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青春の戸惑い (三十七ページ) アパートに戻ったヒロシは、ベットの上に大の字に体を投げ出した。心地よい布団の感触にまどろんでいるうちに、睡魔が襲ってきて目蓋を塞いでしまった。 どのくらい眠りの中に居ただろうか。ふと目を覚ますと、部屋は薄暗くしんと静まり返っている。 ヒロシの胸が高鳴った。電車の中で眠りこけ、目を覚ました時には下りる駅をゆっくりと電車が走り始めていた、あの驚きと戸惑いに慌てふためいた時ように。時計を見ると、短針が六時を過ぎたところを指している。しまった!寝過ごしてしまった。ヒロシはてっきりそう思った。だが、何処かが変だ。窓を開け通りを見ると、歩いている人から朝の活気は伝わって来ず、看板の明かりだけが煌々と映えている。 一瞬のうちに、様々な憶測が、脳の中に張り巡らされた神経を物凄いスピードで走り回っていた。 ヒロシはやっと気付いた。朝ではなく夕方であることに。夕子の部屋で寝付かれない夜を過ごし、アパートに帰って来て熟睡したために、朝が来たのだと勘違いしたのだ。ヒロシは辺りを見回し、フーと大きな溜息を漏らした。 ヒロシが店に着いた時には、既に時計の針は七時に近づこうとしていた。ヒロシは急いでボーイ服に着替えると、ホールに出て行った。あの事件以来、学生達は二度と店に来ることはなかった。 スモッグに覆われた鉛色の空は、道行く人に不安な重苦しさを与えている。押し黙った人の群れが、時折頬を叩く冷たい風に肩を窄め、他人に目をくれることもなく歩いている。 ヒロシが憲二たちボーイ仲間と掃除を済ませ、ボックスで休んでいた時だ。「店の入り口の所で、ヒロシに用があると言って男が待っている」 と、ボーイ仲間の浩司がヒロシを呼びにきた。 誰だろうとエレベーターで下りていくと、マユミにお金を貸した男が、店の入り口の壁に寄りかかり立っていた。「マユミのことで話しがあるんだ。乗れよ。」 男は、傍に止めてあった車の後部座席にヒロシを押し込んだ。ヒロシが乗ると、直ぐに両側から二人の男が乗り込んできた。手馴れた動作だ。 ヒロシを乗せた車は、直ぐにタイヤを軋ませ走り出した。「お前よ、マユミが金払わねえ時は責任取ると言ったな。マユミが金持ってこねえんだよ」 マユミにお金を貸した男が、助手席から振り向き、ヒロシに言った。 男の声が合図だったのか、左側に座っていた男の肘がヒロシの顔面に飛んできた。ヒロシは立て続けに肘で殴られ、鼻から血がポタポタと足元のシートに零れ落ちた。 ヒロシが、座席の下に落ちていた薄汚れたタオルで流れ出た血を拭き取っていると、その落ち着いた態度が気に喰わなかったのか、今度は右側の男がヒロシの横腹に肘鉄を食らわしてきた。ヒロシは思わず息が止まりそうになり、ウッと声を上げた。 ヒロシは両側から男達にしっかりと挟み込まれ、身動き一つ出来る状態ではなかった。 続く
2007.06.02
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