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2013年04月21日
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カテゴリ: 資料室
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(1)

エッセイ(1)






冬 の 日 に



(一)

 なにげなく新聞を広げていて、ある記事に目を留めた。
『冬の香り 蝋梅が満開』
 なつかしい思い出のある、鎌倉光則寺の蝋梅が咲いたことを知らせる記事だった。 
『…静かな境内に梅の花のような香気を漂わせている。寺には三本の蝋梅の木がある。どれも高さ三メ-トルぐらいの木で、このうちの一本が一週間ほど前から花をつけた。「いつもの年より一週間ほど早い咲きだしだった。」と和尚さん…』
 記事を読みながら、初めて光則寺を訪ねた時のことを思い出していた。

(二)

 深夜、妻が突然苦しみだした。腹を押さえ、ただならぬ呻き声をあげた。救急車を呼ぼうと電話を握ったが、妻は気丈夫にも、深夜で隣近所に迷惑をかけるからと制した。痛みは強くなっては弱まり、弱くなっては強くなって、その毎に痛みは増しているようだった。

 悪いときには悪いことが重なるものだ。日曜日だったため、掛かりつけの病院は休みで、やむなくK病院に向かった。妻は今度は車酔いをして、苦しそうにした。病院に着くまでの時間がなんと長く感じられたことか。 
 病院には先客が一組いるだけですぐ診察してもらえた。胃痙攣ではないかとの診断だったが、痛み止めの注射をしても効果はなかった。妻はますます苦しがった。若い医者は自分の診断に自信がないらしく、あちらこちらの病院に問い合わせをしていた。
 そのうち転院を勧め、隣町のH病院の名を告げた。救急車が医者によって呼ばれた。
 すぐに、けたたましいサイレンを鳴らして救急車が来た。
若い救急隊員二名が降り立ち、医者と二言三言、言葉を交わした後、妻を担架に乗せ、救急車に運び入れた。
「付き添いの人も乗って」
 救急隊員が私を指差した。私は急いで救急車に乗った。
「女性一名、顔面蒼白、体に震え有り、H病院に急行します」
 緊張した声が聞こえてきた。不安がつのってきて、声をあげて泣きだしたい気持ちにとらわれた。
 救急車は海岸道路を走り抜けた。風が強いのか浜辺に打ち上がる波の音が私の耳にいつまでも残った。


 松林の中にH病院はあった。連絡が届いたのか玄関には数人の看護婦が待機していた。診察室に入ると医者が足早にやってきた。

「明日になれば内科の先生がきます。その時に精密に調べないとはっきりしたことは言えないが…」
 と前置きして
「急性腎炎と思われます。入院の手続きを取って下さい」
 と告げた。
「この病気は長引くよ」

 肥って目のきつい婦人と、眼鏡を掛けたいかにも人のよさそうな婦人が入院している四人部屋だった。気持ちが悪くなるくらい暖房が効いていた。ベッドの一つは空いていた。
 すぐに看護婦が来て点滴を始めた。今日一日中点滴を行うとのことだった。
 痛みが和らいだのか妻はまどろんでいた。窓からは暖かい陽が部屋いっぱいに射し込んでいた。


 夜になっても妻は眠り続けたので、入院の準備のために病院を辞した。
 風は冷たかった。早朝、不安の中を救急車で渡った橋を、一人で歩いて渡った。吹き飛ばされるくらい強い風が吹いていた。橋を渡りきって、妻が横たわっている病棟の方角を振り返った。
 涙が溢れ出て、なにも見えなかった。
《死ぬな! 》
 思いきり叫びたい衝動が込み上げてきた。想いを振り切るかのように一目散に暗い夜道を駆けた。
 家に辿り着いて明かりを点けた。朝の混乱を再現するかのように布団や衣類が散乱していた。それらを片付けて、替着や化粧品やお茶具などをバッグに詰めた。
 一段落すると、また悲しみが襲ってきた。部屋の片隅に置いてある机の上には、笑っている妻の写真が立て掛けてあった。


     (三)

 妻と結婚したのは、一年ほど前の、桃の花の香る三月の、雨の降る日だった。私の生家のある町から、山一つ隔てた隣町に生まれ育った妻にとって、都会での生活には不安も大きかったに違いない。
「あなたがいるから」
 笑顔いっぱいで故郷を後にして、山が見え、海の近いC市に小さな家を借りて住んだ。
 富士がすぐ目の前にあるのを、妻はひどく喜んだ。妻の実家の庭からは、富士を小さくしたような山が、海越しにいつも姿を見せていた。
 すこし足を延ばすと田畑もあった。東京から一時間ほどしか離れていないのに、不慣れな生活への不安な気持ちを和ませてくれる自然があった。町の人達もおおらかで、朝には採れたばかりのナスやキュウリを分けてくれた。
 すこしばかりの庭に、妻は季節季節の花を植えた。夏にはひまわりが、秋にはコスモスが、庭いっぱいに咲いた。
 私の薄給を嘆くこともなく、妻は自転車に生まれて初めて乗った。自転車があれば、安い物を大量に買うことができた。
「貧乏には慣れているわ」
 妻の明るい笑顔には、随分救われてきた。
《妻にはなにも返してはいない》
そんな想いが、悲しみを深くしていた。


  (四)

 病院に戻ると、妻は瞳を閉じたままだった。
「あれからずっと眠っていますよ」
同じ病室の婦人が声をかけてくれた。近くに顔を寄せてみると、妻の顔にはすこしばかり赤味が差していた。
 朝からの痛みが嘘であったかのように、穏やかな寝顔をしていた。
「食事まだなのでしょう。私達が見ていますから」
 朝から食事はしていなかった。親切に甘えて、駅まで走っておにぎりを買った。
 冷たいおにぎりが胃の中に落ちると、涙がほとばしりでた。


 緊張して次の日の朝を迎えた。
 妻も看護婦の朝の検温に目覚めた。昨日に較べれば数段よくなっていることが素人目にも分かるほどに回復していた。
「ごめんなさい。迷惑掛けて。」
 私を見つけるなり、妻は泣き入りそうな声で言った。
 ほどなくして内科の医者が診察にきた。細細としたことなどをひとしきり聞いた後、
「検査は明日になります」
、と言い置いて退室した。
「経過は順調のようなので、心配ないわよ」
同室の婦人に励まされて、幾分気持ちが和らいできた。
「私は大丈夫よ。あなたもすこし休んで頂戴」
妻の声に張りが戻ったことに力を得て、病院を辞した。
 布団に潜り込むなり、泥のように寝た。


 数日間の入院で、妻は医師も驚くほど回復した。
 退院の日、部屋に入ると、妻は私を見るなり肩をすくめて自分の頭をポコンと叩いた。退院の支度をすっかり整えていた。
「待ち遠しくて」
玄関に出ると、空は晴れ上がっていて気持ちがよかった。タクシーは海に沿って走った。
「あ、富士がきれいだわ」
病院を振り返っていた妻が、大きな声で叫んだ。両翼を広げた富士が大きな姿を見せていた。
 数日前、この道を不安の中救急車で走ったときとはまるで違う心持が、私の心に広がっていった。


    (五)

妻が退院して最初の日曜日、鎌倉を訪ねた。
 長谷駅で降り、観光客の流れを避けて、大仏に向かう通りから光則寺に通じる道筋に入った。静かな道だった。すこし坂になった道を登り切り、光則寺の質素な山門を潜った。庭はそんなに広くないが、あまり人がいなくて私達には都合がよかった。境内に腰を下ろし、妻の弁当を頬張った。
 春の浅い陽が差していて、冬を思わせない暖かさであった。
「今だから言うけれど、もうよくならないのかもしれないと思ったよ」
「私も。生きているのが不思議なくらい」
「でも、よかった。何事もなくて」
「あ、蝋梅がさいているわ」
山門を潜った時には分からなかったのに、枝のあちこちに淡い黄色の花が咲いていた。
「私、ね。あなたと一緒になって、ほんとによかった」
「えっ、なに」
「ううん、なんでもない」


 陽が陰ってきたので、光則寺を離れた。
「せっかく鎌倉に来たのだから大仏さんも見たい」
病み上がりの体を気遣って一瞬躊躇した。
「ちょっとだけだから」
 光則寺から大仏まではすぐだった。
大仏の入口を入ってすぐの売店で、大仏煎餅を買った。
「大仏さんを食べていいのかしら」
煎餅には、大仏さんの姿がいっぱいに焼き写されていた。
「大仏さん、かじられてかわいそう」
そう言いながら、結構おいしそうに食べていた。
 妻に屈託のない笑顔が戻ったことが、私にはとても嬉しかった。

1986・4・27


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最終更新日  2013年04月21日 07時30分39秒
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