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2008.10.24
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カテゴリ: 映画/時代劇
【蝉しぐれ】
20130311semi

「何事が起きたのかお聞かせ下さい。」
「それは・・・いずれ分かる。しかしわしは恥ずべきことをしたわけではない。わたくしの欲ではなく、義のためにやったことだ。おそらく後には反逆の汚名が残り、お前たちが苦労することは目に見えている。だが文四郎は父を恥じてはならん。そのことは胸にしまっておけ。」


原作を読んでいるだけに、映画を観てがっかりするのは避けたかった。
「蝉しぐれ」を一気呵成に読んだ時、私の頬は涙に濡れ、胸の切なさを抑えるのに難儀したほどなのだから。
藤沢作品の金字塔であるこの小説は、単なる時代小説などではなく、青春文学でもあり、純文学でもある。
今回、機会があって映画化された「蝉しぐれ」をDVDで鑑賞したのだが、なかなかどうして侮れない。
藤沢作品にふさわしく、格調高い仕上がりであった。
当初、小説の中で展開される詩的とも言うべき風景描写を、一体どうやって映画の中で表現するのだろうかと疑問に思っていた。
なぜなら、小説はあくまで幕末の、時間がゆったりと流れていく、たくさんの自然美に溢れた時代設定なのだ。
『いちめんの青い田圃は早朝の日射しをうけて赤らんでいるが、はるか遠くの青黒い村落の森と接するあたりには、まだ夜の名残の霧が残っていた。じっと動かない霧も、朝の光をうけてかすかに赤らんで見える。』
この辺りの描写は、限りなくそれに近い風景として、作中、見事な映像美となって表現されており、脱帽した。


幕末の山形県庄内地方が舞台となっている。
剣術に秀で、道場では期待の俊才である文四郎は、逸平や与之助と仲良し3人組。
ある日、後継者問題が勃発し、藩内を二分する政変が起こる。
文四郎の父もこれに巻き込まれ、切腹を余儀なくされ、牧家の家禄没収という厳しい運命に直面する。
一方、道場では落第の与之助であったが学問に優れていたため、江戸へ旅立つことに。

また、逸平は城に勤め始める。
密かに心惹かれていた隣家のおふくは、江戸藩邸に奉公するため国許を去る。
若者たちは、それぞれの道を歩み始めるのだ。

手も握ることなく、ましてや肌を寄せ合うこともなく、ただお互いの淡い恋心を胸に秘めて、過ぎ行く時を惜しむ気持ちがわかるだろうか?
たとえ遠く離れていても、相手の息災を信じ、ただひたすら精進するのだ。
そして一たび相手の身に異変があった際には、何を置いても駆けつけて守り抜く強靭な力。

今生で結ばれることは叶わずとも、来世はきっといっしょになりたいと痛切に願う想い。

あなたは本当に誰かを愛したことが、ありますか?
純愛を信じますか?
藤沢周平の作品には、清らかな泉のような潤いがそこかしこに感じられる。

※先日、お亡くなりになりました緒形拳さんのご冥福を、心よりお祈り申し上げます。


【監督】黒土三男
【出演】市川染五郎、緒形拳

20130124aisatsu





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最終更新日  2013.03.11 15:07:04
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