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2011.01.05
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カテゴリ: Figure Skating(2010-2011)

全日本女子で3度目の女王に輝いた安藤美姫。今季、彼女の強さは傑出している。Mizumizuはこの結果は、内的要因・外的要因から当然だと思っている。

まずは外的要因。つまり今季のルール変更だ。トリプルアクセル(3A)や4回転の基礎点が引き上げられた話は大きく取り上げられたが、現在3Aを跳べる女子は浅田選手のみ。こうした超高難度ジャンプの基礎点引き上げは、多くの女子選手にとっては関係のない話だ。それよりも、世界トップを争う女子選手に大きくかかわってくる変更点があった。それは、トリプルフリップ(F)の基礎点が下げられたため、トリプルルッツ(Lz)の価値が増大したということだ。

基礎点の変更を見てみよう
3A 8.2→8.5
3Lz 6→6
3F 5.5→5.3
3Lo 5→5.1
3S 4.5→4.2
3T 4→4.1

3ルッツの点が変わらないのに、3フリップの点が低くなり、3ループ(Lo)の基礎点と接近することになった。

ルッツとフリップはE判定の絡むジャンプであり、ルッツが得意な選手はフリップのエッジにやや問題があり、フリップが得意な選手がルッツのエッジにやや問題がある場合が多い。つまり、これはルッツをエッジ違反なく跳べる選手には有利な改定なのだ。

世界トップで戦える日本女子選手、安藤・浅田・鈴木・村上の4選手のなかで、ルッツのエッジにまったく問題がないのは安藤選手のみ。現行ルールでは減点ポイントのない選手が強い。同じジャンプを成功裏に跳んでも、エッジ違反を取られればGOEで減点、違反がなければ加点となり、見た目以上の点差が開く。

安藤選手はルッツが得意で、フリーでは2度入れることができる。つまり、1つは基礎点が10%増しになる後半に入れることができるのだ。そしてルッツの「ジャンプとしての完成度」も高い。「跳びあがってから回り、回りきって降りてくる。空中ではきれいな放物線を描く」という現行ルールでは一番重視される完成度を備えている。

これ以上の難度のジャンプを跳べるのは浅田選手のみだが、浅田選手の3Aは回転不足を取られることが多く、強みを発揮しにくい。

たとえば、全日本のフリー。後半に入れた安藤選手のルッツの点を見ると
3Lz (後半) 基礎点6.6 GOE=1.26(0をつけたジャッジが1人、加点1をつけたジャッジが1人、加点2をつけたジャッジが5人) 獲得得点  7.86


ちなみにフリー冒頭に浅田選手がもってきたトリプルアクセルは、回転不足判定されたうえにGOEで減点だから、 5.4点 にしかなっていない(プロトコルは こちら )。


相変わらずおかしな逆転現象だ。難度から言えば比べられないくらいの差のある3Aと3ルッツが、構成と質で得点が逆転する。しかも、「質」と言っても、浅田選手のフリーの3Aはさほど悪いジャンプではない。降りてからブレードが回ったという判断なのだろうが、むしろ認定されたショートの3A(獲得得点8.1点)よりよく見えるぐらいだ。

さて、ルッツに話を戻すが、エッジ違反を取られた浅田選手のルッツは
3Lz 基礎点6  GOE=マイナス0.42(0をつけたジャッジが3人、減点1をつけたジャッジが4人) 獲得得点  5.58


安藤選手との単独ルッツ1つでの点差は2.28点。前半か後半かという構成の問題もあるが、1つのジャンプでこれだけ獲得点数が違ってくる。


2人のルッツに対するGOEが甘いか辛いかという点に関しては、誰のどのジャンプと比べるかで主観的な印象は変わってくる。

Mizumizuの目には、安藤選手のルッツは非常に質が高く、浅田選手のエッジ違反は非常に軽微に見える(エッジ違反というより、乗っているエッジが安定していないという印象だ)。キム・ヨナ選手のジャンプに気前よく与えられるGOEを考えれば、安藤選手への「2」はまったく妥当だと思えるし、浅田選手のルッツのE判定への減点がこの程度であるのもごく真っ当(もしかしたら、もっと減点は少なくてもいいようにすら思う)だと感じる。

国際大会に出たら、安藤選手の加点は抑えられ、浅田選手への減点はもっと厳しくなるかもしれない。だが、これはあくまで感覚的な判断になるが、キム選手やチャン選手のジャンプに対する国際大会での加点の気前良さを思えば、全日本くらいのGOEの「按配」のほうがむしろ公平でないかとさえ思う。

そもそも、国際大会での安藤選手のジャンプへの加点の「しぶさ」は信じられない。元一流選手である解説者が何の疑いもなく、「加点も1点以上つくようないいジャンプ」と言ってしまっているのに、雀の涙のような加点しかついていなかった。そちらのほうがおかしいだろう。

Mizumizuが最も呆れ果てたのは、トリノワールドショートのキム選手の単独フリップに対するGOEだ(プロトコルは こちら )。

ダウングレード判定されたにもかかわらず(昨シーズンは今とルールが違い、「<」マークが基礎点が1つ下のジャンプに下がるダウングレード判定)、GOEを「0」としたのが2人、「1」としたのが2人、あろうことか加点「2」としたのが1人いる。計5人が減点しなかったのだ!

真っ当に減点したのが4人(マイナス2が2人、マイナス1が2人)と、そちらのほうが少ない。これもルール(プラス要件の総数からマイナス要件の総数を引いてGOEを出すという建前)からすれば、不正でも何でもない。だが、着氷でこれほど詰まって前傾姿勢になってしまった質の悪いジャンプを減点しないなど、非常識にもほどがある。

この動画 の1:25当たり。

同じジャンプでマイナス2からプラス2までがいる。まさに「猫でもできるジャッジング」の典型だろう。これが世界選手権という格式の高い試合で演技審判がやったことだ。こうしたデタラメな加点に比べれば、安藤選手の単独ルッツに与えられる加点が「2」というのはごくごく常識的な判断だ。いいものにはどんどん点を与えるようにするというのがジャッジの指針なら、質のいい安藤選手のジャンプにもどんどん加点しなければ、逆におかしい。

昨シーズンまで、浅田選手もそうだが、国際大会での安藤選手に対するダウングレードは、「えっ」と思うほど厳しく見えた。「ちょっと低いかな?」と思った程度でもうダウングレード、つまり3回転を2回転ジャンプの基礎点にされてしまう。今年の安藤選手は、それに対する対策が徹底している。1つ1つのジャンプをきっちり回りきっておりるという意志が明確に感じられる。ファイナルでも全日本でもフリーで回転不足判定されたジャンプが1つもなかった。実際、ややギリギリかな? と一瞬思えたのは2A+3Tの3Tだけ(だが、よくよく見れば回りきって降りているのは間違いない)。他のジャンプは回転不足判定したくてもできないくらい完璧に回ってきている。

ある特定の選手に対して判定が甘かったとしても、それは選手にはどうにもできない。だが、文句をつけようがないくらい回りきって降りてくれば、回転不足判定はできない。そこを安藤選手はきっちり抑え、やりきっている。

これがフリーでできるのは、冒頭に3ルッツ+3ループを「跳ばない」せいかもしれない。安藤選手は過去にグランプリファイナルで4回転サルコウを降りたものの、後半のジャンプをじゃんじゃんダウングレードされて点がまったく伸びなかったことがあった。後半のジャンプまできちんと回りきって降りてこられるように体力配分をする・・・そのためには、大技は入れないほうがいいのだ。

こうしたルールがジャンプ技術の向上を阻んでいることは、すでに内外の識者が指摘している。高難度ジャンプのわずかな回転不足で、ときには転倒以上の減点にされるのでは、挑戦する意味がなくなってしまう。大ブーイングを受けて、「回転不足判定は基礎点70%」に減点が緩和されたが、それでもまだまだルールのゆがみは残っている。

というか、わざわざ「安藤・浅田に勝たせない」ために、こうした非常識なルール運用(わずかな回転不足がその下のジャンプの失敗と同じ点になる)をゴリ押ししたのだから、「ゆがみが残っている」もへったくれもない・・・と、Mizumizuは個人的には思っている。

この「安藤・浅田に勝たせないぞ」ルールで、被害が大きかったのは、実は浅田選手より安藤選手のほうなのだ。セカンドに持ってくる3ループが武器にならなくなったのは2人とも同じだが、2人がもっている他の女子には真似のできない大技。4回転サルコウ(安藤)とトリプルアクセル(浅田)。この完成度では、明らかに浅田選手のほうが上だった。だから、浅田選手は試合に入れている。安藤選手は試合では使えない(ここ数年で試合に4Sを入れたのは、1度かそこらだろう)。

だが、浅田選手のトリプルアクセルだって、そもそも立つのさえ難しい超難度の大技だ。実際に決めてもさかんに回転不足判定されているのが現状だ。浅田選手は、セカンドに3ループをもってくることもできるし、3トゥループをつけることもできる(ジャパンオープンでは2A+3Tをやって転倒はなかった)。

難度の高い多彩なジャンプを跳ぶことのできる能力では世界一だろう。ところが、セカンドの3回転はどちらも回転が足りない。だから今季はJO以外の試合では入れていない。入れたところで回転不足判定の餌食だろう。

ショートに入れようとした3ループ+3ループも、そもそも3ループ+2ループで最初のジャンプが回転不足になりやすいのだから、3ループ+3ループをやってしまったら、両方回転不足判定されてしまう確率が高い。

3ループ+3ループというのは、誰でもできる連続ジャンプではない。跳べるジャンプの希少価値を評価するルールなら、3Aに加えてセカンドに3ループと3トゥループを跳べる浅田選手は強い。今季はルッツも入れて来ているし、まさに世界最強、誰もかなわないだろう。

だが、現実にはその強みが生かされず、逆に弱みになっている。今は「回りきるかどうか」が何より評価されるという、アホらしいルールだ。転倒しても、「回りきって転倒したか」「回転不足判定で転倒したか」「ダウングレード判定で転倒したか」で点が違ってくるという、フランケンシュタインルール。回りきることさえできれば、3トゥループ+3トゥループのような難度の低い連続3回転ジャンプでも、加点ばっちりで点が稼げるのだ。

ジャンプの回転不足対策を徹底させた安藤選手に対し、浅田選手はジャンプのリフォーム中でもあり、そこまでの完成度にもっていくことができないでいる。浅田選手の点が伸びない理由はそこだ。

だが、フリップにしろ、ルッツにしろ、アクセルにしろ、去年とは跳び方が明らかに変わってきている。短い構えから、流れが一瞬止まることなくスムーズに跳びあがり、かつ垂直跳びではなく、距離を出して放物線を描くジャンプになるようジャンプを改良してきている。短期間にこれだけできるということ自体、驚異ではないか。

安藤選手のほうは3ルッツに3ループをつける連続ジャンプこそうまく行っていないが、2A+3Tはかなりの完成度になっている。

試合でセカンドに3回転をもってこれない(跳ぶことはできるにもかかわらず)浅田選手は、またもトリプルアクセルに頼らざるをえない。3Aはただでさえ難しいジャンプだ。それをフリーに2度となると、かなりイチかバチか。矯正中のルッツも万全ではなく、連続ジャンプの回転不足問題もある。あちこちに不安を抱えた浅田選手の全体のジャンプ(そして演技全体)の完成度は、勢い不安定化せざるをえない。

これが今の日本のトップ女子選手に起こっていることだ。

<明日に続く>






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最終更新日  2011.01.06 01:34:58


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