音楽雑記帳+ クラシック・ジャズ・吹奏楽

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bunakishike

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2024年07月20日
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何かの情報で『音楽本大賞2024」の個人賞を受賞した浅井佑太著シェーンベルクを読む。
この 音楽本大賞 は昨年度から始まったようで、その名の通り音楽に関する本を対象として優れた本を顕彰する制度らしい。
本屋大賞 (2004年〜)に代表される出版社や業界団体が主導する既存の賞とは性格を異にするいくつかの賞に刺激されて新たに立ち上げられた音楽本を対象とした賞だそうだ。
因みに同種の賞は サッカー本大賞 (2014年〜)、 日本翻訳大賞 (2015年〜)、音楽CDを対象とする アップル・ヴィネガー・アワード (2018年〜)などがあるようだ。

ユーザーとしては、良質な情報が多いと、選択肢が広がるのでメリットはある。
今回の 著者 はお茶の水女子大の助教だそうだ。
西洋音楽史を研究していて、とりわけ二十世紀以降の作曲家の創作プロセスの研究を行っているとのこと。
作曲家の伝記本といえば、生涯と作品の解説と相場が決まっている。
この本も構成は同じだが、浅井佑太氏の場合は研究分野が示すように、シェーンベルクの創作のプロセスが具体的に示されていて、通常の伝記本とは一味も二味も異なるものだ。
勿論シェーンベルクの生涯についても詳しく書かれていて、マーラーの庇護や、後年、疎遠になったとはいえリヒャルト・シュトラウスからも何かと便宜を図ってもらっていたというエピソードは初めて知った。
因みに交響詩「ペレアスとメリザンド」はリヒャルト・シュトラウスの勧めによるものだそうだ。
「グレの歌」にしても手掛けられたのは初期の頃ということも知らなかった。
筆者は、その当時の時代背景や人物描写が巧みで、シェーンベルクが大変な生涯を送ったことがよく分かる本だった。
貴重な写真も多い。

驚いたのは彼は正式な音楽教育を受けたことがなく、ピアノも弾けなかったことだ。
とにかくよく勉強していて、最後は音楽大学の教授にまでなっている。
また、 リヒャルト・ゲストル という画家の影響で絵画を手がけ、個展まで開いている。
ゲストルが描いた シェーンベルクの肖像
因みにゲストルとシェーンベルクの最初の妻マティルデ(ツェムリンスキーの妹)は恋仲となり駆け落ち(のちに戻る)する。
作品についてもかなり詳しい解説がされていて、あまり関心のなかった晩年の作品である『ナポレオンへの頌歌』や『ワルシャワの生き残り』を手持ちのCDで聞き返して、認識を深めている。
強制収容所のホロコーストを描いた『ワルシャワの生き残り』の身を切るような鮮烈な音楽、『ナポレオンへの頌歌』のヒットラーを皮肉っている諧謔的な面白さなど、背景を知ると新たな発見がある。
『ワルシャワの生き残り』では弱視が進みすぎて、線間が通常の3倍ほどの特注の五線紙を使わねばならなかったという、晩年のシェーンベルクの必死で作業する姿も描写されている。
亡くなる数ヶ月前からは慢性的な呼吸困難によりベッドで眠ることが出来ず、椅子に座って寝ていたという描写も痛ましい。

ワルシャワの生き残り

ナポレオンへのオード

なお今年の選考結果は こちらにアップ されている。
どれも興味をそそるような本揃いだ。
賞金が最高でも10万円なのはこのプロジェクトがクラウド・ファンディングで運営されているからだ。
因みに昨年と今年に集まった金額は70万円に満たないものだ。
まあ、受賞した出版社はPRするだろうから、それだけでも効果はあるし、売り上げアップにもつながるだろう。
ということで、大変興味深い本で、「作曲家◎人と作品シリーズ」の他の本も読みたくなってしまった。

浅井佑太著シェーンベルク 音楽之友社 2023年5月10日 第一刷発行





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Last updated  2024年07月20日 15時53分07秒 コメントを書く


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