気まぐれ屋。

気まぐれ屋。

2008.03.12
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カテゴリ: ヒトコトモノ
桜の開花が待ち遠しい、暖かで陽射しのまぶしい時期だった。

事前打ち合わせどおりに持ち込み荷物と提出書類一式を手に、そして胸にはかなりの緊張感を抱え、強張った表情で受け付けを済ませ、ナースステーションに向かう。
幸せの詰まったおなかを膨らませた私より10近く若い人達の部屋に、ポーンと入れられた日のあの心細さと何かちょっと場を間違ってしまってるよな居心地の悪さ。
これが彼女達と同じ目的の入院だったら、どんなに晴れやかな日々になっただろう。
そんな複雑な想いを抱きながらも、荷物を置いて家族と離れたとたん、次々と“その時”への準備が始まり、1日がものすごいスピードで過ぎた。
「熟睡できるように」と手渡されて呑んだ睡眠薬も、ほとんど効かず朝を迎える。

6年前の今日。私は私自身と必死で闘っていた。

20代の終わりに既に発症していたにも関わらず、仕事の多忙さから身体の緊急事態に気付かずにやり過ごしてしまい、婦人病を派手に悪化させてしまった結果。
この手術の2年ぐらい前、深夜の突然の激痛に見舞われ救急病院のお世話になるまでは、どんな体調不良も気合と根性で乗り切ってきたのに、投薬治療でごまかすだけではもう、どうすることもできない限界まで達していたのだ。


数時間後。
下腹部に熱い重い違和感を持ちながら麻酔から目覚めたその時から、私の再生の日が始まる。
身体じゅうに管を通され、痛みで思うように寝返りも打てない歯痒さを越えて徐々に
水が飲める、ご飯が喉を通る、トイレに行ける、ひとりで歩ける、シャワーを浴びれる……
そんな人として今まで“当たり前”すぎて気にもしなかったことを、まるで赤子のようにもう一度自分の力でイチからなぞる毎日は、正直苛立ちばかりが先に立った(ダンナによく当り散らしたもんだ(汗)けれど、ひとつ、またひとつ…と思うように自由になっていく身体を実感する度に、いちいち“感動”して“感謝”している自分がいた。
「ああ私は、“生まれ変わった”んだ」と、しみじみ思う毎日だった。

ただの婦人病の開腹手術くらいで大袈裟ぶるなと言われるかもしれないが、初めてのあの経験を通して気付かされたり私自身が得たものは、言葉じゃ表せないくらい意外と大きい。
こういう温かい持て成しのできる病院でホントよかった…
このしおりは、入院生活にもだいぶ慣れ、もうすぐ退院できるだろう…というところまで辿り着いた日の、確か“お昼ごはん”のトレイに添えられていたもの。ひと口サイズのこしあんの桜餅…ホントは断然つぶあん派だけど、あの日はやけに美味しかったなぁ。
病院の消毒臭に包まれて、甘い香りと味にひどく飢えていた私には、何よりご馳走で。
だから6年経った今でもあの桜餅の形も大きさも香りも味も、全部まるごと鮮明に覚えてる。


退院の日。
ダンナとお義母さんに脇を抱えられタクシーに乗り込み、家までわずか5分足らずの距離を走る間、あの公園から続く満開の桃色の記憶も、ずっとこの目に焼きついている。

今はもう思い出したように疼くこともなく、最近やっと目立たなくなってきた手術痕だが。
春の陽射しと桜の花を感じるこの時期になると、あの時の様々な記憶が蘇る。
日々の小さなこと、無意味だと思えてしまうこと、当たり前なこと……


★  ★  ★  ★  ★
今日のひとこと。「最近スズメが遊びに来ます。」





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最終更新日  2008.03.12 17:47:25
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