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カテゴリ: 本作り
今日は順調に進みました。

ここまでが第1章になるのでしょうか。

次は練習初日までの準備のところを直しています。
順番にやっていくのがやりやすいみたいです。

《決意》
数日間考えつづけた。それでも音楽関係の知り合いに声を掛けることはしなかった。「あなたはどうなの」と言われることもつらかった。その人はどう思うだろう。自分にできないことをたらい回しにされた気がするのではないだろうか。「あなたが手伝ってくれたらね」と言われたらどうしよう。手伝う内容が自分に向いていないことだったらやりたくないのだ。実にわがままな自分が頭をもたげる。私はどうしようもなくわがままで嫌な人間だ。電話をかける勇気すらないのだ。

もう断ろうと思った。断ろうと思うと今度は胸が苦しくなった。なぜこんなに後を引くのだろう。何が私を支配してしまったのだろう。すべてのマイナス面をあげ尽くしてしまうと、正反対の意見が心の中にふつふつと沸いてくるのだ。そう、それは今まで楽しく生きてきた原動力ともいえる、私の中のプラス思考クン。今までの人生を共に歩いてきた大親友。あれほどマイナスの材料しかなかった私の中に、彼はどこをどう探すのか、プラスの材料を見つけてきて私の鼻先につきつけるのだ。

「君はボイス・トレーニングができるじゃないか。これは大学の合唱団で身につけたよね。あの子の発声にきっと役に立つよ。それに君はカラオケで若い子が好きな歌をたくさん歌えるじゃないか。若い子が相手だよ。これは絶対に武器になる。それにカラオケだって持っている。何かの時に役に立つさ」

「今、君がハマっている趣味があるね。オリジナル曲作りさ。もし人数が増えてさ、歌う曲に困ったらオリジナルを作ればいいよ。君が作った歌が世に出るんだよ。そうなったら君は作詞家デビューだね。そうだよ、たくさんの趣味を活かす絶好のチャンスだよ。音楽だってパソコンだって、生きた使い方がこれからできるじゃないか」
「一番大事なこと。君は障害児の指導について知識があるよね。誰よりも適しているのかもしれないよ。だって前から君は出会いを待っていたんじゃないかね」
「ついでに言うとね、若くない。おっと失礼。でもそんなに年じゃない。これもプラスの要因だよ。今までの経験やネットワークを十分に活用できる年代だってこと。ベストエイジさ」
「音楽の肩書きがないことを気にしているね。でも君がプロでなくてよかったよ。プロだったら失敗を恐れて余計に悩んだかもしれないよ。君はそれだけでも気が楽だよ。肩の力を抜いてやればいいさ」
「それにさ、音楽に自信がないってのも謙虚でいいよ。君にはカラオケや歌を作ることを通して知り合った人たちがいるじゃないか。その人たちがきっと力を貸してくれるはずさ。君は今まで、その人たちといい関係を結んできたはずだよ」

プラスの材料がこうも並ぶと、やってみたい気持ちが起こってきた。頑なに拒んでいたものが自然にほどけていくような感覚。自信というのは、自分を信じること。だから自分をほめることが自信につながる。プラス思考クンは私をここまで褒めちぎってくれた。

だが、私をいくらおだてあげても、とても一人で全部を抱え込むなんてできないことは確かだ。だったら、障害児について少しでも知識のある私が引き受けて、できない部分を誰かにサポートしてもらう形が一番いいのではないかと思うようになった。だが、それでも即答はできない。母娘の切実な思いを考えたら、いったん引き受ければ、後戻りはできないからだ。

何度も考えを洗いなおしては、組みなおした。「できる」と思った。だが最後に一つだけどうしても引っかかるものがあった。それは「売名行為」という言葉。私はそれを今までに面と向かって言われたことなどない。でもなぜかそれを感じてしまう時がある。学習塾をしている関係で、営利目的と思われるのではないかという不安が、時々私の言動を狭めてきた。やりたいこと、言いたいことを言う前につい周囲を見てしまう、そんな私といつも向き合ってきた。

それは誰のせいでもない。自分のやましさの裏返し。どこかやましいところがあるから、そう感じてしまうのだ。人は霞を食べて生きているのではない。神様仏様でないかぎり、生きて生活している以上、どうしてもつきまとうやましさ。実際は、一生懸命やれば誰もそんなことを言う人はいない。自分のやってきた内容ややり方によって売名行為かどうかは判断される。とにかく全身全霊で誠意を持って当たればいいのだ。やましさなんて消えていくだろう。やましさは自分の中に自分で作った敵なのだから。こう考えると、警戒していた最後の砦が音もなく崩れて、残骸さえ消えていった。それはものの見事に。

さらに数日後、意を決して堂領さんに了解の電話を入れた。その夜、朝倉さんから電話があった。おそるおそるかけてこられたのだろう、緊張で声が震えていた。「本当にいいのですか」「ありがとうございます」を何度も繰り返していた。こちらが胸が詰まるほどの感動の声、電話に向かって頭を下げている姿が私には見えた。こんな自己中心的な考えで決心をしたいきさつを、この人は知る由もない。ただただ、障害のあるわが子に歌を教えてくれるというボランティア精神にあふれた電話の相手に向かって感謝しているのだ。この人の想像とは全く別の人間だと心で叫びながら、それでも確かにこの時、サポートする側に立っている自分を感じた。

しかし、後でこれは大きな間違いであったことに気づかされる。この母娘との出会いは、私に大きな恵を与えてくれることになったのだ。





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最終更新日  2006年01月22日 19時40分56秒
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