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「ここは、わたし達悪魔の神聖なる場所です。」「悪魔に神聖な場所があるというの?おかしいわね。」羅姫がそう言って笑うと、リュミエルは少しムッとした顔をした。「それで?わたしをここへ連れて来てどうするつもりなの?」「それは、あなた次第です。さぁ、こちらへどうぞ。」リュミエルはそう言うと、羅姫を洞窟の奥へとエスコートした。「足元にお気をつけて。」「ええ。」ゴツゴツとした岩道を、羅姫はドレスの裾を摘みながらリュミエルとともに歩いていると、次第に向こうに光が見えてきた。「これは・・」光の向こうにあったのは、豪華絢爛な洞窟内に造られた聖堂だった。(こんなところに、聖堂があるだなんて・・)「気に入ったかい?ここは昔、迫害を逃れてこの土地にやってきた君たち祖先が造ったものだ。」「わたしたちの、ご先祖様?」「そうだよ。君の両親である鬼族達は、人間達から恐れられていた反面、敬われ、崇められていた。その秩序を崩したのが、人間達の欲と、彼らが作り出した文明だ。」「でもあなたが、皇帝を唆してわたし達の両親を殺したんでしょう!?」羅姫の言葉に、リュミエルは静かに頷いた。「君のご両親のことは、本当に申し訳なく思う。どれほど謝っても、彼らの命は戻ってこない。過去は変えられない。でも、未来なら変えられる。」「え・・」「聖堂の中央を見てご覧。」リュミエルに言われて羅姫が聖堂の中央を見ると、そこには鴇和家に代々伝わる紋章が刻まれてあった。(どうして、この紋章が・・)そっと羅姫が紋章に手を触れると、祭壇が一瞬揺れたような気がした。「どうした?」「何・・」―やっと会えた 頭の中に直接、少女の声が聞こえたような気がした。(あなたは誰?一体何者なの?)羅姫が自分に呼びかけてくる“誰か”に話しかけると、また声が彼女に話しかけてきた。―わたしは・・“誰か”はそう言って笑うと、ますます祭壇周辺の揺れが大きくなった。「何なの・・」「一体何があった!?」「わからない・・突然揺れて・・」羅姫がリュミエルの方を向こうとしたとき、彼女の足元の地面が崩れ落ちた。彼女は悲鳴を上げながら、ゆっくりと暗い穴の中へと落ちていった。一体何がどうなっているのか、彼女には全くわからなかった。ゆっくりと地面へと落ちてゆき、羅姫はドレスに付いた埃を払って咳き込むと、誰かの気配を感じた。「誰?誰なの?」叢を掻き分けた羅姫の目に飛び込んできたものは、直衣姿の男達が庭で蹴鞠に興じている光景だった。(ここは・・一体・・?)「おい、あれ・・」「物の怪だ!」男達に気づかれ、あっという間に羅姫は彼らに取り囲まれた。「やめて、わたくしに触れないで!」自分を捕らえようとする男達の手から逃れようとした羅姫だったが、いとも容易く彼らに捕らえられてしまった。「そこで何をしている!」背後から鋭い声が聞こえて羅姫が振り向くと、そこには切れ長の瞳を自分に向ける一人の男が立っていた。にほんブログ村
2012年05月27日
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収容所が砲撃されて一夜明け、ユーリは未だマリスの船底部に囚われていた。一体外で何が起きているのかが全く解らず、夫や子ども達が無事なのかさえも解らない。「ユーリ、思い出したか?」「キャサリン様、お願いです。どうか家族と会わせてください。一体何が起きているのか解らずに、ここにいるのは耐えられません!」「黙れ!」キャサリンはそう叫ぶなり、ユーリの頬を再び打った。ユーリは痛みで顔を顰めると、彼女は酷薄な笑みを浮かべた。「お前がすべてを思い出すまで、ここから出すことはしない。早く家族に会いたくば、思い出すことだな。」「そんな・・」ユーリはキャサリンの腕を掴もうと手を伸ばしたが、もうすでに彼女の姿はそこにはなかった。「収容所はどうなっている?」「砲撃で収容所の女達とその子ども、あわせて50人が犠牲となりました。」「そうか。ではこのまま砲撃を続けろ。大切な者を失うとき、何も出来ぬ己の無力さを、ユーリに思い知らせてやる・・」キャサリンはそう言うと、亡き妹と自分を繋ぐ指輪を見た。(ユーフィリア、待っていろ。必ずわたしがお前の仇を討つ!)彼女の脳裏に、ユーフィリアと幼き日々を過ごした離宮のことを思い出した。まだ戦争など知らずに居たあの頃に戻れたら、どんなに良かったのだろう。だがもう彼女は居ない。自分に出来ることは、彼女の仇を討つことだけだ。「砲撃の準備をしろ。」「はっ!」 一方収容所では、匡惟がほかの男達とともに作業をしていた。「クラーク殿、ユーリ様の居場所はまだ掴めませんか?」「ああ。だが恐らくあの方はエステア軍に囚われている可能性が高い。この砲撃を指示したのはキャサリン皇女だろう。」「そんな・・すぐにユーリ様をお救いせねば!」作業を放り出し、外へと向かおうとする匡惟を、クラークは手で制した。「今は止したほうがいい。向こうの狙いがわかるまで、慎重に行動するんだ。」「そうですね・・」もどかしい思いを抱えながら、匡惟はユーリのことを想った。(ユーリ様、どうかご無事で!)「う・・」長時間ロープできつく体を縛られている所為か、血行が悪くなり、手首には青紫色の痣が出来ている。「食事だ。」部屋のドアが開き、エステアの軍服を纏った男が入ってきた。「あの・・収容所は・・」「砲撃に遭い、お前の娘を含む女と子どもが死んだ。お前が黙秘を続ければ、更に多くの犠牲者が出るだろう。」男がそう言ってユーリを見ると、彼女の顔は蝋のように白くなった。「食事が終わったら呼べ。」男が部屋から出て行くと、中から嗚咽が漏れた。「あの、あそこには誰が・・」「お前は知らなくていい。仕事に戻るぞ。」「は、はい・・」 娘の死を知らされ、ユーリは食事が喉を通らなかった。匡惟は彼女の死を目の当たりにしたはずだ。一体今彼が何を想っているのか、ユーリは知りたかった。(匡惟・・)早く解放されて、愛する人の腕の中へと飛び込みたい―ユーリは涙で頬を濡らしながら、眠りに就いた。 同じ頃、悪魔・リュミエルに連れ去られた羅姫は、頬を濡らす水滴によってゆっくりと蒼い瞳を開けた。「目覚めたか。」「ここは何処?」羅姫がそう言って悪魔を見ると、彼は口端を歪めて笑った。にほんブログ村
2012年05月27日
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エスティア皇国の戦艦・マリスの船底部に、ユーリは囚われていた。「う・・」低い呻き声とともに、ユーリはゆっくりと真紅の瞳を開いた。霞んだ視界の中で、いくつもの人影が見える。(一体ここは何処だ? 確か、収容所の方が砲撃されて・・それから・・)ユーリが椅子から立ち上がろうとした時、彼女は両手足が縛られていることに気づいた。「漸くお目覚めか、ダブリス王国元皇太子・ユーリ。」凛とした声と、高らかな靴音が船底に響き渡ると同時に、キャサリンの輝くような金髪がランプの仄かな光で糖蜜色に照らされた。「キャサリン様・・ここは?」「ここが何処だか解らないのか、ユーリ?」キャサリンはそう言うと、ユーリの頬をそっと撫でると、長身を曲げて彼女を見つめた。 サファイアのような蒼い双眸は、狂気に彩られていた。「わたしが一体、何をしたというのです?」「何をした、だと!? お前はあの時、妹を・・ユーフィリアを殺しただろう!」激昂したキャサリンはそう叫ぶと、ユーリの頬を打った。彼女が嵌めていた指輪で、ユーリの頬に傷がついた。 その指輪に、彼女は見覚えがあった。ユーフィリアが生前愛用していた指輪で、あの式典の時もつけていた。「この指輪は、元はユーフィリアのものだった。彼女の母親の形見で、今はわたしとユーフィリアを唯一繋ぐものだ。」キャサリンはそう言うと、ユーリを睨みつけた。「ユーリ、お前がここですべきことはただ一つ。何故ユーフィリアを殺したのかを、思い出すことだ。貴様が思い出さなければ、収容所の仲間が次々と死んでゆくだろう。」「待て、それはどういうことだ!?」ユーリの問いには答えずに、キャサリンはマントを翻しながら部屋から出て行った。「エスティアがこの島に上陸しただと!? 一体どういうことなんだ!?」「それはこちらも解りません、閣下。ですが、エスティア側にルディガー陛下がつかれているとは・・」兵士がそう言った時、砲撃でフランス窓が粉々に粉砕された。「一体何だ!?」「閣下、お怪我は?」「大丈夫だ。それよりも、他に砲撃を受けていないか確認しろ!」クラーク将校達は、砲撃を受けた収容所の囚人部屋で、手足や胴体が千切れ、ばらばらとなった女性や子どもの遺体を発見した。「何てことだ・・」鼻と口元をハンカチで覆いながら、クラーク将校は惨劇の現場へと足を踏み入れた。 粉砕されたフランス窓の近くに、白銀の美しい髪が散らばり、1人の少女が目を見開いたまま死んでいた。「何てことだ・・」クラーク将校は、璃娜の目をそっと閉じ、胸の前で十字を組んだ。砲撃を受けたその日の夜、男達は犠牲者の遺体を水葬することになった。原形を留めない妻や子ども達の遺体を見て、男達は涙した。匡惟は、璃娜の変わり果てた姿を見て人目も憚らず嗚咽し、彼女の遺体から離れようとしなかった。「璃娜、目を覚ましてくれ・・」匡惟が璃娜の身体を激しく揺さ振ると、彼女が首に提げていた犬を象ったカメオのネックレスが床に転がった。それは、璃娜の誕生日に匡惟がプレゼントしたものだった。「璃娜・・」匡惟はネックレスを握り締め、愛娘に別れを告げた。(いつになったら、この世から憎悪の連鎖が消えるのだろう? 憎しみは憎しみしか生まれない。) 血のような真っ赤な夕陽に照らされながら、匡惟は娘の形見を握り締めながら、答えの出ない問いを繰り返していた。にほんブログ村
2012年05月27日
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「陛下、島が見えました。」「そうか。すぐに砲撃できるように準備しろ。」「はっ!」兵士が敬礼して司令官室へと出て行くと、キャサリンは望遠鏡で妹の仇が居る島を見つめた。(漸くお前の仇が討てるぞ、ユーフィリア!) 今は亡き妹が愛用していたカメオのネックレスを握り締めながら、キャサリンの蒼い瞳はユーリへの激しい憎悪に滾っていた。「本当に、良いのですか?」「ああ。わたしはこの日を待ち望んでいた。妹を唆し、殺したユーリをこの手で殺す日を。」「そうですか。では、わたしは止めません。全ては陛下の御心のままに。」ルディガーはそう言って笑うと、司令官室から出て行った。 一方島の収容所では、匡惟とユーリが数日ぶりの再会を果たしていた。「ユーリ様、お元気そうでなによりです。子ども達も元気で良かった。」「ああ。クラーク将校が取り合ってくれたお蔭だ。麗欖は?」「あの子でしたら、おとといからずっと望遠鏡で外を眺めておりますよ。突然違う環境に放りだされて動揺しているのでしょう。今なら海を見渡せる港の近くに居るでしょう。」「そうか、ありがとう。」ユーリは白銀の髪をなびかせながら、港へと向かった。 港では、麗欖が今日も望遠鏡で外を眺めていた。突然家にダブリス王国の兵士達がやって来て、汽車と船に揺られながら何もない島へと連行されたのは数日前のことだった。 両親が半妖であるということで、この不便な島に強制移住させられたのだと収容所で知り合った少年から聞いた。ここからは一生出られることはないだろうと、麗欖は思っていた。「麗欖、ここに居たのか。」「母上・・」母譲りの紅の瞳で麗欖がユーリを見ると、彼女は溜息を吐いて自分の隣に座った。「また海を見ているのか?」「だってここには何もないでしょう。それにいつ家に帰れるかも解らないし。」「そうだな。匡惟が呼んでいるぞ。」「解りました。」麗欖は望遠鏡を握り締めると、収容所へと戻って行った。(ルディガー兄上は、一体何をお考えなのだろう?)自分や匡惟をはじめとする半妖に憎悪を抱き、島へと強制移動させるルディガーの本心を、ユーリは知りたかった。出来ることなら、彼と会って話がしたかった。何故ユーフィリアを唆して殺したのかを。あの悪魔は何者なのかを。(兄上、何処に・・)ユーリがそう思いながら収容所から戻ろうとした時、大地を揺るがすような轟音とともに、収容所の方から白煙が立ち上った。「一体何が・・」呆然と収容所の方を見つめるユーリの前に、巨大な戦艦が紺碧の海に現れ、艦隊は港に停泊した。「見つけたぞ、ユーリ。妹の仇!」マントの裾を翻し、タラップから港へと飛び降りたキャサリンは、洋剣を手にしてユーリへと突進した。「あなたは・・キャサリン様・・どうしてここに?」「決まっている、お前を殺し、妹の仇を討つ為だ!」キャサリンが奮った刃が、容赦なくユーリの服を引き裂いた。「その者を連れて行け!」兵士達に戦艦へと連行されたユーリは、甲板でルディガーと再会した。「兄上、何故キャサリン様と・・」「ユーリ、お前がその理由を知ることはないだろう。」ルディガーはそう言って笑うと、ユーリの脇を通り過ぎた。 一方砲撃を受けた収容所内では、瓦礫の下敷きとなり息絶えた女や子どもの遺体が転がっていた。「閣下、エスティア皇国の戦艦がこちらに上陸いたしました!」「なに、エスティアが!?」クラーク将校は、ユーリが港から戻って来ない事に気づいた。(まさか、ユーリ様は・・)にほんブログ村
2012年05月27日
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「どうなさいましたか、お嬢様?」「後ろに、誰か居るわ!」山瀬が背後を振り向くと、そこには漆黒の羽根を持った悪魔―リュミエルが立っていた。「このようなところで鬼族の末裔に会うとは、奇遇ですね。」そう言ってリュミエルは、じっと羅姫を見た。「あなたは・・」「お嬢様、この悪魔はあなたのご両親・・香様と蓮華様を処刑した張本人です!」「あなたが・・父上と、母上を・・」羅姫の蒼い瞳が漆黒の悪魔を見つめた。脳裡に、背中合わせで敵に立ち向かう両親の最期の姿が浮かんだ。「あなたが、父上と母上を・・里のみんなを殺したの!?」「ええ。彼らはダブリスに疫病を広めた。だからルディガー陛下はあなた方一族を根絶やしにしたのです。」「悪魔の言葉を聞いてはなりません、お嬢様! 彼の言葉に惑わされてはいけません!」山瀬の声は、羅姫の耳には届かなかった。「あなたのご両親は、ダブリスに疫病を広めたから殺された。」「そんなの、嘘よ! 父上や母上は、いつも人の為に・・」「その人間に、あなたのご両親は利用されたのです。あなたの両親は、自分達が守り、共存しようとしていた人間達に殺された。所詮魔物と人間は相容れないのですよ。」リュミエルはそっと羅姫に近づくと、彼女の頬をそっと撫でた。「復讐したいでしょう、あなたのご両親を殺した人間達に。」リュミエルの暗赤色の瞳が妖しく煌めき、羅姫を見つめた。羅姫は彼の視線から逃れようとしたが、身体が全く動かない。―復讐したいでしょう?頭の中で直接、リュミエルの声が聞こえてきた。(駄目・・聞いては駄目。)耳を塞ごうとした羅姫だったが、耳を塞いでも彼の声は聞こえてくる。―憎くないのですか?自分の両親に濡れ衣を着せ、処刑した人間達は憎い。だが、人間達は両親の処刑した者達以外にも、自分達鬼族と共存しようとする者達が居る。(人間は悪い者ばかりではないと、父上達は言っていた。わたしは、その言葉を信じたい!)―強情ですね・・まぁ、いいでしょう。リュミエルはそう言うと、フッと口端を歪めて笑った。「お嬢様!」羅姫の元へと駆け寄ろうとした山瀬は、彼女の様子がおかしいことに気づいた。「お嬢様・・?」―人間達を、殺しなさい。(いや・・殺したくない!)―今こそ復讐の時です、殺しなさい!(わたしは、殺したくない・・)両親は人間達に罪を着せられ、処刑された。両親の死は羅姫にとって世界を変えた。彼らから両親を奪っていった人間達に、憎しみを持ったことは一度や二度ある。だが、全ての人間達が悪者ではないという両親の教えに、羅姫は背きたくはなかった。それなのに今、目の前に立つ悪魔の甘い言葉に惑わされそうになっている。(どうして・・わたしは・・)―さぁ、おいで。突然、リュミエルの姿が亡き父・香に見えてきた。(父上・・?)―人間達に復讐しよう、羅姫。処刑された者達の分まで。「ええ、父上。一緒に復讐しましょう。」悪魔の幻術に惑わされた羅姫は、暗赤色の瞳を煌めかせながら、リュミエルの手を握った。「お嬢様・・」山瀬は呆然とした様子で、悪魔と手を結んだ主を見つめていた。「急いだ方がいい。」「ええ。」「待て、お嬢様を何処へ連れて行く!?」 リュミエルは山瀬の問いには答えず、口端を歪めて笑いながら羅姫を抱き抱えて漆黒の羽根を広げ、上空へと上昇していった。にほんブログ村
2012年05月27日
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「クラーク将校、それは一体どういう事なのですか? 何故、兄上・・ルディガー陛下が・・」「陛下のお傍にはいつも、あの漆黒の羽根を持つ悪魔―リュミエルが居ます。リュミエルは陛下の御心に悪しき種を植え付け、陛下はダブリスにいる全ての半妖や妖達を滅ぼそうとしているのです。10年前、鬼族に濡れ衣を着せて殺したようにね。」「そんな・・」兄がこれからやろうとしていることを知り、ユーリの視界が揺らいだ。それと同時に、無実の罪を着せられ処刑された香と蓮華の顔が浮かんだ。「ユーリ様、どうかルディガー陛下を止めてください。あなただけなのです、この国を救えるのは・・」「クラーク将校、もうわたしは皇太子ではありません。」「承知しております。ですがあなたのお力が必要なのです。あの方の暴走をお止めするには、どうしても・・」(兄上・・)ユーリの脳裡に、久しぶりに再会したルディガーの、狂気に彩られた蒼い双眸が浮かんだ。彼は一体いつから、あのように変わってしまったのだろうか。「クラーク将校、お願いがあります。この宮殿に住む者達に、酷い事はなさらないでください。」「解りました。」クラーク将校はそう言って立ち上がると、ユーリに右手を差し出した。ユーリはその手を、力強く握った。 一方エスティア皇国では、第一皇女・キャサリンが父王の跡を継ぎ女王として善政を敷いていた。文武に秀でていて常に戦場の最前線に立つ彼女の姿は、国民達から“エスティアの女神”と謳われるほど勇ましくも美しいものであった。だがそんな彼女は、妹・ユーフィリアの仇であるユーリを執拗に探していた。あの日―式典で虐殺という蛮行に走り、ユーリの手によって倒され、己の腕の中で若く美しい命を散らせた愛しい妹の事を、キャサリンは一秒たりとも忘れてはいなかった。(ユーリ、貴様の命はわたしが討ち取ってやる! それまで、首を洗って待っていろ!)「陛下、申し上げます。ダブリスのルディガー陛下が、陛下に謁見したいと。」「ルディガーが?」隣国の王の名を聞いたキャサリンの美しい眦が上がった。自分と蒼い瞳を持ちながら、腹の底が全く読めぬルディガーの事を、キャサリンは嫌っていた。そのルディガーがわざわざ自分に謁見を願い出るなどおかしいと思ったが、キャサリンは彼と会う事にした。「お久しぶりでございます、キャサリン陛下。」「珍しいな。貴様が供も連れずにわたしの元に来るとは。」「ええ。陛下、ユーリの事をお探しですか?」「奴を・・奴の居所を知っているのか!?」キャサリンは思わず玉座から立ち上がり、ルディガーに詰め寄った。「ええ。ユーリは・・わたしの弟、いや、妹と言った方がいいでしょうね・・妹は、ダブリスとエスティアの軍事境界線上に浮かぶ島におりますよ。」「案内しろ、今すぐにだ!」「ええ。これでやっと、ユーフィリア様の仇が討てますね。」その後キャサリンとルディガーは、ユーリ達が居る島へと向かった。「全く、キリがありませんね・・」羅姫とともにホテル内に湧いたゾンビを倒している山瀬は、そう呟くと額の汗を拭った。「処刑場の跡地にホテルを建てるからよ。さっさとゾンビの親玉を始末する方法を考え・・」羅姫が洋剣を振るってゾンビを次々と倒して体勢を整えようとした時、激しい揺れが彼女を襲った。「なに、この揺れは・・」羅姫がゆっくりと一歩奥の部屋へと進もうとした時、突然床に亀裂が走り、奈落の穴へと彼女は落ちていった。「お嬢様!」咄嗟に山瀬は羅姫の手を掴んだが、彼が立っていた場所にも大きな穴が開き、彼らはそのまま穴の中へと落ちていった。「う・・」「お嬢様、大丈夫ですか?」羅姫が呻きながら山瀬の方を向くと、彼の背後に何者かの気配がした。にほんブログ村
2012年05月27日
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内陸部へと向かう汽車を待っていたユーリ達は、ダブリス王国軍によって窓のない貨物車両にすし詰めにされ、汽車はプラットホームを離れた途端加速した。「ユーリ、大丈夫ですか!?」「ああ。」「お母様、痛いよぉ・・」ユーリと匡惟は、息も出来ぬ程に押し込められ、汽車が動く度に圧死しそうになりながらも、必死に子ども達を守ろうとした。 外の様子が一切解らず、何処へと向かっているのか解らぬまま、匡惟達は子ども達を優しく宥めていた。 やがて汽車は、ある駅のプラットホームへと滑り込み、停車した。「降りろ!」王国軍の兵士達によって銃口を突き付けられながら、ユーリ達は駅から出て港へと向かった。 そこには、巨大な船が停泊していた。「あの、あれに乗るのですか?」「早く乗れ!」「はい・・」銃を持った兵士達に怯えながら、ユーリ達は次々と船へと乗り込んだ。「お母さん、わたし達何処へ行くの?」「しっ、黙って。」「母ちゃん、疲れたよ。」ユーリ達半妖らは王国軍とともに乗船した船は、大海原の上を滑るように走った後、異様な島が霧の彼方に見えてきた。「あれは、一体・・」「何か、変な建物ばかり。」「不気味ね・・」ひそひそと女達が囁いていると、兵士達がジロリと彼女達を睨んだ。「さっさと降りろ!」白い霧に包まれた中、ユーリ達は訳も解らず奇妙な建物に囲まれた島へと上陸した。 彼らは、ある建物の中へと入った。そこはかつて宮殿と思しき建物であったらしいが、今は蔦に覆われていて不気味に聳え立っていた。 内部は荒れ果て、往時の栄華を偲ばせるようなシャンデリアや、色褪せた真紅の金唐革紙がところどころ剥がれ落ちていた。「男は右側の部屋へ、女は左側の部屋へ行け!」「お父さん・・怖い・・」璃娜は、ぎゅっと匡惟の腰にしがみ付いたまま離れようとはしなかった。「璃娜、お母様と一緒にいなさい。これで二度と会える訳ではないのだからね。」「はい・・」璃娜は母の手にひかれながら、父の腰から手を離した。 ユーリ達は、王宮内の一室へと集められた。「お前達はこれから、ここで暮らして貰う。」兵士の1人がそう言うと、頭に被っていた帽子を脱いだ。「身につけている貴金属類をこの中に入れろ。」女達は渋々と、身につけている髪飾りや指輪などの装身具を帽子の中へと入れた。列の最後尾に並んでいたユーリの前に兵士が立つと、彼はぎょっとしたような顔をしてユーリを見た。「あなたは、もしや・・ユーリ様ではありませんか?」「そうですけど・・」「ユーリ様、こちらへどうぞ。」兵士に連れられ、ユーリが彼と共にかつて大広間であった部屋へと入ると、そこには彼の指揮官と思しき年配の将校がチンツ張りの椅子に座っていた。「お久しゅうございます、ユーリ様。この度は失礼をいたしまして、申し訳ありませんでした。」「あなたは・・クラーク将校?」ユーリはその将校をじっと見つめた。彼―ジョン・クラーク将校は、ユーリの皇太子時代に剣術の指南役として公私ともに親しくしていた。「教えてください、クラーク将校。何故わたし達は突然このような場所に連れてこられたのですか?」「それは、あなたの兄上様・・ルディガー陛下が漆黒の羽根を持つ悪魔と契約してしまったからです。その悪魔に、陛下は魂を奪われてしまいました。」「兄上が・・」にほんブログ村
2012年05月27日
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男達の怒号と女性客たちの悲鳴が響き渡る中、羅姫は向かってくる賊に向けて容赦なく洋剣を振るった。「全く、倒しても倒しても湧いてくる・・まるでゾンビね・・」羅姫がそう言って溜息を吐くと、彼女の背後に妖しい影が揺らめいた。「しまっ・・」羅姫が再び洋剣を構えて敵へと向かおうとした時、山瀬が敵の頭部を斧で潰した。「大丈夫ですか、お嬢様?」「遅いわよ、山瀬。」羅姫はそう言って山瀬に微笑んだ。「お嬢様、こんなに次々と湧いて来る賊は何かがおかしいですね。」「ええ。まるでゾンビのようね。」「昔このホテルは罪人の処刑場だったとか。けれど欲に目が眩んだこのホテルの前オーナーが良く土地を調べもせずに勝手に建てたものだから、罪人の霊達が怒ったのでしょう。」「そうね。オーナーに会ってくるわ。」「わたくしも一緒に参ります、お嬢様。何せ周りが物騒ですので。」山瀬は自分の背後に近付いてきた賊の頭部を斧で潰した。 羅姫と山瀬がホテルの総支配人室へと向かうと、中から悲鳴が聞こえたので、山瀬がドアを蹴り破った。「お取り込み中のところ、失礼致しますよ。」山瀬はそう言って、総支配人を襲おうとしている賊―もといゾンビの頭部を斧で潰した。「ひ、ひぃ! 助けてくれぇ~!」「ひとつお聞きしたいことがあるのですが、ここは昔罪人の処刑場だということはご存知ですか?」「そんな事は昔から知っていたさ! だが祖父は金に目が眩んで陰陽師や霊媒師達の言う事を聞こうとはしなかった!」「あなたのお祖父様に、お会いしたいのですが。」山瀬の問いに、オーナーは首を横に振った。「それは、出来ない。」「何故です?」「もう祖父は、この世の者ではないからだ!」「そうですか。ではあなたが知っている事を全て話して貰いましょう。その前に・・」山瀬はゾンビの頭部を斧で再び潰した。「この厄介な“賊”を始末せねばなりませんね。」そう言った彼の瞳が、狂気に満ちた真紅に染まった。 ホテルの外では、処刑され成仏できない罪人たちのゾンビが、次々と従業員や客達を襲っていた。「一体こいつらは何なんだ? 撃っても、撃っても起き上がって来るぞ!」「ええい、きりがない!」騒ぎを聞きつけた警官達がホテルへと駆けつけ、拳銃でゾンビを撃っていたが、彼らは倒されても、倒されても起き上がって来る。「こいつらをどうすれば・・ぎゃぁぁ!」警官が額の汗をハンカチでぬぐおうとした時、ゾンビが彼に襲い掛かり、彼の肉を喰らい始めた。「ひ、ひぃぃ!」仲間を目の前で襲われ、彼を助けようとして拳銃を発砲した警官だったが、手が震えて焦点が定まらない。(もう、駄目だ・・) 彼が恐怖に呑まれようとした時、視線の端に深緑のドレスの裾が翻るのが映ったかと思うと、ゾンビ達の頭部を鮮やかな剣捌きで潰していった。「彼らは頭部を潰さないと駄目よ。」「え、ええ・・」「じゃぁ、わたしはこれで。」羅姫は、さっと次の敵へと突進していった。 一方、海を遠く隔てたダブリス王国で、新たな動きが始まっていた。新国王・ルディガーは、妖狐の血、鬼族の血を一滴でもひいている者は、内陸部の収容所へと強制移動させる「半妖移動令」を発令した。これにより、ユーリ達は夫と3人の幼子を連れ、多くの混血者とともに内陸部の収容所へと向かう為に、汽車に乗る長蛇の列に加わった。「これから、どうなるんでしょう・・」「さぁ、解りません。」ユーリの真紅の瞳は、暗澹たる未来への不安で曇っていた。にほんブログ村
2012年05月27日
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「お嬢様、お休みなさいませ。」「お休みなさい、山瀬。」 大広間から自分の部屋へと戻った羅姫は、夜着に着替えて寝台に横たわり、黒い燕尾服の裾を揺らしながら部屋を出て行く執事の背中を見送った。「結婚、ねぇ・・」 陸軍主催のパーティーに出席し、山田達と話したものの、羅姫は彼らに対して何の感情も抱かなかった。寧ろ抱いたとすれば、彼らに対する好奇心だろうか。ふと羅姫の脳裡に、山瀬に突然告白されたことを思い出した。“あなたを愛しております、羅姫様。”そう言って自分を抱き締めた山瀬の真剣な眼差しは、目蓋を何度も閉じても簡単に忘れられるものではなかった。いつからだろうか、山瀬の、己への恋心に気づき始めたのは。彼は物心ついた時から―鴾和の家に居た頃から自分の事を想ってきたのだろう。やがて羅姫が妙齢となり、妻として娶れる歳となるその日まで、山瀬は辛抱強く待っていてくれたのだ。(わたしは、どうしたらいいのかしら?)山瀬への想いに応えようか、漸く探した弟と一緒に暮らそうかどうか羅姫は迷っていた。血を分けた双子の弟・香欖(からん)の存在は、常に羅姫を勇気づけてくれた。長い間離ればなれとなっていた時も、羅姫は香欖の事を一日足りとも忘れたことはなかった。だが、山瀬は香欖とは違う。肉親の情でもなく、友愛でもなく、もっと何か特別なもので、彼と自分は結ばれていると思い始めていた。一体それが何なのか―羅姫がそう思い始めた頃、急に廊下が騒がしくなった。「お嬢様、火事です! 早くお逃げ下さい!」「火事ですって?」羅姫が寝台から飛び起きると、山瀬が寝室へと入って来た。「ええ。どうやら賊が侵入したようです。」「賊が?」羅姫が夜着からドレスに着替え、山瀬がその着替えを手伝っていると、自分達の近い部屋から耳を劈くような悲鳴と、男達の怒号が聞こえた。「荒っぽい賊だこと。」羅姫は溜息を吐くと、寝室から出て行った。「これからどうなさいますか、お嬢様?」「折角眠ろうと思ったのに、賊の所為で安眠を妨害されては堪らないわ。賊を蹴散らすわよ。」「はい、お嬢様。」山瀬はそう言って苦笑いを浮かべながら、羅姫とともに部屋を出て行った。 廊下では数十人の男達が客室に押し入り貴金属類を奪ったり、ホテルの調度品を盗んだりと略奪の限りを尽くしていた。「これだけの宝石がありゃぁ、いい暮らしが期待できそうだぜ。」男はそう言って煙草を口に咥えながら、先ほど華族の婦人から奪ったダイヤモンドのネックレスを眺め、その手触りを楽しんだ。「お前ね、わたしの安眠を妨害した賊というのは。」背後から凛とした声が聞こえて男が振り向くと、そこには絹のドレスを纏った金髪の令嬢が立っていた。「なんだぁ、今いいところなんだから邪魔しないでくれねぇかなぁ?」「そうはいかないわ。」令嬢の美しい唇の端が吊り上がり、蒼い瞳が煌めいた。「退け、女ぁ!」苛立った男が令嬢に向かって突進し、その襟元を掴もうとした時、ドスッと鈍い音が廊下に響いた。「汚れた手で、わたしに触らないでいただけるかしら?」令嬢が冷たい声でそう言った時、男の命は尽きていた。男の仲間が唸り声を上げながら羅姫へと突進していったが、彼女は数人の男達を血祭りにあげた。「我が名は鴾和香が娘、羅姫!」羅姫はそう言うと、血に塗れた洋剣を敵に向けた。にほんブログ村
2012年05月27日
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「やっぱり、お前が言った通りね。」 陸軍主催のパーティーが開かれているホテルの宴会場には、結婚適齢期の男女が談笑していた。「ええ、お嬢様。しかしどう見てもお嬢様より年上の方が多いように見受けられますが・・」「そうね。まぁ折角招待されたのだから楽しみましょう。」「ええ。」羅姫がボーイからシャンパンを受け取ってそれを一口飲もうとした時、視線を感じて彼女は会場の隅の方を見た。「どうなさいました、お嬢様?」「あそこに、あの人のお友達が居るわ。」山瀬がちらりと会場の隅の方を見ると、そこには遥の友人達が羅姫達の方を見ながらヒソヒソと何かを囁き合っていた。その様子から見て、決して羅姫に対して好意的な内容を話していないことくらい、彼女は解った。「放っておきなさい。」「ええ。」羅姫と山瀬がパーティーを楽しんでいると、先ほど花街でぶつかった青年達の姿を、羅姫は見つけて彼らの方へと近づいた。「あら、奇遇ですわね。」「あなたは、先程の・・」「軍服を着ていらしたので軍人さんかと思いましたが・・まさか陸軍の方だとは思いもしませんでしたわ。初めまして、瀧丘羅姫と申します。」「山田久貴です。」長身の黒髪の男が羅姫に自己紹介すると彼女に頭を下げた。「そちらの方は、山田さんのご友人かしら?」「ええ。こいつは菱田佐助です。30手前にもなって浮ついた話がひとつもないものですから、こうして嫌がるこいつを引っ張って来た訳です。」「まぁ、お節介な友人がいらっしゃることね。」羅姫がそう言って笑うと、友人の隣で黙っていた金髪の男が、弾けるような笑い声を上げた。「お嬢様、そちらの方は?」談笑している彼らの元に山瀬がやって来た。「先ほどお知り合いになったのよ。山田さん、菱田さん、ご紹介いたしますわ。うちの執事の、山瀬です。」「初めまして、山瀬です。」男達に挨拶した山瀬はそう言って笑ったが、目は笑っていなかった。「ではお嬢様、わたくしはこれで。」「ええ、御苦労さま。」山瀬が大広間を出て行くのを見送った羅姫が男達に向き直ろうとした時、楽団がワルツを演奏し始めた。「菱田さん、一曲踊ってくださらないこと?」「はい、喜んで。」いい雰囲気の羅姫と友人に、思わず頬を緩めて笑ってしまった黒髪の男の元に、遥の友人達がやって来た。「あら、誰かと思ったら山田さんじゃありませんか?」「お久しぶりですわね。」「ああ、お久しぶり。このような場に行くと必ず君達に会うんだが、やっぱり婚期が遅れている所為で色々と周囲から煩く言われているのかな?」「まぁ、失礼な方ね!」「行きましょう!」遥の友人達は怒りに顔を歪ませると、大広間から出て行った。「やっとうるさい女達は出て行ったところだし・・こちらはこちらで相手を見つけるか。」 同じ頃、遥の披露宴から帰ってきた冬香と晃之介は、涼太を呼びだした。「父様、お話しってなんですか?」「涼太、お前は姉さんの事がそんなに嫌いなのか? いくら姉さんが気に入らないからってあのような場であんな事を言うなど・・」「僕は正直に自分の気持ちを伝えただけです。姉様はもう瀧丘家の人間ではありませんからね。」涼太は冷淡な口調でそう父親に言うと、ダイニングから出て行った。「遥にも困ったものだわ。あんな生活で嫁ぎ先でやっていけるのかしらねぇ。」冬香は深い溜息を吐くと、眉間を指先で揉んだ。にほんブログ村
2012年05月27日
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数日後、歳三は総司の実家を訪問した。「何ですって、この女と結婚したいですって!?」総司が歳三と結婚したい事を告げると、房江はそう叫んで彼女を睨みつけた。「あなたみたいな汚わしい女、沖田家の嫁には相応しくありません!」「お母様、僕は土方さんと結婚する為なら、この家と縁を切ります。」総司はそう言って歳三の手を掴むと、実家を飛び出していった。「おい、いいのかよ。あんな事言って。」「いいんです。土方さん、二度と僕から逃げないでくださいね。」「ったく、ガキはこれだから・・」歳三は今後総司が変わるのかどうか、少し不安になった。 今まで名家の御曹司として何不自由ない暮らしを送ってきた彼が、厳しい世間を渡っていけるのだろうか。それに彼は大学受験を控えているし、そんな中で自分と結婚する事によってマイナスになるのではないだろうか。そんな事を思いながら歳三がコンビニで買い物をしていると、突然携帯が鳴った。「姉貴、どうしたんだ?」『トシ、あんた一体どういうこと?』通話口越しに姉の怒鳴り声が聞こえ、歳三は溜息を吐いた。「落ち着けよ、姉貴。後でちゃんと説明するからさ・・」『できちゃった結婚なんて信じられない!ちゃんと相手を連れて来なさいね!』「わかったよ、わかったから・・」偏頭痛が襲ってきたので歳三は頭を押さえながら、総司との結婚の事をどう姉に説明しようか悩んでいた。「で?あなたがうちのトシと結婚することになった総司君?」「は、はい・・」「言っときますけどね、今のあなたじゃトシと子どもを養えるような経済力を持っていないわ。トシが一人で育てるっていうのならともかく、あなたまだ学生でしょう?」「そ、それは・・」歳三の姉・信子の追及に対し、総司は返す言葉が見つからなかった。「トシ、あなたどうかしてるわ!中学の時に荒れて漸く更生してマトモになったと思ったら、すぐこれだもの!」「悪かったな、年下の男を誑かして!こいつとは結婚するからな!」「勝手になさい!あんたの事はもう知らないから!」売り言葉に買い言葉といった感じで、歳三は姉と喧嘩別れした。 その後、歳三は出産費用の為にバイトを二つ掛け持ちし稼いでいたが、臨月間近の妊婦にとって工事現場の仕事は過酷だった。だからと言って辞める事など出来ず、歳三は体調が辛いのを押して働いた。 しかし工事現場のバイト中、彼女はバランスを崩して資材の前で転んでしまい、その時に強く腹を打ち、そのまま病院に運ばれた。切迫早産は免れたものの、胎児が危険な状態だということで、彼女は入院を余儀なくされた。「このまま出産まで入院していただくことになるかもしれません。」「出産までですか?まだ金が用意できてねぇってのに・・」「土方さん、お金の事よりも自分の身体や赤ちゃんの事を心配して下さい。」入院している事を総司には知らせず、歳三はそのまま出産の時を迎えた。「痛ってぇ~、死ぬぅぅ!」間髪いれずに襲ってくる陣痛に、歳三はベッドの上でのたうち回りながら吼えた。「土方さぁ~ん。」分娩室のドアが開き、総司がビデオカメラ片手に呑気な声で歳三の前に現れた瞬間、自然と彼女は拳で彼の頭を殴っていた。「てめぇ、何呑気にビデオ持ってきてやがる!」「痛いですぅ~。」「俺はなぁ、今だって痛くて堪らねぇんだよ!」頼りにならない総司に、歳三は始終怒鳴り続けていた。難産の末に彼女は元気な男の子を出産した。「あ~、やっと終わったぜ。煙草吸いてぇな。」歳三が病室のベッドに横たわっていると、看護師が赤ん坊を抱いて入って来た。「授乳の時間ですよ~」歳三は赤ん坊に授乳しながら、自分が総司を尻に敷かないと生活できないと感じた。―完―にほんブログ村
2012年05月11日
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「これでよしっと・・」 学校を辞めてから2ヶ月が過ぎ、歳三は引越しの準備を終えて一息つくために煙草を吸おうとバルコニーに出ようとしたが、やめた。(煙草はやめたんだっけか・・)総司と別れ、学校を辞めてからバタバタと忙しくしていた歳三は、生理が遅れていることに気づいた。薬局で妊娠検査薬を買って検査すると、結果は陽性だった。 総司が飽きずに自分を抱いており、避妊は一応したものの、殆どコンドームを使っていないことに歳三は気づいていた。大蔵の手前避妊はしていると言ったが、もし妊娠したら身をひき、子どもは一人で育てようと歳三は決めていた。 彼はまだ学生だし、未成年者が働ける場所は限られている。それに周囲が自分との交際を反対する中で、家族や将来を捨ててまで総司が自分を選ぶとは思えない。「ご結婚はされていないのですか?」「ええ。」「そうですか・・」歳三が未婚の母となることに、医師は顔に渋面を浮かべた。「赤ちゃんのお父さんとは、良く話されましたか?」「いいえ。知らせてもいません。子どもは一人で育てます。」医師の診察を受けている間、17の時に産んだ息子を妊娠した時の事を思い出した。 あの時は子どもを育てる自信がなくて、すぐに養子に出してしまったが、今は違う。父親が居ない子どもとして謂れのない差別や偏見を受けることになるかもしれないが、この子は絶対自分の手で育てたかった。 就職先はもう決まっているし、子どもが生まれたらこの部屋は手狭になるから新しい部屋も借りた。後は総司に妊娠の事を知られずにいるかだった。(総司とはあんな別れ方しちまったが、あれでいいんだ。)別れ際、歳三は総司の顔を見る事ができなかった。相手への未練を残したまま別れることはしない―歳三は総司との関係が周囲に露見した時、そう決意したのだった。 彼女は部屋に戻り、バッグから母子手帳を取り出した。そこにはエコー写真が1枚貼りつけられ、まだ豆粒大の胎児が映っていた。半年後には、この小さな胎児はこの世に誕生する。(俺はお前ぇの為に頑張るからな。)歳三がそっと下腹を撫でていると、玄関のチャイムが鳴った。そばの出前を頼んでいたので、もう来たのだろうかと思った歳三がドアを開けると、そこには肩で息をしている総司が立っていた。「総司・・?」「どうして、引越しの事黙ってたんですか!」「教える義理なんざねぇだろ。」歳三がそう言って笑うと、総司は勝手に部屋に上がってきた。「何処行くんですか?」「てめぇには関係のねぇこった。さっさと帰れよ。」「嫌です、全部説明してくれるまでは帰りません!」「帰れっつってんだろうが!」歳三と総司は揉み合いとなり、その拍子に歳三のバッグから母子手帳が落ちた。「これ・・」最悪のタイミングで、総司が妊娠を知るなんて―歳三は深い溜息を吐いて彼を見た。「お前ぇにだけは、知られたくなかったな。」「どうするんです?堕ろすんですか?」「産むさ。一人で育てる。はなっからお前ぇをあてにはしてねぇよ。」歳三の言葉に総司は暫く黙っていると、歳三の手を彼は取った。「結婚してください、僕と。」「馬鹿言うな、お前ぇみてぇな甘ったれたガキが俺を幸せなんかできるもんか。」「出来ます!だから・・」総司の紫紺の瞳に見つめられ、歳三の心は一瞬揺らいだ。にほんブログ村
2012年05月11日
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大蔵と歳三が出逢ったのは、彼女がまだ10代で中学に上がったばかりの頃だった。 その頃彼女はやたらと世間を舐め、煙草や酒を憶え、街に繰り出しては派手な喧嘩をしていきがっていたクソガキだった。 そんなある日、歳三は対立する不良グループのリーダー格に捕えられ、陵辱されようとした時に、たまたま通りかかった大蔵が彼女を助けてくれて以来、彼とは腹を割って話し合えるような仲になっていた。「大蔵さん、あん頃の恩も返さねぇで、ホントすいません。」「いや、いいんだよ。それよりもトシ、あの頃のお前ぇがもう先公とはな。全く、人生ってのはわからねぇもんだな。」大蔵はそう言って豪快に笑った。「大蔵さん、話ってなんですか?」「トシ、お前が産んだガキ、今何処にいるか知ってるか?」大蔵の言葉に、過去の苦い記憶が歳三の脳裡に甦った。 歳三が中学を中退し、学校にも行かずに派手に喧嘩を繰り返し、歓楽街の一角を取り仕切っていた歳三は、ある暴走族のリーダーと出逢い、酔った勢いで彼と寝た。だがその時に妊娠してしまい、姉に内緒で中絶しようと思っていた歳三だったが結局バレ、彼女は17で未婚の母となった。しかし未成年だった彼女には子どもを育てる金も気力もなく、子どもは生まれてすぐに養子に出された。「ええ、憶えてますよ。」「あのガキ、金持ちの清隆ってところに引き取られて幸せに暮らしてるってよ。」「そうっすか。大蔵さん、どうして俺にそんな話を?」「いやぁ、風の噂にお前ぇが生徒とデキちまったってのを聞いてよ。あん時みたいに下手してないかどうか、確かめたかったんだよ。」「心配要りませんよ、避妊はちゃんとしてます。」 総司を手酷く振って以来、彼が部屋に来る事はないし、学校で擦れ違ったとしても彼は歳三と目を合わせようとはしない。もう彼の心は自分から離れていったのだと、歳三はそう思い安心した。あのまま関係を続けていれば、互いに傷つけあうことになるだろう。「そうか・・それを聞いて安心したぜ。わざわざ引き留めて済まなかったな。」「いえ、久しぶりに会って嬉しかったです。それじゃあ俺はこれで。」歳三はそう言って大蔵の事務所を出た。 翌朝彼女が出勤すると、明らかに周囲の空気がどこか違うように感じた。「土方先生、ちょっと来て下さい。」「は、はい・・」歳三が校長室に入ると、校長は溜息を吐いて来客用のソファに腰を下ろした。「今朝、こんなものが掲示板に貼られていましてね。」そう言って彼が見せてくれたのは、歳三と総司の情事を撮影した写真だった。顔や局部にモザイク処理などされておらず、これを見た瞬間自分達の関係が露見してしまったことに歳三は気づいた。「君が生徒とみだらな関係を持っていたことは・・」「認めます。わたしは責任をもって退職致します。」歳三はそう言うと、バッグの中から予め用意していた退職願を校長に差しだした。「これからどうするのかね?」「さぁ、わかりません。資格は色々と取っているんで、雇ってくれるところならどこでも行きます。短い間でしたが、お世話になりました。」校長に頭を下げ、歳三は校長室から出て自分の机の私物を片付ける為に職員室へと向かった。「信じられない、あんな事するなんて。」「吉岡先生を誑かして・・」「やっぱり元ヤンキーだったことはあるわね・・」同僚達からの非難の視線と中傷の言葉を受けながら、歳三は黙々と私物を段ボールに詰めていた。「土方さん!」歳三が校門から出ようとした時、総司が追いかけて来るのが解った。「総司・・」「学校辞めるって本当ですか?」「あぁ。元気でな。」歳三は決して振り返って総司の顔を見ようとはしなかった。そうすると、彼への未練が残ってしまうから。にほんブログ村
2012年05月11日
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歳三は吉岡悟の両親と会う為に、都内某所の高級料亭に来ていた。「歳三さん、ご結婚なさったら今の仕事はどうなさるおつもりなの?」 吉岡の母親は、いかにも“お金持ちのお上品な奥様”といった印象で、何処か他人を見下しているようにも歳三は見えて、彼女を好きにはなれなかった。「さぁ、その時になったら考えますが。」「まぁ、じゃぁ子どもが出来たら当然おやめになるわよね?」「それはその時になってから考えます。」「そんな事をおっしゃって。」相手が少し苛々しているとわかった歳三は、煙草を1本、箱から取り出してそれを口に咥えた。「すいません、吸ってもいいですか?」「構いませんけど・・あなた本当に、うちの悟と結婚する気はあるんでしょうね?」「ええ。煙草は結婚しても止めませんから。あと仕事は今まで通り続けます。なんつーか、良妻賢母ってやつはわたしには合わないんでね。」「まぁ・・あなた、ご自分の立場を解っていらっしゃらないのね。いいこと、あなたは吉岡家の嫁としていずれは跡取りの男児を産んで貰わなくては困ります。」「誰が結婚するって言いましたか?」歳三はそう言うと、吸い終った煙草を灰皿に押し付けた。「言っときますが、俺は悟さんとセックスしただけで、結婚とか跡取りを産めとか言われてもそんな気はありません。」彼女の言葉に、吉岡の顔が蒼褪めた。「どういうことですか、土方さん!?僕と結婚してくれるって言ったじゃないですか!」「んなもん、嘘に決まってるだろ、馬鹿。大体なぁ、一度セックスしただけで女が結婚すると思うか?甘ぇんだよ。」歳三は新しい煙草に火をつけると、その煙を吉岡に吹きかけた。激しく咳き込む悟と、唖然とする両親を残して、歳三は料亭を後にした。(畜生、つい本音が出ちまった。) 吉岡と結婚し、彼を欺いて夫婦として暮らそうと思っていたのだが、やはりあんな優柔不断で甘やかされた金持ちのボンボンは好かない。(これからどうっすかなあ・・)夜の飲み屋街を歩きながら、歳三は溜息を吐いた。「あ、土方先生じゃないですかぁ~!」背後から上ずった声が聞こえたかと思うと、そこには奈緒美が歳三に向かって手を振っているところだった。余り彼女とは会いたくなかった歳三であったが、無視するのも気まずいので彼女は奈緒美の方へと歩いていった。「どうも。」「土方先生、これから飲み会なんですけど、ご一緒しません?」ふと周りを見ると、そこには同僚の教師が何人か居た。「いや、今日は遠慮しときます。」「そんな固い事言わずに。」奈緒美は歳三の腕を掴み、有無を言わさずカラオケボックスへと連れ行こうとしていた。その時、向こうから男の野太い声が聞こえた。「よぉ、誰かと思ったらトシじゃねぇか。」歳三が振り向くと、そこにはスーツを着てサングラスを掛けている男が立っていた。「お、大蔵さん・・」まさかこんな所で昔世話になった男に会うとは思っておらず、歳三は慌てて彼に頭を下げた。「あの、お知り合いですか?」「まぁな。お嬢ちゃん、ちょいとこいつ借りるぜ。」男はそう言って奈緒美の手を振り払うと、歳三の腕を引っ張ってとある事務所へと入って行った。「大蔵興業」と表向きには書かれているが、その正体は高金利で金を貸す、所謂闇金業者であった。「てめぇ最近見ねぇと思ったら、先公になったって聞いてよぉ。ま、そこに掛けろや。」 男―大蔵はそう言ってソファにどかりと腰を下ろすと、歳三はその向かいのソファに慌てて腰を下ろした。にほんブログ村
2012年05月11日
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ベッドに転がされて、執拗に秘所を舌で舐められた。歳三は甘い吐息を漏らすと、吉岡は硬くなった自分のものをそこへ宛がおうとした。「どうした?俺が欲しいんじゃないのか?」歳三がそう言って吉岡の頬を撫でると、彼は切なそうな顔をしていた。「何でこんな時に・・」ふと彼のものを見ると、それはいつの間にか萎んでいた。「途中まではいいんですけど、なかなか元気にならないんです。」「そうか。なら俺が元気にしてやるよ。」歳三は吉岡の前に跪くと、彼のものを口に含んで舐めはじめた。「うう・・いいです。」口の中で再び吉岡のものが硬くなる感触がした歳三は、それを口から抜くと、それを秘所へと宛がい、ゆっくりと腰を下ろした。「ん・・」総司のものとは違い、硬さや太さはいまいちであったが、この際そんな事はどうでもいい。「温かい・・」「動いてもいいか?」歳三は吉岡に跨るかのような格好で、腰を激しく動かし始めた。 結合部からズチュ、ニュチュという淫猥な水音が響き始め、二人の体液がシーツを濡らす。「・・そろそろ頃合いだな。」歳三はそう呟くと、そっと吉岡の前から退いた。「もう、駄目だ!出る!」彼は歳三の髪を掴むと、彼女の口に爆発寸前の自分のものを押し込んだ。「ウェッ」いきなり喉奥を突かれ、歳三は吐きそうになったものの、グッとそれを堪えて吉岡を責め立てた。 するとその先端から大量の白濁液が放出され、歳三はその苦味があるものを全て飲んだ。「土方さん、彼とはどうするつもりなんですか?」情事の後、歳三はソファに座って煙草を燻(くゆ)らせていた。「総司とは別れる。もうガキの面倒を見るのは飽きた。」「じゃぁ僕との結婚、真剣に考えてくれるんですね?」「ああ。」歳三は吉岡を見た後、ゆっくりと紫煙を吐き出した。 昨夜の情事の余韻を引きずったまま歳三が出勤すると、同僚の椛田奈緒美が近づいて来た。「土方先生、その指輪高そうですね。誰からのプレゼントですか?」ストイックでクールな歳三の印象とは真逆の、ほんわかとした印象の奈緒美は、毎朝セットした髪をなびかせながら、歳三が嵌めているエメラルドの指輪を指した。「吉岡先生からです。昨夜彼にプロポーズされましてね。」「じゃぁ、結婚するんですか?」「まぁ、そうなりますね。」歳三が教室に入ると、既に彼女が吉岡からプロポーズされたことを知っているようで、生徒達は色々と彼女に質問をぶつけた。「先生、結婚式はどこでやるんですか?」「新婚旅行は?」「馬~鹿、てめぇらにそんな個人的な事を教えるかよ。さ、教科書82ページを開け。」 一時間目が終わり、体育の為に生徒達が更衣室へと出払うと、総司は板書を消している歳三の方へと近づいていった。「本当なんですか、先生?」「本当も何も、プロポーズされたんだよ。」「僕とは、遊びだったってわけですか?」「遊びだよ。それと、ボランティアかな。」「ボランティア、ですか?」総司がそう歳三に尋ねると、彼女は低い声で笑った後、こう言った。「そう、ボランティアだよ。性欲処理の。わかったらさっさと行け、目障りなんだよ。」総司は泣きそうになったが、それを堪えて教室から飛び出していった。「これでいいんだ、これで。あいつを傷つけない為には・・」にほんブログ村
2012年05月11日
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彼は、両親とともに食事をしていた。 相手は取引先の家族だろうか、総司の両親と同年代の夫婦と、華やかなドレスに身を包んだ少女が時折頬を染めながら彼を見つめていた。見合いだろうか―歳三がそう思いながら総司達のテーブルを見ていると、吉岡が怪訝そうな顔で彼女を見た。「どうなさったんですか、土方先生?」「いえ、何も。それよりもお話しというのは?」慌てて吉岡の方に向き直ると、彼は照れ臭そうに小さい箱を彼女の前に置いた。「これは?」「開けてみてください。」歳三が箱を開けると、そこにはエメラルドの指輪があった。「僕と、結婚してくださいませんか?」「急ですね。わたしは良家の出身ではないし、言葉遣いも悪いですよ。それに脛に傷を持っている身です。」「それでもいいんです。」吉岡は真剣な眼差しで歳三を見た。歳三は彼のプロポーズを受けた。「美味しかったです。こんな所に連れて来てくださってありがとう。」「そ、そうですか?」デザートを食べ終わった後、ジャズバンドがクラシックなナンバーを演奏し始め、客達の何人かが踊り始めた。「一緒に踊りましょうか?」「ええ。」吉岡はすっかり舞い上がっていて、歳三が演技をしていることに全く気づかなかった。「総ちゃん、今度葉山の別荘に京子さんをお連れしたら?」 一方、総司は両親とともに早瀬興産の会長夫妻とその一人娘・京子と食事をしていた。「すいません、最近部活や受験勉強で忙しくて。」「そうですの、それなら仕方ありませんわね。」京子はそう言って落胆したような表情を浮かべた。「すいませんね、うちの息子は奥手なものでして。」「いえいえ、わたしは総司君のような礼儀正しい子が好きですよ。最近の若い者はチャラチャラした輩ばかりでね。」両親の会話を聞きながら、総司が水を飲んでいると、視線の端に紫紺のドレスの裾が翻るさまが映った。(土方さん?)客達が踊っているダンスフロアに、歳三と吉岡の姿があった。いつも濃紺のパンツスーツと、ストライプの襟なしシャツを着た姿とは違い、艶やかな紫のマーメイドタイプのイヴニングドレスを纏った歳三は、仄かに妖艶な色気を醸し出していた。「あら、土方先生。」「おやまぁ、誰かと思えば沖田君の御両親ではないですか。」歳三が吉岡と踊っていると、房江が目敏く彼らに気づき、歳三達の方へと近づいてきた。「今日はどうしてこのような所に?」「大人同士、積もる話がありましてね。吉岡さん、もっとあなたと親交を深めたいわ。」歳三はそっと吉岡の腕に己のそれを絡ませた。「ではわたし達はこれで。」背後に総司の嫉妬に満ちた視線を感じるも、歳三は一度も彼の方を振り向こうとはしなかった。「沖田君には話しかけなかったね?」「まぁな。」部屋に入った歳三は、そう言って吉岡を見た。「残酷な人ですね、土方先生は。彼を諦める為に他の男と寝ようとするなんて。」「あいつにとって、俺の存在が消えた方がいいんだ。」「それが、あなたの本心?」「どうとでも捉えてくれると助かるぜ。」吉岡に微笑んだ歳三は、ドレスのチャックを下ろし、白い裸身を彼の前に晒した。にほんブログ村
2012年05月11日
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「あなた、さっき総ちゃんの部屋を掃除していたら、こんなものが!」 妻・房江が素っ頓狂な声を上げながら、書斎に入ってくるのを、沖田英治は溜息を吐いて彼女を見た。「どうしたんだ、そんな大声を出して?」彼は妻の手に未開封のコンドームが握られていることに気づいた。「総司は色気づく年頃だ。そんなものを持っているだけで騒ぐな。」「まぁ、あなた!あの子は沖田家の跡継ぎですのよ、変な虫がついたら困るのは沖田家なんですのよ!」呑気な夫の言葉に、房江は早口で捲くし立てた。「あいつは自分の道を見つけたんだ、房江。会社はわたしの代で終わりだ。」「そうですか、それがあなたのお考えなのね。でもわたくしは総ちゃんに沖田財閥を継がせますわ。そして然るべき家柄のお嬢様をお嫁に迎えますわ。」「結婚は本人の意思を尊重すべきだ。」「もうあなたとはお話しになりませんわ。失礼致します。」「勝手に入ってきたのはそっちだろうに・・」英治は溜息を吐いて、仕事を再開した。「土方歳三さんですね?」「あぁ、そうだが。」駅前の書店で雑誌を立ち読みしていると、歳三は突然背後から肩を叩かれた。振り向くと、そこには銀縁眼鏡を掛け、長身をスーツに包んだ男が立っていた。「わたくしは安西徹と申します。静かな場所でお話しいたしましょうか?」「わかった・・」 男・安西徹とともに駅前のカフェへと向かうと、そこには総司の父・英治が座っていた。「君が、土方歳三君かね?」「はい。」「単刀直入に聞く。あなたは息子と一体どのような関係なんだ?」「どのようなと言われましても・・彼とは、ただの教師と生徒の関係です。」「そうか。ではこれは?」英治がそう言って歳三にあるものを見せた。それは、安西翔が携帯で彼女に見せたものと同じ写真だった。「単刀直入に申し上げよう。総司と・・息子と別れてくれないか?」英治の頼みに、歳三は首を縦に振った。「土方様、総司様はいずれは沖田家を担う存在です。あなたとの不純な関係が世間に知られたら、総司様はもとより、奥様が深く傷つかれます。」「そうですか・・ではこれで失礼を。」 カフェから出て帰宅した歳三は、ソファに腰を下ろして溜息を吐いた。いつかこうなると、予見はしていた。総司は沖田財閥の御曹司で、自分は何もないただの庶民。教え子と肉体関係になり、欲望のままに情事を重ねた。もう総司との関係を終わりにしなくては―歳三はそう思いおもいながら眠りに就いた。 翌朝、歳三が身支度をしていると、携帯が鳴った。「もしもし?」『土方先生、今お時間宜しいですか?』「はい、構いませんが。」『今週の木曜、お時間空いてますか?』「ええ・・」 木曜日の夜、歳三は待ち合わせ場所の高級ホテルのロビーで相手を待っていた。「すいません、お待たせしてしまって。」「いいえ、今来たところなので。」そう言って彼女は、吉岡に微笑んだ。「少し寄る所がありますので、行きましょうか。」吉岡が歳三を連れて行ったのは、銀座にある高級ブティックだった。そこで彼は、紫のイヴニングドレスを購入した。「良くお似合いですね。わたしの見立て通りだ。」「あの・・」「さぁ、行きましょうか。」訳が判らぬまま、歳三は吉岡とともに車で伊豆へと向かった。「吉岡さん、今からどちらへ?」「あの船に乗るんですよ。」そう言って吉岡が指した先には、豪華客船・アルテミス号が港に停泊していた。「足元に気をつけて。」「は、はい・・」 船内にある高級フレンチレストランで前菜を待っていると、歳三はそこで総司の姿を見つけた。にほんブログ村
2012年05月11日
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「土方さん、僕です。」「総司か、入れ。」歳三が総司をマンションの部屋に招き入れると、彼は突然歳三を抱き締めた。「土方さん、愛してます。」「どうした、総司?何か変なもんでも食ったのか?」そう言って自分の顔を覗きこんだ歳三の寝間着の隙間から豊満な乳房が覗き、欲情に駆られた総司は彼女を床に押し倒した。「総司、やめろ!」「腰を高く上げてください。」「何をする気だ?」歳三は総司を怯える目で見ると、彼はズボンを下着ごと下ろした。「何って、セックスですよ。」「きょ、今日は駄目だ!」「どうして?もしかして生理ですか?」「ああ。口でするから許してくれ。」歳三はそう言うと、総司の下半身に顔を埋めた。「あぁっ!」歳三の舌が、程良く自分のものを刺激してくるのを感じて、総司は思わず喘いだ。彼女はそんな彼の反応を見てくすりと笑い、総司のものを激しく吸った。「出ちゃう・・」総司はそう言って呻くと、歳三の口の中で果てた。「総司、一体何しに来たんだ?」「ううん、別に。好きな人に会う理由なんて要ります?」「いいや。」歳三は総司を抱き締めると、彼の手を取りベッドへと誘った。「生理中じゃないんですか?」「そうだが・・お前、ゴム持ってるか?」「ええ。」二人はやがてもつれ合うようにしてベッドに身を沈ませた。「総司、もう駄目だ!」 肉同士がぶつかり合う音が部屋に反響し、歳三は腰を高く上げ、総司は彼女の乳房を揉みながら一心不乱に激しく腰を振った。「一緒にいきましょう。」「ああ、一緒に・・」歳三は絶頂を迎え、意識を手放した。「ねぇ土方さん、僕と結婚してくれますか?」「何言ってやがる。」「酷いなぁ。」総司は苦笑すると、歳三を抱き締めた。「ふぅん、そう言う事か・・」歳三と総司が幸せな時間を過ごしている頃、マンションの外では総司に声を掛けた少年が携帯片手にあるものを見ていた。それは、歳三の部屋に仕掛けた隠しカメラに映された二人の情事の映像だった。「土方先生、ちょっといいですか?」廊下を歩いていた歳三は、突然ある生徒に呼びとめられた。そこには、中等部の安西翔が立っていた。「なんだ、俺に何か用か?」「少し解らないところがあって、教えていただきたいんですが・・宜しいでしょうか?」「あぁ、構わねぇが。」安西とともに資料室へと入った歳三が彼に背を向けた途端、安西が彼女を抱き締めた。「何しやがる!」「へぇ、沖田先輩とはここでセックスするのに、僕とは嫌なんだ。」「てめぇ・・」安西は口端を上げて笑うと、歳三に携帯を見せた。「これ、何だかわかりますよね?」「お前ぇ・・」携帯には、放送室で歳三が総司のものを口に含んでいる写真が映っていた。「てめぇ、何者だ?」「僕には年の離れた兄がいましてね。沖田先輩の家で働いているんですよ、先輩の教育係として。」安西はそう言って、携帯を閉じた。にほんブログ村
2012年05月11日
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総司は乱暴に歳三のパンティをストッキングごと脱がすと、彼女の桃尻が露わになり、彼は我慢の限界を超えて歳三を貫いた。「い・・やぁ・・」ミチッミチッ、という音が歳三の中から聞こえ、粘膜が自分のものを拒むかのように締め付けて来る。「土方さん、力抜いてくださいよ・・」「うるせぇ・・」総司は歳三の腰を掴むと、強引に奥まで自分のものを貫いた。「ハァ・・全部、入りましたよ。」彼は歳三の耳元でそう囁くと、激しく腰を振り始めた。肉同士がぶつかり合う音が、防音を施した室内で反響し、それが歳三の羞恥を煽らせた。「やめろ、抜け・・抜いてくれぇ!」「嫌です、もう止まりません。土方さんだって、こうして欲しかったんでしょう?」「そんな事、思ってな・・」「嘘だ。嫌だったらこんなに濡れているわけないでしょう?先生のイヤラシイジュース、一杯溢れてますよ?」「そん・・言うなぁぁ!」総司の言葉責めに、歳三は頭を振った。 彼は眩暈がしそうなどの強い快感に襲われ、一層激しく腰を振った。「中に出しますよ、土方さん。」「やめろ、出すな!」「じゃぁ飲んでくれます?」「飲んでやるから、抜け!」「でももう駄目かも・・」総司はビクリと身体を震わせると、歳三の中に欲望を迸らせた。ドクドクと注ぎこまれてゆく彼の欲望を、歳三は感じた。「馬鹿野郎、出しやがったな!」「すいません、我慢できなくて。」総司は悪びれもせずにそう言うと、歳三の中から自分のものを引き抜いた。するとそこから、収まりきれなかった総司の白濁液がだらりと歳三の太腿を伝って垂れて来た。「てめ、ふざけんなよ!こんな事してタダで済むと・・」「思ってませんよ。だってこうしないと、先生僕を男として見てくれないじゃないですか?」歳三が総司を睨むと、普段茶目っ気のある彼の顔に、冷酷な表情が浮かんでいた。「総司・・?」「土方さんが悪いんですよ。僕をガキ扱いするから。」総司は傍にあったティッシュで歳三の下半身を拭うと、パンティとストッキングを穿かせた。「お前ぇのお袋さんにはうまく言っておくからな。」歳三が放送室から出ようとすると、総司が彼女の肩を掴んで強引に自分の方へと振り向かせた。「もう帰っちゃうんですか?」「ああ。これ以上俺に何しろっていうんだよ?」「口でしてくださいよ。」歳三は総司を睨み付けると、彼の下半身に顔を埋めて彼のものを舐めた。「また勃ってきちゃった・・」「畜生、クソガキが。」思わず憎まれ口を叩く歳三だったが、そんな彼女が総司にとっては愛おしく見えた。 自分のものに舌を這わせている歳三の姿を、総司は嬉しそうに見下ろしていた。(ガキだな、僕は。こんな先生の姿を見られる自分の姿に酔っているなんて・・)行為に夢中で、彼らは自分が何者かに動画を撮影されていることに全く気づかなかった。「沖田総司君、だよね?」「そうですけど、何か?」いつものように塾が終わり、総司が歳三のマンションへと向かおうとすると、突然彼は1人の少年に声を掛けられた。「エリート校の優等生が、こんな事していいのかなぁ?」彼はそう言うと、携帯を総司に見せた。「あんた、誰?」「誰って・・後輩の顔も忘れちゃったのかなぁ、沖田先輩?」少年は怒りを瞳に滾らせている総司を見て笑った。にほんブログ村
2012年05月11日
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「噂によれば、S大は試験用紙に名前を書くだけで合格するという、馬鹿が集まるような大学でしょう?そんな所を総ちゃんが受験したって聞いたら、ご近所の方がどう思われるか・・」房江はそう言って溜息を吐いた。「お母様、やめてよ!お母様の世間体や見栄の所為で僕が学習院でどんな思いをしたのか、忘れたの!?」総司はそう言って椅子から立ち上がると、教室から飛び出していった。「総ちゃん、待って!」「お母さん、わたしが行きます。」歳三は教室を出て、総司の後を追った。「総司、待て!」「放してよ!」総司を彼女が捕まえたのは、放送室の前だった。「とにかく、落ち着いて。」「お母様なんか大嫌い!」総司はそう言って涙を流した。 彼を落ち着かせる為に、放送室へと歳三は彼とともに入った。「お前ぇ、一体お袋さんと何があったんだ?」歳三が総司と向かい合うようにして椅子に腰を下ろすと、総司は溜息を吐いて髪を掻きむしった。「お母様は・・母はいつも自分の見栄の為に僕を犠牲にしてきた!僕が剣道を始めると、“ピアノがもう弾けなくなっちゃう”って言われたんだ。」それから彼は、母親の見栄の為にどれほど自分が我慢を強いられてきたのかを歳三に吐き出した。「母は僕の事よりも、沖田家の事が大事なんだ。さっきの母の態度を見て、よく解ったでしょう?」「総司・・」「どうして僕はあんな母親から生まれたんだろう?どうしてあんな家に生まれたんだろう?財閥でも何でもない普通の家に生まれていたら、きっと別の人生があったのにって・・」総司の頬を、涙が一筋伝った。「総司、もういいんだ。お前ぇはもう過去を引き摺らなくていい。前を向いて歩く事だけを考えろ。」歳三はそっと総司の涙を拭うと、彼を抱き締めた。その時総司の脳裡に、過去の記憶が浮かんできた。 病に侵され、剣を握れなくなった自分に自棄を起こし、歳三に辛く当たった時があった。その時も彼女は、何も言わずにただ抱き締めてくれた。「土方さん・・」総司は歳三から離れると、彼女の唇を塞いだ。「んんっ・・」彼の口付けを拒まず、歳三は舌を絡めた。「どうしよう・・身体が熱くなっちゃった。」歳三から離れると、総司は荒い息を吐いて彼女の首筋へと唇を落とした。「やめろ、こんな所で・・」「どうして?こんなに感じてる癖に。」口端を歪ませ、総司はブラウス越しに歳三の乳首を指先で弄った。「んぁぁ!」歳三の華奢な身体がビクリと震え、いつも冷たい光を宿した切れ長の黒い瞳が熱に潤んでいた。「はぁ、もう、やめろ・・」「嫌です。もう止まりません。」総司の手が、歳三のスラックスを下ろし、彼女の上半身を壁に押し付けた。「じっとしていてくださいね、土方さん。」歳三は身を捩って総司から逃げようとしたが、彼に押さえこまれて壁から一歩も動けなかった。 背後で総司がカチャカチャとベルトを外す音が聞こえた。「やめろ、ここは学校だぞ!」「ここは防音設備がいいから誰にも聞こえやしませんよ。あぁ、土方さんったら校内放送でイヤラシイ自分の声を聞かせてあげたいんですか、みんなに?」「馬鹿野郎・・」頬を赤く染める歳三が、可愛いと総司は思った。「暴れないでくださいね。」彼はそう言って、漲った股間を歳三の腰に押し付けた。にほんブログ村
2012年05月11日
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「碌なもんないけど、食ってくか?」「はい。」歳三の部屋は清潔感があって、少し殺風景だった。「あの、一人暮らしですか?」「ああ。両親はもう死んでて、年が離れた姉貴が居るけど、実家には全然帰ってねぇな。お前は?」「僕は両親と姉二人で住んでます。他にも執事やメイドが何人か。」「金持ちのお坊ちゃまは違うねぇ。で、今日はどうしてここに?」「塾の帰りに来たんです。あの人との事を聞きたくて。」歳三はキッチンで湯を沸かしながら、ソファに座る総司を見た。「あいつは吉岡っていって、この前食事に誘われたんだが、断ったんだ。そしたら今朝、また誘ってきやがって。」「で、断ったんですか?」「ああ。なんつーか、ああいう優柔不断なお坊ちゃんはタイプじゃねぇんだ。」「へぇ、そうなんだ。」総司はそう言うと、歳三を見た。「はい、どうぞ。」彼女は電子レンジから解凍したラザニアを総司の前に置いた。「いただきます。」総司がフォークでラザニアを一口食べると、頬が蕩けそうなほど美味かった。「どうだ?」「美味しいです。これ、土方さんが作ったんですか?」「まぁな。ネットでレシピ調べてちゃちゃっと作ったんだ。少し余分に作っちまったから、お前が来て助かったわ。」「そうですか。じゃぁ土方さんの手料理食べに来ようかな。」「おいおい、勘弁してくれ。今日だけにしてくれよ。」「解りましたよ。」土方と夕食を食べながら楽しく過ごしていると、バッグの中にいれていた携帯が鳴った。「すいません、失礼します。」総司はそう言うと、携帯を開いた。「もしもし、お母様?」『総ちゃん、今何処に居るの?お客様がいらっしゃるって言ったでしょう!』「ごめんお母様、今夜は友達の家に泊まるから。」『お友達って、どちらのお家なの?ママが迎えに行くから教えなさい!』ヒステリックな母親の声を聞きたくなくて、総司は携帯の電源を切った。「誰からだ?」「母からです。塾にはちゃんと行ったかって。」「部活や塾との両立って、大変だな。」「ええ。母は東大に行けっていうけれど、僕はS大の教育学部を受験するつもりですから。」「教育学部って、お前ぇ教師になりてぇのか?」「はい。」総司の言葉に、歳三は笑った。「やめとけ、教職だなんて。余り稼げねぇぞ。」「先生も母と同じ事、言うんですね・・」総司はそう言って、溜息を吐いた。 翌日、歳三は朝早く出勤して三者面談の為に生徒の家庭調査書と内申書を見ていた。「これか・・」総司の家庭調査書を見た歳三は、彼が日本で五指に入る沖田財閥の御曹司であることを初めて知った。(中学まで学習院だったのか。こりゃぁ何か揉めそうだな。)三者面談が始まり、歳三は総司と房江の二人と向き合う形で椅子に座った。「あなたが担任の土方さん?随分とお若い先生でいらっしゃいますのね?」「ええ。総司君の進路ですが・・彼は教育学部に進みたいとのことで・・」「あなた、元ヤンキーですって?この学校にあなたのような方がいらっしゃるだなんて・・教育委員会に抗議しなくては。」「お母様!」歳三に対して失礼な言葉を投げつけた房江に、総司は鋭い声を上げた。「まぁわたくしは昔はヤンキーでしたが、こうして更生致しました。それよりも、総司君についてですが・・」「先生、総ちゃんの受験は認めませんわ。この子は沖田財閥の跡取りなんですもの。」 房江と歳三の話は、平行線を辿り始めた。にほんブログ村
2012年05月11日
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―やっと手に入れた、この幸せを―「総司、もうやめっ・・」放課後の誰もいない資料室で、総司と歳三の荒い息だけが聞こえる。 総司は歳三を組み敷き、再び彼女の中で欲望を迸らせた。初めてのセックスは、想像以上に刺激的なものだった。一度その感覚を味わったら、もう病みつきになってしまった。「嫌ですよ、土方さんだって気持ちいいんでしょう?」「もうやめろ!」歳三はそう叫ぶなり、総司を突き飛ばした。「もうここへは来るな。」「土方さん、どうして・・」歳三に拒絶され、総司は深く傷ついた。「総ちゃん、お帰りなさい。」「ただいま。」母と顔を合わせずに、総司は自分の部屋へと入った。(土方さん、どうしてあんな事を?)自分に抱かれた時の歳三は、蕩けた表情で自分を見つめていた。その夜はなかなか寝付けずにいた。誰かの事が気になって仕方がないという気持ちは、初めての事だった。 それまでは、母の期待に応えたい一心で、自分の心を殺して生きてきた。だが今は、漸くその心を生き返らせることができた。(土方さん、今どうしているかな?)総司はそう思いながら、目を閉じた。 夢の中で、彼は学校でも家でもない場所に居た。『総司・・』褥に広がる彼女の黒髪が、蝋燭の灯りに照らされて艶やかな光を放った。総司はゆっくりと、女の身体に自身を埋めた。「坊ちゃま、朝食の時間でございます。」「あ・・」朝を迎えた総司がベッドから起きようとした時、下半身に違和感を抱いた。(嘘、あんな夢で・・)「坊ちゃま、いかがなされましたか?」「ご、ごめん!遅れるとお母様に言っておいて!」「かしこまりました。」執事が去った後、総司は大慌てで浴室へと走り、熱い湯でシャワーを浴びて制服に着替えた後、ダイニングへと向かった。「総ちゃん、今日は早く帰ってきなさいね。」「うん・・」総司は母の言葉に生返事をして、家を出た。「あ、土方さん・・」教室へと向かう途中、総司は歳三の姿を見かけたが、彼女は総司と目を合わせようとはしなかった。(やっぱり怒ってるんだ、昨日の事。)強引に彼女を抱いたのだから、憎まれて当然だ。もやもやとした気持ちを抱えたまま、総司が教室に入ろうとした時、背後から歳三の笑い声が聞こえた。 振り向くと、そこには男性教師と談笑している彼女の姿があった。自分には見せない笑顔を他の男に見せている歳三に、総司は胸が焦げるような嫉妬に駆られた。「土方さん。」「てめぇ、いたのか。」歳三の自宅マンションのエントランス前で座り込んで総司が彼女の帰りを待っていると、彼女は目を丸くして彼を見た。「こんなところじゃ寒いから、上がれよ。」「はい、お邪魔します。」歳三の部屋に上がるなり、総司は彼女を抱き締めた。「総司?」「土方さん、あの人と一体どういう関係なんですか?」「ああ、あいつとは何もねぇよ。」「本当に?」「本当だ。」歳三はそう言うと、総司に微笑んだ。「お前ぇはガキだな、総司。目が離せねぇよ。」彼女はふわりとした、柔らかな笑みを総司に向けた。にほんブログ村
2012年05月11日
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―もう、あなたを離したりしない― 教壇に立っているその人―土方歳三(としみ)は、はきはきとした口調で今日も英語の授業をしていた。総司は彼女の顔を見ながら、上の空で授業を受けていた。「おい沖田、何ぼーっとしてんだ!」「あ、すいません・・」総司がそう言うと、どっと教室に笑いが湧きおこった。 ここには、あそこと違って自分の事をいじめたり、からかったりする連中が居ない。中学生の時とは違い、総司はのびのびとした学校生活を送っていた。「総ちゃん、そろそろ留学を考えたら?」「留学なんて、考えてないよ。」いつも家族で囲む夕食時、房江の提案を総司は即却下した。「まぁ、どうしてなの?」「僕は学校の先生になるよ。もう決めたんだ。」総司の言葉に、房江は金切り声で叫んだ。「そんな勝手は許さないわよ、総ちゃん!あのエリート校から東大に行って、パパの会社を継いだ方が楽じゃない!」「嫌なものは嫌なんだ!」総司はそう言うと、椅子から立ち上がってダイニングから出て行った。寝室のベッドに寝転がりながら、彼は歳三の事を思った。 自分よりも一回りも年上の彼女は、いつも冷静沈着で滅多に声を荒げて怒ったりはしない。だが中学の頃の、事なかれ主義の教師と比べると、彼女は生徒の悩みに親身に答えてくれるし、生徒達も彼女の事を慕っている。 今まで将来の夢など何もなかった総司だったが、歳三のような生徒の心に寄り添える教師になりたいと、初めて彼はそんな夢を抱き始めていた。「土方先生・・」「おう、総司か。」授業中に配られた課題のプリントを資料室へと総司が運ぶと、そこには煙草を咥えた歳三が椅子に座っていた。「これ、プリントです。」「ありがとうよ。もう遅いし、帰ってもいいぜ。」「はい・・」そう言ったが、総司はまだ歳三と居たかった。「どうした?」「先生は、僕の事どう思ってます?」歳三の切れ長の黒い瞳が、虚を突かれたように見開かれた。「どうって・・俺はお前ぇのことを生徒としてしか見てねぇよ。」「そうですか。男としては見てくれないんですね。」「まだお前ぇは世間を知らねぇガキだろ。さっさと帰りな。」歳三の言葉に少しショックを受けながら、総司は資料室を後にした。「世間知らずのガキ、か・・」塾の帰りにいつも寄るファーストフード店で、総司はそう呟いて笑った。歳三から見れば、まだ自分は一人前の男として認められないのかもしれない。 数日後、総司は歳三と廊下ですれ違う時に一枚のメモを渡した。(来てくれるかな?)資料室で歳三を待っていると、ドアが軋んだ音がして歳三が入って来た。「なんだ、俺の事待ってたのか?」「ええ。土方さん、あの・・」「何だよ、言いたい事があるなら言えって・・」総司は歳三を抱き締めると、そのまま床に押し倒した。「てめぇ、何しやがる!」「好きです、付き合ってください。」総司はブラウス越しに歳三の豊満な乳房を揉むと、股間が漲ってくるのがわかった。「早くあなたの中に入りたい・・」「待て、ゴムは持ってるのか?」歳三はそう言って総司を見た。彼女の黒い瞳は、熱で潤んでいた。 彼女の中に入って果てた時、総司の欲望に火がついた。にほんブログ村
2012年05月11日
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―やっと会えた、僕の大切な人―「総ちゃん、支度は出来た?」「はい、お母様。」高級住宅街の一角に、沖田総司は両親と二人の姉とともに住んでいた。「入学式の時間には遅れないようにしなくちゃね。総ちゃん、さぁ行きましょうか?」「行ってらっしゃいませ、奥様、坊ちゃま。」母に連れられ、総司はリムジンに乗り込み、学習院初等部へと向かった。 皇族の方や旧華族の末裔など、おもに上流階級の子息・子女が通う名門校にも、財閥の御曹司である総司も入学する事になった。しかしそれは母・房江による一方的な押しつけであり、総司自身が望んだことではなかった。「総ちゃん、今日からしっかりお勉強して、立派な大人になるのよ。あなたはいずれ、沖田家を継ぐ人間なんだからね。」「はい、お母様。」房江の機嫌を損ねぬよう、総司はそう言って彼女に笑顔を見せた。 総司が学習院初等部に入学してから数日が経ち、彼はクラスメイトから陰湿な嫌がらせを受け始めた。それは単純に自分達と外見が違う彼の容姿をからかうものであったが、やがて教科書に落書きされたり、物を隠されたりといった陰湿なものへと変わっていった。「あ、ガイジンだ。」「ガイジンが来てる。」総司が教室に入ると、クラスの男子達がそう言って彼の事をはやし立てた。学校に居る間、総司はじっと自分の席から一歩も動かず、ただひたすらクラスメイト達の嫌がらせに耐えていた。 やがて初等部から中等部へと上がった総司であったが、状況は全く初等部の頃から変わらなかった。「沖田君、その髪は染めないのか?」「いえ・・」ある日の事、総司は地毛の銀髪の事を教師から咎められた。「総ちゃん、あなたは何も心配する事はありませんからね。ちゃんと先生にも伝えておきましたからね。」学校に出向いた房江が帰宅して自分に笑顔を見せると、総司は彼女を責めることができなくなった。 中学生になってからというもの、房江はこれまで以上に総司に完璧さを求めるようになっていた。「総ちゃん、先週の模試、成績が下がってるじゃないの。これじゃぁ東大には行けないわよ。」「申し訳ありません・・」「あなたも何とか言ってやってくださいな。」房江は夫・英治にそう話を振ったが、彼は家の事は妻に任せきりで、総司の成績について何も言わなかった。総司は毎日進学塾に通い、週末はピアノやヴァイオリンの稽古に追われ、身体を休める時間がなかった。学校でも、クラスメイト達から陰湿ないじめを受けても教師には相談できずに、ストレスを抱えたまま受験の年を迎えた。 そんな中、総司の心は限界を迎えた。いつものように授業を受けていた時、彼は急に息苦しくなって深く息を吐こうとしたが、ますます苦しくなるばかりで、気を失ってしまった。「総ちゃん、ママがついているからね。」入院先の病室で、総司は自分の手を握る房江を睨みつけた。「母さん、もう僕高等部には行かないよ。」「そう。あなたが決めたのなら、ママは反対しないわ。」退院後、総司は志望校を自分で決め受験勉強に励み、見事合格した。 誰も知り合いが居ない新しい学校で、総司は期待と不安に胸を膨らませながら高校の門をくぐった。教室に入って担任の教師を待っていると、1人の女性が教室に入って来た。「今日から皆さんの担任を務める土方歳三です。どうぞ宜しくお願い致します。」 教壇に立っている彼女の顔を見た瞬間、総司の全身に電流が走ったかのようなショックを受けた。にほんブログ村
2012年05月11日
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お味噌汁運んでいたら何故か足がもつれる→バランスを崩し出来たてのお味噌汁が右手に降り注ぐ→水と氷で冷やし、オロナイン塗ったものの、疼く←今ココ。どうしてこうなった・・あ、小説の更新には差し支えませんのでご安心を。
2012年05月03日
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