眠れない夜のおつまみ

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2006/04/17
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中に私は黒田の後を恐る恐る入っていくとフロントが見えてきた。
室内の照明はかなり暗い。
その中でマスケルを被った店員の目が光って見える。
無表情な真っ白な顔の中の目だけは表情があった。
「いらっしゃいませ。今夜はこちらのお方はお連れ様でしょうか?黒田様。」
店員に聞かれると黒田は
「そうです。」
と手続きを取った。
「ではこちらに。」

やはりSMクラブではないか。
冷静になってきた私は黒田に憤りを覚えた。
が、ここまで来てしまった以上は流れに巻かれるしか他は無い。
そう思って半ば観念した。
個室には深い赤色の絨毯が敷かれ、ヨーロッパ調の革張りのソファが中心に置かれていた。
そして、もう一つドアがあることに気付いた。
店員はそのドアを開けて
「お好きなものをお選びください。」
と言い私達を中へ促した。
すると中にはたくさんのマスケルが並べられていた。
それはなかなかの迫力で一瞬圧倒されるほどだ。

黒田はそう言うとさっさと自分の物を選んでいた。
銀の装飾がされたマスケルを被るとまるで別人に見える。
私も適当なものを選んだ。
目のふちに蝶の様な金の装飾がされているものだった。
そして、次に体のラインが分からないフード付の黒いマントを渡され着るように促された。

準備が出来るとまた店員に誘導されるまま歩いて行った。
しかしその道順はマスケルをしていて視界が多少悪くなった事やマントが歩く度に擦れる音など非現実的な要素が加わって、その日はよく覚えていなかった。
だから突然エレベーターが現れたときにはびっくりしたのだった。
私達がエレベーターの中に入ったのを確認してから
「では、いってらっしゃいませ。」
と店員は深々と頭を下げた。
ゆっくりとドアが閉まると最上階の15階にエレベーターは向かって行った。
「黒田。ここはどういう所なんだ?私にはさっぱり訳が分からない。」
「ここは会員制のマスククラブさ。全て秘密に出来るから羽目を少しくらい外したって構わない。」
「別に、そんなつもりは無いのだが。」
羽目を外す、と言う言葉を聞いて妻と子供の顔が浮かんだ。
「いや、別にそういうことだけじゃない。」
早とちりをした私は、ははっと思わず声が漏れた。
「パートナーを見つけたりする事も確かに自由だが、相手も素性を知られたくないと思っているのがほとんどだからな。とにかく会話を楽しむのが最初にすることさ。テレクラよりも刺激的で面白い。」
こんな格好をして、ベネチアンカーニバルが頭を過ぎる。
そうこうしていると15階に着いてドアが開いた。
目の前には結婚式場のようなホールの扉が現れ私は黒田が開けた後に続いて入った。
入った瞬間、仮面の中の瞳が私達に集中して不気味に思えた。
しかし、すぐに注目の視線は消え、がやがやと元通りの雰囲気となった。
中はなかなかの広さのホールになっており、まさに思ったとおりのベネチアンカーニバルのように、数十人のマスケルを付けた人々がうごめいている。
ゆっくりと見渡すと上には大きなシャンデリア、壁には椅子が数十脚置いてあり座って休んでいる穂とも見受けられる。
「じゃ、ここからは別行動だ。帰りたくなったら先にかえってもいいからな。」
と言って人の群れに紛れていってしまった。
「と、言っても・・・。どうすればいいのだ?」
と私は壁際の椅子に腰掛けた。
ぼぅっとどこに視線を合わせるでもなく眺めていると一人の女性が声をかけて来た。
「初めまして。こちらよろしいかしら?」
どこかで聞いた事があるような気がする声のように感じたが、マスケルで声が多少篭ることも考えると気のせいかもしれない。
「ええ。どうぞ。」
「ここは初めてで?」
「ええ。まあ。そうです。」
何をしに来たのかよく分からなくなり空しい気持ちが私を襲って来た。
「あなたはよく来られるのですか?」
「たまにです。」
「どうしてこんな所に?」
「話し相手が欲しいんです。」
「それだけの為に?」
私は半信半疑で彼女の話を聞いた。
「いけませんか?」
「いえ。そんな事は。・・・しかし、言ってみればこれも風俗でしょう。私はこう言う所には来ない性分なんですよ。妻も子供もいますし。」
「お幸せなんですね。」
と彼女は顔を伏せてしまった。
「あなたは不幸なのですか?」
「私も実は既婚者で子供もいます。けれど、結婚生活って何なのでしょうね。空しく感じるばかりです。夫も子供も私には無関心ですから。」
私は妻の事を頭に浮べていた。私も妻に対して無関心だろうか。しかし、仕方ないじゃないか。仕事を放り出す事は出来ないのだから。と、そんな思いを打ち消した。
「今日はもう帰らなければならないのです。もし、またお会いできたらお話しましょう。」
と言って彼女はホールの扉を開けて去って行った。





                            <つづく>



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*****ちょっと一言*****

書き始め当初の設定がかなり変わりました・・・・。
行き当たりばったりってこうなるのよね。





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Last updated  2006/04/18 04:09:32 AM
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