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5月28日、武蔵野市民文化会館小ホール。北欧の民族音楽に根ざした音楽の感動にたっぷりひたった夜でした。プログラムの前半は、ヨハンナ・ユホラさんというフィンランドの新進女性アコーディオン奏者が、ギタリストと組んでのデュオの演奏。ユホラさんは国際アストル・ピアソラコンクールで優勝経験があるというだけあって、リズムは切れが良く、ときにピアソラのティストもちりばめられた洒落た自作曲などを披露してくれました。センスの良い合いの手を入れるギタリストとの息もぴったりでした。アンコールには、出来立てでまだ題名がないという曲を弾いてくれました。そしてコンサートの後半は、今夜のメインで、ノルディック・トゥリーという、フィドル2丁とハルモニウム1台による3人組でした。この3人組、ふたりのフィンランド人と、ひとりのスウェーデン人による新結成のバンドということです。ケルト音楽的な味わいの古いメロディーの歌い回しは、ほのかな哀愁が込められて美しく、それだけでも涙がでるほど感動してしまうのに、さらにそこに、スウィング感覚に富んだ新しい息吹が即興的にどんどんと絡んでくる躍動感が重なります。じーんという感動と、るんるんと体が弾んでくる楽しさとの同時攻撃に、完全にやられてしまいました。この人達、ただ者ではない。解説によるとフィンランドには、JPPというフインランドを代表する伝統音楽バンドがあるのだそうですが、フィンランド人のふたりは、そのJPPの創始メンバーとして長く活躍しているということでした。しかしさらに凄かったのが、スウェーデンのフィドル奏者ハンス・ケンネマルクさんという人でした。この人、いかつい顔に巨体の持ち主で、この人が持つフィドルはおもちゃのように小さく見えました。そして演歌にも通ずるようなこぶしを粘って歌うかと思うと、乗りの良いリズムで足をふみならしたり、ともかくその小さなフィドルと大きな体とが完全に一体化した動きで、体全体がまさに音楽している圧倒的な集中力と存在感でした。すごい聴き応え、見応えで、もうこの人からずっと目が離せないでいるうちに、休憩なしの70分がほんとうにあっという間に終わってしまいました。フィンランドやスウェーデンの伝統音楽というものは今回初めて聴きましたが、いやいや世界にはいろいろな音楽があり、いろいろな音楽家が、精魂こめて自分たちのディープな音楽世界を奏でているんですね。ああ素晴らしき音楽なり。
2009.05.28
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5月15日、新国立劇場中劇場で、モンテヴェルディのオペラ「ポッペアの戴冠」をみてきました。新国立劇場とバッハ・コレギウム・ジャパンの共同の主催で、鈴木雅明指揮、器楽陣はバッハ・コレギウム・ジャパン、歌手は森麻季、波多野睦美、外人歌手など、豪華メンバーによる上演でした。2回公演の初日でした。コンサートオペラ形式ということでしたが、オケはピットで演奏し、プロンプターもいて、歌手はみな暗譜です。暗く非常にシンプルな舞台に、照明で浮かび上がる歌手が、演技はほとんどせず、その場に立って歌を歌うという展開で、コンサート形式とセミ・ステージ形式の中間的といえる上演でした。物語は、古代ローマが舞台。美貌を誇るポッペア(森麻季、ソプラノ)が、ローマ皇帝ネローネ(レイチェル・ニコルズ、ソプラノ)を籠絡して皇后の座につこうと目論みます。皇帝ネローネはポッペアに骨抜けにされ、それを諫めた哲学者セネカは、ネローネから自殺を命じられ、それに従います。一方で皇后オッターヴィア(波多野睦美、メゾソプラノ)は、ポッペアを阻止すべく、ポッペアの夫オットーネ(ダミアン・ギヨン、カウンター・テナー)にポッペア殺しを命じます。オットーネは、やむなくそれを実行しようとしますが、愛の神アモーレにはばまれ、オットーネとその新たな恋人ドゥルジッラ、それにオッターヴィアはローマから追放され、ポッペアはネローネと結婚し皇后として戴冠する、という話。倫理や道徳が完全にこけにされる話で、これでいいの?と思うようなストーリーです。オットーネ役のギヨンさんが、神秘的な声で、悲しみと葛藤を内に秘めたオットーネの気持ちを切々と表現していたのがともかく素晴らしかったです。オッターヴィア役の波多野さんも、さすがの貫禄充分の歌唱でした。ポッペア役の森さんの歌はやや単調な感がありましたが、さすがに美声。ネローネ役のニコルズさんは、最初はちょっと調子がでない様子でしたが、尻上がりに声量、音程とも調子がでてきて、第三幕では、皇帝役にふさわしい輝きがあり、森さんとのソプラノ二重唱が聴き応えがありました。他では、ドゥルジッラ役の松井亜希さんも素敵でしたし、あと野々下由香里さんが急病の方の代役として、わずかですが出演するという、豪華な助っ人もありました。器楽陣も凄かったです。ヴィオリンは若松夏美さんと高田あずみさんの二人だけ、チェロが鈴木秀美さん、ヴィオラ・ダ・ガンバが福沢宏さん、チェンバロがいつもの鈴木優人さんのほか、もうひとり大塚直哉さんもいるなど、なんとも贅沢な合計12人だけのスーパー奏者集団で、精妙なアンサンブルを聴かせてくれました。特に今村泰典さんのリュートが、ところどころにずんと響く低音をきかせ、非常に効果的でした。初めて聴く曲でしたが、モンテヴェルディの音楽はどこをとっても本当に素晴らしいです。途中、庭で眠るポッペアを見守る乳母アルナルタ(上杉清仁、カウンター・テナー)のアリアが、聴いたことあるもので、ドーン・アップショーのアルバム「ホワイト・ムーン」の3曲目に入っている大好きな曲だったので、あっ、このオペラの中のアリアだったのか、と知り、うれしく聴きました。ユニークだったのが字幕でした。通常のように舞台両サイドの板状のパネルに1行ごとに表示されるのではなく、舞台の背景全体(黒幕のようなもの)を自由に使って、イタリア語の歌詞ひとつひとつに合わせて、日本語の言葉がぱっ、ぱっ、とリアルタイムで、歌手が歌うそばの背景に、表示されるものでした。こういうやり方を見たのは初めてです。フラッシュ方式というそうです。1行ごとではなくて単語ごとに表示され、言葉の意味が即時的につかめるので、言葉と音楽の関係が当意即妙でよくわかる、秀逸な方法でした。しかも字体の大きさや、並ぶ角度や、ときにはフォーカスなども微妙に調節して、それらも含めて自由にメッセージ内容を表現する斬新なもので、見事でした。もし通常のステージ形式だと、舞台装置の背景に日本語の言葉が並んで舞台装置の雰囲気を損なってしまうので、この方式は使えないでしょうから、コンサート形式の特性をうまく生かした、すぐれた方法でした。(初日のためか、途中ごく短時間、字幕が表示されないという小さなトラブルはありましたが、今後このような方式が普及してほしいです。)ここまで完成度が高い上演に接すると、今度はコンサート形式でなくてステージでの上演で見てみたいという欲がでてきます。モンテヴェルディのオペラは、2007年の北とぴあ音楽祭で「オルフェオ」を見たのが初めてでした。音楽がすばらしいことに加え、能の要素を適度に取り入れた気品ある格調高いステージで、圧巻でした。バロック・オペラにどんどんはまりそうです。
2009.05.17
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ショスタコーヴィチのオペラ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」を聴きました。5月1日、新国立劇場。新制作4回公演の初日でした。指揮する予定だった若杉弘が体調不良のため、代わってシンケヴィチというロシアの指揮者による指揮でした。僕はオペラ初心者で、細かなことはわかりません。新国立劇場も、最近足を運び始めたところです。それにしても新国立劇場の響きは実にオペラ向きに工夫され作られていると思います。デッドすぎず、響きすぎず、歌とオケがほどよいバランスで聴け、すばらしいです。さて「ムツェンスク郡のマクベス夫人」。この曲は、大分以前にチョンミュンフンのCDを買いましたが、ケチって輸入盤を買ってしまったため言葉の意味がさっぱりわからず、ちょっと聴いただけでお蔵入りしていたので、実質聴くのは今日が初めてでした。とんがった難解な音楽だったらやだなー、と心配しながら聴きはじめました。物語は集団暴行場面、性交渉の場面、殺人の場面と、淫乱・陰惨な場面が続きますが、音楽は思ったよりわかりやすく、劇的な展開にひきこまれ、全4幕、30分の休憩をいれて3時間半、充分に楽しめました。主人公カテリーナ役の、ステファニー・フリーデさん(ソプラノ)が、ほとんどでずっぱりでの大活躍、見事でした。なにしろこちらはオペラ入門したてですので、演出がどうのとか、演奏がどうかとかは良くわかりません。ともかくショスタコーヴィチの音楽に圧倒されました。劇的な迫力あり、絶妙な心理描写あり、皮肉っぽい浅薄なところあり、おもしろいです。とりわけ凄かったのが金管バンダの大活躍でした。2階左袖の客席に陣取ったバンダ軍団が、ときどき場所を変え、舞台上にも舞台衣装をまとって登場し、音響的に変化をつけたりして楽しめましたが、なんといってもところどころで鋭く強烈な叫びをあげ、登場人物の不安、絶望などを痛烈に表現するのにぞくぞくさせられました。特に最後近く、カテリーナが恋人に裏切られ絶望したところの叫びは、スポットライトで白く浮き上がった頭を抱える主人公の姿とマッチして、このうえないインパクトがありました。このオペラ、プラウダに批判されるまで、かなり人気が高く、繰り返し上演されていたということです。それもいかにも、と納得しました。ショスタコはエンターティナーとしての才能もすごいな、と思いました。もしプラウダの批判がなかったら、ショスタコはきっと、おもしろいオペラをいっぱい書いて、人気オペラ作家になっていたことだろう、と思います。芸術監督 若杉弘、指揮 ミハイル・シンケヴィチ、演出 リチャード・ジョーンズ、ボリス役 ワレリー・アレクセイエフ、ジノーヴィー役 内山信吾、カテリーナ役 ステファニー・フリーデ、セルゲイ役 ヴィクトール・ルトシュク、管弦楽 東京交響楽団。
2009.05.04
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