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春は名のみの 風の寒さや~♪
2010.02.26
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2010.02.21
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大井川鉄道線の金谷駅は、夏休みということもあってたくさんの鉄道ファンやツアー団体、家族連れで混雑していた。 今年で三十五歳になる美智子は、生まれた時すでに新幹線も走っていた世代。小学四年生の僚介にせがまれてSLに乗ることにしたのだが、親子で初めての経験だった。だが隣りに夫の大介はいない。内緒で来てしまったのだ。 駅員の誘導でいそいそと汽車に乗車したところ、車内に冷房設備はなく、レトロな扇風機が天井で大きく首を回していた。高らかな汽笛の音とともに出発。車内が大きく「ガタッ」と揺れた。「あ、動いた!」 僚介は無垢な瞳を車窓に向けた。 美智子が大介を残して出かけてしまったのにはわけがある。ちょうど一年前ぐらいからだろうか、大介のケータイが時と場所を選ばず、頻繁に鳴るようになった。正確に言うと、ケータイが「震える」ようになった。着メロなんて煩わしい、耳障りだとか何とか文句をつけ、大介はいつもバイブにしていたのだ。ある時は背広の内ポケットで、またある時は車内の定位置で、あるいはテーブルの上で。その度に大介は自然体を装いつつ、美智子の視線を避けるようにして誰かにメールを返していた。 いつだったか夕飯時、僚介が苦手な算数で満点を取ったと大盛り上がりの最中、突然ケータイが震えた。ケータイはズズズと鈍い音を立てながら僅かに位置を変え、ビールの注がれたグラスに当たって小刻みに揺れた。ケータイは、まるでそれ自体が意思を持って自己主張するかのように、ひと時の家族団らんに水を注した。さすがにその時の大介は被害者面して「なんだかなぁ」などとぼやいてみせたが、美智子の胸中は決して穏やかではなかった。 ちょうどその頃、配置転換と昇進も重なったせいで、極端に帰宅時間が遅くなった。仕事量が以前より増えて忙しくなったことは分かる。でもそれだけのせい・・・? せめてもの救いは、どんなに遅くても必ず帰って来たこと。そして、子ども部屋を覗くと、僚介の寝顔を見てから寝室へ向かう大介であったことだ。 この一年の間に美智子は近所のコンビニでアルバイトを始めた。それに、面倒なので断わり続けて来た小学校のPTA役員も引き受けた。専業主婦でいると、何かと考え事が多くていけない。浅はかな身の立て直し方であった。そして思いがけず、昨日のことだった。「この男の人、いつもお父さんの隣りにいるね」 大介の会社で出かけた慰安旅行の写真を見ながら、僚介が呟いたのだ。「ほらこの写真も、ほらこれも・・・これも隣りにいるし」 まだ子どもだからと侮れない。実は美智子も、それらの写真には混乱していた。大介の隣りではにかむ、三十歳前後に見える、細身で中性的な顔立ちの男性に、何か違和感を覚えたのだ。 夫に女の影を感じていたはずが・・・男? 状況を把握するのにどれぐらいかかったであろうか。瞬きするのさえ忘れ、疲労した目蓋がヒクヒクと痙攣を起こすのを感じた。 まんじりともせず夜が明け、思い立って、「SL乗りにいくよ」 と、かねてからの僚介の希望に応える形となった。ちょうど夏季休暇に入った大介は連日の残業疲れのためか布団の中で、美智子は、「役員会合に行って来るわ」 と、大嘘をついて出て来てしまったのだ。 車窓から黒い煙がもくもくと後ろへ流れていくのを眺めていると、夏雲の影がせわしく近づいて来るのを感じた。住宅地からのどかな田園地帯、茶畑を通り過ぎると、景色は少しずつ山深くなった。手を伸ばせば山の地肌に届きそうなほど近づいたかと思うと、今度は徐々に大井川に接近。川の浅瀬で泳いでいる子どもたちが汽笛の音に一斉に振り返り、「バイバーイ!」 と大きく手を振るのが見えた。僚介も夢中になって、「バイバーイ!」 と返した。 途中、SLは呼吸を整えるかのように「ガタガタガタッ!」と大きく揺れた。上り坂に挑むドラフト音は、正にSLらしい力強い響き。美智子は、その肝の据わった強靭さを体感しながら、自分も強くなりたいと思った。 とその時、美智子のバッグの中でケータイが震えた。暫らく放って置いたがその震えは止まない。相手は分かっている。ためらいながらもケータイを取った。「おまえ一体どこで何やってんだ!? 僚介もそこなのか?」 猛烈な勢いで怒鳴る大介の声に、美智子はむしろ安心した。 黒い煙が渦を巻いて、夏のジリジリとした大気中に溶けてゆく様子を、美智子はぼんやり眺めていた。(了)
2010.02.20
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「時代は変わるんだよ」「人も変わる」「・・・俺のことか? そいつは正確じゃない。車も同じなら家も同じだ」「車や家のことじゃない」決してバブルの頃を懐かしむつもりはない。だがどういうわけか、本作「トランスポーター」シリーズを観ると、あの浮かれ騒いだバブリーな時代を思い出させる。もちろん、吟遊映人は金も名誉もないしがない学生の身分だったのでバブルとは無縁であったが、同年齢の学生の中には真っ赤なポルシェに乗って大学まで通う輩もいたから、今思えばもう笑うしかない。本作「トランスポーター3」は、言わずと知れたカッコイイプロの運び屋が主人公のカー・アクション映画である。主人公フランク・マーティンに扮するジェイソン・ステイサムのスタイリッシュな着こなしが効果的なのかもしれないが、頭のてっぺんから足のつま先までブランドで固められている。ダンヒルのワイシャツにディオールのスーツ、それにネクタイ。さらにはパネライの腕時計。愛車はアウディ。申し分のないセレブ・ガイなのだ。こんなご時世だからこそ景気の良い衣装や小物にはご利益さえ感じられるから不思議だ。 どんな依頼品でも確実に届けるプロの運び屋フランク・マーティン。そのフランクの家にある夜、一台の車が突っ込んで来た。ドライバーは瀕死の重傷を負っていて、パスポートを確認すると、なんとフランクの運び屋仲間であることが判明。フランクは急いで救急車を呼んだものの、その男は何かを必死で訴えようとする。まもなく男は救急隊によって運び出され、フランクは何気なく残された車内を調べる。 すると、後部座席にロシア人(後にウクライナ人と判明)と思われる女性が同乗しているではないか。その女性に車から降りるように言うと、車からは離れられないと言う。なぜなら車から離れると、ブレスレットが爆発するしくみになっていると言うではないか。前作に続いて本作も、息もつかせぬほどのドキドキハラハラ感でアクションを堪能させてくれる。見どころは、ジェイソン・ステイサムが自転車に乗って盗まれた愛車を追いかける壮絶なシーンだ。市場の人ごみを突き抜け、工場の中をスイスイと横切り、漸くの思いで追いつくプロセスは観ているこちらまで息切れしてしまうド迫力なのだ。意外だったのはヒロイン・ヴァレンティーナ役に扮した女優さんがとても若く、主役のジェイソン・ステイサムと一回り近い年齢差を感じてしまった点だろうか。だが、愛に年の差はない。ハッピーで陽気なラストに、フランスの平和な国民性を観たような気がした。ファンを裏切らないカー・アクション映画なのだ。2008年(仏)、2009年(日)公開【監督】オリヴィエ・メガトン【出演】ジェイソン・ステイサム、フランソワ・ベルレアンまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。 See you next time !(^^)
2010.02.19
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2010.02.18
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2010.02.16
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2010.02.15
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「長ぇことここさいっと、つくづく思うのやの。死は門だなって。死ぬっていうことは終わりっていうことでなくて、そこをくぐり抜けて次へ向かう・・・まさに門です。私は門番として、ここでたくさんの人を送って来た。“いってらっしゃい”“また会おうの”って言いながら」ハリウッド映画にはなくて、日本映画にあるもの・・・その逆は数え切れないほどあげられるのだが。日本映画の素晴らしさは、激しいアクションシーンやCGによる視覚的効果などではない。 むしろ、監督の撮影方法や編集術、さらには役者の機微な演技力による高度な演出であると言えるかもしれない。その分、ストーリーは重視されるし、ロケ地も適した街を選りすぐるためかなり限定される。正に、監督と役者とそれを支えるスタッフによる三位一体の賜物なのだ。本作「おくりびと」は、言わずと知れたアカデミー賞外国語映画賞を受賞した話題作である。他に、モントリオール世界映画祭ではグランプリを獲得している。それもそのはず、死者に敬意を払う日本独特の善き風習が、この作品からは香り高く上質に描かれている。海外メディアが放って置くはずがないのだ。プロのチェロ奏者として活動していた小林大悟は、ある日突然楽団が解散してしまい、無職になる。途方に暮れた大悟は、妻の美香とともに山形県酒田市の実家へ帰る。大悟の母親は病気で亡くなっており、父親は大悟が幼いころ失踪していて実家は空き家になっていた。就職先を探すうちに、新聞の求人欄に目を留める。「旅のお手伝い」とあったため、てっきり旅行代理店の求人に違いないと思い込み、さっそく面接を申し込む。ところがよくよく業務内容を聞いてみると、納棺師という仕事であったのだ。出演者の顔ぶれに山崎努を確認して、とても懐かしい記憶がよみがえった。今は亡き、伊丹十三監督作品である「お葬式」を思い出したからだ。そこで山崎努は主人公を演じているのだが、タイトルの辛気臭さとは裏腹に、実におもしろおかしかったのを覚えている。本作「おくりびと」においても、NKエージェントの社長という役が山崎努以外には考えられないほどのハマリ役であった。また、本木雅弘の納棺師としての作法が見事に様になっていて驚愕した。役作りにかなり力を入れたのであろう。努力の跡がじわじわと感じられる流麗な演技であった。2008年(日)、2009年(米)公開【監督】滝田洋二郎【出演】本木雅弘、山崎努、広末涼子また見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。 See you next time !(^^)
2010.02.14
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「僕の運命って?」「それは自分で見つけるのよ。人生はチョコレートの箱。食べるまで中身は分からない」 ロバート・ゼメキス監督のテーマと言って良いのか分からないが、人間が自己をそのまま受け入れることの大切さを表現しているようだ。例えば本作「フォレスト・ガンプ」においては、知能指数の低い主人公が他者からのイジメにあいながらも、自分のできる範囲内で努力をして、いつの間にか世間に認められるという実に前向きで希望をたたえた作品なのである。完璧ではない不完全な人間が、自分自身とどうやって折り合いをつけていくのかという人生哲学的テーマが滾々と流れているのだ。アラバマ州グリーンボウに住むフォレスト・ガンプは、母一人子一人の母子家庭に育つ。 フォレストは知能指数が低く、歩き方に癖があったため幼いころから足の矯正機を付けていた。小学校に入学しスクールバスで通学するようになると、フォレストはイジメの対象となるが、ジェニーだけはフォレストに優しく、いつしか仲良しの二人になる。ある日、フォレストが同級生から石を投げつけられ自転車で追いかけ回されると、そばにいたジェニーはフォレストに向かって叫ぶ。「フォレスト、走って! 走って逃げるのよ!」と。するとフォレストは、取り付けられていた足の矯正機をバラバラと壊しながらも風のように走り出したのである。フォレスト役に扮するトム・ハンクスとは、「キャスト・アウェイ」においてもゼメキス監督とタッグを組み、実に息の合った監督と役者の相互関係となっている。ダン中尉役のゲイリー・シニーズも、ベトナム戦争で両足を失くした軍人役として、どこか孤独で自暴自棄に陥り荒んだ心を持つ男というキャラクターを見事に演じている。「フォレスト・ガンプ」は、人が誰かに支えられながら、そして自分も誰かを支え愛していくことの大切さを表現した、最高のヒューマン・ラブストーリーなのである。1994年(米)、1995年(日)公開【監督】ロバート・ゼメキス【出演】トム・ハンクスまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。 See you next time !(^^)
2010.02.09
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「この世を司る力は人間を超えているのです。たとえ女王でもその力を従わせることはできません。・・・(しかし)一つだけ言えます。嵐に襲われた時、人が取る行動はそれぞれ異なります。ある者は恐怖で凍りつき、ある者は逃げ、ある者は隠れ、ある者は・・・鷲のように翼を広げ風に乗って舞い上がります」本作の主人公エリザベス一世の役に扮するのは、ケイト・ブランシェットである。ケイト・ブランシェットをポストメリル・ストリープと表現して良いかどうか迷うところだが、とにかく演技派として名高い。モデル上がりのにわか女優とは違って、出身地でもあるオーストラリアで地道に演技を学んで来た人物なのだ。その甲斐あって本作におけるエリザベスは、まるで現代にその魂が甦ったかのような、重厚で品のある人物像に完成されていた。とにかく素晴らしい、見事な役作りである。イングランド女王として即位したエリザベスのもとへ、新大陸や世界の海を冒険して来たウォルター・ローリーという男が現れる。お世辞やおべっかに辟易していたエリザベスにとって、歯に衣着せぬ物言いをするウォルターは新鮮でしだいに惹かれてゆく。一方、幽閉中のメアリー女王がエリザベスの暗殺を狙っていた。スコットランド女王であるメアリー・スチュアートは、イングランド王家の血統であり、エリザベスを敵視していたのだ。しかし、メアリー女王の陰謀は露見され、斬首刑にされる。その後、スペイン国王のフェリペ二世がイングランド制圧に乗り出して来るのだった。 この作品は、歴史のあらましを知るための良き教材としてもオススメである。高校の世界史の授業では、主な登場人物と戦争の名前を丸暗記する程度で終わってしまうようなことでも、こうして物語として鑑賞するとかなりスムースに整理できるのだ。本作「エリザベス」の見どころは、やはりなんと言ってもスペインの無敵艦隊をイングランド海軍が撃破する場面であろう。この海戦の勝敗によりスペインは没落、一方イギリスは右肩上がりの“ゴールデン・エイジ”を迎えるのだ。受験生必見の歴史大作なのだ。2007年(英)、2008年(日)公開 【監督】シェカール・カプール【出演】ケイト・ブランシェット、クライヴ・オーウェンまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。 See you next time !(^^)
2010.02.05
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「見えなかった境目が・・・見えてきた気がする」「一度堕ちた人間は二度と真っ当には戻れねぇんだよ・・・特に血の匂いが染みついた人間はなぁ」「・・・あんただけは許すわけにはいかない」座頭市といえば勝新太郎。そのイメージがあまりにも強くて、その女性ヴァージョンというのが思い浮かばない。 だが本作「ICHI」を観たことで、あのギラギラした男クサイ座頭市からスコーンと抜け出たような気がする。タイトルも横文字を使用していてモダンな雰囲気さえ漂う。盲目の女旅芸人なら、このぐらい粋でなくてはサマにならないというのも一理ある。内容的には悲恋モノかもしれない。だが、世間から虐げられて来た盲目の女旅芸人が、つかの間の優しさに触れ心を開いていくプロセスは、実に前向きである。生きるということがなかなかどうして一筋縄ではいかないことも、物語は厭味なく教えてくれる。盲目の三味線弾きである市(いち)は、万鬼の手下であるならず者たちから因縁をつけられる。そこへ、市を助けようと浪人・藤平十馬が現れるが、手が震えて刀が抜けない。そうこうしているうちに市は十馬の助けなど必要もなく、ならず者たちを一刀両断のもとにしてしまう。その後、二人はある宿場町へたどりつき、賭博場へ顔を出す。しかし、その町全体が万鬼一党に牛耳られ、精彩を欠いているのだった。女性が主人公ということもあり、作品は狂信的な暗さを避けようと、モダンで叙情的な流れにこだわっている。そんなわけで音楽も海外からリサ・ジェラルドを抜擢し、挿入曲として起用している。 リサ・ジェラルドは、「グラディエーター」の楽曲も担当しており、ハリウッド映画界の音楽の巨匠であるハンス・ジマーと共にゴールデングローブ賞作曲賞を受賞している。本作を音楽性からぐぐっと盛り上げているのも、彼女の見事な音楽性が効果を加味している。ヒロイン市役の綾瀬はるかも、けなげにこの大役に臨んでいて好演。ファン必見の映画なのだ。2008年公開【監督】曽利文彦【出演】綾瀬はるか、大沢たかお、中村獅童また見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。 See you next time !(^^)
2010.02.01
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