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二年前に当地で行われた鼓童の演奏会。知るのが遅く、チケットを取ることができなかった。今年になってから盛岡芸術振興財団からのメールで、盛岡で公演があることを知り観に行った。てっきりマリオスでの公演だと思っていたが、何を思ったか、車に乗ってからチケットを確認したところ、なんとキャラホールでの公演だった。危うく間違えるところで、全くやれやれだ。「鼓童ワン・アース・ツアー2024」というツアーは1984年から始まり、今年で40年という長い年月続いていることは驚異的だ。団員の不断の努力もさることながら、スタッフや新曲の導入など、常にリフレッシュを続ける姿勢にも頭が下がる。もちろん、聴衆の支持がなければ成り立たないが、彼らの絶え間ない努力が聴衆に支持され続けているからこそ、ここまで続けられているのだろう。なによりも、日本人のDNAに直接響くような音楽であることが、続いている理由ではないだろうか。鼓童の前身である「鬼太鼓座」の頃から何度か観に行っている。最初はもう50年近く前のことだ。あまり記憶に残っていないが、その古い記憶と比べるとだいぶ様変わりしている感じがした。メンバーはもちろんのこと、ステージそのものがかなり洗練されている。踊りが取り入れられたり、ステージ上の楽器の配置換えがあったりするなかで、音楽(横笛)が流れており、切れ目のない進行が印象的だ。「最初は休みなしの80分」と聞いていたので、物足りないかと思ったが、全くそんなことはなく、大変充実したコンサートだった。以前観たときと大きく変わっていて、ショー的な要素が増え、飽きさせない構成になっていた。狂言を思い起こさせるようなナンバー(興)やバック転などもあり、驚かされた。プログラムの大半は聞いたことのない曲で、編曲物を除き、ほとんどが2000年代になってからの曲だった。作曲者は石井眞木(1936-2003)と、と原田敬子(1968-)の作品を除きメンバーの作曲。筆者にとって驚きだったのは、石井眞木の「モノクローム」がいまだにレパートリーに入っていたことだ。この曲は最初、オーケストラとの「モノプリズム」(1976)が発表され評判になり、グループ単独でできる「モノクローム」(1976)が作られたと記憶していたが、オフィシャルサイトを見ると逆だった。昔から好きな曲で、この鮮烈な音楽は今でも健在だった。大変な緊張と持続力、それに一糸乱れる統率力が必要だ。ところが、録音だけを漫然と聞いていると、そこまでは分からなかった。生を聞いて初めて聴き手にもそれが伝わってくることが実感された。「富岳百景」というアルバムに収録されている同曲を聞き直したが、音が軽くて迫力がまるで違った。録音には収まりきれないサウンドなのだろう。その他記憶に残っているのは「大太鼓」。二人の奏者が客席に向かって縦に並んで演奏していたため、後ろ側の奏者は見えなかった。音も客席側の奏者に比べて小さく感じた。それにしても、裸になった奏者の肩の筋肉がすごい。背骨のところまで筋肉がついていて、日ごろの厳しい鍛錬が想像できるほど。全体を通して、厳しい鍛錬の賜物であることがよく伝わり、現代では稀な体験だった。今でもマラソンなどを行っているのだろうか。期待していなかったアンコールも二曲演奏された。最初の曲はジャズのリズムが刻まれ、太鼓のソロが回されて、まるでジャズのジャムセッションのような感じで大変面白かった。CDも最近はあまり聞いていないが、たくさんリリースされているし、動画も多数YouTubeにアップされているので、しばらく彼らの音楽に浸りたいと思う。鼓童:ワン・アースツアー20241.平田裕貴:兆(Kizashi) (2019)2.平田裕貴:祝福(2024)3.石塚充:Stride(2010)4.住吉佑太:山影(2024)5.鼓動編:木遣り~三宅6.原田敦子:鬼より第1曲<E>(2022)7.石井眞木:モノクローム(1976)8.三枝晴太:きざみ拍子(2024)9.前田順康:興(Okoshi)(2021)10.前田順康:nat.11.鼓動編:山唄12.鼓童編:大太鼓13.鼓童編:屋台囃子鼓童2024年9月23日キャラホール 12列32番で鑑賞
2024年09月27日
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筆者のハイレゾ再生環境は、ネットワークプレーヤーやDACをアンプに接続するというもの。普段は、アンプに接続したネットワークプレーヤーで音楽を聴いているが、ごくまれにファイルが再生できないことがあった。原因が分からないため、その音源はネットワークプレーヤーではなくiPadにDACを接続し、ヘッドフォンで聴いていた。他のアプリでは問題がなく、ネットワークプレーヤーに接続すると再生できないため、原因はネットワークプレーヤーにあると思われた。NASに保存されたデータを再生中に、データ転送が重なると問題が発生するのかと思い、データ転送中はネットワークプレーヤーを使用しないようにしていた。メーカーに問い合わせたが反応がなかったため、放置していたのが6月頃のこと。しかし最近、購入した音源が全く再生できないという問題が発生し、筆者の推測は間違っていたようだ。この状況はさすがにまずいと思い、再度ウェブサイトを通じてメーカーに問い合わせた。今回は運よく返答があり、問題を相談できた。後日、メーカーからの連絡で、再生できないファイルを送ったところ、やはり再生できないことが確認された。調査の結果、ファイルのコメント欄に情報が書き込まれており、それを削除してwav形式に変換し、再度flacに戻すと再生が可能になると説明された。このネットワークプレーヤーが発売された当初は、flacファイルのコメント仕様がまだ統一されていなかったとのことだった。ソフトウェアの修正は、開発部門が解散しているため対応できないので、前述の方法で対処してほしいとの指示だった。そこで同じ手順を試したが、変換したwavファイルも再生できなかった。頓挫しかあったが、取りあえずネットワークプレーヤーを初期化した時に削除されたディレッタ(オーディオ用高音質伝送プロトコル)を再インストールした。さらに、KAZOO(ネットワークプレーヤーのコントロールソフト)を操作中にネットワークプレーヤーの設定を変更してしまい、KAZOOが動作しなくなったためKAZOOを再インストールしたところ、なぜか再生できなかったファイルが再生できるようになった。さらに、他の音源もチェックすると、すべて問題なく再生できた。これによって、メーカーで再生できるようになった理由が分からなくなったが、メーカーに連絡したところ、関連があるはずがないとの返答をもらった。不具合のある音源はすべてeclassicalの音源だが、ここからダウンロードした音源の大部分は問題なく再生できているので、やはり何かが違うのだろう。結局、原因は不明のままだ。仕方がないので、今はこのまま使い続けるつもりだ。ネットワークオーディオでは、説明のつかない現象が発生し、技術として完全に確立されているとは言い難い。今後も気長に付き合っていくしかないと感じている。まあ、解決はしなかったが、とりあえず聞けなかった音源が聞けるようになり、長年のもやもや?がすっきりした。
2024年09月25日
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ノルウェーのヴァイオリン奏者、ヴィルデ・フラング(1986-)の新作がリリースされた。今回は、彼女が録音を切望していたエルガーのヴァイオリン協奏曲(1910)のアルバムだ。この協奏曲の楽譜の献辞(ここに・・・・・の魂が祀られている)はエルガーの助言者であるアリス・ステュアート=ワートリー(ウインドフラワー)といわれているらしい。第1楽章の第2主題は彼女のために作ったと言われる。オーケストラの序奏からとても熱っぽく、悲しみを帯びて濃厚な表現。ソロ・ヴァイオリンは深みと艶のあるサウンドで、気迫がこもり、切々と訴えかけてくる演奏だ。聴き手の心をざわめかせるような弦のサウンドから始まる第2楽章も、淡彩画のような色調ではなく、コントラストが際立った濃密な表現で、聴き手の心を鷲掴みにする。超絶技巧を要する第3楽章では、彼女の気迫に満ちた、胸のすく様な技巧が堪能できる。後半第1楽章の第一主題が帰ってくるところからは始まるオーケストラ伴奏付きのカデンツァも、しみじみとした抒情の感じられる意味深いものだ。エルガーの考案による弦のピチカート・トレモロも印象的だ。それまで暗めのムードであったのが、次第に明るさをまして、堂々たるエンディングを迎えるところは感動的だ。オーケストラもフラングの熱気に当てられたのか、熱い表現で、ソロとの一体感が強く感じられる。筆者はこの曲がこれほど素晴らしいと思ったことはない。エルガーのチェロ協奏曲が、曲が進むにつれて尻すぼみ気味になるのに対し、この協奏曲は最後まで熱っぽさと緊張感が保たれ、はるかに優れているように感じられる。この演奏を聴いたからだろうか。。。参考までに架蔵していたヒラリー・ハーンの演奏(2003 DGG)を聴いてみた。彼女特有のクールな表情で、バックもソロに肉薄するわけではなく、今回の演奏に比べると印象が薄い。録音も今回に比べると些か古さを感じてしまう。フィル・アップはエルガーの「カリッシマ」とウィリアム・ロイド・ウェバー(1914-1982)というオルガニスト兼作曲家の「イーストウェルの庭園:晩夏の印象」という小品。曲がよく、趣味の良い選曲だと思う「カリッシマ」は小オーケストラのための作品を作曲者自身がピアノとヴァイオリンために編曲したバージョンだ。1913年12月に録音専用に依頼された二曲のうちの一つで、締め切りが何と1932年の1月で、演奏時間もSPの片面に収まる4分以内という厳しい条件。この作品がクラシック作曲家による初の録音専用の作品だったそうだ。今回は作曲者自身の編曲のピアノ版が演奏された。エルガー特有の優しい旋律が流れる、美しい曲だ。「イーストウェルの庭園:晩夏の印象」の作曲者ウイリアム・ロイド・ウェバーはミュージカルの作曲家として有名なアンドリューの父親で、ヴォーン・ウィリアムズの弟子だそうだ。「イーストウェルの庭園:晩夏の印象」は原曲はフルートとピアノのための作品だった。ゆったりとしたテンポで、イギリスの田園風景を思わせるような上品で美しく、映画にも使えそうな音楽だ。指揮者のロビン・ティアーチ(1983-)はロンドン生まれのイタリア系指揮者。現在スコットランド室内管弦楽団の首席、バンベルク交響楽団の首席客演指揮者、来シーズンからはグラインドボーン音楽祭の音楽監督に就任するという伸び盛りの指揮者の一人だろう。協奏曲は劇的で、音楽の彫が深く、音楽がスムーズに流れる。ベルリン・ドイツ交響楽団の起用も、がっしりしたエルガーの協奏曲に相応しい重量感のあるもの。録音は分厚いハーモニーの影響もあるのか、響きが混濁していて、やや抜けが悪い。低音も十分ではない。せっかくの名演なのに実に惜しい。Vilde Frang Elger:Violin Concerto(Warner Classics 2173240942)24bit192kHz Flac1.Elgar: Violin Concerto in B minor, Op. 614.Elgar: Carissima5.Lloyd Webber, W: The Gardens at Eastwell "A Late Summer Impression" (Arr. Soudoplatoff for Violin and Strings)Vilde Frang(Vn) Robin Ticciati (track 1-3,5)Deutsches Symphony Orchestra Berlin(track 1-3,5)Thomas Hoppe(p track4)
2024年09月23日
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ミルトン・ナシメント (1942-) とエスペランサ・スポルディング (1984-) のコラボ・アルバム「Milton + esperanza +」を聴いた。最初はSpotifyで聴いていたが、それほどいいとは思わなかった。しかし、最後の「When You Dream」を聴いたら、急に物欲が湧き上がり、いつものPresto Musicで予約した。 ところが、発売日を過ぎてもリリースされず、問い合わせても「ここを見ろ」との指示だけで事態は変わらなかった。画面表示はサンプル音源の再生ができなくなっていただけで、ダウンロード版は購入できるふりをしている。仕方なくキャンセルしてしまった。他のサイトも探していたが、いつの間にか忘れてしまっていた。ところが、ある日Presto Musicを見たら、何気なくダウンロードできるようになっていた。すぐに購入したが、配信元に踊らされているようで非常に気分が悪い。閑話休題。ディストリビューターによると、『本作は2023年に大部分をブラジルでレコーディング。ミルトン・ナシメントが愛した5つの名曲、エスペランサが新たに書き下ろした2曲のオリジナル曲、ザ・ビートルズの「A Day In The Life」やマイケル・ジャクソン「Earth Song」の魅力的なカバーなど、ブラジル音楽と名曲たちに愛情を込めた計16曲が収録されている。テーマは若い世代が年長者とともに創作し、そこから学び、新しい世界を築くことの重要性を示すことだそうだ。』 テーマはさておき、狙いはある程度実現していて、特に「新しい世界を築く」ことには成功していると思う。全体にリラックスしたムードでブラジル音楽が味わる。ナシメントのブラジルの風土に根ざした素朴なボーカルが何ともいい味を出している。彼らのデュエットだけを聴いていると、まるで祖父と孫が楽しそうに会話しているような風景が浮かんでくる。(「Saci」の笑い声などはその典型だ)。実際、彼らの会話が収録されているトラックもあり、彼らを身近に感じることができる。 ところが、そこにバックコーラスやインストが加わると風景が一変し、巨大で洗練された音楽が展開するのが実に素晴らしい。「Interlude for Saci」に登場する野鳥の鳴き声も生々しい。エスペランサの新曲もブラジル風のテイストで違和感がない。特に鳥の声を模したアップテンポの「Wings for the Thought Bird」は陽気で楽しい。他のミュージシャンの曲も彼らの世界になりきっている。「A Day In The Life」はビートルズの独特のイントネーションを感じさせつつも、彼らの混沌とした世界に変貌していくところが楽しい。実に壮大な音楽だ。 マイケル・ジャクソンの「Earth Song」では、驟雨のような雨音から始まり、リード・ボーカルはおそらくダイアン・リーヴスだろう。バックコーラスを含め、ダイナミックなパフォーマンスはまさに圧巻だ。ウェイン・ショーターの「When You Dream」はそれまでの楽天的な熱っぽさから一変してシリアスな世界に変わる。広大な空間を感じさせる中で、ギターのサウンドが明滅するショーター独特の音楽だが、ミルトンとエスペランサの楽しげなボーカルで温かみのある音楽になっている。 メンバーはエスペランサのコア・バンドに加え、オルケストラ・オウロ・プレット、パーカッショニストのカイナン・ド・ジェジェとロナウジーニョ・シウヴァ、ギターのルーラ・ガルヴァンとギンガなどのブラジル人ミュージシャンも参加している。ゲストも豪華で、ポール・サイモンやダイアン・リーヴスなどが名を連ねている。プロデューサーを務めたエスペランサは、数多くのミュージシャンをまとめ上げる手腕を発揮し、聴く者をワクワクさせる見事な音楽世界を展開している。グラミー賞の常連である彼女のこのアルバムも、受賞の有力候補と言えるだろう。Milton+esperanza(Concord CRE2521)24bit48kHz Flac1.Justin Tyson:the music was there2.Milton Nascimento:Cais3.Esperanza Spalding:Late September4.Milton Nascimento:Outubro5.Lennon & McCartney:A Day In The Life6.Corey D King:Interlude for Saci7.Guinga:Saci8.Esperanza Spalding:Wings for the Thought Bird9.Esperanza Spalding:The Way You Are10.Michael Jackson:Earth Song11.Milton Nascimento:Morro Velho12.Milton Nascimento, Fernando Brant:Saudade Dos Avioes Da Panair (Conversando No Bar)13.Milton Nascimento, Marcio Borges:Um Vento Passou (para Paul Simon)15.Esperanza Spalding:Get It By Now15.Justin Tyson:outro planeta16.Wayne Shorter, Edgy Lee:When You DreamMilton Nascimento(vo)Esperanza Spolding(vo)
2024年09月21日
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半年ほど前に書いた稿だが、すっかり忘れていた稿をお届けする。カナダのピアニストのマルク=アンドレ・アムラン の自作自演集。アムランの、Hyperionデビュー30周年記念盤だそうだ。以前も自身の作品だけのアルバム(Hamelin: Etudes/Little Nocturn)を作っていて、それも結構面白かったことを覚えている。今回も期待にたがわず、面白い作品集になっている。アムランの作品集はシリアスなものではなく、ユーモアが入り混じっている。タイトルにも、ユーモアが感じられる曲が含まれている。またジャズのスタイルの曲も多く、エンターテインメント性に富んだ作品が多い。「パガニーニの主題による変奏曲」はテーマからして荒々しく弾かれ、従来のイメージとは違う表現にぎょっとしてしまう。14の変奏から成り立っていて、主題から切れ目なく続く。アムランのテクニックでなければ弾けないような難易度の高い変奏も含まれる。ジャズっぽいものや無調的なクールな変奏、不協和音が多用される変奏などヴァラエティに富んでいる。疾風のごとく去っていく第7-10変奏などアムランのテクニックが発揮されるような難曲(右手と左手のリズムが違う!)になっている部分はスリリング。第11変奏では途中で「運命」交響曲のモチーフが表れ、エンディングも「運命」の第1楽章の終わりが引用されている。第13変奏ではラフマニノフのパガニーニ変奏曲の第18変奏に似た雰囲気だが、ご丁寧にもタイトルに第13変奏で(第18変奏ではない)と書かれてあるところが笑わせる。「ジーグ風に」と題された終曲ではリストの「ラ・カンパネラ」の一節まで飛び出し、ドシャメシャのうちに終了する。生でやったら大うけすること間違いなしの、エンターテインメントにとんだ曲であることは確かだ。6曲からなる「古風な組曲」はクラシック・スタイルではあるが不協和音がちりばめられ、一筋縄ではいかない。カプースチンを思い出させるような曲。「ローラによる瞑想曲」は映画「ローラ殺人事件」の主題歌。ポピュラーのスタンダードだ極端に遅いテンポで、暗闇の世界が描かれているようだ。テーマは決して美しくないが、アムランの独特の感性に裏付けられた、沈黙の世界だ。最後は第15回ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクール(2017)の課題曲として委嘱された「武装した人によるトッカータ」。細かい連続した音の連続の上に、テーマが流れていく。後半の爆発的なエネルギーの表出に度肝を抜かれる。繊細なタッチと強靭な打鍵の両方が要求される曲のようだ。ということで、アムランらしいオリジナリティに富んだ曲と演奏で大いに楽しませてもらった。普通のクラシックも悪くないが、こういう傾向の音楽をもっと録音してほしい。Hamelin:New Piano Works(Hyperion CDA68308)24bit 192kHz Flac マルク=アンドレ・アムラン(b.1961):1.パガニーニの主題による変奏曲10.チョコレートについてのわが感想11.古風な組曲17.舟歌21.ベートーヴェンの主題によるディアベリ変奏曲22.パヴァーヌ・ヴァリエ33.シャコンヌ36.「ローラ」による瞑想曲37.「武装した人」によるトッカータマルク=アンドレ・アムラン(ピアノ)録音:2023年1月13日&14日、ヘンリー・ウッド・ホール(ロンドン、イギリス)
2024年09月19日
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グレッグ・レイタン(1973-)というアメリカのピアニストのトリオアルバムを聴く。例によってBandcampのお知らせで知ったアルバム。最近知らないミュージシャンのルバムを聴く音が多い。一応、音源をあたってから購入しているので保険をかけているつもりではあるが、当たった時の嬉しさは格別なものがある。このアルバムは筆者の評価だとまあまあの部類に入る。彼はシアトル生まれで、このアルバムがサニーサイドからの6枚目のアルバムだそうだ。年齢が50歳を超え散るので、中堅からベテランの領域に入ったピアニストだろう。筆者は初めて聞いた。リリカルなピアノで、タッチが力強い。メンバーは南カリフォルニア大学の作曲プログラムに参加して以来の仲間で、90年代の初頭に出会い、活動歴は約35年になるという。ベース、ドラムスとも強力で、手慣れた部分もあると思うが、マンネリ感はなく、メンバーの積極的なアプローチが新鮮で、「インタープレイ」という言葉を久しぶりに思い出した。タイトルの「境界線」はないを意味しているかは不明。全9曲のうちオリジナル以外は3曲。その中で耳慣れない作曲家の名前がある。アール・ジンダース(1927 – 2005)という作曲家で、ジャズとクラシックを手掛けているようだ。ChatGtPによると、『ジンダースはビル・エヴァンスとの長い協力関係を通じて、多くの人々に彼の音楽を届けました。彼の作曲はしばしばエヴァンスのレパートリーに取り上げられ、彼の作品が後世に残る一因となっています。』とのこと。代表作は「Elsa」「How My Heart Sings」「Mother of Earl」「Lullaby for Helene」などで筆者も「Elsa」はビルエ・ヴァンストリオのアルバム「Explorations」のなかでも、最も好きなナンバーだ。あの耽美的な美しさが堪らなくいいのだ。「My Love Is an April Song」もエヴァンスのために書かれた曲で、「The Bill Evans Trio – "Live」(1971)に収録されている。今回の演奏はエヴァンスのライブに比べテンポが速いが、エヴァンスの演奏を踏襲したもの。ドラムスのブラシワークがちょっとうるさい。デイブ・ブルーベックの「Rosing Sun」は「日本の印象」(1964)の中の一曲。キース・ジャレットの「Starting Point」は初リーダー・アルバム初期の名作「Life Between The Exit Sings(人生の二つの扉)」(1967)(voltex)の中の曲。ややアップテンポで、悪く言うと音符の羅列に聞こえる饒舌なピアノ・ソロのため、原曲のしっとり感が表現されていないように思う。続くベースソロのほうがよほどましと言ったら言い過ぎだろうか。最後のコープランドの「Down a Country Lane」(1964)は原曲がピアノ曲で、同年に室内オーケストラ用に編曲されている。コープランドらしい、朝もやの清々しい空気の感じられる佳曲。今回の演奏では、最初はピアノ・ソロで、途中からベースとドラムスが入る。ピアノ・ソロは訥弁スタイルで、少し硬く、この曲の良さが十分に表現されていない感じがする。アドリブはなく原曲通りの進行だろう。個人的には、なくてもいいトラックのように思う。レイタンのオリジナルはいい曲が揃っている。気に入ったのは「Love No. 1」しっとりとした美しいバラードだ。「Rock Hill」は作曲家のアーロン・コープランドの自宅があったところの地名。レイタンはここで座付き作曲家として過ごした期間中に、このアルバムのコンセプトをまとめたそうだ。軽快なリズムでなかなか気持ちがいい。アルバムを通してピアノが饒舌なのはいいのだが、アドリブ・ソロが一本調子だ。一旦鼻につきはじめると、もういけない。個人的にはもう少し抑えた表現の方が、深みが出たように思う。録音は音圧が大きく、眼前で演奏しているような迫力が感じられる。ただ、レイタンの芸風からすると、もう少しオフ気味でもいいような気がする。なおbandcampのサイトでは24bit96kHzとあるが、24bit44.1kHzの間違いのようだ。Greg Reitan:The Bounding Line(Sunnyside 16728174022)24bit 44.1kHz Flac1.Greg Reitan:The Path2.Earl Zindars:My Love Is an April Song3.Greg Reitan:Summer Days4.Greg Reitan:The Bounding Line5.Dave Brubeck:Rising Sun6.Keith Jarrett:Starting Point7.Greg Reitan:Love No. 18.Greg Reitan:Rock Hill9.Aaron Copland:Down a Country LaneGreg Reitan(p)Jack Daro(b)Dean Koba(ds)
2024年09月17日
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以前アンプが壊れた話をした。それが1年ほど前のことで、また壊れてしまった。前回は再現しなかったので、費用はそれほど高くなかった。今回は前回とは違って、それらしい警告表示もなく、いきなりお亡くなりになってしまった。修理依頼をしたところ、電源プロテクション検出回路の抵抗不良とのこと。素性が悪かったのか劣化かは分からないが、常識ではあまり考えられない不良だ。故障は1個だったが、念のため、関係しそうなところのカーボン抵抗18個と電源周りのコンデンサ1個を交換した。部品代だけで3000円ほど。パーツの実勢価格だと数分の1だろうから、随分とふっかけたと思うが、仕方がない。ただ、技術料が16000円も取られたのは痛かった。発送から戻ってくるまでに1週間ほどかかったが、一応正常に動作しているようで、一安心。このアンプは、他のアンプがラックを占領していたため、購入して以来、床にベタ置きのままだった。他のアンプは手放してしまったが、そのまま放置していた。この機会に乗じて、ラックに入れることにした。しかし、アンプが重いうえに、ラックの裏が狭く、配線処理に手間取ったが、なんとかラックに収めた。今回のことがなければ、今もラックの外に置いていたかもしれないので、怪我の功名とも言える。ついでに、ラックの上に置いていたDACもラックの空きスペースに収めた。これで、ラック周りがスッキリした。さらにラックの掃除もして、だいぶスッキリ。長年の懸案が解決し、気分が良い。このアンプ、どうも素性が良くないので、あとはまた壊れないことを祈るばかりだ。そして、余勢を駆って購入してから三年以上放置していたスピーカーキットの組み立ても、いい加減やらねばならないと思う今日この頃だ。
2024年09月15日
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以前BISから武満徹のギター作品集をリリースしていたスエーデンのギタリスト、ヤコブ・ケッレルマンが、今度は細川俊夫のギターの作品集をリリースした。ギター独奏曲とソプラノとのデュオ、それに弦楽合奏との曲という組み合わせ。「目覚め」は弦楽と打楽器が加わる15分ほどの曲で、「ヴォヤージュ」(1977-)というソリストとアンサンブルまたはオーケストラのための協奏曲のシリーズの1曲。ソリストが人間、オーケストラが人間を包み込む宇宙、自然、世界を象徴しているという。「目覚めは」シリーズの第9作目で、作曲者によるとギターを蓮の花に、弦楽オーケストラを水(池)に例えている。具体的には、『弦楽器が持続する音は水面の振動を表し、低音域は水中の世界を、さらに低い音域は池の底の泥の世界を表している。一方持続音よりも高い音域は空の世界を表している。池の表面をわずかに越えて、蓮の蕾は咲きたいという思いを歌い、朝の陽光を浴びている。』この作曲者のコメントを理解すると、この曲を深く理解できそうだ。弦の痙攣しているようなトレモロやグリッサンドの鮮烈な響きが、聴き手の心にグサッと突き刺さるようだ。エンディングのハープやベル、弦の上昇音型のグリッサンドなどは上に伸びていきたいという蓮の意志を表したものだろうか。12の日本民謡からなる「日本の歌」はケッレルマンの委嘱作で、「さくら」(2004)以外は2022年に作曲された。12ヶ月にふさわしい、非常によく知られた日本の歌を選んだという。殆どがワンコーラスか2コーラスで、原曲にあまり手を加えていない。聴いていると、心がじんわりと暖かくなってくるような編曲が多い。「さくら」は歌と言っても声を出して歌うのには相応しくない。音数が少なく、テンポが極端に遅い。そこから原曲の日本人でもわからなかった根源的な魅力が伝わってくる。2022年に作曲された残りの11曲は「さくら」のような厳しい音楽ではないが、決して甘くならないところが、いかにも細川らしい。「通りゃんせ」はテンポが遅く、ためらいがちに流れる旋律と静寂が印象的だ。「山寺の和尚さん」は弦をビンビン鳴らしたユーモラスな音楽。子供の頃に見ただろう夕焼の懐かしい風景を思い出させるような「夕焼け小焼け」、母親の愛情がしみじみと伝わってくる「かあさんの歌」など短いながらも心温まる曲集だ。最後の「江戸の子守歌」は多少音を変えているのも新鮮だ。「セレナーデ」(2003)は夜の音楽だそうだ。ピッチを上げ下げする「ベンド」が使われていて、日本的な情緒を感じさせる。福田進一も録音していて(日本のギター作品集 2)で、福田の演奏は鋭角的なサウンドで、箏を思い出させる歯切れのいい演奏だが、ケッレルマンの演奏はあくまでも穏やかであまり箏を連想させる場面はない。第2楽章「夢路」は柔らかなサウンドだが、タイトルのような甘美なものではない。ソプラノとギターのための組曲が2曲取り上げられている。「2つの日本民謡」(2003)は、音数の少ない、間をいかしたもので、実に日本的な響きがする。特にピッチを上げ下げする「ベンド」が使われているのが効果的だ。イルゼ・エーレンスは日本人的な発声で、美しい日本語と相まって、全く違和感がない。「恋歌I」の各楽章のギターの導入部は、3つの古代短歌(日本の31音節の詩)を歌詞として使用しており、細川の音楽の基本的な特徴を凝縮した形で示している。声明から影響を受けていると作曲者自身が述べている。通常のクラシックとは全く違う、細川独自の音楽で、馴染むまでには時間がかかりそうだ。なお、ブックレットの作曲者による詳細な解説が大変参考になる。ヤコブ・ケッレルマン:目覚め~細川俊夫:ギター作品集(BIS BIS2745)24bit96kHz Flac1.2つの日本民謡~ソプラノとギターのための(2003) 黒田節 五木の子守唄3.セレナーデ~ギターのための(2003) 月光(つきひかり)のもとで 夢路5.恋歌I~ソプラノとギターのための(1986) 秋の田の 君が行く 由良の門を8.旅 IX「目覚め」~ギター、弦楽、打楽器のための(2007)9.《日本の歌》12の日本民謡集~ギター独奏のための編曲作品(2004*/2022) さくら(4月)* 春の小川(5月) 通りゃんせ(6月) ふるさと(7月) 山寺の和尚さん(8月) 赤とんぼ(9月) 荒城の月(10月) 夕焼け小焼け(11月) 雪の降る街を(12月) お正月(1月) かあさんの歌(2月) 江戸の子守唄(3月)ヤコブ・ケッレルマン(g)(1)(2)(5)(6)(7)イルゼ・エーレンス(s,track 1,2,5-7)タリン室内管弦楽団(track 8)クリスチャン・カールセン(指揮 track8)録音2023年9月21&22日/スンドビュベリ教会、ストックホルム(スウェーデン)(track 1-7,9-20)2023年1月12&13日/ハウス・オブ・ザ・ブラックヘッズ、ホワイトホール、タリン(エストニア)(track8)
2024年09月13日
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エンリコ・ピエラヌンツィ(1949-)がマーク・ジョンソン(1953-)とジョーイ・バロン(1955-)とのトリオの結成35周年を記念して行なったライブの録音。曲は全てピエラヌンツィのオリジナルで選り抜かれた曲が揃っている。ライブのためか、メンバー全員のアグレッシブな姿勢がよく現れている。真っ先に気に入ったのは聞き覚えのあるタイトルチューン「Hindsight」。哀愁を感じさせるメロディーに惹きつけられる一方、ダイナミックなピアノのアドリブとドラムスとの交歓も素晴らしい。ただ、他の曲もこの曲に劣らない出来であることに気づくのに時間はかからなかった。1曲目の「Je Ne Sais Quoi」(何とも言えない魅力)のしゃれた味わにも、ピエラヌンツィらしい抒情が感じられる。「B.Y.O.H.」はリリカルながらもダークなムードで他の曲とは一味違ったテイスト。ドラムスの引き出しの多いバッキングが、緊迫したムードを作り上げている。ピアノのアドリブを境に、徐々に熱気を帯びていく様子は見事だ。「Don't Forget the Poet」はベース・ソロをフィチャーした穏やかな曲。途中から出るピアノの畳みかけるようなアドリブは、80歳近いピアニストのプレイとは思えないエネルギッシュなもの。「Molto Ancora」も哀愁溢れるメロディーが悪くない。テンポの速い曲の中では、ラテン・テイストの「Castle of Solitude」が、躍動感に溢れていて、彼らの楽し気な表情が見えるようだ。最後の「The Surprise Answer」このコンサートの白眉だろう。ダイナミックで全員一丸となって突き進む様は感動ものだ。それまでの熱を冷ますような静かなエンディングもしゃれている。ピエラヌンツィは生気のみなぎるピアノで絶好調だ。随所にフィーチャーされているマーク・ジョンソンのベースが秀逸。ジョーイ・バロンのドラムスはおかずが多く、全体にソフトタッチ。個人的にはもう少しがつがつ行ってほしい場面もある。気になるのは、トリオの熱気に比べて、聴衆の熱量が不足しているように感じられることだ。こういった音楽に不慣れな反応のようにも見える。聴衆の反応がもっと良ければ、さらに盛り上がったことだろう。実にもったいない。ステファノ・アメリオによる録音は潤いのある美音で、ホールトーンもしっかり入っているが、個人的にはオフマイク気味でジャズの迫力が若干削がれている感じがする。会場はパリ西部の島に位置するラ・セーヌ・ミュージカル劇場で2017年に開館したホールを含む複合施設。特に目立つのがオーディトリアムの木製構造体。1 000 m²以上の太陽光パネルが貼り付けられているそうだ。今となっては将来のことが心配になってくる。ということで、メンバー全員の年齢をたすと200歳を超えるにもかかわらず、その演奏は驚くほど若々しく、新鮮さに溢れている。心地よく、実に爽快な演奏を楽しむことができる最高の名盤だ。Enrico Pieranunzi, Marc Johnson & Joey Baron / Hindsight: Live At La Seine Musicale(CAM JAZZ)24bit96kHzFlac1 Je Ne Sais Quoi2 Everything I Love3 B.Y.O.H. (Bring Your Own Heart)4 Don't Forget the Poet5 Hindsight6 Molto Ancora (Per Luca Flores)7 Castle of Solitude8 The Surprise AnswerEnrico Pieranunzi (p)Marc Johnson (b)Joey Baron (ds)Recorded in Boulogne-Billancourt on 13 December 2019 at Auditorium de La Seine Musicale
2024年09月11日
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偶然見つけたボストン・ブラスのアルバム「Blues For Sam」を聴く。2022年の自主レーベルでのリリースで、ハイレゾはない。現在、Qobuzでしかリリースされていないようだ。最初「枯葉」と「キャラバン」が昔の「You Gotta Try」で演奏されていたので、そちらから転用したのかと思った。演奏時間もほぼ同じで、同じ編曲であることが疑問の原因。演奏を比較すると1stトランペットの演奏がまったく異なり、新録音であることが分かった。プログラムはヴァラエティに富んだ肩のこらないものだが、難しいフレーズがさりげなく入っているところが、このアンサンブルらしい。ただ音を割ったホルンをはじめとしてオーバーブロー気味で、そこまでやらなくてもと思うところも多い。ヒナステラの「エスタンシア」から「最後の踊り」では、ホルンの荒々しいプレイとチューバのグリッサンドが目立つ。ピアソラの「ブエノスアイレスのマリア」から「私の名はマリア」は快適なテンポと豊かなハーモニーで曲の良さが味わえる。「ジョージア・オン・マイ・マインド」はアメリカ南部の気分が横溢した演奏。あくの強いスイングス・タイルのトランペット・ソロがいい。Joseph Cの「Voodoo」はチューバのリズムにのってアドリブが展開される曲。クラシックというよりはジャズの曲を聴いているような気分になる。「Blues for Ben」はジャム・バンド、ギャラクティックのドラマーであるスタントン・ムーア(1972-)のファンク・ナンバー。チューバをフィーチャーした曲で、1分近いチューバのカデンツァから始まる。以後各奏者のアドリブがリレーされるのは「Voodoo」と同じ趣向。ハーマンミュートのトランペット・ソロが素晴らしい。後半のテュッティにも圧倒される。最後の「キャラバン」では1stトランペットがメイナード・ファーガソンかエリック宮城かというほどの、馬鹿でかい音で、ハイトーンを駆使したアドリブが圧巻。クラシックのトランペット奏者でこれ程の演奏をする人は初めてだ。このアルバムのハイライトだろう。ブラス・アンサンブル業界のトランペッターは是非聴いてほしい。次にいいのは「枯葉」。ここでも後半のソリの部分での輝かしいトランペットのサウンドが素晴らしい。「キャラバン」や「枯葉」を聴いた後で、コダーイの「ハーリー・ヤーノシュ」やファリャの「三角帽子」を聴くと、普通の演奏に聞こえ、だいぶ分が悪い。例によってアップコンバートしての視聴だが、素晴らしいサウンドでブラスの醍醐味を味わえる。残念ながらCDは廃盤で配信のみになっているようだ。ところで、この稿を書いているときにbrass Pediaなるサイトを見つけた。各団体のアルバムがリストアップされていて、ブラス・アンサンブルの音源を探すときには、とても役に立ちそうだ。Boston Brass:Blues For Sam(Boston Brass)16bit44.1kHz Flac1.Alberto Ginastera:Estancia: Danza Final (Malambo)2.Zoltan Kodaly:Hary Janos Suite: Entrance of the Emperor and His Court3.Manuel de Falla:The Three-Cornered Hat: The Neighbor's Dance4.Astor Piazzolla:Maria De Buenos Aires: Yo Soy Maria5.Joseph Kosma:Autumn Leaves6.Joseph C:Voodoo7.Hoagy Carmichael:Georgia on My Mind8.Stanton Moore:Blues for Ben9.Juan Tizol:CaravanBoston Brass
2024年09月09日
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夏野菜から秋野菜に転換するための畑仕事が忙しく、更新が滞ってしまった。今日はひと段落したので、溜まっていた未聴の音源から、平倉初音(1999-)のアルバムを取り上げる。筆者は価格の関係から、国内の配信元から入手することは殆どない。この前の渡辺貞夫のアルバムは演奏が良かったので例外。今回はe-onkyoの期間限定でのポイント・アップのセールだったので、思わずダウロードしてしまった。今回のアルバムはDays Of Delightからの第2弾。前回はスタンダードを特集したもので、筆者は未入手。アルト・サックスの池田篤(1963-)とベースの井上陽介(1964-)というベテランを配した変則的なトリオだった。今回は 平倉初音, 須川崇志(1977-), 山田玲(1992-)というメンバーで、大分若返っている。 須川崇志はバークリー音楽大学卒で、現地で活躍の後2009年に帰国した。ニューヨークでは菊池雅章(1929-2015)の薫陶を受けたそうだ。山田玲は18歳よりプロ活動を始めたそうだ。有名ミュージシャンとの共演多数で、2023年はブロードウェイミュージカル「War Paint」に参加しているそうだ。今回は全曲平倉の作曲で、水準が高い。「Espelhar」と「Virgo's Sapphire」ではフェンダーローズを弾いている。ポルトガル語で、「反映する」「鏡のように映る」「反射する」という意味の「Espelhar」はミディアムテンポのムーディーな曲で、フェンダーローズが効果的だ。クラッシュ・シンバルを効果的に使ったスタイリッシュなドラミングもいい。「Virgo's Sapphire」はアップテンポの曲。ベースとドラムスの強力なサポートに乘ったフェンダーローズのサウンドが快適だ。タイトルチューンの「Moon and Venus」はダークな雰囲気で同じフレーズを執拗に繰り返す、問答無用でぐいぐいと進む男勝り?の演奏。大西順子のピアノに似ているなと思って調べたら、2013年から大西順子に師事していたそうだ。「Glass Falls」はミディアムテンポの少しサスペンスがかった、乾いた空気を感じさせる作品。須川崇志のベースソロが強力。平倉のソロも粘っこい。「Ballad no.4」はピアノとアルコ・ベースのデュオ。ピアノの上質な叙情が心に沁みわたる。明るくリズミックで爽やかなメロディーが流れる「Sea Raccoon」は、平倉の爆発的な推進力をみせるアドリブが素晴らしい。「The Trigger Point」はダークなサウンドで驀進する、ピアノのアドリブが見事。「ソバの花」は日本的なムードのスローバラード。最後の「Days of Delight」はこのレーベルへのオマージュだろう。アップ・テンポでデキシー風味の楽しい演奏がエンディングに相応しい。平倉のソロもノリノリだ。ベースは堅牢で重心が低く、少し軽めだが切れの良いドラムスとも申し分ない。ということで、すべての曲が非常に高い水準で、攻撃的なアコースティックとムーディーなフェンダーローズのコントラストが際立っていた。アンプが修理から戻ってきていないので、今回もPCをDACにつないでヘッドフォンでの試聴。適度なバウンス感のある録音で、演奏に相応しい滑らかなサウンドに仕上がっている。ただ、スピーカーで聴いたときに、どう感じるかは、分からない。平倉初音:Moon and Venus(Days of Delight DOD-044)24bit 96kHz Flac平倉初音:1.Moon and Venus2.Glass Falls3.Espelhar4.Virgo's Sapphire5.Ballad no.46.Sea Raccoon7.The Trigger Point8.そばの花9.Days of Delight平倉初音(p,piano, fender rhodes)須川崇志(b)山田玲(ds)
2024年09月07日
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イギリスのピアニスト、イサタ・カネー=メイソンの新譜をprest music がプッシュしていたのでspotifyで聞いた。勢いのある演奏で、思わずダウンロードしてしまった。メンデルスゾーンのピアノ協奏曲はあまり関心がなく第1番は手持ちの音源がないことも入手した理由の一つ。初めて聞いた曲で、重量感はあまりないが、明るく親しみやすい。各楽章は切れ目なく続く。第1楽章から緊迫した雰囲気で、ぐいぐい迫ってくる。明るさがあるのもいい。第2楽章のアンダンテは速めのテンポでためを作らずたんたんと進むため、物足りない。時折フレージングに生硬さが感じられるのも気になる。第3楽章プレストも快調だ。カネー=メイソンのピアノは勢いがあり、とにかく指がよく回る。なので、速い楽章がなかなか聴かせるが、重量感は感じられないし、荒っぽいと感じられるところもある。バックのロンドン・モーツァルト・プレイヤーズ(1949-)は聞いたことのない団体。創立は1949年で今年で75年という老舗でシャンドスを中心として多くの録音がある。反応が良く、メンデルスゾーンらしい軽さと明るさ、そしてメンデルスゾーンらしからぬ荒々しさも出ていて面白いが、もう少し突っ込んだ表現が欲しい。協奏曲のほかは無言歌集や管弦楽の編曲物。その中で目玉は最近再評価の著しいフェリックスの姉ファニー・メンデルスゾーンの『イースター・ソナタ』。wikiによるとこの曲は1970年に発見されたときは弟の作品とみられていたが、その後姉の作曲であることが分かったそうだ。ドキュメンタリー映画「ファニー―もう一人のメンデルスゾーン」(2024)でカネー=メイソンがこのソナタを弾いているそうだ。ハイドシェックの音源がSpotifyにあったので、聴いてみた。ラルゴの演奏時間がハイドシェックの方が1分以上長い。この楽章カネー=メイソンの演奏は4分半なので、この違いは大き過ぎる。筆者の感覚だと、ハイドシェック(2021)の演奏の方がしっくり来る。ファニー・メンデルスゾーンのソナタ全曲(2021)を録音しているイタリアのピアニストのGaiaSokoliの演奏もカネー=メイソンの演奏とほぼ同じ演奏時間だが、落ち着きが感じられる。カネー=メイソンの演奏は硬く、窮屈だ。精彩があるのは速い第3、第4楽章の前半であるところは他の曲と同じような傾向だ。第4楽章後半のコラールの静寂は悪くないが、エンディングが素っ気なく、余韻が感じられないのが雑に感じられてしまう。編曲物ではモシュコフスキーの編曲した「真夏の夜の夢」の「夜想曲」が意外に良かった。参考までにSpotifyでイリーナ・メジューエワの無言歌の演奏(BIJIN CLASSIC)を聴いた。柔らかく、細かいところまで神経の行き届いた演奏で、その違いに唖然とした。アゴーギクの使い方も見事で、ついで?に聞いた名盤のほまれ高いバレンボイムの演奏も、そっけなく聴こえる程。ということで、才能はあるのだろうが、全体にセカセカした感じがして落ち着かない。年齢を重ねて成熟するのを待ちたいところだ。ついでに聴いたメジューエワの演奏で余計印象を悪くしたかもしれない。Isata Kanneh-Mason:Mendelssohn(Decca 4870256)24bit96kHz Flacフェリックス・メンデルスゾーン:1.ピアノ協奏曲第1番ト短調Op.254.劇付随音楽『夏の夜の夢』Op.61より: スケルツォ(ラフマニノフ編) 夜想曲(モシュコフスキ編) 歌の翼にS.547(リスト編)7.『無言歌集』第6巻Op.67より: 第2曲:失われた幻影 第6曲:子守歌ファニー・メンデルスゾー):9.夜想曲ト短調H33710.イースター・ソナタイサタ・カネー=メイソン(ピアノ)ジョナサン・ブロックスハム指揮ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズ(track 1-3)2023年11月 ロンドン、セント・ジョンズ・スミス・スクエア(track 1-3)2024年2月(track7,10-13)、2024年4月(track4-6,8,9) リヴァプール、The Friary
2024年09月02日
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渡辺貞夫の新作「Peace」を聴く。リリースされていたのは知っていたが、音をチェックすることもなく5か月が過ぎてしまった。数日前に思い出して、Spotifyで聞いたらなかなかいいではないですか。前作のライブはちょい聞きしていまいちだったのでパスしたのだが、何故か今回はいい。もう年なので、多くのことは期待できないという気持ちが先に来たのも、悪かったのかもしれない。今回はカルテットの演奏で、アンプが故障(再発?)したため、PCにDACをつないで、ヘッドフォンでの試聴。moraから購入したが、CDの百円安で助かる。4曲のオリジナルとスタンダードやジャズメンのオリジナルという構成。若い頃のような気力がみなぎった溌溂としたプレイとはいかないが、晩秋を思わせるカラーに彩られた、味わい深い演奏が続く。スタンダードでもおなじみのフレーズが出て来て、すぐ貞夫さんの演奏だということが分かるのが嬉しい。心配していたサウンドも意外と健在で、嬉しかった。ホレス・シルバーの名曲「Peace」やJ.J.ジョンソンのミディアム・テンポの「ラメント」はバップ・チューンだが、彼一流の洗練された演奏で曲の良さが引き立つ。「Deep In A Dream」も味わい深く、おしゃれな演奏だ。スタンダードの「I'm A Fool To Want You」は悪くないが、個人的には粘らない軽い仕上がりの方が好ましい。オリジナルはどの曲もみずみずしい抒情に溢れている。どの曲も何度も録音されているが、今回は時間がなかったので確認はしていない。気に入ったのは軽快な3拍子の「Tree Tops」、実に爽やかだ。穏やかな「If I Colud」は副題に示されるように、チベットの人たちへの祈りが感じられる心温まる演奏だ。最後はリラクゼーションの感じられる「After Years」で締めくくられる。サイド・メンではイエロー・ジャケッツのラッセル・フェランテのピアノが素晴らしいサポート。ベン・ウィリアムスのベースはシンプルながらも力強く、その存在感が際立っている。竹村一哲の控えめなドラムスも悪くない。ということで、円熟味を増し、常に進化し続ける姿勢には頭が下がるばかりだ。ところで、渡辺貞夫が11月に北上に来ることを知った。知るのが遅かったので残り数席になっていたが、なんとか席を確保することが出来た。このアルバムを聴くまでは懐疑的だったが、余計な心配をしないで楽しめそうだ。渡辺貞夫:Peace(JVC VICJ-61795)24bit96kHz Flac1.Horace Silver:Peace2.Jule Styne:I Fall In Love Too Easily3.Harold Arlen - Yip Harburg:Last Night When We Were Young4.Jimmy Van Heusen:Deep In A Dream5.J.J. Johnson:Lament6.Sadao Watanabe:Tree Tops7.Sadao Watanabe:If I Could(For Tibetan People)8.Vinicius de Moraes - Antonio Carlos Jobim:Eu Sei Que Vou Te Amor9.Frank Sinatra;Jack Wolf;Joel S.Herron:I'm A Fool To Want You10.Sadao Watanabe:Only In My Mind11.Sadao Watanabe:After Years渡辺貞夫(as)ラッセル・フェランテ(p)ベン・ウィリアムス(b)竹村一哲(ds)
2024年08月31日
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先日坂本龍一のソロ・ピアノのアルバムについて書いた。その時に以前から気に入っていた「High Heels」のメインテーマのことを思い出して、アルバムを検索した。見つかったのが、今回のアルバム。presto musicからリリースされていたが、ロスレスで¥1800程。偶然目についたmoraのサイトを見たらハイレゾで価格も¥1500とお買い得だったので、速攻でダウンロードしてしまった。このアルバムは2013年にリリースされたもので、今年再発された。その関係での配信だろう。ブックレットが付いていないので、詳しいことは分からない。ディストリビューターのコメントによると、『ベルギーのヘントで開催されているヘント国際映画祭の中のプログラムのworld saundtrack awardは2001年に設立され、その年の優れた映画音楽を顕彰する制度のようだ。この賞は10の部門からなり、坂本は2016年に「Lifetime Achievement Award(生涯功労賞)」を受賞している。受賞記念のコンサート行われているが、今回のアルバムが、その時のライブなのか、セッション録音なのかは不明。wikiによると、数曲を提供した映画を含め50本余りの映画音楽を手掛けている。映画音楽尾作曲家としても、世界的に名の通った方だったことが分かる。聴いていると、切なくなるような音楽が多い。声高に叫ばない、控えめな表現は日本人ならではのものだろう。「High Heels」(1991)のメインテーマは3分余りの短いものだが、弦の美しくも痛切な響きが聴き手の心に沁みわたる。この映画は1991年のスペインのコメディ映画なのだが、ストーリーに似つかわしくないメインテーマは一体何なんだろう。wikiによると過激な映像に対比的な美しい音楽を被せるパターンは「世界残酷物語」(1962)の「モア」により確立されたそうだが、この音楽もその例に倣ったのかと思ってしまった。弦のみで演奏される「Little Buddha」(1994)のメインテーマも悲しみを湛えながらも崇高な気分が良く出ている。Sotifyにサントラの音源があったので聴いてみたが、静謐な雰囲気の感じられる、いい曲が揃っていた。機会を見て全曲をチェックしたい。意外だったのはNHKの大河の「八重の桜」の音楽が坂本だったこと。そんなに熱心に見たわけではないが、音楽が坂本だったことは全く気が付かなかった。筆者のお気に入りの「美貌の青空」も入っている。映画「バビロン」で初めて発表されたのかと思っていたが、もともとあった曲が映画で採用されたという事情のようだ。綿谷千恵子役でこの映画に出演した菊池凛子によると、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督から渡されたCDに入っていたという。こちらによると「菊池の役にあった音楽だからよく聴いておくように」、と言われたそうだ。この曲はもともと坂本の「Smoochy」で発表された曲で、後にピアノ、ヴァイオリン、チェロのトリオに編曲され、(1996』および『/04』のバージョンが映画「バベル」で採用されたそうだ。このアルバムでの演奏は、ピアノのソロに弦のシンプルな伴奏が付くというもの。テンポがかなり遅いが、それがこの曲の美しさを際立たせている。最後の「レヴェナント」もイニャリトゥ監督の作品。イニャリトゥ監督は坂本の音楽が好きだったのだろう。映画の凍てついた世界を思い起こさせるような音楽だ。「ラスト・エンペラー」からの音楽もなかなか良かった。特に「Rain」はイントロの悲しみを帯びて疾走するような音楽が印象的だ。演奏は悠然としたテンポでスケールの大きいいものだ。ただ、もう少し上等なオーケストラで聞きたいと思うのはぜいたくな希望だろうか。録音はあまりよくない。弦中心の音楽だが、歪みっぽく透明度がいまいちで、低音の量感も感じられない。ということで、坂本の映画音楽における実績が感じられたアルバムだった。出来れば映画音楽を総ざらいした全集みたいなものが刊行されると嬉しい。RYUICHI SAKAMOTO Music For Film(Rambling RECORDS)24bit 96kHz Flac 1.Main Theme (Merry Christmas Mr.Lawrence) 2.Endroll (The Last Emperor) 3.Rain (The Last Emperor) 4.Main Theme (The Sheltering Sky) 5.Main Theme (High Heels) 6.Main Theme (Wild Palms) 7.Acceptance (Little Buddha) 8.Main Theme (long version) (Snake Eyes) 9.Bolerish (Femme Fatale) 10.Bibo No Aozora (Babel) 11.Small Hope (Hara-Kiri(Ichimei)) 12.Opening Theme (Yae No Sakura) 13.Main Theme (The Revenant)Brussels PhilharmonicDirk BrosséRecorded 2016
2024年08月29日
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北上コンサートサロンの今シーズンのラインナップにサックスの須川展也氏のリサイタルが含まれていたのと、最後のダブルリード本舗のサウンドを聞きたくてセット券を購入した。初回はヴァイオリンの河合勇人(かわいゆーじん)とピアノの森永冬香さんのリサイタル。全く期待していなかったのだが、大変優れたコンサートだった。これで¥1100は超お買い得。河合さんは2002年に神戸に生まれ、2015年の第13回リピンスキ・ヴィエニアフスキ国際コンクールのジュニア部門で1位他いくつかのコンクールで優勝している。因みに2021年の優勝者はHIMARIさんだそうだ。ついでに付け加えると、HIMARIさんは、来年の3月にベルリン・フィルの定期にヴィエニアフスキーの協奏曲でデビューするそうだ。閑話休題氏は東京芸大に飛び級で編入し、現在同大大学院に在籍しているという逸材。高度なテクニックを持ち、ミスも非常に少ないヴァイオリニストだ。イケメンで上背がかなりあり(多分180くらい)、如何にもモテそうな感じだった。曲の合間のお話が凄く面白い。主に海外への演奏旅行の出来事を話されていた。フランス人の気難しさ、カザフスタンへの演奏旅行の帰途北京空港で国内線ターミナルから国際線ターミナルまで行くのに白タクにふんだくられた話とか臨場感豊かに話されていた。さながら大学などで教師が歩きながら講義を行うような感じで、ステージを動きながら話すのが、なかなか堂に行っている。実際の演奏は音はそれほど大きくないが、透明度が高く音程も殆ど狂わない。とりわけ官能的な高音には惹きつけられた。超絶技巧を要する曲が3曲あり、完璧なテクニックで弾ききっていた。あざとい表現はなく、この手の曲に感じられる品の悪さがないのも彼の美徳だろう。古典もそつなくこなしていた。それほど深く突っ込んだ表現ではなく、アゴーギクもほとんど聞かれない、いわばフラットな演奏。それでもつまらない演奏ではなく、十分に説得力がある。超絶技巧の曲はともすれば見せ物化してしまいそうだが、河合の演奏は節度があり、安易に音楽の質を落とさない。超絶技巧の3曲は全てお初にお目にかかった。wiki によると、イエネー・フバイ(Jenő Hubay)(1857-1937)はハンガリーのヴァイオリニストで作曲家。4曲のヴァイオリン協奏曲があるそうだ。「カルメン幻想曲」といえばサラサーテを思い出すが、フバイの「カルメンによる華麗な幻想曲」はあざとさがなく、爽やかだった。録音があまりないのが不思議なくらいだ。Spotifyでも一種類しかヒットしなかった。ヴィエニアフスキーの「創作主題による華麗な変奏曲」は十種類まではいかないが、結構種類が多かった。親しみやすい主題で、演奏効果の上がる曲だろう。ここでも、これみよがしに技巧をひけらかすこともなく、すっきりとした仕上がり。サン=サーンスの「ワルツ形式の練習曲によるカプリス」はピアノ曲をイザイがヴァイオリン用に編曲したもの。原曲は華麗な技巧とエスプリが効いたエレガントな曲なのだが、編曲版は派手な技巧に隠れて、フランスの洒落た感覚が薄れてしまい、前述の2曲に比べるとあまり楽しめなかった。モーツァルトはピアノ主導型の演奏。モーツァルトのヴァイオリン・ソナタはヴァイオリンのオブリガート付きピアノ・ソナタと言われるので、あまり違和感はないが、ピアノが饒舌で音も大きすぎるように感じた。ブラームスのソナタは、ブラームスらしい難渋さは全く感じられず、第2楽章の快活な動きや最終楽章の柔らかな抒情も、見事に表現されていた。アンコールはポンセの「エストレリータ」で過度な表情付けはなく、爽やかだった。この曲は4月に行われた『さだまさし「がんばれ能登」』のコンサートに出演した時に演奏した曲だそうだ。その時、珠洲市の市長と話す機会があって、「ゼロからの出発になるのでは?」、という氏の問いかけに対し、市長は「毎日太陽は東から昇る」と語っていたそうだ。市長の苦しい胸の内が窺えるエピソードだ。ピアノの森永さんは、伴奏ピアニストとしてはスケールの大きい部類に入るだろう。ただ、ヴァイオリンとの音量のバランスが悪く、特にモーツァルトではそれが気になった。 北上コンサートサロン2024-2025 vol.1 河合勇人✕森永冬香 1.オーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第40番k.4542.フバイ:カルメンによる華麗な幻想曲休憩3.ブラームス:ヴァイオリンソナタ第2番Op.1004.ヴィエニアフスキー:創作主題による華麗な変奏曲5.サン・サーンス(イザイ編):ワルツ形式の練習曲によるカプリスアンコールアマニュエル・ポンセ:エストレリータ河合勇人(vn)森永冬香(p)2024年8月24日北上さくらホール小ホールにて視聴
2024年08月27日
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アントニオ・ファラオ(1965-)の久々のアルバムがリリースされた。筆者はクリス・クロスが安いprostudiomastersのセールで税込みCA$14.16で購入。ファラオにとって2017年の「Eklektik」(warner)以来のアルバムであり、しかもサイドメンがジョン・パティトゥッチのベースにジェフ・バラードのドラムスという豪華で、録音の機会を作ってくれたクリス・クロスに感謝する旨の発言があったことを記憶している。その喜びの興奮が冷めやらぬ?ような、熱気に満ちた演奏で、硬派のイメージと爆発的なアドリブは健在だ。プログラムはオリジナルが8曲でスタンダードが2曲という構成。オリジナルの水準が高く、アグレッシブなピアノは昔と何ら変わらない。ブックレットがないので、誰に対するとリビュートなのか分からないのが残念。かろうじて曲の雰囲気と演奏スタイルから「MT」がマッコイ・タイナーであることは想像できる。「Song For Shoret」は勿論ウエイン・ショーターだろう。暗いムードのモードで、ショーター作曲と言われてもおかしくない。「Memories of Calvì」はフランスのコルシカ島で行われているカルヴィ・ジャズフェスティバルのことだろうか。ピアニストのミシェル・ぺトルチアーニがよく出演していたそうだ。「Tributes」もどこかで聞いたようなメロディーだが、曲名が不明。「Rhight On」はミディアム・テンポの柔らかなタッチの曲だが、ドラムスが複雑なリズムをたたいていて、高度に洗練された雰囲気が感じられる。ファラオのアドリブはここでもエネルギッシュ。「Shock」はアブストラクトなメロディーラインが印象的な高速テンポの曲。バラードの「Tender」は辛口ながら、宗教的な雰囲気を感じさせる感動的な演奏だった。「Syrian Children」(シリアの子供たち)はピアノ・ソロ。遅めのテンポで、リリカルで中東の不思議なムードが広がる。キース・ジャレットもかくやと思わせるイントロから始まるコール・ポーターの「I Love You」は、ぞわっとするような興奮を引き起こす。チック・コリアの「Matrix」はいきなりテーマから始まり、高速で怒涛のアドリブが続く。サイドは期待にたがわぬ出来だが、ベースがもう少し積極的にピアノをプッシュしてほしかった。録音は普通だが、平面的で、もう少し前に出て来てほしい。そうすればファラオのアグレッシブな演奏が一層映えたと思われる。ということで、程々の出来で、長年の長年の渇を癒されたというところだろうか。全体的に高速テンポの曲が多く、少し変化に乏しいのが惜しい。Antonio Farao:Tributes(Criss Cross Jazz CRISS 1420 CD)24bit88.2kHz Flac1.Antonio Farao:Tributes2.Antonio Farao:Right One3.Antonio Farao:Shock4.Cole Porter:I Love You5.Antonio Farao:Tender6.Antonio Farao:MT7.Antonio Farao:Memories Of Calvi8.Antonio Farao:Syrian Children9.Antonio Farao:Song For Shorter10.Chick Corea:MatrixAntonio Farao(p)John Patitucci(b)Jeff Ballard(ds)Recorded on July 26, 2023 at Studio de Meudon, Paris
2024年08月25日
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youtubeで偶然見つけた動画。お馴染みのヴァルトビューネのコンサート会場の風景が出てくるので、ベルリン・フィルのコンサートかと思った。ところが様子が違う。見慣れた顔がなく、おまけにウインナ・ホルンが出ている。ステージもいつもの殺風景なものではなく、バックが赤や青のネオン?で彩られている。指揮もムーティで、これはいったいなんだと思って説明を見ると、5月8日に同地で行われたヨーロッパ・デイ・コンサートという催しだった。wikiによると、『ヨーロッパ・デイとは、毎年1度ヨーロッパにおいて平和と統合を祝う日。欧州評議会が定めた5月5日と欧州連合が定めた5月9日がある』とのことで、ヨーロッパ各地で記念のコンサートが行われているようだ。ムーティのコンサートは映像付きの動画があるが、ハイライトで、「ローマの松』が中間で大幅にカットされているなど、乱暴な仕事で面食らう。1時間にお納めなければならないので苦肉の策だろうが、それにしても乱暴すぎる。ところが音だけの動画を偶然見つけた。音は前述の動画よりよく、何よりも全曲収録されていることが嬉しい。ムーティの指揮はだいぶテンポが遅くなり、表現もだいぶ緩んできているのは加齢のためとはいえ少し寂しい。フレージングも柔やや軟さに欠けた場面が観られた。東京春音楽祭のオペラ公演がどうだったか不明だが、今年のグラミー賞をとったシカゴとの現代ものでは衰えが全く感じられなかったので、結構ショックだった。その代わりと言っては何だが、テンポの遅い曲では、味のある表現で悪くなかった。特によかったのは十八番のレスピーギの「ローマの松」。雄大なスケールで聴きごたえがあった。特に「ジャニコロの松」でのチェロのソロの後の、今にもとまりそうな弦の旋律(55:45)は今まで聞いたことのないほどの美しさでしびれた。ウイーン・フィルは相変わらず旨い。とろけるような美音は健在だ。アンコールではカラヤン編曲の「歓喜の歌」を聞けたのも嬉しかった。iPAdにDACをつないでヘッドフォンでの試聴で、オンマイクで分解能が悪いが、ダイジェストに比べると少しいい。ダイジェスト版動画コペンハーゲン放送局による放送録音(全曲)ヨーロッパの日2024 ムーティ指揮ウイーンフィル1.ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲(00:00)2.ファリャ:バレエ音楽「三角帽子」第2組曲(08:14)3.シャブリエ:狂詩曲「スペイン」(22:26)4.ブラームス:ハンガリー舞曲第1番(29:33)5.ブラームス:ハンガリー舞曲第4番(33:15)6.グリーグ:劇音楽「ペール・ギュント」~朝(39:06)7.ドヴォルザーク:スラヴ舞曲第1番(43:51)8.レスピーギ:交響詩「ローマの松」(48:25)アンコール:9.ヨハン・シュトラウス:皇帝円舞曲Keizer VarzerEncore1(01:05:14)10.ベートーヴェン(カラヤン編):ヨーロッパ賛歌(01:18:04)リッカルド・ムーティ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団2024年5月8日 ベルリン、ヴァルトビューネにて収録
2024年08月23日
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パット・メセニーの新作「MoonDial」(日時計)を聴く。「Dream Box」に続くギター・ソロのアルバムでBMG傘下のModern Recordingsからのリリース。「Dream Box」でも一部バリトン・ギターを使っていたが、今回は全曲バリトン・ギターでオーバーダビングもない。ところで、ファイルをNASに入れるためにタグを編集していた時、作曲者の名前がPatrick B. Methenyとなっていて別人かと思ったが、wikiを調べたら本名だった。レーベルにもよるが、この頃の音源の作曲者の名前が本名のことがあり、この記述は正しいのか疑ってしまうこともある。このアルバムでも、チック・コリアはArmando Anthony Coreaというミドルネームまではいった本名でクレジットされていて面食らう。閑話休題このアルバムではメセニーのオリジナルが7曲にスタンダードやトラッドの名曲が並ぶ。概ねゆったりとした穏やかな曲調で、しみじみとした情感が伝わってくる。言い古された言葉だが、この世知辛い世の中で、一服の清涼剤となるアルバムだ。CDジャーナルによると、『バリトンギターに、アルゼンチンで製造された新しい種類のナイロン弦を組み合わせることで、メセニーがこれまでスチール弦でのみ可能と考えていたチューニング・システムの使用が可能になった。そのためツアーの最中に新しいアルバムを考案し、録音し、リリースすることが可能になった。』という。先ごろの来日公演でもこのナイロン弦が使われていたそうだ。全曲煌びやかなパッセージはなく、穏やかで心温まる世界が広がる。最初のタイトル・チューンは快適なテンポの中で、メセニーらしい抒情的なメロディーが流れる。フレーズの端々にミズーリの雰囲気が感じられる(行ったことないけど)のも悪くない。「La Crosse」はスポーツのラクロスのことだろうか。この曲もパット特有の安らぎを感じさせる穏やかな曲だ。気になるのは裏でガサガサ言っている音。演奏ノイズだろうか。チック・コリアの「You're Everything」は原曲の後半の軽快なサンバの印象が強いが、今回の演奏は原曲の前半の遅いテンポのムードに沿った演奏のように思う。それでも原曲に比べるとかなり遅いテンポで別の曲のようだ。メロディーは断片的にしか聞こえないが、リリカルな要素が自然に表れ、パットの卓越した芸術性が際立つ、まさに名人芸だ。ビートルズの名曲「Here, There and Everywhere」も、かなりテンポが遅い。アドリブはこの名曲に劣らない素晴らしいメロディーが聞かれる。アドリブは総じて歌謡性が豊かで、まるで原曲の一部のように聴こえる。夕焼を思い出させるような余韻に満ちたエンディングも素晴らしい。「We Can't See It, But It's There」はそれまでのハートウォームな景色から一転して少しグレイで硬質な世界が広がる。アルペジオが緊迫した雰囲気を醸し出している。「Falcon Love」「Londonderry Air」も素朴なタッチだが、後半は若干テンポを上げて、原曲に引けを取らない抒情的なアドリブが繰り広げられる。この曲の演奏では、なかなかユニークなアプローチの一つだろう。殆どが遅い曲の中で、「Shōga」は軽快なテンポでリズムが刻まれる。3分ほどの短い曲だがメロディーは出てこない。けだるいムードのなかにやさしいメロディーが流れる「This Belongs To You」も悪くない。スタンダードの「Everything Happens To Me」と「 Somewhere」のメドレーもアプローチは同じだ。スタンダード「My Love And I」は聞いたことのない曲だと思ったが、ジョン・テイラーとのデュオ・アルバム「Night Fall」でヘイデンが取り上げていた。地味だが静謐で心に沁みわたる演奏だ。ポピュラーな「Angel Eyes」も甘さを排した、硬派な演奏が聴き手の共感を呼ぶ。最後のタイトル・チューンのリプライズもアルバムの余韻を感じさせる構成だ。録音はノイズが全くなく厚みのある素晴らしいサウンドだが、低音がだぶつき気味で圧迫感があり、もう少し引き締まっていればと感じる。メセニーは8/12に70歳になったばかりだが、絶えず新しいことを追求し、瑞々しい音楽を届けてくれることに感謝したい。個人的には、メセニーのアルバムの中でも間違いなく最高傑作の一つであり、絶対のお勧め!!Pat Metheny:MoonDial(Modern Recordings 9996402684)24bit 96kHz Flac1.Patrick B. Metheny:MoonDial2.Patrick B. Metheny:La Crosse3.Armando Anthony Corea, Neville Potter:You're Everything4.Lennon & McCartney:Here, There and Everywhere5.Patrick B. Metheny:We Can't See It, But It's There6.Patrick B. Metheny:Falcon Love7.Leonard Bernstein, Matt Dennis, Stephen Sondheim, Thomas Adair:Everything Happens To Me / Somewhere8.trad.:Londonderry Air9.Patrick B. Metheny:This Belongs To You10.Patrick B. Metheny:Shōga11.David Raskin, Johnny Mercer:My Love And I12.Earl K. Brent, Matt Dennis:Angel Eyes13.Patrick B. Metheny:MoonDial (epilogue)
2024年08月21日
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ジョン・アダムズの近作オペラ「Girls of the Golden West」をSpotifyで聞いていて、ひときわ目立つ歌手がいることを知った。調べてみるとジュリア・ブロック(1987-)というアメリカのソプラノ歌手だった。Spotify でアルバムを探して見つけたのが今回取り上げる「Walking in the Dark」というアルバム。本年度のグラミー賞最優秀クラシック・ヴォーカル・アルバムを受賞していたことは後になって知った。現在大活躍中の歌手だそうだ。肉厚な声だが、黒人特有の粘りはあまり感じられない。端正で表情豊かな歌唱で、時に過剰に聞こえることもあるのは、好みの問題かもしれない。その分、劇的な曲では、より一層劇的な歌唱を聴かせる。ポピュラー系の曲も入っているが、ゴスペル風味の柔軟な歌唱。彼女のコメントによると、『このアルバムの音楽と詩は、クラシック歌手としての私の成長に寄与してくれました。長年にわたり、私はこれらの素材に再考、修正、見直しを加えてきました』とのこと。なるほど、練られた歌唱には理由があったのだ。筆者の関心はバーバーの「ノックスヴィル」だったが、ジョン・アダムズの『エルニーニョ』より「Memorial de Tlatelolco」がインパクトがあった。「エルニーニョ」とは天気のことかと思っていたら、スペイン語で幼子キリストのことだそうだ。キリスト誕生の物語で、第2部で演奏されるこの曲は、1968年にメキシコシティのトラテロルコ広場で発生したトラテロルコ虐殺を記憶し、犠牲者を追悼するためにエレナ・ポニアトウスカ(1932-)の著作による。これを知って、このただならぬ雰囲気に納得した。最初の痛切極まりないフォルテシモから衝撃が走る。気の弱い筆者はビクッとしてしまった。クレジットはないが、コーラスも入っている。アダムズの巧妙なオーケストレーションによる管弦楽と相まって、ブロックの劇的な歌唱の説得力が半端でない。1曲目のオスカー・ブラウンjrはジャズ・ドラマーのレジェンドであるマックス・ローチの「We insist」という政治色の強いアルバムの作者として有名だそうだ。静けさの支配する演奏でピアノも寡黙だ。2曲目はアメリカのソング・ライターのコニー・コンバースの「One By One」。ボブ・ディランに匹敵するソング・ライターらしい。この歌は親が子どもに対する愛と願いを表現しているという。しみじみとした情感が心に染み入る。作曲者の歌を聴いたが、白人なのでゴスペルの雰囲気はあまり感じられない。風呂の中で録音しているような音の悪さだが、自宅のキッチンで録音したことを知って納得。コンバースの砕けた雰囲気に比べるとブロックの歌は格調が高い名唱で説得力がある。バーバーの「ノックスビル 1915年の夏」は夏の夜のほんわかとしたムードの曲というのが筆者のイメージだった。大層充実した歌唱で、特に情景がガラリと変わるあたりから正気に富んだ表現に変わる。彼女の強靱な声が、目覚ましい効果を与えている。管弦楽もカラフルで雄弁だ。そう多くないこの曲の演奏でも、上位に来る優れた演奏だ。ジャズ・ピアニストのビリー・テイラーの「I Wish I Knew How It Would Feel to Be Free」はゴスペル色が強い曲でクラシックだとレオンタイン・プライスも歌っている。ブロックの歌はゴスペル色が薄く、端正で格調が高い。最後のイギリスのソングライターのサンディ・デニーの「Who Knows Where the Time Goes」はバーバーの興奮を鎮めるような静かな曲で、ゴスペルを感じさせる、しみじみとした情感が素晴らしい。ピアノはクリスティアン・ライフ。ツボを押さえたながらも、ここぞというところでは結構主張するピアノだった。因みに彼らは夫婦だそうだ。3曲目と6曲目は彼の指揮するフィルハーモニア管弦楽団。アダムズの衝撃、バーバーのどかなアメリカの風景、どちらも見事に表現されている。Julia Bullock:Walking in the Dark(Nonesuch 7559790817)24bit192kHz Flac1.オスカー・ブラウンJr:『Brown Baby』2.コニー・コンバース:『One By One』3.ジョン・アダムズ:『エルニーニョ』より「Memorial de Tlatelolco」4.黒人霊歌:『City Called Heaven』5.ビリー・テイラー:『I Wish I Knew How It Would Feel to Be Free』6.サミュエル・バーバー:『ノックスヴィル、1915年の夏』Op.247.サンディ・デニー:『時の流れを誰が知る』(Who Knows Where the Time Goes?)ジュリア・ブロック(ソプラノ)クリスティアン・ライフ(ピアノ、指揮)フィルハーモニア管弦楽団(track 3,6)May 13, 2021 - May 14, 2021All Saints Church, East Finchley, UKBritten Studio, Hoffmann Building, Snape Maltings, Suffolk, EnglandHenry Wood Hall, London, UK
2024年08月19日
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娘が帰省した時に紹介されたアニメ「ルックバック」を観る。藤本タツキのコミックは全く知らなかったが、結構面白かった。娘からのメールを見ていなかったので観るのが遅れ、結局公開最終日の夜の7時40分からという、老人には辛い時間帯だった。案の定通い慣れた道のはずだったが、道を一本間違えてしまった。少し早めに出たので、遅れなかったのは不幸中の幸い。観客は20人ほどで、筆者を除き若い人ばかり。原作者が娘の同期で、娘が友達のところに行った時に原作者に2、3度会ったことがあるそうだ。その時に金がなくなったら漫画を描くということを言っていたそうで、その言葉が妙に印象に残っていた。当時から売れっ子だったのだろうか。映画でも金にまつわるエピソードがあり、男と女の違いはあるが、主人公の振る舞いに原作者の生き方が投影されているような気がした。京本が通っている大学は、彼らが在籍していた大学で、大学が協力していて、大学の風景がどーんと出てきたのには笑ってしまった。大学にとってはいいPRになったことは確かだろう。高校までの田舎の風景も原作者の育った仁賀保の原風景かと思って観ていた。後半終わったと思ったら、別なストーリーが始まって、その部分はちょっと理解しづらい。一時間弱の映画で物足りないかと思ったら、結構満足できた。haruka nakamuraの弦楽四重奏やピアノを中心とした音楽は爽やかで、青春の一コマを描いた映画にふさわしい。Urara の歌う主題歌「Light Song」は東欧風の讃美歌みたいな歌で、独特の味わいがある。映画では原作を一部改変していることもあり、原作を読まねばと思っている今日この頃だ。公式サイト
2024年08月17日
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去年亡くなった坂本龍一(1952-2023)の最後のアルバムが配信先行でリリースされた。長編コンサート映画「Opus」のサウンド・トラックの位置づけだろうか。全てピアノ・ソロで、プリペアド・ピアノによる演奏が入っているのが珍しい。(20180219)いつも使っているpresto musicでもリリースされていたので、ブラジルのサイトから早速ダウンロードした。曲は坂本が選んだ20曲。筆者の好きな「美貌の青空」が入っているのも嬉しい。全編暗い雰囲気で、テンポが遅く、決して楽しくなる音楽ではないが、心に染み入る音楽なのだろう。複雑な曲は殆どなく、わらべ歌を思わせるような素朴で柔らかい曲もある。聴いていると抒情的な部分が、何故か久石譲の映画音楽と似ていると思ってしまった。暗い曲が多い中では「Aubade 2020」がタイトル通り清々しい気分が感じられる。YMO時代の「Tong Poo」(東風)もリズミックで中国的な節回しの愛すべき曲だ。録音は彼の体力と相談しながら数回に分けて行われたそうだ。死を数か月後に迎えることになるため、気力が充実しているというわけにはいかないが、晩年の澄み切った心境を表しているかのような、曇りのない音楽が展開されている。また、演奏前の楽譜を並べているような音も収録されていて、ライブで聴いているような感覚を覚えるトラックもある。録音は悪くない。太い音で低音も豊かな、ポピュラー的な音作り。ただ、バックで息継ぎみたいな規則的なノイズが聞こえるのが気持ちが悪い。(andata)「solitude」でも違うパターンの音が聞こえる。これは効果音なのだろうか。映画で確認できればいいのだが筆者は見ていない。幸い映像もBDでリリースされるので、機会があれば是非見てみたいものだ。坂本龍一:Opus(Milan G0100053193277)24bit 96kHz Flac1. Lack of Love2. BB3. Andata4. Solitude5. for Jóhann6. Aubade 20207. Ichimei - small happiness8. Mizu no Naka no Bagatelle9. Bibo no Aozora10. Aqua11. Tong Poo12. The Wuthering Heights13. 20220302 - sarabande14. The Sheltering Sky15. 20180219 (w/prepared piano)16. The Last Emperor17. Trioon18. Happy End19. Merry Christmas Mr. Lawrence20. Opus - ending坂本龍一(p)
2024年08月15日
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フランスのジャズ歌手サラ・ランクマン(1989-)の待望のニューアルバムを聴く。彼女のアルバムは時折思い出しては検索していたのだが、なかなか新作が出ないので、いつもがっかりしていた.ところがQobuzで検索したらヒットしたのが、今回のアルバム。といっても、昨年のリリースで、筆者が知らなかっただけだが、それでも嬉しいことには変わりがない。通算6枚目のアルバムで、筆者が確認した限り、ハイレゾはQobuz以外の配信サイトではリリースされていない。前作はミラバッシとのデュオだったが、今回はストリングスも加わったコンボとの録音。ランクマンのハスキーなヴォーカルと弦楽四重奏が絶妙にマッチしている。スタンダードが2曲、それ以外はシャンソンや映画からインスピレーションを受けたというランクマンのオリジナルという構成。1曲目の「Nostalgia In Paris」から実に詩情豊かな世界が広がる。6曲目の「間奏曲」はピアノ・ソロ。2分に満たない曲だが、美しいメロディーと気品のあるピアノにうっとり。「Toi (Ôde à l’amitié)」も心を揺さぶられるようなワルツで、シャンソンの世界に浸れる。ヴォーカルにまとわりつくような弦も、筆舌に尽くしがたい。「Tango pour la fin d’un amour」(愛の終わりのためのタンゴ)はチェロのピチカートがタンゴと不思議とマッチして、都会的な魅力を振りまく。エンディングの小唄みたいな終わり方もしゃれている。「Les hommes que j’aime」(私が愛する男性たち)は軽快なテンポに乘って、清々しいメロディーが流れる。中間部のスキャットはピアノとのユニゾンで詩情豊か。「Danse avec ta peine」ではランクマン自身?によるバックコーラスも加わり、ムーディーな仕上がり。最後の「枯葉」はピアノによる弾き語り。バースの扱いが面白い。ピアノ・ソロから始まり、語り、最後は普通のヴォーカルに移る。中間部ではジャジーなピアノのアドリブを展開している。エンディングではマイルスの「枯葉」のイントロの1小節が顔をのぞかせる。今ままで注目していなかったが、彼女のピアノは温もりがあり、これほど趣味が良いとは知らなかった。2013年にパリで結成されたハンソン・カルテットが大半の曲に参加している。この団体は、普通の弦楽四重奏団のようだ。アルバムも3枚リリースしている。表現力が豊かで、積極的にヴォーカルをプッシュして、今回のアルバムの成功も彼らの参加が大きい。数曲に参加しているサックスのルイ・ビレットとのジャン=フランシス・プリンスも綿上花を添えている。特にサックスが、いかにもフランスらしい渋いサウンドで、ノスタルジーをかきたてる。残念なのは、時折音が歪んだり、バリバリというノイズが聞こえ、今どきありえない仕上がり。特に「Ma prière」(私の祈り)は、雑音だらけで、後半はヴォーカル、ソプラノ・サックス共々歪みまくりで、せっかくの名唱が台無しになってしまったのは何とも悔しい。話は変わるが、数日前まで開かれていたオリンピックでは、フランスの人種差別と傲慢さが露になった。ところがフランスの音楽が、いつでも素晴らしいのは何故だろう。まあ、人間の気質と音楽の素晴らしさは、全く関係ないということが、ここでも証明されたということかもしれない。それとも、あの気質だからこその音楽なのだろうか。Sarah Lancman:Le Pouvoir Des Mots(Unlimited Music France UMF001)24bit44.1kHz Flac1. Nostalgia In Paris2. Bolero nocturne N°33. Michel Legrand:Que feras-tu de ta vie ?4. Le pouvoir des mots5. Je le sais6. Interlude7. Toi (Ôde à l’amitié)8. Tango pour la fin d’un amour9. Les hommes que j’aime10. Ma prière11. Danse avec ta peine12. Jacques Prévert, Joseph Kosma:Les Feuilles Mortes (bonus track)Sarah Lancman(vo,p)The Hanson Quartet:Anton Hanson(vn)Jules Dussap(vn)Gabrielle Lafait(va)Simon Dechambre(vc)Blanche Stromboni(b track 2-7)Lucas Henri(b track1,3,4,8,)special guests:Louis Billette(ss,Ts)Jean-Francois Prins(g)
2024年08月13日
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絶賛発売中?のジョン・ウィルソン指揮のBBCフィルハーモニックによるエリック・コーツの管弦楽作品集の第4集を聴く。筆者はこのシリーズを聞き始めるまで、エリック・コーツの作品が、これほど面白いとは思っていなかった。ライト・クラシックの軽い作品という印象だった。確かにそれは間違いではないが、これほど聴き手の心を震わせる魅力あるとは思っていなかったのだ。ポピュラー的な意匠に惑わされがちだが、イギリスの伝統にしっかりと根ざした音楽であることを認識した。今回も魅力的な曲がてんこ盛りで、ワクワク感が半端ない。最初の「Music Everywhere」を聴くと思わずニンマリしてしまう。「Footlights」も夢見るようなコンサート・ワルツコーツが自身の生涯のダンス・パートナーであるフィリスを観る若き日の夜の幸せな回顧を描いている。「I Sing To You 」も短いが美しいメロディーが流れる。「三頭の熊」はイギリスではポピュラーな童話を基にした音楽。ゴルディロックスという小さな女の子が勝手に熊の家に入り、おかゆを食べ、椅子をこわし、ベッドに寝ているところを、帰宅した熊たちに見つかったので、森に逃げるというお話。コーツの1人息子のオースチンの誕生日のために作曲された。童話を基にした音楽なので、愉快なストーリー性が感じられる音楽だが、音楽にそれほど深みがあるわけではない。11の部分に分かれているが、続けて演奏される10分ほどの組曲。中では、第8曲「She runs away, followed by the Three Bears」がなかなかスリリングな音楽で楽しめる。「草原からメイフェアへ」はコーツが幼少期を過ごしたノッティンガムシャーへの別れを告げた3曲からなる自伝的作品だそうだ。「星の下で」はコーツの作品で初めてアルトサックスを使った作品。これもノスタルジックなメロディーが郷愁を誘う。SPの収録時間に合わせた作品とのこと。最後は組曲「4つの世紀」これは純然たるクラシックの組曲で、17世紀から20世紀までが描かれている。コーツはロンドン大空襲の後、チルターン丘陵のアマーシャムにある家に移り、ロンドンの空襲中に思い浮かんだ作品の編曲により出来た曲。シンフォニックで軽快な音楽だ。躍動的なホーンパイプでの躍動的なメロディー、エンディングを聴くとイギリス音楽だな~と思ってしまう。「Pavane and Tambourin」は悲しみを帯びたパヴァーヌもいいが次のタンバリンも躍動的で、そこにアーノルドを思い出させる重厚な味わいも加わる。彼らがイギリス人だったことを思い出させる。ゴージャズな「ワルツ」を経て、最後はシンフォニックなスイング・ジャズで締めくくられる。ビブラートの多いテナー・サックスのサウンドがノスタルジアをかきたてる。ジョン・ウイルソン指揮のBBCフィルハーモニックはメリハリのある生き生きとした音楽を繰り広げ、今回も絶好調だ。ということで、コーツのノスタルジックなムード満点の音楽に浸れること請け合いだ。ブックレットの解説は時代背景とともにコーツの人生が語られ、大変参考になる。John Wilson Eric Coates:Orchestral Works vol.4(Chandos CHAN20292W)24bit96kHz Flac1.Music Everywhere 3:102.Footlights 5:343.I Sing To You 3:374.The Three Bears(1926): I. WHO'S BEEN SITTING IN MY CHAIR? II. Goldilocks gets out of bed and dresses III. Clock strikes five IV. Goldilocks knocks at the Bears' door V. Goldilocks falls asleep in the small Bear's Bed VI. Enter the Three Bears VII. The Three Bears rush upstairs VIII. She runs away, followed by the Three Bears IX. The Three Bears make the best of it and return home, in the best of humour X. Goldilocks continues on her way home XI. As for the Three Bears - They put up a notice: "BEWARE! THREE HUNGRY BEARS LIVE HERE!"From Meadow to Mayfair Suite: I. In the Country - Rustic Dance II. A Song by the Way - Romance III. Evening in Town - Valse18.Under the Stars(1928)4 Centuries Suite(1942):19. I. Prelude and Hornpipe (17th Century) II. Pavane and Tambourin (18th Century) III. Valse (19th Century) IV. Rhythm (20th Century)Alex Jakeman(fl track19-22)BBC Philharmonic OrchestraJohn WilsonRecorded 16-17 March 2023, MediaCityUK, Salford, Manchester, UK
2024年08月11日
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オーストラリアの4人組のバンド「ハイエイタス・カイヨーテ」の「Love Heart Cheat Code」を聴く。このグループ名はメンバーが作った造語で、「一時的な休止から新たな創造が生まれる」みたいな意味が含まれているそうだ。音楽はジャズやR&Bのカテゴリーに入っているようだ。wikiでは、「フューチャー・ソウル・ユニット」と称されている。こちらによると、『ネオソウルの系譜にあるオルナタティブR&Bの一種で、ダブステップやフューチャーベース等に影響されたエレクトロニック・ビートや揺らぎを加えたシンセ・サウンドを使用して、独特の浮遊感やチルアウト感を持たせた実験的な音楽』とのこと。ソウルが不案内な筆者には、ますます訳が分からなくなってくる。取りあえず、エレクトロニクスをふんだんに使ったソウルの一種ということで自分を納得させた。このアルバム、以前から気にはなっていたのだが、思い切って?bandcampから10$で購入した。このグループはグラミー賞にも3度ノミネートを果たしていて、メンバーは凄腕揃いだ。ギター、キーボード、ベース、ドラムスの4人組でギターのナオミ・ネイパーム・ザールフェルトがリーダーでヴォーカルも担当している。全員白人なのだが、かなり黒っぽい雰囲気で全曲が切れ目なく続く。ジャズ色はあまり感じられない。全体にはソウル時々ヒップホップみたいな感じだろうか。怪しげなムードが漂い、かなり癖のある音楽だろう。電子楽器のカラフルかつ暴力的なサウンドが音楽の重要な役割を果たし、一筋縄ではいかない音楽が聞こえてくる。時折メロディックな曲もある。「Make Friends」のような、比較的シンプルでエレクトロニクスが控えめなトラックが今のところ好ましく思える。全編ヴォーカルの比重が大きく、インストナンバーは含まれていない。音楽はリズミックで親しみやすいが、かなり作り込まれていて、複層的な音楽だ。ところが、メディアでは以前のアルバムに比べてシンプルだと評価されているようだ。このヴォーカル、子供っぽい声のためか、結構印象に残る。気に入ったのは「Dimitri」。癖はあるがメロディックで親しみやすい。「LONGCAT」では最後に猫の鳴き声と女性の声が聞こえる。「How To Meet Yourself」もゆったりとしたテンポで楽しめる。また即興で作られた最後の「White Rabbit」のような暴力的なサウンドも聞かれる。弦やホーンのサウンドが聞こえるが、全てシンセによるサウンドだと思っていたらそうではなかった。Taylor "Chip" Crawfordは自分で発明した「frello」を担当。チェロとギターが合わさったような素朴なサウンドが聞こえる。そのほかギターのトム・マーティンやフルートのニコディモスが参加しているが、具体的にどのトラックに参加しているかまでは確認していない。どうやら、一曲づつ丹念に聴くのではなく、聞き流すのが正しい聞き方のようだ。例によって192kHzにアップコンバートして試聴したが、エレクトロニクスのサウンドが歪みっぽく、全体に平面的で、前に出てこないので物足りない。アルバム・アートワークはスリランカ生まれでトロントを拠点とするマルチメディア・アーティストRajni Perera(1985-)による。気に入るかどうかは別として、インパクトのあるデザインであることは確かだ。以前のアルバムも見たことのあるイラストばかりだが、今回のアルバムが過去のアルバムとは路線が違うことを、はっきりと示しているのかもしれない。ということで、筆者にとっては、いまのところストレスを感じることはあっても馴染むまでには至っていないという状況だ。Hiatus Kaiyote:Love Heart Cheat Code(Brainfeeder BFCD-144)24bit 48kHz Flac 1.Dreamboat 2.Telescope 3.Make Friends 4.BMO is Beautiful (feat. BMO of Adventure Time) 5.Everything's Beautiful 6.Dimitri 7.Longcat 8.How To Meet Yourself 9.Love Heart Cheat Code 10.Cinnamon Temple 11.White RabbitTaylor "Chip" Crawford(frello)Tom Martin(g)Nikodimos(fl)Hiatus Kaiyote
2024年08月09日
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ドイツ・グラモフォンのプッシュが強力で、価格も通常より安く、思わず買ってしまった音源。以下ディストリビューターのコメントからの引用。『ベルリンの主要なオーケストラを率いる初の女性指揮者となったヨアナ・マルヴィッツがベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団とともにドイツの作曲家クルト・ヴァイルの交響曲集のアルバムでドイツ・グラモフォン・デビューを果たしました。』ヨアナ・マルヴィッツ(1986-)はドイツの指揮者、ピアニストだそうだ。いろいろな歌劇場で経験を積み、いくつかの劇場では女性として初めて音楽監督になっている。2020年にはザルツブルク音楽祭で女性としては3番目の指揮者としてモーツァルトの「コシ・ファン・トゥッテ」を指揮しているそうだ。グラモフォンのデビュー・アルバムに、あまり一般受しないクルト・ワイルの音楽を持ってくるとは、よほど自信があるのだろう。筆者はワイルの音楽というと暗いイメージしかないが、この指揮者の音楽はそれほど暗くなく、むしろワイルの明の部分を明らかにしている気がする。ワイルのサウンドは鳴りきらず詰まり気味というのが筆者の先入観だが、ここでのサウンドが開放的なものであることも、音楽が明るく聞こえる要因の一つだろう。最初の交響曲第1番は、今まであまりいい曲とは思っていなかったが、この生き生きとした演奏を聴くと、今までのイメージがうそのようだ。以前取り上げたハインツ・カール・グルーバーの演奏が今までの暗く重々しいイメージだとしたら、別な曲と思うくらい、サウドが開放的でイントロなど実に鮮烈なサウンドが聞かれる。次の「7つの大罪」は全く期待していなかったが、歌手の好演もあり大変素晴らしかった。特にア・カペラで歌われる第4曲「飽食」でアナを励ます家族のコーラスが実に楽しい。ここでもワイルの重苦しい音楽がマルヴィッツによって殻を破った開放的な音楽になっている。とにかく生き生きとした表情で、聴き手も思わずにこにこさせられる。音楽だけを聴いていても、ドラマが感じられる楽しさがある。語りには女優のカタリーネ・メーリンクが起用されている。美しい声で、あまり癖がなく、ディクションも滑らかで、物語に引き込まれる。因みにこの曲で共演しているテノールのシモン・ボーデとマルヴィッツは夫婦で、2021年に第一子をもうけたそうだ。交響曲第2番でもマルヴィッツの颯爽とした指揮ぶりが印象的だ。第1楽章のアレグロ・モルトでは、音楽が力強く進行し、その推進力が見事で思わず引き込まれる。第2楽章も徒に暗くならず、メリハリが効いている。打楽器の力演が目立つ。第3楽章も速めのテンポでぐいぐいと迫る。フレーズのきれが素晴らしくいい。畳みかけるようなエンディングは、まるで熱狂の渦に飲み込まれるような感覚を覚える。ということで、ワイルのイメージを大幅に変えてくれた名演として、是非お聴きいただきたい。実に鮮烈なデビューで、マルヴィッツの今後の動向に目が離せない。ヨアナ・マルヴィッツ:The Kurt Weil Album(DGG 4865670)24bit96kHz Flacクルト・ヴァイル:1. 交響曲第1番『ベルリン交響曲』5.バレエ『七つの大罪』14. 交響曲第2番『交響的幻想曲』カタリーネ・メーリンク(voice track 5-13)マイケル・ポーター(t track 5-13)ジモン・ボーデ(t track 5-13)ミヒャエル・ナグル(Br track 5-13)オリヴァー・ツヴァルク(B-Br track 5-13)ヨアナ・マルヴィッツ(指揮)ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団録音:2024年1月3-5日(1-4)、2月5-7日(5-16)、ベルリン、コンツェルトハウス・ベルリン
2024年08月07日
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spotifyで聞いて、気に入った一枚。クリスクロスの看板ピアニストの一人、ミーシャ・ツィガノフの2024年最新作だそうだ。prostudiomastersのカナダサイトから1500円台で入手。ミーシャ・ツィガノフはロシアのサンクトペテルブルク生まれでニューヨークで活躍しているピアニストだそうだ。筆者は寡聞にして知らなかったが、共演しているメンバーが凄腕ミュージシャンばかりで、そこからしても彼の名声が伺える。メインストリーム系のスタイリッシュな音楽で気持ちよく聴くことができる。2管編成で、曲によりゲストが加わる。6曲がオリジナルでそのほかに2曲のスタンダードが演奏されている。オリジナルはテクニカルな曲が多いが、シリアスムードは一切なく、アメリカ西海岸の乾いた空気を感じさせるような音楽で、ロシア人が書いたとは思えない。さながらSFJAZZコレクティブの音楽を聴いているようだ。スタンダードもアレンジが凝っている。ジェローム・カーンの「Long Ago And Far Away」は変拍子仕立てのアレンジが、実にスタイリッシュだ。エレクトリック・ピアノ・アルト・ソロとも申し分のない出来。アップテンポになってからのアルト・ソロが興奮を煽り立て、テンポを元に戻してからのトランペット・ソロで熱を覚ますという構成が良い。アルバム随一の聞き物といってもおかしくない。最後はガーシュインの「I Loves You Porgy」。これも一筋縄ではいかないアレンジが新鮮だ。リハーモナイズと独特のタイム感覚で、晴れた日の午後にくつろいでいるようなまったりとした気分が悪くない。エレクトリック・ピアノとシンセの使い方も悪くない。マット・ブリューワーのエレキベース・ソロもいい。ミゲル・ゼノンのファンキーなアルトが飛び抜けて素晴らしい。アレックス・シピアジンのトランペットもパワーはそれほどでもないが、柔らかなサウンドで悪くない。ジョナサン・ブレイクのドラムスはそれほど表に出てこないが、引き出しの多いプレイで演奏に刺激と彩りを加えている。ツィガノフはそれほど表に出てこないが、アコースティックはリリカルなプレイで、フェンダーローズやミニモーグではバッキングでさえ別人のような積極的なアプローチを見せる。楽器が変わると性格も変わるのだろうか。クリス・ポッターは相変わらず素晴らしいソロを展開しているが、ゲストなので抑えめ。「April」の後半、ゼノンとの火の出るような長尺のアドリブの応酬が聞きものだ。1、2曲がテナー、3曲目がソプラノを吹いている。オランダ出身のヒスケ・オオスターワイクのヴォーカルが入ったナンバーもいい。彼女のクールなヴォーカルとホーンがユニゾンする場面は、スリリングだ。「April」と「Seeley Street Song」では歌詞も提供している。ということで、初めてお目にかかったピアニストだったが、大変優れたアルバムだった。プレイもさることながら、作編曲能力、特にアレンジの力量が光っていた。Misha Tsiganov:Painter Of Dreams(Cris Cross CRC1421)24bit 96kHz Flac1. Misha Tsiganov:Elusive Dots2. Misha Tsiganov:April3. Misha Tsiganov:Up Journey4. Misha Tsiganov:Painter Of Dreams5. Jerome Kern:Long Ago And Far Away6. Misha Tsiganov:Seeley Street Song7. Misha Tsiganov:Chain Of Events8. George Gershwin:I Loves You PorgyMisha Tsiganov(p)Chris Potter(sax track 1-3)Miguel Zenon(as)Alex Sipiagin(tp)Johnathan Blake(ds)Matt Brewer(b)Hiske Oosterwijk(vo track 2,4,6)Recroded on January 6, 2024 at the Samurai Hotel Recording Studio, NYC
2024年08月05日
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伊藤康英、 鈴木 英史という吹奏楽界では著名な作曲家お二方と指揮者の滝澤尚哉氏の3名の共著による吹奏楽の名曲をセレクトし、解説を加えた著書。この本の特徴は上述の名曲に加え、著名な作曲家や演奏家の考える名曲のアンケートがあるのが嬉しい。殆どの曲は知っているが、知らない曲や忘れていた曲を確認したり、音を聞く楽しみがある。前書きで伊藤氏が20年ほど前に音楽大学でホルストの吹奏楽のための組曲を知っているかと学生に聞いたところ、誰も知らなかったということに驚いた話が載っている。昔の人間だったらだれでも知っている吹奏楽の古典なのだが、次から次へと新しい曲が出来るので古典まで手が回らないのだろうというのが伊藤氏の見解だ。いつも思うのはアメリカをはじめとする諸外国では古典を大事にしていて、コンサートでも普通に取り上げられている。ところが日本ではコンサートでは新し目の曲とポピュラーという偏った選曲になってしまっている。部活では演奏者の好きな曲を取り上げやすいことは確かだが、指揮者や指導者の目配りが足りないと思う。そういう観点からもこの本は貴重な本だと思う。本の内容とは関係ないことを話してしまったが、日本の吹奏楽のあり方について現役の作曲家から指摘されることはいいことだ。閑話休題本書の構成は次の通りになっている。第1章 吹奏楽の新約聖書(11曲)第2章 20世紀・戦後の世界遺産(34曲)第3章 21世紀・そして未来遺産(19曲)第4章 多彩な世界遺産(26曲)第5章 邦人作品の世界遺産(10曲)ページ毎に上に作品名が書かれていて、パラパラめくるだけですぐ曲が分かるという、細やかな配慮も嬉しい。取り上げられる曲に偏りが出ることは仕方がないことだが、イギリス偏重で、アメリカが少ないことが不満だ。世界で最も吹奏楽の盛んな日本の作曲家の曲は「邦人作品の世界遺産」として章立てされているのは有難いが、曲数が少ないのが残念だ。扱われている曲は少ないが、行進曲についても第4章で言及されているのは嬉しいが、6曲だけなのは少々お粗末。作品名のインデックスが付いているのも有難い。気になる点はあるものの総じて良くできた本だと思う。細かいデータもついていて、さすがに音楽の友社の出版だけのことはあると思う。欲を言えば代表的な演奏についての記載もあればよかった・すぐ陳腐化するので敢えて載せなかったのかもしれないが、例えばDISCOGSにも結構載っているのでそのURLを載せるだけでも役に立つだろう。ところで、発行から2か月半で第3刷と好調な売れ行きのようなのは、同好の士としても、とても嬉しい。筆者も、取りあえず名曲とは思っていなかったグレインジャーの「ローマの権力とキリスト教徒の心」を引っ張り出して聴いてみることから始めたい。伊藤康英・鈴木英史・滝澤尚哉 著 「吹奏楽作品 世界遺産100: 後世に受け継がれゆく不朽の名曲たち」 音楽之友社 2024年6月30日 第3刷
2024年08月03日
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昨年生で聞いて、録音してほしい旨ブログに書いた。それが思いもかけず、一年経たないうちに聞けることになって嬉しい。日付を見ると、盛岡のコンサートの10日ほど後に録音したようなので、基本的には大きく印象が変わってはいない。ただ、実演で際立っていたピアノの積極的なアプローチが少し控えめになり、ヴァイオリンとピアノの緊張感ある絡みの面白さが薄れてしまった気がする。ヴァイオリンの音は艶と潤いがある録音のほうが断然素晴らしい。ピアノは実演よりは若干控えめだが、存在感はある。入念なリハーサルとツアーを経ての録音なので、完成度はすこぶる高い。表現は中庸だが、雄弁で奇をてらっているところはまったくない。イブラギモヴァのような病的な表現はなく、ブラームスの渋さも程々だ。それどころか、レガートで移弦するときに時折聞かれる艶めかしい響きには、ぞくっとするものがある。CDは6/26発売だが、配信は6/24から始まっている。音楽の友に載っている諏訪内のインタビューでは、生と録音の違いに驚かれるだろうと語っている。また、ボジャノフは録音ではライブとは違った、こだわりを見せていたというのも興味深い。昨年来日した時に河合楽器が彼らにインタビューした記事がこちらに載っている。その中で、ボジャノフが自分はブラームス・プレイヤーではないのでピアノの曲はやらないと言っているのが興味深い。録音はヴァイオリンとピアノのバランスが良く、ピアノのサウンドも深みがある。諏訪内晶子 ブラームス:ヴァイオリンソナタ全集(Decca 4876429)24bit96kHz Flac1.Brahms: Violin Sonata No. 1 in G major, Op. 784.Brahms: Violin Sonata No. 2 in A major, Op. 1007.Brahms: Violin Sonata No. 3 in D minor, Op. 108Akiko Suwanai (vn)Evgeni Bozhanov (p)Recorded: 2023-10-05, Robert-Schumann-Saal, Düsseldorf
2024年08月01日
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ポーランド系ノルウェー人マチェイ・オバラ(1981)が昨年ECMからリリースした「Frozen Silence」を聴く。ポーランド・ノルウェー・カルテットによるアルバムで、ECMでは3枚目になるという。リズム・セクションは彼と10年以上共に演奏活動をしてきた仲間で、マチェイ・オバラとドミニク・ワニアがポーランド人、オーレ・モルテン・ヴォーガンとガール・ニルセンがノルウェー人とのこと。全く知らない方だったし、購入後しばらく放置していてまともに聴いていなかった。ブログに書くネタがなく、聴きながらブログを書いている。最近こういうスタイルが普通で、じっくりと聞いてから考えをまとめるということが少なくなった。気に入った音源を購入しても、時間がなく、しばらく放置することが多くなったことも原因だ。曲はパンデミックでポーランドのジャズ・シーンに門戸が閉ざされ、海外ツアーができなくなったときに、ワルシャワを離れ、丘や森に向かいこれらを作曲したという。自然、特に彼の家族のルーツであるポーランド南西部のカルコノシェ地方の荒涼とした劇的なクな風景への直接的な答えだという。カルコノシェ国立公園ミュージシャンではパンデミックで自己を見つめなおし、優れた結果を出す例が多い。パンデミックの怪我の功名というべきだろうか。サウンドはECM特有の静けさと、湖の湖面を覗き込んだ時のような情景を浮かべる抒情的なものだ。その抒情は美しいものの、暗い影を落としており、楽しさにはつながらない。深い闇を感じさせる「Black Cauldron」がその代表的な例だ。オバラのサックスが退廃的と言ったら言い過ぎかもしれないが、その音に少し病的なものを感じるのも確か。全曲リリカルではあるが同じような調子で、あまり楽しくない。タイトルチューンの「Frozen Silence」はリズミックな曲だが、暗いままで、決して晴れることがない。「Waves of Glyma」はイントロこそ他の曲と同じ調子で始まるが、徐々に熱を帯びてバンドが一体となった音楽を展開するスリリングな演奏で聴き手の心を熱くさせる音楽だ。サイドメンではやはりピアノのドミニク・ワニアのリリカルではあるが積極的にサックスをプッシュするプレイが光る。ただ、ワニアの唸り声は控えめだが、気になりだすと具合が悪い。他のノルウェー人たちも、高度なプレイを示していて、オバラの音楽へ深みを与えている。特にドラムスの鮮烈なサウンドがいい。ベースは控えめだがオバラの音楽としては、このバランスがいい。ECMらしい透明で深いサウンドが大いに寄与していることは確かで、これが残響の少ない平面的なサウンドになったら全く別な音楽になってしまっただろう。ということで、悪くはないが、それほどでも、というのが現在の筆者の心境だ。理解度が深まるまで、もう少し我慢して聴き続ける必要があるかもしれない。Marciej Obara:Frozen Silence(ECM 2778)24bit 96kHz Flac1.Dry Mountain2.Black Cauldron3.Frozen Silence4.High Stone5.Rainbow Leaves6.Twilight7.Waves of Glyma8.Flying PixiesAll compositions by Maciej Obara"Rainbow Leaves" composed by Maciej Obara and Nikola KołodziejczykMaciej Obara(as)Dominik Wania(p)Ole Morten Vågan(b)Gard Nilssen(ds)Recorded June 2022、Rinbow Studio,Oslo
2024年07月30日
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2023年に出たサティとケージをドッキングした「Letter(s) to Erik Satie」というアルバムに続くケージ作品の続編。今回は1938年から1945年までの作品で「20のダンスにインスパイアされた曲」を集めたとのこと。「Letter(s) to Erik Satie」はケージが中盤20世紀にサティの作品を支持し、復活させたことを踏まえた構成だそうだ。なるほど、「Letter(s) to Erik Satie」でサティとケージが共存していたのはそういう理由だったとは知らなかった。後で考えたら彼らは環境音楽という共通項があることを思い出した。「Letter(s) to Erik Satie」はサティとケージが違和感なく共存していたことに驚いたものだ。今回はケージ単独で、すべてプリペアド・ピアノのための作品。ピアノというより自分の周りにいろいろな打楽器を並べて、それらを鳴らしているような光景が思い浮かぶような面白さがある。例によってガムランのようなサウンドが出てくるのも同じだ。この前言及したシェーンベルクの伝記本の中にケージががシェーンベルクの弟子、しかも出来の良くないで弟子だったことが書かれていたことを思い出した。ケージは12音技法を学びたかったのだが、伝統的な書法に劣るため、まるであいてされなかったようだ。ケージの回想では、「極めて独裁的で、嫌味なヤツ」だったそうだ。間話休題最近ケージを少しかじり始めたが、今回のアルバムの曲はすべて初お目見え。筆者にとってケージの音楽はユーモラスな曲がとっつき易い。ガムラン音楽のような曲はあまり聞きたくないというのが現在の心境だ。この稿を書くために少しプリペアド・ピアノについて調べてみた。wikiによると、プリペアド・ピアノはケージが『舞踊家 Syvilla Fort (1917-1975) にダンスの付随音楽を委嘱されたケージは初め打楽器アンサンブルの使用を考えたが、公演場所のスペース上の制約から打楽器を大量に使用することができなかったためピアノで代替せざるを得ず、その作曲を進める中でこの楽器を考案するに至った。』とのこと。筆者の興味は音楽そのものではなく、そこから発生するサウンドにある。このアルバムで興味をそそる音はいくつかある。「The Unavailable Memory of」のシンバルのようなシャーンとなる音はその一例。「ジョン・ケージ : ホロコーストの名の下に」はアウシュビッツの虐殺がテーマ。東洋的な静けさを感じさせる一方で、陰鬱な響きがあり、独特の癖がある。それが逆に不気味さを際立たせているように思える。パート2の後半の和音の強打が、痛切な痛みを感じさせる。「Our Spring Will Come」はユーモラスな曲想にノイズの伴ったサウンドが印象的だ。このノイズはどうやって作っているのかとても興味がある。時々普通のピアノの音が聞こえてプリパレーションされた音が何とも奇怪なことを印象づける。最後の「かくて大地は再び実を結ばん」はそれほど音が加工されていないが、メロディックでなかなかユーモラスな曲だ。因みにケージの作品でもっともプリパレーションの多いのは「ソナタとインターリュード」で45の音符にプリパレーションが施されているという。(ChatGPTによる)「Premitive」は、その名の通り原始的な雰囲気のする曲で、春の祭典の「春の兆し」を彷彿とさせる場面もある。「Bacchanale」はケージが初めてプリペアド・ピアノを使った作品。「ダンスの伴奏」を依頼されたが、スペースの関係で打楽器が使えなかったため、ピアノに細工をしたというエピソードがある。ミニマル臭さ全開で、休止後のエキゾチックな民謡風な旋律とのコントラストが面白い。最後の「かくて大地は再び実を結ばん」は野蛮な曲で、ピアノが暴れまくる。シャマユがピアノに細工するためのボルトをつまんでいるジャケ写真がなかなか秀逸だ。なお、CDにはブックレットが付いているらしいが、ダウンロード音源には付いてない。あまり知られていない現代音楽だからこそ、ブックレットをつけてほしかった。なお、この稿を書くにあたってジョン・ケージ・トラストという機関のデータベースを参考にした。大変詳しいことが書かれてあり、とても有益なサイトだ。参考:ジョンケージは何を表現しようとしたか(堀内宏公)Bertrand Chamayou:Cage² (Erato 2173227516)24bit 96kHz FlacJohn Cage: 1.Mysterious Adventure(1945) 得体の知れない冒険 【27】2.The Unavailable Memory of(1944) アンアヴェイラブル・メモリー・オブ 【27】3.Primitive(1942)4.In the Name of the Holocaust(1942) ホロコーストの名の下に Pt. 1 Pt. 26.The Perilous Night(1944) 危険な夜 I. II. III. IV. V. VI.12.Root of an Unfocus(1944) ピンボケの源13.Daughters of the Lonesome Isle(1945) 孤島の娘たち 【39】14.A Valentine Out of Season(1944)季節はずれのヴァレンタイン 【プリパレーション少々】 Movement I Movement II Movement III17.Tossed as it is Untroubled(1943) トスト・アズ・イト・イズ・アントラブルド18.Bacchanale(1940)19.Our Spring Will Come(1943)20.And the Earth Shall Bear Again(1942) かくて大地は再び実を結ばん 【18】Bertrand Chamayou註)【】の中の数字はプリパレーションされた音符の数を表す。
2024年07月28日
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以前から気になっていたピアニストのアラン・パスカがポストカードに残したアルバム2枚をBandcampから購入。アルカディア・レコードから2022年にリリースされたもので、今年も新しいアルバムがリリースされたがそちらは未購入。今回はそのうちの「Milagro」を取り上げたい。CD自体は1993年にポストカードからリリースされていて、彼の初リーダーアルバムだった。wikiによるとジャズというよりはロック畑での活躍が目立つ。今回のアルバムはボブ・ディランやサンタナとの共演を経て後の録音だが、それらの経験の影響は全く感じられない。41歳という遅い年齢でのデビュー・アルバムだからこそ、満を持して自分のやりたいことをやったという印象を受ける。ビル・エヴァンスやハービーハンコックの影響を受けているそうだ。録音は1993年とほゞ30年前だが、古臭さは皆無。全体に柔らかいムードが漂い、気分がいいアルバムだ。例によってロス・レスなので、192kHzにアップコンバートして試聴。コール・ポーターの「I Love You」と最後のトーマス・ウェステンドルフの「I’ll Take You Home Again, Kathleen}以外はパスカのオリジナルで、佳曲揃いだ。基本ピアノトリオで、ベースのデイブ・ホランドとドラムスのジャック・デジョネットという重量級のメンバーが参加している。4曲でマイケル・ブレッカーのテナーがフィーチャーされていて、その中の2曲はホーンが補強されている。ピアノ・トリオは隙のない演奏をみせる。パスカもデビュー作とは思えない落ち着いたプレイ。サウンドのエッジが立っていないため、特にゆったりとした曲で聞ける、しっとりとしたテイストがいい。速いテンポで驀進する「The Law of Diminishing Returns」は推進力があり、ハンコックの演奏を思い出させる。ブレッカーは円熟期直前で、曲にもよるが耽美的なプレイが目立つ。ホーンを補強した2曲での中ではロジャー・ローゼンバーグのアルト・フルートの起用がはまっている。「Twilight」はホーンのハーモニーに乘って流れるピアノが幻想的な雰囲気を醸し出し、実に心地よい。「Heartland」はラテン的だが落ち着いた演奏で、アルト・フルートの速いパッセージがいいスパイスになっている。スタンダードでは疾走する「I Love You」のキース・ジャレット張りのスタイリッシュな解釈がとても新鮮に感じられた。ベースとドラムスの喰いつきもいい。録音は広がりこそあまりないが、ノイズのないサウンドで古さを感じさせない。ということで、心温まる演奏の好アルバムだった。パスカはリーダー・アルバムが十数枚あるので、折を見てチェックしたい。Alan Pasqua:Milagro(Arkadia Records 7710022)16bit 44.1kHz Flac1.Alan Pasqua:Acoma2.Alan Pasqua:Rio Grande3.Alan Pasqua:A Sleeping Child4.Alan Pasqua:The Law of Diminishing Returns5.Alan Pasqua:Twilight6.Cole Porter:All of You7.Alan Pasqua:Milagro8.Alan Pasqua:L’Inverno9.Alan Pasqua:Heartland10.Thomas Westendorf:I’ll Take You Home Again, Kathleen (for my Kathleen)Alan Pasqua(p)Dave Holland(b)Paul Motian(ds)Michael Brecker(ts track 2,4,5,8)Roger Rosenberg(as tack2,a-fl track5,9)Jack Schatz(tb,b-tb track 2,9)Willie Olenick(tp,flh track 5,9)Roger Rosenberg(as,fl track5,9)Jack Schatz(tb,b-tb track 5,9)John Clark(Hr track 7)Dave Tofani(bcl track 7)Recorded on October 10 and 11, 1993 at Sound Sound, New York City参考
2024年07月26日
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エリック・ル・サージュが近代の知られざる作品を26曲弾いたアルバム。おととし発売された音源で、筆者が知ったのはだいぶ後になってからだ。タイトルの「Jardins suspendus」はフランス語で「空中庭園」を意味する様だ。1860~1946年のフランス作曲家によるピアノ小品集だそうだ。選曲、演奏とも実に素晴らしい。知られざると書いてしまったが、有名なサティーのグノシェンヌも演奏されている。聞いたことのない曲が殆どだが、どれもが粒よりで、はっとするほど美しい曲もある。ジェルメーヌ・タイユフェール(1892 - 1983)の1台のピアノのために編曲された「2台のピアノのための二つのワルツ」からの第1曲やシャミナードの「6つの無言歌 Op.76」の第1曲など、ふるい付きたいほど美しい。オネゲルの「ショパンの思い出」も悲しみを帯びた旋律が、心に響く。フランクの若き日の傑作「前奏曲、フーガと変奏曲」作品18の「前奏曲」も、しみじみとした味わいで悪くない。書いていてもキリがないのでこの辺にしておくが、たくさんの味わい深い曲が並んでいて」、ちょっとした宝探しの気分も味わえる。ルサージュは「『空中庭園』は、ラヴェル、ドビュッシー、フォーレはここには含まれておらず、その傍らで花を咲かせたフランス音楽の清華を選び抜きました。このアルバムを聴いていただいて、これらの小品が属している曲集を聴いてみたい、作況化のことをもっと知ってみたいと思っていただけると、ピアニスト冥利に尽きるというものです。」と語っている。筆者も同じ気持ちで、他の曲も聴いてみたいと思う。彼の狙いは、少なくとも筆者には響いたということだろう。「知られざる・・・」という企画はよくあるものだが、知られていないのは曲がよくないことが大半だ。このアルバムは、その少ない例外の一つだろう。ポピュラー名曲に飽き足りない聴き手にとっては、またとない贈り物となるだろう。きっと、お気に入りの一曲が見つかるに違いない。Eric Le Sage:Jardins suspendus(SONY)24bit96kHz FlacEric Le Sage:Jardins suspendus(SONY1.Gabriel Dupont:Les Heures dolentes: V. Après-midi de dimanche2.Jean Cras:Paysages: I. Maritime3.Lili Boulanger:Trois morceaux pour piano : I. D'un vieux jardin4.Reynaldo Hahn:Le rossignol éperdu: No. 52, Hivernale5.Erik Satie:Gnossienne No. 26.Jacques Ibert:Matin sur l'eau7.Camille Saint-Saëns:Valse nonchalante in D-Flat Major, Op. 1108.Vincent d'Indy:Tableaux de voyage, Op. 33: IV. Lac vert9.Louis Vierne:Deux pièces pour piano, Op. 7: II. Impression d'Automne10.Gabriel Pierné:15 Pièces, Op. 3: VI. Prélude11.Louis Aubert:3 Esquisses, Op.7: II. Nocturne12.Gabriel Dupont:La maison dans les dunes: IX. Clair d'étoiles13.Reynaldo Hahn:Premières valses: V. À l'ombre rêveuse de Chopin14.Erik Satie:Gnossienne No. 115.Germaine Tailleferre:Deux valses pour deux pianos: I. Valse lente16.Gustave Samazeuilh:Le chant de la mer: I. Prélude17.Florent Schmitt:Musiques intimes, Book 1, Op. 16: I. Doux et calme18.Cécile Chaminade:6 Romances sans paroles, Op. 76: I. Souvenance19.Arthur Honegger:Souvenir de Chopin20.Ernest Chausson:Paysage, Op.3821.Francis Poulenc:Valse des musiques de soie22.Jehan Alain:Suite facile: II. Comme une barcarolle23.Déodat De Séverac:En vacances, Book 1, No. 7: Valse Romantique24.Erik Satie:Gnossienne No. 325.Nadia Boulanger:Vers la vie nouvelle26.César Franck:Prélude, fugue et variation, Op. 18: I. PréludeEric Le Sage(p)Recorded at Pianos Chris Maine, Belgium, March 19 & 20, 2022
2024年07月24日
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今日は暑くてブログを書く気にならないので、ストックしてある未完成の稿(4月作成)を手直しして、お届けしたい。SFjazzコレクティブが昨年で20周年になったことを記念してアルバムが出た。全部で3枚のアルバムがあり、最初の2枚は過去の録音からのセレクションで、3枚目のみ新録音だ。筆者は殆ど所有しているので、新録音のvol.3のみ入手。3月にリリースされたが、今月になってもハイレゾは出てこない。ロスレスも入手先が限られていて、bandcampからも出ないので、qobuzからロスレスを入手。例によって192kHzにアップコンバートしての試聴。プログラムはメンバー各人のオリジナル1曲ずつで構成されている。このグループはテクニシャン揃いで難しい曲を良く取り上げるが、それが聴き手を満足させるかは別問題。今回も全面的に賛同できる出来とはいえなかった。全曲切れ目なしに続く。演奏の水準は高いのだが、記念の年のリリースにしては暗く、ちっともお祝いの気分が出ないのは何としたことか。マット・ブリューワーの「Ritual(儀式)」はその名の通り宗教的な気分、それも暗めな気分が感じられる曲。「One For Chick」はチック・コリアに捧げられた曲だろうか。ピアノ・ソロから始まり、ピアノとヴァイブのユニゾン、そしてホーンが加わる。チックのプレイを思い起こさせるような曲だ。トランペット、テナー、ヴァイブ、ベース、ドラムスと順に繰り広げられるのソロも短いながらも、よくまとまっている。ミディアム・テンポのケンドリク・スコットの「Witness But Not Measured」が西海岸の風を思い出させるような快適な気分を味合わせてくれる。途中のソプラノサックス・ソロも力のこもったもの。Warren Wolfの「October In San Francisco」とポッターの「Holiday In San Francisco」は偶然か示し合わせたのか分からないがどちらもサンフランシスコという地名が入っている。10月はインディアンサマーと言われる暑い日が続く季節なのに、そういう気分にならない。最後の「Holiday In San Francisco」はハンド・クラップで始まるラテン系のリズミックな曲だが、陰気であまり開放的な気分になれない。マイク・ロドリゲスのトランペットが、この陰気な気分を打ち破るような熱の入ったソロを聴かせる。テナーはポッターだろうか。新録音はCD一枚分なので、例年の半分の分量だ。全体に音楽自体の完成度が高いのだが、熱量があまり感じられないのが惜しい。録音は平板で、音が前に出てこないのがもどかしい。アップコンバートしているためか、音は分厚いが、少しうるさい。ブックレットが付いていないので、曲の情報は全くないのも残念なところだ。SFjazz Collective:Twenty Year Retrospective(SFJAZZ Records)16bit 44.1kHz Flac1.Edward Simon:Opening2.David Sanchez:The Golden, The Beauty, and Down the Hill the Sorrow3.Matt Brewer:Ritual4.Mike Rodriguez:One For Chick5.Warren Wolf:October In San Francisco6.Kendrick Scott:Witness But Not Measured7.Chris Potter:Holiday In San FranciscoChris Potter(ts)David Sánchez(ts)Mike Rodriguez(tp)Warren Wolf(vib)Edward Simon(p)Matt Brewer(b)Kendrick Scott(ds)
2024年07月22日
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何かの情報で『音楽本大賞2024」の個人賞を受賞した浅井佑太著シェーンベルクを読む。この音楽本大賞は昨年度から始まったようで、その名の通り音楽に関する本を対象として優れた本を顕彰する制度らしい。本屋大賞(2004年〜)に代表される出版社や業界団体が主導する既存の賞とは性格を異にするいくつかの賞に刺激されて新たに立ち上げられた音楽本を対象とした賞だそうだ。因みに同種の賞はサッカー本大賞(2014年〜)、日本翻訳大賞(2015年〜)、音楽CDを対象とするアップル・ヴィネガー・アワード(2018年〜)などがあるようだ。まあ、このような賞は内容が重複しない限り多いほうがいいが、質も重要だ。ユーザーとしては、良質な情報が多いと、選択肢が広がるのでメリットはある。今回の著者はお茶の水女子大の助教だそうだ。西洋音楽史を研究していて、とりわけ二十世紀以降の作曲家の創作プロセスの研究を行っているとのこと。作曲家の伝記本といえば、生涯と作品の解説と相場が決まっている。この本も構成は同じだが、浅井佑太氏の場合は研究分野が示すように、シェーンベルクの創作のプロセスが具体的に示されていて、通常の伝記本とは一味も二味も異なるものだ。勿論シェーンベルクの生涯についても詳しく書かれていて、マーラーの庇護や、後年、疎遠になったとはいえリヒャルト・シュトラウスからも何かと便宜を図ってもらっていたというエピソードは初めて知った。因みに交響詩「ペレアスとメリザンド」はリヒャルト・シュトラウスの勧めによるものだそうだ。「グレの歌」にしても手掛けられたのは初期の頃ということも知らなかった。筆者は、その当時の時代背景や人物描写が巧みで、シェーンベルクが大変な生涯を送ったことがよく分かる本だった。貴重な写真も多い。シェーンベルクが人並み以上に弾きこなせた楽器はチェロだけで、シュランメル五重奏団なるアンサンブルに参加していた時の写真(そこに何と名ヴァイオリニストのフリッツ・クライスラーが写っている)や、馬車仕立てのマーラーの葬儀の写真なども見ることが出来て大変有益だった。驚いたのは彼は正式な音楽教育を受けたことがなく、ピアノも弾けなかったことだ。とにかくよく勉強していて、最後は音楽大学の教授にまでなっている。また、リヒャルト・ゲストルという画家の影響で絵画を手がけ、個展まで開いている。ゲストルが描いたシェーンベルクの肖像は有名なのでクラシック・ファンは見たことがあるかたが多いと思う。因みにゲストルとシェーンベルクの最初の妻マティルデ(ツェムリンスキーの妹)は恋仲となり駆け落ち(のちに戻る)する。作品についてもかなり詳しい解説がされていて、あまり関心のなかった晩年の作品である『ナポレオンへの頌歌』や『ワルシャワの生き残り』を手持ちのCDで聞き返して、認識を深めている。強制収容所のホロコーストを描いた『ワルシャワの生き残り』の身を切るような鮮烈な音楽、『ナポレオンへの頌歌』のヒットラーを皮肉っている諧謔的な面白さなど、背景を知ると新たな発見がある。『ワルシャワの生き残り』では弱視が進みすぎて、線間が通常の3倍ほどの特注の五線紙を使わねばならなかったという、晩年のシェーンベルクの必死で作業する姿も描写されている。亡くなる数ヶ月前からは慢性的な呼吸困難によりベッドで眠ることが出来ず、椅子に座って寝ていたという描写も痛ましい。ワルシャワの生き残りナポレオンへのオードなお今年の選考結果はこちらにアップされている。どれも興味をそそるような本揃いだ。賞金が最高でも10万円なのはこのプロジェクトがクラウド・ファンディングで運営されているからだ。因みに昨年と今年に集まった金額は70万円に満たないものだ。まあ、受賞した出版社はPRするだろうから、それだけでも効果はあるし、売り上げアップにもつながるだろう。ということで、大変興味深い本で、「作曲家◎人と作品シリーズ」の他の本も読みたくなってしまった。浅井佑太著シェーンベルク 音楽之友社 2023年5月10日 第一刷発行
2024年07月20日
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ユリ・ケインの音源をチェックしていて見つけたアルバム。昨年のリリース。winter winterはなかなか安くならないレーベルなので、一番安いHighreAudioから入手。それでも\2000程だ。この作品はブリュッセル・ジャズ・フェスティバルの1968年以降の50年を祝うために依頼されたオーケストラと4人の即興演奏者のための作品とのこと。表題のagent orangeとはベトナム戦争(1955-1975)で使用された枯葉剤の一種で、容器の色がオレンジだったことからそう呼ばれていたようだ。presto musicではジャズに分類されていたが、個人的にはクラシックの現代音楽のカテゴリーの音楽のように聞こえる。難解さはあまり感じられないが、雑多な音楽がつぎはぎだらけで提示され、ユーモアとグロテスクな部分もあり、それらがごった煮のようになっている。政治的主張が生のまま出て来て、音楽としては消化しきれていない感じだ。なので、聴き手は終始落ち着かないことになる。ピアノ協奏曲みたいなところもある。DJオリーブのエレクトロニクスが加わることで物語の不気味さと醜悪さを強く感じさせる。作曲者によると、『作品の様々な章は、その時代のアメリカで起きた悲劇的で笑いありげな出来事や、それに対する激しい反対を浮き彫りにしている』とのこと。各楽章は続けて演奏される。8曲目の市民戦争のフーガではアイブズばりにアメリカの国家やフォークソングがコラージュのように次々と出てきて楽しい。枯葉剤による後遺症の凄惨を極める描写がズキッと体に刺さるような痛みを感じる。ただ、一方的に凄惨な描写が続くのではなく、かなりどぎついユーモアもあり、ユリ・ケインの真骨頂だろう。メシアンやクセナキスを思わせるサウンドが随所に聞かれ、DJ Oliveのエレクトロニクスもオンドマルトノを思わせる場面がある。ソプラノ・サックスでデイブ・リーブマンがクレジットされているが、ソロをとる場面もあるが、あくまでもオーケストラの一員のような扱いで、それほど目立っていない。ジョン・エイバート というジャズ・ベーシストもクレジットされている。リズムを刻んでいるのは分かるが、特に目立ったところはなかった。第9曲ではベトナム語?による女性の語りが入っているがブックレットに載っていないので内容は不明。終曲はカオスの後の平穏な気分が感じられるが後味は苦く、最後に赤ん坊の泣き声が聞こえる。オーケストラはサウンドが薄く、物足りない。ということで、一般のジャズ・ファンよりは現代音楽ファンに興味を持たれるアルバムだろう。録音は会場ノイズは感じられないが、響きがあまり豊かではなく、平面的な音場なのが惜しい。Uri Caine:Agent Orange(Winter & Winter 9102862)24bit 96kHz FlacUri Cain:1.予兆2.エージェント・オレンジ3.子供たちの分離4.両方にとっての優れた人々5.逆さまの聖書6.漂白ブルース7.敗北の嘘8.南北戦争フーガ9.行進中10.不確実な運命ブリュッセル・フィルハーモニーアレクサンドル・ハンソン(cond)ユリ・ケイン(p)Dave Lieveman(ss)ジョン・エイバート(b)DJ Olive(v)Recorded live at Brussels Jazz Festival at Flagey,Studio 4, Brussels, Belgium, Jan. 18th, 2018
2024年07月18日
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ジャマイカにルーツを持つイギリスの女性ジャズ・ヴォーカリストであるザラ・マクファーレン(1983-)の新作を聴く。1ポンド200円以上なので、bandcampでも10ポンドと、かなり高いが、チャージが少し残っていたのでそれに足して購入した。彼女のことは情報だけは知っていたが、まじめに聴いたのは今回が初めて。アルバムはサラ・ボーンへのトリビュート・アルバムで、彼女の愛唱歌を取り上げている。蛇足だが「ザラ」と「サラ」と名前も似ている。ザラのヴォーカルは少しハスキーでありながら、子供っぽさも感じさせる声だ。わざと子供っぽく歌っているふしもある。ところどころでフレージングにサラとビリー・ホリデーの影響が感じられるのが微笑ましい。ダメロンの「If You Could See Me Now」は、独特の味付けで、なかなか良かった。ガレスピーの「Interlude」は「チュニジアの夜」のことだったが、なぜ別なタイトルになっている。wikiによると、レイモンド・リヴィーンがチュニジアとは全く無関係の歌詞をつけて、「インタールード」というタイトルでサラ・ヴォーンが歌ったとのこと。現在はジョン・ヘンドリックスの歌詞が主流で、タイトルも「チュニジアの夜」になっている。この記述から行くと、ザラがサラを相当研究しているに違いない。通り一遍のサラのフリークではないことがわかる何故この曲を取り上げたのか分かるような気がする。8曲目の「Obsession」ではスティール・パン・ドラムが加わってトロピカルムードのナンバーだが、アルバムの中では異色で、個人的には違和感がある。この曲はサラ・ヴォーンが「Brazilian Romance」というブラジル特集のアルバムで歌っていた曲。サラのアルバムでは、スティール・パン・ドラムは使われておらず、この起用はミスマッチのような気がする。この曲でのザラの歌唱は悪くはないが、サラのスタイリッシュな歌唱とは大違いだ。「The Mystery of Man」ではバス・クラリネットが加わっていて、なかなか面白いサウンドになっている。ミステリーを連想する冷たいタッチではなく、少しコミカルなサウンドだ。男性の声が裏で聞こえるが、クレジットはない。「スターダスト」はミディアム・テンポの軽いタッチで、ねっとりとした歌唱とのギャップが異色。タイトルチューンの「Sweet Whispers」は賛美歌を思わせる曲。チェロのアルペジオのピチカートが忙しなく動き回り、気になる。このチェロはミス・マッチではないだろうか。サイドではホーンのジャコモ・スミスが活きのいいプレイを聴かせる。ジョー・ウェブのピアノはまあまあ。録音がもう少し良ければ、だいぶ聞きごたえがあったと思う。ということで、初ザラ・マクファーレンだったが、ある程度の水準にはあると思うが、個人的にはそれほど優れた演奏ではないと思った。どうやら過去のアルバムをチェックする必要がありそうだ。Zara McFarlane:Sweet Whispers(Eternal Source Of Light ESOL4CD)24bit44.1kHz Flac1.Walter Gross;Jack Lawrence:Tenderly2.Fred E. Ahlert;Roy Turk:Mean To Me3.Marvin Gaye;James Nyx Jr:Inner City Blues4.Kurt Weill;Maxwell Anderson:September Song5.Vincent Youmans;Billy Rose;Edward Eliscu:Great Day6.Tadd Dameron:If You Could See Me Now7.Dizzy Gillespie:Interlude8.Dori Caymmi, Tracy Mann, Gilson Peranzzetta:Obsession9.Michael Carr:The Mystery of Man10.Hoagy Carmichael;Mitchell Parish:Stardust11.Giacomo Smith:Sweet WhispersZara McFarlane(vo)Giacomo Smith(ss,as,b-cl)Joe Webb(p)Ferg Ireland(b)Jas Kayser(ds)Gabriella Swallow(vc track 4,11)Marlon Hibbert(steel pan track 8)
2024年07月16日
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最近、クラシク界で人気絶頂のフランソワ=グザヴィエ・ロト(1971-)のセクハラ問題で、ロトが謝罪し、指揮活動を停止したという報道がなされている。具体的には、『レ・シエクルの女性メンバーに送りつけられ、のみならず陰部の写真が送られてくることもあった。レ・シエクルに参加する若い音楽家たちは、ロトからメールが来ても返信しないこと、というルールを教わっていたようだ。』とのこと。優れたミュージシャンは一般の常識人と感性が異なり、中には奇矯な性格の持ち主も多い。バーンスタインがゲイだったことは有名で、セクハラでも先ごろ亡くなった指揮者のジェームズ・レバインやダニエレ・ガッティの例を引くまでもなく、この業界にはそういう人種が多いと思われる。まあ、普通の人とは感性が違うわけで、だからこそ聴衆を感動させる力があるというのが筆者の意見。おそらく昔からそういうことは普通にあったのだが、現在のようにすぐあからさまになるということがなかった時代で、彼らにとっては居心地の良い時代だったのだろう。個人的には、そういうことを含め彼らの芸術を認めているというスタンスなので、スキャンダルのために、あたら優れた才能が埋もれてしまうというのも残念な気がする。これも全てはポリティカル・コレクトネス優先の世界になってしまったからだろう。ロトの行為は責められるべきものではあるが、社会の状況を把握していなくて、行為そのものが稚拙で、世間の常識を持ち合わせていなかったようだ。ロトはケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団およびケルン歌劇場との契約を予定よりも1年早く終了することになってしまったようだし、レ・シエクルも当分別の指揮者が振るそうだ。個人的にはブルックナーの交響曲の録音が中断してしまうことが大変残念だ。しばらく時間がかかるだろうが、ほとぼりが冷めたら、また活躍してほしいものだ、というのがファンの偽らざる思いだろう。
2024年07月14日
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スウェーデンのピアニストであるラーシュ・ヤンソン(1951-)の録音を探していて、見つけた一枚。一応最新録音のようだ。今回はデンマークのサックス奏者トーマス・アゲルガード(1962-)とのデュオアルバム。1990年代半ばにカーステン・ダールの後任としてヤンソンがアゲルガードのバンドに加わったのが始まりだそうだ。当時の録音は「Green Cities」と題して2021年に配信でリリースされている。アゲルガードのサックスは今のような息漏れのない、メタリックで艶のあるサウンドで、豪快に吹いている。ちょっとしか聞いていないが、この前までお蔵入りしていた演奏とは思えないポストモダンの洗練された音楽だ。閑話休題ガーシュインの「I Loves You Porgy」以外は彼らのオリジナル。「I Loves You Porgy」は、しみじみとした味わいのある演奏。アルバムには「Birds Flying Suite」という組曲が二つ含まれている。無調の冷たい肌触りの、現代音楽的なアプローチだが、表現の幅が広く結構楽しめる。彼らは現代音楽のジョン・ケージに影響を受けているらしい。説得力が半端ないのは、押し出しの強いジャズ・ミュージシャンが演奏しているからかもしれない。どちらの組曲もアルト・フルートでの演奏がはまっている。サックスだと、こうはいかないだろう。第2組曲ではアルト・フルートの尺八のようなサウンドが興味深い。また、弦をはじくシーンも耳にすることが出来る。その他の音楽は、全体にリリカルな音楽で、北欧のムードが漂っている。中には「Memories Of Summer」のようにリズミカルなナンバーも含まれている。この曲は、コルトレーンの「ナイーマ」を思い出させるような雰囲気がある。アゲルガードのサックスは息漏れを伴う荒っぽいサウンドで、ちょっと癖がある。なので透明感が感じられない、あまり北欧のサックスらしくないように感じる。音だけだとジョー・ロバーノのサックスのイメージだ。それに対してソプラノサックスは息漏れがなく、「Kids Playing」に聞かれるような、なまめかしいサウンドだ。フルートの抵抗感は少ない。「Receiving」はアルト・フルートでの演奏だが、ゴスペル風で敬虔な祈りを思わせる音楽。エリントンの「Black,Brown & Beige」のナンバー「Come Sunday」を思わせるフレーズが聞かれ、なかなか感動的だ。「Clear Seeing」はヤンソンのオリジナルだが彼にしては珍しい、アーシーなテイストの感じられる曲だ。「A Rare Italian Bird」はチック・コリアの曲と言ってもおかしくない、リリカルでメロディックな曲。メロディーのユニゾンはまさしくチックの世界を思い起こさせる。ヤンソンは相変わらず透明でリリカルなピアノが健在。「Guided From Within」ではハモンド・オルガン?も弾いている。最近リーダー・アルバムが出ていないので、もう少し活発な録音活動を期待したいところだ。録音はノイズ感がなく潤いのある、低音が充実していて、デュオの演奏とは思えない、豊かなサウンドが満喫できる。Lars Jansson & Thomas Agergaard: Garden of Sounds (Arts Music artscd003)16bit44.1kHz Flac1.Lars Jansson:Garden Of Sounds2.Thomas Agergaard:Everyday3.Lars Jansson:Kids Playing4.Lars Jansson:Guided From Within5.George Gershwin:I Loves You Porgy6.Lars Jansson,Thomas Agergaard:Birds Flying Suite I: Part 1 Part 2 Part 39.Thomas Agergaard:Memories Of Summer10.Thomas Agergaard:Quiet View11.Lars Jansson:Receiving12.Lars Jansson:Clear Seeing13.Lars Jansson:A Rare Italian Bird14.Thomas Agergaard:Moving Memories15.Lars Jansson,Thomas Agergaard:Birds Flying Suite II: Part 1 Part 2 Part 3 Part 4Thomas Agergaard(ts,as,a-fl)Lars Jansson(p,org)Recorded March/April 2022
2024年07月12日
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フランク・ウェルザーメスト指揮クリーヴランド管弦楽団の自主レーベルでのリリースもコンスタントに出ている。直近のバルトークとベートーヴェンは見送ったが、今回はウェルザーメスト得意の?プロコフィエフということで、eclassicalからダウンロードした。本来11.3$なのだがpentatoneのディスカウントコードが利用できたので、半額で購入した。このコンビでのプロコフィエフはクリーブランドレーベルでの初回リリースでの交響曲第2番以来と思ったら、昨年第5番もリリースされていた。第6番はメロディーの断片は聞き覚えがあるのだが、全曲をまともに聴いた記憶は全くない。CDも持っていなかった。重苦しい曲かと思ったが、クリーブランド管の透明で雑味のないさっぱりとしたサウンドのおかげか、グロテスクな側面が薄れ、すっきりとしていて、随分と洗練された音楽になっている。第1楽章は重苦しい雰囲気だが、時折軽妙なフレーズが出て来て、重苦しさが軽減されている。第2楽章はプロコフィエフらしい少しグロテスクだが、軽妙なテイストを持つ。後半のハープを支えとした部分もおとぎ話チックで悪くない。第3楽章も暗めだが華やいだ気分も感じられ、第5番のフィナーレとの親和性も感じられ親しみやすい。エンディングの暴力的な部分も、過度に乱暴にならない。クリーブランド管は決してフォームの崩れない、安定した技巧と明晰な表現で曲の持つポテンシャルを最大限に出している。決してがなり立てないサウンド、特にロー・ブラスに顕著に聴かれる柔らかいサウンドも、大変魅力的で、心静かに鑑賞できるのがいい。個人的には、もう少しメリハリがあってもいいような気がするが、彼らの芸風ではないだろう。録音もバランスが良く、ホールノイズの聞こえない、ライブ録音らしからぬ潤いが感じられる優れたものだ。因みにウェルザーメストは2027/2028シーズンをもって音楽監督のポストを退任するそうだ。このコンビは好きだったので退任は残念だが、退任前に優れたレコーディングを出来るだけ多く出してほしいものだ。Franz Welser-Möst Prokofiev: Symphony No. 6(The Cleveland Orchestra TCO0010D)24bit96kHz Flac1.Symphony No. 6 in E-Flat Minor, Op. 111: I. Allegro moderato2.Symphony No. 6 in E-Flat Minor, Op. 111: II. Largo3.Symphony No. 6 in E-Flat Minor, Op. 111: III. VivaceCleveland OrchestraFranz Welser-MöstRecorded live in Mandel Concert Hall at Severance Music Center in Cleveland, Ohio,on September 28 and October 1, 2023
2024年07月10日
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「One For All」というバンドの最新作を聴く。JAZZTIMESによって「ニューヨークのハードバップ最高のスーパーグループ」と称された「One For All」の「The Third Decade」(2016)以来8年ぶりの新作。(1997)年の「Too Soon to Tell」以来17作目となる。典型的なハードバップ・セッションだが、メンバーの水準が高く、洗練された安定したプレイが楽しめる。3管編成のハーモニーが心地よい。今回は、「Big George」という愛称のジョージ・コールマン(1935-)をゲストに迎えたアルバム。コールマンは3曲に参加している。コーマンは録音当時87歳で、サウンドは些か雑味が多く、くたびれているのは年相応なのでしょうがない。周りが凄すぎたので些か気の毒だったが、高齢ながら良くコントロールされたプレイだったと思う。3曲の中ではバラードの「My Foolish Heart」がなかなか味わい深いプレイだった。またアップテンポの「This I Dig of You 」のコールマンのアドリブ・ソロは精彩があり、ホーンのハーモニーや華やいだ雰囲気もなかなかよかった。「One For All」のサウンドは、安定感が半端なく、とにかく立派。アンサンブルは引き締まっていて、適度な緊張感もありリーダー?のアレキサンダーの統率力が光っていた。コールマンが入ったことにより、このグループのセッションでは珍しく、その場でヘッドアレンジを練ったという。グループの中ではトロンボーンのスティーブ・デイヴィスの暖かいサウンドが良かった。トロンボーンをフィーチャーした「The Nearness of You」も素晴らしかった。アレキサンダーのテナーはソリッドでメタリックなサウンドだ。アルト・サックスのように聞こえる場面もあった。リズム・セクションのバランスも申し分ないが、個人的にはデヴィッド・ヘイゼルタイン(1958-)のピアノがもう少し出ても良かった気がする。いつもながら、このレーベルの録音は申し分なく、素晴らしいジャズサウンドが堪能できる。One For All:Big George(Smoke Sessions SSR2401)24bit 96kHz Flac1.Eric Alexander:Chainsaw2. David Hazeltine:In the Lead3. Steve Davis:Edgerly4.Jim Rotondi:Oscar Winner (feat. George Coleman)5. Victor Young, Ned Washington:My Foolish Heart (feat. George Coleman)6. Hank Mobley:This I Dig of You (feat. George Coleman)7. Steve Davis:Cove Island Breeze (bonus track)8. Hoagy Carmichael, Ned Washington:The Nearness of You (bonus track)9. Jim Rotondi:Leemo (bonus track)Eric Alexander(ts)Jim Rotondi(tp)Steve Davis(tb)David Hazeltine(p)John Webber(b)Joe Farnsworth(ds)Recorded September 27, 2022 at Sear Sound Studio C, New York City
2024年07月08日
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イギリスの若きチェリストであるラウラ・ファン・デル・ハイデン (1997-)のシャンドス第2弾を聴く。ディストリビューターによると、『19世紀後半から20世紀にかけて活動したベルギーのイラストレーター、ウィリアム・トーマス・ホートン (1864-1919)の幻想的なイラスト「月の小径」にインスピレーションを受け、制作されました。月や夜を題材にした作品や、人類の月への探求心を呼び起こす作品など、さまざまなアイデアをもとに19世紀~20世紀の多彩なレパートリーが収録されてる』とのこと。彼の作品を見ると、一度見たら忘れられない個性が感じられるプログラムは多岐にわたり、近代から現代のありきたりではない作品が並んでいる。今話題の?ジョージ・ウォーカーやフローレンス・プライスの作品も含まれているのも目を惹く。録音当時26歳という年齢だが、いい意味で若さを感じさせない、成熟した音楽を聞かせてくれる。艶のある豊かなサウンドで、自由自在のダイナミックな、そうは言っても節度の守られた表現立派。もよく練られていてダイナミックで堂々としたものだ。昔だったら女性のチェリストは男性に比べひ弱なところを感じさせたものだが、この方は性別を意識することがない。高音域も音程がよく、音がやせないのがいい。ピアノのコールマンはチェロとの相性が抜群で、ダイナミックでスケールの大きい演奏で、チェロをプッシュしている。ヴァラエティに富んだ選曲で楽しませてくれるが、不思議と小粒な感じはしない。そのなかでもやはりブリテンのソナタが聴きごたえ十分。コルンゴルトの喜歌劇「沈黙のセレナード」から「最高に美しい夜」はウイーンの薫り高い演奏。起伏が大きく恰幅のいい表現だ。ウォーカーのチェロ・ソナタは初めて聞いたが、なかなかいい曲だ。プログラムは前半は固い作品が多いが、後半は一転して柔らかな作品が続き心が和らぐ。さすがにフランス物の威力だろうか。ドビュッシーの後は小品が3曲。武満の合唱曲からの編曲「明日ハ晴レカナ曇リカナ」も無邪気さと素朴さが感じられる心温まる演奏だ。ジャズ歌手ニーナ・シモンの「Everyone's Gone To The Moon」も意表を突いた選曲。聞いたことのない歌だが、短いながらも心に響く演奏だった。最後はドビュッシーの「月の光」で静かにアルバムを閉じる。録音はSNが恐ろしく良く、無音の中からいきなり音が聞こえる。細々とした曲が多いように見えるが、短い曲でも存在感があり、アルバムの印象は悪くなかった。最終的にはほっこりとしたアルバムになっていた。ということで、大変完成度の高いアルバムで、前作の「おとぎ話」というアルバムもチェックする必要がありそうだ。Laura Van Der Heijden:Path To The Moon(CHANDOS CHAN20274)24bit 96kHz Flac1.コルンゴルト:喜歌劇「沈黙のセレナード」より《最高に美しい夜》 Op.36-25(チェロとピアノ編)2.ジョージ・ウォーカー(1922-2018):チェロ・ソナタ イ短調5.リリ・ブーランジェ(1893-1918):反映(チェロとピアノ編)6.フローレンス・プライス(1887-1953):夜(トム・ポスターによるチェロとピアノ編)7.ブリテン:「ミケランジェロの7つのソネット」より第3番《Sonetto XXX》、チェロ・ソナタ ハ長調 Op.6513.ドビュッシー:美しき夕暮れ L6(アレクサンドル・グレチャニノフによるチェロとピアノ編)14.フォーレ:「2つの歌」より《月の光》 Op.46-2(チェロとピアノ編)15.ドビュッシー:チェロ・ソナタ ニ短調 L13518.武満徹:明日ハ晴レカナ、曇リカナ(ヘニング・ブラウエルによるチェロとピアノ編)19.ニーナ・シモン(1933-2003):みんな月へ行ってしまった(ジェームズ・コールマンによるチェロとピアノ編)20.ドビュッシー:「ベルガマスク組曲」より《月の光》 L75-3(フェルディナンド・ロンチーニとアレクサンドル・ローレンスによるチェロとピアノ編)ラウラ・ファン・デル・ハイデン(チェロ)ジェームズ・コールマン(ピアノ)録音 2023年3月27日-29日、ポットン・ホール(サフォーク、イギリス)
2024年07月06日
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以前出ていたブラッド・メルドーの「After Bach」(2018)の続編を聴く。バッハは平均律やパルティータからピックアップした5曲、それ以外はバッハにインスパイヤされたメルドーのオリジナルという構成。その中にはバッハのゴルトベルク変奏曲に似た?「アリア」と称する曲と、6つの即興が含まれる。この即興はジャズ的なアドリブは「Jazz」というタイトルの第5変奏と続く「Finale 」のみで、他はクラシックの意匠を纏った即興だ。不協和音が混じったシニカルなテイストを感じさせる即興は、メルドーの才気のほとばしりを感じさせる。オリジナルでは「After Bach: Toccata」が14分余りの力作。この曲は「Three Pieces After Bach」という組曲の終曲だ。激しい部分とゆったりした部分が交錯する曲で全体に暗いムードが漂う。ミニマル風に同じリズムが執拗に繰り返される部分もあり、ここいらへんはメルドーの真骨頂だろうか。「After Bach: Cavatina」は宗教的な気分の感じられるバッハ風の曲だが、途中から不協和音が入り、変容していくところがメルドーらしい一筋縄ではいかないところで、思わずにやっとさせられる。バッハはクラシックのピアニストに劣らない出来。アゴーギクはごくわずか。概ね速めのテンポだが、軽やかで、のんびりとした気分が横溢しているところは、クラシックのピアニストには出せない表現だろう。アルバムの最後はオリジナルの「後奏曲」で、穏やかに終わる。録音は太い音でダークで低域に重心が置かれている。高域の透明な線の細い録音だと、大分印象が変わってくる気がする。ところでBarbara Rennerという方がクレジットされているが、ピアノの調律担当のようだ。普段は調律師の名前がクレジットされることは殆どないと思われる。敢えてクレジットされているということは、彼女の仕事の重要性の表れかもしれない。今回の録音場所であるマサチューセッツ州ウースターのatMechanics Hall所属の調律師のようだ。ピアニストが専属の調律師を雇っていることは結構あることだが、ホール専属の調律師がいるとは知らなかった。Brad Mehldau:After Bach Ⅱ(Nonsuch 7559790077)24bit96kHz Flac1.Brad Mehldau:Prelude to PreludeJohann Sebastian Bach:2.Prelude No. 9 in E Major from the Well-Tempered Clavier, Book I, BWV 8543.Prelude No. 6 in D Minor from the Well-Tempered Clavier Book I, BWV 8514.Brad Mehldau:After Bach: Toccata5.Johann Sebastian Bach:Partita for Keyboard No. 4 in D Major, BWV 828: II. Allemande6.Brad Mehldau:After Bach: Cavatina7.Johann Sebastian Bach:Prelude No. 20 in A Minor from the Well-Tempered Clavier Book , 8.Brad Mehldau:Between Bach9.Johann Sebastian Bach:Fugue No. 20 in A Minor from the Well-Tempered Clavier Book I, BWV 865Brad Mehldau:10.Intermezzo11.Variations on Bach’s Goldberg Theme: Aria-like12.Variations on Bach’s Goldberg Theme - Variation I, Minor 5/8 a13.Variations on Bach’s Goldberg Theme - Variation II, Minor 5/8 b14.Variations on Bach’s Goldberg Theme - Variation III, Major 7/415.Variations on Bach’s Goldberg Theme - Variation IV, Breakbeat16.Variations on Bach’s Goldberg Theme - Variation V, Jazz17.Variations on Bach’s Goldberg Theme - Variation VI, Finale18.Johann Sebastian Bach:Prelude No. 7 in E-Flat Major from The Well-Tempered Clavier Book I, BWV 85219.Brad Mehldau:PostludeBrad Mehldau(p)Barbara Renner (instrument technician)Recorded April 18-20,2017 and June 21,2023 atMechanics Hall,Worcester,MA
2024年07月04日
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ロシア生まれのパヴェル・ゴムツィアコフというチェリストのリサイタルを聴く。 知らないチェリストだが、マリア・ジョアン・ピリスに見いだされ、デュオを組んで世界中を楽旅したということを知ったのがコンサートを聴きに行った切っ掛け。せいぜい中ホールでの公演と思っていたのだが、何と大ホールでの公演。しかも半分以上の席が埋まっていた。動員でもかけられたのだろうか。ピリスのショパン・アルバム(2009)でチェロ・ソナタを弾いているようだ。チェロというと豊かなサウンドで朗々と鳴る音楽というのが筆者のイメージだが、この方のチェロはそういう常識とはだいぶかけ離れている。繊細だが線が細く、音量もあまり大きくない。表現でいえば、アゴーギクも殆どつけず、大袈裟な身振りも全くない。なのでスケールも大きくないし、しいて言うならば弱音にこだわりを持っているのかもしれない。その弱音も、通常の演奏の音量が小さいため、コントラストが不足していて印象が薄い。さすがにピリスが気に入ったチェリストだなと変に納得してしまった。プログラムは大曲が並ぶが、聴き手を唸らせるような身振りは一切ない。技術はそれなりだろうが、あまり音が飛んでこない。2列目の席なので音がビンビン飛んできてもいいところなのだが、それもない。シューベルトの「アルペジョーネ・ソナタ」はよく知られるようになったのはロストロポーヴィッチの録音(Dacca)が出てからだろうか。個人的には生で聴くのは初めて。プログラムによると6絃のアルペジョーネ用の曲なので、4弦のチェロでは難易度が格段に上がるそう。ゴムツィアコフの演奏はそういう難しさは感じさせないが、そうかといってシューベルトの歌謡性が前面に出ているわけでもなく、細かいところでも、口ごもっているようなはっきりしない音楽であまり楽しくない。次のイザイの無伴奏チェロソナタは4楽章からなるが、続けて演奏される約12分ほどの曲だ。あまり演奏されない曲で、CDも殆どないはず。出だしの「Grave」こそ、バッハ風の厳しい楽想から始まり、おっと思ったが、その後尻すぼみ気味。何やらもごもご言っているようで、あまり楽しめなかった。後で他のチェリストのチェリストの演奏を聴いてみたが、厳しさが不足しているように感じられた。バッハは原曲が「無伴奏フルートのためのパルティータ」イ短調で、筆者も昔はよく聴いていたものだ。チェロで聴くのは初めてだったが、フルートの軽やかさや音楽の深淵さがあまり感じられなかった。シューマンの「幻想小曲集」は特に強い印象はなかった。あとはアンコール的な小品が並んだ構成で、それなりの演奏。中ではトロイメライが随分と遅いテンポで、チェロも時折目をつぶって瞑想しているかのような演奏ぶりが印象的だった。残念なのは「白鳥」の後半で一か所だけ指を間違えていてびっくり。すぐ訂正したとはいえ、平易な曲で間違うのは珍しい出来事だろう。これだから生は怖い。北上在住の那須川明子のピアノは特に目立ったミスこそないものの、もう少しチェロをプッシュする場面があっても良かった。アンコールでは、チャイコフスキーの「感傷的なワルツ」が良かった。チャイコフスキーの数々の有名な曲に埋もれているが、チャイコフスキーのメロディー・メーカーとしての才能を再認識させられた。パヴェル・ゴムツィアコフ チェロ・リサイタル1.シューベルト:「アルペジョーネ・ソナタ」イ短調D.8212.イザイ:「無伴奏チェロソナタ」ハ短調 Op.283.J.S.バッハ:「無伴奏チェロのためのパルティータ」ニ短調休憩4.シューマン:「幻想小曲集」Op.735.フォーレ:「夢のあとに」6.シューマン:「トロイメライ」7.チャイkフスキー:「ノクターン」Op.19-48.サン=サーンス:「白鳥」アンコール1.チャイコフスキー:感傷的なワルツ2.シューベルト:アヴェ・マリアパヴェル・ゴムツィアコフ(vc)那須川明子(p)2024年6月30日さくらホール 大ホールにて鑑賞
2024年07月02日
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全く知らなかったピアニストなのだが、Spotifyで流れていて気にいって、調子にのって5枚ほど入手した中の一枚。一応ジャズなのだろうが、リリカルなクラシック系統のピアノだ。抜群のテクニックと強靭な打鍵、エネルギッシュな面も見せる。タイトルが示すように全編が変奏曲のような構造になっている。ヤロン・ヘルマン(1985-)haイスラエル生まれフランス在住のピアニスト。最近イスラエル出身のジャズミュージシャンの名前を聞くことが多いが、彼らに共通な音楽を感じることが多い。簡単にいうと静的な音楽なのだが、彼らが受けた教育が関係しているのだろうか。ディストリビューターによると『変奏曲のスタイルを採ったユニークなアプローチ、溢れ出る抒情性、攻撃的な激しいピアニズムで聴かせるソロ・ピアノ作品』とのこと。ガーシュインの「Summertime」が抒情的ではあるが、今まで聞いたことのないような、驚きの展開で、いっぺんに気に入ってしまった。オスティナートに乗って次第に熱を帯びていくアドリブが見事。実に素晴らしい演奏だった。続く3曲が「Summertime」の変奏という位置づけなのだろう。タイトルがあって括弧書きで第1-3変奏と称されているので、なんだか紛らわしいことは確か。各々の曲に「Summertime」の変奏がちょろっと入っているというような感じなのだろうか。フォーレの「レクイエム」の「リベラ・メ」は原曲の前半のみの演奏だが、これも素晴らしくいい。躊躇いがちに弾かれるメロディーが、何とも言えない抒情を感じさせ実に感動的だ。聴いていると、クリュイタンス盤のフィッシャー=ディースカウの歌声が聞こえて来そうな演奏で、バスのリズムの強打もかなり印象に残る。続く3曲も「リベラ・メ」の変奏という位置づけのようだ。第2変奏の「Eli Eli」はヘブライ語で「神よ、神よ」という意味だ。作曲者のダヴィド・ゼハヴィ(1910-1977)はイスラエルの作曲家で、この歌はトラッドとしてユダヤ音楽として親しまれているらしい。原曲は平易な民謡という感じだが、ヘルマンの手にかかると、鮮烈なロマンを感じさせる曲に変貌している。エンディングに、フォーレの「レクイエム」の「サンクトゥス」の一節が流れてくるのもなかなかしゃれている。この「レクイエム」は6曲目から始まる変奏曲でも第4曲の「ピエ・イェス」が使われている。完全にジャズ化されていて、ビートを強調した野卑な感じ演奏で、メロディーはダイレクトには出てこない。9曲目の「Ose Shalom」は慰めに満ちたメロディーが聴き手の心を締め付けるようだ。変奏は2曲だけで、第1変奏はコミカルな曲。第2変奏は「語り部の時」というタイトルで、パーカッション?入りで宗教的な気分が味わえる。スティングの「Fragile」はアップテンポのヒップホップ的なごつごつとしたアプローチで、ノリノリのピアノ・プレイが味わえる。パーカッシブな打鍵にピアノの胴をたたく音も入っている。おまけに控えめながら声も共演?している。アルバムの最後はクレア・フィッシャーの「フランシス・ポードラへのオマージュ」。フランシス・ポードラ(1935–1997)はバド・パウエルとの交友が有名な写真家のこと。この曲に関するyoutubeの解説によると1997年に自ら命を絶ったポードラを悼んでフィッシャーが作曲したとのこと。彼らはフィッシャーがフランスに行った時に食事を共にし、後日再訪した時にポードラの自宅に滞在する話まで計画されていたという印象派風ではあるが、不協和音を伴うハーモニーが、より一層フィッシャーの悲しみを表しているようで、心が痛む。ということで、初めて聞いたピアニストだったが、抒情的ではあるが表現が平板ではなく、イマジネーションの豊かなピアニストであることが分かった。今後、残りの音源もじっくりと聞いていきたいと思う。例によってロスレスを192kHzにアップコンバートしての試聴だが、もともとの録音がとてもよく、音が太く低音が良く出ている。知らないミュージシャンを聴いたときの喜びが味わえるのは、このような優れたアルバムを聴いたときのためにあるのだろう。Yaron Herman:Variations -Piano Solo(Laborie 822186024010)16it 44.1kHz Flac1.George Gershwin;Summertime2.Yaron Herman;Blossom (Var. 1)3.Yaron Herman;Facing Him (Var. 2)4.Naomi Schemer;Jerusalem of Gold (Var. 3)5.Gabriel Faure;Libera Me6.Yaron Herman;Fugue (Var. 1)7.David Zehavi;Eli Eli (Var. 2)8.Gabriel Faure;Pie Jesu (Var. 3)9.Yaron Herman;Ose Shalom10.Yaron Herman;Drops (Var. 1)11.Yaron Herman;Le temps du conteur (Var. 2)12.Sting;Fragile13.Clare Fischer;Hommage a francis paudrasYaron Herman(p)
2024年06月30日
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本年度のグラミー賞最優秀室内音楽/小編成パフォーマンス部門を受賞したRoom Of Teethの「Rough Magic」を聴く。このグループは2008年にブラッド・ウェルスにより設立された8人編成のヴォーカル・グループ。wikiによると、「人間の声の表現力を探求すること」が使命だそうだ。普通のクラシック系のコーラスではなく、エスニックな要素が多分に含まれている、大変面白い音楽で、最近聞いたアルバムの中では最もインパクトがあった。分野は違うが、系統としてはクロノス・カルテットのようなボーダーレスな音楽を志向しているように感じられる。合唱だと芸能山城組と同じようなテイストが感じられる。癖が強いので、万人に受け入れられるとは思えないが、筆者は大変興味深く聴いた。グラミー賞を受賞したということは、審査員もこのような音楽を受け入れる感性があったということだろう。口当たりはよくないが、かみしめていると味が分かってくる、くさやの干物みたいなグループだ。クラシックの発声ではなく、ポピュラー系のサウンドで、ヴォイス・パーカッションや地声も巧みに使われている。いべリオのシンフォニアに参加したアルバムもあるくらいなので、そういうジャンルのミュージシャンたちなのだろう。今回はコーラスにシンセサイザーという組み合わせ。声も低音がリバーブが聞いていて、昔のシンガーズ・アンリミテッドのような多重録音を駆使したサウンドが聞こえることもある。とにかく個性的なことは確かで、一回聞いたら忘れられないサウンドであることは間違いない。ただし、聴き手の心が終始ざわざわするので落ち着かないし、居心地の悪い精神衛生上良くないことも確かだ。wikiによると喉を詰めた発声から生じるフォルマントを利用した、笛のような音などを特徴とする声を用いた特殊な歌唱法である喉歌(のどうた)を駆使することでも有名らしい。こちらによると、『トゥバ共和国のホーメイやグルジアンのポリフォニー、韓国のパンソリといった音楽を積極的に取り入れてきたが、今回のアルバムではそういった民族音楽的な展開は避けている』らしい。理由は喉歌がイヌイットからクレームがつけられたためのようだ。プログラムは3つの組曲とから構成されている。最初はウィリアム・ブリッテル(1977-)の「サイケデリック」という3曲からなる組曲。かなり型破りな音楽で、いろいろな音(擬音?)も聞こえてくる。一種のシアターピースで、音だけではなく生で聴いてみたくなる曲だ。サイケデリックというタイトルとはことあるが、どちらかというとエキセントリックな感じのする起伏の激しい音楽。とにかく目まぐるしく変わる風景を楽しむような姿勢で臨むのがいいと思う。まともな旋律はなくいろいろな旋律の断片が繋がっているような構成。こういう曲をオリジナリティがあるというのだろうが、、作曲家の頭の中を観たい気がする。noEve Beglarianの「None More Than You」もかなり変わった曲。数人の男女の粘着質のうめき声みたいな音が前面に出て、バックで合唱が流れるみたいな曲。 Caroline Shaw(1982-)の「The Isle」は5曲からなる組曲。 Caroline Shawはこのグループのメンバーで、グラミー賞を受賞したアルバムにもパルティータが収録されていた。「The Isle」は普通の合唱のようにハモる場面が少なく、一人一人が別々なことをやっているような曲。歌詞はあまりなく、モールス信号のような擬音が出てくる。PETER S. SHINの「Bits torn from words」はRoomful Of Teethの10周年を記念してAmerican Composers Forumの委嘱で2019-2022年にかけて作曲された。全6楽章だが、このアルバムでは5楽章が省かれている。作曲家のサイトに歌詞が載っている。3,4楽章は韓国語で書かれているようだが、その通り歌われているわけではない。第4楽章はエコーのように一つの音が持続する不思議な音楽。Roomful Of Teeth: NPR Music Tiny Desk Concert 2014/11/13Room Of Teeth:Rough Magic(New Amsterdam Records NWAM172)24bit96kHz Flac1.Brittelle: Psychedelics I. Deep Blue (You Beat Me) II. I am the Watchtower III. My Apothecary Light4.Beglarian, E: None More Than You5.Caroline Shaw: The Isle I. Prologue II. Ariel III. Caliban IV. Prospero V. Epilogue10.Shin, P S: Bits torn from words I. Reach across oceans (intro) II. I'm terrible at making decisions (refrain) III. Notice how your body spreads like water (post-refrain) IV. GaNaDaRaMaBaSa AJaChaKaTaPaHa (bridge) VI. If __________ did happen, how bad would It be? (outro)Roomful Of Teeth:Cameron Beauchamp, Caroline Shaw, Dashon Burton, Eliza Bagg, Estelí Gomez, Martha Cluver, Thann Scoggin, Virginia Kelsey(vo)Eric Dudley(vo,Synth)Recorded at Studio9, MASS MoCA and The Hive
2024年06月27日
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何と呼ぶのか分からなかったのだが、日本で弁護士をなさっている同名の方がいたので、とりあえずジヘ・リーと呼ぶことにしたい。因みに、同じ韓国生まれで同名のポップス歌手がいらっしゃるようだ。そのジヘ・リーのビッグ・バンドの新作が出た。例によってbandcampからのリリースだが、リリース日になってもリリースされないので、連絡をしたら、当人がリリースしてくれた。今回のアルバムはイギリスの作曲家ダーシー・ジェームス・アーギューズが共同でプロデュースをしていることが注目される。アーギューズは去年「Dynamic Maximum Tension」という大変優れた2枚組のビッグバンドのアルバムをリリースしている。ディストリビューターによると、今回のアルバムは『伝統的な韓国のリズムとダイナミックなオーケストラジャズのアレンジを融合させたもの』とのこと。ダウンビートによると、このアルバムのテーマは1935年生まれのリーの祖母の人生だ。彼女は性売買から逃れるために10代で結婚し、若い頃の幸せから成人後の父権社会による抑圧、そして2020年にコロナ禍の中で認知症として亡くなるまでの軌跡を題材としている。そこには韓国人特有の「恨」という感情が反映されているという。なので、暗く陰鬱な気分が支配的だ。伝統的な韓国のリズムやメロディを使っているが、日本の音楽に似た部分も沢山あり、日本人には身近に感じる音楽だろう。アーギューズが入ったことによるのか、今回のアルバムは彼のアルバムのパワフルでねっとりとしたサウンドに酷似している。アンサンブルは完璧で、ソロも素晴らしい。異常に緊張を強いる曲が多いが、曲も悪くない。「Krma」は日本の奈良時代あたりを彷彿とさせる、のどかで雅やかなサウンドと時代を感じさせる小川慶太の太鼓がいい雰囲気を出している「You Are My Universe」という、少しコミカルで土俗的なダンス曲も含まれている。次の「Nowhere Home」も奇妙なテイストの曲で、神楽や能を感じさせる音楽。ピッコロの節回しが日本的なテイストを感じさせる。最後は「Crossing The River Of Grace」めぐみの川とは具体的にどこを指しているということはないようだ。三途の川のことだろうか。リズミックだが、宗教的で平穏な気分が感じられる曲だ。ということで、結構癖のある音楽で、すんなりと受け入れられる音楽ではないかもしれない。馴染むのにも時間がかかるかもしれない。それでも、彼女の特異なオリジナリティに溢れたアルバムとして、聴く価値のある音楽だと思う。個人的には、次回のグラミー賞にノミネートされてもおかしくないアルバムだと感じた。Jihye Lee:Infinite Connections(Motema MTM0437)24bit 96kHz Flac1.Surrender (feat. Ambrose Akinmusire)2.We Are All From The Same Stream3.Born In 19354.Eight Letters5.Karma6.You Are My Universe (feat. Ambrose Akinmusire)7.Nowhere Home8.In The Darkest Night9.Crossing The River Of GraceJihey Lee Orchestra:Ben Kono(as,picc., fl)David Pietro(as,alto-fl)Jason Rigby(ts,fl,cl)Jonathan Lowery(ts,fl,cl)Carl Maraghi(bs,bass cl)Brian Pareschi(tp,flh)Nathan Eklund(tp,flh)Stuart Mack(tp,flh)Mike Fahie(tb)Alan Ferber(tb)Nick Grinder(tb)Jeff Nelson(b-tb)Alex Goodman (g)Adam Birnbaum(p)Matt Clohesy(b)Jared Schonig(ds)Keita Ogawa(perc.)Guest:Ambrose Akinmusire(tp)All Compositions by Jihye Lee Producers: Darcy James Argue, Jihye LeeRecorded at Power Station at BerkleeNYC on October 17 & 18, 2023
2024年06月25日
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自衛隊の音楽隊の演奏会が抽選で当たったので聴きに行った。少し前にyoutubeでこのバンドの定期演奏会がアップされていて、意欲的なプログラムだったこともあり、行く気になったことが原因。花巻は3年ぶりくらいらしいが、聴きに行ったのは初めて。陸自のコンサートはいつも知るのが遅く、応募できない状態が続いていたのでラッキーだった。メンバーはおそらく50人から60人でダブルリードも充実していた。会場はほぼ満員。開演前にサックスセクションのアンサンブル+パーカッションが2曲演奏された。音が太く大きくてびっくり。本編は第1部がオリジナル、第2部がポピュラーという構成。第1部の指揮は鈴木有紀3等陸尉。概ねテンポが速く、曲によっては速すぎるように感じることもある。最初のリードの「音楽祭のプレルード」はリードの索引としてはかなり古い部類に入るが、個人的には、いまだに演奏されていることを考えても彼の作品の中でも上位に入る名曲だと思っている。この曲はリタルダンドもほとんどしないで快速調の演奏。この曲は速い方が真価を発揮すると思うが、速すぎると演奏する法は大変だ。特に後半のユーフォニアムの3連符などかなりきつい。次の酒井格の「たなばた」は季節柄相応しい選曲だろう。この曲は今や吹奏楽の古典として親しまれている曲で、出版されたのは高校在学当時の1988年というから驚く。どの曲も童心に帰るような曲が多く、この曲も久しぶりに聴いたがいい曲だなと思った。和田信:シャロームは初めて聞く曲だがあまり印象居残っていない。最後はホルストの第2組曲。第1組曲に比べ演奏頻度は少ないと思っていた。全体にさっぱりした仕上がりで、ユーフォニアムなど所々に出てくるソロも悪くなかった。第2部は澤野隊長の指揮で、New Sounds In Brassのレパートリーを中心とした選曲。「ディズニー・メドレーⅢ」は、ディズニーでも古いムーディーな映画音楽が並んだ選曲で、ノスタルジックな気分が味わえた。天野正道の「きらきら星変奏曲」もシーズンを意識した選曲だろうか。第2部全体のムードからすると少し気真面目で、曲自体あまり面白くない。「スーパー・マリオ・ブラザース」はゲームのキャラクターが登場し、なかなか楽しませてくれた。音楽も電子音が加わり、ゲームの気分ののりだ。最後も真島氏の編曲によるカウント・ベイシーのメドレー。古い曲と新しい曲があり、個人的には「Wind Machine」が入っていたのが嬉しかった編曲にもよるが、おとなしい演奏で、強烈なドライブ感とド派手なトランペットのハイ・トーンを聞きたくなってしまった。「リル・ダーリン」でのおしゃれなミュート・トランペット、「パリの四月」のムーディーなトロンボーンなどソロは充実していた。「パリの四月」のエンディングは2回繰り返して、3回目はと思っていたら、なんとマリオ風のいでたちのパーカッション奏者の掛け声で始まり、ずっこけてしまった。アンコールの1曲目は宮沢賢治の「星めぐりの歌」。男性ヴォーカル付きという異色だが格調高い音楽だった。2曲目はアンコールではお馴染みのキングの「バーナムとベイリーのお気に入り」。気の利いた選曲で、聴衆を興奮のるつぼに叩き込んだ?楽しいエンディングだった陸上自衛隊東北方面音楽隊は技術的な破綻はなく、よく訓練されたバンドだと思う。ただ、音楽が些か平板なのが惜しい。なかでは、アルト・サックスとティンパニが光っていた。陸上自衛隊東北方面音楽隊演奏会第1部1.リード:音楽祭のプレリュード2.酒井格:たなばた3.和田信:シャローム4.ホルスト:吹奏楽のための第二組曲第2部1.ディズニー・メドレーⅢ(真島俊夫編)2.天野正道:きらきら星変奏曲3.スーパー・マリオ・ブラザース(星出尚志編)4.トリビュート・トゥ・カウント・ベイシー・オーケストラ(真島俊夫)アンコール1.宮沢賢治:星めぐりの歌2.キング:バーナムとベイリーのお気に入り陸上自衛隊東北方面音楽隊鈴木有紀3等陸尉(指揮 第1部)澤野展之2等陸佐(指揮 第2部)2024年6月22日 花巻市文化会館17列41番にて鑑賞
2024年06月23日
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ブログにはあまり上げていないが、メゾ・ソプラノのマグダレーナ・コジェナーのアルバムは結構聴いている。最近のアルバムは東欧の作曲家の作品を特集することが多いが、優れた演奏が続いている。今回は夫君のサイモン・ラトル指揮チェコ・フィルとの共演で、マルティヌー、ドヴォルザークらの歌曲が集められている。ディストリビューターによると、『母国チェコスロバキアを愛するコジェナーが、今この時代だからこそ世に訴えかけたい、メッセージ性の強いアルバム』とのこと。このアルバムの曲はすべて初めて聞いたが、思いもかけず素晴らしかった。気に入ったのはマルティヌーとクラーサ。筆者はマルティヌーの曲は殆ど聞いたことがないし、あまり関心がなかった。wikiを見ると『400作を残した大変に多作な作曲家』だそうだ。『ニッポナリ 』(1912年)は額田王や小野小町など日本の古代の詩からインスピレーションを得て創作した歌曲集。1910年プラハ音楽院を素行不良で退学させられ、故郷の小学校の教師についた時代の作品。和歌に触発されたと言っても日本的な風情は感じられず、ドビュッシーやラヴェルなどの印象派の影響が強い。ただ、共通のテーマが、美の儚さ、季節の移ろい、時間の経過なので、その雰囲気はよく出ていると思う。楽器編成は弦と木管主体の小さい編成だが、楽器の濃密な絡み合いが楽しめる。ハープの鮮烈なグリッサンドが、目立っていた。それほど濃厚な表情ではないが、「夢の中の人生」や「聖なる湖」は生の激烈な感情が表現されている。「雪のなかの足跡」は妙高山の雪の風景を描いたものだが、チェレスタやハープ、高音域を使った弦のサウンドがキラキラした雪の情景を思い浮かべる。20代初めの作品とは思えないほど熟達した作品だった。「1ページの歌曲集 H.294」は1820年代と30年代にフランティシェク・スシルが集めたモラヴィアの民謡を基にした作品。チェコののどかな風景が見えるような楽しい作品だ。原曲はピアノ伴奏だが、イジー・テムル(1935-)のオーケストラ編曲(1997)がはまっていて、大変好ましい。メッセージ性が感じられるのはハンス・クラーサ「声楽と管弦楽のための4つの歌曲」とギデオン・クラインギデオン・クラインの「 子守歌」だろうか。「声楽と管弦楽のための4つの歌曲」はリアリズムが感じられる詩で、全体にひんやりした感触の闇を感じさせる音楽。ヤナーチェックを思わせるモラビア風のところもある。第4曲「絞首刑の男の歌」死刑執行人の妻に切り落とされた頭が語りかけるというおぞましい情景を感じさせる音楽だが、ファゴットのおどけた表情など、柔らかな雰囲気が感じられる音楽が凄惨さをあまり感じさせない。「子守歌」は通常の優しいメロディーではなくクールな雰囲気が変わっている。ドヴォルザークの「夕べの歌」はイジー・ガムロット(1957-)による管弦楽伴奏版による演奏で、チェコの田園風景が見えるような、夢見るような演奏が美しい。バックと一体になったコジェナーの歌唱は、文句のつけようがない素晴らしい出来だった。オーケストラはドヴォルザーク以外は小編成で、筆者にはそれが大変好ましく思えた。全く期待していなかったのだが、これが大変優れたアルバムだった。多くの方に是非お聴きいただきたい。コジェナー、ラトル&チェコ・フィル/『チェコの歌曲集』(Pentatone PTC5187077)24bit96kHzFlac1.マルティヌー:ニッポナリ『日本の和歌による7つの歌』 H.68(1912) 第1曲『青い時間』 第2曲『老いた時』 第3曲『回想』 第4曲『夢を見ながら生きていく』 第5曲『雪の上の足跡』 第6曲『振り返ってみると』 第7曲『聖なる湖』8.マルティヌー:1ページの歌曲集 H.294(1943) orchestrated by Jiří Teml 第1曲『露』 第2曲『言葉で鍵を開け』 第3曲『最愛の馬に乗って』 第4曲『歩く道』 第5曲『母と家に』 第6曲『乙女の夢』 第7曲『ローズマリー』15.ドヴォルザーク:夕べの歌 Op.3より 第7曲『私が空を見たら』 第5曲『木の葉のざわめきも静まり』 第2曲『君の死んだ夢をみた』 第3曲『私はおとぎ話の騎士だ』 第4曲『神が愛に満ちた心になれば』16.ドヴォルザーク:歌曲集 Op.2より orchestrated by Jiří Gemrot 第2曲『ああ、それは金色に輝く素敵な夢だった』 第6曲『私の心はしばしば苦しみに沈む』22.クラーサ:声楽と管弦楽のための4つの歌曲 Op.1 第1曲『ヤギとアシナシトカゲ』 第2曲『いやだ!』 第3曲『ため息』 第4曲『絞首同盟員が処刑人の女中ゾフィーに贈った歌』26.クライン:子守歌マグダレーナ・コジェナー(ms)チェコ・フィルハーモニー管弦楽団サイモン・ラトル(指揮)録音時期:2022年11月(ドヴォルザーク、クラーサ、クライン)、2023年2月(マルティヌー)録音場所:プラハ、ルドルフィヌム、ドヴォルザーク・ホール
2024年06月21日
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ギタリストのビル・フリーゼルがオーケストラとビッグ・バンドというふたつの団体と共演した2枚組アルバム「Orchestra」を聴く。ブックレットが付いていないので詳しいことは分からないが、二つとも2022年の9月24日の録音となっている。コンサートのライブだそうだが、拍手が入っている曲はわずかで、あまりコンサートの雰囲気はしない。オーケストラの共演はベルギーのデ・ベイロークでのライブ録音。どちらもフリーゼルのトリオとの共演で、1枚目は60人編成のブリュッセル・フィルハーモニック、2枚目は11人編成のウンブリア・ジャズ・オーケストラとの共演だ。本作について、フリーゼルは『「自分が知っているギリギリのところか、そこから外れて知らない領域に飛び込むということにいつもトライしているんだ。イマジネーションの赴くままにプレイしていたよ」と語っている。どちらもマイケル・ギブス(1937-)の編曲。オーケストラとの共演はオーケストラが伴奏に終始し、トリオをプッシュすることがなく、刺激に乏しい。全体に耽美的な表情が感じられるがオーケストレーションは色彩に乏しく単調だ。美しいが、それほど心に響かない。最初の「Nocturne Vulgaire」は武満を思い起こさせるようなサウンドで、アルバムの中では最も興味深く聴いた。個人的には、フリーゼルのギターが安っぽいサウンドで、バックと溶け合っていないように思う。切れ目なく「Lush life」に続く。ビッグバンドでも取り上げられていたロン・カーターの「Doom」はも少し暗めのサウンドで、リフが繰り返されるだけで変化に乏しい。フリーゼルのオリジナル「Rag」はそれまでとは異なる、メキシコのマリアッチ風の賑やかな曲だが、ごちゃごちゃしてあまり面白くない。「Throughout」は「Doom」と同系統の耽美的だが暗い色調の曲。この曲では管も入り変化もある。11人編成のウンブリア・ジャズ・オーケストラとの共演はウンブリア・ジャズ・フェスティバルでのライブ。ただし、ドラマーのルディ・ロイストンが出発直前にコロナに感染し、マイク・ギブスもスペインからイタリアに来る途中で濃厚接触者と判明し、ホテルから出られなくなってしまった。なので、コンサートはこの二人抜きで行われ、ドラムスはあとでオーバーダブしたとのこと。ビッグバンドとの共演も、どちらかというと静的な表情に終始していて、ビッグバンド特有のブラスの咆哮は聞かれないが、ヴォイシングが新鮮で楽しめる。ただ、どの曲も曲調が暗めのため、同じようなムードになっているのが惜しい。最初の「Lookout for Hope」はチューバが使われていて、ギル・エヴァンス風のサウンド。スパニッシュ風味のまったりとした音楽で悪くない。「Strange Meeting」は聞いたことのあるメロディーだった。多分フリーゼルの代表的な作品の一つなのだろう。バス・クラリネットやチューバのサウンドが心地よい。イントロにドラムソロの入った「Doom」は抒情的だが暗く、同じフレーズの繰り返しで気分が滅入ってくる。楽器の種類が少ないので、オーケストラに比べ単調になるのは仕方のないことかもしれない。「Electricity」は少しテンポが上がって明るい曲調だが、これも繰り返しが多く面白くない。「Monica Jane」はけだるいムードの感じられる曲。最後は何故か賛美歌「We Shall Overcome」が演奏される。曲の前におざなりな?拍手が入っているが、聴き手は正直だ。黒っぽいサウンドがフリーゼルに似つかわしくないが、少しやさぐれたゴスペル調のホーンのハーモニーは悪くない。結局、ビッグバンドでもバックは伴奏に終始していて、面白みがなかった。これでは宝の持ち腐れと言われても仕方がないだろう。ということで、フリーゼルの挑戦的な試みが感じられるものの、オーケストラやビッグバンドとの共演は刺激に欠け、明確な方向性が見えにくい作品になってしまった。フリーゼルのソロも、これはと思うようなパフォーマンスは聞かれなかった。Bill Frisell:Orchestras(Blue Note 5883733)24bit96kHz Flac1.Michael Gibbs: Nocturne Vulgaire2.Billy Strayhorn: Lush life3.Ron Carter: Doom4.Bill Frisell: Rag5.Bill Frisell: Throughout6.Bill Frisell: Electricity7.Michael Gibbs: Sweet Rain8.Bill Frisell: Richter 858, No. 79.Foster, S: Beautiful Dreamer10.Bill Frisell: Lookout for Hope11.Bill Frisell: Levees12.Bill Frisell: Strange Meeting13.Ron Carter: Doom14.Bill Frisell: Electricity15.Bill Frisell: Monica Jane16.trad.: We Shall OvercomeBill Frisell (e-g)Thomas Morgan(b)Rudy Royston(ds)Brussels Philharmonic(track 1-9)Alexander Hanson(cond track 1-9)Umbria Jazz Orchestra(track10-16)Manuele Morbidini(cond track10-16)Recorded: 2022-09-24,De Bijloke,Belgium (track 1-9)Nov.30th 2021-Jan.1st,Teatro Mancinelli,Teatro Mancinelli,Italy(track 10-16)
2024年06月19日
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先日偶然にブレーンでリリースしている21世紀の吹奏楽「饗宴」の昨年までの分がspotifyで聞けることを発見した。このシリーズ去年までで26回リリースされている。コロナ禍の期間を除き続いていることは誠に同慶に堪えない。筆者も行きたいと日頃思っていて、数年前にはチケットも買ったのだが、都合が悪くて行けず、それっきりになっている。このライブ録音は初回からブレーンがライブ録音していて、筆者も最初の10回までは購入して聞いていた。吹奏楽を離れてしまってからは、その習慣もなくなり、聴きたい曲があっても、品切れなどで、聴けずじまいのことも何回かあった。なので、配信されることになり、大変有難い。Xによると響宴XXIIIを除き配信されている。響宴XXIIIは権利の関係で配信はないそうだ。配信元はiTunes、Amazon Music、Spotifyなどだが、どうやら圧縮音源のようだ。また、ダウンロード販売も行われているが圧縮音源であることは同じだ。まあ、CDの半分近くの価格なので、音質に文句を言ってもしょうがない。いずれにせよ、ブレーンの英断?に拍手を送りたい。
2024年06月16日
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