うたのおけいこ 短歌の領分

うたのおけいこ 短歌の領分

2021.09.19
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カテゴリ: 近代短歌の沃野
梨1.jpg






児等 こら
小夜 さよ 更けてひそかには喰ふこの梨の実を

こほろぎのしとどに鳴ける真夜中に
            喰ふ梨の実のつゆは垂りつつ



歌集『くろ土』(大正10年・1921)

子供たちが やまい で臥せっている手前
昼は食べられず
清らかな夜が更けてからはひそかに食う。
この梨の実を。

秋の虫がはなはだしく鳴いている真夜中に
食う梨の実のつゆは垂れつつあって。


こほろぎ:今でいうコオロギ類だけではなく、広く鳴く虫全般を指した古来の意味で用いていると見て間違いないだろう。

しとどに:はなはだしく。したたかに。ひどく。やや被害的な感情を含意する。ここでは、秋の虫が「うるさいぐらいに」鳴いていて、その合唱と夜陰にまぎれて、といった意味合いか。

垂り(つつ):現代語の動詞「垂れる」ではもちろんなく、中近世以降の「垂る」(下二段活用)でもなく、鎌倉時代頃までの、とりわけ(おそらく作者の意識としては)万葉時代(奈良時代)の上古語としての「垂る」(四段活用)の連用形なので、この形になる。
一種の古拙(アルカイック)な素朴さと格調を醸し出している。
私の印象では、牧水はこういった文法的な技巧に凝るのが好きで、かつ得意だったと思う。言葉に対して、今でいうマニアックな気質があったのだろう。詩歌人としては、なかなか幸福な資質である。


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Last updated  2021.09.21 05:05:56
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くまんパパ @ 短歌では、ありですね(^^) 七詩さん、そうですね、同感です。 私も…
七詩 @ Re:ニヒルなれども面白し(06/08) くまんパパさんへ あの「世の中にたえて…
くまんパパ @ ニヒルなれども面白し 七詩さん、いつもありがとうございます(^^…
くまんパパ @ めっきり蒸し暑くなってきました やすじ2004さん、いつもありがとうござい…
くまんパパ @ のんびり行きたいですね(^^) やすじ2004さん、いつもありがとうござい…
くまんパパ @ びっくりするほど暑いですね やすじ2004さん、いつもありがとうござい…
やすじ2004 @ Re:松尾芭蕉  あらたふと青葉若葉の日の光(05/03) お元気ですか 今日は夏のような暑い一日…

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