うたのおけいこ 短歌の領分

うたのおけいこ 短歌の領分

2010.02.24
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早春賦 そうしゅんふ


谷の うぐひす  歌は思へど
時にあらずと 声を立てず
時にあらずと 声を立てず

氷解け去り 葦は つの ぐむ
さては時ぞと 思ふあやにく
今日もきのふも 雪の空
今日もきのふも 雪の空

春と聞かねば 知らでありしを
聞けば かるる 胸の思ひを
いかにせよとの この頃か
いかにせよとの この頃か


作曲:中田章
「新作唱歌」(大正2年・1913刊)所収。


春が訪れたら「胸の思い」を打ち明けようと思っているのだが、気後れしたり雪が降り続いたりして、なかなかその機会は訪れない。

うかうかうじうじしているうちに春が来てしまったので、ああどうしようかと今さら気が急(せ)くばかりの今日この頃である。

今日の目から見れば、やきもきするほどじれったくて純情な、昔の人の古風な恋心である。

この歌詞の、自分の中だけで煮詰まっているシチュエーションは、見ようによってはユーモラスですらあるが、こういった乙女チックな心の揺れ動きは、一見奔放な現代の少年少女にも十分あり得ることかも知れない。

誰もが身に覚えがある、思春期のほろ苦い感傷を含んでいることは確かだろう。そこがリアルであり、共感をもたらしてやまないところである。

発表当時、すでに古めかしく感じられたのではないかと思われるほどの、擬古的な文語体が美しい。

歌は思えど時にあらずと:(恋の)歌を歌おうかと思うが、まだその時ではないと。

角(つの)ぐむ:(草木が)芽吹く。萌える。

さては時ぞと:さあ、今こそその時だと。

あやにく:あいにく、折り悪(あ)しく。

春と聞かねば知らでありしを/聞けば急(せ)かるる胸の思いを/いかにせよとのこの頃か:春と聞かなければ知らないでいたのに、聞いてしまったら急かされるこの胸の思いを、いったいどうしようかと思い惑う今日この頃なのか。





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Last updated  2010.02.26 10:57:10
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くまんパパ @ 新仮名づかいの悲劇ですかね、旧仮名に変更します(^^) 七詩さん、いつもありがとうございます(^^…
くまんパパ @ 短歌では、ありですね(^^) 七詩さん、そうですね、同感です。 私も…
七詩 @ Re:ニヒルなれども面白し(06/08) くまんパパさんへ あの「世の中にたえて…
くまんパパ @ ニヒルなれども面白し 七詩さん、いつもありがとうございます(^^…
くまんパパ @ めっきり蒸し暑くなってきました やすじ2004さん、いつもありがとうござい…
くまんパパ @ のんびり行きたいですね(^^) やすじ2004さん、いつもありがとうござい…

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