵蔵侠盗ねずみ 大川橋蔵堀田備中守 大河内伝次郎長岡有楽斉 進藤英太郎お景 千原しのぶ千吉 植木千恵お半 花柳小菊伊庭半兵衛 加賀邦男霧戸武兵衛 岡譲司月浪権九郎 片岡栄二郎俵藤源之進 戸上城太郎大郷筑前守 市川小太夫虎姫弥左衛門 柳永二郎跡部山城守 香川良介遠山景音 明石潮藤兵衛 高松錦之助お道 岡田敏子お牧の方 松風梨栄子 「仲良くしようぜ、兄貴い」ギャマン水槽の水中曲芸の最中に殺人事件が起きます。その犯人を目撃したのは水槽の中にいた二人お道とおようでしたが、刺した侍は深編笠で顔は分かりません。大工藤兵衛の娘お景の家には遊び人風の金さんが住みこんでいました。(藤兵衛は一ヵ月余り江戸を留守にしています) お道太夫の家にいたお景を金さんが迎えに来ます。その時呼び子が鳴り、台所の方で物音がしたので、金さんが台所を見回していますと、屋根から逃げ込んで来た男が・・・今江戸で話題の侠盗ねずみです。(事件が起きたと思っていたら、ここで金さんと怪盗ねずみが顔を合わせると言う場面になります。この二人の掛け合いが非常にいい感じなのです。どんな展開で進んでいくのか、楽しみが深まります)侠盗みずみが台所におりますと、すかさず 金さん「誰でい」ねずみ「しっ―」金さん「ねずみだな、てめえ」ねずみ「・・図星」 金さん「ちぇ、なーんて図々しいやろうだ」ねずみ「つきだしなさるかい」金さん「先ばかり越しやがる」ねずみ「すばしっこいのは、ねずみの看板でさあ」金さん「だから今までは無事に逃げおおせたというのか?」ねずみ「なあに、おれはただの一度だって逃げようと思ったことはねえ」金さん「現に逃げてるじゃねえか」ねずみ「ふん、奴らを追いかけているんだよ。いつも奴らの後ろから付いてい きゃぁ、捕まろうにも捕まりようがねえからね」 金さん「その頭と度胸を持ちながら、どうして盗人なんかになったんだい」ねずみ「おいら、盗人なんかじゃねえ」 金さん「義賊だと言いてんだろうが、人様のものに手をかけりゃ、例えどうであろ うと盗人だ。他人の金を施して、それでおめえ善根だと思っていやがるの か」ねずみ「何だと!」そこへ役むきの者が開けるように戸を叩きます。暫く金さんもねずみも無言に・・金さんがねずみに逃げないと言うなら戸を開けるがどうすると聞いてきます。ねずみ「ほっといてくれ・・・おいらの芸とう見せてやろうか。・・おめえとは 是非じっくりと話合おうぜ、あばよ」 と言ってねずみは出て行きます。お景と家に帰りながら、金さんは怪盗ねずみのことが気になるようです。金さん「あいつ、うまく逃げたかな。むざむざ捕まるような、へまなねずみじゃ ねえと思うが」お景がそんなに気になるなんてどうかしていると金さんに言いながら歩いて行くと、侍達が一人の男を追っていき斬って逃げていきました。殺されたのはお景の知っている大工です。大工は「花川戸の虎姫に毒を盛られた」と言って、こと切れます。その時、金さんめがけて手裏剣が飛んできます。金さんは昼間の殺人を見たおようが危ないと急ぎます。金さんが小屋に着いた時には、おようは殺されていました。深編笠の侍の姿を見た金さんがつけて行ったところは・・・花川戸の虎姫弥左衛門の屋敷でした。 金さんが植木職人になって、虎姫屋敷の偵察に入っていますと、「おつ、兄貴」と声をかける者がいます。金さん「あっ、この野郎、何処から入ったんだい」ねずみ「兄貴こそ、どうしてこんな所へ」 金さん「あれ、てめえ、いつから俺の弟になったんでい」ねずみ「えへっへっへ、惚れたが因果ってえやつでね、・・勝手に決めちゃったん でい。仲良くしようぜ、兄貴ぃ」 金さん「また、兄貴っていう、そう心安くゆうねい」見ていると、数人の大工が道具箱をかかえて屋敷に入って行きます。ねずみ「お目当ては、あれかい」金さん「うーん」 その夜、藤兵衛の家に石を投げて、深編笠の侍がお景を誘い出します。ある武家屋敷の前で行った時お景は捕まってしまいます。お景が発した声を、ねずみが聞いて、その方角へ行ってみますと、屋敷の門が揺れてる音がしていて、足元に簪が落ちていました。 武家屋敷は将軍家西の丸の愛妾お牧の方の兄である長岡有楽斉の屋敷で、お牧の方と虎姫をまじえて、何事か密談をしています。捕まったお景はその屋敷の中に縛られていましたが、忍び込んだねずみに助け出されます。 金さんは、虎姫屋敷から人目を避けるようにして、大工を連れて行くのをつけて行くと日光街道へ・・・「双六の賽の目は日光と出た」と、金さんが呟きます。 お景はお道の楽屋にかくまわれていました。お景のところに藤兵衛から手紙が来たというのです。いままでどんなに家を空けていても、手紙を出すことがなったのに、お景は変だと言います。 ねずみが金さんに会いたいというねずみですが、金さんの姿が見えなく何っていました。ねずみ「いねえ?」 お景「何処へ行っちまったのかしら、金さんたら」お景とお道は仙吉を連れ、藤兵衛が仕事で行っている古河に行くことにします。 続きます。
2018年01月22日
コメント(0)
縁があったらまた会える(明日の舞台は踏ませない、定九郎をやったら仲蔵を斬る、と大吉の怒りは相当なものでした・・今日どのようになるのでしょう)松平帯刀は、大吉が対抗して仲蔵いじめにかかるはず、明日は大吉を一歩も小屋に入れないように命じます。翌日。松平帯刀は小屋に入りました。楽屋では、仲蔵が支度をしている最中です。座員「親方、せめて刀だけでも朱鞘をやめて、この黒鞘にしたらと言っているので すが」仲蔵「いや、いけねえ、何から何まで初日通りにやるんだ」座員「そうですか、しかし・・今日もまた、此村大吉が乗り込んで来ますぜ」仲蔵「来ても、定九郎はやるぜ」その頃、大吉は・・半次が幕が開いてしまうと来ますが、甚兵衛の命日、線香をあげたら行くと、お松と甚兵衛の位牌に手を合わせます。お松が、先生もお芝居に行くのかと聞きます。大吉「今評判の仲蔵の定九郎を見たいと思って」お松「まあ、兄さんの定九郎を」大吉「仲蔵は、お松さんの兄さんなのか」(お松は昨日は芝居に行っていないので、大吉という人がどんな人か知りません。まさかこの人とは・・)お松が、兄さんが考え出した定九郎を、此村大吉という旗本がめちゃめちゃにして、兄さんが可哀想だ。兄さんの出世の道を妨げただけでなく、私達親子の幸せまで奪った憎らしい男、だと言います。父妙見堂は此村大吉と刺し違えて死ぬきだと・・。その時「お松」と妙見堂の声がしました、出かけるとやって来たのです。そして、部屋奥にいる大吉を見て、妙見堂か「此村大吉」と言います。お松「えっ」大吉「お松さん、拙者が此村大吉だ」妙見堂が短刀を抜いて大吉に向っていくのを、必死に止めるお松に、「俺はこの男と刺し違える」と妙見堂は言います。じっと、二人の様子を見ていた大吉は大吉「そうだったのか・・お松さん、さあ、お父さんを連れて行くのだ。二人で 仲蔵の芝居を観てやれ。大きな声で掛け声をかけてやるんだよ」(この親子の仲蔵への思いやりが伝わったのですね。大吉の目が潤んでいます。)五段目山崎街道の場面、いつもの通り仲蔵の定九郎は無事に終えます。 二階席で観ていた帯刀は大吉が来なかったので、怖気づいたかと大笑いをしていました。その晩、料亭の前に駕籠が二台止まりました。お付の人がついています。付人「親方、どうしても此村大吉にお会いなさるんですか」仲蔵「お招きを受けて、捨てておいたとあっては、役者の対面に関わります」付人「でも、あのけんまくでは、片手片足はおろか、お命があぶのうございます」仲蔵「話し合って話の分からないお人ではないはず、心配はいりません」おみつと一緒に店に入っていきます。大吉が仲蔵を待っていた座敷、大吉の笑い顔が見えます。仲蔵「ありがとうございます。こんなことになるとは、まるで夢のようでござい ます。此村さまは、わっしにとっては芸の恩人、二人のためには命の親」 おみつも今の今まで恨んでいたことを謝ります。大吉「俺は今日からお前さんの贔屓だ。安心して思った通り芝居をやってくれ」仲蔵「はい」大吉が二人にお酒を注いで盃を飲みほしたところに、此村家が改易になったと左呉兵衛が言ってきます。仲蔵の定九郎のことが、御上に聞こえて身分に障ったのではないか、と心配すると、よけいな心配はするなと言うのでした。大吉「それよりも、俺のなり振りが芸の役に立って、此村大吉、家のつぶれがいが あるというものだ」これでいいんだ、これで人間本来の姿に戻ったのだ。所詮は旗本などと窮屈な枠の中に生きていけない男だ。なるのが遅すぎた。大吉「仲蔵さん、おみつさん、これでいいんだ」 大吉は小えんに「旅に出る」と言います。「旅立ちの前は忙しくなる」松平帯刀は大五郎から、大吉が仲蔵の定九郎を見逃すことを聞いて、今度は帯刀が仲蔵の芝居を止めさせる、と市村座へ繰り出そうとした時、逆さ封じの手紙が届きます。此村家改易の件、若年寄への入れ知恵があった様、帯刀との数々の約束も果たせないで旅立つのは無念という、大吉からであった。此村家の墓に大吉と仲蔵の姿があります。大吉「拙者は親不孝者だった。このまま江戸を離れては、父も寂しかろう。仲蔵、その罪の償いに、人の子の父親を一つ喜ばそうと思う」仲蔵「どなたの親御さんでございます」 大吉と仲蔵が神社の参道を歩いてきます。大吉「仲蔵、何も言うな。親父は面目なくて会えないと言っている」仲蔵「こんなうれしいことはございません。わっしは、父親を恨むどころか、寝て も覚めても父親のことを思い続けておりました。その念が思いがけず今日と どいたのもみんな此村さまのお蔭でございます。大吉「いや違う、親子の縁だ。今日の縁は仏の思し召しだ」妙見堂とお松の姿を見て、大吉「あれっ、あそこにいるのが、お前の父親と妹のまつ・・・」(橋蔵さまの裾さばき綺麗です。さすが役者。) 仲蔵「はい」(この時大吉と歩く仲蔵の小走りに歩く姿がいいですね。)すぐに駆けだした仲蔵に大吉「仲蔵、縁があったらまた会える。その時は、立派な役者になっていてく れよ」 仲蔵、少しためらった顔をします。大吉「死ぬ気でやったあの気持ち、忘れちゃいけねえ」仲蔵「はい、ありがとうございます」手で早く行ってやれという風にする大吉。仲蔵「はい」大吉は仲蔵が嬉しそうに駆け寄っていく姿を優しい表情で見ています。仲蔵が階段を駆け上がり、二人が待つところへ、(階段の上がり方・・私ここ好きなのです。見ていて、とっても綺麗でいいのです。)仲蔵 「お父つぁん、仲蔵でございます」妙見堂「おお、幸之助、よくきてくれたな」お松 「兄さん」 親子対面を見届けた大吉は、帯刀が待つ中仙道口般若虎境内に向います。大吉の勝利。大吉が息せき切って小えんが待つところにやってきます。そして、小えんに言うのです。門出の祝いにいいことをしてきた、仲蔵に隣の娘さんと父親を合わせてきた、仲蔵は妙見堂の捨て子だった、と。此村大吉、綺麗な思い出を一つぐらい江戸に残して行くのもいいだろう、と言います。お軽勘平のように、これからが二人の道行、と大吉は小えんを連れて江戸をあとにしました。旗本くずれ此村大吉と歌舞伎役者中村仲蔵の男の友情を描いた作品でした。 (完)
2017年03月11日
コメント(2)
役者が舞台で死ねりゃ、本望じゃねえか居酒屋で、今評判の仲蔵の定九郎は、此村大吉という旗本が生き写し、定九郎は本物だ、此村大吉が定九郎だ、という話を耳にした。大吉と飲んでいた仲間は、当分やらせておいて小屋から酒代を出させればいい、と持ちかけます。大吉は自分の名前がどこから出たのか気になりました。居酒屋に来あわせた大五郎がいうには、両国河岸の花水の女将おみつの口がちょいとすべって、雨の晩かけ出して行った侍の格好が定九郎だと、しかも落してあった手紙の宛名が此村大吉であった、というのです。仲蔵贔屓の女がいると聞き、松平帯刀が一行を引き連れ花水にやってきます。大吉を酒の魚に飲んでいるところへ大吉が現れます。「先日は甚兵衛がお世話になった礼を申す」と帯刀に言う大吉。すると、直参の身が河原ものに取り乱した姿を真似られた旗本の面汚し、帯刀を相手に刀を抜くのか、と帯刀は言います。大吉「中村仲蔵とやらの定九郎をぴったりやめさせてから、此村大吉改めて礼に 参る」帯刀「確かに止めさせる気か」大吉「念には及ばぬ。この白羽にかけて」と刀を抜いて言います。市村座では、五段目になりましたが、定九郎が出て来ないので、観客が騒ぎだしています。二階席には帯刀が来ています。舞台裏では、此村大吉が乗り込んできていて大変なことになっていました。大吉「いや、承知できねえ。黒紋付きに白献上、大小朱鞘の落し差し。仲蔵、その なりで舞台に出りゃ、此村大吉覚悟があるぞ」 仲蔵「いえ、わっしは、けして、悪気があって・・・」悪気でやられてたまるか、直ぐに衣装を脱げと仲蔵に迫るが、舞台の幕が開いているので・・と止めに入り、仲蔵はうながされて舞台に向います。怒りおさまらぬ大吉、仲蔵を追いかけようとします。 五段目の幕が開きました。花道から定九郎が走っての登場です。 ⇒ 定九郎が見得を切った時、「待て」という声が聞こえ、仲蔵がそちらの方向に目をやると、正面舞台そでから、大吉が座員が止めるのをはらって出てこようとしています。大吉「此村大吉、うぬがそっ首叩き落としてやる」客席も舞台も騒然・・・その時、二階席から「下がれ」「此村、定九郎下がれ」の声がして、帯刀の手下の侍達が舞台の大吉を囲みます。大吉「下がれ、此村大吉が、この舞台預かった」帯刀「これでも食らえ」と盃を大吉に向って投げます。松平帯刀のこれが此村へのご挨拶のつもりか、と大吉。帯刀「それならば何とする」大吉「答えは一つ。此村大吉の許しなく、仲蔵の定九郎、この花道を一歩たりと も歩かせぬぞ」 帯刀「此村大吉、刀にかけてもか」大吉「男大吉、白刃にかけても」帯刀「その大任、帯刀がとうさせぬぞ」明日のこの時刻、この場所で勝負をつけようということになりました。大吉が、仲蔵を睨みながら花道をゆっくりと歩きます。仲蔵は大吉に向かおうとしますが座員に腕をかかえられ、花道を一歩ずつ下がっていくよりほかありません。 妙見堂も客席にいました。弱い者いじめをして、仲蔵の息の音を止めるようなものだと、大吉を憎みます。仲蔵とおみつが、境内を歩きながら話をしています。仲蔵 「わっしは、よくよく不運に生まれついた男だ。せっかく目が出たと思 えば・・思いもかけねえ邪魔者が・・・」おみつ「まるで、親方の息の根を止めるような、無慈悲な仕打ち・・」仲三 「おみっつぁん、わっしは覚悟を決めた。どんなことがあっても、明日の 舞台に出るぜ」おみつ「えっ、でも、それじゃ」仲蔵 「役者が舞台で死ねりゃ、本望じゃねえか。死ぬ気で考えついたわっしの 定九郎だ。脅かされて作りを変えたとあっちゃ、役者冥利につきりゃあ」 仲蔵の決心におみつも、出て立派に定九郎をやってほしい、仲蔵にもしものことがあったら、自分も生きてはいないと言うのです。仲蔵「ありがとう、おみっつぁん」 続きます。
2017年03月07日
コメント(2)
世間をアッと言わせて見せますよ此村大吉の父が亡くなりました。屋敷も身分もいらない、ただ自由が欲しいと思う大吉です。外は雨、小えんが江戸にいるのは怖いような気がする、二人で旅に出ようと持ち掛けますが、これでも旗本の端くれ、断りなしに江戸の外には出られないとつれなく言います。お酒を買いにいっていた婆さんが、今「此村はいないか」と偉そうに言う侍がいたと聞いて甚兵衛ではないかと・・・大吉は甚兵衛の家を訪ねます。甚兵衛は妙見堂の娘お松や大工の半次と同じ長屋に住んでいたのです。お茶を持ってお松が、酒を買ってきて半次が、と世話になっていたのです。甚兵衛は百両を使い果たしてしまい、今度は本当に目を治すので、もう一度松平帯刀のところに行って金をせしめよう・・と言いますが、大吉は「この間の一件はすでにばれている。帯刀の所へ行くのは暫く待て」と止めます。激しく降る雨の夜、江戸から逃げるように走っていく二人連れの姿がありました。雨がひどく途中で一時あまやどりをします。仲蔵「役者が初日を明日にして、定九郎の工夫もつかず、死ぬにも死ねず、こんな風に江戸を逃げるなんて。おみっつぁん、わっしは、情けない男だ」生きていれば、また花の咲く季節もある、とおみつは言います。仲蔵「わっしは、上方で修行を積んで、きっと立派な役者になり、世間をアッと言わせてみせますよ」二人は手に手を取りあって、また雨の中、上方に向って急ぎます。 同じ頃、大吉のところに半次が、松平帯刀の屋敷へ行くといって出かけた甚兵衛からの手紙を持ってきました。「待てぬ。帯刀の屋敷に乗り込む・・・」大吉は慌てて雨の中、甚兵衛を助けに行くために走ります。雷が鳴り、前も見えないくらいの大雨の中急いで走ります。大吉が走っていく前方に、仲蔵とおみつが小走りで雨の中を走ってきます。 大吉は傘で雨をよけるために半分傘をつぼめて走っていきます。仲蔵とおみつは笠で雨をよけながら体を寄せ合って走っています。(ひどい雷雨ですから、お互いに前方が見えずらい状態です・・・そこで事件は起こりました。)お互いがすれ違いざまに勢いよくぶつかってしまいます。 仲蔵は飛ばされ転んでしまいました。大吉は通り過ぎてから、仲蔵の方をすごい形相で振り返ります。転んだ仲蔵も大吉をじっと見つめます。 (甚兵衛のところへ急ぐ時にぶつかってきたのですから、腹も立ったでしょう。)息せき切りながら、仲蔵をじっと睨み、大吉「無礼者」仲蔵は、その大吉に吸い寄せられ、じっとみつめて・・・(仲蔵の中に、何かがひらめいたような顔をしていますね。) (右側の画像はちょっと見ずらいですがスチール写真からです。) そう言い放して、大吉は松平帯刀の邸へ向かって急ぎ走り消えて行きました・・その走る姿をじっと見つめたまま、仲蔵は、何かにとりつかれたようでした。 おみつが大吉が落していった手紙を拾います・・その浪人の名は此村大吉とありました。仲蔵は雨の中ずっと動きません。(大吉の姿から、定九郎役のヒントを得たのでしょう。この格好だ、これで行こう・・仲蔵はこう思っていたのです。)帯刀から金をせしめた甚兵衛でしたが、途中待ち伏せされて、大吉が駆け付けた時には斬られてしまいます。一足遅かった大吉でした。市村座の初日。「仮名手本忠臣蔵」も場面が進み、弁当幕といわれている五段目にきていました。客席では観客がお弁当を広げ食べ始めています。柝(拍子木)がなり、「九太夫がせがれ定九郎」と流れ、花道の引き幕が開きました。山賊みたいないつもの調子のものだろうと思っていますから、花道の半分までは誰も気がつきませんでしたが、途中から気がついたから客席は騒然となります。番傘をかざし、小走りに走って出て来た姿は、昨日の夜、仲蔵が雨の中で見た姿・・朱鞘を差し黒紋付き、まさに雨の中で見た此村大吉の扮装そのままだったのです。 粋な格好じゃないか、今までとは全然違う、惚れ惚れする、仲蔵は大したものだ・・・市村座は山崎街道の定九郎で凄い人気になります。定九郎の斬新な工夫が当たりました。仲蔵の父親である妙見堂とお松も芝居を見て大喜び。市村座の看板も五段目の朱鞘の黒紋付きの定九郎に換えかけられました。(橋蔵さまの芸の工夫に苦悩する歌舞伎役者中村仲蔵役ピッタリで、本当にすばらしいのです。所作、口調といい、江戸時代の役者がそのまま橋蔵さまに乗り移ったようです。そして、橋蔵さまが歌舞伎界にいた時をオーバーラップして見る方が多いのではないでしょうか。立役としての定九郎・・歌舞伎時代にはまだ、若く美しい女形をやっている時、橋蔵さまご自身も、まさかここでこの役をできるとは思っていなかったことでしょう。綺麗です。立役でも素敵だったでしょう。) 続きます。
2017年03月04日
コメント(2)
定九郎の役で、あっと言わせて見せるぜ芝居小屋、市村座に「仮名手本忠臣蔵」の看板があがりました。大工の半次と仲間が、役割の看板を見ながら話をしています。いい顔ぶれだ、江戸中の人気は市村座に集まると、得意になっている半次に仲間うちの勝公が聞いてきます。、勝公「おめえが贔屓の仲蔵っていうのは何処に出ているんだい」といわれ半次「それたんだ、俺もさっきから気にしてんだがなあ。また、出ていねえよ うだ」芝居小屋の周りは人気役者が駕籠でやって来たリして賑わっています。そうした中、誰にもふり向かれず、力なく歩いて芝居小屋に向う役者がいます。 彼は足を止め、小屋に掲げられている役割看板の方を見つめます。 半次が仲蔵の役割看板を見つけました。半次「なんで、おう、仲蔵五段目の定九郎じゃねえか。ちきしょう、勝公、この幕 はなあ、弁当幕っていってなあ、客が舞台に尻を向けて弁当を食いやがん だ」勝公「仲蔵ってえのは、そんなつまらねえ役者か」半次「どっちにしてもな、こんな山賊見てえな定九郎をやるような役者と役者が違 うんだ。ちゃんと判官か勘平のできる立派な役者だ。どっちにしたって、 仲蔵にこんな見当ちげえの役をつけた野郎がどうかしてるんで、可哀想に、 今ごろ仲蔵きっと泣いてるぜ」それを聞いていた仲蔵は小屋には行かず、来た道を戻っていきます。 仲蔵の姿が妙見様にありました。半次と勝公が話していたことを思い浮かべて、仲蔵は、定九郎をどのようにすれば見てもらえるのか苦悩しています。 妙見様への願掛けの帰り、易者の妙見堂に見てもらいます。「仲蔵さんとやら、あなたは自分で自分の運命に負けてはなりません。あなたの運勢は、きっと運が開ける」い言われます。仲蔵 「そうでござんしょうか」 (橋蔵さまの役者言葉のニュアンスがいいんです。魅かれちゃう) 顔にもその瑞相が表れているといわれますが妙見堂「しかし、肉親の縁の薄いお方じゃな」仲蔵 「おっしゃる通りで、わっしは、この世の中にたった一人でございます。 恥を申しますが、わっしが二つの年に、日本橋の親父橋の際に、捨てら れていたんだそうでございます。それを、さるお方に拾われて十の年に、 今の師匠中村伝九郎のところに弟子入りいたしました。役者になったか らには、芸一筋に生きたいと、一生けん命やってまいりましたが、・・ 何分こんな始末で・・」妙見堂が話を聞いていて身を乗り出します。 (何か思いあたることがあるようです。)妙見堂「それで、あなた様のご本名は」仲蔵 「捨てられた時に持っていましたお守りに、"幸"と書いてありましたので、 今では幸之助と」妙見堂「今でも、そのお守りをお持ちかな」仲蔵 「はい」 懐から取り出しながら仲蔵 「肌身離さずこうしてもっております」 お守りを開け札に書いてある"幸"という字を見て・・・(妙見堂は、はっきりと自分が捨てた息子だと確信したのです。)妙見堂は家に帰り、捨て子であったお松に仲蔵という役者が兄さんだと話をします。お守りの袋は、自分がつけてやったもの、捨てた幸之助であると。あんなに会いたがっていたのに、なぜ打ち明けなかったのか、とお松は言います。お松は、迷子になっていた自分を引き取って今日まで育ててくれたのだから、守様は許してくれる、どうか兄さんに会って名乗ってください、兄さんも会いたいと思っている、と言います。(ここから、相思相愛の仲蔵とおみつの場面に入っていきます。おみつは料亭の女将をやっているようです。年上なのかしら。仲蔵は役者ですから、簡単には一緒にはなれないですね。おみつは仲蔵を何とかして・・・と思い励ますのです。)仲蔵か、障子にもたれ暗闇の外に目をやっています。おみつが仲蔵の近くに寄っていって、おみつ「親方、どうしてそんな寂しいことおっしゃるんです。自分に合わない役柄 を何とかこなして見せるのが、役者の芸じゃありませんか」仲蔵 「そうは言っても、おみっつぁん、わっしには、とっても」おみつ「いいえ、どうして、どうしてこのおみつに、親方の舞台を、なぜ見せてく れないんです」 おみつ「役柄が合わないからって、ぶたいをなげだしたんじゃ、役者冥利につきま す。それに、折角口を聞いてくれた伝九郎親方にあいすみません。定九郎 の役でも、工夫一つで見物衆は見てくださいます。今までは、弁当幕だな ん て、誰がやっても面白くない役だけに、やりがいがあります」 仲蔵 「おみっつぁん、・・よく言ってくれた。何とか工夫して見よう」 おみつ「親方、うれしい。世間では、あたしのために、親方の御出世のおじゃま になったと・・・」仲蔵 「そんなことはねえ。そんな、世間の気兼ねなんか・・。おみっつぁん、 わっしは定九郎の役で、あっと言わせて見せるぜ」おみつ「親方」仲蔵 「おみっつぁん」 仲蔵はおみつに励まされ、定九郎の工夫を・・。初日はまぢか、どうなるのでしょう。ちょっと心配!!になってしまいますね。仲蔵さん、頑張って。 続きます。
2017年03月02日
コメント(0)
映画のあらすじに入る前に、ちょっと寄り道を。この作品の中に出てきます、橋蔵さま扮する中村仲蔵という人物と定九郎について。歌舞伎、講談、落語で有名ですが、ご存知ない方のために掻い摘んでお話させていただきます。まず、「仮名手本忠臣蔵・五段目」で、何故仲蔵の定九郎の型が残ったのか・・から(抜粋)五段目の定九郎の役はもともと野暮ったいどてらの山賊でした。仲蔵はそれを月代(さかやき)の伸びた白塗りの着流し浪人姿という扮装に変えてしまいました。注目は、仲蔵が当時の江戸市中の風俗を舞台にそのまま取り入れたという斬新な美的感覚の写実性です。仲蔵は山崎街道にいかにも現れそうな山賊姿を、江戸の御家人の次男坊あたりが勘当され、着るものもなく拝領の御紋服を着たままで雨にあたってずぶ濡れになった浪人姿にしたのです。舞台を観ていると観客にとって、そのあたりにいそうな浪人姿は写実(リアル)なのです。これが歌舞伎の写実化の流れを作っていくきっかけとなったようです。現在上演される「五段目・六段目」の舞台は、ほとんどが音羽屋型の洗練された写実の演出です。斬新だった定九郎の型が一時的なもので消えてしまわずに、音羽屋型の中でしっかりと位置づけがされているのは、仲蔵の型がドラマの本質をとらえていたからだと考えられます。では、仲蔵が考えた定九郎はどのようにして出来たのか(実話談落語「中村仲蔵」から抜粋)中村仲蔵は、浪人の子として生まれ役者になり、いじめにあったり苦労しますが、その才能を四代目市川團十郎に認められてから人気があがり、「仮名手本忠臣蔵」五段目の斧定九郎を、現在の演出に変えて演じました。立役、女形の他、所作事を得意としました。<柳島の妙見様に願掛けを行う場面があります。>中村仲蔵は五段目の斧定九郎の役だけを与えられます。当時の斧定九郎は、仲蔵のような名題のやる役ではなく、そのこしらえは山賊でした。仲蔵は、作りを新しくしようとあれこれ考えてみたが、どうしても工夫がつきません。この上は神仏のご利益にすがるより仕方がないと、柳島の妙見様に日参します。満願の日の帰り道、法恩寺橋までくると雨が降り出したのでそば屋に入ります。食いたくもないそばをあつらえて、工夫をあれこれ考えているところへ、浪人風の男が入ってきます。その姿を見て一気に定九郎の作りを考えつきます。そして、妙見様にお礼参りに戻るのです。山中貞雄の「中村仲蔵」という本があります。一部読んでみましたが、右太衛門御大と橋蔵さまでの作品にすると、なるほど脚本が生きてきます。お二人とも花のある方ですから、こういう設定でいくのが分かります。「朱鞘罷り通る」・・仲蔵が雨の中で此村大吉の写実として定九郎を思いつく場面、舞台上での此村大吉と中村仲蔵それぞれの意地のにらみ合い・・そして此村大吉と中村仲蔵の"男の友情"が描かれている作品を是非ご覧になってください。「朱鞘罷り通る」は題名の通り、朱鞘を差した旗本でありながら奔放な此村大吉物語なのですが、当時映画館に観にいった人の中には、一瞬中村仲蔵を主とした映画では・・・と思った人達がいたのではないでしょうか。橋蔵さまの仲蔵が綺麗でとてもよかった。映画の中の舞台での定九郎、花道からかけて来て振り返り見得を張るところいいんです。歌舞伎にいた時はまだ立役でなかったので出来なかった定九郎。橋蔵さまのことですから、昔の歌舞伎役者の雰囲気とともに、歌舞伎役者であったから恥ずかしくないものをと研究なさったでしょう。ただこの作品はあくまでも主人公は右太衛門御大の此村大吉、飛び出してはいけないのですから難しいところだったと思います。右太衛門御大とは第二作品目の「旗本退屈男謎の決闘状」では顔見せでほんの少しでしたが、この作品では大切な役柄になっています。橋蔵さまは、歌舞伎役者というはまり役での出演でした。歌舞伎時代の経験を十二分に発揮し、江戸時代の名優の姿を見事スクリーンに再現して、映画ファンはもとより歌舞伎ファンからも絶賛の拍手を送られました。(私も大拍手を送ります)橋蔵さまの仲蔵の素晴らしさに驚嘆するのみでした。この役に全てを打ち込み、その熱演ぶりはスタッフ一同鬼気迫る思いがしたと言われました。橋蔵さまは、こんなことを言っていました。「旗本五人男の此村大吉に励まされながら、芸道一筋に生きる役者中村仲蔵は、私の実生活を地でいくような役柄でした。私も劇中劇で定九郎を演じました。舞台出身とはいえ、立役をやったことがない私にとっては、見に過ぎた大役というものでした」(橋蔵さまは女形で評判になった時、映画に引きぬかれてしまったのですから、立役はまだの時でした。歌舞伎にいたら、次に襲名する名も決まっていた橋蔵さまですから、女形だけでなく、美しい立役も見せてくださる役者になっていたでしょう)此村大吉と中村仲蔵を描いた作品はいくつかあります。1929年阪東妻三郎さん主演、1954年鶴田浩二さん主演で「此村大吉」という作品があります。1954年は大映でマキノ雅弘監督が撮っていますが、どうもねえ・・・私は、右太衛門御大と橋蔵さまのこの作品に勝るものはないと思っています。(欲を言いますと、88分では物足りない、もう少し心理描写も描いてほしかったと思いました)第15作品目 1956年11月封切 「朱鞘罷り通る」 此村大吉 市川右太衛門中村仲蔵 大川橋蔵花沢小えん 花柳小菊松平帯刀 進藤英太郎 房江 浦里はるみ横井甚兵衛 山縣 勲 半次 星十郎中井左吾兵衛 有馬宏治 おみつ 喜多川千鶴妙見堂八右衛門 薄田研二お松 千原しのぶ大五郎 原 健策百両出せ無法な旗本が江戸の町にあふれていました。色事師此村大吉も朱鞘を一枚看板に好きなように毎日を送っていました。大吉のことでご公儀から注意を受け、それが原因で父親が病で倒れたため、家臣の中根左吾兵衛が大吉を探し歩いています。水芸花沢小えん太夫の小屋へ入りびたりの大吉で、今日もいつものように楽屋に行くと・・楽屋には松平帯刀からの引き出物が・・それを横目に仲間の一人が江戸を去るというので帰って行った。 (旗本松平帯刀は小えんに言い寄っているが、大吉がいるためいい返事をもらえないでいるのです。この恨みから、大吉にいろいろな手を使ってきます。)小えんを帯刀に世話をしようとしている大五郎は、大吉が出入りするのが気に入りません。今も大吉の出て行くのを見てやれやれと思っているところに、子分が町でおみつと仲蔵を見たと言ってきました。大五郎は早速おみつのところへ行き、こう言うのです。「仲蔵はおめえとできたばかりに舞台へ出られなくなった。役者が舞台へ立てなくなったら死んだも同然。仲蔵が可愛いんなら、素直に俺の言うことを聞いた方がいい」と。小えんの小屋を出た大吉は、仲間の会合に遅れた理由を話します・・来る途中に、武家風の女に呼び止められ鰻屋に連れて行かれ、色仕掛けと酒だけでなく、小判まで出してきたが、途中いなくなり、小判はニセ金、一杯食わされてしまったのです。仲間で旗本松平帯刀の用心棒をしている横井甚兵衛から、一杯食わせたのは帯刀の囲い者の房江で、帯刀が仕組んだことと聞いた大吉は、目の悪い甚兵衛の治療費もあって、甚兵衛と企て松平家に乗り込みます。三十両出して金で解決しようとしたが見向きもしない。甚兵衛が帯刀に相手が相手五十両で、それでも文句を言ったら用心棒として斬ると言います。廊下で二人が・・・大吉が「貴様、拙者を斬る気か」「百両出せ。それで二千五百石のお家が安泰なれば安いものだ。百両出せ。出さなきゃ、ニセ金を使ったあの女のそっ首叩き斬るぞ」、帯刀と房江に聞こえるようにして、まんまんと百両を巻きあげました。次回は 橋蔵さま扮する中村仲蔵の登場になります。 続きます。
2017年02月28日
コメント(6)
こうして呼べば、おとうが・・奥村丹後守が河北潟の視察にやって来たとき、お才が命をもらうと丹後守に短筒をむけます。お才 「命をおもらい申しますよ」五兵衛「お才、おまえ気でも狂ったのか」お才は可愛い子供を殺された時から、ずっと正気だと言います。要蔵「何を言う、あれはわしじゃない」と言うと、お才の行動を止めようと近づき短筒を取り上げようとしますが、その一発が丹後守の愛妾お扇の方に当たり負傷してしまいます。 丹後守を撃ちもらしたので次の作を・・大原はお扇の方の見舞品に毒を入れた菓子を殿様からといってもたせました。お粥もまだ食べられないお扇は殿様からの折角の菓子も食べられない。大野先生におすそ分けをすることにします。しかし、先生は私だけがいただくのは冥加に余ると・・それではと丹後守「拙者もご相伴いたしましょう」と菓子を取ります。大野先生は、五兵衛にも食べさせたいと持って帰ります。五兵衛「これは立派なお菓子ですな」一人で食べてもつまらない、みんなで喜びを分かち合おうと、分けて食べようとしていた時でした。 丹後守が殿様から頂いた菓子を食べた後、腹痛を起こしたとの知らせがきました。五兵衛「おい、その菓子を食うんじゃないぞ」奥村丹後守は毒殺され、執権に返り咲いたのは長大隅守と大原でした。埋立て工事をしている河北潟にある夜白い薬が投ぜられ、翌朝湖岸には死んだ魚が打ち上げられていました。五兵衛「要蔵、心当たりはないか」要蔵 「さっぱり分からん」五兵衛「工事に石張りでも使っているのではないかな」要蔵 「わしが知っとる限りでは、使っておらんです。石張りを使うとあんな風に 魚が死ぬもんですか」五兵衛「うん、場合によってはなぁ」大原は、死んだ魚を城下で売らせて、五兵衛をおとしいれることを考えます。例年五兵衛が善光寺参りに出かけている時を狙うというのです。お才を使って毒死した魚を売らせたため、多くの使者がでました。河北潟の工事をしていた人達が捕えられ、お白洲で一人が五兵衛の言いつけでと吐いたことから、銭屋の家族全員を召し取るべきとまで。要蔵は、五兵衛に知らせるため、旅先の旅籠に馬を飛ばします。五兵衛「よし、わしは闘ってやるぞ。例え屍を牢の中にさらしても、わしは 闘ってやる」要蔵 「おとう、わしも同じ覚悟だ」五兵衛「いかん、お前はここからすぐに逃げろ。そして、陰謀を企んだ奴の尻尾を 掴んで来い」要蔵 「はい」大原と長大隅は五兵衛を獄に投じ、毒薬をを用い病気のため獄死とすることで押し切ろうと考えます。食べ物に毒が入れてあるから7日から8日は食事をしないようにと獄医の言うことを信じ・・五兵衛は日に日に衰弱していきます。要蔵は、五兵衛に言われたように大原達の後をつけていました。大原と津本は、お才には用がなくなり斬ってしまいます。そして、冥途の土産にと、要蔵は息子の敵ではない、誤って自分で海へ落ちたのだと言います。大原と津本が去った後、要蔵がお才を助けます。お才「銭屋の若旦那、申し上げたいことがございます」 要蔵は、前田土佐守の屋敷にお才を連れていきます。要蔵「銭屋要蔵めにござります。父五兵衛の無実をはらすため、これに生き 証人を連れてまいりました。何卒、これの申し開きをお聞きとりください ませ、お慈悲でございます」銭屋五兵衛は大原と長大隅におとしいれられた・・河北潟に毒を流したのも、奥村丹後守を毒殺したのも・・・と言いお才は息絶えます。絶食をしていた五兵衛はお咎めなしが届いた時に、ガックリと倒れてしまいます。長大隅守には前田土佐守が上意をくだし、大原と津本のところへは上意により召し取りに行ったが、刃むかってきました。要蔵は外で成り行きを見守っています。大原が屋根の方から逃げようとしていたところを、要蔵が見つけ裏から屋根へ上がって行きます。(ここでは剣を持たない商人ですから、投げ飛ばされたりで、瓦屋根の上を何回も転げます。)その頃、五兵衛は大野先生が診ていますが、なかなか目を開けません。銭屋の家族も駆けつけます。要蔵は屋根に上り大原に向っていきます。 五兵衛が目を開けます。「・・・要蔵」と力のない声で呼びます・・また、「・・要蔵」と。要蔵は父のために大原と必死になって対決をしていました。要蔵が投げた水桶の水が屋根瓦に飛び散り、大原は足を滑らせ落ちてしまいます。 「要蔵」 「おとう」 「要蔵」 「おとう」五兵衛は力を振り絞り要蔵を呼び、要蔵は「おとう」と叫びながら父のもとへひた走ります。 前田土佐守が五兵衛のもとに、無実の罪に陥れられたことが全て明白になったことを告げます。長大隅守は切腹したこと、津本は召し捕られた・・あとは大原だけだ、「大原だけじゃぞ」と言うところへ、「おとう」と要蔵の声が・・要蔵が五兵衛のもとへ。要蔵 「おとう」五兵衛「要蔵か」要蔵 「おとう、大原の奴は召捕られました」五兵衛「馬鹿たれ、わしはなぁ、あんなちっぽけな奴はとうから相手にしては おらんわい」というと、土佐守にただ一つだけ心残りがあると。一日も早く異国と交わりを持たないと日本は取り残されてしまうと、訴えます。土佐守「分かった、分かったぞ五兵衛。その方の先見の目は、何時かは必ずこの 日本を 眠りから覚ますことになろうぞ」五兵衛「・・・うれしいお言葉を賜り、五兵衛死んでもわしの魂は要蔵が、わしの 魂を、要蔵が・・・」おまさの手を握りながら、海の百万石とまで言われた銭屋五兵衛は、その波乱の生涯をとじました。海辺に立っている要蔵とおてつ。「おと~ぅ」・・海に向って要蔵が何度も呼んでいます。要蔵「おとうに会いたくなると、ここでこうして呼べば、おとうが海の向こうから 帰ってくるような気がするんだ。お舞うも呼んでごらん」いつまでも海に向って「おとう」と呼んでいる二人でした。 (海に向ってのシーン、千恵蔵御大もいて、ダメ出しが何回もあり、橋蔵さまと千原さんは声がかれてしまったとか。納得できるシーンが取れるまでの努力大変ですね。それにしても、橋蔵さま何回「おとう」の台詞を言ったでしょう、すごいですね。) (完)「河北潟疑獄事件」で要蔵は一族と共に捕えられ、33才の若さで刑場へ。「海の百万石」と称された隆盛を極めた銭屋五兵衛とその一族は、この事件で無実の罪に問われ、お家断絶衰退してしまったようです。おてつは16才から銭屋の女中として頭もよく可愛がられていたようです。要蔵は養子に出されたのですが、離縁して銭屋に返って来て、おてつと仲良くなったようです。おてつは、要蔵が刑死したあと、鉄悟尼という尼になり、海月寺の庵主になったということです。「朧の刻」という小説があります。おてつが処刑された要蔵の首を、刑場から密かに盗み出したという逸話をもとに、要蔵の死後、よみの国から戻り、銭屋疑獄事件の真相と、夢の中で再び結ばれるという物語だそうです。
2017年01月23日
コメント(2)
わしは、両方考えます銭屋の所有船には、前田家の紋章を使って存分に商いをしてよい、ということになりました。河北潟に五兵衛と要蔵の姿があります。要蔵が、水が浅く魚が捕れない河北潟を埋め立てて、新田を開拓するのはどうだろうと言います。飢餓の時の用意にもなるし、沿岸の人も助かるのではないか、と五兵衛に言っています。すると、五兵衛は要蔵の案に賛成をします。五兵衛「うん、面白い。しかし、埋め立てはなかなかの大工事だが・・よし、 こいつは一つ奥村様のご意向を伺ってみよう」 要蔵 「ありがとう、おとう」(ここからは、恋が芽生えた要蔵にご注目ください。)蘭学者大野先生の家、おてつが薬の調合をしています。大野先生の講義が終わって、要蔵がおてつのもとへ・・手伝うといってやって来ました。おてつ「もう講義は終りましたの」要蔵 「うん」 (とってもいい感じなのです。自然でお姉さんに可愛い坊やが返事をしているみたい。)そして、要蔵はおてつに、自分が帰るとき、川の辺りまで送ってほしいといいます。要蔵 「実は、いつもいろいろ話したいと思っても、おてっちゃんが忙しそうに 働いているもんだから」(この時の要蔵の仕草がまた可愛い・・子供が物をいじりながらつまらないように拗ねるというか、そんな仕草をするのです。)おてつ「でも、外を歩くの、あたし怖いわ」要蔵 「怖い?」おてつは自分を女郎に売ろうとしている藤吉に会うのではないかと、要蔵 「なあに、わしがついているから、心配ないさ」大野先生が患者に包帯を巻くようにおてつに言います。すると、要蔵が包帯巻を手伝うと手を出しますが、先生から、その巻き方では・・おてっちゃんの方が包帯巻は上手いようだと言われ、照れ笑いをする要蔵です。 日本一の船常豊丸を造っている所に、五兵衛と妻おまさが様子を見に来ました。おまさは日本一の大船を持つ人の女房になるとは夢にも思わなかった、と幸せそうに五兵衛にい言います。五兵衛「あはははっ、この次は要蔵の嫁御の番じゃな」おまき「あたしも、この間からそのことを・・是非とも、銭屋の跡取にふさわしい 立派な嫁後をもろうてやらねばなりません」五兵衛「まず、心の立派なのが一番じゃ・・おまき、おぬしのようにな」(さあ、大変なことに。おてつの生い立ちがネックになるのでしょうか。どうなるのでしょう。要蔵は五兵衛とおまきが望んでいるようになるのでしょうか。)日本一の巨船、常豊丸の進水式が終わり、祝いの席が盛大に開かれています。しかし、要蔵の姿が見えません。五兵衛の心配をよそに、要蔵は家を抜け出し、おてつに料理を持っていったのです。要蔵「常豊丸のお祝いに配ったやつを一つ持ってきたんだ。おあがり」 おてつ「こんなご馳走、生まれてから食べたことがありません」要蔵 「みんな、お上がり」おてつが急に悲し気な表情をみせます。要蔵 「どうしたの⤴・・」(覗き込むように、とってもあたたかい感じでいうのよ。素直に育ったお坊ちゃまなのよ。)おてつは亡くなった両親にお弁当の中の一つでも食べさせてあげられたらと思ったら・・・と、要蔵 「ねぇ、おてっちゃん、もしあんたが嫌でなかったら、わしと夫婦になって くれないか。わしは、とうから心にきめておったのだが、いや、今すぐ 返事をくれんでもいい。よう考えてからでいいんじゃ」身分が違い過ぎるというおてつに、同じ人に生まれ身分の差などないという要蔵。そればかりではない、自分を女房にしたら、どんな災難がかかるかも知れない、とおてつがいいます。要蔵 「藤吉のことか。むろん、おぬしを嫁御にもらうとなれば、藤吉からの 借金のことも話をつけるつもりだ。二十五両という金は、今のわしには どうにもならぬが、わしはおとうに頼んでみようと思っている。 おとうならきっと、私たちのことを分かってくれると思うんじゃ。 何を泣くんじゃ」 おてつ「あまり思いがけなく、おまり夢のようなもので」要蔵 「そんなら、ええんじゃな・・ええんじゃな・・おてっちゃん」要蔵はおてつをしっかりと抱きしめるのでした。(橋蔵さまの言い方は、声もソフトですから、「おあがり」「みんなおあがり」「どうしたの」が、とても心地よいのです。こんな風に言われたら好きになってしまいます。)その夜、要蔵は五兵衛におてつのことを打ち明けますが、そんな金はびた一文出すことは出来ないと言われます。要蔵 「おとう、一生のお願いです。おとう、おてっちゃんと夫婦にさせて ください」五兵衛「いや、いかん。そんなことを考える前に、河北潟の埋め立て工事のこと でも考えてみろ」要蔵 「わしは、両方考えます」(そうですよね。要蔵にとってはどちらも大切なことだもの、さすがです。) (右側はスチール写真になります。)要蔵は部屋をでると、外で成り行きをまっている待っているおてつのところへ、要蔵 「だめだった」おてつ「そぅ」要蔵 「あんな、おとうなんか」しばらく思案しながら歩いていた要蔵の足が止まります。 要蔵 「おてっちゃん、こうなったら、二人で逃げるより道はない。逃げよう」おてつが頷きます。要蔵 「支度をしてくるから、裏口で待っていておくれ、いいな」要蔵は部屋に戻って身の回りの支度をして出て行こうとした時、近づいて来る足音が聞こえ、慌てて寝床に入って寝たふりをしていると、障子が開いて五兵衛が要蔵の寝ている様子を確認すると、何かをおいて去っていきました。要蔵は、足音が遠くなったのを確認し、出て行こうとして障子のところに包みがあるのを見ます。・・・開けて見ると二十五両が・・・「おとう」要蔵は有難くて男泣きします。 裏口で心配そうに待っているおてつ、その時窓が開き五兵衛が声をかけます。五兵衛「おてっちゃんかね。冷えるといかん、中へ入りなさい。・・わがままな 奴じゃが、頼みますよ」(この場面、見ていても思い出しても、目が潤んできてしまいます。五兵衛の親心がすごーく伝わってきます。)五兵衛の許しがもらえた要蔵とおてつ・・よかったですね。でも、喜んでばかりはいられないことが、これから起こります。おまさを五兵衛に取られたのを根に持つ大原と要蔵に息子を殺されたと思い恨んでいるお才が五兵衛をおとしいれてきます。 つづきます。
2017年01月20日
コメント(2)
船橋聖一の歴史小説「海の百万石」の映画化です。実際にいた人物銭屋五兵衛の映画化、三人息子がいたようですが、この作品は、そのうちの一人要蔵とのことを描いています。銭屋五兵衛は志を三つに分けて三人の息子に託しました。銭屋の経営・河北潟の干拓・五兵衛の志の実現。どれか一つしくじっても二つは生き残れる、ということです。要蔵が託されたのが河北潟の干拓でした。映画は、ここを脚色したものになっているのでしょう。要蔵の父親を呼ぶ「おとう」・・・要蔵と父親五兵衛の関係がとってもいいのです。時代劇と世話物に分けるとしたら「海の百万石」は世話物、東映としてはこの時期稀な作品だと思います。片岡千恵蔵御大主演の作品ですが、橋蔵さまという俳優との出会いがこの作品を本当にいいものにしたと思います。そして、橋蔵さまもこの時期にこの作品に会えたことはよかったことではなかったかな。要蔵は父親を尊敬し慕う蘭学を学んでいるお坊ちゃま。これから商人として成長して行くところを若い橋蔵さまは見事に演じました。剣も使わず派手な見せ場もない学者肌な男を見事に演じたということで、いままでチャンバラ役者としてのみ見ていた批評家たちも、一人の演技者として正しく評価するようになりました。この役は橋蔵さまにとって一つの試練でした。これを機に型の美しさにこだわっていた橋蔵さまが、のびのびと生きた人間を演ずるようななったと言われるようになりました。撮影の合間には、千恵蔵御大から教えをいただき、それに答えられると「よかった」という言葉が返ってくるのでとても嬉しかったようです。千恵蔵御大は初めて共演した橋蔵さまについて「カンがいい」と言っていたそうです。この後の千恵蔵御大との共演作品では、橋蔵さまはとても素晴らしい演技で答えています。「はやぶさ奉行」「血槍無双」「幕末の動乱」「お坊主天狗」「大勝負」と。「海の百万石」の撮影時、橋蔵さまはこうおっしゃっていました。「完全な町人役というものは初めてなので、いささか芸が生硬になったかもしれません。撮影日数が少なく研究する暇もなく、まだまだ映画新入生であることを痛感させられました。」いやいや、歌舞伎でならした橋蔵さまですから、商人としての歩き方、身のこなしは大したもの大丈夫です。話し方もいい感じで、初めてやる約とは思えないくらいです。こういう役のもの、世話物をもっと残してもらって見たかったですね。大映は、長谷川一夫さんと市川雷蔵さんが世話物を随分やっていた、女優さんもいっぱいいたし・・・東映は後半に錦之助さんがやっていましたが。橋蔵さまにはとても合うと思いましたし、橋蔵さま自身も世話物をやりたかったと聞いています。東映は、橋蔵さまを売るのには、ファンが期待をしている美剣士でいくことだけを考えていたのでしょうか。その分、橋蔵さまは年三回の1か月特別公演の舞台では、世話物を演目にいれたときもありましたから、その舞台を観られた方は本当に幸せだったのですね。市川右太衛門御大とは、第2作品目「旗本退屈男謎の決闘状」で共演していましたが、もう一人の片岡千恵蔵御大と共演ができる時がきました。では 1956年9月封切 「海の百万石」 要蔵、一生のお願いでございます加賀百万石前田藩にあった質商銭屋五兵衛は、侍を見返すような日本一の商人になろうと廻船業に転じました。銭屋はおまさと一緒になったが、前々から大原伴右ヱ門はおまさに強く執着していたので、銭屋への憎しみがとても大きかったのです。折あらば五兵衛を落ち入れようと策を練っています。そんな時、五兵衛の子要蔵と遊んでいたお才の子が死んだことから、お才は恨みを持つようになります。大原は津木治右ヱ門を使ってお才の過去を知っていると脅迫し、お才に五兵衛の密貿易の証拠を探るように命じます。文政八年、外国船内払令の強化とともに、銭屋の蜜貿易の噂も問題となります。長大隅守や大原らの反対にも拘わらず、奥村丹後守の主張が通り奥村が藩の執権となると、五兵衛は永代お船切手まで拝領して、藩の財政立て直しにも尽力していました。ある日、五兵衛はみんなの労をねぎらうため女歌舞伎に出かけ、そこで役者になっていたお才と会うのです。お才と大原の罠にはまった五兵衛は、やっとの思いで蘭学者大野弁吉の家にたどり着きます。時は流れ、天保七年、飢餓が襲い民は暴徒と化し・・銭屋にも飢餓の民たちが群れをなして押しかけてきました。(青年になった要蔵が登場・・我らが待ちに待っていた橋蔵さまの登場となります。)要蔵 「みな、まってくれ、まってくれ。みなが苦しいのはよう分かっとる。 しかし、うちの米蔵の米は御上の御用米なんだ。御上の命令無しには、 たとえ家のものとて指一本触れられない御用米なんだ」 終止がつかないところへ、五兵衛「待て」 と静止にはいる。「要蔵、もうええ、止めとけ」要蔵 「しかし、おとう・・」五兵衛「もう、ええ」五兵衛は群衆を米蔵へ連れていき、一人一升で我慢してくれといい米蔵を開けます。大原伴右ヱ門は、奥村丹後守が弾圧の手を伸ばしてくる前に、五兵衛を召し取りでっち上げれば手が出なくなる、と長大隅守に言いますが時期を待てと言われます。場所は変わって、蘭学者大野弁吉の家。大野先生のところで要蔵は今日も熱心に洋学を学んでいます。大野「例えば、この船だ」要蔵「黒船でございますな」大野「蒸気船と言ってくれたまえ。即ちこれは蒸気の応用、テレグラフは エレキの応用。すべてこれ学問学理の応用にすぎないのさ」要蔵「はあ・・」 大野先生のところからの帰り道、本を読みながら勉強をしながら歩いていると、何かから逃げるようにやって来た娘にぶつかります。(脚本は?蜆売りの娘おてつにぶつかって蜆を散乱させてしまった縁で知り合い恋をするようですが。)道すがら事情を聞くと、おてつは両親はなくおばの借金のために二十五両で女郎に降られるのだ、というのです。要蔵はおてつにそれだけ(女郎に売るのだけは)は断った方がと言います。 おてつは泣くばかり。それを見て、要蔵は懐から手拭いを出し、要蔵「さぁ、もう泣かないで」と、おてつに差し出します。(やさしいなぁ。とっても言い方がいい感じなのです。こんな風に言われたら、あなたなら要蔵をどのように思いますか。)おてつの足元を見て、裸足だったので洋装「あっ、これを履きなさい」 と言って、草履を脱ぎます。おてつ「いいえ、よござんす」要蔵 「足を切るといけない。わしは足袋を履いているから大丈夫だ」おてつ「でも、そんなにご親切にしていただいて」要蔵 「さっ、履きなさい」と言って、おてつに草履を履かせます。 (まあ、ここまでしてあげるの、優しいのね。)要蔵はおてつを見て、この笑顔を見せます。おてつもにっこりとします。要蔵 「やっと笑いましたね」 おてつは、もう家には帰れないといいます。(要蔵がいい男で優しい人だからといって、会ったばかりなのに少し甘え過ぎですよね。)要蔵、悩んでいましたが、何やら思いついたようです。要蔵 「そうじゃ、よい思案がある。おいで」おてつの手を取り、大野先生のところへ行ったのです。蘭学者大野先生宅要蔵「先生のお情けにすがるよりほかございません。要蔵、一生のお願いでございます」 (要蔵さん、一生のお願いということばに、おてつが何故にそこまでというような顔をしていますよ。)大野「それほどまでに、この娘さんを」要蔵「はい」(やはり、一目惚れだったのですか。) 大野「よろしい、かくまってあげよう」要蔵「ありがとうございます」おてつをかくまってもらい嬉しい要蔵ですね。でも、これから五兵衛にも要蔵にも苦難が待っているのです。 続きます。
2017年01月18日
コメント(1)
気になるか・・では、名乗ってやろう田沼は錦が男であることを随分前から見抜いていたようです。牢へ入れられた錦の姿が・・そこは身の軽い大八です。天井から抜け出し、三日月お才の家に帰っていました。 (ずぅーと錦に浸っていた私達に、今度はガラッと変わり町人・・はつらつとした若衆姿を見せてくれます。この映像が映った時は、観客は錦から大八への変化にと感動ものだったと思います。大八、涼やかでいい男です。)お才「お前さんに間違いがなくて何よりだったよ」大八「うーん、しかし、折角大事なものの在りかを突き止めたはずの腰元さんが、 西の丸へ連れて行かれてしまったんだ、何とか腰元さんを」お才「腰元さん?もしやその人は文江さんていう人じゃないかい」大八「お前さん、どうしてそんなことを知っているんだ」 その時襖が開いて、訳は自分から話すと越坂が現れます。大八「お前さんは、いつか上野の森で・・」越坂「この前は寺小姓、今日は町人。なかなか器用に変わられますな」 ちょっと間をおいて、越坂「時に、山縣大八殿」大八「えっ」越坂「実は、文江は拙者の妹です。拙者は越坂玄次郎と申すもの」~山縣大弐先生の門下で水戸家の家臣と言えば、我々兄弟が「入門控」を命をかけて探しているか分かるはず~と越坂が言います。越坂「~帰するところは同じ目的、悪政田沼を倒し、山縣先生のご意思、勤皇の 大義を世に広めんがためのはず」大八「そのお言葉を聞き、大八、百万の見方を得たような心持ちがいたします」 (橋蔵さまは、この時期はまだ線が細いですから、大友柳太朗さんの越坂と映ると・・小さく可愛く見えてしまいますね。)西ノ丸、家基の寝所へ文江を助けに忍び込んだ狐の面、越坂、大八がいました。文江が無事なことに、優しい笑みを見せる大八。 文江「あっ、あなたは」大八「文江さん」立ち上がろうとしてよろめいた文江は、とっさに駆け寄った大八の胸にすがりつきます。この時二人には、恋が芽生えていたのですね。町中、捕り方が網をはっているために、越坂の友人である築地の堀正太夫のところに身を寄せることになります。治外法権で公儀も入れない場所なので、かくまってもらうのには絶好の場所でした。大八と文江は、そのような中で親密になっていきます。かんざしを文江にいつ返そうか迷っている大八、大八が声をかけてきてくれるのを待っている文江です。大八が近くに来たので、ベンチの座っている場所をずらす文江、そこへ腰かける大八です。 文江「あっ、これはわたくしの」大八「そうです、いつかあなたが落したかんざしですよ。帰そうと思いながら・・ その折がなくて・・・今まで大切に持っていたんです、お守りだと思って ね」(こんな台詞言われたらいちころですよね。) 大八「私は大分、文江さんに嘘をつきましたね」文江「あぁ、お小姓になっておられた時」大八「それから、このかんざしが落ちた時」文江「本当に」ぎこちなかった二人の間がスムーズになったようです。笑顔で笑いあえるようになりました。大八「許してくれますか」文江「ええ」大八がかんざしを返そうとすると、持っていてくださいと、軽く手で押し返します。(橋蔵さまご自身おっしゃっていますが、女形の時代が長かったため、はっ、と気がつくと足が内またになっている時が、随分あったと。ここでも、ベンチに腰をかけている時、ちょっと足が内をむいているように見えます。撮影は順序よくは撮っていませんから、この場面から何故か私には、錦の雰囲気が少しある大八にみえました。動きがしとやかでね。橋蔵さまの声音、響きがいいですね。語尾や言葉を発するのを強くしないのが橋蔵さまです。すごーく優しいトーンでいいますから。そうそう、女性とのこのようなシーンは初めてでした。こちらが緊張して恥ずかしくなってしまいます。橋蔵さまも、これからの作品ではラブシーンが多くなってきますから、ファンは覚悟が必要だったでしょう、見たいような見たくないような、複雑な思いが・・・。)田沼から、オランダ甲比丹の接待についての席に堀正太夫も呼ばれました。接待の方法として、白無垢姿の花嫁の贈り物をしたらよいのでは、と話は決まります。その花嫁には、山口屋が以前田沼に差し出したおかんに決まりました。(おかんは、越坂達が匿っていましたが、留守をしている時は、岡っ引きに見つかり連れ戻されていました。)越坂が、水戸家から甲比丹屋敷に戻ってきました。越坂「大八殿、いよいよ、最後のときが来ましたぞ」大八「では、今夜にでも」越坂「さよう」田沼邸に越坂と大八が押し入り、仕掛け棚から「入門控」を取り出そうとした時、「曲者」と家臣たちに取り囲まれてしまいます。 (ここから立回りです。)大八は「入門控」を手に取り白刃を掻い潜り越坂に渡すと、二人は別々に・・大八、田沼邸から外へは出られましたが町方にも囲まれたため、橋の上から川へ飛び込みます。(ここでやっと立回りが見られてスカッとしました。やはり、東映の時代劇は立回りが気持ちよいです。作品の画像からですと動いているのでうまく画像が決まりません。スチール写真ですとこのように。) オランダ甲比丹が長崎よりやってきました。2日目の田沼邸での接待の宴です。喜んでいるのを見て、もう一息で思いのままにできる、入門控などなくても大丈夫という田沼です。宴もたけなわになり、皆が狐の面を被った花嫁行列が入ってきました。「狐の面とは妙だな」という田沼に、「狐の嫁入り」という趣向だと正太夫が答えます。駕籠が正面で止まり開きます。白無垢の花嫁が出てきました。音曲が止み静かになります。「今宵の媒酌人は、かくゆうお狐じゃ」と言い、田沼自らが花嫁を迎えに行きます。(田沼は、花嫁はおかんであると思っています。)花嫁の手を取り歩いていたその時、花嫁が足を止めます。白無垢の花嫁が、口を開きます。大八「田沼」田沼「なに・・」大八「山縣大弐の名を忘れはしまい」田沼「おのれは何者だ」大八「気になるか・・では、名乗って野郎」 綿帽子を取り白無垢を脱いで侍姿になった大八です。大八「山縣大弐の一子、大八だ」田沼はびっくり、周りも慌て出します。大八「あはっはっは、驚いたか意次」生かして表に出すなと田沼が言います。(最後の立回りです。) (まだ仕方のないことですが、体の線が流れるところが見受けられます。立回りとしては、鼻がけ黒装束での立回りの方が、私としては好きです。刀での立回りでは、まだ顔でのキメが出来ていません。橋蔵さま独特の斬ったあとの見得を切るではありませんが、あの仕草が早く見たいものです。でも、凄いでしょう、立回りで片足でも動けちゃうのです。)大立ち回りをするも大八危機一髪のところに「上意」の声が聞こえました。公儀大目付の資格をいただきやって来たのは越坂玄次郎です。私腹を肥やし国禁を犯した罪で、田沼に切腹を申しつけると、裃を脱いで切腹をするように見せ、越坂に斬りかかったが、大八の刃に倒れます。越坂「お見事」大八、お才一味は、水戸家お預けになるようです。大八と文江の様子を見ていた越坂が言います。越坂「大八殿」大八「はっ?・・・」越坂「これからは拙者のことを兄上と呼んでもらわねばなりませぬな」大八「・・はっ・・」越坂「しかし、余り見せつけぬよう、今から頼んでおきますぞ」 めでたく納まりました。ハッピーエンドで痛快で気持ちよい作品でした。 (完)「復讐侠艶録」は大友柳太朗さんが主役で、橋蔵さま共演なのですが、ストーリーが橋蔵さま扮する錦と大八がしゅになっているのと、作品に出ているのが多いので、ちょっと勘違いをしてしまいます。大友さんと橋蔵さまは公私ともに仲がよくなって、お互いの作品に、大友さんの作品には、掛け持ち作品が支障を来たさない限り橋蔵さまの出番が随分あるものが多いですね。橋蔵さまの女装(大八が錦として女になって)綺麗でしたね。薄化粧で女にはなっているけれども実は・・というところをチラッチラッと見せつけます。橋蔵さまが、女性の姿での作品は「復讐侠艶録」と「雪之丞変化」だけでした。雪之丞は女形の役者としての演技ですから、女としての完全な女の仕草ではありません。それだけにこの作品の女"錦"に扮した橋蔵さまの仕草・所作は貴重なものです。
2017年01月12日
コメント(0)
「田沼の首」・・といったら凌雲院の小姓をする錦は、田沼意次の眼に留まり田沼の屋敷に奉公することになり、その夜には田沼の屋敷にいき、部屋を用意されます。今日は遅いのでゆっくり休むようにいわれます。一人になった錦は・・何をするつもりでしょう・・部屋の様子を見回しました。 (何かするような雰囲気です。)夜が更けた頃、腰元の文江が動き出しました。見廻りの者が来たので慌てて錦が与えられた部屋の前の物陰に隠れていたのですが、近づいて来るのでどうしようか困っていると、部屋の障子が開いて、黒装束姿の男が部屋に引きずり込みます。文江が何か言おうとした時、大八「待った」小さな声で言い、文江をかばうようにして、見廻りの者が通りすぎるのを待つのですが、この時文江のかんざしが落ちてしまいます。音がしたため見廻りの者が錦の部屋の前でいったん立止まりますが、そのまま通り過ぎていきます。ほっとして胸をなでおろした時、文江が慌てて大八の腕の中から離れます。 文江「あなたは、この前の」大八「またお目にかかりましたね」文江「そのお声は、あの、もしや昼間の」大八「昼間の?へっへっへ、冗談で。あっしはおめえさんに会うのはこれで まだ2度目ですよ」 (この時、文江が落したかんざしを大八が手に持っています。)大八「それよりおめえさん、何を探して夜中に歩きなさる。もし、お差支え なかったら話していただけませんか。あっしはこんな男だが、もし お役に立つなら、と思いましてね」文江「あなたこそ、何を狙ってたびたび忍びこむのです」大八「・・(文江の顔色を見るように)田沼意次の首、といったら驚きますか」 文江「何のために」大八「仔細のことはちょっと言えませんが、これも人助けになると思っているん ですがねえ」(大八、手に持っていたかんざしを、話をしながら懐に締まってしまいます。)文江「あたくしは、山縣大弐の入門控を探しています」大八「えっ、山縣大弐の・・・」文江「あのぅ、お名前だけでも・・」大八それには答えず、大八「どうやら、大丈夫のようだ。さっ、今のうちに早く・・きっとまたお会い できますぜ」(何回も言ってしまいますが、橋蔵さまは鼻掛けが本当に似合います。顔のバランスと輪郭がよく、すっーととおった鼻でしょう、バッチリですよね。体の線も綺麗で、筋肉質で細く綺麗な足、お尻の形もよい、といい所ばかり。)田沼の屋敷では宴会が開かれています。山口屋がお礼のお返しの贈り物だと差出したおかんという女の人形ぶりを見ていて満足な様子の田沼です。その最中、金色堂では、見張りの者たちが大八にやられ、三日月お才の率いる狐の面一味が大介の手引きで財宝をいただきに金色堂に入ります。大八「不浄の財宝だ。遠慮はいらねえ、残らず頂戴するがいい」引き上げる時、お才が大八に心配そうに聞きます。お才「あんたの方は、いつやるつもり」大八「それが、悔しいが、なかなか隙がありそうじゃねえ。それに実は、探し物が 一つ増えましてね」お才「探し物?」大八「まだ検討はつかねえが、田沼の居間にあることは間違いねえ。なあに、 2,3日中には手を入れてみせますよ。あっ、気をつけてけえんなせい」 お才は小兵ヱに、錦のことが気になるのでもう少し様子を見てから帰る、というと田沼の屋敷に戻って行きます。お才たちを見届けて、大八は部屋を戻り、錦の装束をまとっています。「殿のお召しでございます」錦を迎えに来ました。障子が開くと、そこには艶やかな錦が座っています。錦返事をして、しとやかに歩き田沼の待つ大広間へ・・。 小兵ヱ達は盗んだ物をやっとの思いで塀の外へと出したところに・・越坂がいたのです。宴席に錦がやってきました。田沼「今宵はまた格別に艶やかじゃのう」酔って田沼が錦を見つめます。錦は、視線を田沼から外します。田沼「どうじゃ、予の意に従う気持ちには、まだならんか」 よい返事をしない錦に、錦以外の女には目もくれない証拠にと、贈り物のおかんの首をはねるというのです。無意気の殺生でなく、錦に対する心意気だ、と田沼が言います。おかんを庭に連れ出し切ろうとしたとき、戻ってきたお才が、そして越坂が助けに入ります。そこへ、家臣が、金色堂が大変だと・・田沼は慌てて金色堂へ向かいます。その様子を見て、錦はこの表情です。 (「ざまあみろ」という感じですかしら。)おかんとお才を助けた越坂がお才に、「お前の稼業は、昼は口入屋、夜になると狐の面を被るのか」といい、「狐の面は勤皇の厚い志と聞く、それに面白そうじゃ」仲間にいれてほしいというのです。田沼の屋敷から娘を連れだされたこと、金色堂が荒らされたことで、町方の動きが厳しくなりました。ある日の田沼の居間。「入門控」を隠しているところを覗き見していた文江が見つかってしまいます。誰に頼まれたと尋問します。田沼「申せ、錦に頼まれたか」文江は偶然通り合わせただけと答えていた所へ、錦が来ました。 (助けに来たのです)こんな所で何をしている、と錦が文江に言います。田沼「錦、その方こそ、ここへ何しに来た」(雲行きがおかしくなってきました。錦に不審を抱いたようです。)文江に所要を頼んだが遅いので見に来たのだ、と。文江は覗き見などはしない、許してほしいと錦が頭をさげます。田沼「そなたの心次第では、許さぬものでもない」(どういうことでしょう、意味深ですね。錦さん気をつけてね、折角いつでも敵を討てるところにいるのだから。)(錦はどういう事かというような表情をしますが、「なんでしょう」というように柔らかい表情になり田沼の顔を見ます。) 錦の表情を見て、文江は許され部屋を出て行きます。ここからしばらくは、橋蔵さまの錦と進藤さんの意次のやりとりになります。言葉一つ一つに、表情一つ一つをご覧ください。作品を見てほしい。そして、田沼のことばに対しての感情を目の動きで表現する錦をずっと追って見てください。田沼は錦に、心願の成就叶うまでは男に近づかないと言い張っているが、どういう訳だと聞いてきます。錦が黙っている様子を見て、田沼「言い訳としてはまずいのう、錦」錦、はっとします。すると田沼は錦の腕を取り、田沼「こう腕ずくに出たらどうする」錦 「お許しくださりませ」 (錦我慢です)田沼「あっはっはっは、そのしおらしさ、よく今まで続いたのう」錦 「何と仰せられます」田沼「どうじゃ、とことんまで争ってみるか」錦「なりませぬ・・お放しなさいませ」田沼「いいや離さん。この手この骨組み、これが果たしておなごのものか、あくまでも体に聞くのじゃ」 大老までになろうという男だ、目蔵ではない。初めのうちは騙されはしたが、合点のいかない数々、男であることにいつまでも気がつかないと思っていたのか。田沼「今日こそはとっくりと仔細を聞こう。その方、何ゆえあって当屋敷に女と偽り屋敷に住み込んだ、真の名前を申せ、何ものじゃ」 (田沼に見破られた錦ですが、我慢に我慢して、本性は表しません。(普通だったらこのあたりで「分かっちゃやってられねえ」とか言っちゃうのですが。弁天小僧ならもろ肌脱いでいなおっちゃいますよね。)錦の細かい眼の動き、我慢をして、ここまできても男ということを白状しません。)進藤英太郎さんは重みがあるにくたらしい役がうまいですね。橋蔵さまとのこのような場面は見ごたえがあります。橋蔵さまの目の動きが綺麗に細かく動きます・・目が田沼の言葉に対する錦の心情、感情の込みあげをてき面に表しています。画面も橋蔵さまのアップです。完全に橋蔵さまの、語れる目での演技になっています。錦が何も言わないので、家臣に、田沼「容赦はいらん、体に聞け」その言葉と同時に、錦の体が動きます。振り切って逃げようと抵抗しますが・・(無理) その時、西の丸様(徳川家基)が立ち寄られた知らせを受け。錦を牢に監禁しておくよう言いつける。徳川家基を歓迎しての席、腰元文江が家基の目に止まり、田沼に文江を差し出すように言います。そのころ、家臣たちが慌ただしく動いていました。牢に入れた錦がいないのです。天井が開いていて、着物が脱ぎ棄てられています。大八の女装錦の艶やかさをたっぷり見せてくれた場面でした。錦はどこへ行ったのでしょうか。目指すは同じ田沼、、大八、越坂、文江、お才はこの後どのようにかかわるのでしょう。 続きます。
2017年01月08日
コメント(2)
全56件 (56件中 1-50件目)