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鈴木選手は世界ランキングこそ2位と高いが、昨シーズン、肝心のオリンピックとワールドのショートで自爆してしまい、国際的な評価を高い位置で固めることができなかった。日本スケート連盟としては、年齢的にも若くない鈴木選手より、ソチへの足固めとしてフレッシュな村上選手を「売り出したい」気持ちがあるのではないかと「邪推」していたのだが、去年の「鈴木・中野」両選手の闘い同様、演技構成点でさほどの点差をつけずに技術点の出方に勝敗を委ねたところは、わりあいに公平だったと言える。
両選手の演技構成点は、
ショート フリー
鈴木 29.76 60.64
村上 29.28 60.32
若干鈴木選手のほうが高く出ているが、0.48点差と0.32点差なので、ほぼ同等評価。
だが、実際には、ショートとフリーで3回転+3回転を跳ぶことのできる村上選手のほうが技術点では有利なので、鈴木選手としては、実績を汲んでもう少し点差をつけてもらいたかったところだろう。
こういう仕分けをされた場合、3+3のない鈴木選手は絶対にジャンプを自爆してはいけないのだ。特に得点の高いルッツ、それからフリップは決めなければ勝てない。フリーでは2A+3Tの3Tを認定までもって行きたいところだ。
ところが、今季鈴木選手には不安があった。そう、E加減なE判定。「間違ったエッジwrong edge」でもないのに、(ジャッジに)不明確に見えたというだけでつけてくるEマーク。これが鈴木選手に対しては猛威をふるった。
フリップとルッツ、どちらにEマークがつくかわからない。ときにはつかないこともある。両方についたこともある。
「E判定をもらうと選手は気にしてしまい、自爆のスパイラルにはまる」と書いたが、そのとおりになってしまった。
ショートでは3ルッツが回転不足のまま降りてきてしまい、これが回転不足判定より一段厳しいダウングレード判定。ショートではステップもレベル3、スピンもオールレベル4をそろえたたけに、この失敗は悔やまれる。
フリーでは3フリップが2フリップに。フリーではショートの順位に気落ちしていたのか、ふだんのような精彩もなかった。最後は盛り上がったが、序盤はジャンプへの不安が顔に出ていた。プロトコルを見るとスピンやステップのレベルの取りこぼしもある。鈴木選手に対しては厳しくレベル判定した可能性も否定できないが、なんといっても、ジャンプ・・・それも基礎点の高い、ルッツとフリップの自爆が痛かった。フリーの2A+3Tの3Tも決まらなかった(回転不足判定)。つまり決めたいジャンプでモロにミスが出てしまったのだ。
思えば、去年、中野選手がオリンピックの切符を逃したのも、ルッツの失敗が大きく響いている。今年は鈴木選手がルッツの失敗に足を取られる結果になった。
エッジ違反を含めて、グランプリシリーズのときから鈴木選手に対する点は奇妙に低かった。海外の掲示板では、「Suzukiの点が低すぎる。Murakamiは高すぎる」と書いているファンの意見も見たし、国内でもメディアをあげての村上選手売り出しに不信感をもつファンも多かった。
こうした採点をされると、選手にも「伝わってくるもの」があるのだ。好意的な採点をされているほうは、モチベーションも上がる。厳しい採点をされている選手はストレスがかかる。判定や採点が自分に厳しいからこそ、失敗できない。そう思いつめると逆に調子を崩し、失敗する。
村上選手のジャンプの失敗は一番点の低いダブルアクセルのみ。シーズン前半ではなかなか決まらなかった3フリップや3ループも決めた。これは素晴らしい。身体全体を使ったダイナミックでエネルギッシュな表現はすでに国際大会でも高い評価を得ている。裏で日本スケート連盟がロビー活動をしたという報道も一部の週刊誌にあったが、その真偽はどうあれ、ジュニアから上がったばかりの村上選手がシニアトップレベルの選手に負けない演技構成点をもらっているという事実は事実なのだ(その評価を納得するしないは、個人の主観次第だ)。だから、3枠目が村上選手に行ったのは当然だ。
当然なのだが、なんともやりきれない気持ちだ。現実問題として枠は3つしかなく、グランプリシリーズでの勢いや全日本の出来からいっても、今回の選出結果に間違いはないと思う。だが、これまでさんざん、「鈴木選手の演技構成点が素晴らしい演技のわりに出ないのは、実績がないから」などと言われていたのだ。ところが、ジュニアから上がったばかりの村上選手は、シニアでの実績がなくても、いきなりかなりの演技構成点が出ている。
村上選手の表現力は、確かに目を惹くものがある。全身を使った大きな表現。若々しいエネルギー。物怖じしないダイナミズム。「クラシックバレエで鍛えた」などというのは、あの姿勢の悪さを見れば的外れなのは明らかだが、フィギュアスケートで評価される表現力は、必ずしもバレエ的なものである必要はない。村上選手には他の女子選手にはないスケール感がある。ジュニアから上がったばかりだというのに、時間の長いシニアのフリープログラムを滑って疲れた様子も見せない。身体の強さといい、やや荒削りだが、野性的で自由な表現といい、瞠目すべき選手だ。
だが、それを言うなら、鈴木選手の成熟したダンサブルな演技だって十分に魅力的なはずだ。ここ何年かシーズンを通してコツコツ実績を積み重ねてきたにもかかわらず、演技構成点では過去の実績を汲んだ点差を若手との間につけてもらえなかった。ここにもスポンサーの力が見え隠れする。メディアの持ち上げ方を見ても、これからは村上選手をフィギュア界のアイドルに仕立て上げたいという「大人の都合」があからさまだ。村上選手は素晴らしい才能の持ち主だが、絶大な人気を誇る浅田真央が不調の時期に、こうしたメディアによる一方的なプロモーションは、あたかもアイドルを挿げ替えようとしているかのようで、逆にファンの反感を招くのではないか。
演技構成点というものは、結局のところ、出る選手には気前よく出て、出ない選手は何年頑張ってもたいして出ない。出る試合に自国の「(自分より)上位仕分けの選手」がいるかいないかによっても突然上下する。つまりは、順位の調整弁。理屈は後からくっつける。表現力が凄いとか、格が違うとか抽象的な文言で。そうやって「宣伝」すれば、見るほうは、「そういうものか」と半信半疑ながら納得させられるということだろう。評判は宣伝で作られるからだ。
<明日へ続く>
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