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秋葉系の高瀬さんの事を、僕は心の中では「アキバさん」と呼んでいる。よく写真を撮りに行こう、と誘われては同行するのだが、思わず「アキバさん」と呼んでしまいそうでやばいな、と思っている。そんなアキバさんが教室が終わると僕に話しかけてきた。「今日は藤井ちゃん、来なかったね。残念。」僕も苦笑いして「同感ですよ。」と言った。写真教室が終わると、先生を交えて近くのお店で昼食をみんなでとるのが恒例になっている。藤井さんは月に1回、どちらかの土曜に定期的に顔を出すようになった。従って、今日は来れない日だったらしい。僕は月2回の写真教室が以前に増して楽しみになった。新しい顔が増えた、と言う事もあって写真教室にも活気が出てきたアキバさんみたいにね。僕の方がまだカメラや写真について知識があるので、藤井さんに「教える」事を口実に写真教室がお開きになると、よく写真展や中古カメラ屋などに誘った。藤井さんは、興味津々な瞳で喜んでついて来てくれた。僕は内心恋人気分で気持ちは弾んでいた。藤井さんの、優しく微笑む笑顔がより一層僕の心を惑わし、勘違いさせていた。実際には、いつまで経っても僕と藤井さんはただの写真教室の生徒という関係だった。僕はポートレートは苦手だ。スナップはよく撮るが、通りすがりの人を撮るような事はない。通り過ぎる人々は、人間として魅力的な味わい深い人も大勢いる。けれど、声をかけるのはもともと苦手の僕は「1枚いいですか~?」なんてさらっと声をかけてシャッターを押すような事は出来ないのだ。遠くからコンパクトカメラの小さなファインダーを覗いて、気づかれないようにシャッターを押す。先生にそんな事を話すと「じゃ、今度モデル撮影会に来なさい。」と言われ、いろいろ参加してみたが、どうもやはり克服できなかった。それと同じように恋に対してもシャイで奥手な僕にとっては苦手なものなのだ、と言う認識はある。それでも、僕ももう20代後半だし、今までに何人かの恋人と付き合ったこともある。けれど、恋人に発展するまでにどの女性とも時間がかかっていた。今になって、付き合えたのは一種の奇跡だったんじゃないかと、思ったりするほどなのだ。藤井さんに面と向かってシャッターを押してみたい。そんな事を、よく考えたりするのだが、この穏やかな関係が崩れてしまうかもしれない、と思うと後へ後へと先送りしてしまっているのだ。なんと情けない男だろう、と嘲笑っていただいて結構。僕は、そんな男なのだ。だけど、いつか父が母を撮ったように、僕にもきっと出来るはず、と思っている。藤井さんと出会って、もうすぐ半年年になろうとしている。想い続けるのにも、もう我慢が出来なくなってきてしまった。今度、藤井さんが教室に来たら僕の気持ちを告げよう、そう決心した。所が、次もその次も藤井さんは教室に来なかった。そして1ヶ月が過ぎ去ってしまった。もう11月に入ってしまって、秋風が僕の心を冷たくさせた。どうしたんだろう?あんなに熱心だったのに。先生も「最近、藤井さん来ませんね。」と少し寂しそうに僕に言った。「そうですね。」「どうしたのか市原君、連絡とってみてはどうですか?私が心配していると言えばいいのです。」と先生は僕の片想いはお見通しだよ、という表情で言った。今まで、教室が中止、とか撮影会のお知らせとか、緊急な事でしか連絡を取っていなかったのだが、先生の言うようにこれも緊急の事なのかも知れないと思った。先生に後押しされる形で僕は藤井さんに連絡を取ってみた。いつどんな勤務なのか分からないので、とり合えずメールを送ってみる。藤井さん、最近教室に来られませんがどうしていますか?大林先生も何かあったのではないかと心配しています。一度連絡頂けたら、と思います。 市原すると、深夜1時を過ぎた所でメールが届いた。お久しぶりです。最近、いろいろと忙しくて行けなくなりました。今度の教室には行けそうなので、久しぶりに行きます。ご心配してくださって、本当にすみません。 藤井僕は、また次の土曜まで胸をわくわくさせて待つのみだった。そして、一度萎えかけた気持ちが、また熱を帯びて来るのを感じていた。 <つづく>続きが読みたいと思ったらクリックしてね! → 人気blogランキング+ちょっと一言+アップが遅くなってすみません。続きが読みたいなどとおっしゃってくれて嬉しい限りです。ほんとに。
2005/04/30
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土曜日がやって来た。僕は藤井さんがやって来るのではないかと、いつに無くソワソワとした気持ちが態度に出ていたらしい。一番乗りで教室に入ると大林先生はもう既に来ていて、一人で椅子の準備や、プロジェクターの準備に取り掛かっていた。午前11時から一応始まる事になっている。あと15分。「市原君、今日は早いね。何ソワソワしてるの?」と先生から声をかけられた。「おはようございます。ソワソワしてますかね、僕。」「うん。そう見えるよ。」と言うと先生は止めていた手をまた動かし始めた。「手伝いますよ。」「早く来た上に、手伝ってくれるなんて雨が降るなぁ。」と先生は言うと大声で笑い出した。「実はですね、この前鶴舞公園に菖蒲を撮りに行ったんですけど、そこで知り合った人にここの教室を紹介したんです。もしかしたら今日来るかもしれません。」大林先生は眼鏡をかけなおして「ふむ。布教活動有難う。」と言った。「その人は女性なんですね。だからソワソワしているんですね。」と後で付け加えて、最後にニヤッと笑った。大林先生は、こう見えても60を過ぎている。10歳は若く見える。気さくでいい先生だ。大抵の写真教室の先生は、生徒に自分の技法を教えたがる。それ故、写真展を開くとどれもこれも同じ人が撮ったような写真が陳列される事になるのだ。大林先生は、個人の個性を潰したくないと、あまりテクニックについては話してくれない。写真をいかにして楽しく撮るか、撮り続ける事が出来るのか、という事に重点を置いて話してくれる。テクニックより、写真を撮ることに対する引き出しの作り方を教えてくれている。そこが好きなところだ。11時になるとばらばらと生徒がやって来た。そして、藤井さんも少し緊張しながらこの部屋にやって来たのだった。僕は嬉しかった。「え~、幽霊部員が多い私の教室ですが、今日、新しく来てくださった方がいますので、ちょっと自己紹介をしましょうか。」今日の出席者は藤井さんを入れて5人。まずますの人数だ。少ないと先生入れて3人とか言う日もある。鈴木さんは一番の年長者で元数学教師。なかなか味のある写真を撮るかと思うと、この年とは思えないくらいの洗練されたスタイリッシュな写真を撮ったりする。以前、撮ったポピーの花はメイプル・ソープを彷彿させるようだった。高瀬さんは見た目は秋葉系のおじさん。けれど、コンテストに応募すれば必ずといっていいほど何らかの賞を取る。先生とは一度大喧嘩したが、やっぱり大林先生がいいのかまた顔を出すようになった。立花さんはお金持ちのおばさん。話を聞くとため息が出てしまうほど。海外旅行に行っては、珍しい写真を見せてくれる。中判カメラを使っているが、三脚無しでブレずに取るのは女性では珍しい。そして、僕。「じゃ、藤井さん、自己紹介してください。」ちょっと照れながら「藤井かおるです。半年前に一眼レフを買ったのですが、使い方がまだいまいち分からなくて悪戦苦闘しています。先週の日曜に市原さんに鶴舞公園で会いまして、この教室の事を紹介していただいたので早速今日伺いました。どうぞ宜しくお願いします。」大林先生はにっこりと笑って「どうぞよろしく。」と藤井さんに言った。いつものように、先生は写真をいかにして楽しく撮り続けるか、という事をいろいろ例をあげて話してくれた。話が一通り終わると次はみんなで持ち寄った写真を見せ合うのが定例だ。ポジで撮ってきた物はプロジェクターでスライドショー形式に見る。時々、先生がコメントする。藤井さんはネガで撮ったらしくプリントされた写真を真ん中に置いてみんなで見た。なかなかセンスがいい。僕は、バックの水面が光で反射して菖蒲がシルエットになっている写真が気に入った。そして、以前撮った写真も数枚持ってきていた。その中で、夕暮れ時のオレンジからピンクに染まった空の写真がみんな口を揃えていい、と言った。僕もそう思った。先生までも、「これはいい写真ですね。」と褒めた。空だけかと思って見ていると、実は下のほうは海であり、夏場の雲が小さく、しかも規則正しく無数に浮かんでいる。まるで何かの模様のようで美しかった。そして藤井さんは恥ずかしそうに「私も、この写真が一番好きなんです。」と言った。「どうして写真を撮りたいと思うようになったのですか?」先生が訊ねた。こらは、いつも誰か新しく教室に来ると聞く先生の質問の一つだ。藤井さんは、少し間を置いて「友達の為に、今を残したいと思ったんです。」と小さな声で言ったのが僕には印象的だった。どんな友達なのだろう、と勝手に想像が膨らんだ。恋人じゃないのか?いや、恋人なら一緒に撮りたいものだろう。じゃ、やっぱり友達?僕の身体の芯から甘酸っぱい物が溶け出しているような淡い気持ちを、藤井さんに抱いている事をこの時僕は気づいた。久しぶりの感覚に、嬉しいような、困ったような、そんな気持ちだった。僕は、恋をするのは不器用だったからだ。横で秋葉系の高瀬さんが「なんだか素敵な人だねぇ・・・。」と独り言のように呟いたのが聞こえて、びくっとした。 <つづく>続きが読みたいと思ったらクリックしてね! → 人気blogランキング
2005/04/26
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僕の父は写真が好きで、中判カメラのハッセルブラット500CMを愛用している。子供の頃から父の持っている物がカメラだと思っていた為、普通のコンパクトカメラを見ると子供ながらに違和感を覚えたりした物だった。今で言う、ハンディデジカムのような形と言えばイメージしやすいだろうか。実際には、かなり違うのだけど。父は休みになるとフラっとどこかに出かけては写真を撮って来た。そして、僕は父の写真を見るのが好きだった。山や川や海や花・・・。廃墟や街並みや、通りすがりの人々。中学の時、偶然、1枚の写真を見つけてしまった。それは、僕の母の若い頃の写真だった。きっと、父が撮ったものなのだろう。写真の母は美しかった。父は、ファインダー越しに母に片思いしていたのだろうか。その写真からは、そんな雰囲気が伝わってきた。そして、気づけば僕もそんな父の影響でか写真を撮るのが自然と好きになっていた。日曜日の朝、僕は6時に鶴舞公園にキャノンのイオス7と、100mmのマクロレンズ、28-90mmと90-300mmのズームレンズとISO100と400のポジを数本バッグに入れて向かった。まだ父のように中判カメラは使えない。イオス55を買おうと思っていたらイオス7が出たので新しい方を買った。他にも、ニコンも持っているが今日はキャノンの気分だったので、このカメラを持ってきた。鶴舞公園は名古屋大学病院の隣にある名古屋では有名な公園で、桜を皮切りに花菖蒲、バラ、蓮といった花達が次々に咲き誇り私達の目を楽しませてくれる。カメラを持ってここに訪れる人も少なくは無い。この公園は家から比較的近いので花が咲くとよく来たりしている。早朝のまだ強くない光、そして朝露に濡れた花は美しい。それを、ファインダーから覗くと、実際に目で見るよ以上に美しい事に写真を撮るようになってから気づいた。一種の狩りをしているような気分になって、脳からはアドレナリンが放出する。気に入った被写体を見つけて、イメージを湧かせてシャッターを押す。一眼レフ独特のシャッター音がして、まるでそれは、狙いを定めた獲物を打ち落とすようなのだ。だから、やめられない。今は花菖蒲が丁度見ごろだ。公園に着くと、もう三脚を立てて撮っている人が数人いた。僕も早速、どれを撮ろうか狙いを定めるように菖蒲園を右回りにゆっくりと歩いた。丁度、朝露に濡れた美しい花を見つけたので、そこで三脚を立ててカメラをセッティングする。マクロレンズで幻想的なイメージを湧かせて撮ってみる。次は28mmで全体を撮ってみる。全体を撮るには、28mmでは物足りない。やっぱり広角レンズも持ってこれば良かった、とシャッターを押してみて後悔した。次は300mmで絞りを開放にして遠くの花を狙う。マクロレンズで撮るのとはまた違った雰囲気で撮れる。いろいろ試しながら撮り続けて、僕の身体全身はアドレナリンに侵されて、静かな外見からは想像もつかないほどの興奮状態にあった。一通り撮ったので、一休憩に辺りを見回してみる。だいたい中年から老人の男性が多いのだが、その中に混じって僕と同世代の女性が混じっていた。僕は遠くからペットボトルのお茶を飲んでから、その見知らぬ彼女に狙いを定めた。あんまりにも熱心なので見ていても滑稽なくらいだ。それだけ写真が好きなのだろう、と思った。そして、花にへばり付いている彼女をファインダー越しに捉えて「カシャッ」とシャッター音がすると写真に閉じ込めた。そんな彼女も疲れたらしく一休みしていた。僕は同年代と言う事もあって彼女と話してみたくなった。そして、休んでいる彼女に近づいて声をかけた。「いい写真撮れていますか?」僕の言葉に、少しびっくりしたように振り向いた。「あ・・・私、まだこれ買ったばかりで、上手く取れているかどうか。」と照れくさそうに言った。彼女のカメラは僕が買おうかと思っていたイオス55だった。今はイオス7に変わって製造されていない。「イオス7ですね。私が買ったらすぐ新しいの出ちゃって、なんか悔しかったんですよ。」と言う彼女に「そんなに性能は変わりませんよ。」と僕は言った。彼女は藤井かおると言い、看護師をしているそうだった。たまたま日曜が休みで、わざわざ安城から朝5時半に出て来たと言う。学生の頃は隣の名古屋大学病院が実習病院だった為この辺の地理は詳しいのだそうだ。僕も人の事を言えないが、相当クレイジーだと思った。写真教室に通ってみたいと言うので、僕の通っている教室を紹介してあげたら、喜んでいた。と、言うのも不規則な勤務の彼女でも気軽に通える教室だからだ。第1と第3土曜日しか教室は開かないが、プロのカメラマンが講師で、月謝ではなく一回払いでしかも1500円と安い。その為、幽霊部員はものすごく多い。ほとんど先生の趣味でやっているような物だった。矢場町の4番出口を出て少し歩いたところにちょっとしたビルがあって、一階はラボや現像の受付、2階はギャラリースペース、3階は会議室が2部屋あって301号室でいつも教室は開かれる。もし今度来るなら今日撮った写真を持ってくるといいよ、と付け足して言う。僕はこの教室の大林先生の人柄が好きでずっと通っている。簡単に彼女に説明して、もし来る気があるなら、と僕の電話番号をもしかの為に教えた。「あの、お名前は?」そう言えば、僕の名前をまだ名乗っていなかった。「僕は、市原克己って言います。」感じのいい人だった。今度の土曜は第3土曜日。行けそうなので行きます、と言っていた彼女の嬉しそうな顔が印象に残っている。来てくれるのかな。ちょっと期待しながら、今度の土曜を待つ事になった。続きが読みたいと思ったらクリックしてね! → 人気blogランキング
2005/04/25
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若かったら、眠っている彼女にキスしていたかもしれない。ふと、帰り道にそう思った。昔の俺は、仲間内では「特攻隊長」と言われていた。すぐコクる、すぐ手を出す、そしてすぐ振られた。まぁ、そんなことしてたらそうだよなぁ、と昔の俺を思い出していた。実は、彼女はここ2年といない。前の彼女とは結婚まで行きそうだったのだが、どうしたことか上手く行かなくなってしまった。そんなことは、よくある事さ、なんて自分を慰めてみたが結構根は深く、何だか今まで女を避けていた。かおるはきっと俺と同じような傷を負っているのだろうな、と直感で感じた。だからかな。などと、思いを巡らせながらレガシーを運転しながら、「そう言えば、かおるの車もスバルだったな。」と口にしていた。起きると昼過ぎだった。今夜電話はかかって来るのだろうか?かおるの事が気になっている俺に気づく。その日は、ダラダラと過ごした。実家から遠くないアパートで一人暮らしをしている俺は自由だ。好きなだけ寝ても何も言われない。そして、暇を持て余した俺はスロットに入り浸り、夕方ファーストフードで晩飯を食べる。こんな生活を結構している。アパートに帰ってもまだ10時だった。時計を気にしながらTVを見る。まだ、仕事してるんだろうなぁ・・・。1時過ぎ、やっと携帯が鳴った。かけてきてくれたのだ。「もしもし・・・夜分遅く済みませんが、藤井です。」単純に嬉しかった。「もしもし。お疲れ様。」そう言うと、電話の向こうで少し嬉しそうな笑い声が漏れた。「こんな、時間になっちゃうんです。ごめんなさいね。」「全然いいよ。まだ起きてるし。明日、どこか行きたいとこある?」「いろいろ考えてたんですけど・・・平井さんは、どこかお勧めあります?」俺も考えたけど、いまいち良さそうなところが思いつかない。こういう勘みたいなものも鈍ってしまったんだな、と感じた。「名古屋港でも行く?」ベタだ。ベタベタ過ぎる。「いいですよ。ずっと行っていなかったし。ブルーボネットとかも行ってみたかったんですよ。」そこは行った事無いな。そして待ち合わせの時間を約束して電話を切った。待ち合わせは金山駅にした。あの頃はまだアスナルも出来ていなくて、北口はバスターミナルがあるだけで殺風景だった。駅から少し離れた路地に車を止めて北口の郵便局側で待っているとかおるは現れた。「こんにちは。待ちました?」「いや、さっき来たとこだよ。じゃ、行こっか。」俺達は名古屋港を目指した。名古屋港には、ちょっとした遊園地と、マミューズメントと水族館がある。フェリーに乗ってブルーボネットというちょっと洒落た英国風のガーデニングガーデンにも行ける。まだまだいろいろ出来そうなところだ。最近はイタリア村なんていうのも出来ている。だから、何となくデートで使うことが多い。駐車場に車を止めてブラブラ歩く。今日は晴れて天気がいい。「気持ちがいいですね。」「そうだね。」何だかそうやって歩いているだけでも、いい気がした。そして、水族館に入る事にした。何年ぶりだろう。イルカのショーを見た。イルカはピョンピョンと気持ちよく飛び跳ねている。かおるの横顔をこっそり見てみる。楽しそうな笑顔だった。昨日、俺が感じた事は勘違いかと思うような笑顔だった。笑ったほうがかわいいよ。そう、心の中で呟いた。そして、俺はこの時に思ってしまったんだ。もっと、こいつの笑顔を見てみたいな、って。そのデートの帰り、俺はかおるに交際を申し込んで俺達は付き合うことになった。そして、2年順調に交際は進み、面白いように自然と結婚へと進んだ。俺の最後の恋、そう思った。武と詠子は結局上手く行かず、俺達が上手く行ってしまった。でも、2人とも俺達の結婚を祝福してくれた。出会いとか、別れとか、こんなものなのかもしれないな、などと思ってしまう。時折、かおるは、あの時見せた浮かない表情で遠くを見つめたりしている。だからかもしれない。結婚して、俺は初めてのデートで思ったように今でも、これからもっとかおるの笑顔を見続けたいと思っている。だが、この事はかおるには言った事が無い。言ったら嘘っぽくなってしまいそうじゃないか。かおるの過去は知らない。俺の過去もかおるは知らない。だけど、2人はお互いを選んで、「最後の恋」をしたのだ。俺は、そう思っている。 第一夜 おわり 第二夜へつづく続きが読みたいと思ったらクリックしてね! → 人気blogランキング
2005/04/22
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店に入ると、とりあえずドリンクを注文し、待っている間に軽く自己紹介をした。武がトップバッターを切った。「僕は坂井武。年は30。商社のサラリーマンです。よろしく。」なんとなく視線が俺に集まったので「俺は、平井健治。30。武とは高校以来の親友でよく知っています。知りたい事があったら聞いてください。あ、仕事は、俺も普通のサラリーマンです。よろしく。」次は武とメールのやり取りをしていた彼女。「私は遠野詠子。28です。A銀行の窓口にいます。良かったら新規の通帳作りに来て下さい。」4人はクスクス笑うと、最後に付き添いの彼女。「私は、藤井かおる。詠子とは高校からの付き合いです。仕事はナースです。よろしく。」武と詠子は向かい合って座っていて、お互いに気に入ったのか話が弾んでいた。俺とかおるは、お互いに何から話題を作ればいいのか分からず、と言う感じで、お互いに困っていた。そして、彼女の表情はどこか暗く浮かない瞳で、その時折見せる笑顔は作り笑いのようだった。それは、あたかも秘密のメッセージのように思えた。俺だけが、その事に気づいているような気がした。それから2時間過ぎ、3時間過ぎ、ほとほと時間が過ぎて解散になった。武と詠子は家が近いらしく、タクシーを相乗りして帰る事になった。俺は一旦会社の駐車場に名古屋駅まで地下鉄に乗って車を取りに行かなくてはならなかった。かおるは安城から来ていたため、俺と同じように名古屋駅まで向かった。この時間になると、地下鉄はガラガラだ。俺達は空いた座席に隣り合わせで座った。「今日、遠くから来てたんだね。」「まぁ、でも快速で20分くらいで着きますから。今日は、詠子の為に来たんです。」「俺も、今日は武の為に来たんだよね。」と言って2人は顔を見合わせて少しだけ笑った。「2人、上手く行くといいですね。」と真っ暗な窓を見つめてかおるがぽつりと言った。名古屋駅にはあっという間に着いた。それでは、と言ってJRの駅に向かっていくかおるの後姿が何だか小さくて寂しそうに見えて、俺は思わず引止めに行った。「あのさ、送っていこうか。」えっ?っと言う顔で俺を振り返った。「でも、いいですよ。悪いですから。」「思ったんだけどさ、やっぱりこの時間の電車、結構やばいんじゃないかな、と思って。会社の駐車場に車止めてあるから送っていくよ。ここから歩いて5分もかからないし。俺、明日は休みだから。」おいおい、何言ってるんだ、と心の中で俺は呟いていた。「ま、いいから。」と言ってかおるの手を引いて会社の駐車場へ連れて行った。駐車場には、もう俺の白いレガシーしか置いてなかった。鍵を開けて助手席にかおるを乗せると車を走らせた。「本当に、すみません。名古屋の方なんでしょ?逆行ですよね。」と車に乗り込むや否やすまなそうな顔でかおるは言った。「どうやって行けばいいのかな。23号か1号かどっちが行きやすいんだろう?」「どちらでもいいですよ。あの、私三河安城駅に車を止めているので、そこまでお願いします。」「分かった。」暫く沈黙が続いたかと思うとかおるは眠っていた。夜勤明けだったのかな。そんな事を思いながら俺は1号線を走って行った。案外早く三河安城駅に着いた。駐車場ってどれだろう、と思うのだがかおるは眠ったままで起きる気配が無い。よく眠っているので、起こすのが可哀想な気もしてきてしまう。顔を近づけてよく見てみると、ほんのり月明かりを浴びたかおるの顔は愛しく感じた。かわいい顔して寝てるじゃん。暫く眺めていたが、明日の彼女の事情もあるだろうと肩を軽く揺すって起こす事にした。目が覚めると、びっくりした表情で頬を赤らませて恥ずかしそうに「私、今日夜勤明けだったんです。」と小さな声でかおるは言った。「よく寝てたから、起こすのに気が引けたけど。」「ごめんなさい。」「駐車場ってどこなのかな?」「あ、あそこのコインパーキングです。1日600円なんですよ。安いでしょ。」やっぱり、こっちの方は安いなぁ、と看板をまじまじと見てしまった。駐車場の近くに車を止めると「今度、いつが休みなの?」と聞いてみる。「今度は・・・明日は準夜勤なんで、日曜ですね。」「じゃ、さ、どっか一緒に遊びに行かない?」ちょっとかおるは考えるポーズをしたが「いいですよ。」と答えた。「じゃ、また明日仕事が終わったら電話して。」「分かりました。遅くなっちゃいますけど、大丈夫ですか?」「俺、夜行性。」かおるは笑みを浮かべて「今日はありがとうございました。」と言って車を降りて駐車場に向かった。赤いインプレッサに乗り込むと俺に向かって手を振って、小さな点になるまで俺は彼女を見つめていた。続きが読みたいと思ったらクリックしてね! → 人気blogランキング
2005/04/21
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金曜の午後7時。久しぶりの合コンに参加するため、地下鉄の改札口を出ると栄の地下街のクリスタル広場に向かっている。この場所は、待ち合わせに使われることが多く金曜の夜となると、何処から湧くのか分からないが多くの人でごった返している。そう言えば、昔合コンをした女の子が、クリスタル広場は怖いと言っていたのを思い出した。「ここで待ち合わせすると、男の人の目がみんなギラギラしていて怖いんですよね~。」合コンの待ち合わせに使う人が多いから、若い男達は今日の相手はどの子だろうとギラギラした目で落ち着き無く辺りを見回しているのだ。今日はロマンスが生まれるのかと男ながらに胸をときめかす気持ちと、もしかして一夜限りの夜があるのかと期待する気持ちが交差する。俺も、そうだった。だが改めてそんな若いやつらを見ると怖いといった、あの女の気持ちも分からなくなかった。俺は30歳になっていて、そんなガツガツした若い頃とは違っていた。隅の壁に持たれて待っていると携帯が鳴った。「もしもし。健治どこにいる?人が多くて分からないよ。」そう言って耳元で話すのは坂井武。俺の高校時代からの親友だ。「上に出ようか。人が多くて空気が悪い。三越の前に出るから。」と言うと「分かった。」と言って電話は切れた。地下の階段を上がって地上に出る。すぐ側のベンチに腰掛けて待っていると武が後を追うように現れた。「よっ。久しぶり。」と互いに簡単な挨拶を交わす。それだけで、長い事会っていなくてすぐ打ち解けるのはやはり親友なのだと思う。「まだ来てないのか?」時計を見ながら武は「ああ。」と貧乏ゆすりを軽くしながら言う。暫くすると武の携帯にメールが入った。「ああ、着いたみたい。ここに来てもらうようにメールするわ。」と言いながらメールを打ち始めた。半年振りに武から電話がかかってきた1週間前の事だ。久しぶりに何かと思ったら合コンの誘いだった。俺も丁度彼女もいなかったので断る理由も無く話に乗った。相手は、と聞くと出会い系でメールをしている女とその友達なのだそうだ。「もう、半年もメールしててさ。なんか俺おかしいんだよね。この年ではまっちゃってさ。その子にメールで惚れてるみたいなんだよね。こんなことお前くらいしか話せないし。」「でも、メールだけだろ?相手がブスだったらどうすんだよ。」水を差すように俺は言った。「や~・・・そん時はそん時でしょ。」「それに、来ないかもしんねーじゃん。」と言うと武は黙ってしまった。やばいなぁ。マジかよ。「まぁ、来なかったら俺と久々に飲みに行くか。」「そうだな。それも悪くないな。」そう言ってお互いに笑った。また武の携帯にメールが入った。「何処にいるのか分からないってよ。どうしよう。」「人多いからなぁ。電話番号教えろよ。非通知でかけて来いって、言えばいいだろ。」こいつがどんなやり取りをしていたのかは知らないけど、あまりの用心深さに俺はイライラしていた。「送ってみる。」するとビンゴ、非通知でかかってきた。「も、もしもし。はじめまして・・・だねぇ。あはは。俺達ね、三越の前にいるんだ。え?丸栄側にいるの?あ、そう。じゃ、さ、そっちに行くね。うん。地下の階段の出口にいるんだね。分かった。」俺達は大段歩道を渡って地下の出口に向かった。するとそれらしき女が2人目に入ってきた。武が近づいて「詠子さん?ですか?」と声をかけるとその女はうなづいた。2人とも悪くなかった。ただ、隣の女はもろ付き合いで来ました、って顔であまり表情が無かった。俺もそんな感じなんだけどねぇ、と心の中で呟いた。歩けばいくらでも店はある。それから俺達4人は歩いて適当な店に入った。 <つづく>続きが読みたいと思ったらクリックしてね! → 人気blogランキング
2005/04/20
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建付けが悪いのは、ここが安いアパートだと言う証拠だ。ほら、隙間から隣の部屋の明かりが漏れて、6畳の寝室は電気を切っても真っ暗にならない。私は、真っ暗にして眠るのが元来好きなのだ。と、文句を言いたいところだが、隣の部屋では主人が家に持ち帰った仕事と睨めっこしている為、何も言えない。隣には、この前1歳を迎えた良史がスースーと寝息を立てて眠っている。私は、布団を頭まで被り、無理やり眠ろうとする。なかなか寝付けないのはもどかしい気持ちと似ている。そんな時、いろいろな事が頭を過ぎるのだが、過去の事は全てを現してはくれない。あの時、あの瞬間、それが時間が経っていれば経っているほど輪郭は曖昧にぼやけて現れる。そして、あの人は今どうしているのだろう?と漠然と思うのだ。私の事など、もう私のように思い出せないのだろうか?そんなもどかしい記憶を探るように瞼を閉じて暗闇に落ちて行く。きっと明日の朝日を浴びれば、こんな気持ちも晴れるだろうと思いながら。続きが読みたいと思ったらクリックしてね! → 人気blogランキング +ちょっと一言+連載始めるつもりです。が、毎日更新できるか分かりません。ぼちぼち、やって行こうと思いますので、お付き合いできる方は宜しくお願いいたします。
2005/04/18
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更新が早いです。(笑)次の話が頭に浮かんでいるし、この話はもともと書きかけだったしね。お馬鹿なお話です。それでも読みたい?読みたい人はクリックして読みに行ってください。 活字中毒の男 完結 読んだら感想くれると嬉しいです。う~ん・・・この話に感想?あはは。
2005/04/17
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こんな深夜に更新しています。でも夜のが本当は好きです。夜行性なんです。本当は。昔から。 活字中毒の男(4) 変な話ですが読んでみてくださいね~☆
2005/04/16
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最近、こっちはサボりまくっています。(汗)と、言うのも、もう一つ楽天ブログを持っていて、そっちの方に力を入れていたんですね。最近、ヒット数が上がっていまして、昨日は800近くヒットしました。何でだろう?って思ったらランキング50位内に入っていたんですね。だからかぁ。でも、凄いぞ。で、面白くてそっちばっかり強化していました~。こっちは、地味~にやっているので、こっちはこっちでいいんです。趣味だし。さぼりの理由でした。
2005/04/16
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つくづく、お馬鹿な話だと思いながら書いています。もうすぐ終わります。最初から読みたい方は2個前の日記からどうぞ。 活字中毒の男(3) お馬鹿ワールドをお楽しみください。(笑)
2005/04/16
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続きです。最初から読みたい方は昨日の日記から入ってください。 活字中毒の男(2) 昨日、寝る前にラフマニノフのピアノコンチェルト3番聴いて、なんか眠れませんでした。(笑)
2005/04/14
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お馬鹿なお話です。良かったら読んでみてください。日記に載せるのはやめようと思ってフリーページに置いておいたのですが、完結させようと書き始めました。 活字中毒の男(1) 読んでみようと思う方はクリックして下さい。まだ続きがあります。近日、完成、させる予定。(汗)
2005/04/13
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妹は、その様を見るとため息を付いて「私も寝るわ。おやすみ~。」と自分の部屋に行ってしまった。僕もため息を付いて居間に戻った。母は僕の顔色を見ると「隆治、何か言いたい事があって帰って来たんじゃないの?」と尋ねてきた。「うん。」「お父さんは、あの様だから後で話しておくから母さんに言ってみな。」僕は大学編入の事を話した。「あぁ、そう。お父さんもお母さんも元気だし、頑張って働くからお金の事は心配せんと、しっかり勉強しなさいね。」と優しい笑顔で母は言ってくれた。少しほっとした。でも、父には何て言われるんだろう、と心残りだった。翌朝10時過ぎまで僕は布団の中に居ると、急にベロっと布団がはがされてびっくりして起きた。父だった。昨日の醜態が嘘のようにシャキッとした表情だ。「いきなり、何だよ。びっくりするじゃないか。」思ったままの言葉が口から飛び出た。「いつまで待っても、お前起きてこないから、わざわざ出向いてやったんだ。」大学編入の事で何か言われるのだろうか、と胸がざわめいた。「今日、向こうにボロ車で帰るんだろ。これ、積んどけ。」僕の思いとは全く裏腹に父が差し出しだしたのは特殊ハンマーだった。TVで見た事ある。車が水没した時にガラスを割って脱出するための特殊ハンマー。「いいか、車の運転は気をつけろ。近道だと思って堤防は走るな。いつも余裕を持って遠回りするくらいの気持ちだ。分かったな?」とだけ言うと僕の部屋から出て、用事があったのかどこかに出かけてしまった。何だかよく分からなかったが、持っていても悪くない代物だ。下に降りると居間で母がTVを見ていた。「遅くまで寝てるのね。」「うん。親父に起こされたけど。どっか出かけちゃったの?」「ちょっと行って来る、て、いつもみたいに出かけちゃったわよ。」と母は苦笑しながら言った。「それからね、隆治。お父さんにも言っておいたから。分かった、って言ってたわよ。頑張りなさいね。」高校進学の時と同じ一言だ。「うん。これから地元の友達と会う約束してるから、もう行くわ。」「気を付けて帰るのよ。」「分かってる。」僕は約束のファミレスに向かった。もう信也と善行は来ていて僕が一番最後だった。「おう。久しぶりだなぁ。」2人に交互に声をかけられた。「ほんと、久しぶりだな。」僕達は中学の頃から仲が良く、今になってもこうやって連絡付けて会ったりしている。一通り近況報告をし合うと信也が言った。「なあ、村上っていたじゃん。あのめちゃめちゃ頭のいい方のさ。」僕は昨日の母の話を思い出した。「K大に行ったけど、亡くなったんだってな。」と僕は言った。「そうなんだけどさ、車ごと川に落ちたらしいんだ。」善行もその話を知っているようで「それでさ、最期の時に電話したんだって、親父に。最期の声聞くなんて、たまらねぇよな。」そして3人は暫く黙り込んでしまった。僕は想像してしまった。実家に帰る時、近道して堤防を走っていると運転を誤って川に転落してしまう。慌ててドアを開けようとするが気が動転して上手く出来ない。そうこうしていると水圧でもう完全に閉じ込められてしまう。成す術もなく、じりじりと迫ってくる川の水に浸されながら僕も親父に電話するのだろうか。「助けて!」と。友達と別れて車に乗り込むと特殊ハンマーが目に入った。今朝、いきなりこれを渡してきた父。きっと、僕の最期の声を聞きたくは無いから、これをくれたんじゃないだろうか。「近道だと思って堤防は走るな。いつも余裕を持って遠回りするくらいの気持ちだ。」いつに無く真剣な表情ではなかっただろうか?無口で、頑固、職人気質の不器用な親父。今までの僕のイメージが崩れ始めた。僕は父に何も言っていない事に気づいた。ポケットから携帯を取り出してかけたことの無い父の携帯に電話する。「もしもし・・。」父のぶっきらぼうな声が聞こえた。「親父。ありがとう。」僕はそう一言だけ言った。 父 <後編> 完面白かったらクリックしてください → 人気blogランキング
2005/04/11
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僕は久しぶりに実家へ向かっている。去年、車の免許を取って、バイトで貯めたお金で安い中古のブラックのスズキ・ワゴンR。かなり型は古い。軽自動車だけど、今の僕にとっては大切な足だ。僕の実家は、堤防を通った方のが近道なのだが、そんなに焦る事も何も無かったので遠回りだが街中を通った。本当は、実家にはなるべく帰りたくない。父と顔を合わせるのが、なんとなく面倒だからだ。僕の父は、無口で、頑固で、庭師であることもあって職人気質だ。楽しく会話を交わした記憶は無い。唯一、覚えている事は、まだ妹が生まれる前、秋祭りに近所の神社に行った時凄い人ごみで、よろけそうになった僕を何も言わずに肩車してくれた事だ。子供ながらに、雰囲気で父も笑っているのを感じていた。おぼろげに覚えている、いい思い出はそれくらいなのだ。いつも無口で、家では一升瓶の日本酒をあぐらをかいたひざの前に置いて、ちびちび飲んでは時折、僕達の方をジロッと睨み付けるような視線を送るのが子供の僕はたまらなく嫌だったのだ。早く、あの家から、いや、父の顔を見ないで住む生活をしたくて、中学を卒業すると隣県の高専に進学したのだ。高専なら5年は家から離れられる。僕は内心、造園業を継いで欲しいのではないかとドキドキしていたのだが、以外にも父はあっさりと「分かった。」と一言言っただけだった。別に、父の事が憎いのでもなければ、嫌いでもない。ただ、なんとなく取っ付き難い父が疎ましかった。そんな年頃なのかもしれない。今日、こうやって週末に帰るのは大学編入したいと思っている事を早めに伝えようと思ったからだ。自発的にそう思ったのではなく、担任の先生に両親と相談しておくように、と言われたからだ。いろいろ思いながら運転して、やっと家に着いた。本当に久しぶりである。「ただいま。」と玄関を開ける。誰も出てこない。奥の居間から微かにTVの音が漏れてくる。ふすまを開けると妹がいるだけだった。僕に背を向けたままで顔だけ向けて「あ、お兄ちゃん。おかえり~。」とせんべいをかじりながら言った。僕も座ってテーブルの上の菓子箱からせんべいを1枚とってかじりながら聞いた。「親父もお袋もまだ帰ってないの?」「お父さんは一旦帰ってきたんだけど、また出かけちゃって。最近、いっつも誘われて飲みに出かけてばかりなんだよね。」妹が意外な事を言った。「へぇ~。」暫くすると母が帰ってきた。「あら、隆治早かったのね。お帰り。」母はスーパーの買い物袋を提げてキッチンに移動する。「うん、ちょっと前に着いたとこ。」晩御飯の準備をしながら「そうなの。」とキッチンから答えた。久しぶりに母の手料理を食べれて、帰ってきて良かったかも、と思った。父は11時になっても帰って来ない。TVを見ながら母に「親父は最近、いつもこうなの?」と聞いてみた。「まぁ。仕方ないわ。あの、ほら中学の頃同級生だった村上君。覚えてる?」2人いたけど・・・どっちだろう。「高校卒業してね、K大学に合格して京都で一人暮らししていたそうなの。」あぁ、妙に頭のいい村上っていたっけ。「うん。それがどうしたの?」「事故で亡くなったんだそうよ。そこのお宅はお得意様で、そのご主人に誘われるらしいのね。息子を亡くして寂しいんじゃないかしら。」ちょっとびっくりしたが、そんなに親しくも無かったのでピンと来ない、というのが実際のところだった。「ふ~ん。」玄関がガラガラと開いて父が帰ってきたが、酷く酔っていて布団に直行すると鼾をかいて寝てしまった。 父 後編へつづく面白かったらクリックしてください → 人気blogランキング
2005/04/10
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曇り空だった。私の瞳にも、この灰色の空が映って濁った目をしているように見えるのだろうか。そんな事を思いながら、私は2人で公園にいた。私は出来ない。やっぱり何度考えても出来ないと思った。やっとの事で女優としてデビューして、映画主演のオファーも来ている。この仕事を夢見て必死で小さな役からコツコツとやってきたのだから。やっと、ドラマや映画で主演を張れるようになったのだ。まだまだ疲れていないのだ。この私に宿った命に途方に暮れていた。まだ誰にも打ち明けていない。もともと不順だった生理が2週間も遅れて、まさかと思って自分で妊娠検査をしてみたのは昨日の事だ。きっちりと二重丸が表れて陽性の判定が出たのを呆然と見つめていた。そして今日、産婦人科に受診し、やはり妊娠している事が明らかになったのだ。もう、この新しい命はしっかりと鼓動を打っていた。私は、ますます動揺した。そして、人気の無いこの公園に一人、ブランコに腰掛けて今日の曇り空を眺めていたのだ。透とは10年来の付き合いで、お互いに結婚してもいいと思っている。この事を報告すれば、きっと透は喜ぶだろう。でも、タイミングが悪い。もし5年前だったら。まだ小さな役しかもらえずに、苦しんでいた頃だ。だけど、あの頃だって、夢に対する情熱はしっかりと胸にあった。結局、一緒だろうか。まだ何の変化も見られないお腹にそっと手を当ててブランコに長い間腰掛けていた。「由紀ちゃ~ん。もうすぐご飯だからこっちにいらっしゃ~い。」私を呼んでいるのかと、ひどくびっくりした。由紀は私の本名で、今となっては本名で呼んでくれる人は少なかった。辺りを見回すと、砂場で小さな影が動いているのに気が付いた。いつの間にか、この小さな公園に女の子が一人やって来ていたのだ。それに私は全く気づかなかった。「はぁ~い。」とかわいい声で少女は返事をすると母親の元に一直線に走り始めた。勢いよく走って、途中バランスを崩して丁度私の腰掛けているブランコの前で転んでしまった。でも、少女はすぐに起き上がると目に一杯の涙を浮かべながら母親の元にまた走り始めた。その時、一瞬、少女の涙一杯の瞳と目が合った。私には、由紀ちゃんと言う少女の涙で潤んだ瞳は、まるで自分の瞳のように、また、お腹の小さな小さな赤ちゃんの涙のように思えて、ドキリとした。私は、そしてゆっくりとブランコをこぎ出した。この子を産む決心がつかず揺れる心を感じていた。ブランコから降りると、真っ白な頭で街へと歩き出していた。レストランに入ると子供の好きそうなハンバーグのセットを注文した。あまりお腹は空いていなかったが、無理やりにでも食べないといけないと思った。そしてケーキ屋さんでイチゴのショートケーキを3つ買った。そのままブラブラとデパートのおもちゃ売り場、赤ちゃん商品の売り場を彷徨うように歩き続けた。そしてマンションに帰ると、さっき買ったイチゴのショートケーキを3つたいらげた。気持ちが悪くなって、涙が出てきた。私、何やってるんだろう・・・。ふと公園での、あの少女の事が頭に浮かんだ。急に、私も母の元へ走りたい気持ちになって、自然と受話器に手が動いた。「もしもし。私。」「もしもし、由紀ちゃんかい?久しぶりだね。元気にしてる?」母の変わらない声だった。「うん。元気だよ。」「いつもTV見てるよ。この前の、あのドラマ、良かったよ。」「うん。ありがと。」「今日は、どうしたん?何かあったの?」「あのね、お母さん。私が生まれた時ってどうだった。」母は笑って「急にこの子は、何を聞くのかと思ったら。」と言うと改まって言った。「お母さん、20時間も苦しんで、やっと生まれた時、かわいい、って思った。生まれてきてくれて、ありがとう、って思ったよ。」私は泣いた。「ありがとう、お母さん。ありがとう、お母さん。」何回もそう言い続けた。母は何となくピンと来ていたのか「うんうん、いいんだよ。」と私をなだめる様に優しく言い続けてくれた。あれから8ヶ月。私の隣には透がいて、腕の中には、生まれたばかりの女の子がいる。私も、相当難産で36時間苦しんだ末に、この子はやっと生まれて来てくれた。名前はまだこれから付けるところだ。あの時、母の言葉を聞いていなかったらこんな決断は出来なかったかもしれない。私も母になった。お母さん、私も同じように、この子が生まれた時嬉しかったよ。私達の電撃入籍、そして出産は雑誌やTVで取り上げられ一時話題となった。以前の一時休業に対する不安も今では和らぎ、半年後、新たなスタートを切ることが今のもう1つの楽しみとなっている。 母 <おわり>面白かったらクリックしてください → 人気blogランキング
2005/04/08
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第1回世界で一番泣きたい小説グランプリ でも、「世界」で「一番泣きたい」話って・・・・。どんな話が泣けるんだろう・・・・。真剣に考えたりして。賞金も結構いいし。それかい!(笑)第1回ってとこがいいよね・・・。でも、英語、日本語、韓国語の応募が可能だから、ものすごく多くの人が投稿するんだろうなぁ。どんな話が選ばれるのか楽しみです。締め切りは8月一杯までで、結果は来年だそうです。登録すればセミ・ファイナル投票に参加できるそうです。登録しようかなぁ・・・。ボソッと思う事でした。
2005/04/07
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智之の海外赴任の話が出始めたのは、今から半年前の事だ。ちょくちょく海外出張をしていた彼は私に時々こう言っていた。「春奈。もしかしたら、近いうち海外赴任、なんて事になるかもしれないなぁ。」それで免疫が付けられていたのか、どうかは分からないが、カリフォルニアへの転勤辞令が出たと智之から聞いても、それぼど動揺しなかった。それに任期が2年と短かった、と言うのもあったのだろう。私は26歳で彼は30歳。2年時間が空いたとしても、遅すぎる結婚にはならないだろう。でも、残された時間が迫ってくると寂しさを感じる。残された貴重な休日を私達は南公園で過ごした。今年は暖冬で、桜の開花宣言が3月中旬にニュースで流れると、蕾は一気に桜へと変化し、私達に例年よりも早い春の訪れを楽しませてくれたのだ。「異常気象に感謝しなきゃな。向こうに行ったらワシントンまで行かなきゃ桜は見れないからなぁ。」智之がつぶやくと暖かい春風に吹かれて、私達の目の前は桜色のピンクに染まった。4月になって、智之は本当に側に居ないのだと実感した。私達はパソコンにライブカメラを付けてお互いの顔を見ながら会話して、会えない距離と時間を埋めようとしていた。智之はカリフォルニア州のサンフランシスコ近くのフォースターシティーと言う所に住んでいて、そこはサンフランシスコ空港から車で20分と案外近いらしい。日本との時差は16時間で日本のが先に時を刻んでいる。ライブカメラでいつも会話しているのではない。落ち着いてパソコンに向かえる時間をお互いにメールで知らせているのだ。だいたい週1のペースで智之の顔を見れるのだ。最近はこっちが日曜の午後3時、向こうが土曜の午後11時に固定しつつある。そんな事が1ヶ月くらい続いたのだが、身体のほうが疼いて仕方なかった。多分、智之も私が欲しかったのだろう。その日も日曜の午後3時頃で、いつもと違っていたのは午前中、久しぶりに掃除をしたので私はシャワーを浴びてタオルを頭に巻いていたことぐらいだった。「風呂上りなの?」智之が聞いたので「掃除してて、汗かいたからね。ちょっと浴びたの。」確かに、もう少し動くと汗ばむ時期になっていた。「なぁ、ちょっと脱いで見せてくれよ。」そんな要求をされたのは初めてだった。「いいじゃん。俺達、恋人なんだからさ。」私はTシャツをはだいて肌を露にした。「あぁ・・・もぉ、我慢できない。一緒にしよう!」こんな昼下がりに・・・。でも、私ももう我慢の限界の底が割れる音が聞こえたのだ。「もう、俺、しちゃうから。」智之の自慰行為を初めて見ながら、私も胸をもみ始めた。「もっと、よく見せてよ。」と言うので腰を浮かせて痴態を智之にさらした。2人は一緒に果てた。それ以来、お互いを確認するかのようにカメラを通じて私達は交わった。でも、どうしても終わると切なかった。夏休みにそっちへ行きたかったのだが、何故かいろいろ忙しく、行けずに終わってしまった。もう、バーチャルだけでは、どうにも我慢出来ないくらい「ヤリたかった」。でも、その相手は智之で無ければならないのだ。他に誘惑が無かったとは言えない。私は断って、今日の日を待った。年末やっと智之もまとまった休暇をもらって日本に帰ってくるのだ。私はメールで教えられた通りの時間に空港のロビーで智之を待っている。多分、今夜は凄い夜になると思う。お互いの肌が触れ合えば、お互いの「ヤリたい気持ち」が痛いほど伝わるだろう。多分。いや、絶対。付き合って3年目にこんなに会えなくなって「飢えた」気持ちを私は初めて知った。そして、智之の事を本当に好きなんだと知る事が出来た。智之の姿が見えた。私に気づいて手を振っている。私は今夜の事を思い浮かべて頬をピンク色に染めていた。 CRAZY COLORS ~ pink ~ <おわり>面白かったらクリックしてください → 人気blogランキング+ ちょっと一言 +もっとエロエロな事、書こうと思っていたのですが、やっぱりやめました。(笑)真面目な恋人にしておきました。機会があったら、エロエロ話も書こうかと思います。(未定)
2005/04/06
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私は赤色が好き。赤い口紅、赤いバッグ、赤いスカート、赤い下着、赤い靴・・・。こうやって羅列していると全身真っ赤かと思うかもしれないけど、ご安心を。今日は赤いバッグと赤い口紅しか付けていないから。言うならば、「赤」は私のラッキーカラーなの。よく占いなんかに書いてあるでしょ?今月のラッキカラーって。私の場合は一生「赤」がラッキーカラーなの。だって、どこかに赤色を身に付けているといい事が必ず起こるんだから。あなたと出会った時だって、実は私赤い下着を付けていたのよ。あなたは知らなかったかもしれないけど。そうそう、初めて声をかけられたのは、いつも通勤で使っている駅のプラットホームだったわ。あなたは、私を呼び止めてこう言ったのよ。「あの・・・。僕と付き合ってくれませんか。その前に名前を教えてください。」って。言い終わると、いつも乗る赤いラインの電車がやってきて一緒に乗り込んだの。こんな事って、あるのね。「私は、赤座怜子です。」ってドキドキしながら答えたのよ。するとあなたは、はにかんで「最初に名乗るの忘れていました。坂田広志って言います。」って名前を教えてくれたのよ。それから毎日、朝の通勤時間はデートみたいだった。私はあなたよりも先に降りてしまうのが寂しかったわ。そんな出会いから1週間後、デートに誘われて嬉しかった。その時、私達、結ばれたの。でも、その後のあなたは冷たかった。月曜日の朝、いつものようにプラットホームに立っていても、気づかないふりでもしているように違う車両に乗って行ったのよね。火曜日も、水曜日も、木曜日も・・・。まるで、他人のように、でも堂々と私は無視された。どういうこと?そういうことなの?一夜限りの遊びだったの?ひどいじゃない。私は、その日会社を休んで、あなたの後を付る事を決めたの。あなたの会社、はじめて見た。結構エリートだったのね。そうよね、だってスーツ姿はいつも様になっているものね。午後四時まで近くで時間を潰して五時にあなたの会社の前に来る。一時間後、あなたは会社から出てきて、そのまま脇目もふらず、って感じで駅に向かった。見失わないように後を追って行った。途中、声をかけようと思ったけど、タイミングが見つからず、とうとうあなたの家まで着いて来てしまった。あなたがインターフォンに「ただいま」と優しく言うと玄関が開いて中からかわいらしい女性が赤ちゃんを抱いて出てきたのよ。私は一瞬理解できなかったけど、すぐ分かったの。あなたは私を騙して遊んで捨てたのね。許せないわ。許せないわ。私は泣きながらマンションへ帰った。今朝はいつもより早く、会社とは逆方向の電車に乗った。昨日来た道を辿ってあなたの家に向かう。許せなかった。私を有頂天にさせておいて一気に奈落の底に落とすようなあなたの態度が。昨日見たのと同じように優しく「いってきます。」と、あの、かわいらしい奥さんと愛くるしい赤ちゃんに声をかけて玄関から出て来たわ。私はバッグに忍ばせておいた恨みと憎しみの化身を取り出すと、無我夢中であなたに切り付けた。頬をかすって赤い血が染み出てきた。あなたは必死に逃げ回ったわ。でも、私の手はあなたに捕まれて身動きできなくなってしまった。「由利!警察だ。110番かけろ!!!」玄関で一部始終を見せられた広志の妻は由利と言うのか。私は涙が止まらずに「ひどいじゃない。広志さん、ひどいじゃない。」と叫び続けた。「一体、お前どこの誰だ。こんな事される覚えはこっちは無いんだ。」両手をねじ伏せられて、私は警察が来るまで泣き続けた。「坂田さん。彼女は赤座怜子と言いましてね。恋愛型妄想患者なんです。つまりストーカーにストーキングされていたんですよ、あなた。無事で何よりでした。以前にもストーカー行為で赤座はここに厄介になったことがありましてね。入院して、完治したとは聞いていたのですが、治らないもんなんでしょうかね・・・。いや、本当にご無事で良かったです。」広志は駆けつけた警官にそう言われると、ぽかんと開いた口はなかなか閉じなかった。怜子は真っ赤なワンピース、真っ赤な口紅、真っ赤なバッグという姿でパトカーに詰め込まれて赤いサイレンと共に消えていった。 CRAZY COLORS ~ red ~ <おわり>面白かったらクリックしてください → 人気blogランキング
2005/04/05
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私は20歳という、うら若き乙女であると言うのに憂鬱だった。気分はblue。晴れた日の青じゃない。くすんだ、汚れた青。う~ん・・・錆付いた青。とにかく、きれいな青色ではないのは確かだ。夏なんて・・・・。誘われて行ったN大学との合コン。隣に座ったのは農学部の4年生だった。あまり、面白くなくて途中飲みに走って、アパートに帰るとあんまり記憶も無かった。次の日、あのN大、農学部、4年の彼から電話があった。携帯じゃなくて、アパートの電話の方にね。話してみると、なかなか面白い人で2時間も長電話したっけ。そうそう。O-157も研究室にはあるんだって。彼の研究は大腸菌を使っていて、なぜか大腸菌の話で2時間も盛り上がった。その時点で気づかなければならなかった。大学院の試験勉強で忙しいって言ってって、なかなか会う日が無くて、やっと会えた日の事。私は、美化しすぎていた。はっきり言って覚えてなかったんだよ。こんなに眉毛太かったっけ?終わった。そう、私はいつも友達に馬鹿にされる。秋になって、T美大の文化祭に行った時だって。その時に知り合ったのは、その大学のOBって言ってた。芸術家肌って言うのか、どこか繊細で5つ歳が離れているって言うのが魅力的だったのかもしれない。そして、文化祭って言う軽い雰囲気に呑まれて会う約束をした。待ち合わせに現れたのは、ジーンズにまるでケルト人みたいに赤いタータンチェックの布を腰に巻いた5つ年上の彼だった。ここが人気のあまり無い公園で良かった。私の額からじんわりと汗が噴出しているのが分かった。そのまま歩いて芝生広場に行くと彼は「あぁ・・・。なんて気持ちいいんだ。太陽の恵みを身体一杯に浴びたいよ。」と言って寝転んだ。そのまま10分が過ぎたが動く気配が無いので「つまらない。」と私が我慢しきれなくなって言うと「そうさ、僕はつまらない人間さ。そんな僕と今一緒にいる君は宇宙の神秘さ。」と言い返された。また私は過ちを犯した事に気づいた。そして彼は急に起き上がったかと思うと「人間はなんて弱い生き物なんだろうね。僕は食べたいという欲求が抑えれないんだ。ちょっと待ってて。」と言って立ち去る事10分。駅前のコンビ二の袋を下げて芝生広場にもっどって来た。「君も僕と同じ弱い生き物なんだろう?お食べよ。」と言ってペットボトルのお茶とサンドイッチを差し出した。彼はおにぎり2個とお茶を買ってきたらしい。確かにお腹が空いていたので食べた。「ねえ、デートっていつもこうなの?」思わずきつい口調で聞いてしまった。「君は遊園地や映画館で一瞬の幻に喜びたいのかい?」はぁ~?!もう限界だ。私は立ち上がって「もう帰る。」と駅に向かい始めた。「君も多数大勢の一人だったんだね。」そうそう。それで結構です。後ろでへたくそなオカリナの音が聴こえる。涙を流してオカリナを吹く彼の姿が頭に浮かんで寒気がしたので振り返らずに私は駅に向かった。そう、私はいつも友達の笑い話のネタにされる・・・。今度の金曜日、また合コンに誘われているのだけど、この先またろくでもない男に出会ってしまう気がして、私の憂鬱なblueな日々は続いているのである。 CRAZY COLORS ~ blue ~ <おわり> 面白かったらクリックしてください → 人気blogランキング
2005/04/04
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7時。いつも通りに眼が覚める。前の会社を辞めてから、本当はもう少し遊ぶつもりだったのに1ヶ月もすると次の職場を探し始めていた。社会との繋がりもなくダラダラと生活している事が急に怖くなったのだ。ほとんど勢いで辞めてしまったようなものだったので、もう少し目星を付けてから辞めるべきだった、と後悔している。今日は、そう言えば14時にあの怪しげなチラシのビルに行くんだっけ。まだ布団の中で寝ぼけた頭で一人ぶつぶつと考えていた。朝食も昼食もきちんと作って食べ、TVはワイドショーが流れっぱなしだ。こんな生活は不毛だ。13時、私は身支度をするとマンションを出た。地下鉄の駅まで歩いて10分。5つ目の駅で降りて7番出口から地上に上がる。目の前の大通りを渡って右折し、茶色と灰色のビルの間の、やや細い道を入って行くと10階建ての少し古びてこじんまりしたビルが見える。そこの4階の6号室がオフィスだと藤井と名乗った女は説明した。電話で説明された通り、そのビルはあった。13時45分。程よい時間ではないだろうか。私はビルに入ってエレベーターで4階まで上がった。ワンフロアに部屋は6つあるようで、6号室はエレベータから向かって右側の一番奥にあった。ノックするとドアが開いてキャリア風のピシッとした女性が現れた。「こんにちは。昨日、電話した葉山です。」と挨拶すると「お待ちしていました。どうぞ。」と中に入るよう勧められた。その声で、この女性が藤井だという事が分かった。こじんまりとしたオフィスは整頓されていて居心地は悪くなかった。ソファーに座るよう促され座って待っていると藤井がお茶を入れて私の前に差し出した。「どうぞ。」「あの、今日は見学という事なんですけど・・・。」「ええ。15時にある場所に行って見学してもらいます。それからこの仕事をするかしないか決めてもらいます。」と言うと藤井は口にいきなり薬液の臭いのするハンカチを押し付けると、私の意識は朦朧とし始めて目の前は真っ暗になった。意識が戻ったのかはっきりしない。手足が自由に動かないし、目の前はやっぱり真っ暗だ。私は死んじゃったの?あんなチラシがきっかけで、こんあことってあるの?両親の言う通り実家に帰っておけばよかった。じたばたしていると「あら、目が覚めたのね。」と藤井の声がした。「死神!!!」咄嗟に叫ぶと藤井が笑い出した。「ふっふっふっふ・・・。ごめんなさいね。手荒な真似して。すぐ解いてあげるから。」目隠しと手足の紐を解かれて私は自由になった。生きていると確認できると怒りが込みあがってきた。ピシャン!!!私が何か言おうとする前に凄い音が聞こえた。ガラス張りの隣の部屋には仮面を被った黒のボンテージの女が四つん這いになった太った男の尻に赤いハイヒールを突き刺して鞭で背中を叩いていた。「大丈夫よ。向こうからは見えないの。マジックミラーなのよ。向こうは全部鏡張りよ。」「これが仕事ですか?」「そうよ。今、鞭で叩いてるあの子、もうすぐ辞めちゃうのよね。だから次の子探しているんだけど、なかなかいい子がいなくてね。」何言ってるのよ。「わ、私、こんなこと、しゅ、趣味でもないし。」「見込みあると思ったから、あんなことまでしてここに連れてきてあげたのに。冷たい事言うのね。」藤井は私の肩に手を回して囁くように言った。「ほら、あの男。よく見てみなさい。何か感じない?」どこかで見覚えがあるような・・・。太って、額に油がギトギトして小さくて細い嫌らしい目。「あ!」あいつだ。あいつだった。昨日のセクハラ面接官。急に私は勝ち誇ったような気分になった。「やります。私、この仕事やります。」「一目見て私、あなたならやってくれるって思っていたの。良かったわ。」私は、あの紫のチラシに感謝した。待っていなさいよ。思いっきり嬲って痛めつけてあげるから。私の不適な笑みがガラスに映って自分でもぞっとした。それからの私?ここでは、そんな事言えないわ。紫色の世界に染まっている、ってだけ言っておくわ。 CRAZY COLORS ~violet~ <おわり>面白かったらクリックしてください → 人気blogランキング+ ちょっと一言 +こんなの書いていいのかなぁ・・・と思いつつ。これ以上書くと年齢規制しなきゃいけないよねぇ・・・。でも、私はこれ以上書けないので、ここで終わりにします。(汗)村上龍さんの小説にはよくSMって出てくるけど、奥が深いらしいです。でも、私は趣味じゃありません・・・・。一応、弁解。(汗)
2005/04/04
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「で、君。バストは何センチなのかな?大きそうだけど。」太って額に油がギラギラしている男は黒ぶち眼鏡の奥の小さく細い眼を光らせて、口元はいやらしく歪ませてフザケタ質問を浴びせた。事務にバストと何の関係があるんだ?この、セクハラじじぃがぁ!生理的に受け付けないその男は続けて、こうも言った。「聞こえないのかな?葉山紫津子さん。」私は、頭の中でブチっと何かが切れる音がした。安っぽいパイプ椅子を倒す勢いで立ち上がると面接官の男に一瞥を食らわせてドアが壊れるくらいバタンとひどく閉めると紺色のタイトスカートも気にせずに大股でこのビルから出て行った。後ろで「お前なんか最初から採用する気は無かったんだ!」と叫ぶ声が微かに聞こえた。私はそのまま繁華街を当てもなくブラブラしてマンションに帰った。留守電にメッセージがあった。実家の母からだ。「しづちゃん。何時でもいいから、こっちに帰っておいで。また、連絡頂戴ね。」大学を卒業して一旦就職したものの、自分に合わず最近退職した。もちろん親には内緒にしているのだが、虫の知らせって本当にあるんだろうか。最近、両親は私の事を心配しているらしい。それにしても、今日の面接は史上最悪だった。給料だけで飛びついた私も私だが。ジャケットのポケットの中身をテーブルの上に出す。美容院「クールビューティー」本日オープンそういや、カットモデルの勧誘に合ったっけ。チラシを丸めてゴミ箱に捨てる。秘密の出会いを「ピンクの電話」今時テレクラ?どうせならポケットティッシュのがまだ使えるのに。小さい紙だったのでそのまま捨てる。あなたの悩みを解決してみませんか?「幸福の光」まだ宗教に頼るほど弱っていません。丸めて捨てる。使いすぎにご注意「ア○フ○」これこれ、ポケットティッシュって何かと便利。バッグに戻す。ぼーと歩いていると何でもかんでも渡されると貰っちゃうらしい。もう1人のあなたに会いたくありませんか?只今求人募集中。なんだ。これ?紫の紙に白い文字と連絡先しか書いてない。求人募集中。こんな怪しい紙切れでも反応してしまう自分が悲しい。問い合わせ時間は午後9時まで。まだ時間がある。そう思うと私はチラシに書いてある番号をプッシュしていた。コール3回で電話は繋がった。「もしもし。」事務的な女の声だった。「求人広告を見られた方ですか?」言われるままに「はい。」と私は答えた。「あの、どういった職種なんでしょうか?」「弊社は1度見学をして頂いてから面接を行います。簡単に言えばサービス業です。その中でも、いろいろ分かれていますので、あなたに合ったものを選択する事ができます。給料は日払い、週払いも出来ます。正社員希望なら月給制にプラス歩合制となっております。」「はぁ・・・。」「一度お越しください。」女は藤井と名乗り、ビルの場所の説明をした。そのビルは分かりやすい場所にあり電話で説明されるだけでも思い描く事が出来た。明日、14時に約束をし、私はそのビルに行くことにした。 <つづく>面白かったらクリックしてください → 人気blogランキング+ ちょっと一言 +つづくにしちゃいました。(汗)でも、すぐ終わります。
2005/04/03
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俺は高校3年生。何を間違ったのか男子校に進学してしまった。家から近いだけの理由で高校を決めたのは、やっぱりマズかった。女の子がいない学生生活。あぁ・・・耐えれねぇ~!!!気づいた時は遅かった。男子校でもたいして変わりないと思っていたのだが、女の子と知り合う機会がほとんど無かった。俺の青い好奇心は剥き出しで、そんな態度が出ているのか分からないけど、どうにかしてやっと女子高の子達と合コンしても無残に散っていた。くそっ。3年、長かったなぁ・・・。明日、やっと卒業だ。「なぁ、康平。男子校ってたまんなくねぇ?女の子がいないなんてさぁ、辛いよなぁ。それに、うちの女教師はみんな年取ってるしさ・・・。中学の頃はさ、冬服から夏服に変わるとさ、ブラの線が見えたんだよなぁ。前の席が好きな女の子だったりすると、すげぇ、ラッキーだったよなぁ・・・。」過去を懐かしむ俺のぼやきを康平はクールな顔して相槌を打って聞いていた。高橋康平は俺の幼馴染で、俺んちの向かいのマンションに住んでいる。俺は高崎剛。小学校の頃、とりあえず名簿順に並んだ席の後ろが康平だった。俺と康平はそれ以来の付き合いだ。家も近い事が分かって、ますます仲良くなった。そして、同じ中学、同じように家から一番近いこの高校を選んだのだ。康平は俺とは正反対のタイプでクールで口数は少ない。だから今まで友達という関係が続いているのかもしれない、と思ったりする。必要な事しか自分からはあまり話さない。とても照れ屋だ。中学の頃は康平はモテた。俺もそこそこだったが、康平のがちょっと上だった。バレンタインデーのチョコの数は、いつも康平のが多かった。照れ屋の康平は女の子の告白をみんな断っていた。「1人ぐらい付き合えばいいじゃないか。」俺はそう言った事もあったが「う~ん。ピンと来ないから。」と照れながら言っていたっけ。「いいじゃないか。大学は共学だろ?もう少しの辛抱さ。」そう康平はポツンと一言だけ言った。その言葉を聞いて、康平ともお別れなんだなぁ・・・・と少し寂しくなった。「俺さ、留学する事に決めた。」そう康平が突然言ったのは去年の夏だった。俺もいろいろ進路について悩んでいたが「留学」の言葉は衝撃だった。「そういや、康平の親父NYに単身赴任だもんな。」何も言わず頷いて「俺が高校を卒業したら、家族で向こうに行くことになったんだ。」とだけ表情変えずに康平が言ったのを思い出した。「じゃ、明日。」と軽く手を振ってお互い家に帰った。明日は卒業式。卒業式に何かが起こる事は多い。先輩に聞いた話だが、下野箱にラブレターが入っていたり、待ち伏せされて告られたり、とそこでロマンスが生まれたりする、こともあるらしい。あほな俺はちょっと期待していたりする。下駄箱を祈るような気持ちで開けた。すると上履きの上に便箋が1枚置いてあるじゃないか。ま、まじでぇ?!封を開けて読んでみた。高崎 剛 様へずっと前からあなたの事を見つめていました。良かったら今日の卒業式が終わったら旧校舎の裏庭に来ていただけませんか?ちゃんと、面と向かって、あなたに言いたいのです。好きです、と。K・Tよりへっ?まじで?まじでかぁ??一体誰だよ。いつか合コンした隣の女子高のあの子か?それとも、通学中よく同じ車両に乗って来るあの子か?まさか、って思ってたけどこんな事もあるんだな。顔がにやけてきたぞ。それにしても綺麗な字だな。もしかして、ちょー美人だったりして。その手紙の事で頭が一杯で式なんてどうでも良かった。早く終わっちまえ。式が終わると俺は康平を見つけて「おい。康平。今日はちょっと一緒に帰れないよ。春休み、思いっきり遊ぼうな。」と一方的に言うと約束の旧校舎の裏庭へと急いだ。誰もいない。俺はソワソワしてしまう。待つ時間が長いと良からぬ妄想が頭を駆け巡る。まさか、誰かの悪戯か?どこかで、こんな俺の姿を見て笑われてるのか?そうだとしたら、なんて間抜けなんだろう、俺。そんな事を考えていると足音がした。振り返ると、その足音の主は康平だった。なんで康平が?康平も悪戯の対象なのか?はぁ?訳わかんねぇーよ。「剛。手紙、あるだろ?それ俺が書いたんだ。」「はぁ?!」俺は思いっきり力を込めた声になっていた。じりじり康平が俺に近寄ってくる。俺は異様な雰囲気に粘っこい唾を乾いた喉に押し込むように飲み込んだ。「俺、剛のことがずっと前から好きだったんだ。」言うか言わぬが早いか康平に俺はグッと抱きしめられていた。まぢでぇ?!誰とつるんで、こんなタチの悪い悪戯してんだよ。「ち、ちょ、ちょっと待てよ。こんなの嘘だろ?冗談はよせよ!放せよ!!」抱きしめる康平の力の強さが俺に切羽詰った金切り声を出させた。すると、急に力を緩めてパッと俺を放すと「冗談に決まってるだろ・・・。」一言だけそう言うと康平は1人で帰って行ってしまった。それから1週間後、康平と約束していた春休みの計画は実行されないまま、康平は俺の前から去っていった。その後、康平から連絡は1度も無かった。俺は時々夕焼けに染まる前の黄色がかった空を見上げると康平の事を思い出した。 CRAZY COLORS ~yellow~ <おわり>面白かったらクリックしてください → 人気blogランキング+ ちょっと一言 +読みきりもの始めました。こういう話もありますよね。(汗)途中で話の結末分かっちゃったかなぁ。
2005/04/02
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