音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2009年08月17日
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 1960年代初頭、「フォークの貴公子」であったボブ・ディランは、1965~66年にかけてフォークからロックに「転向」する。この時期には、様々な逸話がつきまとう。当時のフォーク・ファン層には、ディランを「裏切り者」と罵り、商業主義へ走ったと厳しく非難する者もいた。また、ディランがブリティッシュ・インヴェイジョン(第一次ブリティッシュ・インヴェイジョン=ビートルズやストーンズに代表される英ロック・バンドが米国で起こした旋風)に刺激を受けて、ロックに手を出したとも言われる。

 いずれにしても、これらはファンや批評家たちの側からの見解であり、ディラン自身の立場からすれば、少し事情は違っていたのかもしれない。ディランにとって見れば、求める自己表現がフォークという様式に収まりきれなくなり、もっと自由な形式をとる必然性を持っていたのではないだろうか。言い換えれば、ディランの感性は、この時点でフォークというスタイルを超えてしまっていたのである。それゆえ、フォーク側・ロック側双方のファン心理はともかく、冷静に見れば、「フォークからロックに転向(すなわち、一方から他方へ乗り換える)」という表現は不正確だと思う。むしろ、「フォークにロックが付加された」、あるいは「フォークの様式で表現しきれない部分をエレクトリック・サウンドで補完した」という方が正確だろう。

 1965年のシングル、「ライク・ア・ローリング・ストーン」は、まさしくそうしたディランの変化を如実に示す曲である。よくディランは「文学的」などと評され(じっさい、ノーベル文学賞にノミネートされたりしている)、近づき難いイメージを与えられている。この曲の詞も、ミス・ロンリー(孤独嬢)なる、お高くとまっていた女性の人生の転落をテーマとしており、虚構の人生のむなしさを揶揄するという示唆的な内容である。けれども、こうした要素は、ロック「転向」前のディランにも当てはまる部分があり、必ずしもディランにとって目新しいことではない。

 では、何が新しかったのか。ここでは、この曲の音(サウンド)にもぜひ注目してもらいたい。ディランの歌声やハーモニカを聴く限り、フォーク時代のディランから大きく逸脱しているわけではなく、むしろ以前の歌い回しを踏襲していると言っていいかもしれない。要するに、新しかったのはヴォーカルやハーモニカ以外の部分だったわけで、それは録音時のセッションでディランを支えた面々に起因すると思われる。

 その意味で、「ライク・ア・ローリング・ストーン」がこれほど聴き継がれることになった最大の功労者は、アル・クーパー(オルガン)、次いでマイク・ブルームフィールド(ギター)だと思う。ブルームフィールドのギターは何ら派手ではないが、随所でいい盛り上げ方をしている。しかし、何よりも大きくフィーチャーされ、曲全体の雰囲気を作り出しているのは、バックに流れ続けるアル・クーパーのオルガンである。

 録音当日、そのアル・クーパーはゲストとしてギターを弾く予定だったのだが、ブルームフィールドを見て、とても及ばないと考えて、一度は楽器を置く。その後、オルガンを弾く予定だったポール・グリフィンがピアノにまわり、空いたオルガン・パートにクーパーが入る。こうして録音されたのがこの曲である。そう、すべては偶然の産物だったのかもしれない。セッションの場でのわずかな機転による楽器変更が、この「ライク・ア・ローリング・ストーン」を生んだ。ディラン自身は、あるインタヴュー(1969年、『ローリングストーン誌』)で、ロック・バンド演奏で吹き込んだ曲の中で、「ライク・ア・ローリング・ストーン」がいちばん好きで、そのサウンドが気に入っていると語っている。上で触れたような示唆的な詞にもかかわらず、どこかしら爽やかで、軽快に流れる中に荘厳さをたたえたこの不思議なサウンドをただ楽しむ、というのもこの曲の一つの聴き方であっていいかもしれない。


[収録アルバム]
『追憶のハイウェイ61(Highway 61 Revisited)』(1965年)

『エッセンシャル・ボブ・ディラン』(2000年) など





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