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今日は閏年の2月の29日ですので、それに関連する漫画を紹介します。作者は最近私が好きな速水螺旋人さんで、作品は『靴ずれ戦線』(徳間書店、2011年12月)になります。さて、本題のなぜ今日2月29日に紹介するかという理由は後で書きますので、最初はいつもの通りの紹介&解説を綴っていきます。時は西暦1941年(天地開闢紀元7449年=世界創造紀元とも言うこの紀年法は、ビザンティン帝国で公式に使用されたもので、ビザンティン暦とも呼ばれます。ロシア帝国は、ビザンチン帝国の後継者を自負していたので、西暦1700年までこの紀年法を使用していました)7月、ちょうどナチス・ドイツがソビエトに電撃的奇襲攻撃を仕掛け大祖国戦争が始まってから約1か月後・・・。ロシア、というかスラブ圏で有名な魔女、バーバ・ヤガー(森に住む妖婆。骨と皮だけにまで痩せこけて、脚に至ってはむき出しの骨だけの老婆の姿をしている。人間を襲う魔女のごとき存在で、森の中の一軒家に住んでいる。その家は鶏の足の上に建った小屋で、庭にも室内にも人間の骸骨が飾られているという、と調べたら書いてありました)の家にNKVD(内務人民委員部、後のKGBの母体)の女性将校がやって来ます。彼女は泣く子も黙るNKVDの長官ラヴレンチー・ベリヤ(スターリンの大粛清の主要な執行者とされる)の命令書を持って来てこう告げました。「というわけで同志バーバ・ヤガー、祖国と人民の名において従軍を命じます!」と。しかしこれまで散々「迷信」や「まじない」といったものを排斥してきたボリシェビキに対してバーバ・ヤガーが好意的なはずもなく、女性将校に無理難題を押し付けます。できなければ喰われる、という条件付きで。その無理難題を押し付けられたNKVDの女性将校の名前は、ナディア・ノルシュテイン少尉。当然、魔女の無理難題なんてできるはずもなくベッドの上で「だからこんな変な任務は嫌だったんだ~」と泣き出します。そこに都合良く救いの手が差し伸べられて、ナディア少尉は魔女の無理難題を解決していくのですが、それがバーバ・ヤガーの弟子の娘、ワーシェンカが裏で糸を引いていたのが露見してさあ大変。ワーシェンカはカエルにさせるか、驢馬のお嫁さんになるか、悪魔に折檻されるか、はたまた喰われるか、と恐怖に怯えますが、意外や意外、バーバ・ヤガーは「当分この小屋の敷居をまたぐのは許さへん!わしがええゆうまで戻ったらアカンで。ボリシェビキの娘や。半人前の魔女やさかい、好きにシベリア送りにしたらええ!」という話になって、ワーシェンカはナディア=ナージャ(愛称です)少尉と一緒に最初の望みどおりにソビエト赤軍に従軍することになるのです。そんな見習い魔女のワーシェンカ(軍曹)と、そのお目付け役で筋金入りの共産主義者で内務人民委員部のナージャ(少尉)のデコボココンビが、大祖国戦争時代のソビエトを舞台に縦横無尽、果てはあの世とこの世の境界線まで行ってしまうという民話的魔女譚に歴史改変SF的な要素を加えた、非常にマニアックな作品に仕上がっています。この漫画は基本的に一話完結型になっています。毎回ナージャとワーシェンカのコンビが地獄の東部戦線でドタバタ騒動を巻き起こすという内容です。そして、この二人にもまして作中で大きな役割を果たすのがロシアの民話や民間伝承の魔物、精霊、妖怪といった存在たちです。スターリングラードの激戦地では、敵の拠点の学校に巣食うドモヴォーイ(家屋の精霊。ペチカ(ロシアの暖炉兼ストーブ)の周りや部屋の隅、地下室などに棲む。家を守り家族の不幸を予言することもある。概して人間には友好的な精霊)をワーシェンカが酒の飲み比べで追い出したり、ロシア版サンタクロースのジェド・マロースがSS(武装親衛隊)に拉致されて、それをワーシェンカとナージャ、それとマロースの孫娘である雪娘=スネグーラチカが協力して救出するなど、日本人がほとんど知らないユーモラスなキャラクターたちが次から次へと登場します。そんな彼らを速水流に料理して、ナチス・ドイツとソビエトがお互いの存在を認めない殲滅戦が繰り広げられる東部戦線を舞台に、魔女や精霊、妖怪などの逸話を組み込んで物語に作り上げる速水先生の力量には感服です。またとくに凄惨だった東部戦線の戦争という、人類最大級の悲劇を扱っていながらあまり湿っぽさはなく、これまた速水先生の持つ独特の空気が作品に充満しているところなどは、私は好きです。では、なぜ今日のこの日にこの漫画を取り上げたかという本題を書きましょう。実は、閏年のこの日、ロシア正教では聖カシヤーンという聖人の祝日なのだそうです。この聖カシヤーンは聖人ではあるのですが、災いをもたらす妖怪に近い存在として恐れられているそうです。この聖カシヤーン、普段は守護天使によって鎖でつながれ、額を槌で打たれ続けられているのですが、四年に一度、自分の祝日だけ世界に解き放されるのです。そして1944年2月29日は、東部戦線のウクライナ方面でドイツ軍が展開したチェルカッシー包囲戦の終結日なのです。このチェルカッシー包囲戦はソ連側ではコルスン包囲戦と呼称されていて、ドニエプル=カルパチアン攻勢の一部分でした。この戦いでソビエト第1ウクライナ方面軍(司令官ニコライ・ヴァトゥーチン)、第2ウクライナ方面軍(司令官イワン・コーネフ)はドニエプル川近辺でドイツ南方軍集団(司令官エーリッヒ・フォン・マンシュタイン)を包囲しました。何週間にも及ぶ戦いの間、ソビエト赤軍2個方面軍は包囲したドイツ軍の殲滅を試みましたが、包囲されたドイツ軍部隊は包囲外の救援のドイツ軍部隊と協調作戦を行うことにより包囲を突破し、包囲された将兵の内、約3分の2が脱出に成功、残りの3分の1は戦死するか捕虜となったという作戦です。作品の中では、聖カシヤーンが雪原の中で倒れていて、そこへドイツ兵がやって来て「じいさん」を足でつついて生きていることを確認します。聖カシヤーンはドイツ兵に酒を持っていないか尋ね、ドイツ兵が最後の時に飲もうとした酒を強引に飲み干してしまいます。4年ぶりに酒を飲んだ聖カシヤーンは、ドイツ兵に対して「望みがあったらきいたるぞ!」と尋ねます。ドイツ兵は「望みってもなあ…。イワンに包囲されてちゃ…。生きてドイツに帰りたいよ」と言っちゃったからさあ大変。一方、ワーシェンカはありったけの武器を用意して聖カシヤーンの襲撃に備えていたのですが、案の定聖カシヤーンがやって来て邪眼(本人曰く奇跡)でソビエト側の陣地を攻撃、ワーシェンカも応戦するのですが「腐っても聖人」ですので戦時下の最前線では全く準備が足りず「雷神(ベールン)のしゃっくりにかけてどんづまりや!」という状況になります。そこへ、怒ったナージャがパンツァーファウストを掴んで聖カシヤーンに立ち向かったのですが…。この先は、作品を見てください。ただ、聖カシヤーンが「異教のまじない女」と「無神論者」に大変な目にあわされたことだけ書いておきます。という感じで、宗教や迷信を認めないソビエト軍が裏では魔女を徴用して居ると言う皮肉と、後退を禁じていたソ連軍の屍累々の戦い、そして陰ではオカルトに傾倒していたナチスと言う(作中ではドイツ側の魔女も登場します)毒に満ちた話が描かれていることが面白いこの作品。Comicリュウに連載されていたメカコラム「螺子の囁き」も同時収録されていて、こちらは軍事に拘らない蒸気機関から金星探査機に及ぶこちらもソ連製を中心としたレトロな機械に対するマニアックな内容です。一粒で二度おいしいこの作品。軍事関連の中毒が進んでいる人にはお勧めな一冊です。
2012年02月29日
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みなさま、お久しぶりです。元旦に更新して以来になります。ちょっと、1月中は書道の関係で忙しかったのと、それが終わったら鬱がまたひどくなって学校と家との往復と仕事でいっぱいいっぱいでしたので、長らくお暇をいただいていたわけです。 ということで、今日は体調が悪かった時に読んでいた本を紹介していきます。まずはタイトルにある村山早紀さんの『海馬亭通信』(ポプラ社、2012年1月)です。 この本は、日本でも名前が知られている児童文学作家の村山早紀先生が、今から20年ほど前の新人作家であった頃に出された『やまんば娘、街へゆく~由布の海馬亭通信』(理論社、1994年4月)を文庫化し、さらに主人公のやまんば娘の由布が風早の街へ下りてきてから17年後の海馬亭の様子を描いた続編の前半を収録した作品となります。内容はといいますと、村山先生があとがきにも書かれているように「いつもどおりの風早の街の物語です。神様とお化けと魔法と、少しの切なさと祝福と奇跡の物語」だそうです。もう少し紹介を詳しくしますと、母親が7年に一度の山の神の寄り合いで4か月間、山を留守にする間に行方知れずの父親をさがして人間の街に下りてきた由布が自称ワルの小学生・千鶴を助けたことがきっかけで、彼女の祖母が営む下宿「海馬亭」にやっかいになることになります。海からの風が吹きわたる風早の街の丘にある古い洋館「海馬亭」で繰り広げられる、由布と愉快な住人たちとの心温まる交流譚を、由布が山にいる姉への手紙を綴る形で物語は進んでいきます。海馬亭の住人がどんな人がいるのか、そして由布は父親を見つけることができるのか、その辺は本書を読んでのお楽しみにしましょう。村山先生の作品には公共図書館にいた当時、児童書担当だったのでずいぶんお世話になり、また作品を色々読みました。小学生向きには『シェーラひめのぼうけん』シリーズや『魔女のルルー』シリーズなどがあるのですが、高校の図書館に勤めてからは縁の薄い作家さんになってしまいました。ところがポプラ社がピュアフル文庫で『コンビニたそがれ堂』シリーズを刊行したので読んでみると読書の入門書にちょうど良いではありませんか。ライトノベルも読書の入り口としては良いのですが、生徒によって好き嫌いが分かれるジャンルなのでお勧めするときに悩むことが多いのですが、村山先生の本だったら昔読んだり小学校の図書室に配架されていたことを覚えている生徒もいるので、紹介しやすいので助かっています。村山先生はこの他にも『竜宮ホテル迷い猫』(三笠書房、2011年11月)や『カフェかもめ亭』(ポプラ社、2011年1月)など、最近古典的な意味でいうところのジュブナイル小説、最近の言葉だとヤングアダルト作品(=ライトノベルという見方が広がっているのは少々困りものですが)を書かれるようになったので、高校の図書館でも紹介できるようになったのは嬉しいですね。 続いては、沢村凛さんの『瞳の中の大河』(角川書店、2011年10月)を紹介しましょうか。著者名の「凛」の「示」部分は正しくは「禾」ですが文字化けすると困るのでこうしました。さて、著者の沢村さんは第10回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した作家さんです。ファンタジーノベル大賞や本屋大賞(最近、選考が怪しくなってきていますが)などの受賞作やノミネート作品の著者をチェックしていた時に検索でヒットした中で面白そうな本だっので、購入したうちの一冊です。内容はといいますと、端的に表すなら歴史大河ファンタジーです。で、いつものごとく紹介へと入りますと、この本の主人公はアマヨク・テミズという軍人です。舞台はインド・イスラム系ぽい架空の王国です。主人公は貴族の血をひくものの、出生に複雑な事情を抱えています。そのテミズ少尉は軍学校を卒業し、西の駐屯地へ向かう小隊の隊長として赴任します。そこで少尉に下った命令は、王家の宝を盗んだ者たちの捜索でした。少尉は、野賊の六頭領のひとり、オーマの仕業であることを直感するも、逆に盗賊たちの策略にはまり、捕えられてしまいます。伝説の野賊として名高いオーマとの出会いをきっかけに、アマヨク・テミズの波乱に満ちた運命が幕を開ける、という感じで物語は始まります。 この小説の面白いところは登場人物の心理が描写されず、その行動に納得がいかないように見える部分も多いところです。ですが、それがかえってリアリティを高めているように感じます。またそこに、あれこれとその登場人物たちの心中を想像する楽しみもあると思います。ですから人によって、登場人物の心中の解釈は分かれるでしょう。しかし、それを差し引いても本作は面白いです。まず、導入部での主人公と盗賊の首領オーマ、そしてその部下の女性、カミーラの登場の仕方とそのやり取りが上手で一気に物語に引き込まれます。主人公のアマヨク・テミズは、国のために平和を取り戻すためなら愛する人を傷つけることも厭わないという人物です。ですので、恋人や息子とも敵対する場面があるのですが、そこが物語を盛り上げるのですよね。そして、自分の計画が失敗し自身が反乱軍の汚名をかぶろうとも、国と民の為に理想の社会を築くために生き抜いく主人公がカッコ良いです。また、理想の為に力強く生きる主人公を魅力的に描いている本作ですが、それが出来ない弱い人間にも作者の愛は注がれているのが素晴らしいと思いました。主人公の無骨ともいえる生き様を軸に、物語には、権謀うずまく貴族達の争い、父親との相克、道ならぬ恋、ラストシーンでの謎解きなど、活劇としてのおもしろさがふんだんに盛り込まれている読んでみて損はしない作品に仕上がっています。という感じで、今日は文庫本2冊を紹介しました。それから疲れのためか、パソコンの細かい字が見にくかったのでフォントを一つ大きくしたのですが・・・見やすくなったでしょうか?では、そんなこんなで、今日はこのくらいで!
2012年02月14日
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