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私、「セイ・クラブ」の40代のカテゴリーで、ここと同じ「ジャングル・ナイト・クルーズ」というチャット部屋も作ってるんですよ。でも、最近忙しくってチャット部屋のほうはだいぶご無沙汰・・・・だって、ブログなら空いてる時間に書けるんだけど、チャットの場合、リアルタイム、オン・タイムでしょ?なかなか入れないんですよ。でも、今日もコメントのほうにチャット仲間の「ミミムフ」が、「ナイトと話したいよ~」って書いてくれてるし、「たかちゃん」も同じ様にコメントくれるんです。この「ムクつけき男達」のために、明日はちょっとブログを休んでチャット部屋を作ろうと思います。「ミミムフ」、「たかちゃん」・・・明日待ってろよ! 上野動物園のパンダ舎は、以前なら長蛇の列でパンダを見る時間も限られていましたが、今はそれほど並ばなくても見られるようになりました。与ひょうの希望で来た動物園でしたが、熊子も鶴子もけっこう喜んで見ています。ほかの動物・・・ライオンとか象なんかもテレビなんかでしょっちゅう見てはいるんですけど、子供のいる家庭もちでもなければ動物園なんかに行くこともありませんから本物を見ることはないんです。ちなみに筆者は・・・もともと動物園好きですから学生時代なんかも一人で動物園に行くことが多かったんですよ。だから、ハンドルネームも「ナイトサファリ」なんですけどね。決して、夜に猛獣どもが行きかうジャングルのような「ネオン街」でハンティングしているわけではないのです。・・・・お間違いの無いように・・・・・・閑話休題さて、動物園を出た3人は、夕食へと向かう事になりました。「新宿なら京王プラザのレストランで豪華ディナーって思ってたんだけど、上野じゃよくわからないし・・・・どうしようか?」自分の行動計画を狂わされた熊子が、ちょいと不満気にそう言いました。「そんなのにお金をかける必要なんかないわよ・・・この近所に、この前テレビの情報番組に出てた回転寿司のお店があるはずよ?・・・そこなんかどう?」熊子の不満をふんわりと包み込むような口調で鶴子が誘います。「わし、回転寿司っていうのを見たことねえから・・・そこにいきてぇなあ」与ひょうが賛成したので回転寿司に行くことになりました。「せっかく与ひょうにおごらせようと思ったのにさ・・・・・」熊子はこの旅行中の食事代は全部、与ひょうに払わせる算段だったようです。その寿司屋は上野というより御囲地町の駅に近いほうにありました。テレビの情報番組では「大間のマグロが格安で食べられる」という触れ込みだったそうで・・・・もしかしたら行列ができているかもしれない・・・という話だったのですが、行って見るとあにはからんや閑散としたお店でした。「こういうお店はテレビに出ると、とたんに横柄になって、客が寄り付かなくなるのよ」熊子がわかったような話しをしましたが、実際は時間帯のせいもあったのでしょう。とても美味しいお寿司でした。与ひょうにとっては、寿司屋というと、地元には「纏寿司」一軒しかありませんからほかの寿司屋と食べ比べるのは今回が初めてですが、もしかしたら客の回転率が良い分、ネタもこちらの方が新鮮だったのかもしれません。寿司屋を出て、帰りは中央線で帰ろうということになりました。神田まで戻るより、東京駅まで戻れば、始発の駅ですから八王子までゆっくり座って帰れます。電車の中で、与ひょうは鶴子と並んで座り、帰りの電車の中をずっと話をしていくことができました。このとき、熊子は通路を挟んで向こう側の座席に座ったのですが、もしかしたら気を使ってそうしてくれたのかもしれません。「明日は帰られるんですねえ・・・・もっとお話ししたかったわあ・・・・」「いやあ、こっちこそ付き合ってもらってわるかったっす・・・・あんたのようにきれいな人とずっと一緒にいられたことなんて、わし生まれてこの方一度もネガったから、・・・ハア、えがく面白かったっす。」「昨日居酒屋を出てからね・・・あなたをホテルまで送っていったでしょ?・・・あのあと亜由美さん・・・あたしの家に寄ってお茶していったんだけど・・・・変なこと言うのよ・・・・鶴子・・・あんた与ひょうさんのとこへ嫁に行く気はないかって・・・・」はにかむような仕草で、鶴子はそう言って下を向きました。「それで、鶴子さん・・・あんた、なんて答えただかね?」与ひょうも上気した表情でそう聞き返すのが精一杯でした。「あたし、バツイチでしょ?・・・・だからあたしのようなおばちゃんをからかわないでよ・・・って言ったんだけど・・・亜由美さん、まじめな顔で言うのよ・・・与ひょうさんのことをね・・・小さいときからずっと面倒見てきて、・・・勉強も教えたし上級生からいじめられると必ず代わりに仕返しもしてやったって・・・・だから同級生なのに、お姉さんのような気持ちになるんだって・・・・」そういえば、保育園のときから一緒に育ち、小学校2年生のとき上級生からいじめられ泣かされて家に帰ると、玄関の前に立って待っていて・・・”負けたまんま帰ってくるな・・・仕返しして来い”といって与ひょうをたきつけ、それでも負けてまた泣かされて帰ってくると、代わりに仕返しをしに行ってくれた熊子でした。「それでね・・・・亜由美さんは自分がずっと面倒見るわけにはいかないから、何とかあたしに嫁に行ってくれって言うのよ」ここから読み始めた人もいるかと思うので説明をしますと、亜由美というのは熊子の「芸名」・・・とでも言うのでしょうか・・・熊子という名前を嫌って、自分のことを亜由美と勝手に改名していたのです。与ひょうはその話を聞きながら、そっと熊子の方を見てみると、こんな話をしていることを知ってか知らずか・・・熊子は雑誌の吊り広告を目で追っていました。「あたしは前の亭主の浮気と暴力に泣かされてきたから、与ひょうさんのように優しい人がそばにいてくれればいいなって思ってるんだけど・・・・与ひょうさんはいやだよねえ・・・あたしなんか」与ひょうは目の前がクラクラするのを感じました。「いやなわけなかんべえ・・・・いやなら東京まで出てこねえだ」しかしまだ出会って・・・車の事故のときを含めても4日目です。何でこんなにも鶴子が打解けてくれるのか、与ひょうには不思議でたまりませんでした。八王子の駅に着き、ホテルまで3人で歩いて途中のどが渇いたからと、夕べの居酒屋に入りました。「あたし、今日は焼酎のお湯割り・・・あ梅も入れてね・・・あんたたちも同じでいいでしょ?・・・3つちょうだい・・・・」熊子は注文を終えると与ひょうと鶴子の顔を見比べながら「明日はディズニーランドだからね・・・・3人で行くっていうのも変だから、あたし男連れて行くわ・・ダブルデートにしよう・・・」そこへ注文したお湯わりが運ばれてきて・・・・「じゃあ、明日のダブルデートに・・・乾杯!」熊子は楽しそうに音頭を取るのでした。 つづく て
2007.02.28
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先週は家族と十和田湖温泉スキー場だったんですが、今週の金曜日は、仕事で浅虫温泉の「海鮮閣」に宿泊予定です。友達と一緒に作った会社の役員会なんですけど、あまり業績が良くないのに、何も温泉で役員会しなくても・・・・・まあ、友達同士でワイワイやるのが目的ですし・・・・いいか! 新宿で「すずめ観光バス」に乗り、昨日の話しの様子では与ひょうと鶴子が並んで座れるのかと思うとさにあらず・・・・熊子と鶴子が並んで座り、与ひょうの隣には一人で東京見物にやってきたと思われるおばあちゃんが乗り込んできました。指定席は通路側だったのですが、体の小さなおばあちゃんでしたので、与ひょうは窓際の席をそのおばあちゃんに譲りました。いよいよバスが出発すると、バスガイドさんが慣れた調子でコースの説明を始めます。「本日は、すずめ観光バスをご利用くださいましてまことにありがとうございました。・・・本日の運転手は木見騨、ガイドは私・・・朴田がお供してまいります。東京半日観光ではございますがよろしくお願い申し上げます。なお、団体旅行とは違いまして、お客様お一人お一人が見知らぬお客様ではございますが、今日のお仲間ということでお近くの方々と楽しく旅を続けてまいりたいと存じますのでよろしくお願いいたします。」ガイドさんがそう言うと、隣のおばあちゃんが、与ひょうのほうに向かってお辞儀をし、それからハンドバックの中をごそごそやり始めました。「兄ちゃん、飴ちゃんあげよか?」どうやら、関西のおばあちゃんのようでした。「バスは・・・まもなく東京都庁前を通過し、新宿高層ビル群の中へと進んでまいります。」ここはそのまま大きなビルのあいだを通り抜けるだけ・・・・あちこちガイドさんの案内で、バスの中から見てあるくだけでした。国会議事堂を通り過ぎ・・・・東京タワーにやってまいりますと、ここでようやくバスを降ります。ガイドさんの案内旗のあとをついて歩くのですが、隣のおばあちゃんは、少し足が不自由なようでしたので与ひょうは手を引いてあげたのです。「いやあ。長生きはするもんでんなあ・・・こんな若いエエ男に手を引いてもろて、仏様にお礼をいわなあかんわ」最初親切にしてやったのをいいことに、そのおばあちゃんは、バス旅行の間中、与ひょうの後をくっついて歩いたので、けっきょく熊子や鶴子と話しをする機会を逸してしまいました。知らない人が見たら「おばあちゃんを東京案内に連れてきた孫」だと思われるような按配で・・・・皇居前でバスを降りて記念写真を撮るときなんかは与ひょうと腕を組んで撮影し終えると、今度は二重橋のところで・・・「天子様は拝まにゃあかん」そう言って、与ひょうにも一緒に拝ませるのです。バス旅行が終点に近づくと、そのおばあちゃんは、メモ帳を取り出し、「大坂に来たら、あたしのところに電話して~な」そう言って名前と電話番号を書いたメモを与ひょうに渡すのでした。その名前が「近藤 鹿」さんという名前で、今回の旅行はよっぽど動物の名前に縁がある旅行だな・・・与ひょうはそう思いました。「さてと・・・・まだ夕食の時間までには時間があるし・・・どうしようか?」「わしなあ・・・・パンダが見たい」「ええ!!・・・上野まで行くの?」熊子は面倒だな・・・というような口ぶりでしたが、鶴子が「いいじゃないの・・・あたしも動物園なんか行くことないから、パンダも見てみたいわ」そう言ってとりなしてくれましたので、3人は上野動物園に向かいました。駅を降りて緑の中を抜け動物園まで行くと、その緑の中にあちこちブルーシートが見られました。「コリャなんだね?」「ああ、ここに住んでる人がいるのよ・・・夏と違って数は少ないけどね」そんな光景が珍しくてキョロキョロしていると、与ひょうの目に知ってる顔が飛び込んで来ました。いえ、ここの住人ではありません。新幹線で座席のことでもめた、あの男の人が、びしっとスーツで決めていながら、なぜか鳩に餌をまいていたのです。「アア、あの人だ・・・」与ひょうはフラフラッとその男に近づいていきます。熊子は「あたし達、入場券を買ってくるから、ここを動くんじゃないよ」そう言って向こうへ行ってしまいました。「こんちは、あんた何してるんだね?」声をかけるとその男は、驚いたように振り向き、与ひょうの顔を見ます。初めは誰か思い出せなかったようですが、「ああ、あのときの・・・」ようやく思い出してくれました。「俺か・・・俺は・・・人探しだよ・・・」そう言ってまた鳩に餌をまき始めました。「だってあんた、鳩にえさ・・やってるだけじゃにゃあか」「今休憩中なんだよ」そこへ・・・熊子が大きな声で・・・・・「与ひょう・・・・早く来て~」「ほう・・・あんた与ひょうっていうのか?」その男はそう言って、与ひょうと遠くから叫んでいる熊子の顔を見比べていました。その時、与ひょうは鶴子がこちらを見ないで向こう向きでいることに気がつきました。そういえば、東京駅に迎えに来てくれたときも、鶴子はこの男の人のことを気にしている様子でしたし、今も知らないふりをしているように見えました。もしかしたらこの男・・・・鶴子の別れた亭主で、鶴子は別れたといっているけど、もしかしたら逃げ出してきて・・・・この男が鶴子を探してる・・・・なんとなくそんな予感がしたのです。しかし、鶴子のような若くて綺麗な女性が、こんなブルーシートのところに住んでいるわけがない・・・・与ひょうはすぐに自分の考えを打ち消しました。「恋人が呼んでるぞ・・・・早く行きな」その男は、餌をやり終えたのか、立ち上がって駅の方面に歩き始めました。「じゃあ、またのう」与ひょうはその男の背中に向かって手を振りましたが、またと言っても、どこの誰かも知らないし・・・逢うことはないだろうなあと思っていました。そして、すぐに振り返り、熊子と鶴子の待つ、動物園の正面ゲートへと向かったのでした。 つづく
2007.02.28
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今回は短編にしようと思ったのですが、既に10話です。恵さんから「前回のはトイレと風呂だけで時間つぶししやがった」と言われましたが決してそういうわけではありません。前にも言いましたけど、なにも考えないで書き進めていますから、いつの間にかトイレの狭い空間の話だけで一話終わってしまったのです。マア、自分で言うのもなんですが、こんなくだらない話しで、一話分書ける自分はもしかしたら、ある意味天才ではないでしょうか?こんなくだらない事をまじめに書く人はいないでしょうけどね! ロビーに降りてゆくと、そこには熊子と鶴子がソファーに座って待っていました。「あんたも私が、待たされるの大嫌いだってこと知ってるでしょ?」熊子の機嫌は非常に悪かったんです。「マア、それでも鶴子が田舎であんたの世話になったからって、そういうから付き合ってあげるけどさあ・・・・与ひょうも変わらないよね」鶴子はニコニコ笑っています。「それじゃあ、飲みにいこうか」熊子が先に立ち、居酒屋に向かいました。そこはホテルから歩いて5分ほどの「つぼ民八王子店」というお店でした。「いらっしゃいませ!」・・・威勢のいい若い衆の声が響きます。バイト学生風の女の子が注文を取りに来ました。「あたしは、焼酎のグレープ割り、それと焼き鳥に・・・・・・・・・・・」熊子はテキパキと注文をしていきます。「あんたたちも飲み物は同じでいいね?」あっけにとられているうちに熊子は注文をしてしまいました。「ところであんたさあ・・・なんで与ひょうなんか呼びたいと思ったのよ?」突然熊子は鶴子に聞いたのです。「なんでって・・・・車のお礼に・・・・」「車のお礼なら、虎印の羊羹を持ってったでしょ?あれでいいじゃない・・・」「それにこの前お礼に伺ったとき、とっても楽しかったし・・・」「そういえばあんた、離婚してから笑ったことないって言ってたし・・・確かにこの男なら見てるだけでも面白いからね」「そんな失礼な事思ってないけど・・・とってもホンワカした気分になれたんです。」「そうだね・・・・この男なら別れたご亭主みたいに浮気はしないし・・暴力なんかぜったい振るわないし・・・・あんたにはお似合いかもしれないよ・・・そうだ、あんたこの男と結婚しなよ!」これぞ青天の霹靂!「この男なら優しいし、そこそこ金は持ってるよ・・・けっこう土地は持ってるしさ」熊子に誉められるなんて生まれて初めてのことでした。「そんなあ・・・あたしバツイチだし・・・」「いいのよ・・・あんたでも嫁に行ってやらなきゃ、こんな男、一生嫁なんかもらえないんだから」誉められてるのか貶されてるのか・・・・・・よくわかりませんでしたが、でも、もしこんなきれいな人が自分の嫁になってくれるなら・・・・与ひょうは夢見心地になっていました。その後何の話題で盛り上がったか覚えていません。あの話しがでてから、ただただ鶴子の顔に見とれていました。鶴子がトイレか何かで席を立ったとき、与ひょうは熊子に話しかけられました。「で?あんたはどう思うのよ?」「え?」「鶴子のことどう思うのよ?・・・いや、あの子のことはあたしもよく知らないんだけどね・・・・別れた旦那っていうのがひどい奴でさ・・・・浮気を繰り返しては、そのことに何かいうとすぐ暴力を振るうんだって・・・出身は何でも東北のどこかだって聞いてるんだけど農家の娘だから、お百姓さんの仕事もよく知ってるらしいしさ・・・保険の外交にしたって、知り合いや親戚のないこの地域なのに、成績は抜群・・・この仕事は誰でも成れるんだけど・・・成績を上げるために親戚や友達を無理矢理加入させちゃうのが当たり前なのに、あの子・・・・この前よその保険会社の男性社員まで加入させちゃって・・・・凄腕なのよ?・・・あんな子を嫁にしちゃえば、あんた一生楽できるわよ」ヘエ・・・よその保険会社の人まで加入させちゃうほどの凄腕・・・・そんな風には見えないなあ・・・すごいなあ・・・って感心した与ひょうでした。「で、どうなのよ?」「いやあ。あんなきれいな人ならなんも文句はないっぺ・・・・」「よし決まった!・・・じゃあ、あたしが話を進めるね」「でも・・鶴子さんがなんていうだか・・・あんな田舎に・・行くっちゅうたって・・・・」「黙って聞いて・・・・あの子もあんたがいいと思ってんのよ・・・・それじゃなきゃ、わざわざあんたを呼ばないわよ・・・・あたしの勘に狂いはないわ!」そこへ鶴子が戻ってきました。「さて、そろそろ酔っ払ったし・・・・明日は”スズメバス”に乗って東京観光・・・・実はね・・・あたし東京も長いんだけど・・・・東京観光なんかしたことないのよ・・楽しみだよねえ・・・ということで今日はお開き!」熊子の音頭で最後の乾杯をし、今日はここで鶴子ともお別れという事になりました。「今日は、与ひょう・・・・あんたにとっていい話しが決まったことだし。。。。全部あんたのおごりね!」「わしゃ、招待されたんじゃなかったんかいのう」・・・・そう思いましたが、今日は実に気分が良くて・・・与ひょうは全部の支払いを済ませました。ホテルに帰ってベッドに入っても・・・・鶴子の顔がちらついて離れません・・・とうとう一睡もできないまま、翌朝を迎えました。6時にモーニングコールがあったときには、もう顔も洗い身支度も整えて、すぐにでも出かけられるようになっていましたが、とりあえず朝食をとることになりました。昨日帰ってきても、また鍵を部屋に閉じ込めたままで、フロントの社員にいやな顔をされましたから、、5階のレストランでの朝食にはちゃんと鍵をポケットに入れて出かけました。「こちらはバイキング方式になっておりますから、どうぞお好きなものをお好きなだけ・・・」そういわれましたが、早口の東京弁はちょっと聞き取りにくかったのか、与ひょうの耳には「ばい菌方式」と聞こえていました。「ばい菌を食うなんて、東京の人は、えかく胃腸が丈夫なんだなや・・・・」病気にはなりたくなかったので、与ひょうはあまり食べないでおこうと決めました。だからすぐにレストランを出て・・・・部屋に戻ってもすることがなかったから、真っ直ぐロビーに降りて行きました。まだ6時30分ほどで、待ち合わせまでまだ一時間近くありましたが、昨日怒鳴られた与ひょうは、ロビーのソファーで待つことにしました。寝ていなかったのでソファーでうたた寝をしていますと、ホテルの社員から揺り起こされました。「お客様・・・お連れ様からお電話でございます。」昨日ホテルの従業員の間ではすっかり有名になった与ひょうでしたから、フロント係もすぐに与ひょうを見つけて起こしてくれたのです。「あ、与ひょう?・・・あたしよ・・・亜由美・・・実はね・・・あたしも鶴子も急用ができて、今すぐ新宿に行かなくちゃならなくなったのよ・・・・でね。。。新宿で待ち合わせしたいんだけど・・・10時までに新宿にこれる?」そういわれても新宿がどこにあるのかわかりません・・・・「そうか・・・地理がわかんないんだっけ・・・あ、そのホテルのすぐ近くに駅があるから、京王線に乗って終点新宿まで来て・・・・それも特急電車の一番前の車両に乗るのよ・・・・10時前に着いたらホームに下りて・・・・そしたらあたしたちが迎えに行くから・・・・わかった?」そう言うと、よほど急いでいたのかすぐに電話が切れました。与ひょうはフロント係に駅の場所を教えてもらって直ちに出発しました。駅には着いたものの、実は切符の買い方がわかりません。「特急電車に乗って来いって行ってただな・・・・さて?・・・・この自動販売機には新宿の切符があるだども・・・・特急券はどこで買えばいいのかのう・・・・」田舎で電車に乗るときは、急行に乗るときは急行券、特急に乗るときは特急券が必要だと聞いたことがありました。しかし、この八王子の駅ではどこの自動券売機にも特急券や急行券販売の表示がありませんでした。与ひょうは駅員に聞きます。「何とか新宿までの切符は買えたけんど、特急券は買えんかったし・・・しょうがなかあ・・・普通の電車に乗っちゃろう」こうして、与ひょうはとことこと「各駅停車」で新宿まで行くことになりました。新宿に着くころはとうに10時を回っていましたが、ホームでは熊子が待っていてくれました。「あんたのことだから、特急に乗らないで各駅停車で来ることもあるだろうなって張ってたら案の定・・・・」熊子はあきれ顔で与ひょうを見ましたが、与ひょうはなんで怒られたのか、あきれられたのかわかりません。手を引っ張られて改札口へ行くと・・・・そこにはあの笑顔が美しい鶴子が待っていました。 眠くなったので・・・つづく
2007.02.27
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今日は来客のアポがあったんだけど、突然のキャンセル。予定外の時間ができちゃいました。 ホテルでの休息時間が意外とあったもんですから、与ひょうさん・・・・お風呂に入ってノンビリしました。外国式のお風呂ですから湯船の中で身体を洗うんですけど、どうもあまりいい気持ちはしません。けっきょく、最初はお湯をためて温まり、いったんお湯を流してから髪の毛と身体をシャワーで洗う・・・・そうしてから、湯船をいったん洗ってまたお湯を張って入浴する・・・・そんなことをしていましたから、けっこう時間がかかりました。「風呂に入るのもけっこう体力がいるもんだなや・・・」浴槽の脇にトイレがありました。眺めているうちになんとなく催して来たんですが、これがトイレだと言うことは知っていても、どうやってするのかわかりません。与ひょうの家のトイレは、水洗ではない「和式」でしたから、お尻をペタンとつけて座るなんて想像もできませんでした。「この、上に上がるんだべな?」先ずは便座の上に乗って向こう向きでしゃがんでみました。目の前にはタンクがあって取っ手がついていました。何の気なしに取っ手を押すと、水が勢いよく流れます。「アア、こうやって流すんだなや・・・これならつかまるとこもあるし」しかし、タンクにつかまって安定感には問題はなさそうなんですが、いかんせん、おしりの角度からすると、外へ飛び出しそうです。「コリャ、まずかんべえ」今度は前向きにしゃがんでみました。これなら、ちゃんと便器の中にできそうです。「だけんども、体がふらふらして踏ん張りがきかねえなあ・・・・」それでもすぐ脇のほうにトイレットペーパーのホルダーがあって、それに捕まればなんとかなりそうでした。なんとか用がたせて、お尻を拭こうと思ったんですが、ホルダーをひょいと見るとなぜかトイレットペーパーが2巻ありました。「あらら・・・・コリャどっちを使えばいいんじゃ?」どちらも同じトイレットペーパーに見えたのですが、2つあるからには何か違う用途があるはずだと考えたのです。あちこち見回して見ると、便器のふたの裏側に使用方法がついていました。「ああっ!!」そこには人型の黒い影が便座に座っている絵が描いてありまして・・・・「なるほど、こうやってぺたんと座ってするんか」与ひょうはいったん、座ってみることにしました。本当なら暖房便座じゃありませんでしたから、冷たいはずなのですが、それまでずっと両足であがっていましたから、少し暖かくなっていました。「コリャ、なかなかええもんだぞ・・・わしも嫁をもらったらこれにせにゃならんぞ・・・それにしても、子供が産まれるたんびにひとつずつ増やしていったら、10人も子供があった日にゃ、トイレはわしと嫁さんの分も入れて12個も作らにゃならん・・・・家中トイレだらけだなや」他人のお尻がくっついたものに、直接座るのが不潔だと思ったのか、与ひょうは、ひとり一個のトイレを考えたようです。しかし、まだトイレットペーパーのホルダーが2個ある理由が見つかりませんでした。「困ったのう・・・・・とりあえず、片方の紙で拭いてみんべえか」なんとか拭きおわり、取っ手を押して流れていくのを見てると・・・・余裕が出てきたのかトイレの脇のほうになにやら別の機械がついてるのを見つけました。「なんだべや・・・これ?」それはもちろん、おしり洗浄器でしたが、洋式トイレを使ったこともなかった与ひょうですから、よくわかりませんでした。絵には「ω」のマークがついていまして、もちろんおしりを現しているのですが、与ひょうには「女性のオッパイ」のように思えたのです。「コリャ女の人が使うなにか何だべか?」そのスイッチにおそるおそる触ってみると、「ビューッ!」シャワーが勢いよく飛び出し天井を濡らしてしまいました。「いやあ、女の人の体ってよくわからんが、わしにはわからんことが多いんじゃのう・・・・」もうひとつのスイッチのほうを触って女性の体の神秘を学ぶのならわかるのですが、与ひょうの場合、男性も使う機能に、女性の神秘を知ったのです。こうして、与ひょうは4時間もトイレと風呂だけで時間つぶしができました。「リーン・・リーン」部屋の電話がなり、受話器を取ると熊子が怒鳴っていました。「もう約束の時間が過ぎてるじゃないの・・・どうしたのよ!」「いや、トイレと風呂がな・・」「黙って聞いて!!・・・今すぐ準備してロビーに下りていらっしゃい」受話器をガチャンと切られ、与ひょうはあわてて洋服に着替え、外に出たのですが、あわててまた、キーをもって出るのを忘れたようでした。 つづく
2007.02.27
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今日は、むつ市連合PTAの理事会でした。定例の会議でしたから特に相談するような事もなかったんですけど、「新1年生の黄色いランドセルカバー」が、ロータリークラブなどから寄付していただいたようで・・・・・いやあ。今年はどうしようかと困っていたんですよ。助かりました。 八王子の鶴子のアパートで、熊子の来るのをコーヒーを飲みながら待っていると、程なく熊子がやってきました。確か村の成人式以来ですから12年ぶりぐらいの再開でした。与ひょうは、熊子がどんなにか変わってるだろうと思っていましたが、相変わらず細くって最後の会ったときと・・・・いや、中学時代ともさほど違った印象は受けませんでした。「熊子・・・変わってないなあ・・・・変わったのは少し化粧が濃くなった・・・」「黙って聞いて!」また発言をさえぎられました。「今日はこれからお昼を食べて、それからゆっくりホテルへチェックイン・・・・あたしと鶴子は仕事があるから、午後6時、そのホテルのロビー集合・・・居酒屋へ行って飲んで寝る・・・・いいね?」それなら、田舎の「玄ちゃん食堂」で飲むのと変わらないような気もしましたが、今日はとりあえず女性に囲まれて飲むんですから与ひょうにしてみれば初めての経験です。「明日は6時起床・・・・あたしが7時半に迎えに行くからちゃんとロビーに降りて来てるんだよ・・・それから、明日は電車で移動・・・・東京駅まで行って、みんなで”スズメバス”で観光・・・・皇居、東京タワー、浅草・・・そしていろいろ回って・・・夕食は焼肉・・・・あさっては、同じ時間に起床して同じ時間にロビーに降りて来て、東京ディズニーランドの直行・・・・そして夕食もそこそこに、与ひょうは国へ帰る・・・どうこのコースで・・・・?」よくわかりませんでしたが、旅行慣れしていない与ひょうにとっては楽しそうなコースでした。昼食は鶴子のアパートの近所でラーメンです。そんなに美味しいとは思いませんでしたが玄ちゃん食堂のものしか食べた事がありませんでしたから、こんなものかと思ってしまいました。ホテルへチェックインしたのが2時・・・熊子がフロントにいろいろ注文をつけてくれました。「この男はちょっと抜けてるからね・・・明日の朝6時にモーニングコール、そして6時半前には朝食の電話もいれてちょうだい・・・・ご飯を食べたら7時半前にはロビーに降りて来いって言う電話もいれてちょうだいよ」そう言って、熊子と鶴子は仕事に出かけていったのでした。ホテルの部屋にひとり取り残された与ひょうでしたが、そこはもちろんベッドでしたから、大はしゃぎしてしまいました。今までベッドなんか寝たことはないのです。「この布団・・・朝起きたらしまう押入れもねえし・・・・どうすんだべかなあ?」ベッドを片付ける気でいます。「きっと朝になったら女中さんが来て、”はい片付けますから起きてくださいよ”なんか言って起こしにくんだんべえなあ・・・きっとそのとき片付けるんだんべえ・・・てことは、ああ・・そのときキップを渡せばいんだんべえ」チップとキップを間違えています。「いやあ・・・ただ待ってるのも暇だなやあ・・・・・風呂でもはいんべえか?」さっきホテルの人が風呂とトイレの場所を教えてくれました。しかし、ここでふと考えました。「この風呂場にゃ、体を洗う場所がねえ・・・・風呂桶もねえ・・・・、どうやって使うんだんべえ?」悩んだときはフロントに聞けといわれましたから、与ひょうはベッドの上においてあった「浴衣」のようなものを着て部屋の外に出ました。エレベーターの下りのボタンを押して待っていると、開いたエレベーターからホテルの従業員が出てきました。その従業員は与ひょうのカッコウを見て一瞬止まりましたが、「お客様・・・その格好で部屋の外に出られては困ります・・・きちんとお洋服に着替えていただいて・・・あ、そのスリッパもちゃんと靴に履き替えていただいてから出られますようお願いいたします。」文句を言われましたので、与ひょうはぷんとふくれて部屋に戻りましたが、今度はドアが開きません。鍵を部屋の中に閉じ込めたまま、オートロックがかかってしまったのです。「大丈夫時かな・・・この客?」そう思って見ていたホテルの従業員が「お客様、今すぐマスターキーをお持ちいたしますから少々お待ちください」すぐに対応してくれました。その従業員に風呂の入り方なども聞いたのですが、風呂の中で体も洗うなんて信じられない事でした。ごめん。時間がなくなっちゃったので・・・続く
2007.02.26
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今日はまた夜に会議があって、書けそうもないんです。だから少しだけでも前に進ませたくって・・・・今書きます。 東京駅まで釣ること熊子が迎えに来てくれるはずだったのに、来たのは鶴子だけでした。「さあ、じゃあ行きましょうか・・・・」駐車場から車を出して、向かった先は八王子方面でした。そういえば、熊子や鶴子の勤めている生命保険の会社は「西東京営業所 八王子支部」と言うところ・・・・与ひょうにはわかりませんでしたが車で移動すると、だんだん畑が広がってきて、とうとう「農協」の看板まで見えてきました。与ひょうにしてみると、「東京に畑がある」ことに驚かされたのですが、鶴子はなんに驚いているのかわかりませんでした。「この辺は、ユーミンの”中央フリーウェイ”の歌にも出てくるところなの」高速道路から見えるその風景は、農業地帯そのもの・・・・しかも、馬まで放牧されていたのです。「あれまあ・・・・わしとこでも最近は馬なんか見かけねえだが・・・ここにゃまだ馬が使われてるだね!・・東京の人は耕運機をしらねえだか?」それは競馬場の厩舎が見えるあたりだったのですが、与ひょうにしてみれば、馬は畑を耕すための生き物としか知りませんから、「競馬」という賭け事があることすら知らなかったのです。しばらくすると、「スリー・バード・ビール」という大きな看板が見えてきました。「ここがあの歌にうたわれてるビール工場よ・・・ね、ユーミンの歌の通りでしょ」「ユーミンというと、あの水戸黄門で風呂にバッカはいってる姉ちゃんだろうが・・・・、あのおなごが歌手だったのかね?」ユーミンの唄など聞くこともなかったのでしょうか、完全に「由美かおる」と間違えているらしかったのです。それよりも「ゴクリ」・・・と与ひょうののどがなります。朝から水気の物は一滴も飲んでいませんでした。「もう少しでつくから・・・ついたらなにか飲みましょう」そうこうしているうちに、車はある駐車場に入りました。「月極駐車場」と書いてあるその駐車場には10台ほどの車が停められていましたが、その空いているところに、鶴子は前向きに停めました。そこには「畑中様」と書いた名札が付けられていましたが、「アア、私の旧姓なのよ・・・・まだここに来たころは離婚が決まってなくてね・・・でも、今は完全に一人になったから、城崎っていう苗字に戻ってるわ。」聞きもしないのに鶴子は説明してくれました。その駐車場から、鶴子に連れて行かれたアパートは名前だけは「レジデンス・8プリンス」という豪華そうな名前でしたが、部屋は六畳一間に台所がついた小さなところでした。「狭いでしょ?・・・でもトイレと浴室が別々なの・・・・それが良くてここに決めたんだけど」確かに狭い部屋でしたが、女性の一人暮らしらしい・・・こぎれいな部屋でした。それに、与ひょうの家では絶対に嗅げないような・・・いい匂いが漂っています。「それで、わし・・・今日はここに泊めてもらえるだかに?」「まさか!・・・・今、亜由美さんとここで待ち合わせしてるのよ・・・・亜由美さんが来たらホテルのほうにご案内するわ・・・それまでコーヒーでも飲んで待っててくださる?」コーヒーは与ひょうも好きでした。「わしもコーヒーにはこだわりがあってのう・・・・この前まで黒い瓶のものを飲んでたんじゃが、最近ではちょっと金色のハッスルカフェゴールドブレンドっちゅうのを飲んでる。・・・・これが美味いんじゃあ」鶴子は台所にいて、与ひょうが話した言葉が良く聞こえていなかったのですが、「コーヒーがすき」という言葉だけ聞こえて・・・・「まあ、それはよかったわ・・・あたしも大好きなの」そう返事をしました。コーヒーが可愛いカップに入れられて出てきたのですが、与ひょうが「ゴールドブレンド」を飲むときはいつも、「纏寿司」から貰った大きな茶碗で飲んでいるので、砂糖の加減がわかりません。その茶碗で飲むときは、スプーン印の砂糖の袋から直接、カレーライスを食べるときのスプーンで山盛り一杯・・・砂糖を入れそのままかき回します。最後に、牛乳をチョビット入れて呑むとちょうどいいのですが、こんな小さなカップではほんと、加減がわかりません。鶴子のやっているのを真似して飲むことにしました。ところが、鶴子は根っからの「ブラック党」らしく、砂糖もミルクも入れません。鶴子は先ずその匂いを嗅ぎ、それから一口・・・・・・与ひょうも真似をしてみましたが、その匂いはいつものゴールドブレンドより薫り高く・・・さすが東京のコーヒーは違うと感じたのです。そして一口・・・・いつもじゃ砂糖甘いコーヒーに牛乳を足してどっちかというとぬるくなったコーヒー牛乳といった感じなのに、今日のはまったく熱くそして苦いコーヒーでしたから、吐き出しそうになりました。「東京のコーヒーと田舎のコーヒーはまるで違うなあ」そんな感想を漏らしたのです。 つづく
2007.02.26
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ジュニアのスキー大会があって、「十和田湖温泉スキー場」に一泊してきました。温泉旅館に泊まる機会の少ないジュニアですから、喜んじゃってね・・・・スキーの練習が終わって夕方・・・最初の入浴をしたら「極楽・・・極楽・・・」なんていいまして、それから夕飯後に1回、・・そして翌朝5時半にもう1回入りましたよ。旅館の料理はあまり良くなかったんですけど、それでも残さず「お代わり」までして・・・たまにはいいですよね。 新幹線に時間ぎりぎりに乗り込んだ与ひょうでしたが、自分の切符が指定席にもかかわらず、空いてる窓際の席に腰掛けちゃいました。とそこへ、トイレにでも行ってたんでしょう・・・本来の座席の主がやってきてけんかになってしまったんです。「そこは、私の席なんですけど?」「いや、わしは空いてたから座った・・・早いもん勝ちじゃ!」与ひょうは、子供のころ母親と在来線の自由席にしか乗ったことはありませんから、「座席指定券」なんて考えたこともなかったんです。「指定券は私が持ってるんだけど、あんたの席は間違いないのか?」その男は、まだおとなしく与ひょうに聞いてたんですけど、「ハハア・・・この男、ちょっと頭がよわいんだな?」・・・そう思ったんでしょう。「悪いけど、あんたのチケット見せてくれないかなあ?」与ひょうが握り締めていた切符を見せてくれるように頼みました。ところが、湯気が出るほど切符を握り締めていた与ひょうですから、なかなか見せようとはしません。与ひょうにしたら、切符を盗られると思ったんでしょうか・・・「泥棒!!!・・・泥棒!!!・・・」大きな声で叫んだのです。甚乃丞さんから・・「都会は怖いところだ・・泥棒、スリ、カッパライ・・・いろんな悪い奴がいるから、もし、そんな目にあったら、大きな声で人を呼べ」って言われてたんです。さあ、怒ったのは泥棒呼ばわりされたその乗客!「なんだとこの野郎・・・・」って事になりまして、あわや取っ組み合いが始まろうとしたとき、あわてて車掌が飛び込んできました。「マアマアマアマア・・・・・お客様、落ち着いてください」その車掌を見た与ひょう・・・・帽子の格好だけで「この人は駐在のお巡りさんと同じような帽子をかぶってるから、きっとお巡りさんだ」そう思ったようで、すぐに車掌の陰に隠れました。事情をすぐに飲み込んだ車掌は、与ひょうの切符を見せてくれるように頼みますと、今度はお巡りさんと思い込んでますから、素直に差し出しました。その切符は偶然にも、その座席の列の窓際ではなく通路側でしたが、車掌から、「あなたの席は窓のそばじゃなくて、こっちの通路のほうなんですよ」と言われると、恨めしそうな顔で、与ひょうは渋々座席を移動しました。本当なら車掌も、いったんは取っ組み合いになりそうな2人でしたから、離れた席にしようかとも考えたようなんですが・・・なんとかおさまりそうな雰囲気だったし、3列シートの真ん中が空席のままの両端だったので、そのまま、その席に座らせておくようにしました。なんとかおさまって、その窓際の乗客は興奮を納めようと文庫本を取り出し読み始めましたが、視線を感じます。与ひょうが恨めしそうにじっとこちらを見ていました。「なんだよ!」少し怒鳴り気味に言うと、与ひょうは・・・・「窓の外・・・・きれいだなあ」男は立ち上がり、首を動かすだけで「席を替わってやる」意思表示をしました。「え?いいのか・・・スマンのう」与ひょうは喜んで席を替わってもらいましたが、このままにしておかないのが与ひょうのいいところで、「あのな・・・・東京に行くと友達がまってるんや・・・その友達に土産を持ってきたんじゃが、またあとで送るからあんたにやるわ」与ひょうはあっという間に、その土産の包装紙を破り捨てお菓子を一個、その男に差し出しました。驚いたのはその男・・・・土産に持って来た物をその場で破いて自分に差し出されたお菓子・・・・その包み紙には「東京銘菓 ぴよこ」と書かれた、東京では有名なお菓子でして・・・・「おい・・・この男は東京へのお土産に東京のものを持って行くつもりなのか?」そう思いましたが、先ほどからの与ひょうの行動から見て取っても、「まともじゃない」と思っていましたから、そのお菓子を受け取りながらこういったのです。「このお菓子はね・・・・田舎の人にとっては美味いかも知れないけど、東京の人はあまり食べないんだよ・・・・できたら違うお土産のほうが良くないかなあ」親切にも教えてやったのです。そこへちょうど車内販売がやってきました。その商品の中に、ちょうど今新幹線が走っている地方の「名物団子」の箱を目ざとく見つけたその男は、「アア、今売りに来た団子なら、東京の人も喜ぶと思うよ」そういうと「売り子のお姉さん」を呼んでくれました。与ひょうは喜んで、その団子を買いました。与ひょうにすればちょうど良かったんです。実は、朝飯用に握ってきたおにぎりを、自宅のテーブルの上に忘れてきて、おなかがすいてしょうがなかったところに、人に親切にされ、そのお返しに「ぴよこ」を開けたのですが、もともと自分の好きなお菓子でしたので、残り全てを自分で食べてしまいたかったのです。新しいお土産を風呂敷に包みなおし、「ぴよこ」を食べ・・・親しくなった先ほどまでのけんか相手と、東京に着くまでいろいろな話をしました。「ほう・・・そうなんだ・・・・母親に死なれ1人暮らしねえ・・・・そこへ親切にしてやったお礼だって、東京の女性に招待されたって言うわけだね・・」「んだんだ・・・・鶴子さんが、東京の駅まで迎えに来るって言うだに、行くことにしただよ・・・・・」その男も、「こんな男が一人で東京に来るのは危ないな」なんて思ったんですが、「東京には同級生の熊子も迎えに来てくれる」・・・という言葉を聞いて、まあそれなら・・・と思ったわけで・・・・まあ、赤の他人の話しですから気にもせず、ずっと話をしていよいよ東京駅に着きました。その男が先におり、あとから与ひょうが降りていくと、鶴子は迎えに来ていたのですが、与ひょうに声をかける前にじっと先ほどまで与ひょうと話していた男の後姿を目で追っているのです。「鶴子さん・・・どうかしたか?」「ア、いえなんでもないの・・・・じゃあ、行きましょうか」こうして、与ひょうは東京についたのです。 つづく
2007.02.26
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ジュニアのスキーの写真・・・・ある方から、「まずいんじゃないの?」って言われました。だから、今度自分の撮った写真で、いいのを探してみます。大騒ぎしてごめんなさい。 1月10日に東京へ行くことが決まり、それから2~3日はウキウキしていましたが、そのうち稲刈りが始まり・・・忙しくなってきたのでちょっと忘れかけていたころです。役場に勤める同級生・・・坂本小次郎が与ひょうの家を訪れました。「与ひょう・・お前東京へ行くんだって?」「なしておめえ・・・そっただこと知っとるんだ?」「いや、さっき役場のほうに熊子から電話があってな・・・・・今度与ひょうを東京に呼ぶんだが、服装なんか、ちゃんと面倒見て送り出してくれって言うんだよ。」「ああ、背広着ろだの、長靴じゃいかんだの・・・あんなうるせえ女子だったかの?・・・背広はあるけんど、革靴より長靴の方がピカピカしてて綺麗なんじゃがのう」「お前背広なんぞ持ってたか?」「ああ、お前の結婚式や、母ちゃんの葬式に着たのがある」「ありゃ、礼服じゃ・・・・あれを着て旅行にいっちゃまずいだろ!・・・それにネクタイだってそんなことじゃ白と黒しかないんじゃろ?」「お前・・・わしの家のたんす覗いたな?」「そんなもの見なくってもわかる・・・・オイこれから背広買いに行くぞ」こうして、与ひょうは小次郎に連れられ、となり町の洋服屋にスーツを買いに出かけました。「洋服のマスコット」という店に連れて行かれましたが、実はこの店で礼服を買ったので店員が与ひょうの事を覚えていました。「いらっしゃいませ・・・・毎度お買い上げいただきましてありがとうございます」「あ、わし、前にここに来たことあるなあ・・・・お前、わしのこと覚えとったか?」「ええもう赤い礼服はないのか・・・とか馬鹿・・・・いや・・・馬鹿。。にご陽気なお客様で・・・」小次郎は「赤い礼服」を注文している与ひょうの姿が想像できましたので、「お前は黙ってろ・・・・あ、店員さん・・・・この男のスーツ見立ててくれないかな?」・・そう言って店員に頼んだのでした。「それでしたらいいのがございますけど・・・・ちょうど今セールが始まりまして、2着目は1000円でお買い上げいただけますし・・・それとさまざまなセットになっておりまして・・・・ワイシャツ、ネクタイ、ハンカチ、靴下、それに革靴までついてお得になっておりますが・・・」小次郎は与ひょうがスーツを持っていないことを思い出し、この際2着買わせてもいいだろうなんて思いました。「オイ、与ひょう・・・2着目のスーツは1000円だそうだ・・・2着目も買おうな?」しばらく考えた与ひょうは・・・「それじゃあ、その2着目のスーツだけ買おう・・・・2着目のスーツを2個、クレ!・・・・2000円でいいんだな?」小次郎は頭が痛くなりました。与ひょうに任せておいてはいつになっても決まらないと判断した小次郎は、全部自分が決めることにしました。こうして、与ひょうは紺のスーツと、茶色のスーツ青のワイシャツとピンクのワイシャツ・・・それに2本のネクタイと2足の靴下・・・そして最後は革靴まで手にいれ・・・しめて39800円のお買い物をしたのでした。「2着2000円ですむはずだったのに・・・・・」帰りの車の中で与ひょうはまだ文句を言ってましたが、小次郎はさっき試着室でスーツを着て見せた与ひょうが、意外と似合うのに驚いていました。「ぼさぼさの髪をなでつけ、髭をそったらそれなりのいい男じゃないか・・・これなら熊子に文句はいわれまい」と一安心していました。さていよいよ、出発の1月10日を明日に控え与ひょうの家には、甚乃丞さん、小次郎・・・それに熊子の母親が準備のためにそろっています。甚乃丞さんは、ずっと反対してたのですが、鶴子に会いに行くのではなく熊子も一緒だということでしぶしぶ了解しました。小次郎は服装の確認に来ました。「明日はどっちのスーツを着ていく?」紺のスーツの方が似合うような気もするのですが、サラリーマンらしくは絶対見えない与ひょうには、かえって茶色のスーツが似合うかもしれない・・・・・小次郎は迷いましたがけっきょく、与ひょうに任せることにしました。熊子の母親は、熊子に頼まれて東京行きの新幹線の往復チケットを持ってきてくれたのですが、なかなか実家には戻りたがらない娘のために、お土産用の大根やにんじんを与ひょうに持たせようとしていました。「おばさん、そんなのを持たせるのはやめてくれよ」小次郎が必死で止めるので熊子の母親はあきらめたようです。「おばちゃん・・・・土産なら心配すんな・・・わし、熊子の好きそうなお菓子をな・・・分校の有田先生に買ってきてもらってあるだに・・・・」こうして全ての準備が整い、いよいよ明日出発となりました。みんなは一様に心配していましたが、自分に与えられた事は全てやってあげたと思ってますから「じゃあ、元気で行ってこいよ」といいつつ、お別れをしました。明日の駅での見送りは誰もできないということでしたので甚乃丞さんはタクシーを朝一番で手配しておいてくれました。「タクシーが来たら、それに乗って新幹線の駅まで行くだぞ・・・なあにタクシー代はわしにつけてある・・お前は駅に着いたら新幹線の駅員さんにどうやって乗るか聞くだぞ・・・わし、時間的に出発のちょっと前には駅にいけるから、何とか見送りできるかも知れん」最後に、甚乃丞さんが与ひょうの家を出ましたが、与ひょうはまだ見ぬ東京にわくわくしていました。翌朝の事です・・・・・まだタクシーも来ないのに、与ひょうは玄関の前でタクシーの来るのを待ちわびていました。真新しいスーツを着て昨日教えられたようにネクタイをびしっと締めて・・・髪はポマードで固め・・・・髭も綺麗にそってありました。背中には唐草模様の風呂敷・・・・え、鞄じゃないのか?そうなんです、与ひょうの家には鞄と名のつくものは、中学校のときの白い肩掛けのズック製のものだけなんです。となれば荷物は風呂敷に入れて持つよりしょうがないのです。タクシーが着ました。タクシーの運転手さんも、実は同じ中学の2級先輩なんですが、その先輩・・・・与ひょうのスーツ姿に驚きました。いや、似合って驚いたんじゃないんです。上着が紺のスーツに青いワイシャツ、それにエンジのネクタイで・・・上だけ見ればカッコいいんですが、下のズボンが茶色のそれだったのです。紺の上着に茶色のズボン・・・・・ブレザーならまだしも、スーツにしては異常でした。さすがに先輩の運転手さん・・・・あわてて与ひょうのズボンを履き替えさせたのですが、与ひょうは、せっかく小次郎が選んでくれたのだからと、二着の背広を持っていくと言い出したのです。「上着を紺」、「ズボンを茶」に下のも、せっかく選んでもらったのだからという、与ひょうにしてみれば究極の選択だったのかもしれません。運転手は時間がないということで与ひょうを説得して、タクシーに押し込み、駅へと急ぎました。到着したのは出発ぎりぎり、間に合わないと思っていた甚乃丞さんが改札口で待っていましたが、風呂敷包みを見て驚き、あわてて「キヨスク」から大きな紙袋を二個買って持たせました。もう時間が余りありません・・・・「急げ急げ」甚乃丞さんは急がせようとしたのですが、改札の駅員に「東京に行くにはどうすればいいんですか?」なんて聞いてるんです。甚乃丞さんがあわてているのを、駅員は察知して、与ひょうの手を引きホームへと走り出しました。与ひょうはなにがなんだかわからないうちに、ホームへ連れて行かれちょうどそこへ新幹線が入ってきました。何とか間に合った与ひょう・・・・・これでとにかく、東京に出発です。背中には唐草模様の風呂敷を背負い、両手には大きな空の紙袋・・・・「あ、握り飯握ってきたのを忘れた。」この分ではきっと東京につくまで空腹で行く事になるのでしょうが・・・・マア東京への夢は膨らみ、それだけで満腹かもしれません・・・ つづく
2007.02.25
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先日あった「夜越山のジュニアのスキー大会」写真を撮ったんですけど小さくて載せられなかったんですよ。でね・・・昨日、スキー大会事務局からご案内が届いて、「写真撮影をしております。サンプルの写真をお送りしますが、ご注文をいただければ大きく引き伸ばして販売いたします。」それがね・・・「ストックワーク」なんか抜群で、オリンピック選手みたいなんですよ。それを買って、ここにアップしようって思ったんだけど・・・・これってやっぱり「著作権」が引っかかりますかね?なんかいい方法があったら教えてください!
2007.02.23
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バンザ~~イ!!!昨日銀行の貯蓄会があったんですよ・・・総勢100名くらいで。本店から専務さんがいらしてて、私にこう言うんですよ・・・・・・「支店長が、いつもきついことを言うのはナイト建設がよくなれば・・・と思うからなんですよ・・・仕事が多いって言うのも知ってますから、もっとよくするためにがんばってください」デモね・・・よけいな仕事を増やすんじゃなく・・・金策よりも本業のほうをやらせてくれるなら、もっと楽になるんですけどねえ。。。。でも、最後にその100人のお客様の中から抽選で、いろんな賞品のプレゼントがあったんですけどね・・・10個の賞品の中から、私に当たったのが、こともあろうに「支店長賞」!!!「フットスパ」って言うのが当たりました!!!どんなのかわからないけど、今日開けてみてみます。 「あっ、そろそろ東京に帰らないと・・・・・今日中につけなくなりますね」鶴子はあわてて立ち上がりました。甚乃丞さんは、鶴子が保険の勧誘に来たものと思い込んでますから、早くここを出て行ってもらい、与ひょうが騙されないようにしたいと思ってましたから、「アア、そうだなあ・・・・遅くなると田舎の道だで、真っ暗になってまた迷っちまうかも知れねえだからなあ・・・はようかえりー」せきたてる様にしていましたが、与ひょうは名残惜しそうな顔をしていました。その与ひょうの表情を見て取った鶴子は、甚乃丞サンの心の中を知ってか知らずか・・・・「そうだ・・・与ひょうさん・・・・今度東京にぜひいらしてください・・・その時はご馳走しますから」「行ってもいいのけ?」うれしそうな与ひょうの顔を見てあわてたのは甚乃丞さん・・・・「イヤ、こいつは東京なんぞ行ったことはねえし・・・・危なっかしくて出してやれねえぞ」そう言ったんですけど、与ひょう方は心ここにあらずで・・・・・「大丈夫ですよ・・・・それならあたしがご案内させていただきますし、亜由美さんもいらっしゃいますから・・・・じゃあいつごろにします?」鶴子はさっそく段取りをしようとしていました。「これから稲刈りもあるし、正月の準備もせにゃならん・・・・ちょっと無理じゃな」甚乃丞さんは、あくまでも阻止しようとするのですが、与ひょうの目の輝きが違ってきています。「わし、東京さ行って、ビルヂングっちゅうものを見てみたいんじゃ」「まあ、日にちはともかく、すぐは無理じゃ・・・・・それより、あんた。もう遅くなってきたぞ・・・はよう出発せにゃ」甚乃丞さんはあとから与ひょうに言い聞かせることにして、一刻も早く鶴子を追い出そうと思っていました。「そうですね・・・・じゃああとからご連絡いただいたら、さっそく手配させていただきます。・・・じゃあその時にでもまた・・・・・」鶴子はそう言って、自分の軽自動車に乗り去っていきました。鶴子の車が視野から消えてすぐに、甚乃丞さんは与ひょうに懇々と説教しました。「お前なあ・・・・都会のおなごの恐ろしさを知らんのじゃ・・・・」「そったらこと言ったって、甚乃丞さんの鼻の下も、ずいぶん長くなってたぞ」「わしゃいいんじゃ・・・いろいろ経験豊富だで、そったらごど慣れっこだに・・・じゃが、お前は無垢の人間じゃ・・・あんな東京の女狐にゃ、ころっと騙されるだに、気をつけにゃいかん・・・・東京に行っちゃならんぞ」そこまで言うと、甚乃丞さんは、急ぎの仕事を思い出し、かえって行きました。「あんなきれいな人が、女狐だなんて・・・甚乃丞さんももうろくしたんでねえか?・・第一しっぽなんぞ出てなかったぞ・・・・もし、狐だったとしても、わしゃ駐在さんと仲良しじゃ・・・行くときは鉄砲を借りていくけん、そんなときゃ、すぐに撃ち殺してくれる」与ひょうはまだ見ぬ東京に夢を抱き、いろいろなことに思いをめぐらしていました。「東京には東京タワーがあることは知っとったが、この前テレビを見とったら、東京タワーも結婚したみたいで、子供まで出来ておったなあ・・・・あんなものまで結婚できるんじゃから、わしにもきっとお似合いのおなごもいるはずじゃ・・・・それにしても鶴子さん・・・えがく綺麗な人じゃった。・・・隣村の恵さんと同じくらい綺麗な人じゃったなあ・・・」与ひょうは、コマーシャルも実際も区別できないくらい純粋な人でした。「あのよくばり熊子が、行ったっきり戻ってこねえ・・・なんかきっといいこともあるんだべえ」与ひょうの夢はますます膨らみました。それから二週間ほど経ったある日・・・・与ひょうが夕飯を済ませ、そろそろ風呂にでも入ろうかと思っていたころ、一本の電話が入りました。「もしもし・・・・あたしよあたし・・・亜由美よ」熊子からの電話でした。今日から読み始めた人にご説明をしますと、亜由美というのは、与ひょうの中学時代の同級生でまこと本名は「佐藤熊子」・・・・若いころ渋谷を歩いているときにモデルクラブのキャッチセールスにスカウトされ、そのモデルクラブに入会金を払って所属して以来・・・・モデルとしての仕事はしていないが「自分はモデルよ」といい続けているのです。もちろん仕事がないということは収入もないわけで、本人はアルバイトに保険の外交員をして生計を立てているのですが、どちらが本業かというと・・・・あくまでも「モデル」と言い張る熊子でした。「あんた、こんど東京で鶴子とデートするんだって?」「ベントウ・・・うんにゃ、弁当は食わねえだども、東京さ案内してくれるっちゅう話しだが・・・・」「黙って聞いて!」この「黙って聞いて」っていうのが熊子の口癖でした。「いつ来るのかということと、あんたに服装の注意をしとこうと思ってね・・・でいつ来るの?」「そうだなあ・・・正月が開けて10日ぐらいかな」「じゃあ1月10日に準備しとくわ・・・切符の手配はうちの母さんがしてくれるよう電話しとくから・・・・それとね・・・どんな服装で来るの?」「ああ、それなら去年の祭りで青年団で新調した半纏があるから・・・・」「それはやめて、背広にしてちょうだい・・・・」「あれなあ・・・・小次郎の結婚式のとき着たんだども”猫帯”っていうのが難しくってなあ・・・」「猫の帯じゃなくてネクタイ!・・・それと靴はどうするの?・・・・」「アアそれなら、この前穴が開いたんで、新しい長靴買ったばかりじゃから」「それも結婚式のときに革靴はいたんでしょ?」「ありゃ、水溜りを歩くときにゃ不便だぞ」「黙って聞いて!!」こうして、1月10日与ひょうは東京に行くことに決まったのです。
2007.02.23
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今日も何かと忙しくって・・・・だから少ししか書けないけど、ある人から、・・・「あまり長いと読むのが面倒になるから、短いほうがいい」って言うご指摘もいただきました。だけど、自分の自由に書かせていただきますから・・・・・ 与ひょうの家の縁側で、甚乃丞さんと鶴子、そして与ひょうの3人は、しばらくの間、羊羹とハーブティで盛り上がっていました。「イヤア・・・わしゃ、普通の煎茶しか飲んだことがないからのう・・お茶っぱが古くなってく腐っとる思ったんじゃが、・・・こんなお茶もあったんじゃなあ」甚乃丞さんは、茶碗の中を覗き込みながらそういいました。「都会では、けっこう皆さん飲まれてるんですよ。」鶴子は暗に「自分は都会から来たんだ」ということを強調しました。「都会って、あんた東京からきたんか?」与ひょうはさっきからニコニコ笑って話を聞いているだけで、会話は主に甚乃丞さんと鶴子がしていました。「ア、そうなんです・・・・こちらの近くにお客様が戻ってらして、その手続きのために来てたんですけど、亜由美さんについでだからって用事を頼まれまして・・・」「亜由美・・・・誰じゃ、そりゃ?」ここで、与ひょうが始めて口を開きました。「甚乃丞さんが知らんのももっともじゃ・・・・ほれ一本杉の熊五郎さんとこの熊子・・・・あれのことなんだと・・・・」「アア、お前と同級生じゃった熊子のことか・・・なんじゃ!」「この鶴子さんと漫才っチュウのをやっとって、プラモデルもつくっとるらしい」鶴子は大声をだして笑ってしまいました。「亜由美さんって、本名が熊子さんって言うの?・・・・ア、でも熊と鶴・・・動物つながりの漫才師みたいですけど、そんなんじゃありませんよ」ひとしきり笑い終わると、鶴子は自分のことを語り始めました。「亜由美さんと私は、保険の外交員の仕事をしてるんです。・・・・そりゃ、亜由美さんはスタイルも抜群ですから、モデルクラブにも所属されてるようなんですけど、今はほとんどメインで保険のほうのお仕事されてます。」そう言って、名刺を差し出しました。「イグサ生命保険西東京営業所 八王子支部 城崎鶴子」名刺を貰っても、西東京とか八王子・・・・見たことも聞いた事もありません。「東京のほうでご契約していただいたお客様なんですけど・・・急にお引越しなされ、住所変更のお手続きなんかで、こちらに伺ったんです、・・・そしたら亜由美さんから荷物をご実家に届けてくれと言われまして。。。それで先日こちらに参ったんですけど、道に迷っちゃって・・・・」農道に迷い込んで、あわててUターンしようとして脱輪したようです。「ところで、こちらの奥様は?」鶴子の質問に、甚乃丞さんが答えました。「こいつはヒトリミだに・・・・」「あら?・・・でもお母様がいらっしゃるって」さっきから、甚乃丞さんだけが答えているので会話に加わりたくなったのか、今度は、与ひょうが答えました。「ああ、母ちゃんは去年死んだ・・・・熊子から聞いたんだべ?・・・・あいつ、東京さでてから、一度も帰ってきてないだに・・・・うちの母ちゃんが死んだのもしらねぇんだ」この会話を聞いていて、甚乃丞さんは、ハッと思い当たりました。「ははあ~、このおなご、保険の勧誘さ来ただ・・・・」こりゃあ、与ひょうのためにも、しばらくついててやらないと・・・・甚乃丞さんは、腰を落ち着けることにしました。甚乃丞さんが、腰を落ち着けた理由を知ってか知らずか・・・鶴子は話を続けます。「それはそれは・・・・ご愁傷様でした・・・でもお1人だとお寂しいでしょう?・・・実は私もバツ一で・・・・ひとり暮らしなんです。・・・・・それまで田舎のほうに住んでたんですけど、離婚を機に東京に出て・・・・心機一転やり直そうと思ってるんですけど・・・・逆に都会のほうでは隣近所とのお付き合いもないから、孤独感が増しますわ・・・・」鶴子はさびしそうな顔をしました。 あ。時間だから・・・・つづく
2007.02.22
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さっきは中途半端なところで終わっちゃったんで、その続きを書きましょう。 与ひょうが家につくと、さっそく台所に行って冷蔵庫を開けてみると、そこには綺麗な包装紙に包まれた箱と、鯵の干物が入っていました。鯵の干物は隣の家の甚乃丞さんがくれたもの・・・・もうひとつの箱がきれいな女の人が「お礼に」といって持って来たというお土産でしょう。「なんなんだろうなあ・・・・」丁寧に包装紙をはがしてみると、それはなんと、宮内庁御用達という「虎印羊羹」でした。めっぽう甘いものが好きな与ひょうでしたから、さっそく一切れいただくことにしました。包丁を取り出し1センチほど切ったのですが、それはそれはあま~い羊羹でした。「そうだ、2本も入ってるんだで、甚乃丞さんにもあげんべえ」隣といっても、歩けばけっこうな距離がありましたから、与ひょうが持って行くにはちょっと遠い・・・・「電話して、取りに来てもらうべえ」さっそく電話しようとすると、受話器をとる前にベルが鳴りました。「もしもし、あたしよあたし・・・・いまねえ・・・東京からなの・・・」「えーっと・・・どちらさんでしたっけ?」「いやだ・・・覚えてないの?・・・中学で同級生だった、佐藤よ・・・」「ああ。佐藤って言うと熊子け?」佐藤熊子・・・・田舎の小さな中学校でしたから、同級生は3人しかいませんが、女の子は熊子ひとりだけでした。「その名前で呼ぶのはやめて!」熊子は、大きな声で怒鳴るのです。「熊子を熊子って呼んじゃいかんのけ?」「そうよ・・・あたし、今の名前は亜由美っていうの・・・今度からそう呼んで」そういわれても、中学を卒業して、彼女ともうひとりの同級生「坂本小次郎」は、地元に高校がないおかげで、県庁所在地にある高校に入学し・・・・小次郎は村役場に勤めるために故郷に戻ってきましたが、熊子・・・・いや亜由美はそのまま東京のデパートに就職したという話で、一度も故郷に帰ってきていませんでした。「それで・・・熊・・・いやその・・亜由美が、今日はあんの用かね・・・・?」「あ、あたし今、モデルやってるのね・・・それで、妹分がいるんだけど・・・」「ほう・・・珍しい事をやってるんだな・・・・プラモデルを作るんか」「黙って聞いて!」熊子は昔から、与ひょうが何か言うとその言葉をさえぎり、必ず「黙って聞いて」って言うんです。「黙って聞いて・・・・その妹分がこの前、あたしに用事を頼まれて、あたしの実家に物を届けてくれたのよ・・・・そのとき車が側溝に落ちたんだけど・・・・そのとき、村の人に助けてもらったんだって・・・・人相をよく聞いたらどうも与ひょう君らしいなって思って・・・・、実はね・・・今日もあたしの用事でそっちに行ってもらってるんだけど・・・・あんたにお礼がしたいって・・・まだ行ってないでしょ?」そう言えば二週間ほど前、色の白い女の人が軽自動車を村道のでこぼこ道を走り、側溝に片輪を突っ込んで困っていたとき、与ひょうがその馬鹿力で持ち上げてあげたのでした。「ああ、あの女の人か・・・・・色の白いきれいな人だな?・・・・来たようだども、わしおらんかったからなあ・・・・わしと甚乃丞さんと間違えて・・・甚乃丞さんにお礼を言って帰ったらしい」「あら、鶴子あんたに会わなかったの?・・・そう・・・あ、そうだ・・まだあたしの実家にいるはずだから、もう一度あんたのとこに行かせるわ」「熊子と鶴子か・・漫才っちゅう奴をやってるコンビだな・・・お前ももう30過ぎなんだからプラモデルなんぞにはまっとらんで、早よう嫁に行くことも考えんとな・・・・」熊子は黙って電話を切りました。与ひょうは、切られた電話をしばらく眺めていましたが、甚乃丞さんへ電話する事を思い出しました。甚乃丞さんも甘いものが大好きで、すぐに取りに行くと言う話し・・・・・しばらく待つと、いつもの軽4輪のトラックに乗って甚乃丞さんがやってきました。「羊羹はいいが、お前んとこは婆さんが死んでからお茶もないからのう・・・・」お茶の葉っぱがないわけではないのです。与ひょうの母親は、ガスコンロにマッチで火をつけていたのですが、与ひょうにマッチを使わせるのが恐くて彼にはガスコンロに触らせませんでした。実は今、母親からその話を聞いていた親戚のおばちゃんが、電池でカチカチっとまわしながら点火するタイプのガスコンロを買ってくれて、簡単にお湯も沸かすことができるようになったのです。「甚乃丞さん・・・わしを馬鹿にしちゃいかんぞ・・・・お茶ぐらいあるぞね・・・・」ただ、一人でお茶を飲む習慣がなかったので、しばらくの間、お茶も急須も使っていませんでした。お湯を沸かし、急須でお茶を入れたのですが、「おい、なんじゃこのお茶は・・・なんか変な匂いがしとらんかのう?」・・・・甚乃丞さんが言いました。「そうかのう・・・・お茶の葉っぱを買ってくれたおばちゃんは、高級なお茶だというてたんだけんど・・・腐ってるのかのう・・・・・」甚乃蒸さんは、ひとくち、口に含んだお茶を吐き出しました。その時です。・・・「ごめんください」・・・玄関に誰かきました。「ハ~イ・・・どなたか知らんが、わし、縁側におるんじゃから、こっちのほうに回ってくださらんかのう?」そこへ現れたのは白っぽいスーツ姿の若い女性でした。「こんにちは・・・あたし、先日助けていただいた城崎鶴子って言います。・・・あなたが本物の与ひょうさん・・・ですよね?」「そうそう・・・この女の人だ」与ひょうはあの脱輪した車のことをはっきりと思い出しました。「さっき、こちらの方が与ひょうさんだと勘違いしてお礼を言ってしまったんです・・・・なんか、事故のときに会った人と違う人だなあって思ったんだけど・・この前はあわてていて、お礼を言う暇もなく・・・ごめんなさい」「まあまあ・・・そんなことはいいから、こっちへ来てお茶でも飲みなせぇ・・美味い羊羹もあるでよう」与ひょうがお茶を勧めると、甚乃丞さんはあわてて止めました。「おい、このお茶は腐って・・・」でも鶴子はそのお茶を美味しそうに飲みました。「あら。ほんとに美味しいわ・・・このハーブティ」どうやら普通のお茶ではないようです。「田舎の羊羹で口に合わんかも知らんけんどこの羊羹も食べなっせぇ」与ひょうがそう言うと鶴子は口に手を当てて笑い出しました。「だって、それ・・・あたしが持って来た羊羹じゃなくって?」そのあと、鶴子は綺麗な歯並びを見せ大きな声で笑い出しました。 短編のつもりだったのに・・・つづく
2007.02.21
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長きに渡ってご愛読いただきました「トンネル越冬隊」でしたが、なんとなく終わってしまいました。まだ、「夢の続き」なら書くこともあるのですが、「恋愛もの」というのに辟易していらっしゃる方も多いと思うので、ちょっと童話集に逃げようかと思ってます。今回は「鶴の恩返し」でいこうと思うのですが、私、コーラスをやっててその当時お付き合いのあった方から「オペラを見に行かない?」と誘われ・・・・ついていったのが「夕鶴」という舞台でした。高尚な趣味を持たない私でしたが、題材が子供のころからなじんだ物語でしたから、眠ることもなく最後まで見ることができました。でも、その舞台を勤められた主役の女優(歌手と言うべきかな?)さんなんですけどね・・・・「鶴」というにはあまりにも体格がおよろしくて・・・・白い着物を着てる姿は、どちらかというと「両国国技館」のほうがお似合いのように思えたんですよねえ。 むかしむかし・・・・といってもそれほど昔ではないむかし・・・・・あるところに、「与ひょう」という若者が住んでおりました。この男、少々おつむが弱く・・・昨年までは年老いた母親と暮らしておりましたが、その母親も「与ひょう」のことを心配しつつ亡くなってしまいました。それでも、親孝行な息子で優しい性格をしておりましたから、独りぼっちになった「与ひょう」を近所のみんなが可愛がってくれましたし、猫の額ほどでしたが畑も耕しておりまして、なんとか食べることだけはできました。その日は母親がなくなった月命日で、与ひょうはお墓参りに行ったのです。「かあちゃん・・・わし独りぼっちになったからほんとにさびしいよ・・・家に帰っても誰もおらんし、テレビを見ていても面白くないし・・・話し相手がおらんと、本当につまらんのう・・・」お供え物をし水を掛けながら、与ひょうは墓石に話し掛けていました。小さな田舎の墓地ですからまわりには葦が生い茂り、殺風景な景色でしたがその葦の向こうに一本の農道が走っており、そこへ一台の軽4輪トラックが差し掛かりました。「お~い、与ひょう・・・・やっぱりここにおったんか・・」それは隣の家に住む甚乃丞さんでした。トラックから降りてきた甚乃丞さんは、立ち止まって与ひょうの母親の墓に手を合わせ、それからおもむろに与ひょうのほうを向いて・・・・・「今、お前のうちに行ったんじゃ・・・・・うまそうな鰺の干物を貰ったんでな・・・お前にも食わせてやんべえと思って行ってみたんじゃが、誰もおらんから冷蔵庫の中に入れてきた。・・・・晩飯にでも食ってくんろ」甚乃丞さんは、この与ひょうがとても大好きでしたから、母親が亡くなった当初から、とても親切にしてくれます。「それでな。台所からでてきて靴を履こうとしたら・・・きれいな女の人が一人尋ねてきたんじゃが・・・それが大笑い・・・・・わしのことをお前と間違ってな・・・・与ひょうさん・・・先日お助けいただいたものでございます・・・・本日はお礼に参りました・・・ってい行って何やら・・・品物をわしに預けて行ったんじゃ・・・それがなんなのかわしは知んねえ・・・・食い物だと思うから冷蔵庫の中に入れてきたども・・・早く行って開けてみんしゃい」与ひょうは、きれいな女の人を助けた記憶がありませんでした。「誰かと間違っておるんじゃろう・・・・まあええわ・・・かえってその品物を開けてみるべえ」与ひょうは、帰り際・・・もう一度母親の墓に手を合わせ家路を急ぎました。 アア、ごめん・・・・また時間だ・・・・短編のつもりだけど・・・つづく
2007.02.21
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今日は朝から、珍しく雪が降っています。暖冬で、生活はしやすかったんですけど、ヤッパリ通常の降雪じゃないと、不安になってきますよね。まだ除雪するほどの雪じゃないですが、雪を見てほっとしています。 翌朝8時ごろ・・・・私は自室の布団の中で目覚めました。夕べから何度も何度も・・・・その美子は既に起きだしていたようです。カーテンをあけ空を見上げると、まぶしいくらいの陽光が私の全身の素肌に染み込んでくるようでした。「いつの間にか雪はやんでたんだなあ・・・・」今日も除雪隊が来るかどうか・・・・私にはわかりませんでしたが、昨日までの不安が嘘のように解消し、晴れ晴れとした気分です。抑圧されていた非日常が一気に爆発をしてしまいましたが、後悔の念はありませんでした。「香織にちゃんと話そう」香織とは婚約解消になるかもしれませんが、ふもとに下りたら香織にきちんとこの経過を話し、どちらの関係も綺麗に清算をしてから、改めてスタートしたい・・と言う気持ちになっていました。もしかしたら、香織は許してくれないと思いますし、美子にしたって今回の異様な状況は事故と思っていて、どちらも私の元を去っていくかもしれません。それならそれで仕方ないし・・・自分の人生を自分でもう一度築きなおしていくだけ・・・そう考えていました。作業服に着替え、私は事務所に向かいましたが、食堂にも事務所にも、美子の姿はありません。しかし、食堂のテーブルの上には朝食の用意がしてありました。といっても、ハムエッグが作られていて、あとは食パンが一枚おいてあるだけ・・トーストを焼きながらハムエッグを箸でつまむと、まだ温かく・・・さっき作ったばかりという感じでしたので、なぜ一緒に食べないのか・・・と不思議に思いましたが、そういえば彼女の食べた痕跡がありません。その時私はふっと何かを感じ、急いで彼女の部屋に行ってみました。ノックもせずにドアを開けて・・・・誰もいませんでした。部屋の中はきちんと整理され、使っていた布団も折りたたまれて押入れの中に入っています。私はその足で、今度は風呂場へ向かいました。風呂場にはもちろん誰もいず、洗濯乾燥室には私の洗濯物が全てきれいに干してありました。「どこに行ったんだ・・・・・」私は考え続けながら事務所に戻り、ふと外を眺めると、駐車場にあるはずの美子の乗用車が見えません・・・・その車のあった場所には数頭のカモシカがいるだけでした。道路はまたいつものように、カモシカが踏み均したのか・・・・車一台分の道路が除雪されたようになっていましたが、車でどこかに移動したにしてもタイヤ痕がありません。「どこに行くったって、この雪の中を・・・・・」まさかとは思いましたが、私はジープに乗りトンネルの坑口に向かいました。車のタイヤのあともなければ、美子自身の足跡もありません。だから彼女がトンネルの中に入ったとは思えませんでしたが・・・「トンネルの中に入って見たいっていってたからな」途中の火薬庫にも彼女の姿は見えなかったのですが、とりあえず、火薬庫の中も確かめてみました。休憩所も覗いてみましたがもちろん誰もいません・・・・坑口につき、しばらくつけていなかったトンネル内の明かりのスイッチを入れると、一瞬にして、トンネル内全ての明かりがつきました。300メートル先の切り羽も全て見通せましたが、美子の姿は見えません。代りに・・・・あの大カモシカの姿が見えたのです。私はその大カモシカの近くまでジープを進めました。大カモシカは私の来るのを待ってたように思えたのです。私が切り羽のそばで車を止め、降りて近づくと・・・・・彼は正月に大勢の仲間を引き連れてやってきたときのように前足を折り、頭を何度も振りながら、私にお辞儀しているように見えました。そしてそのカモシカの影には・・・タッキーがいたのです。「タッキー・・・・彼女の姿が見えないんだ」以前体験したように、タッキーが私の頭の中に話し掛けて答えてくれるような気がしていました。しかし、タッキーはなにも答えません・・・・私は背中になにか気配を感じ振り返ると、20頭ほどのカモシカが坑口から切り羽に向かって歩んできます。初めはバラバラに・・・・それがいつの間にか隊列を組むと突然そのカモシカたちが兵士の姿に変化し、行進する姿となったのです。そして今度は先ほど大カモシカがいた位置から大きな声で・・・・・「軍歌・・・雪の進軍」もう一度振り返り大カモシカを見ると、そこには先日夢で見たひげの将校が立っていました。兵士の行軍は歌とともに進みます。「♪雪~の進軍、氷を踏んで、ど~こが河やら道さえ知れず~、馬~は斃れる捨ててもおけず、此処は何処くぞみな敵の国~~」そしてその将校も隊列に加わり、真っ直ぐに切り羽へと向かい・・・・・その固い岩盤の中に吸い込まれるように消えていきました。私はあっけに取られてみていましたが・・・最後にタッキーまでもがその隊列の最後尾に着き、一瞬私を振り返って、岩盤の中に消えていったのです。「あいつ・・・・やっぱりトンネルの神だったんだ・・・・」私は彼らを見送ってから、しばらくその切り羽に立ち尽くしていましたが、やがて我にかえって事務所に戻ることにしたのです。「やっぱり美子も・・・・・」事務所に帰る道すがら、私はそんなことを思っていました。事務所につくと、私を待ちかねたように電話のベルが鳴りました。電話線が切れていましたからドキッとしましたが、きっと復旧したのでしょう。「もしもし・・・・」おそるおそる電話に出ましたが、相手は佐々木副所長です。「アア、杉田か・・・スマンスマン・・・・市内の除雪優先でな・・・・早く行ってやりたかったが、ようやく行けるよ・・・・ロータリーで吹き飛ばしてるから、2時頃には着けるぞ」「アア、佐々木さん・・・あの新聞記者が・・・・・」美子は佐々木副所長の紹介でこの現場にやってきたのですから、私は彼女が行方不明だということを話そうとしました。「新聞記者?・・・山を除雪するのに新聞取材なんかこねぇよ・・・・」「いや、そうじゃなくて佐々木さんの紹介してよこした女性記者のことで・・・」「俺が紹介した?・・・俺に新聞記者の知り合いなんぞいねぇよ・・・それよりな、ここに心配して香織ちゃんが来てるんだ・・・ちょっと代わるぞ」「ア、もしもし・・・杉田君・・・・」香織ちゃんは、私の声を確認して・・・そのまますぐに泣き声になってしまいました。「アア、安心したんだろう・・・泣いちゃったけど、彼女も一緒に山に連れてくからな・・・・2時まで、身支度整えて待っとけ」そういうと電話は切れました。やっぱり美子は、人間じゃなかったんだなあ・・・・佐々木とは何にも関係ないことがわかって、私はかえってほっとしました。2時になり、私は除雪隊をようやく出迎えることが出来ました。佐々木副所長を初め、所長、工事主任、前田さん、松本君・・・10人ほどの職員が戻って来ました。そして香織も、涙で顔をくしゃくしゃにしながら人目もはばからず、私に抱き着いてきました。正直なところ、どこかで美子が見ているような気がしましたが、私は香織の好きなようにさせておきました。トンネルの坑夫たちは、15日過ぎまで戻ってくる者はいないようです。こうしてトンネル工事の正月休みは終わり、私は予定通り、香織と2人で東京に出かけたのです。さて・・・時は過ぎ5月・・・・・私と香織は予定通り結婚式を挙げましたが、新婚旅行は、トンネルが貫通するまでお預けということになったのです。それは香織も了解してくれましたが、貫通は今年の12月ごろ・・・・「工事が長引けば、また正月の留守番してもらわにゃならんな」佐々木副所長に脅かされましたが、もちろんそうなっても、今度は今年新入社員ではいってきた、吉岡君が担当することになりそう。しかし、工事は順調に進み、トンネルの貫通式を無事12月中に終えることができ、私と香織は新婚旅行として「アメリカ西海岸の旅」に出かけました。サンデェゴの町に着き、大きな美術館の広場を歩いていたときです。アメリカでは珍しいであろう秋田犬の様な犬を見かけました。そばには乳母車を押した若い日本人らしい母親が・・・・そしてその乳母車にはまだ生まれたての女の子が乗っていました。「美子・・・・・」美子は、きっと私に、生まれた子供の顔を見せに来てくれたのかもしれません。言葉を交わすこともなく・・・彼らは立ち去って行ったのです。
2007.02.21
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「駄洒落だったのかよ~」皆さんの声が聞こえてきそうです。「山鹿美子」が、「山の神のこ」・・・・「山神子」だったと言うことで、格調高いと思われていたものが(?)一気に下がったと思われますが・・・・・気にしないもんねえ~~だ! 美子の文章はまだまだ続いていました。「山の神と人間との約束はまだまだあります。それは、雪女の民話にも描かれていますが、あれも実は山の神・・・・山姥伝説も山の神のお話になってて、山に迷い込んだ旅の若い男を取って食らうお話になっています。それは子供向けのお話であって、実は山の神の子孫を作るために100年に一度ずつ人間の男を捕まえては、山の神の子孫を作るために協力させるのです。人間の男が相手で”神の子”が作れるのかと言うお話にもなりますが、そこは人間との約束事で、今までそうやって子供を作ってきたのです。その約束事は雪女のお話しに代表されるように、人間の男を捕まえて食べる話しに変化してきて、最近では忘れ去られようとしていますが、実はそのような契約が大昔のお話には隠されているのです。今でもそうですが、よく山で遭難する人がいて、その人たちが山の神の生贄という形で捉えられています。山姥の子供として、”坂田金時”・・・つまり”金太郎”のお話がありますけど、彼も山の神である山姥と、山に迷い込んだ若い男の子供であり・・・・それで、あのように強い男のこのお話になっているのです。今年は、そのちょうど100年目・・・・八甲田山の”山の神”にはちょうどいい男が現れたようです。」そこで文章が途切れていました。「山の神」は自分の子供を作るために、旅の若い迷い人を捕まえて子供を作る手助けをさせていた・・・・・・・・もし山の神が美子自身の事であるなら、旅の若い迷い人とは私のことなのでしょうか?「ようやく気がついたのか・・・・・・」その言葉にハッとなって振り返りました。そこには、タッキーがいたのです。そして、私の頭の中に話し掛けているのです。「あの方は確かに山の神・・・・そして私は隧道の神である」隋道とはトンネルのことですから、タッキーは自分で自分のことを「トンネルの神」であることを認めました。「神様ならこんなまどろっこしいことをしなくても、俺のことなんか意のままになるだろう・・・・魔法をかけて俺を自由に操ることができるはずだ!」抵抗するようにタッキーに話し掛けると、彼は「フッ」と笑いながらこう言ったのです。「お前古事記を知ってるな?・・・・あの物語で、この地を作ったのが”イザナギ””イザナミ”のふた柱の神であることは知っているだろう?」イザナギが男神、イザナミが女神・・・・このふた柱の神が国を作り、いろいろな神々を生み出したという話は知っていました。「最初、柱を回って声をかけたのは女神であるイザナミの命・・・・その時は畸形の神々がお生まれになった。・・・・・・これはどうしたことかと思い悩まれたとき、男神のほうから声をかけなければ畸形の神が産まれる・・・ということを悟られて、次に神を作られるときから、男神・・・つまりイザナギの命から声をかけられるようになったのだ。」高校の教科書に確かそのような事が書かれていて、同級の女生徒がキャーキャー言って騒いでいたことを思い出しました。「お前は神ではないが、お前のほうから女神様に声をかけなければ、次の御子様は、畸形とは言わないが体の弱いお子様がお生まれになる確立が高い。・・・だからお前のほうから声を掛けてもらうよう、女神様もお考えになられたのだよ。」「他にも男はいっぱいいるだろう・・・・そうだ、隣のトンネルの後藤さんだっている」「若い男には違いないが、あの男は独身ではない・・・・神の父親になる者は、ほかの神の前で婚礼の契約をしていないものでなければならない。・・・・つまり、独身の男でなければならないのだ」後藤の薬指に結婚指輪のあったのを思い出しました。「だけど俺は5月に香織と結婚する・・・・」「しかし、まだ神前での契約はなされていない・・・・」ほかの神の前で契約していなければ、それでいいということらしい。「子供を作った後・・・・俺はどうなる?」「雪女の伝説を知っているか・・・・・あの話しだと、男は凍え死にさせられることになっているが、女神様が気に入られた男は助けていただくことができるのだ。」雪女の伝説では、確かに若い男が助けられているし、その前の男達は全て凍え死にさせられている。「俺はどうなんだ?」「俺があの方のお立場なら、とっくに殺している。・・・・・そうしないで除雪のものが山に登ってこないようにしているのは、もしかしたらお前しだいでは助けてもらえるかもしれないなあ・・・・」「俺はどうしたらいいんだ?」「俺が今、お前に教えてしまったから、お前から声をかけたということにはならないかもしれないが、何も考えずに・・・・そう・・・何も考えずにあのお方をお誘いし、子供を作ることができれば助かるかもしれない・・・・」このような話を聞いてしまってから、何も考えずに・・・というのは無理な話しだと思いました。「俺だって神様だからなあ・・・・俺が言った事を忘れさせてやることはできるんだが・・・・そうすると、またお前はかたくなに拒むかもしれない・・・・そうなればやがて、あのお方もあきらめてお前を凍え死にさせるだろうな・・・・」進むも地獄、退くも地獄・・・・・・・それならば、前につんのめったほうがいい・・・・私はタッキーに忘れさせてくれるように頼みました。「ワン!」私はタッキーの吼える声で、何か目が覚めたような気がします。「ア、タッキー・・・お前どこにいってたんだ?・・・・飯だって食ってないんだろう?」「ワン・・・ワンワン」彼は何か食べさせろといっていたようでした。「ようし、待ってろ・・・昨日カレーを煮込んだときの肉がまだ残ってるはずだからな・・・・」私は、冷蔵庫から豚こまを出してそれをタッキーに与えました。そして、肉を食べているタッキーに向かって「除雪隊が今日もこねぇんだよ・・・・このまま俺達どうなるのかなあ・・・・」と話していました。「そういえば、さっき俺、美子も泣かしちまったしよ・・・・さっさと謝ってくればいいんだけど・・・・」その時、・・・・・「ワンワンワンワン」タッキーは私に、「さっさと謝って来い」といってるようでした。「じゃあ、チョックラ行って来るわ」私は、美子の部屋の前に行き・・・・なぜか身なりを整えてからノックをしました。「山鹿さん・・・・いるんだろ・・・・・・さっきはごめん・・・・俺、たった一日のことなのに自棄になっちまってたようで・・・・あんたにつらく当たってごめんよ」中から返事が在りません・・・・・・「開けるよ」いつもの私なら、絶対に女性一人の部屋に許可なくはいることはなかったと思いますが、今日はドアを開けずにいられませんでした。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」中には美子がいませんでした。「洗濯してるのかな・・・・・・」私は洗濯室に向かいました。洗濯室にも美子の姿は見えませんでしたが、ドアをひとつ隔てた風呂場に・・・・・曇りガラスのドアの向こう側に、細身ながら女性特有のなだらかな曲線の美しい美子の影が映っていました。ハッとした瞬間・・・・私自身思いがけない行動をしていました。風呂場のドアを開けてしまったのです。そして、真っ直ぐに美子の肢体をながめ・・・・・「俺・・・・いってもいいのか?」考えられない言動までしてしまったのです。美子はこっくりとうなずきました。そのあとのことは・・・・・・・・・・ つづく
2007.02.20
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「皆さんから、コメントに気をつけるように」・・・って言われたんですけど、そんなまずいこと書きましたかねえ・・・・「これはいくらなんでもまずい」・・・そういうことがありましたら、お手数でも「私書箱」のほうへお知らせいただけませんか? たった1日予定がずれただけで、こんなにパニックになってしまうなんて私もどうかしてたんだと思います。28日からのお休みのはずが、27日からみんな休みを取ってしまって、実際は1人で留守番をする日が、半日増えていましたし、それを考えるとなんてことはないんです。でも、昨日除雪隊が来るはずなのに、来なかった・・・そして1日待っても、上がってくる気配のないことに、不安とあせりを感じ、その不満の捌け口に、美子につらく当たってしまったことを反省していました。私は、立ち上がり美子の部屋に行って謝ろうかとも思いましたが、なかなか脚が前に進みませんでした。美子の立ち去ったあとには、彼女の書いた「記事」が残されていて、、私は何の気なしにその「記事」を読んで見たのです。しかし、どうやらそれは新聞の記事ではなかったようです。「山の神と男」そんなタイトルの文章でしたが、新聞の記事にしてはおかしなタイトルです。どちらかと言うと、「随筆」あるいは小説」風のタイトルではないでしょうか。「山の神は女神である。だからトンネルの坑夫たちは、女性がトンネルの中に入ると嫉妬して災いを起こすと思い込み、女性がトンネルの中に入ることを忌み嫌う。はたして本当にそうなのだろうか?確かに山の神は女神ではあるが、人間を相手に嫉妬などするだろうか?神にとっては、人間もほかの動物も同じ動物と見做すのではないだろうか。神は、一度神と契約した人間の約束事が簡単に破られることに怒りを覚えるのである。それが証拠に、カモシカのメスがトンネルに入っても犬のメスがトンネルに入っても、その動物に罰は当たらない。ただ人間のメスが入った場合だけ罰が当たるのだ。それが人間と山の神の契約なのだから・・・・・・・・」まだ文章は続いていたのだが、私はなぜか、タイトルの下に書かれてあった彼女の名前が気にかかりました。「山鹿美子」・・・「やまがよしこ」・・・・・「ああああ!!」私は、その時始めて気がついたのでした。美子・・・・美しいと言う文字は「み」と読める。美子・・・・・みこ・・・・・巫女・・・しかも、「みこ」と読むなら「山鹿美子」は「やまがみ こ」と読める。「彼女が山の神だったのか・・・・・」タッキーが一度、彼女のことを「あの方」と呼んだことを思い出しました。私はその場にへたり込んでしまいました。 ちょっと出かけるんで・・・続く
2007.02.20
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今日、小学校に用事があって行ってきました。といっても、先日中止になった「スキー教室」に使うスキーを引き取りに行ってきたんですけどね。そしたら、ある先生とばったり・・・・その先生が言うんですよ・・・・「トンネル越冬隊ってハッピーエンドになるんですか?」先生にも読まれてました! しばらくの間、車のラジオを聴きながら横になっていましたが、音楽番組の無駄に明るい「パーソナリティ」の声が気に障って、エンジンを切り自分の部屋に戻りました。事務所にいても、美子に当たってしまうような気がして・・・そうなれば、また泣かれてしまうような気がして・・・・「泣きたきゃ泣けよ!」・・・そんな気持ちになっていました。だから、事務所を通らず、別の玄関から宿舎に真っ直ぐ入り、自分の部屋に入ったのです。部屋の鍵を閉め、敷きっぱなしになっていた布団にごろりと横になり、とりあえず目を瞑りましたがどうしても眠る事ができず、私は、買ったまままだ読んでいない小説を読み始めました。本屋で立ち読みをし、なんとなく面白そうだったから買った本・・・でも、活字を目で追うだけで内容はちっとも入ってきません。一冊の文庫本を読み終えたのですが、感動する事もなく・・・・・私はその本を壁に向かって投げつけていました。「他に何かなかったかな・・・・」活字のものはもう読みたくありませんでしたので、部屋の片隅に積み重ねてあった漫画週刊誌をペラペラとめくっていましたが、一度読み終えた漫画本でしたから読み返す気にもならず、それもすぐにやめました。「そうだ、新婚旅行の相談用に買った旅行ガイドの本があったな」私はそれが、自分の机の中に入っていたのを思い出し、一度事務所に行くことにしました。宿舎から事務所に向かう渡り廊下から、美子の姿が見えました。一瞬、美子の前で新婚旅行用の旅行ガイドを取り出すことに、なぜか躊躇いを感じたのです。夕べ、私が入っていた風呂に、一緒に入ろうとしたのが本当にこの美子なら、その彼女の目の前で「香織との新婚旅行」の本を読むのは・・・・・・しかし、逆に、美子をいじめたいという衝動にも駆られていました。「私は彼女に恋人がいると宣言し、結婚間近だという事も話した。・・・それでも、私に迫ってくる美子が悪いんだ」昨日の美子とこの美子が、違う人間ではないか・・・・昨日の美子は妖怪が変化したものじゃないだろうか・・・と言う気持ちがありながら、そんなことを考えていました。事務所に入ると、すぐに彼女は私のほうを見ました。彼女はさっきと同じ様に机に向かって「書き物」をしていたのですが、それほど筆は進んでいないようでした。仕事のときは、美子の顔を見ないように、背中合わせの机で作業をしたのですが、私が探していた旅行ガイドは私の袖机の引き出しに入っていましたから、今度は自分の机の場所に座ってその本を取り出しました。筆が進んでいないから・・・もしかしてただ座っていただけなのかもしれない彼女は、何の本なのか興味を持ったようでした。「その本はなに?」私はわざとその本をパラパラとめくり、・・・・「結婚して、新婚旅行をどこにしようかって決めた本さ」アメリカ西海岸の旅行ガイドで、実際は結婚式を5月にしても、このトンネルが貫通するまでは新婚旅行に行けないので、まだ旅行の申し込みはしていませんでした。ちょうど開いたページに、円筒形で鏡張りのようなホテル・・・ロスアンゼルスの「ボナベンチャー」というホテルの写真が写っていて・・・・「このホテルに泊まることになってる」適当な嘘を言ってしまいましたが、美子は私とその本から目をそらし、下を向いて無言になったのです。しばらくの間静けさが続き・・・・・「昨日はゴメンなさい・・・・あたしどうかしてたの・・・・・一週間をあなたと二人っきりで過ごし、あなたの奥さんになったような気になってたの・・・でも実際はなにも関係ない・・・・それがすごく不自然に思えて・・・・本当にゴメンなさい」そう言うと、今度は美子が自分の部屋に行ったのでしょう・・・・走り去ったのです。私は、たった一日の遅れだけで自棄を起こし、彼女に酷い事をしてしまったという、自責の念にかられていました。「こんないじめのようなことをしなくても良かったのに・・・・」 つづく
2007.02.19
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昨日は、「まかど温泉スキー場」まで行ってきました。ジュニアは、急なコースだと、「ボーゲン」で逃げようとしますから、「パラレル」の練習をし、ゴール付近での「「クラウチング」までやらせたんですけど、少し目を離すと、すぐに「ボーゲン」なんですよ。やれない分けじゃないのに、すぐ逃げちゃうから、「お父さんがゴールで見てて、ちゃんとやらないと、今日は泊り込みで練習する」って言ったら・・・・一発でできちゃうんですよね。「レースに勝ちたい」って言う気持ちがないのかな? 深夜まで待っても、除雪の来る気配はまったくなく、私は美子に「寝たほうがいい」といったのですが、彼女も心配で眠れなかったようです。まんじりともしない一夜が明けました。確かに、雪は降り続いていましたが、風を伴う雪ではなく・・・青森の言葉で言うなら「ノッツノッツと降る雪」でした。明け方になり、ラジオのニュースを聞いてみようと思って車に乗り込みます。いつものジープではなく、私個人の所有する乗用車ですから、エンジンをかけラジオのスイッチをひねり、背もたれをめいっぱい倒して寝転びました。雪のせいなのか、電波の状態は最悪でしたが、途切れ途切れの音声が入ってきます。「青森・・・・大雪・・・ふりつ・・・・除雪業・・・・・・・・・・さらに降り・・・・県内・・・・・交通・・・・状態となって・・・・・、県で・・・・今後の対策・・・・れる・・・・今後・・・・ご注意・・・・・」途切れ途切れのニュースは、市内でまたも大雪となっているように聞こえました。私は、エンジンをかけっぱなしのまま、事務所に戻りました。「市内でまた大雪になってるらしい・・・・・除雪は国道優先だからな」工事をしているトンネルは、将来的には優先順位の高い路線になるはずですが、今私たちがふもとからここまで来る道路は、もともと木を切って搬出するための林道ですから、除雪の優先順位は低いほうなんです。ましてや、現在、この林道沿いにいるのは私と美子、そして隣のトンネルの後藤という工事係だけですから、3人を助けるための除雪は遅れるのかもしれません。食料がないというならまだしも、とりあえずあと2週間は食べ物に困るということはないはずですから、後回しにされているのでしょう。その時です・・・・「バタバタバタバタ・・・・」ヘリコプターの音が聞こえてきました。「ア、もしかしたら救出に来てくれたのか?」しかし、それははるか上空で、青森県警のヘリか、あるいは新聞社の取材ヘリか、機体の表示も雪のためよく見えませんでした。「おーい!」私は外へ出て、そのヘリコプターに大きく手を振ったのですが、ヘリコプターはそのままどこかに飛んでいってしまったのです。「俺さあ・・・となりのトンネルの様子見てくるわ・・・・もし除雪隊が来たら、その除雪は隣のトンネルまで行くはずだから、俺がそっちに行ったって話しておいてくれればいいし・・・」美子は少し考えていましたが、「私がここにいて驚かないかな・・・・」「そりゃ、佐々木副所長がきっと説明しておいてくれたと思うから」美子が、取材に来て帰れなくなったことは佐々木副所長に話してあるし、彼女に来客用の部屋を準備するように話したのも佐々木副所長でしたから・・・除雪隊も、きっと彼女のことは聞いているはずです。「とにかく行ってくる」私はショベルローダーに乗り隣のトンネルまで出かけて行きました。油圧のホースが漏れてはいましたが、ただ走行するだけなら問題は無いはずです。ゆっくりですが、隣のトンネル事務所まで、順調につきました。そこのは、先日私のところに訪問してきた桜田ではなく、電話でしか話していない後藤がいました。「第一トンネルの杉田です・・・ふもとのほうからなにか連絡はありましたか?」電話線が切れてしまったこと、テレビのアンテナが倒れたことなどを話して、後藤がふもととの連絡をどうしているのか聞きだしたかったのですが、「電話線はそちらのほうで繋がらないんですから、私のほうでも繋がりませんよ・・・そちらが寄りふもとに近いんですからね」私もよほどあわてていたのでしょう・・・・そういえば同じ電話の線を使っていましたから、ここでも電話は使えなくなっているはず・・・「テレビのニュースはどうですか?」「ア。テレビのアンテナは大丈夫でしたから、映りますよ・・・青森市内の雪は大変なようですね・・・」テレビの画面では除雪車とダンプカーが排雪を繰り返し、青森市の港は棄てられた雪で、海面が見えないほど雪に覆われていました。私も長年、除排雪の作業に携わって着ましたが、これほどの物は見たことがありませんでした。「この分じゃ、今日は来れないかもしれませんね」後藤も少し、ガッカリしたように言いました。自分の現場事務所に戻るときも、雪は降り続いています。昼過ぎに着いたのですが、美子は私が戻るのを待って昼食の準備を始めました。「今日は、カレーを大量に作っちゃったから、カレーでいいでしょ?」夕べ、除雪隊のためにカレーを作ったので部屋中カレーの匂いが充満していましたが、あまり食欲はありませんでした。「食べたくない・・・」私はボソッと言ったつもりでしたが、美子にしてみれば怒っているように聞こえたのかもしれません。突然、彼女は大粒の涙を流し始めたのです。私はなにも言わずに、駐車場まで行き乗用車の倒れたままになっていたシートに体を納めました。またエンジンをかけ、ニュースを聞こうと思ったのです。ラジオからは、演歌がとぎれとぎれ流れていました。「こっちは、どうなるかって心配してるのに・・・・世の中は演歌を流すほど平和なんだ・・・・」なんとかして助けよう・・・現場に行こうという努力はしてくれないんだなあ・・・そう思うと、自分という人間が必要とされていないんだという思いがこみ上げてきました。同時に、笑い出したくなってきたのです。「フフ・・・フフフ・・・・ハハ・・・ハハハハハハハハ」最初は含み笑いのように・・・それが徐々に大きな声に変わっていって・・・雪はまだまだ降り続いています。 つづく
2007.02.19
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昨日の「校長先生と語る会」の事を書いたら、参加していただいた先生までコメントをくださいました。ほんとにすばらしい会でした。出だしは、私が提灯を持って先頭・・・校長先生がそれに続き・・・助さん・格さんを引き連れて、金屏風の中から、「水戸黄門」の音楽に乗って登場!スポットライトが校長先生を照らし、「校長先生である、皆のもの、控えおろ!!」と掛け声をかけると、参加された先生や父兄が・・「ハハアー!!!」ただ食事だけをする会ではなく、無理やりイベントに参加させちゃう会になるのは、慣れてる人はわかってるんですけど、はじめて参加した人は驚いたり、喜んだり・・・・これぞ「二田小(むつ市立第二田名部小学校)名物、無理矢理イベント参加懇親会」今までも、全員参加のさまざまな企画を立てて、宴会してきたんです。その企画をするのは、PTA事務局長・・・・でも、この事務局長の子供さんも6年生ですから、今年で卒業・・・つまり、事務局長も卒業なんです。次の事務局長さんはたいへんだ! こちらからも、少しでも除雪が早く終わるようにと、ショベルローダーに負荷をかけ除雪をしたのですが、思ったより量が多くなかなかはかどりませんでした。「マア、ふもとから来るのは大型の機械だから、何とかなるだろう」橋の近くまで行きましたが、そこで戻ってきました。実は、無理したせいか、油圧のホースから、少し油漏れがしていたんです。事務所に戻りローダーの様子を見ましたが、ホースの交換さえすればすぐに修理完了になる程度でした。「今日、重機部の奴らがきたら、交換してもらおう」食堂に行くと、美子が昼ご飯の準備をしていました。「あらあら・・・・手が油で真っ黒じゃないの・・・手を洗ってきてよ・・・」ローダーの修理をしようとしたので油まみれになっていましたから、私は風呂場の前の洗面所に行きました。手を何度も石鹸で洗い、顔も油がついて真っ黒になっていましたからついでに顔も洗ったのですが、石鹸を泡立て顔中に塗りたくってゴシゴシとこすりました。それから水道の水を出しっぱなしにして、顔をつけるようにして、ジャブジャブと洗い、それからそばに置いてあったタオルを手探りで探して拭くために正面を見ると・・・・鏡の中にはもちろん私がいたのですが、その両脇に、銃を構えた青白い顔の兵隊が立っていたのです。私は滴り落ちる水に構わず、その2人の顔を見比べていました。それはまるで私を「護衛」しているようにも見えましたし、逆に「囚人を監視」しているようにも見えました。もちろん、横を向いてもその姿は見えません。鏡の中だけ映っているのですが、さっきジャブジャブ洗った滴が鏡にもついていて、なぜかその部分だけは兵士たちの体の部分が消えているのです。私は、恐怖もあったのでしょう、まだ出しっぱなしになっていた水道の水を手ですくって、その鏡に映った兵士たちにかけました。そうすると、その兵士たちの影が消えていくのです・・・・私は何度も何度も鏡に水をかけました。最初に左側に映っていた兵士の影がすっかり消えて、右側の兵士も目の部分だけ残して消えてしまい・・・その目の部分もやがて消えていったのですが・・・・最後に消えた目がなぜか笑っているように見えたのです。鏡を拭いて水気を取れば、また兵士の姿が浮かび上がってくるような気がして私は、そのまま、事務所に逃げ帰りました。もちろん私はそのことを美子には話しません。「お昼できたわよ」美子は快活そうに、私を呼びました。昼食は残り物を食べたような形になりましたが、少しずつ手が加わっていて、それは美味しく仕上がっていました。「午後からは、さっそくカレーの準備するわね・・・・たくさんご飯も炊かなくちゃ」私は箸を動かすのも、面倒だというような・・・・心ここにあらっずといった様子でご飯を食べていたと思います。「どうしたの?」美子は私のことを心配そうにに見つめながら尋ねました。「いや・・・なんにも」質問を遮断するように、私は残りのご飯をかき込んだのです。昼食が済んだころ、雪がまた降り始めました。私は、作業日報の整理をはじめ、机の上の書類を片っ端から片付け始めたのですが、その書類も作業という作業はないのですぐに終わりました。「俺も手伝うよ」私は良子と並んでカレーの材料を切り始めました。量が多いせいか、なかなか、進みませんでしたが、6時になったころ、カレーが出来上がったのです。「まだ、来ないわねえ・・・・さっきから雪が降ってきて・・・心配だなあ」食事の準備を終え、美子は自分の持ち物を車の中に積み込み始めましたが、除雪隊の到着が遅れていることに少しいらだっていたようです。それから一時間たち、ニ時間たち・・・・・除雪隊はきませんでした。「明日、みんなと一緒に到着するんだろうか・・・・」私は美子をなだめるつもりでそう言いましたが、雪は降り続け・・・・このまま、この事務所に閉じ込められてしまう・・・・そんな気がしていました。「忘れられた・・・ってことはないよね」「まさか・・・・」2人の不安は深夜まで続いたのです。 つづく
2007.02.18
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今日は「トンネル越冬隊」を書く時間がないので、昨日の「校長先生の退職祝いの会」について・・・・・実は昨日はじめてわかったんですよ!校長先生の奥様が、私の遠い親戚だってことがね・・・・・「会長が、気にするかと思って・・・・」校長先生はそうおっしゃってくださったんですけど、気になることじゃありませんって・・それとね・・・・校長先生・・・昭和44年に教員生活に入ったらしいんですが、最初の勤務校が、今の「むつ市立第二田名部小学校」・・・そして最後も「第二田名部小学校」なんですけど、最初先生になったときのPTA会長が私の親父で、最後が私・・・「会長とは不思議なご縁だったよねえ」しみじみとそうおっしゃってくださいました。
2007.02.18
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今日は、ある県議会議員さんの「選挙事務所開き」に行って、夜は校長先生の「退職祝いの会」に行きます。だから、この時間しか、書けないんですよね・・・・・・入浴シーンにしちゃったから、あまり長風呂だと体に悪い!健康に気を使っているナイトでした。 独りでユックリお風呂に浸かっているつもりでした。そこへ、美子が風呂場のドアの外で、「入ってもいい?」・・・・あの女はなにを考えているんだ・・・私はそう思いました。「ア、だめだよ・・・絶対にだめだ・・・・!」あと1日、何事もなければ・・・私達はそのままで、綺麗に別れることができるのです。確かに、私たち2人にとっては「異常な一週間」でした。でも、このまま何事も無ければ・・・「夢を見た」と言うことで終わってしまえるのです。タッキーの件も、カモシカたちの行動も・・・そして兵士達の行進も・・・・全て夢だった・・・で済ますことができる・・・そう思っていたのです。「絶対にだめだからね・・・」私は再び、彼女にその言葉をぶつけました。「あたし、あなたにいろいろ迷惑をかけたわ・・・・もしかしたら、明日別れて行っても、いろいろな噂が出てくるかもしれない・・・・でも、私は否定するし・・・・あなただって・・・」私だって、否定します。だって本当に何事も無いのなら、香織に対しても胸を張って言えると思ったからです。もし、ここで、誘惑に負けてしまったら、私は否定するにしても、香織に対して一生嘘をつかなければならないという「負い目」を持つことになるでしょう。最低それだけは避けたいと思っていました。風呂場に鍵はかかっていません・・・私がだめだと言っても、美子は簡単に入ってこれますから、少し緊張をしていました。しかし、私の意志が固いということがわかったのか・・・・美子は入ってこようとしません。逆に風呂場の曇りガラスのドアに、彼女の走り去る姿が見えました。「あの人も、私の判断が正しかったのがいずれわかるはずだ・・・・」今、風呂から出て、彼女の顔を見るのは非常につらいことでした。私は、真っ直ぐ自室に引きこもってのです。布団に入り・・・・もやもやとした気持ちのまま眠ることはできません・・・・けっきょく、一睡もできないまま・・・私は1月3日を迎えたのです。ずっとこのまま美子と会わないで、部屋にこもっていようかとも思いましたが、先発した重機部の人たちが、スノーモービルに乗って連絡に来るかもしれません。電話が不通になっていましたから、何らかの連絡係が来るのは当たり前のような気もします。「とにかく事務所で待機してよう」私は、事務所に向かいました。美子は既に起きていて・・・・台所に立ち、なにやら朝食の準備をしています。もしかしたら、彼女も眠れない一夜を過ごしたかもしれません。「おはよう・・・」私は気まずいながらも美子に朝の挨拶をしました。ところが、美子は比較的さばさばとした表情で「おはよう」と返事を返してくれました。このとき、もしかしたら・・・・という考えが浮かんだのです。「この今台所に立っている美子と、昨日風呂場に来た美子・・・・もしかしたら違う人物なのかもしれない・・・・・」なんとなく、昨日の風呂場に来た美子は妖怪が化けたものじゃないかと言う考えにいたったのです。思い返してみれば、私に擦り寄ってくる「美子」がいれば、まったくさばさばとした表情の「美子」がいて・・・・そのギャップがあまりにも大きいように思えたのです。「今朝は、お餅がいっぱいあるから、磯部巻にしてみたの・・・・」食堂のテーブルに座った美子に、昨日の風呂場での深刻な事態は一切感じられませんでした。「今日は除雪の人たち・・・何時ごろ着きそうなの?」美子はおせちの残りを皿にとりわけながら私に聞きました。「ああ、天候しだいだけど・・・夕方6時には着くと思うな」「それなら・・・・・この前はレトルトカレーだったけど、私、カレーを作ろうかしら・・・・それなら除雪隊の人たちも食べれるでしょ?」天候は昨日の昼からずっと晴れていました。順調に除雪が進むなら、もっと早く着くかもしれません。「ああ、じゃあそうしてくれないか・・・・」私は、美子にそう頼むと磯辺巻をほお張り、そのまま、ショベルローダーのエンジンをかけに行きました。一歩でも早く着くように、こちらからもできるだけ除雪をしておこうと思ったのです。もちろん雪は降っていませんでしたから、カモシカたちが踏みつけて、綺麗に除雪されたような格好になっている道路は、除雪の必要もないくらいでしたが、ふもとに向かって除雪しておこうと思っていました。ところが、昨日カモシカたちの踏みつけたところは、現場事務所から見える範囲だけで、その先はやはりかなりの雪が積もっていました。前に美子の車が立ち往生していたところまでつくにも、かなりの時間を要しました。「コリャかなりかかるな・・・・6時までに着くのは無理かな・・・・」私は昼前にいったん事務所に戻ることにしたのです。 ごめん、時間だつづく
2007.02.17
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明日は、小学校の校長先生の「退職祝いの会」だから祝辞の準備をしなきゃならないんですけどね・・・今テレビで「日本アカデミー賞」の授賞式の番組見てたんだけど、もし、「デス・ノート」で「松山ケンイチ」君が、「最優秀助演男優賞」を受賞してれば、その話しをするつもりだったんです。「エル」という探偵役だったんですけど、この俳優さん・・うちの小学校の卒業生なんですよ。惜しくも逃しちゃいましたねえ・・・・残念です。 火薬庫のそばでジープを停めたまま、エンジンをかけっぱなしでラジオを聴いていました。「青森市の大雪も峠をl越え、順調な除雪作業が続いています。」ラジオのアナウンスも落ち着いた声で、これ以上の雪は降らない様な情報を流しています。「この分だと、明日の夜はこの山にも、重機部の除雪隊が到着できるだろうな」さっきから自分の頭の中には「あと2日」という言葉がめぐっているのだが、実際は30数時間のうちには、終わるだろうと思えました。ふと気配を感じて、ジープのフェンダーミラーを見ると・・・・「タッキー・・・・」そこには何かを口に咥えたタッキーがこちらに向かって近づいて来たのです。真っ白な冬毛を赤く染めた野うさぎでした。野生に戻ったタッキーが、私に近づき、「お前に食わしてもらわなくても、俺は、自分でなんとでもするんだ・・・・お前に飼われていた訳ではない」そう自慢げに見せに来たようです。ジープの前に、その絶命した野うさぎを口から離し、私の様子を気にしながら食べ始めたのです。噛み付き、白い毛をはがし、顔中を真っ赤にしながら野ウサギを食べる姿は、完全に野生そのものでした。その様子を見ながら、私はふと彼に話しかけてみようと思いました。昨日響いた言葉が、本当に彼のものなら、私が話しかけたら返事をするはず・・・・もし、私と美子を結びつけることが彼の使命なら、明日はもう除雪隊が来てしまいますから、タッキーにしても今日中に何とかしようとする焦りがあるはずです。「お前はなぜ、美子をあの方と呼ぶんだ?、なぜ私と彼女を結び付けようとするんだ?・・・」しかし、タッキーはこちらも見向きもしなければ、返事をする風もありません。そして、、しばらくすると、見られながら食べる事に飽きたのか、またその野ウサギを咥えて、林の中に消えて行ったのです。もう彼は現場事務所に帰ってくることはないな・・・と感じました。私はしばらくそこにいて・・・お昼のニュースを聞いてから事務所に戻りました。お昼のニュースも、除雪が順調に進んでいると伝えていたのでほっとしたのです。事務所に戻ると、美子はまだ原稿を書いていました。まだ原稿を書いていたのか・・・・私はじゃまをしないように無言で彼女の後ろに回り、その原稿を読んでみました。「トンネルの作業員たちは、山の神は女神であり、だからトンネルの中に女性が立ち入るのを嫌います。また、トンネルの神は狗神であり、口笛を吹いたり金物を叩く事も嫌います。古くからの言い伝えを守り、その伝統を壊したくないのです。」そのようなことが書かれてありました。しかし、私はその原稿を読んだのは一瞬で、実は彼女のうなじの白さに気をとられていたのです。私が昨日寝たあと・・・・彼女は一人で風呂に入ったのかもしれません。彼女の黒髪は光り輝いているように感じました。熱を出して2日風呂に入っていなかったはずなのに、とても美しい黒髪が輝いていました。「石鹸の匂いがする・・・・・・」私は思わず・・・声を出してしまいました。「あっ・・・」彼女は、私がすぐ後ろに立っていたのに今気付いたような表情をしました。ドアをあけてはいるとき、確かに無言ではいってきましたが、冷たい風が入ってきますから、感じていたはずなのに・・・それほど熱中して書いていたのでしょうか?「いや、お昼だから帰ってきたんだけど・・・・」「あ、ゴメンなさい・・・熱中してたからお昼になったのを気付かなかったわ!」彼女は室内にいたのに、昼食の支度をしていなったことに、何度も何度も謝りました。「だめねえ・・・・仕事にこれほど熱中しちゃうから、私、やっぱり結婚には向かないようね」「ああ、いいよ・・・・昼食はレトルトカレーがあるから、それを食べよう・・・・ご飯はあるんだから」私はお湯を沸かし、その中に二個のレトルトカレーを入れました。昼食後、私はここ2~3日、バタバタしていて作業日報やダイナマイトの帳簿を書いていないことを思い出し、そのほかの書類と一緒に作成し始めることにしました。わたしの机は、美子が今使っている前田さんの机のまん前でしたから、彼女と背中合わせになって顔を見ないように、松本君の机を使用します。2人は、何も言わず、黙々と作業を続けます。3時過ぎにようやく、「少し休憩しようよ」・・・・私が言うと、彼女はコーヒーを入れてくれたのです。コーヒーを飲みながら、彼女と話をしたのですが、彼女の声を聞くのがなんとも懐かしいような気がしました。「明日になれば山を降りられるのね・・・・」私は1月4日の仕事引継ぎまでは勤務時間になっていましたが、彼女は除雪隊が到着すれば、その除雪車の後ろをついて行って、一緒に山を降りられるのです。だから1月3日の深夜には青森市の彼女の家にたどり着けるのです。「でも、この一週間・・・・貴重な体験させてもらったわ・・・・見知らぬ男女がこうやって2人っきりで生活するなんて・・・・これからは絶対にありえない」正直な話・・・・私が彼女と2人っきりでこの山の中で生活していた事は、佐々木副所長は知っています。でも、明日になると除雪に来る重機部の連中が皆知る事になり・・・・その話はもしかしたらやがて香織の耳にも入ることでしょう。事情は「美子を山から下ろそうとしても、大雪のせいで降ろす事ができなかった」という事ですが・・・・それをうまく香織に説明できるとは到底思えませんでした。私には、気の重い作業になるに違いありません。「あなたの恋人は、あなたを信用してくれなさそう?」私の悩みに気付いたのか、美子はそのように質問してきました。「私が、あなたの恋人に説明するのも変な話しになるしね・・・・」私が重機部のみんなに口止めして歩いたとしても、「人の不幸は蜜の味」・・・話は面白おかしく伝わっていくに違いありません。「いいんだ・・・・それで信用してくれなかったら、そんな状況になるだけの話・・・・でも大丈夫だと思うけどね」何の根拠もないのですが、そう思うしかしょうがありませんし、この話題で美子と話をしたくないと思ったのです。「コーヒーを飲んだら、俺ちょっと掃除をすえるよ」明日、明後日になるとみんなが山に戻ってきますが、所長の部屋を美子のために使ってしまいました。そのほかにも、いろんなところを掃除したほうがいいと思ったのです。それは、美子の痕跡を少しでも早く消すためでもありました。掃除をしている間、美子は夕食の支度をしました。年越しのとき、エビフライを準備してあったのですがいろいろあったので、油で揚げるばかりにして、衣をつけたまま、冷凍されていましたので、すぐに食べれるはずです。最後の2人だけでの夕食・・・・ワインはありませんでしたが、2人、ビールで乾杯をしねぎらったのです。「さて・・・・俺、昨日風呂に入らなかったから、今日は入らなくっちゃな」私は、ビールで少し赤くなっていましたが、風呂にお湯を溜め始めました。8時過ぎ・・・・・私は、風呂に入ります。明後日山を降りるので、今日中に作業服やそのほかのものを洗濯しておきたいと思っていました。さすがに美子に貸したトランクスは返してもらうわけにはいきませんが、Tシャツやジャージ、パジャマ・・・・それは今晩寝るときのものだけを残して洗濯をさせてもらいました。「明日・・・明日・・・あした・・・あした・・・」風呂に入りながら、いつもの言葉を唱えようと思ったのですが語呂が悪く、「明日」という言葉になってしまいましたが、心があsかるくなっていたのでしょう・・・・うきうきした気分で、鼻歌を歌うように言っていました。そのときです。「杉田さん・・・・・ちょっと入っていい?」美子の声がしたのです・・・・・・ 続く
2007.02.16
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今日は、また良いお天気になりました!暖かい陽気で、お昼過ぎたら眠くなっちった。いかんイカン!!・・・・会社で眠ったら従業員にしめしがつかない!ドアを閉めて・・・・「重要な考えごとをする」・・・って言えばいいかな? 元日の夜は、吹雪吹き荒れたまま眠り、翌日は8時に目覚めました。二日酔いなのか、はたまた美子の風邪を貰ってしまったのか・・・・少し頭痛がして、汗ばんでいたのですが、私は作業服に着替え、事務所に出ました。事務所は既にストーブに火がつき、暖かくなっていたのですが、外を見ると、ダウンジャケットを着た美子が、一生懸命雪かきをしていました。もちろんショベルローダーに乗れない彼女は、「雪はね」という、プラスチックのスコップ状のものに、長い柄の付いたもので雪かきをしていたのですが、それほどの面積を除雪することはできません。せいぜい事務所の玄関前を2メートル角で掘った程度で、なんの役にもたたないのですが、それでも私が疲れていると思い、少しでも役に立てればと作業していたに違いありません。「山鹿さん・・・いいよ、その先は俺がするから」この吹雪の中を「雪はね」で除雪するのは、正直言って無駄な作業ですから、やめてもらってもよかったのですが、「ええ・・・でもあと少し・・・」一生懸命作業する姿は美しくもあり、愛おしさをも感じるものでした。「相手は妖怪かもしれないのに、俺はなにを考えてるんだ・・・」この吹雪の中での雪かき作業は、少し強い風が吹くと美子の体が飲み込まれ、まったく見えなくなるような状況でしたが、うすぼんやり見える影に、ダイヤモンドダストの輝く針のような雪がキラキラと映って、それはもう幻想的なものだったのです。しばらくその姿を眺めていると、一段落したのか・・・・「もう朝ごはんのしたくはしてありますからね・・・食べましょうか」その日の朝食はおせち料理の残りに、ご飯とわかめの味噌汁・・・それに子持ししゃもが焼いてありました。「さっきね・・・・もしかして電話の回線も復旧してるかと思って会社に電話してみたんですよ・・・・でもだめでした。・・・どこで断線してるのかなあ」ご飯を食べながら美子は、そう報告してくれました。私は黙々として食べていただけですが、窓から道路のほうが見える位置に座っていた美子が小さく「あっ」と声を出しました。私はその声を聞き、振り返ってきたのです。そこには、あの大カモシカを先頭に数十頭のカモシカが道路の上を行進していたのです。まさにそれは行進でした。50センチほどの積雪のあった道路の雪が、カモシカたちに踏み固められて車一台が通れるくらいの立派な道路が出来上がったのです。私が外に飛び出したときには、カモシカの群れはどこかに風のように消えていました。そしてそれと同時に、いままでの吹雪が嘘のように晴れわたってきたのです。もしかして、先日の猛吹雪のときに綺麗に除雪されたようになっていたのも・・・・カモシカたちが踏み潰してくれていたのか?私は、その除雪したあとのような道路を、火薬庫までショベルローダーで通ってみました。それは火薬庫どころか、トンネルの坑口まで続いていたのです。とにかく、せっかくの道路ですから、私は所々残っていたでこぼこを綺麗に均して行ったのです。事務所に戻り、事務所と宿舎のところの除雪は、すぐに終わりました。「さっきのカモシカたちを見たかい?」私は事務所に入り・・・美子にそう質問したのです。美子はこっくりとうなずき、「あのカモシカたちはなに?」ほんとに驚いたような顔をしました。「あれは、本当に君の命令かなんかでしたんじゃないの?」「まさか・・・なんで私がそんなことできるのよ」そういわれると私は二の句がつけません。「とにかく、君が来てから、不思議なことが起こり過ぎて・・・・・・・俺、頭がおかしくなりそうなんだよ」美子は、顔を横に振りながら、自分のせいではないと無言で言ってるようでした。「あれは、俺が疲れてたわけじゃない・・・・確かにカモシカたちは雪の片づけをしてくれたんだ」しかし、その理由については明確な回答を得るのは不可能でした。食事も終わり、除雪も終わり・・・・私たちにする仕事はありませんでした。でも、何も言わず・・・・この事務所の中で美子と2人、黙っていると言うことは息の詰まる思いをするだけです。「あたし、少し原稿を書こうかしら・・・・この机借りていい?」美子が前田さんの机で原稿を書き始めたとき、私はジープに乗って、火薬庫に行くことにしました。火薬庫に行ってもすることがないのは同じでしたが、火薬庫のところならラジオの電波がいくらか良いはずです。テレビもなければ電話も使えない・・・・・ふもとの情報を得るためには弱い電波でもラジオを聞かなければなりません。火薬庫まで行くと、私はラジオのボリュームを目いっぱい上げ、ハンドルの上に足を上げてラジオだけに集中しました。このまま・・・お昼までここにいるつもりでした。空には太陽が顔をのぞかせ、吹雪のときと違ってラジオの電波も良好でした。「青森市内に降り積もった雪も峠を越え、市内あちこちの除雪作業も急ピッチに行われています・・・・・」ヤッパリ市内も大雪だったようですが、ここと同じく雪もやみ、除雪の作業が進められているようです。「この分だと、明日は山の除雪も順調に進むだろうな」これ以上雪が降らないと言う条件があるにしても、明日の夜には重機部の除雪隊が事務所に顔を出してくれるかもしれない・・・・「あと2日・・・あと2日・・・・・」私はいつもの言葉を唱えはじめました。 続く
2007.02.16
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昨日の雨とうってかわって、今日は猛吹雪になっています。少し雪は降ったから、今日はスキー場のリフトも動くかなと思ったら。今日は強風のためリフトは動かせないって・・・・・リフトのシーズン券を買ったのに、これじゃあ元が取れないじゃないですか! 「杉田さん・・・・起きてください」私が美子に起こされたのは、もう夜の8時を回っていました。もちろん眠ったときはまだ日中でしたから、電灯はつけていませんでしたが、今はまぶしいくらいに感じていました。「ご飯の支度はとっくにできてたんだけど、起きてこないとステーキが焼けないから・・・もう起きてくれないと・・・・」美子は私の枕元にきちんと正座して起こしていたのです。でも、私はこのとき、美子の怪しさにもうひとつ気付かされました。私は自分の部屋に戻って布団に入る前、間違いなく鍵をかけたのです。もしかしてグッスリ寝ているときに、襲われたらひとたまりもありませんから、間違いなく鍵をかけてから寝たのです。しかし、美子は私の部屋に入っていました。鍵のかかったドアをすり抜けてきた・・・・・・それしか考えられません。私は返事をすることもなく、むっくりと起き上がりました。「あら、洋服を着たまま寝たの?・・・それじゃ疲れは取れないのに・・・・」それでも、彼女はそれだけしか言わずに先に部屋を出て行きました。私は立ち上がり、窓の外を見ましたが、昨日までと違い、吹雪は止むことなく続いていました。「このまま、いつまで降り続くんだろうか・・・・」私には、永遠に降り続き・・・・・このままずっと美子と2人きりでいなければならないような気になっていました。食堂に行くと、テーブルには美子が頭を抱えるような格好をして座っていましたが、私が目に入ると、やおら立ち上がって、フライパンを温め始めたのです。「まだ起きてこないかと思ったわ」「もう君は食事はすんだの?」「いいえ、あなたと一緒に食べようと思って・・・・・」それ以上の会話はありませんでした。何かひとつ話をするたびに、もうひとつ、不思議な出来事が出てくるような気がして、話しができなくなってきていました。ステーキが焼き上がり、私の目の前にその皿が置かれました。きちんと面取りがされたゆでたジャガイモもあり、にんじんのグラッセまで添えられていました。「お正月だもの・・・・君も食べなよ」私は、そのステーキを半分に切って別の皿に盛り付け、美子に渡しました。「ねえ・・・ワインでも飲もうか?」しかし、ここには日本酒や焼酎・・・ウィスキーはあっても、ワインはありません。「君の魔法で出すのかい?」私は冗談というか、少しいやみのつもりで言ったつもりです。しかし、美子の答えは意外なものでした。「そうよ・・・私の魔法で赤ワインを出すわ」そう言うと美子は、テーブルの下からワインを取り出したのです。私の頭の中はパニックでした。本人が自分は魔法使いだと認めたようなものです。私はいつの間にか立ち上がっていました。「冗談よ・・・・あたし、前に買い物してたワインが2本、車の中に置いてあったの」そういえば、雪の中に埋まっていた彼女の車をここの駐車場に移して置いたのです。その車の中にワインを置いてあったというなら、そういうことがあっても不思議なことではありません。私は「ふーぅ」とため息をついて座っていた椅子にどっかと腰を降ろしました。ワイン二本は、ひとつの箱に入っていたようで、もう一本は白でしたが、簡単なワインオープナーがついていました。「お肉だから、今日は赤ね・・・・」美子は、私に赤ワインとオープナーを渡したのです。私はワインをあけ・・・・・ふつうのグラス2個に、そのワインを注ぎました。「あけましておめでとう」朝、新年の挨拶はしたのですが、私達はあらためて乾杯をし、新年を祝いました。一本目のワインはすぐになくなり・・・私は「もう一本もあけよう」と提案しました。酔って前後不覚になることよりも、酔った勢いで、今まで疑問に思っていることを全て美子にぶつけたい・・・・そう思っていたのです。もし質問をして、美子が本当に魔物であったとしても、、今まで私を取り殺そうとしたわけでもなく、かえって心配をしてくれた美子・・・・もし妖怪であったとしても、私には美子が怖いものとは思えませんでした。「酔った勢いで聞くよ・・・・今日までいろんなことがあったんだ・・・・最初はタッキーのこと・・・・あの犬は・・・最初、俺の目の前で消えたり現れたり・・・・そして今日はとうとう、俺の頭の中に話しかけてきた・・・あいつは魔物かい?」そういえば、トンネルの中で別れてから、まだ一度もタッキーを見ていませんでした。「あれ?タッキーはどこに行ったの?」「知らないわ・・・・・あたしは、お昼に、ご飯を食べさせてからずっと見てないの・・・・もともと、野良犬だから、山に戻ったのかしら?」美子も見ていない・・・・・あのままどこかに行ってしまったのでしょうか?「さっきからタッキーの話しをしてるけど、私はタッキーが不思議なことをしたのを見てないわ?・・・・だから魔犬って言われてもわからない・・・」「じゃあ次の質問・・・・・大きなカモシカが朝方・・・・俺に新年の挨拶をしに来た・・・あれはどういう意味だい?」「それもお答えしますけど・・・・・私その大きなカモシカを一度も見てないの・・・だからそういわれても、これもわからないわ」そうなんです・・・・・ここ数日に起こった不思議な出来事は、確かに美子が現れる少し前から起こっていた出来事ですが・・・・見たのは私とタッキーだけ・・・・いろいろな不思議を美子は一度も体験していないのです。ましてや、タッキーが私に話しかけたことなど・・・彼女に言わせれば「夢を見たんでしょ」というしかないようなことなのです。「じゃあ、何でタッキーは、私に君を・・・・」そこまで言いかけて・・・・・その後言いよどみました。「タッキーがあなたに私を?・・・・・・なんのこと?」全ての出来事が、「私の妄想」・・・・・・そう思われても仕方がないと思いました。雪中行軍で遭難した「青森5連隊」の亡霊も、少し前うちの会社の重機部の連中が、「八甲田山」という映画の撮影に協力して、除雪などの手伝いをし話しを聞いたばかりでしたし、原作の「八甲田山死の彷徨」も、撮影前に読んでいました。隣のトンネルの「桜田」というダイナマイト係の話も、同じダイナマイト係として名前をどこかで聞いていたのかもしれません・・・・・「あなた、やっぱり疲れてるのよ・・・・・」美子にそういわれ、酔いも手伝ってか、・・・私は全て妄想で片付けられるような気持ちになっていました。「さあ、食事も終わったし・・・テレビも映らないから・・・・もう休んだら?」でもここで、私は自分が「香織のもの」だということを、見せておかねばならないと思いました。「俺さあ・・・・毎日彼女に電話するって約束してたんだよ・・・悪いけど、今電話するからね」私はわざと美子に宣言して受話器を取りました。しかしどうしたことでしょう・・・・・電話の受話器を取っても、発信音がしないのです。「電話線が切れてる・・・・・・・」この吹雪のせいなのでしょうか・・・・・電話からは何の音も聞こえてきませんでした。「どうかしたの?」いつまでたっても話し始めない私を、美子はいぶかって訊ねました。「電話がうんともすんとも言わない・・・・・線が切れてしまったかもしれない・・・・・」そこまで言うと、私はふらふらとした歩みで自分の部屋の戻ったのです。「あと3日・・・あと3日・・・・・」 続く
2007.02.15
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すっかり忘れてたけど、あさっては校長の「退職祝いの会」でした。また挨拶をしなくっちゃ・・・・・今日の学校でのスキー教室は、昨日の雨で中止になったんですけど、雨は夜更け過ぎに雪へと変わりました。(歌のモンクかい!)明日なら滑れそうなんだけどなあ・・・・・ タッキーの鋭い視線にさらされながら、私は恐怖におののいていました。私の返答しだいでは、今にも飛びかかってきそうな眼光です。「数日前にあったばっかりの彼女に、なんで私が・・・・・・」全てを言い切らないうちに、タッキーは唸り声をあげて一歩近づいてきました。「あの方はお前を選んだのだ・・・・」「あの方」・・・・・なぜ美子のことをそんな呼び方で?・・・・タッキーはもしや、美子の飼っていた犬なのだろうか?私は疑問を問いただそうと、恐怖を忘れ、タッキーに一歩近づきました。しかし、タッキーはフッと目をそらし、くるりと振り向いてゆっくりとトンネルを出て行ったのです。「あいつはヤッパリ・・・・魔物だったのか・・・・・・そしてもしあの犬の飼い主が美子なら・・・・ヤッパリ美子も魔物・・・・・」私はタッキーの後ろ姿を見つめながらそんな風に考えていたのです。「ここに居てはいけない・・・・・」私はもっと早くに逃げ出していなければならなかったと、今更ながら後悔しました。逃げるとしても、この猛吹雪で1メートル先が見えなくなっていました。ジープに乗り坑口まで出ると、雪はさらに降り積もり、車ももしかしたら事務所に戻るのが精一杯で、そのうち使えなくなるように思えたのです。除雪しようにも、この吹雪の中では危険を感じていました。ジープで慣れた仮設道路のはずなのに、私は手探りのような状態で、事務所に戻ったのです。事務所では、美子が先ほど食べたものの洗い物をしていました。私は、美子の背中をじっと見ていましたが、声をかけることはできませんでした。でも、私の気配を感じたのでしょう・・・・「あら、帰ってたの・・・・遅かったわねえ」振り返って洗い物で濡れた手を、冷蔵庫の脇にかけてあったタオルで拭きながら、私を迎えてくれたのです。「タッキーが・・・・あんたのことを”あの方”って呼ぶのはなぜだ?・・・・」私は、彼女を目を見つめながら、ぼそっとつぶやきましたが、彼女にはよく聞きとれなかったようです。私はもう一度、・・・今度は少し大きな声で問いかけました。「タッキーが、あんたのことを”あの方”って呼んだんだよ・・・・・」一瞬、不思議そうな顔をして・・・それから美子は笑い出しました。「ハハハ・・・なに言ってるのよ・・・犬が話できるわけがないじゃないの・・・・」笑っているのですが、熱のためにさらに痩せた様にみえる美子・・・・その目が、私にはいままでよりもっと鋭く感じました。私は、なにがなにやらわからなくなってしまって、・・・・・・・そこにあったソファーにドスンと身を投げ出したのです。美子が、さっき入れたコーヒーを温めなおして持って来てくれました。「あなた、きっと・・・私の看病で疲れちゃったのよ・・・・あたしはもう大丈夫・・・・さっき着替えたら、もう汗もかかなくなったし・・・・きっと薬が効いたのね」確かに、さっきまで青白かった美子の頬に少しだけ赤味がさしていました。しかし、疑いを持ったままの私には、あの病気でさえ私の関心を引くための、魔法のような気がしたのです。「今晩は、晩御飯・・・あたしが作るわ・・・・・まだおせち料理がいっぱいあるし、冷凍庫の中に、大きなステーキのお肉が入ってたの・・・・これを焼いてあげるから疲れを取って?」そういえば、ばあちゃんがほかの人には内緒で「ステーキ肉」を冷凍庫に入れておいてくれたといっていました。「君の分がない・・・」「あたしはもともとお肉はそんなに好きじゃないし・・・・まだ病気のせいか、あまり食欲もないからね・・・・お昼に食べたお雑煮を、もう一度戴くから・・・・それより、あなた・・・あたしが来てから、一度も自分のお布団で寝てないでしょう?・・・ずっとこのソファーで寝ていたものね・・・・少し眠ってきたら?」そういえば、私は27日の夜からずっとこのソファーで寝ていて、ほんとうに疲れていました。「じゃあそうさせてもらうわ・・・・」私はそう言って自分の部屋に引き上げました。彼女への疑いを解いたわけではありませんが、疲れがピークとなり「もうどうなってもいい・・・取り殺すなら取り殺せ」・・・・そんな気分でいたのです。部屋へ入ると、少し暖かくなっていました。私の布団に布団乾燥機が掛けられていました。美子が準備してくれたようですが、ここでまた少し緊張が走ります。美子が言うように、私は彼女が来てから一度もこの布団に寝てないのです。「なんで俺の部屋を知ってたんだ・・・・」でもそれはすぐに解決しました。「アア、俺が彼女のために着替えを準備したとき・・・きっと見てたんだろうなあ。」そんな些細なことがひとつ解決しただけで、私はホットして・・・・布団に入ったとたんに・・・・本当に綿のように眠ってしまったのです。 つづく
2007.02.15
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今日は3回目の更新です。来週、「32.トンネル越冬隊」を書いたあとに、右下の「ニュース」を見たら、「八甲田山で遭難」って言うのが書いてあったからなんです。実際はスキー客25人雪崩に巻き込まれて二人の方が亡くなったって言うニュース。こりゃ、私が八甲田山のことを書いてるから「山の神」が怒ったのかな?なんとなく恐くなってきましたねえ・・・・・ 「何の話しが聞きたいんだい?」私は彼女の枕元に座りながら、彼女にそう質問しました。「何でもいいの・・・誰かと話していないとなんだか寂しくって・・・・」美子はそう言いながら、それまで上を向いていた顔を、私が座っている逆の方向に向けました。顔だけではなく、体も一緒に向うをむいたのです。「あのね・・・あなたの声が聞いていられるならどんなお話でもいいの」「そういわれても、俺・・・工事の話しか知らないぞ」「じゃあ工事のお話しをして?」私は、私がこれまで担当した工事の工法なんかの話しをしました。「雪国の道路の下はね・・・凍上抑制層っていって砂を入れてるんだよ・・・青森県の場合は80センチぐらいの砂の層を入れないとだめなんだよね・・・・」関係ない人には・・・特に女性には面白くもなんともない話なのですが、彼女がうなずきながらちゃんと聞いてくれているのを感じました。私は話しながら彼女の背中を見て、その無防備な状態が私を誘っているように思えたのですが、心の中で「あと3日・・・あと3日・・」と唱えていました。ひとしきり話が終わり、「俺、昼飯を作ってくるから・・・ちょっと待ってて」そう言って部屋を出て行こうとすると、「私も、食堂に行って食べるから・・・・持ってこなくていいよ」そういうのです。「でも、お正月に一人でおせち料理食べるのっていやでしょ?・・・私、お正月に一人で過ごすのっていやなんだ」新聞記者といっても、警察や県庁を回る社会部とか政治部の記者ではなく・・・トンネル工事の取材に来るくらいですから文化部あたりの記者なんでしょう。だから、夜突然呼び出されることもなく、ましてやお正月は完全にお休みがもらえる立場にあるんだと思います。そんな美子が、アクシデントとはいえ、こんな山の中に知らない男と2人だけで生活する事になるとは・・・・・・おそらく、お正月を家族と一緒にに過ごせなかったのは初めてなはずです。今頃、家族と一緒に幸せなひと時を過ごしている香織を思い出し、それと対照的な美子を気の毒に思っていました。「昼飯はおせち料理にするからね」食堂に来る来ないの話しに返事はせず、私は勝手に事務所に戻ってしまいました。外は依然、猛吹雪のままで、周りは真っ白・・・・何も見えません。「昼飯を食ったら。また除雪しようと思ってたんだけど・・・・このまま吹雪いてるんじゃ、事故の元だな・・・・・」私はタッキー相手に独り言をいってました。私は餅を焼き、雑煮の準備をしましたが、コンロの寸胴を暖めれば、焼いた餅を入れるだけ・・・・・手持ち無沙汰で事務所のソファーに座り、テレビをつけたのです。しかし・・・・テレビは砂嵐の世界でした。チャンネルのスイッチを押しても押しても・・・・・「チィッ・・・この風で山のアンテナが吹っ飛んだかな?」この現場事務所は谷あいの電波の弱いところでしたから、ここから歩いて30分ぐらいの高い場所にアンテナを設置していましたが、この吹雪でアンテナが倒れてしまったのでしょうか?まったく何も映りませんでした。「直しに行くったって、あの場所まで行くのはなあ・・・・」この吹雪の中ではまったく無理な話でした。そのうち餅が焼けたので私はテレビをあきらめ、料理に専念する事にしましたが、そこへ、私のパジャマを着たypそこがやってきたのです。食堂で一緒にご飯を食べる・・・・確かにそう言ってたのですが、まだちょっとふらふらしている様子で、少し心配でした。「本当に大丈夫なのか」「ええ・・・ずっと寝てたからちょっとフラフラするけど、だいぶよくなったのよ・・・だから少しおなかが空いちゃった」事務所もある程度暖かくなっていたし、これくらいなら大丈夫だろう・・・私は最初の「雑煮」を美子のために作ってやりました。テーブルの上には既に、ばあちゃんの作ったおせち料理を並べてありましたが、「あら・・・・このおせち料理・・・・まかないのおばさんが作ったんでしょ?・・・本当に美味しそうね・・・」そう言って、雑煮に口をつける前に「タラコ和え」に手を出しました。そのとき私は、自分の雑煮を創る前に、タッキー用の雑炊を作っていたのですが、その間に、美子は小皿に「タラコ和え」を私の分まで取り分けてくれていました。「なんだ、タラコ和えだけ取り分けてくれたの?」「だってこれ、すごく美味しいんですもの」他にも、黒豆や昆布巻き・・・栗きんとん、かまぼこ・・・さまざまな料理が出ているのに、「タラコ和え」だけ取り分けている事がおかしくて、私は久しぶりに声を出して笑ったのです。「そうだろ・・・・他のも美味しいと思うよ」私は、他の料理も勧めましたが、美子は「タラコ和えを」いたく気に入って食べ続けていました。「子和えってさあ・・・・・子孫繁栄のためのおせちだって知ってる?」突然、美子が言い出しました。「あたしねえ・・・・新聞記者になったからには第一線の社会部で、バリバリ働きたいの・・・でも結婚したら、旦那になった人に迷惑かかるでしょ?・・・だって夜中でも事件があったら飛び出していかなきゃならないし・・・・だから結婚できなくてもいいと思ってるわ・・・でも、子供だけは欲しいと思ってるんだ・・・シングルマザー希望。。。」美子は、そう言ってにっこり微笑むのでした。でも、言われた私はたまりません・・・・・・「結婚してくれなくてもいい・・・でもあなたの子供が欲しい」なぜか美子からそう言われているような気がしたのです。私のパジャマを来た美子のスレンダーな体が、それなのに女性特有の丸みを帯びた体に感じられたのです。私はまた心の中でつぶやきました。「あと3日・・・あと3日・・・」食事のあと、私は美子のためにコーヒーを入れることにしました。コーヒーの香りが、気持ちを落ち着かせてくれる・・・・私自身を落ち着かせるためにも有効な手段のように思えたのです。美子は、そのままソファーに座り、テレビのスイッチを入れました。「あ、テレビだめなんだ・・・・アンテナが倒れたらしくてね」「ああ、この天気じゃ山の上まで直しに行くっていうのも大変だしねえ」私はなぜ、3日前にここに現れた美子が、テレビのアンテナの場所を知っていたのか不思議に思いました。「あ、だって火薬庫のわきを流れる沢の上流に、アンテナみたいなものが見えたもの」美子はいいわけしましたが、アンテナはよほど気をつけて見なければ見えない位置にありました。(やはり、この女は怪しい・・・・・・・)私はいぶかしげな顔で彼女を見てたことと思います。「ところで杉田さん・・・・トンネルの鏡餅・・・・あそこはお参りしなくて良いの?」私に疑われていると思ったのか、美子はあわてて、話題を変えたように思えました。「ああ、そういえば、君が具合が悪くなってたから、すっかり忘れてた・・・ちょっと行ってこなくちゃな」私は防寒着で完全装備し、ジープに乗って火薬庫からトンネルの切り羽まで参拝に回ることにしました。夕べからの猛吹雪のため、アチコチに吹き溜まりができ、タイヤも埋まりそうになってなかなか前に進めませんでしたが、何とか最初の火薬庫までたどり着きました。しかし火薬庫だけでなく火口所、取扱所・・・そして休憩所、全ての外にある施設は雪でドアが半ば埋もれていて開きません。あきらめて切り羽だけを参拝する事にしました。中は昨日とまったく変わりありません。車を降り、確かめたのですが・・・・・昨日心配していた鏡餅も食べられた様子もなく・・・・私は車に積んできた新しいお神酒を祭壇に立て、ロウソクも新しいものに取り替えました。ここでも、二礼二拍手一礼・・・・・工事の安全をお祈りして・・・いざ帰ろうとしたとき。。。。。。またぞろ頭の中に声が響きました。「タッキー・・・お前なのか?」私が振り返ると、そこには事務所に置いてきたはずのタッキーが立っています。しかし、その顔つきは、私を守っているときのタッキーではなく、なぜか野生に戻ってしまったような目で、私をにらみつけていました。「なぜ、美子に手を出さない・・・・・・」頭の中にそう響いてきたし、タッキーの鋭い野生の目も、私をそうやって攻め立てているようでした。 続く
2007.02.14
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バレンタインのチョコ・・・・もらっちゃった。もちろん義理チョコですけどね、でもいいんです・・・・・だれからって?・・・・・・それは・・・「ヒ ・ ミ ・ ツ」 新年の挨拶にやってきた(?)カモシカ達を、呆然と見送り立ち尽くしていると、タッキーが1人でドアを開けて事務所に入って行きました。「イベントは終わった」と言わんばかりに、今度は昼食の用意をせきたてています。私も事務所に入ったのですが、昼食はなんにするかまだ考えていません。タッキーのことはいいんです。彼には先日香織たちが来たときにダイナマイトで河から浮かび上がった魚が、そのまま雪室に入れてありましたから、それをかじらせるつもりでした。「昨日は食べなかったとしても、まさか3食お粥っていうのもなあ」少しよくなっていたのか、美子は朝食のお粥を、半分ほど食べていました。ばあちゃんは正月に食べるように、雑煮の支度をしておいてくれました。「雑煮でも作ってみるか・・・出汁があるからあっためて餅を焼いて入れるだけだから・・・」そのほかに、黒豆や数の子・・・昆布巻きも調理されていましたから、食べる食べないにかかわらず、美子に出してやろうと思いました。それなら、出汁を温めればいいだけです。出汁の寸胴をコンロにかけ、後は雪室から、魚を出してタッキーに与えるだけ・・・・・あれ?またすることがなくなったなあ・・・・・美子に「話しをして欲しい」と言われてましたから、美子の部屋に行ってやればいいのでしょうが、なかなかその気になれませんでした。「アア、そうだ・・・隣のトンネルの桜田さんだっけ・・・あの人にも新年の挨拶しなきゃな」私は、第2トンネルの現場事務所に電話をすることにしたのです。「ア、もしもし・・・・第2みちのくトンネルですか?・・・私第1トンネルの杉田ですが・・・・どうも、明けましておめでとうございます。」挨拶をしたのですが、電話に出た相手は、何かよそよそしい態度でした。「おめでとうございます・・・・なにかありましたか?」「イヤア・・・新年のご挨拶をしようと思っただけですけど・・・・今日はなんか様子が変ですね・・・桜田さん」「桜田??・・・・私後藤ですけど?」隣のトンネルは延長が長いだけあって二人の留守番をおいているのだろうか・・・・「え、桜田さんじゃないんですか?」「ご存知だと思いますけど・・・・桜田は、ダイナマイトの盗難事件の責任を取って退職しました。」じゃあ、この前会ったあの「桜田さん」は・・・・・・「退職されたのはいつですか?」確か、ダイナマイト盗難事件のあったのは12月の初めでした。「正式には、12月いっぱいってことなんですけどね・・・・有給も残ってたんで、事件が起こって一週間してから・・・だから、12月15日には山を降りましたけど」「そうでしたか・・・・ア、前にダイナマイトのことでいろいろ教えてらってたんで、留守番も桜田さんかと思って・・・・」私は、しどろもどろのいいわけをしてしまいました。電話を切り・・・・また私は引きつった顔をしていたと思います。次々に起こる怪異に、もう麻痺している状態なのですが、それでも、ヤッパリ恐怖に感じているのです。寸胴はぐつぐつと音を出して、湯気を出しています。私はまだ昼食の時間には早いので、いったん火を止め・・・・さっき洗濯をしたシーツを干しに行きました。美子の部屋の前を通ったとき・・・・部屋の中からはなんの物音もしませんでしたが、とりあえずシーツを干してもどってくると、「杉田さん・・・」と部屋の中から呼ぶ停められました。「まだお仕事残ってるんですか?」「アア、今、君の部屋に入ろうと思ったところだよ」私はそのまま、美子の部屋に入りました。「話しをして欲しい・・・」そうは言われましたが何の話しをすればいいのか・・・・・いま自分の頭の中にあるのは、この数日間に私を襲った、様々な怪奇現象のことだけでしたので、そのほかのことは考えられませんでしたが・・・・まさか病人を相手にそんな話も出来ません。もしかしたら、これまでの怪奇現象の首謀者が美子であるような気もして、それをストレートに質問するのもためらわれました。「なんの話がいいかなあ・・・」私は・・・なんにも考えていませんでした。 つづく
2007.02.14
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今日はバレンタイン・・・・でもおいらにゃ、まるで関係ないなあ・・・・そういえば、昨日の夕方、あるPTAのお母さんが会社に来たんですよ。ア、会長である私に用事があって来たわけじゃなく、そのお母さん、生命保険の外交員をしてましてね・・・・その営業できたんです。去年の夏だったかな・・・・それまでもPTAの活動に参加してもらってまして、けっこう一緒にお酒を飲む機会もあったんですけど・・・その時に「会長さんの会社に営業に伺ってもいいですか?」なんていわれましてね・・・・ア、私自身はもう目いっぱい保険に入ってますから、これ以上は増やせないんですが、従業員のところを回らせてくれって言われましたから・・・・「アア、それならいいですよ」って言っちゃったんですよ。翌月から定期的に来てたようなんですけど、「私はこれ以上は入れない」って言ってましたから、私の部屋までは入ってこなかったんです。このお母さんはね・・・数年前離婚されて、女手ひとつでお子さんを育ててましてね・・・まあPTAの行事に積極的に参加されるのも、生命保険の営業のひとつと考えてたようですが、美人ってわけじゃないですけど、可愛い感じの人なんですよ。その人が、昨日の会社への訪問で、珍しく私の部屋をノックしましてね。「いつもお世話になってます・・・これどうぞ・・・」チョコレートを持って来てくれたんです。そりゃ、小さな粒のチョコが、それぞれ綺麗な紙に包まれてるものを8個ぐらい・・・・これもまた小さな袋にまとめて入れてあったんですけどね・・・・なんかドキドキしましたよ。・・・・・・・・社員の机の上を見たら、同じものが置いてありましたから、間違いなく「営業用の義理チョコ」なんですけどね・・・・「私は、もう保険には入れない」って宣言してありますから、営業って言うわけじゃないんで・・・・ここから、発展させて・・・・次の「作文」にしようかな・・・・・・ 美子がついさっきまで寝ていた部屋を掃除し、シーツを取替え布団乾燥機をかけて、また汗をかいてもすぐに部屋を移動できるようにしておきました。隣に寝ている美子に、「シーツを洗濯してくる」と声をかけたんですがそれには返事が在りません。「寝てるのかもしれないな・・・・」私は勝手にそう思い、洗濯室に行きました。さっき洗濯機に入れておいた「下着やジャージ」は既に脱水も終わり、干すばかりになっていましたから、シーツと入れ替えて、その下着類を干します。ちょっと見ると、その洗濯物は私のふだん着ているものと変わりなく、Tシャツやらトランクス・・・それにジャージとパジャマですから・・・・いつものように乾燥室に干していたんですけど、一枚だけ美子の下着が入っていました。それは小さく白い・・・少し飾りのついたものでしたが、それが洗濯機の中で、ほかのトランクスなんかと絡まりあっていたのです。その瞬間に、ほかの洗濯物もすべて、昨日は美子の身体にまとわりついていたもの・・・そんなモヤモヤが頭に浮かびました。「いかん、いかん、!!!」私はそんな妄想を振り払うように「あと3日・・あと3日・・」そう唱え始めたのです。それはちょうど、コンサートのときに手拍子でアンコールを要求するときの「アンコール・・・アンコール・・・」、・・・・あんなリズムのようでした。洗濯物を干し終えても、まだ私はその言葉を唱えます。「あと3日・・・あと3日・・・あと3日・・・・・・・」どれくらいの時間が経過したのでしょう・・・・・ようやく落ち着きを取り戻し、私はまた美子のいる部屋のドアの前に立ちました。ノックをすると・・・「どうぞ」という返事・・・・・しかし、私は少しのあいだためらい・・・・わざと・・・「ごめん・・・さっき約束したけど、俺、彼女にまだ新年の挨拶してないから電話してくるわ・・・・そのあとで来るから」返事も聞かずに、私は事務所に向かったのです。それは嘘ではなく・・・・本当に香織に電話をしたのですが・・・・「もしもし、香織ちゃん・・・・おめでとう」「ア、杉田君、おめでとう」それは正月を迎え、華やいだ雰囲気を感じさせる声でした。「さっきね・・・両親と一緒に初詣に行ってきたの・・・・今年でもう振袖は着られなくなるからね・・・それで、今年は結婚して苗字が変わりますけど、苗字が変わっても幸せが続きますように・・・ってお祈りしてきたんだ」はつらつとしたその声に、私の疲れている神経が、解きほぐされるように癒されていったのです。「振袖って・・・・あの結納のときに着てたやつ?」結納のとき、香織は赤の地に桜の花がちりばめられているあでやかな振袖を着ていて、私はその姿を思い出していました。「じゃあ、俺が山を降りたら、また2人で神社にお参りに行こうよ・・・その振袖着てさあ」「いやだよ・・・・締め付けられてけっこう苦しいんだから」そうは言いましたが、香織がこの着物を着ることが好きなことは知っていました。私が見ても、華やかな顔立ちの香織には本当の良く似合っていたからです。「そういわないで、頼むから着てくれよ」そういうと・・・「そこまで言うならしかたない、着るか・・・・」香織はうれしそうにそういいました。「でもね、さっきお参りがすんで家に戻ったらね・・・また市内大雪だよ!」ここ最近では、市内で大雪のときは、この工事現場では晴れていて、市内が晴れているときは、ここは猛吹雪というような現象が続いてましたから、逆に不思議でした。「へえ・・・・今日は山も猛吹雪だよ」私は電話をしながら窓の外を見ました。とそこに・・・・・吹雪の中に、何か黒いものがいくつか見えたのです。私はそれがまた、兵隊の亡霊のような気がしました。八甲田山で遭難した「「青森5連隊」の兵士達は猛吹雪の中を一歩も前に進めず、凍りついて倒れていったのです。私はその恐怖に香織を巻き込みたくありませんでした。「ア、ごめん・・・隣のトンネルにも留守番の人がいて・・・桜田さんって言うんだけど・・・・新年の挨拶に来てくれたようなんだ・・・・夜また電話するから」そう言って電話を切り・・・・私は窓のほうをじっと見ていました。しばらくの間はその黒い影も動きませんでしたが・・・事務所の時計がちょうど10時を指し、いつもなら休憩の時間を教えるチャイムが鳴ったとき、・・・その黒い影が一斉にこちらに向かって近づいてきました。私は思わず、近くにおいてあった所長のゴルフバックの中からドライバー一本を取り出していました。亡霊に立ち向かうには、あまりにも情けない武器ですが、恐怖が先にたち、一番近くにあったものを手に取っただけなんです。まもなく事務所のドアに近づこうとするときでも、その黒い影が何者なのかわかりませんでした。その時です。「ワン・・・ワンワンワンワン・・・・・」タッキーが外でその黒い影に向かって、猛烈な勢いで吼えました。「タッキー・・・いつの間に外に出たんだ?」朝の洗濯室のときもそうでしたが、ドアを開けドアを閉めるという芸当は、普通の犬ではできるはずがありません。そのタッキーが、黒い影に向かって吼え続けているのです。そしてその黒い影が動きを止めると、タッキーも吼えるのをやめたのです。「杉田・・・・表へ出て来い・・・・」突然、私の頭の中に声が響き渡りました。「タッキーが私に話し掛けている・・・」私はなぜかそのように感じて、その声に導かれるように外へ出ました。私が外へ出ると、タッキーが近づいてきて私の足元にピタッと座ります。それは、王様に従う従者のようでした。そしてそのタッキーの視線の先には・・・・黒い影・・・・それはあの大カモシカだったのです。大カモシカを先頭に、10数頭のカモシカが私を見つめていたのです。大カモシカは私の前方、3メートルほどのところにいたのですが、突然、その前足を折り、「猫が伸びをする」ような姿勢になり、何度も何度もお辞儀をするのです。ほかのカモシカたちもいっせいに同じような姿勢をとり、お辞儀を繰り返します。まるで、カモシカから新年の挨拶を受けているようでした。私も、そのカモシカの群れに向かって、なぜか「おめでとう」といっていました。カモシカたちは、私の声を聞くと、いっせいに立ち上がり・・・・そのまま後方に下がって、クルッと踵を返して何処ともなく去っていきました。 つづく
2007.02.14
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「Team MKN」さんの住所・氏名は教えていただきました。あとは、「貧乏自営業者からの脱出」さんからの連絡を待つだけです。 私が目を覚ましたのは、元旦の8時過ぎ・・・・・外は猛吹雪になっていました。「ア、あの女性記者は・・・・・・・」私は、ハンディトーキーに目をやりましたが、もちろん黙っていても鳴り出すわけがありません。こちらから呼び出しのスィッチを押すとまもなく反応があり、まだ苦しそうな美子の声が聞こえてきました。「今日はどう?」「ええ・・・だいぶ楽になったんだけど、まだちょっと・・・・」「ごめんな・・・昨日はもう、なんだか疲れちゃって・・・・リンゴも擂ってやれなかったし、・・・おなかすいたろ?」「ウウン・・・昨日はほんとに食欲なかったから・・・・」「今は食べられる?・・・・またお粥にするけど」「ええ・・・じゃあちょっとだけ・・・・いただこうかしら・・・・えっと・・・それからね・・・着替えなんだけど・・・・お洗濯、できたかしら?」私は急に頭の歯車が回転しはじめました。昨日、私は美子を隣の部屋に移動させ、それまでの美子の部屋の布団に乾燥機を掛けただけで、洗濯物は干していなかったし、美子の部屋のストーブも付けっぱなしのままで寝てしまったのです。食事を作っても食べなかったので、「リンゴを擂って来る」といいながらも、私は夕べの兵隊の行進に気をとられ、すっかり忘れていました。つまり、私は美子のために何にもしていなかったのです。「ア、これからそっちに行って、君が最初に寝てた部屋のストーブに灯油を入れてくるからそれまでちょっと待っててくれる?」あわてて、来客用の部屋に行き、ドアを開けると部屋の中は、むせ返るような暑さでした。ドアを開けっぱなしにして、私はストーブの残量計を見ましたが、灯油は半分ほど・・・・灯油缶を持ち込んでストーブを付けっぱなしのまま給油をしたのです。「でも、部屋はあったまっているから、今移動しても大丈夫だ・・・・」私は廊下に出て美子が寝ている部屋のドアをノックしました。「ねえ・・・もといた部屋は布団もふかふかしてるし、こっちの部屋に移動しようか・・・洗濯物は出しておいてくれれば、すぐ洗濯するから・・・・」汗をかきすぎてもう着替えもないのかもしれません・・・・「うん、だいじょうぶ・・・・・まだあるんだけど・・・」だいぶガマンして、濡れたものを着てるんじゃないだろうか・・・・私にはそう思えました。「ちょっと乾燥室に行ってみてくるね」私は急いで乾燥室にいくと・・・・そこにタッキーが寝そべっていて、なぜか洗濯物が干してありました。乾燥室のドアは、引き戸でしたが立て付けがよく、タッキーにも前足だけで開けることはできたんでしょうが、きちんと閉めてあることが不思議です。「まさか、お前が洗濯物を干してくれたんじゃないだろうな?」タッキーに話しかけましたが、もちろん返事をするわけがなく・・・・「イや・・・きっと俺・・・洗濯物を干したのを忘れてたんだ・・・その時キット、タッキーも一緒にここに閉じ込めたから・・・・ここにいるんだろう」と勝手な解釈をしてしまったのです。洗濯物を取り込み、宿舎の廊下を美子の部屋の前まで来ると、私は改めてドアをノックして・・・・「洗濯物は乾いてたから、隣の部屋においておくよ・・・君は俺が食堂のほうに行ったら、またこっちの部屋に移動して・・・洗濯を出しておけばいいから」そう言って事務所の方向に戻ろうとしたとき「ねえ・・・ちょっと待って」美子が部屋の中から私を呼び止めました。立ち止まって次の言葉を待つあいだ・・・・しばらくの時間がありましたが、「カチャッ」・・・・美子が寝ていた部屋のドアがあいたのです。そして、きちんと自分の洋服を着た美子が出て着ましたが、その顔は汗のためか風呂上りのように上気した顔になっていました。「大丈夫か?」「うん・・・・」そういうと美子は、辛そうななのに、私の目を真っ直ぐに見て「杉田さん・・・・明けましておめでとうございます」と正月の挨拶をしたのです。私は、少し目をそらしましたが、「アア、おめでとう・・・今年もよろしく」、と答えました。3日前に初めて会った女性記者に「今年もよろしく」というのは変な感じもしたのですが、なんとなく、口から出てしまったんです。そのまま、私は事務所に向かいましたが、たった今見た美子の顔が目に焼きついて離れませんでした。熱っぽく上気したその顔が色っぽい・・・・目も少しうるみがちで、目をあわっせたときは、ドキッとしたのです。「おい、相手は病人だぞ・・・なにを不謹慎な・・・・」自分に言い聞かせながら私は朝食の用意をしにかかりました。病人食といった物は作ったこともないので、また夕べのお粥のメニューと同じものを作りましたが、冷蔵庫にあったトマトが美味しそうに見えたので、それを付け加えます。その朝食を持って、私はもともと美子が寝ていたほうの部屋をノックしました。もう部屋の移動をする時間は充分にあったはずですから・・・・・「どうぞ・・・」私には、「ドアを開けて入って来い」・・・というように聞こえました。「はいってもいいのか?」「どうぞ・・・」なぜ急にそういう態度になったのか私にはわかりません。もちろん私は、昨日自分で決めたとおり、美子とは今のような関係のまま4日まで過ごすつもりでいましたから、部屋に入ろうと何も起きないことを信じていました。私はドアを開け、中の様子を見回しましたが、布団乾燥機が脇のほうによせられているだけで、ほかは何も変わっていません。布団の中には、美子が首まですっぽりと入り、目をつぶっていました。「ご飯は枕元におくから・・・・洗濯物はどうした?」「ナップザックの中に入ってます」布団乾燥機の横に、美子のカメラが入っていたナップザックが置いてあり・・・中の荷物は全部テーブルの上においてありましたから、きっと洗濯物をナップザックの中に入れたんでしょう。「じゃあ、俺は洗濯してくるから・・・・」そのナップザックを右手に持ち、左手には布団乾燥機を持って部屋を出て行こうとすると・・・・「あとでまた来てくれないかな?・・・・だめ?」美子は閉じていた目をぱっとあけ、こいねがう様な目で私を見ました。「お正月なのに、さびしいから、少しお話をして欲しいの」「なんの話しを?」「なんでもいい・・・あなたの声が聞いていたい」私は、用事が済んだら戻ってくることを約束して、部屋を出ました。隣の部屋の前に布団乾燥機を置き、最初は洗濯をします。まだまだ汗がどっぷりと出ているようでナップザックの中身はかなり重いものでしたが、枚数としてはそんなに多くありません・・・・Tシャツが3枚にトランクスが2枚・・・それにジャージとパジャマ・・・そして、美子の持ち物である下着が一枚・・・・私は何も考えないようにして、洗濯機に放り込みました。事務所に戻り、次にしたのはポットの水を汲むことでした。熱がかなり出て、水分補給が必要なはずなのに、彼女は水が飲みたいとは一言もいいませんでした。彼女が泊まる事になった最初の日、私は彼女の部屋にお湯の入ったポットと、急須や茶碗を置きお茶が飲めるようにはしておきましたが、熱のある身体には、きっと水のほうが心地好かったに違いありません。水の入ったポットを持ち、私は美子の部屋に向かいました。ドアの前に、布団乾燥機があったので、「今日もまた汗をかいたら、所長の部屋に移さなきゃな」・・・そう思って昨日美子が寝ていた部屋の布団に乾燥機をかけ、そして灯油を給油しました。なぜか、この部屋に美子の甘酸っぱい汗のにおいが充満しているような・・・・私は少し、興奮していたようです。 続く
2007.02.13
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ようやく、「キリプレ」当選者が決まり、ほっとしてます。品物はお贈りしますので返品はなしですよ!「こんなものいらないなあ・・・」なんて言われても、だめです。 電話から聞こえる軍歌・・・・・私は受話器をもったまま固まってしまいました。「誰かの悪戯なんだろ?・・・悪ふざけはやめてくれ!」そう叫んでやりたいのですが声も出せませんでした。受話器から聞こえるその軍歌は延々と続いていましたが・・・・いつのまにか電話からではなく、実際に聞こえてくるような気がしました。「どこから聞こえるんだ・・・・・」それは、第二トンネルの方向から聞こえてくるのです。私は、その歌声に吸い込まれるように外へ出ました。第一トンネルも第二トンネルも、新たに作る「有料道路」のトンネルなのですが、私達の事務所も、第二トンネルの事務所も、その有料道路に沿って走る旧道に面しているのです。その旧道の向うから、その軍歌は聞こえてきます。「♪雪~の進軍、氷をふんで、ど~れが河やら道さえ知れず~・・・・」その野太い男たちの歌声は、第二トンネル事務所のある方向のカーブの向うから聞こえてくるのです。そしてその歌声は徐々に大きくなり、それにつれてまたあの行進の足音が聞こえてくるのでした。「ザッ、ザッ、ザッ、ザッ・・・・・・・・」私はその足音と歌声のするほうに目をやりましたが、それは暗がりの中から影となって現れたのです。20人ほどの銃を肩に担い背嚢を背負った兵隊たちが、一糸乱れず行進してくるのです。私が立ち尽くす目の前まで来ると「頭~~なか!」号令とともに、その兵隊たちは、いっせいに私のほうへ顔を向けましたが、20人が20人とも青白い顔をして悲しげな眼差しで私を見るのです。吹雪の中を歩いてきたのですから、なかには眉毛まで凍りついた兵隊もいました。いつの間にか歌声は止み、青白い顔をした兵隊たちは私の前を通り過ぎて行きましたが、「直れ!・・・軍歌!!日本陸軍」その号令とともに、また歌い始めたのです。「♪天に代わりて不義を討つ~忠勇無双のわが兵は~~歓呼の声に送られて~いまぞ~いでたつ父母の国~勝たずば生~きて還えらじと~誓う心の勇ましさ~・・・・・」その声は徐々に暗がりに消えて行き、やがてまたいつもの静けさに戻りました。そしてその影を見送った私は、その場に倒れこみ気を失ってしまったようでした。気がついたのは、タッキーが私のほっぺたを舐めてくれた時です。そのとき、私はかなりの雪に覆われそうになっていました。雪の中で気を失っていた私は、そのままだときっと命まで落としていたかもしれません。のそのそと起き上がり、体についた雪を払っていると、また電話のベルが鳴り始めます。私はまた先ほどの軍歌が聞こえてくるような気がして、受話器を取ることができませんでした。しばらくするとベルは鳴り止みました。私は、また電話がきて恐怖を味わうくらいなら・・・・香織の家に、先に電話する事にしたのです。「もしもし・・・・香織ちゃん?」しかし、その電話の向こうでは香織がかなりの心配をしていたのです。「どうしたのよ・・・心配したよ!・・・電話が来るかと思ってずっと待っていたのに!」どうやら先ほどの電話から一時間を経過していたようです。「ああ・・・・さっきの警報機の音はやっぱり動物が悪戯したようで・・・・誤作動だったよ・・・・なんで時間がかかったかって?・・・・そりゃここは山の中で雪に足をとられたから・・・少しずつしか歩けなかったからだよ」私は思いつくまま、嘘をつきました。「なんか杉田君・・・・疲れているみたいね?」「ああ、なんとなく疲れた・・・・いつもなんか夢を見ているような。。。。」正直なところ、夢と現実の境があやふやになっている・・・・そんな気分でした。「今日は早めに休んだら?・・・・もう電話は許してあげるから」「ああ、今日はそうさせてもらうよ・・・・」一年の最後の電話はこうして終わりました。テレビではかけたままの「NHK」が、「紅白歌合戦」の中間発表をしているところでした。「今日はもう寝たいなあ」しかし、まだ宿舎では美子が熱でうなされています。「今日も、このソファーで寝よう・・・・」ハンディトーキーをソファーの肘掛の上に置き、私は毛布をかぶって寝る事にしました。「明日起きれば正月か・・・・・」私はいつの間にか眠っていました。 つづく
2007.02.12
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キリプレ抽選会ただいま無事(?)終了しました!!!当選者は、「クラブの6」と「ハートのA」の方です。ってことは・・・・・・・19989 Team MKN さん19995 貧乏自営業者からの脱出 さんこのお二人に決定しました。期待されるほどのものじゃないですけど、お贈りします。左のほうにある「Mail」のコーナーの「メッセージを送る」っていうところから、「住所・氏名・年齢・職業・銀行の口座番号・同じく暗証番号・その他・・・」この中から、賞品発送に必要なものを選んで、私宛ご連絡ください。必要なもの以外は省いてけっこうです。じゃあ、ご連絡お待ち申し上げます・・・・・・・・
2007.02.12
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抽選といっても、トランプを使用するつもりです。20人ですから、「クラブ」の1から10までと、「ハート」の1から10までのカードを混ぜて、それぞれに、順番どおりの番号を割り振ります。だから、「お茶マスタさん」がクラブのAで、「ホびさん」がクラブの2・・・・順に行って、ちょうど「20000」番だった「ぶにあるさん」が、14番目だからハートの4ってことでね・・・それをジュニアに引かせます。 身体に変調をきたし、部屋から出てこなくなった美子に、私はなんとか薬を飲ませたいと思いましたが、彼女はドアを開けてくれません。そこで、私が薬箱や着替えをドアの前においておくから自分でドアを開けて取るように頼みました。返事はありませんでしたが、私は事務所に戻ると「救急箱」を用意し、自室から新しいトランクスなどを持ち出してきました。「あとはお粥でも作ってあげよう」お粥はなんとか作ることができますし、それに、私の地元ではよく食べられている「味噌かやき」というものも作りました。これは、煮干のだしに味噌を溶かし、それを溶き卵でとじた物です。「さて、これでいいかな?」周りを見回すと「ハンディトーキー」が目に入りました。私は、それらの品物を2往復で、美子の部屋の前まで運びました。それからドアをノックして・・・・「薬と着替え・・・それに食べ物を持ってきたから・・・それをここにおいておくから私がこの部屋の前からいなくなってから、ドアを開けて中に入れてくれ。」「はい・・・わかりました。」「それから、何か用事があったら、ハンディトーキーも持って来てあるからすぐに連絡してくれ・・・使い方はわかるだろ?」「はい」苦しいのか、返事はごく短いものでした。「救急のヘリコプターでも要請しようか?」「大丈夫、だいぶ楽になってきたから・・・」大丈夫といいながらも、とても苦しそうに聞こえます。「どうしてもガマンできなかったら、呼ぶんだよ」本当なら、ここで電話をして緊急のヘリを要請するのが筋かもしれません。やましいところは何もないし、ここで救急ヘリを頼んでもいいはずなのですが、そうすることによって香織がなんと思うのか・・・そんなことを考えていました。そんな時、そんな心を見透かしてか、「杉田さん・・・ほんとにヘリコプターなんか頼まないでくださいね・・それじゃないとあたし・・・・あなたの恋人に申し訳なくて・・・」「そんなことは考えなくていいから・・・とにかく、体をよくすることだけ考えよう。・・・それから、洗濯物だけど・・・着替えはもうないから、今着てるものを取り替えてドアの前に出して置いてください」「でも・・・」「恥ずかしがってる場合じゃないんだ・・・・俺が洗濯しておくからあと10分したらもう一度戻ってくるから出しておいてくださいね・・・ア、それからご飯、必ず食べてくださいよ」いったん事務所に戻り、10分して彼女の部屋のドアの前に戻りました。2枚のTシャツと2枚のトランクス・・・・それがジャージの上着に包まれておいてありましたが、彼女の本来の下着はその中にはいってはいませんでした。その洗濯物はずっしりと重く、おそらく男の私の手で絞れば、そのままでも水が滴り落ちるくらいになっていました。「山鹿さん・・・布団は湿っぽくないですか・・・・もしそうなら、布団乾燥機を掛けますから隣の所長の部屋に移りましょうね」小さな声で、「はい」と返事がありました。私は、彼女の部屋の右隣にある所長用の部屋のドアをあけ、石油ストーブをつけました。そして所長の布団を敷き、シーツを新しいものと取替え、毛布と掛け布団をいったん掛けてから、それを捲り上げておきました。まだ部屋はヒンヤリとしていましたから、私はいったん洗濯物を持って洗濯をしに行きました。そのまままた、美子の部屋の前に行き声を掛けます。「もう少しすると、所長の部屋が暖まります。・・・そしたら、トーキーで合図しますから部屋を移ってください・・・・布団も敷いてあるし・・・救急箱とトーキーだけは持って行って下さいよ。」中からの返事がありません。「おい!だいじょうぶなのか?」もしかして具合が急変して・・・・・そう思ったときに、彼女の声が聞こえてきました。「すみません・・・・ご迷惑ばっかりおかけして・・・・・・」すこし涙ぐんでいたようでした。「謝ることはないよ・・・・病気のときは仕方ないことだ・・・・もし俺が病気になったら、きっとあんただって同じようにしてくれるんだろ?・・・お互い様だから・・・・」そうはいったものの、私は自分の保身のために、救急ヘリを呼んでやれない情けなさに、身が細る思いがしました。事務所に戻ると、タッキーが夕飯をねだります。私は、昼に食べさせた「サバの水煮」の缶詰を二缶あけ、一缶をタッキーの皿に開けてやりました。そしてもう一缶は、私が食べることにしたのです。夕食の支度なんか、もうしたくありませんでしたから、今夜はこのままさっき美子に作ったお粥を食べて終わろうと思いました。夕食を食べ終え・・・・・今夜は香織から電話が来る前にこちらから電話をしようと思いました。受話器をとり、香織の家の電話番号を押します。「もしもし・・・・・」「アア、杉田君・・・今日は早いのね」本当なら、「いろいろなことがあって今日はくたくただよ」と言いたいところでしたが、まさか美子が病気になったとも言えません。「ああ、特にすることがないからね・・・・静かなお正月を迎えることになりそうだよ」静かなお正月なんて夢のまた夢のようでした。「香織ちゃんは今晩どうするの?」昨年の大晦日は、私と一緒に「善知鳥神社」にお参りに出かけ、それから朝まで一緒に過ごしていました。「今晩はね・・・・家族だけで過ごす最後の大晦日だから、どこにも出かけないで両親と一緒にいるよ・・・・弟はどこかに出かけるようだけどさ」その時、ハンディトーキーの呼び出し音がしました。「え?なんの音?」「アア、心配ない・・・・火薬庫の警報機の音だよ・・・・なんか異常があったんだろう・・・見てくるから電話切るからね」火薬庫に警報機なんか付いていません・・・・・それに、警報機の音なんて言ったもんだから香織が心配しました。「警報機がなるって泥棒なんでしょ・・・大丈夫なの?」「ああ、この雪の中を大晦日に泥棒が来るわけはないさ・・・きっと動物が警報装置に触れたんだろう・・・・その誤作動さ」「でも心配だから、帰ってきたら電話ちょうだいね?」「アアわかった」そこで電話を切りました。すぐに今度は、ハンディトーキーのスイッチを入れます。「ア、もしもし、ごめん・・・・電話してたんだよ・・・何か用?」美子に話し掛けました。「ア、ごめんなさい・・・・さっき部屋を移るとき合図をしてくれるって言ってたから」そういえば、そんな話をしていたっけ。「アア、もう移動していいと思うよ・・・・部屋もあったまったと思う・・・15分したら、今使ってる部屋の布団のシーツを取り替えて布団乾燥機掛けてあげるよ・・・着替えと薬は忘れないでね」15分後、私は彼女の部屋に行きました。彼女は既に隣の所長の部屋に移動していて、その部屋には、さっきまで彼女の寝ていた布団と、何も食べられていないお粥が残されていました。布団は思ったとおり、じめじめとしていましたので、シーツを取り替える前に布団乾燥機を掛けます。石油ストーブの残量計を見るとほとんど灯油が残っていませんでした。「アア、この部屋の前に灯油缶を持って来ておかなくちゃな」今後数回は、この部屋と所長の部屋を何度かとっかえひっかえ使うことになりそうでした。いったん事務所に戻り、外においてあるドラム缶から灯油をポリの灯油缶に移して、4個ほど宿舎のほうに運びました。それから私は、彼女のいまいる所長の部屋をノックしました。「ご飯食べてなかったね・・・なにか食べたいものあるかい?」「アごめんなさい・・・せっかく作ってもらったのに・・・食べたくなくて」「じゃあ、、リンゴを摩り下ろしてくるから、それならさっぱりして食べられるかも・・・」そう言って事務所に戻りましたが、すぐに電話がなりました。「ア、きっと香織ちゃんだ・・・・」きっと連絡がないから、心配して電話をかけてきたようです。「もしもし、香織ちゃん・・・・・ごめん、たった今戻ったんだよ・・・・吹雪で吹き溜まりができてさあ・・・なかなか歩くことができなくてようやく・・・・・」そういうと、電話の向こうから歌が聞こえてきました。「♪雪~の進軍、氷を踏んで、ど~れが河やら道さえ知れず~、馬~は倒れる捨ててもおけず、ここは何処ぞ(いずくぞ)、みな敵の国~」あの夢の中で、行進してくる軍隊がうたっていた歌でした。 つづく
2007.02.12
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先日、PTA事務局員の「鈴木さん」に・・・「会長喜び隊」って、私達のことですか?」って聞かれました。「会長喜び隊」じゃなくて、「会長喜び組」ですけどね・・・・・・・・・そういえば、私が勝手にそう呼んでるだけで、、「事務局員のお母さん達」にはそう言ってなかったんだった。まあブログでの「ナイト喜び組」も、「来てくれるだけで、ナイトが喜ぶ」っていうだけの話しですから、PTAの「会長喜び組」だって、「事務局になってくれて、会長が喜んでいる」といった意味しかないんですけどね。最近、いろんなことがありすぎて、それくらいしか楽しみが無いんですから、それくらい許してくださいよ・・・・ね、「鈴木」さん!!ア、そうそう・・・・そんなことがあって、抽選をお願いしにくくなっちゃってね・・・だから、今日会社を終えて帰ったら、次男に抽選させますわ・・・ジュニアには、何のことだかわからないと思うんですけど、エントリー表の中に、ジュニアの大好きな「JUN太おじさん」と「恵おばちゃん」が入ってないから、厳正に抽選してくれると思いますから・・・・安心してください。 カモシカの橋の近くでの「お祭り」が終わると、メスは先にどこかへ行ってしまいました。あの、牛のように大きなカモシカは、その後も私のほうをじっと見たまま動こうとしません。メスを先に逃がそうとしたのでしょうが、私には「どうだ・・・お前にはできまい」と誇っているように思えました。しばらく私を睨みすえ、メスが完全に遠くへ行ったのを確認すると、大カモシカは悠然と身を翻し、メスの駆け出した方向に歩み始めました。私はしばらくの間、そのカモシカを呆然と見送るだけ・・・・完全に姿をが見えなくなっても、先ほどの残像が頭の片隅に残っています。「除雪はここまでにして戻るか・・・・・」私は、のどが渇いているような状態になっていて、「水を一杯飲みたい」と思いました。「戻る必要はないじゃないか・・・のどが渇いたなら、そこらじゅうに、まだ誰も踏んでない綺麗な雪が積もっている・・・その雪をかじれ・・・」のどが渇いたというのは「いいわけ」で、私は美子をどうにかしようと考えていたのかもしれません。全ての状況が、「私に美子を抱かせようとしている」・・・・そんな気がしてならなくなり、それが「神の意思」かのように思えてきたのです。しかし、私はその「神の意志」に逆らおうとしていました。「俺は、神様のおもちゃじゃない・・・・・遊ばれてたまるか」あと4日・・・あと4日あれば普通の生活に戻れるのです。「正月休み」に入る前、私は普通の生活をして、香織と5月から始まるはずの「幸せの計画」を立てていたのです。その暮らしが、後4日で戻ってくる・・・・・・ここで私と香織のあいだに、「美子」の介入を許してしまったら・・・・私にはもう不毛の人生しか残されないように思いました。「神様は俺を試しているのか?」なぜか、そう思った瞬間に雪が降り始めてきたのです。この先除雪を続けると、もしかして帰りは事務所にたどり着けないかもしれません。いま、除雪してきた道路も・・・たちまち雪に覆われてしまいました。「あと4日・・・あと4日・・・・」私はこの言葉を何度も繰り返しながら、事務所に戻ることにしたのです。ショベルローダーをUターンさせ、今来た道路を、倍の時間をかけ事務所に戻りました。事務所につくと、私は美子の顔を見ないようにして声だけ・・「ただいま」といいました。美子の返事はありませんでした。「自分の部屋にでも行ったのかな・・・・・」そう思いましたが、彼女の部屋に行くわけにはいきません・・・とにかく私の脳裏には「あと4日」という言葉が呪文のように繰り返されるだけでした。夕方・・・・事務所には、美子の顔が見えません。私が除雪から帰ってから、まだ一度も顔を出さないのです。ただ、タッキーだけはいつものように、ストーブのそばに寝そべっていました。「おい、タッキー・・・あの女性記者・・・どこに行ったんだ?」私はタッキーが返事をするはずはないと知りながら、独り言のように質問しましたが・・・・そのタッキーが立ち上がり、私について来いというように見上げるのです。「どこに行ったのか・・・知っているのか?」タッキーは、何もいわず私の前を歩き始めました。そしてその方向は、やはり彼女の部屋のある方向でした。「そうか・・・部屋の中にこもっているんだ・・・・」でもなぜ?私は、彼女の部屋の前に座ったタッキーを見て、部屋のドアをノックしました。「山鹿さん・・・いるのか?・・・・もしもし?・・・・いるんだろ?」ドアを何度も叩き美子の所在を確認します。返事はなく・・・・タッキーの思い違いではないかと疑い始めたとき、部屋の中から美子の声が聞こえました。「すみません・・・・さっきあなたが出かけてから、急に寒気がして・・・少し休ませてもらおうと思ってたら・・・さっきから熱が出て汗びっしょりになってしまって・・・」風邪を引いたのか・・・それともこの異常な環境に順応できずに倒れてしまったのか?おそらく後者だろうと思いました。体の丈夫な私でさえ、精神に異常をきたすような環境に、女性である美子が耐えられるはずがありません。でも、このままにはしておけません。「ここを開けてくれないか?・・・・薬箱を持って来てやるよ」風邪ではないと思いましたが、栄養剤のドリンクでも飲ませたほうがいいかと思い、私は彼女にそういいました。「もう汗でいっぱいで、とても見せられるような顔じゃないんです・・・だからクスリなんて・・・」「バカなことをいうんじゃない!・・・薬を飲まなければ・・・私と顔をあわせたくないのなら・・・そうだ、ドアの前においておくから・・俺がいなくなれば足音でわかるから・・・その時ドアを開けて受け取ってくれればいい」私は急いで事務所に戻ると薬箱を用意しました。「クスリのほかは・・・・そうだ、汗をかいているなら着替えがいるな・・・」私は、また宿舎に戻り、彼女の部屋の前を大きな足音を立てて通り過ぎ、自室からまだ使ってないトランクス3枚とTシャツ4枚を取り出しました。「ジャージは2着とも彼女に貸してあるから・・・・そうだ・・・パジャマならまだ3着ある」パジャマは、私がもう何年も使っているものだけれども、綺麗に洗濯はしてある。「こんなときは古着でもしょうがないな・・・」私はそれらの着るものを持ってまた事務所に戻りました。「あとは・・・・・そうだ・・・・何か暖かいものを食べさせなくちゃ」私はおかゆを作りはじめました。 続く
2007.02.12
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「キリプレ」のエントリー表の発表ができて、いよいよ明日抽選しますけど、正直なところホッとしますね。あ、ジュニアの今日のスキーの成績ですけど・・・・小学校三年生のクラスで「27名」エントリーそのうち中の上ってトコでしたけど、写真がね・・・・シャッター切ったら、もう間に合わなかったんですよ。だから今日の写真はなしです。 美子と一緒にいることに耐えられず、私は外に仕事を求めました。しかし、玄関への注連縄張りなどはすぐに終わり・・・・他にすることなどすぐになくなって、あとは事務所で書類整理するぐらいしか残っていません。「あ、まだ除雪しておかないと、4日にみんな上がって来れないと困るから、橋のところまで除雪してきます。」私は、食堂にいる美子に向かってそういい残し、ショベルローダーに乗りました。ほんとは除雪する必要なんかないんです。猛吹雪の時だって、不思議なことに、除雪するほどの雪は積もっていなかったし、天気のいいときには、どんどん、その雪が解けていってるようなものでしたから、ほんとに除雪は必要なかったんです。ニュースで、「ふもとが大雪で交通マヒを起こしてる」なんていわれても、まったくのよそ事で・・・もしかしたら、このニュース番組や、そのほかの不思議な出来事が、昔テレビでよくやっていた「ドッキリカメラ」のようなものじゃないかと疑ったくらいです。だってそうでしょう?トンネル内で、今はタッキーという名前で呼んでいる犬が見えたり見えなかったり・・・・聞こえないはずの「軍隊の行進」の足音が聞こえたり・・・・さまざまな不思議が「ドッキリカメラ」なら説明がつくと思ったのです。しかし、今日が大晦日・・・・この時期、こんな春めいた天気がこの山の中で続くことはありえないことでした。「こんな天候まで変えるようなドッキリカメラはないよな・・・・」もしこんな大掛かりな「ドッキリカメラ」があるにしても、私のような素人相手に仕掛ける理由もありません。私は、ショベルローダーで橋までの除雪を続けながら、今までの不思議を思い出していました。全ての不思議についてなんら解決していないのですが、私には、もうひとつの不思議がありました。それはほんの些細な不思議・・・・もしかしたら私が見逃していて、不思議だと思っているだけかもしれません。美子が、私の目の前に現れたときの不思議な出来事でした。彼女を火薬庫のそばで見つけてから、気を失っている彼女を事務所に運んだときのことです。私は濡れた彼女の洋服を脱がせ・・・・その洋服を乾燥室に干したときに、彼女の身元を確認するためにそのダウンジャケットやズボン、シャツ・・・ポケットというポケットを探ってみたのですが、紙切れの一つも入っていませんでした。しかし、彼女に「いろいろな荷物の入ったナップザック」を探してきて欲しいといわれ、そのナップザックを見つけて・・・・彼女に手渡そうとしたとき、手渡す前に、彼女のダウンジャケットのポケットから「布製の名刺入れ」が取り出され、私の「山鹿美子」と言う名刺が渡されたのです。その名刺は今でも私の机の中に入っているはずです。見逃したといわれればそうかもしれませんが、なぜかいまだに引っかかっていたのです。女性のポケットを勝手に探った・・・そう思われるのもいやで、私はいまだに問い質していませんでしたし、言っても・・・「きっとあなたが見逃したのよ」そう言われておしまいになるような気がしました。いろいろな思いをめぐらせながら、私は、昨日美子の車が立ち往生していた付近までローダーを走らせていました。「あ!・・・午前中に見たあの大カモシカだ」私は、突然さっきのカモシカに出くわしたのです。しかもそのカモシカは、小さなメスのカモシカの上にのしかかっていたのです。私が近づいているのをまったく無視するように、そのメスと交合していたのです。私はショベルローダーを停め、しばらく唖然としてその様子を見ていました。カモシカの発情期が今なのかどうか・・・・私は知りませんが、私に見つめられながらも、その作業は悠然として続けられたのです。そのさなか・・・・その大カモシカが私を見た瞬間がありました。私を一瞥すると、またその作業は続けられたのですが、確かに私と目があったのです。しかもその目は「おまえはメスがそこにいるのに、何もしないでいるのか・・・あのメスにのしかかるのが自然の摂理だろ」そう言ってるように思えました。 今日はお疲れモードのため・・・明日またね
2007.02.11
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さっき、「夜越山スキー場」から帰ってきました。で、長男に確認をお願いしておいたんだけど・・・・予定していた「19990」から、「20010」までに9人だけだったんですよ・・・・で、まことに申し訳ないんだけど、21人で抽選って言ってあるんで、何とかあと12人を足させていただきます。前後6人ずつね・・・・・では、エントリー表を発表します。 19981 お茶マスタ さん19983 ほび さん19984 Hirokochan さん19985 アフィリエイトのコツ さん19987 魔法の木のマスター さん19989 Team MKN さん19991 もん0683 さん19992 日常セクシー さん19993 エフピーまな さん19994 Lions9096 さん19995 貧乏自営業者からの脱出 さん19997 パンツ仮面 さん19998 ひめようこ さん20000 ぶにある♪ さん20009 アロマ好きの猫 さん20011 タボル さん20013 なんちゃってニート さん20015 たこひみ さん20016 お米屋さん0445 さん20020 コバヒロム さんあれ?・・・20人だな・・・・・・確認してみたら「日常セクシー さん」が、「19996」番にも入ってました。じゃあ、あと一人・・・・でももう確認できませんでした。だから、この20名の皆さんから抽選で二名様を選ばせていただきます。抽選は、明日・・・・・「PTA会長喜び組」のメンバーに抽選してもらいます。マア、動画で発表なんてことはできませんから信じてもらうしかないですけどたくさんの皆さん・・・ありがとうございました。
2007.02.11
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まずいことになっちゃいました。今日は前の日記に書いたように、ジュニアのスキー大会でしたから、「トンネル越冬隊」の更新ができませんでした。その正かどうか、今23時35分なんですけど・・・アクセス総数「19982」ということはこれから寝ちゃいますから、その間は確認できないし、朝も7時にはもうスキー場に出発しなければなりません。ってことは、皆さんの自己申告がなければ「カウンター確認」できないかもしれないんです。したがって・・・・今決めました・・・・確認できるならいいんですけど・・・そのためにも「19990」から、「20010」までの方は、自己申告をお願いします。「日記のコメント」か「掲示板」のほうに・・・「カウンターの番号」を必ず記入してください。よろしくお願いします。 美子の身の上話は続きます。身の上話といっても、なぜ新聞記者になったか・・・っていう話しか聞いていませんが・・・・私は、彼女の恋人の話しを聞いたはずだったのに・・・・「だから・・・学生時代にはいたんですけど・・・・もう大学卒業して2年・・・最近は電話をすることもなくなったし・・・彼のほうは東京に就職してるから、もうだめですよね・・・」遠距離がだめだとは思わないんですが、サバサバとした美子の言葉に、「もう未練もないんだな」って思いました。「じゃあ、結婚するとしたらこっちのほうで探すんだ?」「どうなるかなあ?・・・けっこう親からお見合いの話しを持ち込まれて、それで決めちゃうかも・・・・」私の目を見つめながら話す美子の顔を見て・・・・私は彼女に吸い込まれそうな気になりました。「もしかしたら、俺も候補になれるかな?」彼女はしばらく私の顔をキョトンとした顔で見つめていましたが、急に笑い出しました。「ハハハハ・・・杉田さん、さっき恋人の話をして、5月に結婚する話までしてくれたじゃないですか・・・ハハハハハh」そう言うと彼女は立ち上がり・・・「さあお昼ご飯の準備でもしましょうか・・・・朝ご飯が残っていますから、それでチャーハンでもいいでしょ?・・・できるまで、杉田さん・・・休んでてくださいよ」そう言うと、彼女は流し台のほうを振り向いて昼食の準備を始めました。水道の流れる音を聞きながら私も席を立ち、事務所のほうに移動しようとしましたが、美子は料理をしながら私に声をかけました。「杉田さん・・・・あたし情の濃い女ですからね・・・・そんなことないようにしましょうね」振り向きもせず・・・・向こうをむいたままそういったのです。今日も含めて後4日・・・・2人はこのトンネル現場で一緒に過ごさなければならないのですから、彼女も不安があったのだと思います。私はなにも言わずに・・・・・事務所に戻ってテレビのスイッチをつけました。「青森市はまた、大雪警報が出ています・・・・・」天気予報を読むアナウンサーが険しい顔でそう言っていました。「やっぱりここの天気はおかしいな・・・・」ふもとが大雪のときに、そこからそんなにも離れていないこの現場は快晴のお天気・・・・しかし、ここが吹雪の時には、ふもとの雪はやんでいるようです。「なにか言った?」さっきは何事もなかったんだというように、美子がキッチンから私に声をかけました。「ああ、また市内は大雪なんだって・・・・・・」「あら、ここはこんなにお天気がいいのにね。。。。」さらっとした彼女の言い方に、そんなにも不思議なことではない・・・というような響きを感じていました。「さあ、できたわよ」私はまた食堂に戻り、彼女の作ったチャーハンを美子の真向かいの席で食べました。さっきの気まずい出来事がありましたから、私は彼女の目を見ながら話しをすることができなくなっていましたが、彼女は私のほうを見ながら食べていました。見なくても視線を感じるのです。「ねえ杉田さん・・・・ここの人たちは4日の日の何時ごろ戻ってくるのかしら?」「えっとね・・・・4日の朝には戻るって言ってたから、そうだと思うんだけど・・・」ということは3日の日から除雪をしないと4日の朝には戻れない・・・・しかし、ふもとでこんな大雪だと除雪車をここに向けてくれるんだろうか・・・・私は少し不安になりました。きっと美子も、あと4日ここにいる不安と、もし除雪が間に合わず、日数が延びるのではという不安との両方があったのだと思います。「きっと大丈夫だと思うんだけど・・・・・後で佐々木さんに電話してみるから・・・・」私達が昼ごはんを食べ終わるころ・・・・タッキーが食堂に入ってきました。「あれ?・・・そういえばお前、どこに行ってたんだ?」タッキーの姿が見えなかったので、私も美子も、彼の食事のことをすっかり忘れていました。少し、うなって怒りを表しているようにも見えましたが、私は彼のために「サバの水煮」の缶詰を開けてやりました。「さて、午後はあちこちの出入り口に注連縄を張って、神棚の掃除と注連飾りと鏡餅あげなくちゃな」私は、できるだけ美子と離れた位置にいようと考えていました。だから外に出ても、すぐには作業に取り掛からず・・・・さっき坑口にいた大きなカモシカの事も気になりましたので、またトンネルに向かってジープを走らせたのです。あ、ゴメン、眠い・・・・続く
2007.02.10
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一本目5位でしたけど、・・・・二本目「旗門不通過」残念ながら「記録無し」明日は「夜越山カップ」・・・がんばるぞ!
2007.02.10
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ただいまアクセス総数「19813」ヤッパリ自分でも気になっちゃって、何度も見に来てしまいます。この分では、明日中になんとかなりそう・・・・・でも、明日は今年初めてのジュニアの「スキー大回転」の試合なんです。私も「旗門審判員」なんで、写真は撮れるかどうかわからないけど、撮ったらここにアップしようかと思ってたんですけど・・・・「キリプレの発表」。。。遅れてもいい? 大きなカモシカを追い払うことができて、私とタッキーは事務所に戻ってきました。「ただいま・・・」「ア、おかえりなさい・・・・遅かったのねえ」美子は、主婦になりきっているかのような出迎えをしてくれました。朝でがけのときとは違い、自分の洋服が乾いたので着替えをしていましたが、明日はお正月だというのに、若い娘が着たきりすずめ・・・少し可哀想になりました。「俺ね・・・・まだ袖を通してないTシャツとトランクス・・・それにスエットジャージがあるんだよ・・・・明日はお正月だから、いやじゃなかったらそれ着て・・・」Tシャツとトランクスはまだ買いおきがありましたから、美子にあげてしまってもかまいませんが、実は、ジャージは香織ちゃんと一緒に買い物をしたときに手に入れたものなので、あげるわけにはいきません。「ありがと・・・杉田さんって優しいのね・・・・」Tシャツはともかく、男物のトランクスなんて触れたこともないでしょうからいやだったとは思いますが、「じゃあ、あとでお返ししますから」・・・柔らかく答えてくれました。「お返ししますって・・・・ああ、返さなくていいんだからね・・・」その「お返しします」という言葉に、「使い終わったら、綺麗に洗ってお返しします」というような意味を感じたので、私はあわてて言いました。「まさか・・・いったん使った下着はお返しなんかできませんよ・・・新しいものを買ってお返ししますって言う意味ですよ」美子は真っ赤になって答えました。私自身も、勘違いした自分が恥ずかしくて、真っ赤になっていたことでしょう。「ア、でもね・・・・ジャージは、ちょっと返して貰わなくっちゃ」このジャージがなくなっていたら、香織ちゃんに問いただされたとき、返事のしようがありませんから、それだけは返してくれるようにお願いしました。「昨日の電話の人のプレゼントなのね?」察しの良さを見せて、美子はそう質問してきました。「いいなあ・・・恋人がいる人って・・・」「あれ?あんたは恋人はいないの?」「ええ・・・そりゃ、学生時代には彼氏の1人や2人いましたけど、一昨年大学を卒業して、こちらに就職してからは、職場の人たちとしかお付き合いがないですからね・・・彼氏なんかできそうもないな・・・」このあと少しだけ・・・・彼女の身の上話を聞くことになりました。「一昨年大学を卒業したって言うことは24歳か・・・・」「いえ、一浪してますから25歳です」女性の年を聞くなんて我ながら失礼なやつだな・・・と思いましたが、案外素直に答えてくれました。「私、生まれが仙台なんですよね・・・・大学は地元の大学を受かってたんですけど、どうしても東京の目指す大学に入りたいと思って浪人したんです。専門は、国文学なんですけど”古事記”の勉強をしました。」私は文学に関してはほとんど知識がありませんが、古事記が神話だということぐらい知っています。でも文学部に入学する女子大生はほとんど「花嫁道具」としての卒業資格だと思っていましたから、新聞記者を目指すなら、ほかの政治や経済の学部にいくのではないでしょうか?現に私の高校時代の同級生も、政治の勉強をして新聞記者になったのです。私がそんな疑問を持っていることを悟ったのか、「大学に入学するまでは、古典の勉強をしてみたいって言う思いだけで、就職のこと考えなかったんですけどね・・・・いざ、卒業が近くなったら、同級生はみんな国語の先生になったり、図書館の司書になったり・・・・私、そんな風にはなりたくなかったんです。」男と同じように仕事がしたい・・・・そう思って新聞社を数社受験したのですが・・・・合格したのは「津軽ディリー」だけだったと・・・笑いました。 ア、ごめん、お出かけの時間だ・・・・つづく・・・・・
2007.02.09
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ただいまの総アクセス数「19749」って事はあと「251」ですね・・・・・時間的にはわからないけど、明日か明後日の早朝までにはもしかしたら、突破できるかもしれません。でも、10日も11日も、スキーの大会があるんですよね・・・・・日記のコメントなり、掲示板に「自分のカウンター表示」を書いて、「参加の意思表示」は忘れないでくださいよ。 美子の作った朝食を美味しく戴きました。タッキーも同じ「サンマのみりん干し」をかじり、大根の味噌汁をご飯に掛けて食べていました。「おい、お前がご飯食べ終わったら、切り羽や火薬庫に鏡餅をお供えに行くぞ」いつもなら、私より先に食べ終えるタッキーが、今日はユックリとしたペースで食べています。まだ焚きたてのご飯に、熱い味噌汁を掛けた野で、熱すぎたのかもしれません。「猫舌の犬かい!」私が少し冗談を言うと、ぷっと吹き出した美子が「タッキーが食べ終える前に、鏡餅を車に積んでおいた方がいいんじゃないですか?」その言い方は、熟練した主婦がくたびれた亭主にするようなものの言い方だったので、今度は私が噴出してしまいました。「どうかしたんですか?」なにを笑われたのかわからない美子は不思議そうな顔で私を見つめました。「アア、そうそう・・・できたら、切り羽に鏡餅をお供えしたら、一枚だけでも写真を撮ってきてくれませんか?」できれば自分で言って撮影したいということも話しましたが、約束は約束ですから、今度はすぐにあきらめたようです。私がジープの荷台に、5箇所分の鏡餅と日本酒の一升瓶を積み終えると、ようやくタッキーがのそのそと出てきました。先ず最初に火薬庫です。いつものように顔なじみになったカモシカたちが、火薬庫の周りに集まってきていましたが、これもいつものようにタッキーが車から降りると10メートルほど下がります。火薬庫の鍵を開け、中を見ても、昨日の様子となんら変わっていませんが、私は思いついて中にあったダイナマイト9個の箱を、・・・一番下に4個並べ、その上に3個、そして一番上に2個を置き山型にしつらえました。「祭壇みたいになるじゃねえか・・・・・」独り言を言いながら、その上に半紙を置き鏡餅をお供えします。日本酒の瓶は蓋をしたまま、その脇に置きました。二つ目の取扱所には、ダイナマイトも置いてありませんし、棚のようなものもありません。床に半紙を敷き、その上に鏡餅を置きました。3番目に行ったのは、今まで出てこなかったのですが、トンネル坑夫たちの休憩所です。この場所は火口所の近くにあり、実は深夜にダイナマイトに雷管を埋め込む作業をするとき、火口所自体には明かりがありませんから、この休憩所の蛍光灯をつけて、その明かりを目当てに作業をするのです。もちろんこの明かりだけでは薄暗いので、監督用の車のヘッドライトも火口所用の明かりとして使います。もちろん、この明かりを取るためだけに休憩所があるわけではありません。坑夫達の昼食や夜食は、この場所に弁当を搬入し、この中で食べることにしていました。しかし、坑口から既に300メートルも離れているし、今後はさらに遠くなりますから、トンネル内に休憩所を移動することも計画されていました。休憩所には、作業日報を書く為の机がおいてありますが、私達は事務所で書くことにしており、・・・だから机の上には救急箱が置いてあるだけでした。鏡餅はこの机の上にお供えすることにしました。次は火口所です。ここには10種類の雷管を仕分けできる棚が設けられておりましたので鏡餅はここにお供えします。最後は切り羽です。ここの鏡餅はほかの場所と違い、かなり大きな鏡餅でした。ですから、「お飾り」用のみかんも、ほかの場所の物は所長の生まれ故郷である「熊本」から送られてきた「葉つきのこみかん」を使いましたが、切り羽のものだけは大きなみかんを使いました。坑夫達が帰る前、お供え用の台を作っておいてくれましたので、その上に半紙をおいて鏡餅を置きます。お神酒は明日の朝元旦に改めて持ってくることにしておりましたが、「年越し用のお神酒」としても一本用意してありました。そのお神酒は、一番先頭の支保鋼の左右の根元に掛けるのです。蝋燭立を2本たて・・・・蝋燭に火をつけます。それから、一歩下がり・・・・・2礼して二拍手・・・手を合わせたまま・・・・「山の神様、トンネルの神様・・・・この一年無事に過ごすことができましたのも、神様のおかげです・・・・来年もまた無事故無災害で工事ができますことをお願い申し上げます。」そのようにご祈祷して1礼しました。作法に適っているかどうかは知りません。工事主任からは「鏡餅を切り羽にお供えしろ」と言われていただけだし、「斧指」からは「お供えの台は作っておいたからな」と言われただけでした。「そういえば写真を頼まれていたっけ」私は蝋燭が消える前に、少し離れた場所で、切り羽全体が見渡せるところから美子のカメラで一枚だけ写真を撮りました。坑口まで戻って見ると、外には一頭だけ大きなカモシカが立っていました。少し身体を斜めにして、顔だけはジープのほうをじっと見ています。カモシカが鏡餅を食べるかどうかは知りませんが、なんとなく、私達がいなくなると坑内に入り、食べられてしまうんではないかというような気がして、ジープを坑口に停めたまましばらく睨みあっていました。「ワン・・ワンワンワン、ワン・・・」タッキーが外に出たがっている様子でした。「もしかしたら追い払ってくれるのか?」私は助手席側のドアを、身体を伸ばして開けてやり、タッキーを車の外に出してやりました。タッキーは勢いよく飛び出していきましたが、相手の体の大きさに驚いたのか、なかなか近寄ろうとはしません。カモシカは鹿の仲間ではなく、「牛科」の動物だとは聞いていましたが、本当に牛ぐらいの大きさがありました。こんなにでかいのに、断崖絶壁に立ち、私たちを見下ろしていることもあるのです。野性の力なのでしょうか・・・・・タッキーは、そのカモシカの周りをしばらく回っていましたが、カモシカはまったく相手にしていないようでした。「待てよ・・・・山の神様って女神だって聞いていたけど、人間の姿をしてるって聞いたわけじゃない・・・・もしかしたら、このカモシカが山の神なのか?」ふだんの私なら、神様の存在なんて信じていませんでしたから、こんな事まで考えることはなかったでしょう。しかし、あまりにも不思議なことが多すぎました。「もし、このカモシカが山の神なら、鏡餅を食べちゃったっていいのでは?」そう思った私は、ジープでグ~ッと回り込んでカモシカをかわしました。でも、カモシカは坑内に入らず、火薬庫の方向に歩みだしたのです。タッキーは、自分の手柄のように、ジープに戻ってきてドアを引っ掻きました。私はドアを開けたやり、タッキーを載せたのです。「さあ、事務所に戻るぞ」まだまだやることは残っているのです。 つづく
2007.02.09
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ただいまそうアクセス数「19678」あと「322」という事は明後日あたり行っちゃうかな?あさっては、ジュニアのスキー大会があるんで、今日の練習は熱が入りました。だから、明後日見逃しちゃうかも! 吹雪はますます強くなって谷あいの現場事務所では、口笛が鳴る続けているような風の音が続いていました。風呂から上がり、事務所に戻ると窓の外は真っ白で、大きなサッシ窓の下部の方にはビッシリと雪が張り付いていました。「コリャ明日は朝から除雪だな」私は覚悟を決めました。「明日に備えてもう寝るか」自室に戻ろうと椅子から立ち上がったとき、宿舎のほうから「ガタン」という音・・・「ああ、あの女がいたんだったな・・・・・」私は、布団に寝ることをあきらめて、ソファーに毛布を二枚重ねます。そのままソファーに寝ると、私はおかしな夢を見ました。私はトンネルの切り羽にひざまずかせられ、ロープで縛られています。そのロープの端はタッキーが咥えていました。目の前には立派なコールマン髭をたくわえ、明治時代の陸軍の軍服をを着た軍人が、折りたたんだ手紙のようなものを読んでいたのですが声は聞こえません。その軍人の右手には、山鹿美子が、韓国の「チマチョゴリ」のようなものを着て、その軍人が読んでいた手紙の一言一言にうなづきながら聞いています。手紙を読み終え、その手紙を軍服の右側のポケットに入れてから、彼は私のそばに近づき、タッキーの咥えていたロープを手に取り、私を切り羽の中央に連れて行かれました。振り返らせ、私が坑口方向を向くと、そこには涙を大きな目にいっぱい溜めた香織が、鉢巻状になったものを手にしていましたが、すぐに私のそばにやって来て、私に目隠しをしたのです。しかし、目隠しされたにもかかわらず、私の目には全てのものが見えていました。しかも、その目隠しされた瞬間から、それまで白黒の画面のように見えていたものが突然カラーに見えるのです。「全体前へ進め!」カラーになっただけでなく、無音の世界からその軍人の声だけが聞こえるようになりました。その合図があったとたん、坑口から銃を肩に担った兵隊が、20人ほど行進して来ます。「ザッ、ザッ、ザッ、ザッ・・・・・」「軍歌ーッ、”雪の進軍ーッ”」先ほどの軍人の命令いっか、行進してくる兵隊たちが一斉に歌い始めました。「♪雪ーの進軍、氷をふんで、どーこが河やら道さえ知れずー・・・・」歌いながら行進を続けているのでした。「ぜんたーい、停まれ!」「ザッ、ザッ!」歌を止め、2拍でとまった兵隊たちは、今度は「二列横隊!」という命令が下ると、駆け足で10人ずつ私の目の前に横に並びました。「前列、構えーっ、銃・・・・目標前方、杉田!」その声を聞くと、前列の10人が、いっせいに私の方向に銃を向けるのです。「撃てーッ!」その声で、兵隊たちは引き金を絞り、10発の銃弾が私に向かって飛んでくるのですが、その銃弾一発一発が、スローモーションだったのです。「アーツ!」そこで私は飛び起きました・・・・・・・ストーブがつけっぱなしだったとはいえ、私の背中には汗が噴出していました。「ああ、起きたんですか?」事務所の奥にある食堂では、美子が朝御飯の仕度をしていました。着ているものは、私のTシャツとジャージ・・・・・・昨日休んだときとまったく同じ服装です。起き上がったものの、私はソファーから立ち上がることもできず、座ったまま美子をじっと見つめていました。「いやだあ・・・お化粧してないんだから、あまり見ないでくださいよ・・・・」恥ずかしそうにしながらも、彼女は手際よく料理を続けていました。「今何時ですか?」私は自分が腕時計をし、またテレビもついていたのになぜか、彼女に聞きました。「今?・・・えっと・・・7時半ですね」彼女はジャージの左袖をたくし上げ、白い腕に巻かれた自分の腕時計を見て教えてくれました。「ご飯を食べたら、今日は大晦日ですからね・・・・神棚なんかへの御供えなんか上げてくださいね・・・・」「「その前に、除雪しなきゃ・・・・・」私は外を見ると、・・・・驚きました。夕べは猛吹雪だったにもかかわらず、事務所の目の前は綺麗に片付けられていたのです。確かに積もっている部分の雪の量は確実に大きくなっているのですが、事務所の出入り口や、駐車場の辺りは綺麗に除雪されていて、私が除雪する必要はないくらいでした。「あなたが、除雪してくれたんですか?」「いやだあ・・・私機械なんか乗れませんよ・・・・寝る前に除雪してくれたんじゃないんですか?」彼女も私も除雪してないとすると・・・・だれが?私はストーブのそばに寝そべっていたタッキーを見つめました。タッキーは「自分には関係ない」という表情で寝そべったままでした。「不思議なことがあるもんだ・・・・・」私は朝食の準備を美子に任せたまま、玄関の戸を開けて外に出ました。事務所や宿舎の前と、駐車場・・・・そして現場や火薬庫に向かう道路だけが綺麗に除雪されていました。天気も、昨日とうってかわって、快晴になっています。空を仰ぎ見ると、太陽のまぶしさで私はすぐに目をそらさなければなりませんでした。「ご飯できましたよ」美子に呼ばれて食堂に行くと、テーブルには、綺麗に焼けた「秋刀魚のみりん干し」と味噌汁が二人分並んでいました。私は炊飯器が大きすぎてご飯を炊くのをあきらめていましたが、美子は普通の片手鍋を使ってご飯を炊いてくれていました。「いまどきの子で、鍋でご飯が炊けるってすごいですね」「そんな・・・誰でもできますよ・・」美子は謙遜していましたが、実際、学生時代のクラブ活動で「米を洗え」といったのに、洗剤を使って米を洗った女の子がいたことを思い出しました。朝御飯は久しぶりに美味しいものを食べたような気になりました。味噌汁の具は、大根の千切りでしたが、私は大根がどこにあったのか覚えていません。「よく見つけたなあ・・・・・」何度考えても、どこにあったのかわからない・・・・・昨日雪室の中の野菜を美子に教えたのですが、その中には、キャベツと白菜、それに玉ねぎとジャガイモ、にんじん・・・・それしかなかったように思えたんです。私は、窓から雪室の方向を見たのですが、雪室は除雪されていませんでした。 つづく
2007.02.08
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ただいまのそうアクセス数「19568」さきほど、Hirokochanさんより、「アメリカまで賞品送ってくれるの?」というご質問がありまして、「送料着払いで・・」という風にお返事したのですが、それも失礼な話ですよね。だから、外国にお住まいの方は、予定の品物ではなく、「青森県下北半島を中心とした絵葉書」を送らせて頂きます。どうしても品物のほうがいいという場合には、一時帰国されたときにでも贈ることにして、それまでは「借り」ということにさせてください。 「山鹿美子」が風呂に入っているあいだ、私は妄想に耐え切れず、ウィスキーをロックにして飲むことにしました。「今日もこの事務所のソファーに寝るしかないな」自分の部屋に戻るためには、どうしても彼女に与えた「来客用の部屋」の前を通らねばならず、そうなれば・・・・自室に戻ったとしても、絶対に眠れないという予感がしましたから、それならこのままここにいよう・・と決めたのです。ウィスキーも2杯目を飲もうかと立ち上がったとき、美子が風呂からあがってきました。「おさきにお風呂戴きました。」髪をバスタオルで拭きながら、彼女は戻ってきたのですが、ジャージの襟元から私の白いTシャツが覗いています。「私も一杯戴いてもいい?」「どうぞ・・・・・」彼女は、グラスを戸棚から取り出し、ウィスキーのボトルからグラスに半分だけ注ぎました。「ツララでロックって粋ですよね」そういうと彼女も窓を開け、ツララをもぎ取りグラスに入れたのです。「ワア、寒い・・・・外は吹雪になったんだ・・・・」そういいながら、私の座っていたソファーに腰掛けました。「この女、隣に並んで座ったりして・・・・怖くないのだろうか?」私は彼女の横顔を見ながらそう思っていました。わずかに視線を下に向けると、彼女の胸のふくらみが見え・・・さらに下半身のほうに目をやると・・・・きっと下着は私のトランクスを穿いているはずでした。彼女は私の視線を感じていなかったのでしょうか、・・・真っ直ぐにテレビの画面を見ていました。テレビでは年末特番で、織田信長のドラマが入っていたのですが、私は見たくて掛けていたわけではなく、たまたま入っていただけ・・・・美子にしたって、時代劇が趣味というようなことはないように思われました。「コリャ、まずい展開だぞ・・・」なんとなくそう感じ始めたとき、電話のベルが鳴りました。(ア、これはきっと香織ちゃんからの電話だ)「もしもし、こちらみちのく・・・」そこまで言った時、香織の怒鳴る声が聞こえました。「杉田君、そっちから電話をくれるっていってたのに、どうしたのよ?・・ちっとも電話がこないし・・・待ってたのよ!」もちろん、美子が一緒だということは、話すわけにはいきません。「ああ、ごめん・・・・香織ちゃんが帰ったあとから猛吹雪になってね・・・毎日除雪で大変なんだよ・・・それで、疲れちゃって気がついたらもう電話をかけるのに遅くなっちゃって・・・」電話を忘れたといっても香織ちゃんたちが来た一昨日と、昨日の二日間だけですが、今日ももう少しで忘れるところ・・・・っていうかすっかり忘れていたのです。美子は、私が香織にやりこまれている電話の様子を眺めていましたが、突然大声を出すそぶりなどして見せ、私をからかい始めました。「ねえ・・・そこにだれかいるの?」女性特有の勘なのでしょうか・・・・私の鼓動が高まってきます。その時タッキーが「ワン・・・ワンワン」一鳴き、二鳴きしてくれます。「アア、あの・・・昨日・・・犬が迷い込んできてね・・・どこからか逃げてきたようなんだけど、この吹雪じゃ帰せないから、ここに一緒においてるんだよ」タッキーの鳴き声を聞いて安心したのでしょうか、・・・「じゃあ、折り返し電話してよ・・・お願いね」そう言って香織のほうから先に受話器を置いたようでした。「恋人ですか?・・・・これから長電話になりそうですね・・・じゃあお邪魔しちゃなんですから、私お先に部屋のほうで休ませてもらいます・・・・おやすみなさい」そういって美子は宿舎のほうへ行ってしまいました。美子がいなくなったので、私は折り返し香織ちゃんに電話をしました。「もしもし・・・・こっちは大変だったんだよ・・・・すごい雪でさあ・・・」「そうなの?・・・・こっちもねえ・・・すごい雪でねえ・・・お父さんなんか、もう御用納めも終わったのに、今日も出勤よ」香織の父親は、市役所管財課の職員で市民会館や図書館などの駐車場の除雪なども担当していて、もちろん入札をし、担当の業者も決まっているのですが、何しろ大雪のため、生活道路の確保が最優先され、香織の父親の部署には、なかなか除雪車が来ないというような現状のようでした。「だから、自宅の雪なんか、私とお母さんと弟で除雪してるのよ・・・でも今日は晴れているから、楽だったけど・・・」こちらでは猛吹雪になってきてるというのに、ふもとでは晴れている・・・・今年はそんな異常気象の年のようです。「でも、その犬大丈夫なの?・・・だって野犬化してるんでしょ?」「アア、すごく賢い犬でね・・・拾ったときも、俺をカモシカから助けてくれて・・だから、いい犬だよ・・・」「でも雑種なんでしょ?」「イヤ、よくわからないけど・・・秋田犬のような感じなんだよね・・・躾もいいし、どっかで飼われてた血統書付だと思うんだけど・・・・」「じゃあ、お正月が終わったら連れて来てよ・・どうせトンネル現場では飼えないんでしょ?」賢い犬なら、香織の家で飼ってくれるという話し・・・・5月に結婚すると、当分のあいだは香織の実家に同居する、いわゆる「ますおさん」生活になるのだから、タッキーと離れがたくなってきていた私にもいい話しだと思いました。しばらくの間香織との電話を楽しみ、ようやく電話が終わったのは9時半を少し回ったころでした。「よし、タッキー、風呂に入るぞ・・・・・・」私がそういうと、タッキーは立ち上がり私と一緒に風呂場に向かいます。途中乾燥室で、美子のシャツが一枚だけ干してありました。下着は、きっと私を刺激したくないために自室に持ち帰ったようです。タッキーは私が裸になったのを確かめると、自分が浴槽に入ることをためらったのか、遠慮して脱衣場に座り込みました。「別に一緒に入ってもいいのに・・・」そう思いましたが、無理強いはしませんでした。 続く
2007.02.08
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ただいま、アクセス総数「19500」あと500人ですねえ・・・・この分だとあと4日くらいかなあ・・・・再度確認しときますけど、そんないいものは贈れませんからね! 大晦日を明日にひかえ、一人で留守番のはずだったのが、昨日までまったくの見ず知らずだった女性と犬と・・・一つ屋根の下に暮らすという摩訶不思議な状況に、私は戸惑っていました。「とりあえず、来客用の部屋をあんたに使わせるから、そこで寝泊りしてもらいます。・・・内側から鍵がかけられますから、心配だったら鍵をかけてください。」そういいながら、その女性記者が心配すべき相手は、私自身だという事が正直なところばかばかしいというか腹立たしいというか・・・・・そんな私の気持ちを察したのか・・・・美子は小さな声で「ゴメンなさい・・・あたしが無理やり来たばっかりに・・・・」と謝るのでした。タッキーの場合は、私が「飼う」というつもりで、食事などもわたしの分をわけてやればいいと思っていましたが、この女性記者「山鹿美子」さんには、まともに食事を与えなければなりません。私のひとりぶんの食料で準備されていたものですから、2人と一匹になった場合、食料が間に合うのかどうか、チェックしなければなりません。ばあちゃんが作っておいてくれた正月用のおせち料理は一人分しかないのですが、野菜は雪室の中にあり、米も60キロの袋のまま残されています。そのほかにも、いろいろな食材が用意されてありましたが、肉や魚などのたんぱく質系統の食材が少し足りません。ただ、戸棚の中に「酒のおつまみ」になる「乾き物」類がけっこうありましたから、栄養のことを考えたらこんなものでもおかずになるだろうと思いました。「そういえば昼飯も食ってませんでしたね」私はほっとしたのか、美子に優しい言葉をかけていました。「もう晩飯の時間だけど、何か作りますよ」「あ、あたしが作りますから・・・・・・」何か手伝わなければと思ったのでしょう、・・・どんな食材があるかもわからないのに、料理をしてくれるというのです。「ああ、でもどこに何があるかわからないでしょうから・・・じゃあ一緒に作りましょうか?」こうしてその日の夕食は二人で作ることになりましたが、タッキーだけはストーブのそばで寝そべり、前足の上に頭を乗せて目をつぶっていました。一緒に、冷蔵庫の中と雪室の中の食材を確かめ、この日の夕食は野菜のスープと塩鮭を焼いて食べることにしました。タッキーには、またご飯の冷凍パックに野菜スープをかけおじや風にしましたが、それにばあちゃん特製の「チャーシュー」があったので、それをスライスしたものを乗っけて食べさせる事にしましたが、何の文句も言わず平らげたのです。少し早めの夕食が終わり・・・・あとはなにもすることがありません。「お風呂でも入れましょうか?」事務所とはいえ、私はひとつの部屋の中で男女2人きりでいることに気まずさを覚え、風呂場に避難しようとしたのかも知れません。「ああ、お風呂はわたしが入れてきます・・・・すみませんけど、わたしお部屋に行きますから、石油ストーブでもあったら貸していただけません」「お風呂を入れてくれるんだったら、俺がストーブを運んで部屋を暖めておきますよ」彼女もずっとこの事務所で2人っきりでいるのがまずいと感じたのでしょう・・・来客用の部屋に篭ろうとしたようです。彼女が風呂場に行ってる間、私は所長室用の石油ストーブを、来客用の部屋に運び、点火しました。4畳半ほどの部屋ですから、すぐに暖まるはずです。ついでに布団を敷いてやりました。来客用の部屋は、大手ゼネコンの東北支店からの土木課長が来て2回使ったっきりで布団はばあちゃんが丁寧に干し、シーツも洗濯したてのものがありましたから、綺麗なはずです。なぜか、枕カバーだけがピンクで、少し艶めかしく感じました。事務所に戻ると、彼女は戻って来ていました。「杉田さん・・・・お願いがあるんですけど・・・・昨日お借りしたジャージともしあったらTシャツ・・・貸していただけません?」そういえば、彼女はちょっと取材に来たつもりでしたから、着替えなど持っているわけがありません。「それはいいんですけど・・・・もしよかったら、私、この前買ってきたばかりの下着がありますから、差し上げましょうか?・・・もちろん男物ですけど」彼女は恥ずかしそうでしたが、うなずきましたので、私は自室に戻って洗い立てのTシャツと、まだ袋に入ったままのトランクスを彼女に手渡しました。ジャージは朝、彼女が自分の服に着替えたとき、洗濯して乾燥室に干してあるはずです。そろそろ、風呂にお湯が溜まる時間になったとき、私は来客用のタオルとバスタオル・・・そして歯磨きのセットを準備して渡しました。「これ、帰るまで使ってください・・・・じゃあお風呂お先のどうぞ」私は彼女に先に風呂に入るように勧めました。もちろん風呂も鍵がかかりますから、悔しい話ですが安心して入れるはずです。「じゃあ・・・お先に」彼女が風呂場に行き・・・・・私はまたタッキーとテレビを見ていたのですが・・・・やはり、風呂場の彼女の事が気になっていました。昨日は、濡れていたためとはいえ、彼女の洋服を脱がせ、下着姿を見ているのです。その姿が、・・・振り払おうとしてもまぶたに焼きついているのです・・・・・そして今は・・彼女の入浴している姿を想像していました。「いかんいかん!・・・・俺には香織ちゃんがいるんだぞ!」不純な思いを感じていた自分を許す事ができなくて、それを停めるために私は酒を飲みたくなり、最初の日に飲んだ最高級ウィスキーをコップに開けました。そして、窓を開け、またツララを氷にしてロックにして飲みます。外は昨日までの天気と違い、猛吹雪になってきました。
2007.02.07
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現在アクセス総数「19431」これは思ったより早く「20000」に到達するかもしれません。そこで再確認ですが、今回は「19990」から「20010」までの21名の中から抽選で2名の方に、粗品を差し上げたいと思います。デモね・・・・「10000」のときは、当選した人に何度呼びかけても返事はないし・・・だから、今回は、当てはまった「カウント数」をコメントなり掲示板に記入して、「キリプレ参加」の意思表示してください。出来るだけたくさんの人に、参加していただきたいと思います。 事務所に戻った二人と一匹は、それでもまだ無言のままでした。しばらくして、私は彼女に言いました。「さあ、これから車のところまでお送りしますよ・・・準備なさい」美子は「エッ?」と疑問符つきの返事をしますので、「私だって健康な男です。・・・あなたをここに泊めるわけには行かないでしょ」さっきのどきまぎした気持ちがまだ残っていましたので、私は早く彼女を帰したかったのです。彼女の返事も聞かずに、私はタッキーと一緒にジープに乗り込み、エンジンを掛けて彼女のくるのを待ちました。美子も取材をあきらめたのか、それとも私が怖くなったのか・・・・荷物を持って後部座席に乗り込みました。トンネル現場から見える範囲では、それほど積雪も多くなく、すぐに美子の車までつけるだろうと甘い考えを持っていたのですが、しかし現場を降りるに従って徐々に雪の量が増えてきます。「なんだこりゃ?」普通なら、山の方に雪の量が多いはずですが、今年の雪はふもとに近づくにつれて積雪が増えていきます。1キロほど進んだころでしょうか・・・・・・ジープのような車高の高い車でさえ、前に進むのが難しくなってきたころ、道路の真ん中にこんもりとうず高くなったところがありました。「あ、あそこです」美子の話しでは、あそこで動けなくなり、だから車を乗り捨てて歩いたというのです。ここで美子と別れればいいと思っていた私は、道路の向こう側の状況を考え、美子がふもとに引き返すのは無理だと判断しました。「このままじゃ帰るのも無理だけど、車をこのままにしておけば雪につぶされてしまうかもしれない・・・・いったん事務所に戻ってショベルローダーで除雪しながらここまで戻ってくるから、あんたは自分の車の雪をできるだけ払って、ヒーターを掛けて待っていなさい」そういい残して、私一人だけ事務所に戻ったのでした。不安がる美子のために、タッキーはそこに残したままです。事務所についた私は、いったん自室に戻り、ありったけの防寒着を着込みました。これから除雪をするショベルローダーは操縦席が吹きっさらしになっています。この春をも思わせる現場周辺では考えられなかったのですが、さっきの美子の車があった場所は、本当に真冬の雰囲気でした。少しずつ除雪をしていき、さっきの場所に戻ったのは一時間も過ぎたころでした。車に積もった屋根の雪もすっかり降ろし、美子は少しでも前に進もうとしたようでしたが、車の下の雪が使えてタイヤが空回りするばかりでした。私は彼女の車のすぐ前までの雪をすっかり片付け、彼女に運転させて後ろから押してみましたがびくともしません。「しょうがないなあ・・・・ワイヤー持ってきたから引っ張るか」彼女の車に傷がつくかもしれないけど・・・・と断って、私は彼女の車とショベルローダーをワイヤーで結びました。「ウィイイイイイイーン」馬力を掛けて引っ張ると、車はすぐに抜け出すことができましたが、美子の顔を見ると涙でぐしょぐしょになっていました。「車が引っ張り出せたんだから、喜んでくれよ」私がそういうとようやくニッコリしてくれましたが、その笑顔が、私にはまぶしく思えたのです。ショベルローダーで事務所に戻り、彼女の車はそのあとをついてきたのですが、さっきまで春のようだった現場が、いつの間にか雪の量も増えていました。事務所の駐車場に車を停め、私は彼女にこういいました。「なんだか、ここも本格的に冬になってきたようだ・・・・正月休みが終わったら車を取りに来ればいいから、新聞社のヘリにでも来てもらったら?」「アア、私、遊軍記者だから来てくれないと思います」そういったのですが、私だって、若い娘と一緒にいるのはまずいと思っていましたのでとにかく電話をするように言ったのです。「・・・・はい・・・・はい・・・・じゃあ。そういう風にお願いします・・・じゃあ」会社への電話が終わると、「ヤッパリ迎えにはいけないそうです」との回答・・・「だから、工事現場のお休みが終わるまで、私をここにおいてもらえませんか?」私はあわてて、佐々木副所長に電話をしました。佐々木さんは自宅の雪かきに忙しいらしく、なかなか電話口に出てもらえませんでしたが、5分ほど待つと出たので状況を報告したのです。「しょうがねえ娘だなあ・・・正月休みが終わったら来てみなさいっていったのに、お前一人のところに行ったのか・・・それじゃあ、しょうがないから、来客用の部屋な・・・あそこに泊めてやりなよ」簡単な話しをします。電話を切り、彼女にそのことを伝えました。「取材は正月やしみが終わってからって言う話じゃないか・・・・あんた勝手に話しを作るんじゃないよ・・・・どうにもならないから来客用の部屋に泊めてあげるけど、あちこち勝手なことはしないでくれよな」こうして奇妙な2人と一匹の共同生活が始まりました。この日は、12月30日・・・・いよいよ明日は大晦日休みが終わるまであと4日です・・・・・
2007.02.07
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今朝、かみさんから「スキーの大会、同じ日に2つあるんだけど・・」という話しをされました。2月11日なんですけど・・・・私も日にちを確認しないで、どちらにもエントリーしちゃってまして・・・・ひとつは平内町の「夜越山スキー場」、もう一つが地元の「釜臥山スキー場」なんですよ。監督と連絡が取れないので、どうすればいいかわからないんですけど、私としては平内町(ひらないまち)の方の大会に出たいんです。だって、「遠くへ行きたい」じゃないですか?古い歌にもあるでしょ?「♪ひ~~らな~~いま~~ちを、歩いてみ~~た~~い・・・・♪」そうです!駄洒落いいたかっただけですが・・・・何か? トンネルの坑口での撮影が済むと、「山鹿美子」記者はトンネルの内部を興味深げに覗き込みました。「ア、中に入っちゃだめですよ・・・約束ですから」「わかってますって・・・でも、真っ直ぐなトンネルなんですね・・・トンネルの先っちょがここからでも見えるじゃないですか、このレンズじゃ、あそこまで写らないかな・・・」未練がましく私に訴えかけるような顔をしましたが、もちろん許可できません。それでも坑口から、内部の写真を10枚ほど写しました。そこにいると、また「どうしても入りたい」と言われそうだったので・・・私は彼女に事務所に戻るように話しましたが、「杉田さんのお仕事って、ダイナマイトの係りでしたよね?・・・火薬庫って見せてくれません?」「いいですよ」といいかけて、私はふと考えました。行けばキット作業をしているところを見せてくれとか言われそうな気がしたのですが、もし帳簿を見られると、ダイナマイト一本の不足がばれてしまいます。火薬庫での仕事といったら、それしかないのですから・・・・「火薬庫は、先日の隣のトンネルのダイナマイト泥棒が、まだ捕まってませんから、開けてみせるっていうのはどうも・・・・・」「あら、あたしってそんなに信用ないのかしら?・・・・さっきは誓約書まで書かせられて、今度は泥棒扱い?」少し怒って見せましたが、顔はそれほどでもなく、少し安心しました。「じゃあ、火薬庫の鍵は開けて作業をしてる振りをしますから、そこんところで写真を撮ってください」ジープに美子とタッキーを乗せ、火薬庫に向かいます。また、いつものようにカモシカが数頭、集まっていましたが、先にタッキーが降りると、10mほど後退しました。カモシカ自体が珍しいらしく、美子はここでも数枚のフィルムを使ってカモシカの写真を撮ります。「カモシカ見た事ないの?」私が質問すると、「一頭二頭なら見た事あるけど、こんなに集まってるのは見た事ないわ」という返事だったので、私は「カモシカはダイナマイトの匂いが好き」と言ういつもの持論を展開しました。「へえ・・・ダイナマイトって匂いがするんだ・・・匂いをかいで見たいなあ?」甘えるような声で頼まれましたが、人間にはその甘い香りがかすかにするだけで、実際はダイナマイトを包んでいる紙を破いて中身を出さないと匂いをかぐことはできないでしょう。「紙を破かないと匂いはかげないよ・・・・」「じゃあ一本だけ・・・・お願い」「そう言われてもなあ・・・・・」でも、ダイナマイトの包装も綺麗に開いて、匂いをかぎ終わったら、もう一度綺麗に包みなおせばいいかな・・・とも考えていました。「じゃあ一本だけ・・・・・」私は、ひとつだけ開けてあった袋から、ダイナマイト一本を取り出し、髪を綺麗に開こうとしましたが、上手には出来ません・・・・破けてしまったので、しょうがなく、残りの部分も破いて見せました。「いいの?」ちょっと心配そうに聞かれましたがこうなってはどうしようもありません・・・・「アアいいよ・・・・じゃあどうぞ・・・匂いをかいで見て?」私は、手渡そうとしましたが、怖いのか受け取ろうとしません。その代わり私が持っている手に顔を近づけ少しかがみながら匂いをかいだのです。そして・・・・なにを思ったのかダイナマイトをペロッと舐めたのでした。その舌の先が、勢いで私の人差し指に触れます。「あ、ごめん・・・・・」美子はいたずらっぽく笑って謝りましたが、私は少しどきどきしていました。そんなことを知ってか知らずか・・・美子は火薬庫の中を撮影しようと火薬庫の入り口でカメラをかまえます。「おい、カメラはだめだ!」私は、あわてて彼女を押し倒してしまったのです。押し倒され、私も勢いで覆いかぶさってしまったので、美子は一瞬、男に襲われる恐怖を味わったのでしょう。「なにするのよ!」覆いかぶさったままの私は、彼女の心臓がすごい勢いで鼓動を始めたのを感じました。「ああ、ごめん・・・・火薬庫でフラッシュたかれると、放電して爆発するかもしれない・・・・だから、ここでは室内灯なんかないんだ」トンネル工事での一回の使用量がおよそ120本・・・・いま、火薬庫の中には2023本のダイナマイトがおいてあり、もし爆発したなら、私たちは影も形も無くなってしまうでしょう。「火薬類取り扱い保安責任者の講習で、ダイナマイトが摩擦で起こった静電気で爆発する映画を見たことがあるんだ」そう言い訳をしました。私が先に起き上がり、彼女の手を引いて助け起こそうとしましたが、彼女はそれを拒み、一人で起き上がりました。それから、私と目を合わせないように、無言でジープの後部座席に乗り込みます。私も火薬庫の鍵を閉め運転席のドアを開けると、タッキーが何にも見ていないというような表情で助手席にちょこんと座りました。帰り道・・・・私も美子も・・・そしてタッキーも、無言のまま事務所に帰りました。 つづく
2007.02.07
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わたしがPTAの会長をしてるっていいましたよね?今日その用事で、小学校にいったら、会長が知らないのに、PTAのお母さんたちが集まってたんですよ。「あ、これはきっと、会長を交代させようという緊急集会だな?」と思ったら、今年定年退職される校長先生のお祝いの会・・・・「竹浪校長先生と語る会」の余興の練習だったんですってついでに、「ナイト会長辞職を祝う会」っていうのもやってくれないかなあ? 「山鹿美子」という地元紙の記者を、男一人で住んでいるところによこす、新聞社の上司の神経も疑いますけど、本人もまったく気にしていない様子で、逆にどのように扱っていいのか、私自身困りました。「トンネルの取材って言われても、トンネルは男の仕事場ですからねえ・・・女性の立ち入りは禁止なんです」「だって、新幹線のトンネルだって道路のトンネルだって、出来上がれば女性だって入れるじゃないですか・・・・なんで工事中はだめなんですか?」「だめって言われてるのに無理やり入って、もし事故が起きたとしたら誰が責任を取るんですか?」朝食を取りながら、「トンネルの中の写真を撮りたい」と要求されましたが、私は昨日香織ちゃんたちが来て、トンネルに入ってみたいというのを松本君が断った理由を使って、うまく断ろうと思っていました。「工事中はだめ、って言う事なんでしょ?・・・・今は誰もいないんだから工事中じゃないし、それなら出来上がったトンネルを新幹線に乗ってくぐるのと同じじゃないですか!」当時、女性の大臣が大相撲の表彰式で土俵に上がれるのか・・・という問題が物議をかもしていて、トンネルの工事に女性記者の取材をさせるかどうかという問題もクローズアップされていました。(佐々木副所長も、こんな大問題を私に押し付けるだなんてどうかしてるよ)私はただのダイナマイト係であり、工事係です。ここでこの山鹿という女性記者の言いなりになったら、私は日本中のトンネル坑夫から、「あいつが最初にトンネルに女を入れたんだ」と一生言われ続ける事になるのです。彼女の狙いもきっとそこにあるのだと思います。「日本で最初にトンネル工事を取材した女性記者」これは彼女の記者人生においてはかなりの勲章になるに違いありません。「トンネルの写真なら、工事中の状況写真からそれぞれの工事種類ごとの写真、それぞれの寸法写真まで、工事の記録で取ってあります。・・・それを差し上げますから、このまま帰ってください」私は工事用のアルバムを開いて、好きな写真数枚なら持っていっていいと、その女性記者に譲歩したつもりです。ネガもきちんと整理されていますから、数枚の写真なら何とかなります。「あたし、佐々木副所長さんから許可をいただいてきてるんですよ?」「それなら私も言いますけど、私には、取材許可を出したという上司の電話を一本も受け取っていません」お互い押し問答を続け、疲れてしまいました。「とりあえずコーヒーでも飲んで落ち着きませんか?」朝食は、昨日寸胴をかけたままでしたのでまたうどんを食べたのですが、少ししょっぱめだったのと、今お互い口角泡を飛ばすような議論をしていたので、のどが渇いていたのです。休戦協定を結び・・・・しばらくはコーヒーの豆を挽いたときの匂いで少し落ち着いてきました。「杉田さんは何で留守番する事になったんですか?」違う方向から攻めてこようというのでしょうか・・・・・・彼女はそんな質問をしてきました。「私がダイナマイトの保安責任者だという事と、・・・・独身なんでねえ・・・家族もちよりも頼みやすかったんでしょうね」「ヘエ・・・独身なんだ・・・・・恋人は?」「いますよ・・・・来年の5月には結婚します。」「ねえ・・・あなたの写真一枚撮らせてくれない?」「いいですけど、何に使うんですか?」「あたし、今コーヒーの匂いをかいで、ちょっと冷静になって考えてみたの・・・あたしは行き倒れになってあなたに助けてもらったわ・・・・その命の恩人がこんなに嫌がってるのに、トンネルに入るっていうのは恩を仇で返すことになると思うの。・・・・・だからあきらめるけど・・・・どうだろう?”トンネル工事のお正月”って言うコラムを書いてみようかと思って・・・・・」「それなら・・・・・決してトンネルの中に入らないって約束してくれれば・・・・」彼女は約束してくれましたが、私は彼女に誓約書まで書いてもらいました。もし、トンネル内部の写真が新聞記事に載ったときは、約束を破ったという事で裁判になったときの証拠になるのではないかと思ったからです。「信用がないのねえ・・・・杉田さんて、まじめなんだ」彼女は少しからかい気味にそういいました。私の写真は、坑口で撮る事にしました。「工事関係者らしく、ちゃんとヘルメットをかぶってね・・」彼女の指示もあり、私はトンネル用のヘルメットをかぶりました。「あら、普通のヘルメットじゃないのね?可愛い・・・・・」普通の道路などの工事用ヘルメットを見る機会は皆さんにもあるでしょうが、トンネル工事用は普通のヘルメットの回り全部につばがついている、いわゆる麦藁帽子型のヘルメットです。頭の後ろの方にもつばがついていますから、雨が降っていても首筋を濡らすことがないようにできています。マア、それだけトンネル内はあちこち天井から水が滴り落ちているのです。ついでに豆知識として教えておきますが、トンネルは上り勾配と下り勾配とではどっちが掘りやすいかご存知でしょうか・・・・・そう・・・これは絶対上り勾配の方が掘りやすいのです。下り勾配のトンネルを「突っ込み」といいます。この突っ込みは、下りですから天井から滴る落ちてくる水が、全て切り羽に溜まるのです。酷いときは、1メートル近くも溜まり、腰まで水に浸かって作業しなければなりません。上り勾配の場合は、水が溜まることなく全て坑口から外に出てしまいますから、作業には影響ないのです。そんな話も、、私はこの女性記者に教えました。わたしの写真を撮り終え、そこへタッキーがやってくると、タッキーと私の2ショットのっ写真も撮ってくれました。「わたしも一緒に写っていいかな?」最後に、セルフタイマーを使って3人・・・・いや、2人と一匹で写真を撮ったのです。それも測量用の三脚を使ってうまく撮影できたようです。「これだけ素直に言う事を聞いてくれるんなら、しばらく泊まっててもらってもいいかな・・・」私は、やはりこの時からおかしかったんではないでしょうか・・・・・ 続く
2007.02.06
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危ない危ない!・・・タイトルを書くとき、危うく「トンネル探検隊」って書くところでした。探検なんかしません・・・・・越冬隊ですから・・・・・・ 火薬庫のそばで「拾った」女性は、昏々と眠り続けていました。本当なら救急車を呼ばなければならないんでしょうが、なぜかためらわれたんです。それは、もしニュースなんかになったら様々な憶測が飛び交い、マスコミの取材攻勢を受けるだろう事が容易に想像できたから・・・・・前にお話した、「殺人未遂事件」の取材でも工事の邪魔をされ、後々工程の遅れを取り戻すのに大変だったことがあり、そのことが頭の片隅をかすめていました。「明日になってまだ、目を覚まさないようなら・・・その時は救急車を呼ぼう」その女性が死んだら・・・・なんてことは考えなかったんでしょうね。冷たい男だ・・・なんて思わないでください・・・・・この二日だけでも異常なことがあまりにも多すぎて、思考回路がショートしていたような気がします。しかし幸いなことに、彼女の顔にはだんだん赤みがさしてきて、寝息を立てて眠っているようです。「大丈夫だろうな」私は勝手にそう思い込むようにして、彼女の濡れた洋服を持ち、乾燥室に干しにいきました。事務所に戻るとき食堂を通ると、さっき掛けたままにしておいた出し汁の寸胴がそのままになっていました。「ああ、晩飯まだだったなあ・・・・・」もう11時を過ぎていたのですが、ガス代に火をつけ温めなおします。「おい、タッキー・・・飯だぞ」私は新聞紙を広げ、その上に鶏がらを置きました。タッキーはノソノソとやってきて、その鶏がらに喰らいつきます。半ば野生化した犬ですから、鳥を捕まえて食べることもあったでしょう・・・・器用に残された肉の部分は食べますが、小さな骨は齧ろうともしません。「そうか、骨が細かくて危ないからな・・・・そうだな・・・オジヤでも作ってやるか」まだ充分に温まっていない出し汁を小さなボウルに移し、そこへ冷凍したご飯のパックを入れてやると、ちょうどいい温度になったようです。まだご飯は固まったままでしたが、少し汁がしみて美味そうに食っていました。だし汁の中に、ちぎった「油揚げ」が少しだけ入っていました。タッキーはその油揚げも美味そうに食べます。「お前・・・変わった犬だなあ」その時、私の頭の中に何かが触れたように感じました。「そういえば、狐も狸も”イヌ科”だったよな・・・・人を化かすって言われてるのはイヌ科か・・・じゃあお前も人を化かすことができるかもな・・・・」初め、冗談のようにつぶやいた一言でしたが、その思いが徐々に増幅していくような気がします。この犬は、野良犬にしてはあまりにも賢すぎるような気がしました。夕飯を終え、彼女の寝姿をずっと見ていましたが、そのうち疲れていたのでしよう・・・・私も、自分の机に突っ伏すようにいつの間にか寝ていたのです。翌朝、私は女性の声で目がさめました。「あのう・・・・すみません・・・・起きてくれませんか?」何かに戸惑っているような声でした。無理もありません・・・・なにかの理由で、山道に迷い込み火薬庫のところで倒れこんでいて、気がついたら、この事務所に運ばれていたのです。「ああ、気がついたんですか」私は、椅子で寝込んでしまったことを思い出しましたが、いつの間にか、彼女のかけていた毛布が私の背中からかけられていました。「だいぶ前に気がつかれてたんですね・・・すぐに起こしてくれればよかったのに」私のジャージを着ていたので、少しだぶだぶの地味な服装でしたが、20代後半から30代くらいの美しい女性で、そんな地味さを感じさせない人でした。「あのう・・・私の洋服と荷物は?」「申し訳ないんですが、かなり濡れてたんで、脱がせて乾かしています。・・・スミマセンでした・・・・・でも、荷物は見なかったなあ?ジープのヘッドライトだけで彼女を見つけたのですから、周りまでちゃんと見ていませんでしたが、彼女の身元を確かめるために、ダウンジャケットやズボンのポケットを探しても、身元のわかるものどころか財布やハンカチなども入っていませんでした。「洋服はもう乾いていると思います・・・・向こうの乾燥室にあるから着替えていらっしゃい・・・・その間に、あなたを見つけたところをもう一度探して見ます」「すみません、小さな黄色のナップザックですから」そういうと、彼女は指示された乾燥室のほうへ行ってしまいましたが、なぜかタッキーも一緒についていってしまいました。「じゃあ、私、その荷物探しに行って見ますから」私は、彼女の向かった方向に大きな声でそういい残し、ジープに飛び乗ったのです。夕べは雪が降りませんでした。したがって、火薬庫のところにはジープの轍がくっきりと残り、彼女の倒れていたところもはっきりと特定できました。そこから1メートルぐらい離れていたところに、そのナップザックは落ちていましたが、そこはゆうべ、タッキーが私を先導してきたときに立ち止まったあたりです。「賢いといっても、ヤッパリ犬だな・・・・気が利く奴なら荷物も一緒に持ってくるはず」私はタッキーを人間扱いしていることに気づき、思わず笑っていました。荷物を開けて見ることはしませんでしたが、外からの感触で、大きな一眼レフカメラが入っているように思います。「ああ、カメラマンか・・・・冬山の写真でも撮りに着たんだろうな」勝手な解釈をしながら、私は事務所に戻りました。事務所では、既に彼女が着替え終え、しっかりとダウンジャケットまで着込んでいました。事務所に入って、私が荷物を手渡しますと、彼女はにっこり微笑み、「アア、見つかったんですね・・・大事な商売道具・・」そう言って受け取りました。「カメラマンさんだったんですね?」私が問いただすと、「アア、失礼しました・・・助けてもらったお礼も言わないで・・・・私こういうものです。」彼女は、ダウンジャケットのポケットから湯の正の名刺入れを取り出し、私に名刺を一枚くれました。「津軽ディリー株式会社 記者 山鹿 美子」「津軽ディリー」は、現場事務所でも毎日、佐藤事務長が買ってきてくれる新聞で、名刺に書かれてある社名も、新聞の題字に使われてある書体で書かれていました。しかし、私は、なぜか違和感を覚えたのですが、その時はその何かがわかりませんでした。「ヤマガ ヨシコさんですか・・・・アア、申し送れましたが、私この工事現場の留守番してる・・・・」「杉田さん・・・・ですよね?」なぜか彼女は私の名前を知っていました。「実は佐々木副所長さんを知ってまして、トンネル工事のお正月休みを取材させてくださいって言ったら、杉田さんっていう人がいらっしゃるから、行ってみなさいって言われたんです。」佐々木副所長から電話があったのに、その時は何も言ってくれませんでしたが、もしかしたら、「こういう人が行く」ということを伝えるために電話をよこしたのかもしれません。「でも、この冬道を、歩いてくるだなんて無謀だなあ」私がそう言うと「いえ、途中まで運転してきたんですけど、ご存知かもしれませんが青森市はいま大雪になってまして・・・・途中から車が動かなくしまったんですよ。戻るにも戻れないし・・・地理的にこっちに来たほうが近いかなって思って・・・」歩いて現場事務所に向かったのだが途中行き倒れてしまったのだそうです。しかし、それも変な話です。この現場では、火薬庫での轍の跡がはっきりと残っているように、雪が降っていないのです。私は、テレビのスイッチを入れました。ちょうど、県内の情報番組の時間で、キャスターが青森市の大雪情報の話しをしていました。「そんなに、大雪になってるんだ・・・・・・」私は画面を見ながらつぶやいていました。その時、「グウ」という音が聞こえました。彼女の顔を見ると、真っ赤になっています・・・「私のおなかの音です」「アア、いまご飯の用意をします、ちょっと待っててくださいね」私はあわてて台所に立ちましたが・・・・「変な女の人だなあ・・・・俺が、濡れた洋服を脱がせて下着姿を見たことはわかっているくせに、そんなことより、おなかが鳴ったほうが恥ずかしいのか?」とにかく、不思議な出来事ばかりの山の生活になってきました。1週間、何もせずに、ただの留守番のはずだったのに・・・・・・ つづく
2007.02.06
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今日は時間がなくてちょっとずつ書き進めている。現在アクセス数「19170」・・・・あと830・・・・もしかしたら、予定よりちょっと早くなるかもしれない。 犬を洗ってやりたい・・・その一心で風呂場に連れてきたもののまさか自分で浴槽に飛び込むとは思っても見ませんでした。私は自分が子供のころ飼っていた犬が、水を嫌ってなかなか洗わせてくれなかったことを思い出していました。兄弟3人で押さえつけ、無理やり洗ってやったものの、本当に汗だくになったものでした。「コリャしつけがいい家庭で飼われてたんだな・・・」という事は棄てられたものではなく、きっとなにかのきっかけで逃げ出したものかもしれません。綺麗になった犬を、バスタオルで拭いてやり、さて自分ももう一度風呂へ入ろうかと思いましたが、浴槽の水がかなり汚れていたし、とりあえず水を全て棄てて浴槽を洗わなくちゃなあ・・・・「働かないと飯も美味くないしな・・・・・」さっきの昼食が餅二枚でも多かったので、私はこの広い浴槽を洗い、少しでも体を動かそうと思っていました。浴槽のお湯を棄てて、ホースを使って水をかけます。スポンジに洗剤をつけて浴槽の内側をこすりましたが、さすがに銭湯ほどの浴槽なので時間がかかります。1時間ほどかかりましたが、犬は隣の乾燥室にいてじっと見守っていてくれたのでした。事務所に戻ったときも、まとわりつくこともなくあとをついてきました。私は冷蔵庫から牛乳を出し、ドンブリ1個にそれを注ぎ、犬の前におきます。「お前・・・ずっとここに住みつく勢いだな・・・・」そう言いながら頭をなでようとすると、犬はとがめるように頭を引っ込めます。さっきは体をくまなく洗ってやっても嫌がらずにいたのですが、頭をなでられるのは嫌なようでした。まるで、「お前の飼い犬ではない」とでもいうように・・・・・・「休みが終わって、そのあと俺が10日間もいなかったら、お前の面倒をみる奴はいないぞ・・・・」あの工事主任が、犬を現場で飼うなんて賛成するわけがありません。「マアあと5日間だけ・・・それで勘弁しろよ・・・・・東京から帰ってきたら、ばあちゃんと相談して、残飯の餌はもらってやるから」犬は「そんなことわかってる」とでも言いたげな表情になりました。そういえば、さっき昼飯に肉を与えたときも、尻尾を振って喜ぶという事はせず、「お前をカモシカから守ってやったんだ・・・・この肉は当然の報酬だ」とでも言いたげだったような気がします。「それにしても、あと5日・・・・仲間ってことでやっていこうや」私は声を出して、犬の同意を求めましたが、もちろんそんなことに返事をするわけがありません。「でも、名前がないと不便だよなあ・・・・・どうだいタッキーっていう名前は?」実はこのトンネル現場に一番近い集落は「滝沢」というところでした。その地名から「タッキー」という名前にしようかと考えたのです。しかし、「そんなことはどうでもいい、呼びたきゃ勝手に呼べ」とでもいうような表情を浮かべたように思います。しばらくの間、私とタッキーはテレビを見て過ごしました。年末特番が多く、お笑い芸人たちが面白いことをしていますが、私が声を出して笑った場面では、タッキーも顔を持ち上げ画面を見るのですが、すぐに「なんだつまらん」というような表情をし、顔を下げてしまいます。そのうち、一緒にテレビを見るのに飽きたのか、タッキーは急に立ち上がり、玄関の引き戸をがりがりと引っかき始めました。「え?外に出たいのか?・・・晩飯までには帰って来いよ」私は戸を開けてやりました。タッキーはその開けた戸の隙間からゆっくりと外へ出て行きました。私もテレビを見るのをやめ、晩飯の支度を始めます。雑煮の出し汁が大きな寸胴に作ってあり、それは雪室の中に入れてありました。今日はその出し汁を使い、鍋焼きうどんを作ろうと思いました。タッキーには、その出汁をとった鶏がらを準備してやりました。タッキーが戻ってきたのは6時をちょっと過ぎたころだったと思います。私は鍋焼きうどんをタッキーと一緒に食べようと思っていましたから、寸胴をガス台にかけたままでした。「おい、遅いぞ・・・俺は腹が減っちゃったよ」爪を器用に使って引き戸を開けたタッキーに、私は少し文句をいいましたが、タッキーがわたしのズボンの裾を引っ張るのです。「な、なんだ・・・どうしたんだ?」ズボンの裾を引っ張るのを辞めたタッキーは、今度はジープのドアに手を掛け、私にジープを運転しろと言っているようでした。私がエンジンをかけると、タッキーは「自分のあとをついて来い」とでも言うように、ジープの前に立ち、私を振り返ります。「なんだか知らんが、ついていけばいいんだな?」私がそう言うと、タッキーは先導するように走り出します。私もあわてて、彼を見失わないようにライトを上向きにして追いかけました。どうやら方向は火薬庫に向かっているようです。「ダイナマイト泥棒を見つけたんだろうか?」タッキーがダイナマイト泥棒に遭遇し、私に報告するための戻ってきたような気がしましたが、もし相手が武器を持っていたらどうしようか・・・などと考えてしまいました。しかし、タッキーが私に教えたかったのは泥棒ではありませんでした。火薬庫からさらに30メーターほど行ったところに、タッキーは立ち止まり、私のほうを見ていましたが、ジープのヘッドライトに照らされ浮かび上がったのは、赤いダウンジャケットを羽織って行き倒れている女性だったのです。「何でこんな山奥に?・・・・なぜ女性が?」しかし、降りて彼女の体に触れてみるともう冷え切っていて一刻を争うような状況だと判断できました。私は、その女性をジープの後部座席まで抱え上げて乗せましたが、まだジープ自体の温度が上がりきっていなかったので・・・急いで事務所に引き上げました。ジープから彼女を降ろし、事務所のストーブのそばにあるソファーに寝かせましたが、洋服はじっとりと濡れていました。若い女性でしたので躊躇いはありましたが、ダウンコートだけは脱がせる事にしました。それでも彼女の意識は戻らなかったのです。「「もしも~し・・・・生きてますか~」呼びかけましたが、返事はありません・・・・・・「濡れたままだとまずいな・・・・」私は思い切って彼女の洋服を、下着だけ残し全部脱がせました。そして、私が昨日洗濯して乾燥させていたジャージを着せたのです。それから部屋に行って毛布を取って来ると彼女をその毛布でおおったのです。ストーブの熱で、彼女の表面の体温はかなり熱くなってきたのですが、意識は戻らないまま・・・・・・私は、翌朝までまんじりともせずに、彼女の看病を続けたのです。 続く
2007.02.05
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先ほどは、急用ができたんで話しを途中で終わっちゃいましたけど、ちょっとまた時間ができたんで書きますね。そういえば、キリプレのほうなんですけど、現在アクセス数「19100」です。キリプレ発表しちゃったら、なんとなく増えたような気がするんですけど、期待されるほどの物は差し上げられませんからね!何しろ青森県の「県民一人当たりの所得」は、東京都のそれの53パーセントなんですから・・・・・どっちかというと、「発展途上国」(?)より下なんです。総理、なんとかしてくださいよ!!! ウインナーソーセージを食べ終えると、犬はどこかへ行ってしまいました。「きっとトンネルの中にでも戻ったんだろう」私はそう思うようにしました。いろんなことがありすぎて、これ以上疲れたくないという気持ちもあったのでしょう・・・・よけいなことを考えたくありません。「そうだ、一度しっかり火薬庫の残数の確認をしておこう」まだ日の明るいうちに、火薬庫にチェックに出かけると・・・火薬庫の周りには数頭のカモシカがいました。前にも書きましたが、カモシカはダイナマイトの匂いが大好きなんです。自分達が「天然記念物」であることを知っているかのように、人間が近づいても、決して逃げようとはしません。逃げもしませんが、悪さをすることもありませんので、私は火薬庫の鍵を開け中に入りました。ダイナマイト残数は「3号桐ダイナマイト」が7箱、1575本・・・そして「2号榎ダイナマイト」が2箱、450本・・・いや、一本使っているから、正確には449本残っているはずです。大きな箱に入っている分は数える必要がないので、私は、手をつけてある「2号榎」の本数を数えました。箱には25本ずつビニール袋に仕分けされたものが9包入っていましたから、手のついてある1袋の残数を数えればいいのです。24本数えればいいわけですから、簡単に終わるはずでした。しかし、気がつくと数頭のカモシカが火薬庫の入り口から中に入ってこようとしていました。若干の説明不足があるので話しておきますが、火薬庫の建物の周りには1メートルほどの距離を置いて周囲を金網で囲ってあり、その金網のドアにも鍵をかけておくといった、簡単な二重構造になっているのです。いま、カモシカが入ってこようとしている入り口は金網の入り口であり、私は思わず、火薬庫本体のドアを閉めて、カモシカの侵入だけは防ぐことができました。しかし、金網の中に侵入できた彼らは、その固い頭や角で、火薬庫本体にどんどんとぶつかってきます。ぶつかってきても簡単には壊されないだろうとは思っていますが、窓もなくどんな状況なのかまったくわからない私にとっては、恐怖を感じずにはいられませんでした。その時です。「ワン・・・ワンワン!」犬の鳴き声が聞こえ、金網の中からカモシカたちがどんどん逃げていくような音がしました。しばらくの間はドアを開けることができませんでしたが、気配が感じられなくなったころ、私は少しだけドアを開けてみました。金網の外には、1匹の犬が警備するかのように、しっぽをピンと立て、守っていてくれました。10メーターくらい離れたところにはカモシカの群れがいましたが、こちらに近寄って来ようとはしません。私は急いで火薬庫と金網のドアを閉め、ジープのドアを開けると、その犬が私の体とドアの隙間から車の中に乗り込んできました。犬はちゃっかりと助手席に座り、私がエンジンをかけるのを待ちます。「まあ・・・いいか・・・・」私は、その犬を乗せたまま、事務所に戻ります。車を降り、事務所のドアを開けたときも、その犬は私より先に事務所の中に入りました。まるで、私をガードする番犬にでもなったような雰囲気でした。「よだれを流してるわけでもなく、賢そうだし・・・狂犬病ってことはないな」外に出そうとしても、ストーブのそばに腹ばいになって動こうとしない犬を、私はあきらめてそのままにしておくことにしました。夕食は、昨日バーベキューをした残りが冷蔵庫に入っていましたので、その肉を生のまま犬にやりました。私はなんとなく食欲がなかったので、餅を2枚だけ焼き、しょうゆをつけて海苔を撒いただけのものを食べましたが、それでも多いくらい・・・・「別に体動かしてるわけじゃないものなあ」一生懸命肉に喰らいついてる犬を見て、私はそんなことを思っていました。「しかし、汚い犬だなあ」野良犬ですから、綺麗なわけはありません。「ようし、お湯で洗ってやろうか」私が風呂場に向かうと、犬も私にぴったりくっついてきました。私がなにを考えていたかわかったのでしょう・・・・犬は浴槽を見ると、私が何もしないのに、ひとりで浴槽に飛び込みましたが、少しぬるめのお湯だったので気持ちよさそうに浸かっていました。 ア、お出かけですので・・・続く
2007.02.05
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今朝は、思いっきり寒いです。だってさっきまで海にいたんだもの・・・・・・けっこう防寒には気をつけていったんですけどね!潜水夫が、「社長、海の中のほうが暖かいよ」なんて言ってましたけど。 佐々木副所長からの電話が終わると、テレビを見ていた第2トンネルの桜田さんが「ワア、すげぇ!」と叫びました。「テレビのニュースで、青森の積雪の話ししてるんですよ・・・見てください」テレビでは、大きなタイヤショベルが、国道4号線の除雪をしている映像でしたが、まだ暗いうちからの撮影で、国道脇にはかなりの雪が積み上げられていました。「おいおい、この前ふもとへ降りたときには、なんもなかったのになあ・・・」私は椅子に腰掛けながらその映像を見入ってしまいました。国道脇には人間の背丈の以上はありましたから2メートルくらい積み上げられていたのでしょうか・・・・一日の降雪量としては異常な高さです。「青森の雪ってすごいですねえ・・・」今年初めて青森に赴任してきたという桜田さんは驚いた様子でしたが、「イヤ、一日でこんなに降ることなんかないよ・・・それに、ふもとでこれだけ積もってるのに、なんでここがこんなに少ないんだ?」私も桜田さんも、頭を捻るばかりでした。優秀な大学を卒業したであろう桜田さんは、その頭脳をフル回転させ、論理的な説明をしようと心がけているようでしたが、なかなか回答が出てきませんでした。「ここは、ちょっとした谷あいになってますからねえ・・・それで雪が積もらなかっただけかもしれませんねえ」確かに谷あいだったとしても、今積もっている雪の量を見て20センチもありません。しかも、天候は春を思わせるような晴天です。「ここからふもとまで30分の距離だけどなあ・・・・局地的に降ったとしても、量が違いすぎるよなあ」「うちの現場でも心配して電話が入ってるかもしれません・・・私帰りますから」桜田さんは「ごちそう様」と言って自分の現場に帰ろうとしました。「アア、また来てくださいよ・・・今度はうまい雑煮でも用意してますから」「アア、また来ます・・・連絡してくださいね・・・・じゃあ」桜田さんは、人なつっこそうな笑顔を残し、玄関を出て行きました。それは一瞬のためらいでした。ちょうどお昼だなあ・・・昼飯も一緒に食わないかなあ・・・・そう思った私は、すぐに桜田さんを追いかけました。しかし、彼はもうかなり向こうまで歩いていて・・・・声をかけたのですが聞こえないようでした。「ずいぶん足が速いなあ・・」そう思って事務所に戻りドアを閉めてから、私はあることに気づきました。ここから、隣の第2トンネルの事務所までは雪の無い道路でも、車で20分はかかります。ましてや、いまは20センチの積雪があり、歩いたら何時間かかるかわかりません。信じられないことですが、私はすぐにジープに飛び乗り彼の後を追いかけていました。この怖がりの私が・・・・得体の知れないもののあとを追いかけている・・・・不思議なことがあまりにも多すぎて、感覚が麻痺してきていたのでしょうか?「もしかしたら、あのカーブを曲がったところで車が動かなくなり、そこから歩いてきたのかもしれない・・・」そんな風に思いたい自分がいました。そのカーブを曲がれば、狭い道路をすれ違うために拡幅された場所があります。その地点に着くと、・・・・・・ありました・・・・車をまわし、第2トンネルまで帰った車の轍が残されていたのです。ほっとした瞬間・・・私は体中の力が抜けていく感覚に襲われました。何分そこに留まっていたでしょうか・・・・ようやくの思いで車を回し、私は現場事務所への帰路につきました。まもなく事務所に到着しようかと思ったとき、私はまた凍りつくような思いをしたのです。事務所がそこに見えてきたときのことですが、ふと台所の当たりに目をやると、あの「犬」がこちらをにらんで立っていました。さっき朝食を作っていて失敗した、真っ黒になった「ベーコンエッグ」を食べているようでした。こちらを警戒しながら、ベーコンエッグを食べるさまは、普通の犬や、狸、狐と変わりありません。それにトンネルの中で見たときは、体格も大きく威風堂々としているように見えたのですが、この昼の明かりの中で見ると、本当は小さく、おどおどとした様子でした。「トンネルの中では、逃げ場がないから警戒のために虚勢を張って威風堂々に見えたんだろうな・・・きっと俺が怖がってたからだ・・・」姿が見えなくなったときも、私が一瞬視線を外した瞬間でしたから、その時にどこかに隠れたのでしょう。なんとなくそう思えてきた私は、車をおり、食堂に行って冷蔵庫から「ウィンナーソーセージ」を3本取り出し、まだ目玉焼きの残骸を食べていた犬に、窓を少しだけ開け、放り投げてやりました。「俺、この犬を餌付けしてやろうかな・・・・・」そんなことを考えていたのです。
2007.02.05
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夕方、どうしてもガマンできなくなって寝たら、起きたのは夜の8時半・・・しょうがないから続きを書きます。 香織ちゃんたちが来てくれたおかげで、寂しさを紛らす事はできたのですが、夕方にはトンネルの中で奇妙な音を聞き、犬が見えたり見えなかったり・・・・すっかり恐くなって、事務所の出入り口全部にしっかり鍵をかけ、テレビの音をガンガンに大きくしました。しかし、事務所ですから窓ガラスが前後左右にあり、そこから誰かに覗かれているような気がして恐かったんです。全ての窓にカーテンをかけました。そのとき突然電話が鳴り出しました。いやな予感がしましたが、電話は鳴り続けています。「はい・・・・・」「あ、こちら第二トンネル企業体ですけど・・・第一トンネルさんですよね?」私達の第一トンネルは、延長640メートルのトンネルで、比較的中規模のトンネルですから、大手ゼネコンと地元業者の企業体だったんですが、第二トンネルは3600メートルという大規模なトンネルでしたから、大手二社の企業体になっていました。「私第二トンネルの留守番してます、桜田って言います・・・よろしく・・・やあ。良かった・・・・昨日から一人で留守番してたんですけどね・・・・なんだかさびしくて・・・・そしたら、うちの所長から電話があって・・・・・第一トンネルにも留守番の人がいるようだから、連絡を取り合えって言われましてね」「ああ、あんたも留守番でしたか・・・・いやあ・・・それは心強い・・・もしなんかあったら連絡を取り合って助け合いましょう」「それでね・・・・明日9時ごろ、私火薬庫の点検に行きますから、その足でそちらへ向かいますよ。・・・ちょっと話しをしませんか?」もちろん私にとっては大歓迎です。「じゃあ、明日こっちで一緒に飯を食いましょう・・・餅ぐらいしかありませんけど、それでいいですか?」現場用の炊飯器ですから、一人分だけご飯を炊くことはできなかったので、私は餅を焼いて食べる事にしていました。「私もなんか持って行きますよ・・・じゃあ明日よろしく」声から想像するとずいぶん若そうな声でしたが、私もそうだったように、きっと独身で正月家にいてもどうにもならない奴が留守番させられているんでしょう。でも、明日も人間と話しする事ができる・・・・・・そう思うだけで、私はいくらか気が安らいできていました。翌朝・・・・天気は快晴でした。夕べはテレビをかけながら事務所のソファーに毛布一枚で寝てしまいましたが、ストーブが点けっぱなしにしてあったので寒くはありませんでした。点けっぱなしのテレビはちょうど朝の天気予報をやっていました。「青森県は、山沿いを中心に断続的に雪が降り続き、今後の積雪に注意が必要となるでしょう・・・・」今週一週間の天気予報では、雪が多いという話し・・・・ショベルローダーをトンネルから出してきておいて良かったなあ・・・と思ったのですが・・・「断続的に雪が降り続く?・・・だって今こんな快晴じゃないか・・・・」このまま春になっちゃうんじゃないかというくらい天気のいい朝でした。「天気予報も当てにならないからなあ」火薬庫の点検をしましたが、昨日と同じように、降り積もった雪にはカモシカの足跡ぐらいしかなく、今日も以上無しということで、作業日報には書くことになるでしょう。ただし、実際には昨日1本のダイナマイトと雷管2本使ってますから、数量は足らなくなっていますが、帳簿上では、昨日とまったく同じ数量です。事務所に戻り、自室に行って着替えをしようと思いましたが、着替えがありません・・・私は乾燥室に行き、自分の洗濯物を取り込みましたが、「そうだ・・・昨日風呂に入ってなかったんだ・・・・ついでにお湯をわかそう」ここの浴槽がでかいといっても、蛇口は大きなものを取り付けてあり、また湯沸し器も特殊なものをつけてありますから、すぐに風呂に入れるようになっています。夜中に風呂に入って恐い思いをするよりは、今のうちに入っておこうという気持ちだったのかもしれません。風呂から上がり、シャツとジーパンという格好になり、事務所に戻って、朝食の準備です。今朝はゆっくりとコーヒーミルで豆を挽き、部屋中をコーヒーの香り一杯にしてみました。こんな日はトーストにしようか・・・・そう思い冷凍された食パンを4枚取り出して皿の上に置きます。目玉焼きとベーコンを焼いていたときです。「こんにちは・・・第二トンネルの桜田ですが」事務所に回ってみると、若い作業服姿の男性が一人立っていました。「ああ、こんちは、杉田です・・・・どうも」挨拶程度の会話を交わし、私は彼を食堂に案内しました。「ああ。たいへんだ・・・・・」彼が来たことに気を取られ、私は目玉焼きを真っ黒にしてしまったのです。「コリャ食えないな・・・」私は、窓からその真っ黒焦げになった目玉焼きを放り投げました。「杉田さん、そりゃやめたほうがいいですよ・・・・動物が残飯アサリに来ますから、絶対やめたほうがいいですって」「アハ、そうだね・・・もう絶対しないよ」私は新しい卵とベーコンで、もう一度「ベーコンエッグ」を作りながら返事しましたよ。ようやく準備ができ、私達は向かい合って朝食を取りました。彼は彼で、食後のデザート用に、リンゴを5個ほど持ってきてくれていました。食事をしながら、私は夕べのトンネル内でであった出来事を話しました。「桜田さん。。。。実はね・・・・このトンネルの中に犬がいて・・・・・それが出たり消えたりするんですよ・・・・それとね団体が行進するような足音が聞こえたりして・・・・」「最初留守番をすると、そういうこともあるようですよ・・・・我々トンネル屋は、トンネルの神様が犬だってことを知ってますから、犬が見えるような気がするんでしょう・・・・・その団体行進の足音だって・・・・そうだ・・・・杉田さんも聞いてるんでしょ?・・・今市内に、映画”八甲田山”のロケ隊が来てるって・・・・私も先日呑みにふもとまで出かけたら、ロケ隊の撮影クルーと、名前はよく知らないけど脇役の俳優が飲みに来てましたから」その映画の話しを聞いていて、遭難した兵隊たちがその辺を行進しているような音を聞いたように錯覚したんだというのです。わが社の重機部の連中が、先日ロケの除雪の手伝いをしてきたという話を聞いたばかりでした。また、私の卒業した高校の敷地は、その八甲田山で遭難した「大日本帝国陸軍青森第五普通科連隊」があったところで、私が高校生のころにはまだその建物の一部が敷地の一角に残っていましたし、年に一度の校内マラソン大会の折り返し地点も、その遭難した兵士たちの眠る「旧陸軍墓地」でしたから・・・・もしかしたら、恐い怖いと思っているうちに夢でも見ていたのかもしれません。「一度一緒に切り羽まで行ってもらえませんか?」一人で行くのは怖かったのですが、2人なら行ける・・・・・そう思って彼を誘いました。大手ゼネコンに入社できるくらいだから、かなり優秀だと思われる桜田さんは、「勉強のため」に、私のトンネルに一緒に行ってくれることになりました。私が運転して・・・・ジープに乗って出かけました。切り羽で車を降り、周りを見回しましたが、もちろん何もいない・・・・・ジープをターンテーブルに乗せ反転させてみると、「ウィイイイイイーン」という音とともにジープが反転していったのですが、途中何かに引っかかったように「ガタン・・・ガタン・・・」という音がしました。「ああ、行進の音ってこれじゃないですか?・・・ギアになんか噛んじゃったような音」確かに定期的な音でしたが、私が昨日聞いたような音ではありませんでした。「それもやっぱり気のせいですよ・・・・これで安心しましたか?」そういわれれば、自分でも空耳だったような気がしてきました。私はその場で礼をいい、また2人で事務所まで戻ってきました。途中バックミラーで切り羽を見ましたが、もちろんそこには犬の姿も見えませんでした。事務所に戻ると、ちょうど電話の呼び出し音がしていました。「あ、もしもし、こちらみちのく第一トンネル共同企業体、杉田です。」「ああ、佐々木だ・・・・・杉田、そっちはすごい雪だろ?・・・市内もなあ大雪でたいへんだ」「いや、山はそれほどでもないですよ・・・・それにショベルローダーで毎日除雪してますから」「そうか?・・・てっきり山はもっとすごいだろうと思ってたんだがな・・・・でもショベルローダーで除雪か・・・なるほど、いいことを思い出したな・・・体もなまるから時々はスコップで除雪もしろよ・・・じゃあな」佐々木副所長の電話はそれで終わりました。つづく
2007.02.04
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