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2012.08.22
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カテゴリ: カテゴリ未分類


【本文】
 「ばくちの、負極まりて、残りなく打ち入れんとせんにあひては、打つべからず。立ち返り、続けて勝つべき時の至れると知るべし。その時を知るを、よきばくちといふなり」と、或者申しき。

【訳文】
 「ばくち打ちが、すっかり負けてしまって、残ったもの全部を勝負に賭けようとするのに対しては、ばくちを打ってはならない。そうした時こそ、よい状態にもどって、連続して勝ち得る時が向うにやって来たと知らなくてはならない。そうした、勝負の逆転する時を知るのを、上手なばくち打ちというのだ」と、ある人が申しました。

【注釈】
・残りなく:手元に残った金全部

第百二十七段
【本文】


【訳文】
 改めても利益のないことば、むしろ改めない方がよいとするものである。

【注釈】
・改め:無益な改革

第百二十八段
【本文】
 雅房(まさふさ)大納言は才賢(ざえかしこ)く、よき人にて、大将にもなさばやと思しける比、院の近習なる人、「たゞ今、あさましき事を見侍りつ」と申されければ、「何事ぞ」と問はせ給ひけるに、「雅房卿、鷹に飼(か)はんとて、生きたる犬の足を斬り侍りつるを、中墻(なかがき)の穴より見侍りつ」と申されけるに、うとましく、憎く思しめして、日来(ひごろ)の御気色(みけしき)も違ひ、昇進もし給はざりけり。さばかりの人、鷹を持たれたりけるは思はずなれど、犬の足は跡なき事なり。虚言(そらごと)は不便なれども、かゝる事を聞かせ給ひて、憎ませ給ひける君の御心は、いと尊き事なり。
 大方、生ける物を殺し、傷め、闘はしめて遊び楽しまん人は、畜生残害の類なり。万の鳥獣、小さき虫までも、心をとめて有様を見るに、子を思ひ、親をなつかしくし、夫婦を伴ひ、嫉み、怒り、欲多く、身を愛し、命を惜しめること、偏へに愚癡(ぐち)なる故に、人よりもまさりて甚だし。彼に苦しみを与へ、命を奪はん事、いかでかいたましからざらん。
すべて、一切の有情(うじょう)を見て慈悲の心なからんは、人倫にあらず。

【訳文】
 雅房の大納言は、学識がすぐれていて、立派な人であったので、上皇は近衛の大将にも任じたいものだとお考えになっていたころに、上皇の側近に仕えている人が、「ただ今、あきれたことを見てしまいました」

一般的にいって、生きているものを殺したり、傷つけたり、互いに闘争させたりして遊び楽しむような人は、人間ではなくて、畜生が互いに傷つけ合っているのと同類である。いろいろの鳥や獣、小さい虫までも、注意してその様子を見ると、親は子を愛し、子は親を慕い、夫婦は互いに連れ添って、あるいは嫉み、あるいは怒り、あるいは欲望が盛んであり、己れの身を大切にし、命を惜しんでいることは、いっこうにものの道理のわからない、愚かなものであるから、かえって、人間よりもはなはだしいものである。そういう動物類に苦痛を与え、命を取るようなことは、どうして、かわいそうでないことがあろうか。
 総じて、すべての生き物を見て、これに慈悲の心を起こさないものは、人間ではない。

【注釈】
・近習:主君の傍近くに仕えている近臣
・中墻:隣家との間に作った垣

・残害:そこないやぶること
・愚癡:仏語、愚かにして事理を解しないこと
・有情:生き物

第百二十九段
【本文】
 顔回は、志、人に労を施さじとなり。すべて、人を苦しめ、物を虐(しいた)ぐる事、賤しき民の志をも奪ふべからず。また、いときなき子を賺(すか)し、威し、言ひ恥かしめて、興ずる事あり。おとなしき人は、まことならねば、事にもあらず思へど、幼き心には、身に沁みて、恐ろしく、恥かしく、あさましき思いまことに切なるべし。これを悩まして興ずる事、慈悲の心にあらず。おとなしき人の喜び、怒り、哀しび、楽しぶも、皆虚妄(こまう)なれども、誰か実有(じつう)の相に著(ぢやく)せざる。
身をやぶるよりも、心を傷ましむるは、人を害(そこな)ふ事なほ甚だし。病を受くる事も、多くは心より受く。外(ほか)より来る病は少し。薬を飲みて汗を求むるには、験(しるし)なきことあれども、一旦恥ぢ、恐るゝことあれば、必ず汗を流すは、心のしわざなりといふことを知るべし。
凌雲(りょううん)の額を古きて白頭の人と成りし例(ためし)、なきにあらず。

【訳文】
 顔回は、そのふだんの心がけは、他人に苦労をかけまいというのである。一般に、人を苦しめ、他人をむごく扱うことがあるが、しかし、賤しい民の意志をも奪ってはならないのである。世の中にはまた、幼い子供をだましたり、おどかしたり、口でからかったりして、面白がることが往往にしてある。大人は、そうしたことはじょうだんであって、ほんとうのことではないから、たいしたこととも考えないが、子供の幼い気持ちでは、身につよくこたえて、ある時は恐ろしく、ある時は恥ずかしく、ある時はひどくいやな感じが痛切にするものであろう。そのような子供の心を悩まして面白がるということは、慈悲の心ではない。大人の喜び、怒り、哀しみ、楽しむことも、すべては、真に実在するものではないけれども、誰とて、そうした実在せぬものが実在しているかのような現実の状態に執着しないであろうか。
 からだを傷つけることよりも、心を苦しめることは、人間を害すること、一層ひどいものがある。人が病気にかかることも、多くの場合、内面の心からかかるものである。外部から入ってくる病気は稀である。薬剤を飲んで汗を出そうとする場合には、時により、効果のないことがあるが、一度恥ずかしく思ったり、恐ろしく思ったりすることがあると、きっと冷汗を流す事実は、それが心のなす働きであるということを知り得るのである。あの、凌雲観という高楼の額を書いて、恐ろしさのあまり、白髪頭の人となったという例も、実際、ないことではないのである。

【注釈】
・顔回:孔子の一番弟子
・虚妄:実在しないもの

第百三十段
【本文】
 物に争はず、己れを枉(ま)げて人に従ひ、我が身を後にして、人を先にするには及(し)かず。
万(よろず)の遊びにも、勝負(かちまけ)を好む人は、勝ちて興あらんためなり。己れが芸のまさりたる事を喜ぶ。されば、負けて興なく覚ゆべき事、また知られたり。我負けて人を喜ばしめんと思はば、更に遊びの興なかるべし。人に本意なく思はせて我が心を慰めん事、徳に背(そむ)けり。睦ましき中に戯(たはぶ)るゞも、人を計り欺きて、己れが智のまさりたる事を興とす。これまた、礼にあらず。されば、始め興宴より起りて、長き恨みを結ぶ類多し。これみな、争ひを好む失なり。
 人にまさらん事を思はば、たゞ学問して、その智を人にまさらんと思ふべし。道を学ぶとならば、善に伐(ほこ)らず、輩(ともがら)に争ふべからずといふ事を知るべき故なり。大きなる職をも辞し、利をも捨つるはたゞ、学問の力なり。

【訳文】
 人間というものは、他人と争うことなく、自己の意志をまげて他人の気持ちに従い、自分のことは後廻しにして、他人に先を譲るに越したことはない。
 いろいろの娯楽でも、勝負事を好んでやる人は、勝って面白がりたいためである。それは自分のうまさが他人よりもすぐれていることがうれしいからなのである。だから、負けたら不愉快に感ずるだろうということも、またよくわかりきったことである。したがって、自分が負けて、人を喜ばせてやろうと思うならば、勝負の遊びの面白さは少しもないに違いない。こう考えると、相手の人を負かしていやな思いをさせながら、自分の心だけを楽しくすることは、道徳にそむいている。親しい人たちの間で冗談を言い合うにも、他人をうまく企らんでだまし、自分の機智が相手よりまさっていることを面白がる。これもまた、礼儀ではない。それゆえ、始めは酒宴の時の冗談から発して、後には、いつまでも続く恨みを心に残すというような例が多い。以上は、すべて、勝負事を好むことの弊害である。
 人よりも優越しようと思うなら、ひたすら学問をして、その学才が他人よりも優越しようと思うのがよい。なぜならば、物事の道理を学び知るならば自分の長所を自慢せず、仲間と争ってはならないということを知り得るがためである。学問すれば、他人と競争する気持ちを超越できるのであるから、重要な役職をも辞退し、莫大な利益をも捨ててしまえるのは、ただ、学問の力によるのである。

【注釈】
・物:他人
・本意なく:不本意である
・興宴:酒宴
・失:弊害





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Last updated  2012.08.24 11:11:43 コメントを書く


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