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俺の頭に過去の記憶が蘇った。この病気になって、初めて再燃して入院した時のことだ。俺も病気自体まだ上手く付き合えておらず、担当ナースも新人だった。お互いに未熟だったが、年も近くて打ち解けるのにも時間はかからなかったし、患者とナース以上に進展したのも簡単だった。退院後もお互いの時間を見つけてはデートしたりと交際も順調で結婚まで意識し始めたのだが、彼女の両親に反対されて駄目になった。2度目の入院の時には彼女はいなかった。それとなくベテランのナースに聞いてみたら、とっくに辞めた、との事だった。そんな苦い経験を思い出していた。「そうなんですか。大変なお仕事ですね。」俺がそう言うと聴きなれた言葉なのか、かおるは、ただ微笑んだ。もう一度会ってみたいと言う気持ちが急に萎んでいった。そんな俺の些細な表情を察知したのか、「どうしたのですか?」とかおるは俯いた俺を覗き込むように言った。けれど、始め抱いた正直な気持ちに従うように生きている俺は考え直して言った。別に失うものなど何も無いと思っていた。「いや・・・またお会いしたいのですが。そんな事を考えていました。」とかおるを見つめた。「素敵な方なので、今度デートしたくなりました。」そんな風にストレートに言われた事が無かったのか、かおるはとても照れているようだった。「駄目ですか?」これで駄目だったら、名刺だけ渡して期待せずに帰ろうと思った。かおるは悩んでいたが、決心したように真っ直ぐ俺を見て「かまいませんよ。いいですよ。」と言った。あの悩み方では意外な感じがしたのだが、O.K.してくれた事には素直に嬉しかった。次に会う約束をしようと思うのだが、なかなか日が合わず、来週末になってしまった。来週は珍しく土日休みなのだそうだ。俺が有給を使ってもよかったのだが、なんせまた入院する事になったらの事を考えると安易には使えない、という気持ちもあったりした。そして、かおるは地下鉄の入り口に吸い込まれるように消えて行った。久しぶりに人と出会えた気がした。しかし、蜜を求めて湧き出てきた人の渦に飲まれると、そんな思いはつかの間の夢のようにさらわれてしまった。そして一人、頭の中で昨夜の事を考え始める。深夜に捕まる女はやはりどこか心が欠けている。だが、そこがいい。俺もどこか心が欠けているから。お互いに欠けた部分を埋め合うのには最適の相手なのだ。深入りする事も無い。詮索する事も無い。面倒でなくて、さっぱりした関係。そう頭で割り切っていても、実はもっと違う交わりを望んでいる俺がふっと出てきたりする。ワンタッチでは行かない、もっと違う結び付きをしたいのだ。だから体が最近は拒否反応するのか。昨夜の女との事は自分で発した自分への警告なのかもしれない。乾いた心に潤いを与え、正常化する為の自己防衛?そんな事をかおると別れてから歩きながらツラツラと考えていた。だが、多分かおるに対しても俺が心から向き合えるとは思えない。ちょっと今日、出会って、ちょっと気に入ったからって。しかも、看護師だし。すぐに俺の正体も見破られるに違いない。病気の事が分かったら、俺を見る目は患者を見る目と同じになってしまうだろう。出来るだけ、病気の事は知られたくない。だって、そうだろう。患者として見られるという事は、俺は惨めで可哀想だと言っている事だ。俺はそう思う。そんな事も簡単な関係のが心地良いと思える原因の一つなのかもしれない。俺は心に乾いた風が吹いたのを感じた。ゲームだ。ゲームをしよう。そうだ、俺の病気にかおるが気付く前に、惚れさせる。その前に病気の事を知られてしまったら俺の負け。ゲームオーバーだ。何故、かおるを選んだのか理由は無かった。なんとなく、だ。俺の不安定で飢えた心は、取り返しの付かない事をしようとしていた。そんな事にも、その時の俺は気付く余地も無かった。もどかしい記憶 第四夜 鬼の涙(5) <つづく>続きが読みたいと思ったらクリックしてね! → 人気blogランキング
2005/07/09
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俺は地下に入る階段を急ぎ足で降りて行く。緩やかな下り坂があり、そこを抜けると右側に公衆電話があるのだ。俺はドキッとした。抜けきった所で右に振り返ると数人の若者の中に、喪服を着た女が改札口の方を向いて立っていたのだ。喪服と言う事もあって彼女は目立っていた。両手にはあの手帳が握られている。髪はミディアムロングだろうか、スッキリと束ねられていて年は俺よりも少し若い感じだ。飛び切りの美人でもないが、どちらかと言えば童顔で、親しみやすい雰囲気があり好感が持てる。俺は彼女に近づいて声をかけた。「あの、先程電話をくれた方ですよね?」声をかけると少し驚いたのか体がビクッと反応した。続けてお礼を言った。「本当にありがとうございました。」と軽く頭を下げる。「あ・・・いえ。少しだけ中を見させて頂きましたが、大事そうなものだったので、失くすと困るでしょうと思って。私こそ、あなたの手元に戻って良かったです。」と両手で手帳を俺に差し出した。そして彼女は軽く会釈をして改札口に向かおうとした。俺はすかさず呼び止める。「あの、お礼に・・・お茶でもいかがですか。」彼女はそれは驚き、という感じで大きく眼を見開いて俺を見た。「いえ、でも・・・。」とちょっと困った表情だったので「時間があるなら是非、お礼させて下さい。」とゴリ押しするように詰め寄って言った。「・・・じゃ、お茶だけ。」と彼女が言ったので、俺は喜んだ。地下から這い上がって地上に出る。少し歩いた先に、アジアンテイストにまとめられたオープンカフェがあるのでそこを目指した。暑いので、奥の冷房が効いている席に座って注文をする。俺は杏仁豆腐のデザートセットを、彼女はマンゴープリンのセットを注文した。彼女は少し落ち着かないようである。俺も改めて喪服の女と一緒にいる事に違和感を感じた。俺は手帳を出して「これ、本当にありがとうございました。全部、これにスケジュール書いているものですから。」と改めて礼を言った。「あの、あなたの名前を教えて欲しいのですが・・・。」「あ、私?」結構用心深い人なのかもしれない。「嫌ならいいですよ。」と言っておく。「私、藤井かおると言います。」ときごちなく時間が過ぎて注文した品がテーブルに置かれた。「かおるさん、って言うんですね。ちょっと気になっている事聞いていいですか?」「え、ええ。」正直に思ったことだ。「今日はどなたかのご不幸があったんですか?」かおるは自分の服装を見て言った。「えぇ・・・。」沈黙が続いて「今日は母方の祖父の葬儀だったんです。」とぽつりとつぶやいた。俺は5年前に亡くなった祖母の事を思い出した。「それは辛いでしょう。」「小さい頃は、よく祖父の所へ遊びに行っていましたから。元気な人で私の孫の顔を見るまで生きてる、っていつも笑いながら言っていたのですけどね。私もずっとそんな気がしていたのですが、祖父に対して大して何もしてあげれないうちに逝ってしまいました。」とかおるは苦笑した。「俺も、5年前、祖母を亡くしました。老衰だったのですが、前日いつも家族で一緒にとっている晩御飯、気分が悪かったので俺だけ一緒にとらなかったんですよ。次の日、祖母はもう二度と起きませんでした。最後の晩餐が出来なかった事、今でも後悔していますよ。」かおるの話を聞いて、5年前のあの晩を思い出してしまった。「そうなんですか。」とまじまじとかおるは俺の顔を見て言った。「多分、誰でも人の死の前には後悔するものが多かれ少なかれあるんだと、俺は思いますよ。」かおるは頷きながら「あなたの、テツヤさんの言う事分かります。」と答えた。軽いノリを期待していたのだが、思わぬ方向に転んでしまったようだ。しかし、こんな話もそんなに滅多に出来るものではない。かおるが時計を気にし始めた。「何か用事でもあるのですか?」「ええ。これから仕事なんです。私、看護師をしているんです。今日は夜勤の日なので、そろそろ・・・」俺は衝撃が走った。看護師。この職業の女にはもう近づくまいと思っていたのだから。もどかしい記憶 第四夜 鬼の涙(4) <つづく>続きが読みたいと思ったらクリックしてね! → 人気blogランキング+ちょっと一言+この葬儀を友達にして以前かいた「揺らぎ」のミケにしようかと思ったけど、話がややこしくなるのでやめました。(笑)
2005/07/05
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また街に車でやって来た。名古屋の街と言ったら、「名古屋駅周辺」か「栄」くらいしかない。昨夜と同じ栄にやって来た。週末の昼間はどこから湧いて来るのか分からないが、人が多い。地下鉄の出入り口からは人が吐き出されるのと吸い込まれるのとが同時のように人が流れている。人の多い場所は好きでもあり、嫌いでもある。こんなに多くの人の群れの中で、知り合いに一人も会わずに自由に動き回れるのは好きだ。しかし、逆に誰一人知っている人に会わないのがたまらなく寂しく感じる時もある。特に名古屋駅の人ごみは嫌いだ。いろいろな場所からここに来ては、また別の場所に去っていく。去っていく人のが多い気がして、気分が優れない時はたまらない気持ちになることがある。昼間の路駐で苦い経験がある為、ちゃんと車を駐車場へ入れる。案外、街中でも探せば安い所があるのだ。人の波を逆らうようにプラプラと歩道を歩いてパルコに入って行く。俺は西館と東館を通り抜けて地下鉄の矢場町駅に入って行く。改札口の前の公衆電話で電話をかけるフリをして、鞄から皮のカバーがかかった使い古した感じの手帳を取り出す。そして、かけ終わるフリをすると、手帳を置いて急ぎ足で出口に向かった。誰もそんな手の込んだ芝居を見ている者はいない。この手は今まで数回やったことがある。これで拾ってくれた人からの連絡を待つ。手帳の中はぎっしりとスケジュールが書いてある。しかし、それは全て嘘だ。ルーズリーフ式になっているので何年と限定される事も無く使い回しが出来る。手帳には俺の本名をローマ字で、あともう一つの携帯電話の番号だけ書いてある。今まで5回やって5回とも連絡があった。一人は東京の女。それをきっかけに一年くらい連絡を取り合った。俺よりも2歳年上で聴き上手な女だった。どうこうなった訳ではないが、病気の事も話したり何でも話せる友達だった。彼女の声を聞くと何故だか気持ちが安らいだ。俺も時々彼女の悩みを聞いたりもした。しかし彼女の結婚と同時に連絡を取る事はやめた。もう一人は大学生だ。女子大に通っていると言っていたが、お茶だけ飲んだだけだ。どうも話が合わなかった。だが、いい子だった。それから、中年のおばさん。手帳をもらってやはり喫茶店でお礼にコーヒーをおごって世間話を少した。もう少し若かったらどうにかなっていたかもしれない。年の割には品があるのか、素敵な人だった。あと、また大学生。この子とは数回デートした。いい子だったが、病気の事まで受け入れられないだろうと思い、俺から連絡を断った。そう言えば、広島から出てきたと言う男にも一回拾われたっけ。男でがっかりだったが、面白くていいヤツだった。大抵、わざわざ拾って丁寧に連絡してくれる人間は「いいひと」だ。疑う気持ちもあまり持ち合わせていなく、警戒心も弱い、「いいひと」なのだ。たまに、そんな「いいひと」に出会いたいが為にこんな馬鹿げた罠を仕掛けるのだ。今までの経験からすると、早くて3時間、遅くて数日後だった。これで6回目になる。少しワクワクしながら俺はパルコの中に入って本屋をウロウロしながらもう一つの携帯が鳴るのを待った。3時間プラプラ過ごして、携帯が鳴らなかったら帰るつもりだ。まだあと2時間ある。さてと、次はどこに行こうか・・・。もう一階上のタワーレコードにでも行こうか。と思った時、TUMAMIのメロディーが鳴った。発信先は公衆電話からだった。最短記録だ。「もしもし・・・。」俺が携帯に出ると暫く沈黙が続いて地下鉄のざわめきだけが聞こえた。「あの・・・。」女の声だった。「あの、SAWADA TETUYAさんですか?」ビンゴだ。「そうですけど・・・・。あなた誰ですか?」「あの、矢場町の公衆電話の前に手帳忘れてませんか?」「え?!」俺はいかにも驚いたような声を出した。「ちょっと調べてみます。」鞄の中を探ってみる。「そうみたいです。近くにいるので取りに行きますね。」「あ、はい。公衆電話の前にいますから。」「すみません。すぐ行きます。」思いの他早くかかってきた電話に少しびっくりしたものの、拾ってくれた彼女に早く会ってみたいと思った。エスカレーターで降りて行き、パルコを出ると改札口を目指した。久しぶりに興奮している自分に気付いた。もどかしい記憶 第四夜 鬼の涙(3) <つづく>続きが読みたいと思ったらクリックしてね! → 人気blogランキング+ちょっと一言+こんなことするヤツいるんかなぁ・・・と思いつつ書いてみました。果たして・・・。(^^;;
2005/07/04
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俺が家に帰るともうポストには新聞が入っていた。新聞を引き抜いて玄関の鍵を開け、何となくそっと入る。両親は眠っているはずだ。起きていたとしても、もうすぐ30の息子に何か言うはずも無い。祖母は5年前に亡くなった。祖父は俺が幼い頃に亡くなっていて写真でしか知らない。幼い俺が祖父に抱っこされて笑っている写真が1枚ある。キッチンのテーブルに新聞を置き、水道の蛇口を捻りコップに水を満たす。勢い良く喉に流し込んだが、生ぬるい感触が気持ち悪くて半分以上吐き出した。冷蔵庫を明けて冷えた麦茶を代わりに入れて、乾いた喉を潤した。しかし、俺の乾いた心は潤わなかった。そして今夜の女を思い出した。ああいうタイプは長い時間一緒にいると多分一緒にいた男に惚れるタイプだ。そんなこともあって早く切り上げてきた。仕事なんて嘘だ。あの女は俺を受け止めれない。お互いに面倒な事になるのは御免だ。そう思った。2階の部屋のベッドに寝転んだものの、寝付けなかった。眠れば、嫌な夢を見そうだった。それでも疲れからうとうとと眠りに入っていった。昼過ぎに起きると両親は食事を済ませてソファーに座ってTVを見ていた。父と目が合うと「お前、また夜中遊びまわっていたのか?体は大丈夫なのか?」と訝しげな表情で俺に言った。俺は薄笑いを浮かべて「親父、一体俺が何年この病気と付き合ってるんだと思うんだよ?もう10年だよ。」と言い返した。母は父をなだめる様に視線を送ると「哲哉、食事作っておいたから。」と言う。「分かった。」そんな父との会話にイライラしながら用意された食事を電子レンジで温める。今は緩解期の為、それほど神経質にならなくてもいいのだが、やはり食事には気を付けなければならない。母も今では病気のことを理解し、食事作りもなれたものである。俺自身も料理は結構得意だ。入院するたびに新しいメニューを覚えて帰ってくるのだから。俺がこの病気になったのは大学1年の時だった。エスカレーター式に入学したのだったが、それでも大学生活を楽しみにしていたのだ。所が、学園祭が行われる秋に俺は右下腹部に激しい腹痛が起こり、近所の胃腸科で盲腸との診断を受け手術を受けた。所が、盲腸を取ったにもかかわらず、再び激しい腹痛が起き、おかしいと思った俺は大学病院での精密検査を受け初めてこの病名を聞かされたのだった。初め「クローン病」と言われてクローン羊が頭に浮かんだ。この病気は消化管の病気で、完治しない難病である事を医師から告げられた時は、家族全員がショックだった。当の俺はもう生きている意味も無いと感じた。しかも、盲腸と間違われる事が多く、俺みたいに手術をして再燃が早まってしまうケースも多いのだそうだ。近所の胃腸科に行った事を俺は悔やんだ。両親は始め何とか治る方法を見つけようと、俺をアメリカのクローン病の権威と言われる医師のもとまで引っ張り連れられた事もある。しかし、期待は今までことごとく裏切られ、何度も再燃した。そして、両親も今は治らない病気と諦めた。今でも、心配している事は分かるのだが、いちいち言われるとカチンときてしまう。俺は小腸型で、小腸は狭窄し、癒着し、ろう孔も出来ている。簡単に言えば、外見からは想像も出来ないほどに腹の中はグチャグチャだと言うことだ。投げやりになった時期もあったが、持ち直して病気を理解し、この病気と共生している。日頃から普通の人と違って栄養を十分に取れないこともある為か、ちょっとしたことで体調も崩しやすく、再燃の兆しが見られるとその度に絶食し体調を整えているのだ。体調が悪いのは辛いが、絶食も辛い。誰が点滴だけで腹が膨れると言うのだ。そして、エレンタールのようなあんな不味い液体で誰が幸せと思えるのか。俺はそう思う。10年前から腹いっぱいに食べる事が出来なくなって、いつも飢餓状態にあるような感じだ。身体的には幾分慣れても来ているが、精神的な飢餓状態はさらに酷くなる一方であるようにも感じている。何かが必要なのだ。俺の気持ちを静めてくれる何かが。そして、俺の存在が苦しみの中に消えてしまうのが怖いが為に夜な夜な女を捕まえては自分自身を確認しようとしている。快楽の中にいる自分は、苦しみや悲しみの現実の俺よりも、リアルな気がする。フワフワと心地よい感覚、自己を解き放つ瞬間だけが生きている事を感じさせるのだった。だが、昨夜は上手く行かなかった。昨夜だけでない。最近は、なのだ。俺は、ご飯と焼き魚と納豆を食べ終わると、また街へ出かけた。もどかしい記憶 第四夜 鬼の涙(2) <つづく>続きが読みたいと思ったらクリックしてね! → 人気blogランキング
2005/07/02
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名古屋の夜は早いと言う。だが、真夏の暑さに人々は何かを探すように夜の街を彷徨っている。俺は車を大通りの脇に止めて、のろのろと蠢く黒い影を見つめている。男達は、ギラギラとした目で、女達は物欲しそうな顔でお互いに牽制しながらすれ違う。こんな時間に出歩いている奴らはたいがい目的は同じだ。だから俺もそんな女達を落とすのは簡単なのだ。さっきから三越の前のベンチに腰掛けてこっちをチロチロ見ている女。多分、声を掛ければすぐ落ちる。簡単な事さ。俺は車から降りて、こう声を掛ける。「ねぇ、今何やってんの?」こんな時は馬鹿じゃないかと思うような言葉だけでいいのだ。別に普段考えているような難しい言葉は何も要らない。次にこう声を掛ければいい。「学生?夏休み?暇なの?」女は頷く。「だったら一緒に遊ばない?」女はのろのろと立ち上がり車に乗り込む。これで商談成立だ。向かう先はお互いに何も言わなくてもいい。栄から南下して金山のラブホテル街に向かう。適当な所に車を突っ込む。出会ってほんの数十分。即席カップルの出来上がりだ。別に何てこと無い。この時間なら、俺達以外にもこんな風にこのホテルに入っている奴らはいる筈だ。難しい事は何も無い。女も動じる事無く、割とサバサバした感じの足取りだ。毎週末、あのベンチで声を掛けられるのを待っているのだろうか?ふとそんな事が頭を過ぎった。部屋に入るとベッドに腰掛けてお互いに望んでいた事が自然に始まる。女は幾分解放されたように恥じらいも無く、大胆だった。今は、恥じらいは不要だ。ただ、本能のままに体を動かせばいい。俺の両手は女の尻を握って、そこから滴り落ちる秘密の蜜を飢えた獣のように飲み干していく。その行為は、俺の空腹を満たす唯一の手段だ。女は頭を少し持ち上げて、俺を欲しがるような懇願した目で規則正しいあえぎ声を上げながら見つめている。俺はそんな女の願望を裏切って中指を奥深く差し込んだ。何の抵抗も無く飲み込まれた中指は、女の内臓をぐちゃぐちゃに掻き回した。女は俺を見つめながら悲鳴のような声を上げると、俺の指はきつく女の中に吸い込まれていった。暫くしてうつ伏せになっていた女が顔を上げて言った。「どうして入れなかったの?私、あなたとしたかったのに。」俺は笑いながら「俺もしてもいいと思ったんだけど。」と言うと財布から行福沢諭吉を2枚女に差し出した。「そんなつもりで付いて来たんじゃないわ。」と反発する女に俺は無言でもう一度差し出す。すると女は2枚の紙切れを手に掴みゆっくりと握り締めていった。「俺、明日も仕事あるから、一緒にはもういられない。君は泊まっていってもいいよ。フロントに言っとくから。」と言う俺に女の強い視線を感じながら身支度をさっさとした。そして女に”そんなんじゃなかったら、どんなんだ?”と言う様な顔を向けて「じゃ。」とだけ言ってホテルを出た。人生は鬼ごっこのようだと時々思う。鬼から隠れたり、見つかったり、鬼になって探したり。今の俺は腹の減った鬼だな。ふとそんな事を思ったりする。手当たり次第女を捕まえては放して。まだ、どこかに隠れていると探しに行く。一体何人と鬼ごっこを始めたのか忘れてしまったように。最近は女を捕まえても感じなくなってしまった。キスをしたとたんこいつじゃないと感じるのだ。もう手当たり次第捕まえるのはやめて、じっと待っている方のがいいのかもしれない。俺は、不毛な夜を彷徨い抜けて白々と明け行く空を横目に車を走らせながら思った。もどかしい記憶 第四夜 鬼の涙(1) <つづく>続きが読みたいと思ったらクリックしてね! → 人気blogランキング+ちょっと一言+こんな出だしで始めてみました。ちょっとR指定?う~ん・・・・。書ききれるかな。書ききる事が目標です。(汗)
2005/07/02
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