前のブログ 「あっさり味」 の引き合いに出した『恋する女たち』、こってり味なのは読み応えがあったが、ロレンスの思想には頷けないところがある読後感だ。
簡単に言えば、性格の違う聡明で美しい姉妹が、相手を出会って結婚したのは姉、しなかったのは妹というストーリー。
教師である姉の恋人、後に夫、は『チャタレイ夫人の恋人』の森番を彷彿させる男、自由人で自然人、作者の分身らしい。
いっぽう彫刻家を目指している芸術家肌の妹。恋人は炭鉱主の跡継ぎ、やり手で能力がある合理主義者。だから作者の意に添わず消えていく運命。
ロレンスの考える男女間のあり方は、男性が主導権を握って女性が服従するのが理想で、性も思想もそうでなくてはいけないというものである。
男によって目覚めさせられる女という図式は『チャタレイ夫人の恋人』もそうだった。
しかし、この小説の姉妹は聡明で自立した考えを持っているから、すんなりとは行かないところが文学になっている。それが完結したような『チャタレイ夫人の恋人』より価値があるのかもしれない。
もちろん芸術的に文芸的に目に浮かぶような表現、美しい描写の深さは、さすが。
姉妹の服装の彩り、とくにストッキングの色と服の取り合わせの描写がきれいで目に鮮やか。例えば 「襟と袖口にブルーとグリーンの麻レースのひだ飾りをつけた濃紺の服のエメラルドグリーンのストッキング」 などと。
旅行中、列車の窓から見るヨーロッパの田舎のうらぶれた景色の描写から、幼い日を思い出してくる場面のなど印象深く共感できる。
さりとて、わたしにその思想が理解できたというわけではない。反発すら覚える。
『息子と恋人』と『チャタレイ夫人の恋人』の間の作品で、ロレンス一時代の文学の証として読めばいいのかもしれない。
なにしろ長大なページ量で(二段組、440ページ、字のポイント小さい)しかもこれで省略部分があるというから、よほどの物好きか、もうこれは研究家しか読まない本だろう。
わたしは古本屋で珍しい本を安く見つけたという根性から読んだような、芸術と程遠い心境で満足したのだけれども(笑)
『影法師』百田尚樹 2016年12月11日
悲しみよ こんにちわ 2010年08月25日 コメント(9)
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