(三谷幸喜のありふれた生活:935)僕のお手本S・ドーネン
2019
年 2
月 28
日(当地では3月3日掲載です。)
先日九十四歳で亡くなったスタンリー・ドーネン。僕より下の世代には、あの「雨に唄(うた)えば」をジーン・ケリーと共同監督した人と聞いて、そんな人がまだ生きていたのかと驚愕(きょうがく)された方もいたはず。「先日、 十七条憲法 で有名な 聖徳太子 が一千四百四十五歳で死去されました」くらいびっくりするニュースだったのではないか。
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一九八〇年の「スペース・サタン」以降、日本で映画は公開されていない。晩年はほぼリタイアしていたみたいだ。僕は七八年の「ブルックリン物語」と、七四年の「 星の王子さま
」をロードショー公開で観(み)ている、ぎりぎりのドーネン現役世代である。
*ANAホテル製 15cm 3700円 ひなあられ付き
映画は娯楽であるということにこだわり続けた人。「 雨に唄えば
」は、ミュージカルという単語がミュージカルコメディーの略語であったことを如実に物語る、ミュージカルとしてもコメディーとしても完璧な作品だ。「踊る大紐育(ニューヨーク)」「恋愛準決勝戦」といった名作を手掛けているのでミュージカルのイメージが強いけど、洒落(しゃれ)た犯罪コメディーのお手本「シャレード」や、時間軸が行ったり来たりの構成が見事な「いつも2人で」といった、「唄わない」映画も作っている。
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「ブルックリン物語」は、かつての二本立て興行の再現。一本の映画の中で、まったく関係ない二本の映画が上映される(途中に架空の予告編まで流れる)。そして、そのすべてを同じ俳優たちが役柄を変えて演じる。映画、そして映画館に対するオマージュに溢(あふ)れた作品だ(原題はMOVIE MOVIE)。
どの映画にも、「賞とか映画祭とか関係ないさ、オレは楽しい映画を作り続けるだけだ」という、ドーネンの気概を感じる。
そんな彼が七十三歳の時に アカデミー賞
の名誉賞を受賞した。その時のスピーチが 感動
的で、「この喜びは言葉では表現出来ません。ミュージカル映画では、こんな時は歌で表現します」と言って、彼はなんと突然、バンド演奏に乗せて「チーク・トゥ・チーク」を歌い出した。しかもタップダンス付き(彼はもともと 振付師
だった)。
「チーク・トゥ・チーク」は「トップ・ハット」というミュージカルで フレッド・アステア
が歌ったもの。「まるで天国にいる気分だ」とドーネンは歌い、そして幸せそうに オスカー
像に頬を寄せた。
当然、授賞式の会場は大盛り上がり。テレビで中継を観ていた僕も思わずスタンディング。なんて洒落たスピーチなんだろう。名誉賞なので事前に発表になっており、きっとリハーサルも何度もやったに違いない。その光景を想像するだけで胸が熱くなる。
そのあとの控えめな感謝の言葉も印象的だった。「 いい映画を作るコツは、いい俳優といい脚本といいスタッフを集めること。監督は現場にいて、カメラに映り込まないように気をつけながら、じっと座っていればいい。でも現場には必ず行くこと。そうすれば、いつかはこんな素敵な賞が貰(もら)えますよ 」
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僕にとってのスタンリー・ドーネンは、作品を作る上での、そして生きる上での「お手本」である。
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