東方見雲録

東方見雲録

2024.10.26
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カテゴリ: 文化




片山 確かにメルパルク、ゆうぽうと、厚生年金などの古いホールは閉めて建て替えられずに終わってしまった。国立劇場は建て直し。オーチャードホールのあるBunkamuraも長期間閉めているでしょう。神奈川県民ホールは閉館してしまう。東京文化会館も長く改修が入ると聞きます。

21世紀の首都圏はこれではがらんどうみたいなものです。

三浦 そう、がらんどう。それが火急の問題としてあります。

86年の段階でも満足ではなかったのに、いったいどうするつもりなのか、と。古いホールを潰して代わりを建てないのは経営が建前上、民間になったから。日本の官僚は志が低いし趣味も低俗すぎる。しかも、それを批判すべきジャーナリズムが機能していない。
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田所 バブルの頃、地方にまでホールという箱物をたくさん建てたのはいいけれど、肝心の演奏家がいないと言われました。そうしてできた日本のホールで実際に音楽や舞踊の公演をしたり、関わってきた人たちについては、どのように評価しておられますか。

片山 ホールの発展史と中身の発展史は必ずしも並行しないものですが、「ホールがないと困る」という状況があってホールができていく事情はありますよね。日本のホール環境について言えば、80~90年代に、大小のクラシック音楽専用ホールと言えるものが大阪にも東京にも増えていきました。

これは、三浦さんが先ほどご指摘されたように国家が主導して大所高所から進めたことではありません。サントリーホールは佐治敬三、オーチャードホールは五島昇、ザ・シンフォニーホールは朝日放送で、紀尾井ホールは旧新日鉄。



外国人の演奏家を呼んででも、サントリーホールのようなところに誰でもいつでも足を運べることが文化国家であると信じる、旧制高校的教育の薫陶を受けた人たちの思いと、戦後の豊かさに憧れる人たちの思いとが結びついて実現していった夢の結晶です。
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片山 その次の世代になると、日本が戦争に負けてどん底になっても、クラシック音楽への憧れを持ち、「文化が大事」という情念を起動させた世代とは違ってきますよね。政治家で言えば戦後生まれの菅直人くらいの、子どもの頃からそこそこ豊かで、学生運動などをやり、音楽はフォークやロックで十分というジェネレーション。

80年代には、サントリーホールが建ち、オーチャードホールが建ち、官僚や政治家にもそういう "古風" な価値観に共鳴する実力者が世代的に居ましたから、東京都も東京芸術劇場を建てたし、彩の国さいたま芸術劇場とか川崎市のミューザとか、都市周辺にまで波及していきました。もちろん新国立劇場もできた。しかし、「もっと建てよう」というムードはその辺までだったのではないですか。

さらにその後は、「何でこんなものを建てたのか。金がかかるだけじゃないか」となり、さらに、先ほど言ったように古いホールなどは老朽化で取り壊しとなって、「後継ホールをつくるのはやめましょう」ということで、80年代、90年代に建って、その前からあったものと組み合わさって豊かだった環境が今日では続かなくなっています。

90年代以降、日本が経済的に調子が悪くなりましたが、世界の中でものすごく貧しい国に転落したわけじゃない。やる気があれば「新しいホールを建てましょう」とか、「もっと良いホールにしましょう」とか、そのくらいの資力はまだまだあると思いたい。

でも実際にはそういうふうには回っていない。国立劇場で歌舞伎や文楽、雅楽、民俗芸能公演をたくさん観てきた人間は「その国立劇場の建て直しに何年かかるか分からないなんて悪い冗談だ。伝統文化が滅びるぞ」と思う。けれどもその心配をする力がとても弱い。

田所 それが問題にもならないから、三浦さんは悲憤慷慨しておられるわけですね。

三浦 まさにその通り(笑)。文化的なものを持続しようという日本の民間パワーは非常に大きいと僕は思っています。例えば1960年代のアングラとか暗黒舞踏とか。寺山修司にしても、鈴木忠志、唐十郎、土方巽にしても、彼らに政府が金を出すなんていうことはあり得ない。

存在自体が最初から反政府的と思われるくらいのものですから。しかし、それでも出てくるし、劇場がなければ、体育館でも倉庫でもやるし、野外にテントも張るわけです。そのくらいのパワーは今も絶対にあると信じているから、その点は心配していません。

ただ、いくら何でも、ゆうぽうとがなくなり、メルパルクがなくなり、国立劇場がなくなり、全部なくなっても誰も何も言わないという状況はいびつであるということは言っておいたほうがいい。


引用サイト: こちら

関連サイト:「ホール・劇場等施設のあり方~誰もが鑑賞できる創造発信の場に向けて~」  東京都   こちら

関連サイト:帝国劇場 建て替え2025年2月休館 こちら

関連サイト:いったん閉場 国立劇場 こちら





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Last updated  2024.10.26 19:26:24
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