私としては、この「橋」が、ケルト神話あるいはアイルランド伝説にもとづくものなのか、それともこの映画のためだけに創作されたいわば純然たるフィクションなのかを調査しなければならないのだが、私のこれまでの知識には、日本仏教の「三途の川」、また白山信仰におけるにこの世とあの世との間の「橋」以外に、この世とあの世とをむすぶ「橋」は存在しなかった。能舞台の「橋掛り」も、私は白山信仰に由来していると考えている。 ブラッド・ピットとアンソニー・ホプキンスが主演した1998年の映画、マーティン・ブレスト監督『ジョー・ブラックをよろしく(Meet Joe Black)』の最終シーンは、死神(ブラッド・ピット)に導かれたパリッシュ氏(アンソニー・ホプキンス)が石の太鼓橋を渡って死に赴くシーンがある。私はこの太鼓橋は「三途の川の橋」のイメージからの借用だと思っている。 キリスト教伝説には町と町とを結ぶ橋を建設した聖人伝説がある。日本でも知られている歌『アビニョンの橋の上で』は、まさにその聖人架橋伝説が下敷きになっている。しかしながら、アビニョンの橋は宗教と結びついてはいるが、この世とあの世との間に架かる橋ではない。