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ある休日、たまたま立ち寄った都内某所で古本市が開かれていた。少し時間があったので、ちょこっとのぞき、結局、数日後の小旅行に持っていく岩波新書1冊を買った。2008年刊行の『ジャガイモのきた道』(山本紀夫)である。
◎世界で唯一、穀物に頼らなかったアンデス文明
ジャガイモがアンデス文明を開化させ、かつ「ジャガイモ飢饉」として知られる世界史的大惨害を知っていたので、興味を引かれ、旅の折々に読んだ。定価740円を250円で買ったが、コストパーフォーマンスの良さは抜群だった。なんで刊行時に買わなかったんだろう、と不思議に思ったほどだった。
ジャガイモは、世界でも唯一の古代文明を開化させた非穀物作物である。同じ新大陸でも、テオテアカンやアステカなどメキシコ中央高原の文明や低地メキシコのマヤ文明は、トウモロコシ栽培で巨大な生産力を生み、余剰穀物が分業化と階層分化を促し、古代文明を花開かせた。旧世界のナイル、ユーフラテス、インダス、黄河の各文明も、作物こそ違え、文明を発展させた食糧が穀物であったことは変わりはない。
◎アンデスではトウモロコシは主食にならなかった
文明とまでは行かないが(もうちょっと頑張って欲しかった)僕が1月に行ったエチオピアも、古代文化を発展させたのは、テフ、ソルガムの雑穀類である。
それに対して、アンデス文明だけはジャガイモ文明なのだ。トウモロコシは、メキシコから後にアンデス地方にもたらされ、盛んに栽培されるが、トウモロコシが主食になることはなく、主に儀礼用の酒、チチャの醸造に用いられたのである。
なぜアンデスだけが特異な文明を発展させたか――それは、4年前にペルーの高原を訪れて得心した。アンデス文明は、タワンティンスーユ文明(インカ文明)に代表されるように標高3000メートル級の山岳域に発展した。世界遺産のマチュピチュで実際に確認したように、標高差の大きい急傾斜地に段々畑を造成する( 写真
=下は、マチュピチュ遺跡よりさらに標高の高いインティプンクにある急傾斜地の段々畑)。


◎アンデスの山岳に古代文明を開花させた「チューニョ」の発明
肥沃な表土は、どうしても流れてしまう。冬には零下にもなる気候の厳しい礫だらけの急傾斜地に、ジャガイモ栽培はうってつけなのである。トウモロコシでは、多くの人口を養えないのだ。
アンデス文明を除いて、穀物と違ってイモ類が文明を育めなかったのは、貯蔵しにくく、運搬しにくいからだ。イモは、周知のように水分が多いから、傷みやすいし、かつ重い。
しかしアンデスの地では、収穫したイモを幾晩も時には氷点下になる夜間の野外に放置し、水分を抜く技術が編み出された。日本の「凍り豆腐」と同じである。
こうして作られた保存性が良く、しかもえぐみの毒抜きされたのが、「チューニョ」で( 写真
)、水分が抜けているから運びやすい。

チューニョの発明で、ジャガイモは「穀物化」した。したがって余剰食糧が生まれ、文明発展の基礎が築かれたのである。
◎ヨーロッパに渡ったジャガイモ
そのジャガイモが、スペイン人征服者の手で、ヨーロッパに持ち帰られた時は、観賞用で、あまり食用として重視されなかった。
それが、主に17世紀から18世紀に、フランス、次いでドイツに伝えられ、ヨーロッパ人の食卓に入り込む。生産性が高く、しかも栄養価も良い。
これが、北西端のアイルランドに伝わると、従来、細々と栽培されていたライ麦を駆逐し、ほとんど全土でジャガイモ栽培が行われるようになる。
(この項、続く)
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