フォーカスチェンジ・フラッシュ

フォーカスチェンジ・フラッシュ

2012.03.12
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そんな直感。


脚本のヒントは、
どこから飛びこんで
くるかわかりません。

今回もそうでした。
(※2008年当時)


私が脚本を担当している、
神奈川区民ミュージカルの、
2008年度の作品の題材は、
横浜の老舗料亭「田中家」さん。
http://www.tanakaya1863.co.jp/groop.htm

創業145年。

坂本龍馬の妻・おりょうさんが、
龍馬の死後、3年ほど、
仲居として身を寄せていたと
言われているお店です。


その老舗料亭をたずねるべく、
横浜駅から歩きました。

駅前の喧騒を抜けて、数分。

角を曲がると、長い、
急な階段が見えてきます。

のぼりきり、振り向くと、
ビル群が、ぎっしりと
街を埋め尽くしていました。


それなのに、なぜか、
私の目には、そこに、
一瞬、ひろびろとした
海がひろがったのです。

えっ…?

自分の目をうたがいました。


本当に、ほんの一瞬でした。

次の瞬間には、やはり、
そこには、無数のビルが
立ち並んでいるばかり。


「この階段から下は、昔は
 すべて、海だったんですよ」

あとで、仲居さんが、
説明してくれました。

ああ…と、
納得がいきました。


東海道とは、
東の海の道と書きます。

文字どおり、それは、
海のきわにあったのです。


幕末、明治。開港以来、
埋め立てにつぐ埋め立てで、
もはや、坂の上からさえ、
海は見えなくなって
しまっていました。

でも、そこにたしかに、
何かがあるのを感じずには
いられませんでした。

だって、
私が立っていたのは、
まさに、その、
かつての海のきわ
だったのですから!


どれほどのときが経っても、
そこに生きたひとの思いは、
消えることは
ないのかもしれません。

その見えないエネルギーを
ひたひたと感じとりながら、
私は、つぶやいていました。

「見おろせば、海」

そして、それがそのまま、
劇のタイトルになりました。


また、取材の際に聴いたお話。

田中家のおかみさんは、
子どもだったころ、
おじいさんに、何度も
こう言われたそうです。

「この店は、
 つぶれないんだよ」


そのことばを聴いたときも、
なぜか、背中が、ぞくぞく
するのを感じました。

いやな感じではありません。

そこに、何か真実がある、
という直感です。


のちに知り合いになった、
風水師のかたが、
この店をおとずれて、
言いました。

「守られていますね」


何に…?

問いかけた瞬間、
私のイメージのなかに、
天を駆ける龍のすがたが
浮かび上がりました。

龍…?


ふたたび、背中がぞくぞく
するのを感じました。

何かおおきな存在、
おおきな流れが、ここにある。

個人や、ひとつの店、
ひとつの街を超えた何かが…。


そんな直感。

それが、この作品を
つらぬく主軸になりました。


脚本を書く作業は、
彫刻をつくる作業と
似ているかもしれません。

何もないひとつの岩から、
うつくしい仏のすがたを
掘り出していくように。


あるいは、それは、
作曲の仕事とも
似ているかもしれません。

五線譜の上におどる
音符が、やがて、
荘厳なメロディーを
かもしだしていくように。


いくつもの手がかりを
つなぎあわせながら、

そこに、人物が生まれ、
人物と人物の出会いが生まれ、
それぞれのこころが動き、
変化が生まれる。

その、一人ひとりの
こころの変化が、やがて、
おおきな流れをつむぎだす。


その流れに乗って、
ときには、波に翻弄され、
ときには、暗礁に
乗り上げたりしながら、
たどりつくべきゴールをめざす。

それが、脚本という仕事。


いいえ。

そこまできて、実は、
まだ終わりではありません。

ようやく、
スタート地点に立つのです。

そこから、演じ手によって、
いのちを吹きこまれて
はじめて、脚本は生きるのです。


その長い道のりを、
今回も歩いてきました。

そして、まもなく、
本当のゴールがやってきます。

本番という名のゴールが。


幕が下り、観客のかたがたの
拍手をいただくとき、
それまでの苦労も
何もかも、すべてが
消え去ってしまいます。

行き詰まり、もう二度と
書くものかと思った
気持ちさえ、一瞬にして
消し飛んでしまいます。


そして、
ただただ、やすらかな
気持ちに包まれるのです。

すべてが浄化されていく
ような、やすらかさに。


だからこそ、こうして、
毎回、書きつづけている
のだろうと思います。

これからも、
書くのだろうと思います。

この愚直な歩みを、
見守っていただけたら、
うれしいです。


--かめおかゆみこ発行
   「今日のフォーカスチェンジ」
   第1735号(2008年7月30日発行)より


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Last updated  2012.03.12 19:17:12
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Comments

ぱんちゃん@ Re:達人の出番です!(12/07) 心配り。心痛い!なかなかできない。心配…
ぱんちゃん@ Re:こころが動かないときは(12/07) 三秒でもよい。二日坊主の私はいつも片身…
黒澤まちこ@ Re:「あなたが採用決定者です」(10/04) そうなんです。みんなが幸せなら私は幸せ…
くろさわまちこ@ Re:からだの問題だけではありません。(10/04) 上手く言えませんが、そんな感じ。私のな…
みゆ@ Re:「今にして思えば…」 本当にそうですよね 過去をふりかえるより…

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