イギリスではなくスペインのモッズ・バンドと聞けば、ふつうは“どうせまた…”的な“モッズ風(もどき)”を想像するのだろうが、ロス・フレチャソスは、これが意外に(と言っては失礼だが)、正統的なネオ・モッズ・サウンドを展開している。そういう意味で、おそらく最初に耳に飛び込んできそうなのが、4.「パサラー(Pasará)」。スペイン語のタイトルがついているが、その実態はザ・フー(参考過去記事(1)・(2))の曲で、『ア・クイック・ワン』(1966年)所収の「ソー・サッド・アバウト・アス(So Sad About Us)」という曲。同じく11.「ディセス・ロ・ケ・シエンテス(Dices que lo sientes)」(上述の通り、この曲ではベースのフランシスコがリード・ヴォーカルをとっている)というのも60年代の曲のカバーで、原曲はレッド・スクエアー(60年代、イギリスで結成されたもののデンマークの拠点を移し、同地で人気バンドとなった)のもの。
とは言っても、これらカバー曲だけが特に優れているというわけではないのが、本盤のミソなのかもしれない。3.「シ・トゥ・テ・バス(Si tú te vas,君が行ってしまうなら)」や8.「ミエド・ア・ボラール(Miedo a volar,飛ぶのが怖い)」はこのバンドが持つ奥行きが発揮された聴きどころになっている。さらに9.「プッシキャット」という実験的インスト曲を同じくバンドの本領が発揮されていると感じる。英語ではない言葉で歌いながら本格的モッズ・バンドが成立しうるのか、と漠然と尋ねられると、ふつうは返答に困るだろうが、本盤を聴いた後では、間違いなく“イエス!”(スペイン語だと“シー!”)と答えられるという、実力派アルバムだと思う。
[収録曲]
1. No hay solución
3. Si tú te vas 4. Pasará 5. Me he subido a un árbol 6. Nunca más 7. Queda mucho por andar 8. Miedo a volar 9. Pussycat 10. Alerta 11. Dices que lo sientes 12. En tu calle