全8件 (8件中 1-8件目)
1
【男はつらいよ~寅次郎恋歌~】「庭一面に咲いたりんどうの花、あかあかと明かりのついた茶の間、にぎやかに食事をする家族たち・・・私はその時、それが・・・それが本当の人間の生活ってもんじゃないかと、ふとそう思ったら、急に涙が出てきちゃってね。人間は絶対に一人じゃ生きていけない。逆らっちゃいかん。人間は人間の運命に逆らっちゃいかん。そこに早く気がつかないと、不幸な一生を送ることになる。分かるね、寅次郎君。分かるね?」「へい、分かります・・・」シリーズ8作目は、初代おいちゃん役の森川信が最後の出演を果たしている。そういう意味で、『男はつらいよ』シリーズの初期作品の節目ともなっている。森川信はコメディ俳優であり、大阪を拠点に森川信一座として活躍した際には、作家の坂口安吾に絶賛されたとのこと。(ウィキペディア参照)それもそのはず、おいちゃん役は3回入れ替わったけれど、あの寅次郎の親族に相応しいキャラを持ち合わせていたのは、何と言っても森川信だけだ。だんご屋の主人とはいえ、あくせく働く様子はなく、昼寝をしたり、タバコを吸ったり、タコ社長とくだらないお喋りをしたりと、どこか寅次郎の気ままな性格とオーバーラップするのだから。これが血縁というものなのだろう。渥美清と森川信のコミカルな演技合戦は、この作品で最後となるのが何とも惜しい。8作目のストーリーは、これまでになくテーマがはっきりしていたように思える。それは、ささやかな日常生活にこそ本当の幸せがあるのだという、家族団らんへの憧憬みたいなものだ。高度成長期まっただ中の、ややもすれば働き過ぎのお父さんたち、あるいは金儲けに目のくらみがちな日本人全体に向かって、平凡な日常生活にこそ己の存在価値があることを伝えたかったのかもしれない。話はこうだ。ある日、岡山から一通の電報が届く。それは博の母が危篤だというものだった。さくらはすぐに博に知らせると、二人は急遽、岡山へ行くことにする。二人が岡山の実家へ到着した時には、すでにお通夜が始まっていた。葬儀当日、親族側に座っていたさくらを驚かせたのは寅次郎だった。というのも、たまたま岡山で商売をやっていたところ、博の母が亡くなったことを知り、焼香をしに来たのだという。喪服を着ていない普段着の寅次郎に、さくらは恥ずかしさやら何やらで戸惑ってしまう。葬儀が済んで、博やさくらが東京へ帰った後も、寅次郎は何となく一人残された博の父親のことが気にかかり、岡山へ居ついてしまう。そんなある晩、博の父親がしみじみと語るのは、自分のこれまでの人生を振り返り、平凡な暮らしこそが幸せなのだということに気づいたとのこと。寅次郎に人並みの生活をするように、遠回しに忠告するのだった。その話に感じ入った寅次郎は、翌朝には岡山を発ち、柴又へ帰郷する。ところが例によって寅次郎は題経寺のすぐそばで喫茶店を営む美人店主・六波羅貴子に一目惚れしてしまうのだった。本作でのマドンナは、池内淳子である。この女優さんもまた薄幸な感じがして、その上、上品でしかも後家さんという設定が憎らしいほどマッチしている。寅さんが夢中になってマドンナの経営する喫茶店に足を運ぶのもよく分かる。今回は、こっぴどいふられ方をするわけでもなく、二枚目の恋人が現れるでもない。単に寅さんがこの辺が潮時だと見切りをつけるのだ。それはおそらく、マドンナ・貴子が「あちこち旅に出かけられるなんて羨ましい」と言ったひとことで、心が離れたのではなかろうか。つまり、そんなに甘いものではないのだと、喉まで出掛かりながら、しょせん自分と貴子とは住む世界が違うのだとあきらめの境地になったのではなかろうか。8作目は、ストーリー展開も然ることながら、出演者一人一人が演技の奥行きを存分に発揮した作品となっている。コメディ色は抑えられ、ヒューマン・ドラマの域にまで達した、山田洋次監督渾身の一作に思えた。1971年公開【監督】山田洋次【出演】渥美清、倍賞千恵子、池内淳子寅さんシリーズ『男はつらいよ』 コチラ寅さんシリーズ『続・男はつらいよ』 コチラ寅さんシリーズ『男はつらいよ フーテンの寅』 コチラ寅さんシリーズ『新・男はつらいよ』 コチラ寅さんシリーズ『男はつらいよ~望郷篇~』 コチラ寅さんシリーズ『男はつらいよ~純情篇~』 コチラ寅さんシリーズ『男はつらいよ~奮闘篇~』 コチラ
2013.08.25
コメント(0)
【男はつらいよ~奮闘篇~】「あの娘ね、ここが少しおかしいねぇ」「そうかい?!」「分かんないかね? そりゃね、ちょいっと目には可愛い女の子でとおるけども、よく見てごらんよ、目もとなんざ変にこう間が抜けててさ。たぶんどっかの紡績工場から逃げ出したに違いないよ・・・うん、今人手不足だからね。工場の人事課長なんかが田舎へ行って、そいでまぁ変な娘だけども頭数だけ揃えておきゃあって引っ張って来たもんの、人並みに働けねぇ。しょっちゅう叱られてばかりで嫌になって逃げ出すってやつよ。そのうち悪い男に騙されて、バーだキャバレーだ、あげくにストリップなんかに売り飛ばされるんじゃねぇかなぁ・・・可哀そうに」シリーズ7作目はこれまでの作風とちょっと毛色が違う。これまでマドンナと言ったら、美人で気立てが良くて、どことなく薄幸な雰囲気を持っていたものだが、今回は知的障害者の少女がマドンナとして登場する。この少女、太田花子役に扮するのは榊原るみだ。素朴ながらチャーミングで、寅さんが片時も放っておけなくなるようなあどけなさを、見事に演出している。集団就職で東北から沼津の紡績工場に働きに来ていたというマドンナの設定も、何やら時代を感じさせてくれるものだ。作品冒頭では、寅さんの母・キクが久しぶりに登場するのだが、演じているミヤコ蝶々がやっぱりいい!芸者上がりとはいえ、今や立派な(?)ホテルの経営者としてとらやにハイヤーで乗りつける様子などは、かえって涙ぐましい。「帝国ホテルでございます」と、自分の滞在しているホテルの名前を誇らしげに2度もくり返すシーンなどは、やっぱり寅さんの母親だと思わず頷いてしまった。(笑)さて、話はこうだ。柴又のとらやに黒塗りのハイヤーが止まった。中から出て来たのは寅さんの実母・キクであった。寅さんが『結婚することになった』というハガキをキクに出したせいで、やっと都合をつけて東京にやって来たのだった。結局、寅さんの結婚話はなかったことが分かり、それがもとでケンカ。例によって寅さんはとらやを去る。寅さんは静岡県は富士から沼津にかけて、行商の旅にあった。ちょうど沼津でラーメンを食べている時に出会ったのが、太田花子という少女だった。 寅さんはすぐには気づかないのだが、ラーメン屋の店主が言うには、その少女は少しばかり頭が弱いとのこと。それを聞いた寅さんは、無性に少女のことが可哀そうになるのだった。見どころは何と言っても、人間国宝である5代目柳家小さんがラーメン屋の店主として登場するシーンであろう。ほんのチョイ役なのに、これほどの存在感はスゴイ!芝居じみていなくて、実際こういう店主はフツーにいると思える演技力なのだ。これはやっぱり噺家としての“芸”なのだろうか?お見事としかいいようがない。さらに、知的障害者である花子の恩師・福士先生のセリフを借りて、山田監督の障害者教育への願望が垣間見られる。津軽訛りが郷愁を誘い、何とも言えない切なさの残るストーリー展開となっている。個人的にも大好きな作品だ。1971年公開【監督】山田洋次【出演】渥美清、倍賞千恵子、榊原るみ寅さんシリーズ『男はつらいよ』 コチラ寅さんシリーズ『続・男はつらいよ』 コチラ寅さんシリーズ『男はつらいよ フーテンの寅』 コチラ寅さんシリーズ『新・男はつらいよ』 コチラ寅さんシリーズ『男はつらいよ~望郷篇~』 コチラ寅さんシリーズ『男はつらいよ~純情篇~』 コチラ
2013.08.19
コメント(0)
【男はつらいよ~純情篇~】「おいちゃん、大丈夫かな? どうも頼りねぇな、あの医者は」「大丈夫だよ。あの医者はちょっとでも自信がねぇと、すぐ他の医者を紹介するんだ。その点信用していいよ」「情けねぇ医者だなおい、じゃずい分殺してんだろ?」『男はつらいよ』シリーズも6作目になると、なんとなく、というか完全にパターンが見えて来る。ラストの失恋して柴又を去るシーンはともかく、寅さんの目を通して親子の情愛を見たり、夫婦間のトラブルを見たり、一般的な人々が抱える様々な問題を取り上げ、見ごたえのあるストーリー展開となっている。こういう小さなテーマをたくさん集めて、その時代の世相を反映した作品に仕上げる労力は、たとえ毎回パターン化した展開であっても、新しさを感じるから不思議だ。本作でのマドンナは大映のトップスターである若尾文子である。それはもう上品なうえに落ち着いた物腰で、チラリと登場しただけでも圧倒的な存在感のある女優さんだ。和の美しさをかもし出すこの手の女優さんは、現代では珍しい。実際にはとてもサバけた人柄で、女々しいところがないらしいのだが、そんな気風の良さも品よくオブラートに包んで、お淑やかさを前面に演出できるのも、さすがはトップスターのことだけはある。話はこうだ。長崎で五島に渡る船を待っていたところ、赤ん坊を抱いた女を見かける。訊けば女も五島へ渡るつもりらしいのだが、あいにく最終の便が出てしまい、明日まで船は出ない。金がないから貸してくれという女をかわいそうに思った寅さんは、自分の泊まる宿に一緒に連れて行くことにする。翌日、五島に渡った女の実家までついて行くハメになった寅さんは、貧しい父親の暮らしぶりを目の当たりにしながらも、娘の甘えを許さない父親の深い情愛に胸を打たれ、東京へ帰りたくなってしまう。結局、寅さんは柴又へ帰って来ると、どうもおいちゃんもおばちゃんも自分を歓迎しないよそよそしさがある。訊けば、寅さんの部屋を誰かに貸してしまったとのこと。寅さんは怒って出て行こうとすると、その下宿人にバッタリ遭遇。それは、おばちゃんの遠縁にあたる夕子という美しい女性で、亭主と上手くいっておらず、別居のための仮住まいをさせてもらうことになったのだ。寅さんは、例によって夕子に熱を上げてしまい、旅に出るのを先延ばしするのだった。 見どころとしては、さくらの亭主である博が、タコ社長のところの印刷工場を辞めて独立しようとする動きを見せるくだりだ。この時の博のとんがり様はスゴイ。これこそが山田監督の演出かもしれないが、学歴にコンプレックスを抱く博が、唯一皆を見返せるのは、独立して自分の工場を持つこと。つまり、経営者となって人の上に立つことなのだ。これを達成するにはまず金がいる。ふだんは疎遠になっている田舎の父親に借金を申し込んだり、頼りにならないはずの寅さんを味方につけて、タコ社長を説き伏せてもらおうとするくだりなど、なかなか話の流れに説得力がある。だが、そんな博の行動を冷静に見つめるさくらは、もっと上をいく。そんなに物事がトントン拍子には運ばないことを、誰よりも痛感している演出だ。さらに、夕子が体調を崩してヤブ医者が往診に来るのだが、このあたりも面白い。ヤブ医者に扮するのは松村達雄で、後においちゃん役となる役者さんだ。良い意味でいいかげんな団子屋の主人にふさわしい、味わいのある演技を見せてくれることになる。6作目は、寅さんが寅さんらしく、生き生きと描かれていることに注目だ。初めて視聴するにも全く問題のない作品にも思える。シリーズ初期の代表作と言っても過言ではないかもしれない。1971年公開【監督】山田洋次【出演】渥美清、倍賞千恵子、若尾文子寅さんシリーズ『男はつらいよ』 コチラ寅さんシリーズ『続・男はつらいよ』 コチラ寅さんシリーズ『男はつらいよ フーテンの寅』 コチラ寅さんシリーズ『新・男はつらいよ』 コチラ寅さんシリーズ『男はつらいよ~望郷篇~』 コチラ
2013.08.11
コメント(0)
【男はつらいよ~望郷篇~】「寅さんたら、だんご屋だんご屋って言うから、私てっきり屋台の方だと思ってたら立派なお店みたいじゃないの」「何が立派だよ、犬小屋に毛が生えたようなもんだよ」「帝釈様の門前町にあるんでしょ? 立派なもんよ」「帝釈様なんて、豚小屋みてぇなもんで」「あら有名なお寺じゃない! 写真で見たわよ、裏に江戸川が流れてて」「あんな川、ドブ川みてぇなもんで」 『男はつらいよ』は、もともとテレビドラマから始まってブレイクした。だが実際、なじみ深いのは映画作品の方である。ほとんどの人がそうではないだろうか?シリーズ5作目は、『男はつらいよ』の完結篇として製作されたこともあり、テレビドラマの出演者を総動員させてのキャスティングで、そうそうたる顔ぶれとなった。マドンナ役は長山藍子で、テレビドラマの方ではさくら役を演じており、山田監督とは気心の知れた女優さんだ。とはいえ、映画ではさくら役を倍賞千恵子が演じており、その知性美や物腰にとうてい及ぶものではない。圧倒的な存在感でさくら役を印象付けたのは、倍賞千恵子であろう。だから個人的には倍賞千恵子に軍配を上げたい。今回の寅さんはこれまでになくマドンナとの結婚を意識して、堅気になろうとするプロセスがクローズアップされている。それだけに寅さんの想いに全く気づかないマドンナには、滑稽なほどの失恋をしてしまうのだが、それもまた「らしさ」となって効果的に生かされている。話はこうだ。寅さんは旅先で、おいちゃんが重病で亡くなる不吉な夢を見てしまう。心配になって柴又に帰ってみると、たまたま暑さのために横になっているおいちゃんを見てびっくり。寅さんは、「やっぱり夢は正夢だったのか」と、葬儀屋から題経寺の住職・御前様などに段取りまでつけてしまうのだった。早とちりとはいえ、死人扱いされたおいちゃんは怒って寅さんと大ゲンカ。結局、いつものように寅さんは出て行くはめに。その後、舎弟の登から札幌の極道仲間が重病だという知らせを受け、慌てて見舞いに行く。すると病院のベッドに、枯れ枝のように横たわる寝たきり老人となってしまった姿を見て、寅さんは驚き悲しむ。身寄りのない極道者が、最後のよりどころとしたのは、20年も前にほったらかした女に生ませた息子のことだった。寅さんは、登といっしょに必死で探し出し、息子を病院まで連れて行こうとするが、「20年もほったらかしておいて、今さら親子などとムシのいいことを言わないで欲しい」と、拒絶されてしまう。寅さんは仕方なくあきらめ、病院に戻ってみると、すでに仲間は息を引き取っており、極道者の惨めな末路をしみじみと実感するのだった。このことがきっかけで、寅さんは堅気になろうと決意。千葉県の浦安にある小さな豆腐屋で働くことにした。その店には、老いた母親と、若くて気立ての良い節子という娘が住んでおり、男手のなかった二人には寅さんが願ったりの働き手であった。寅さんは朝早くから汗と油にまみれて働くのだが、それもこれも、例によって、節子という明るくチャーミングな娘に惹かれてのことだった。皮肉なものだと思うのは、山田監督がこの5作目で一区切りつけようと思って、これだけゴージャスなキャスティングを揃えてやってみたところ、当然のように爆発的な人気を呼んだ。結果、『男はつらいよ』のシリーズが延長されることになるのだから不思議だ。おそらく、テレビドラマからずっと楽しんで来た方々は、この作品で、さくら役が完全に長山藍子から倍賞千恵子に、博役が井川比佐志から前田吟に、おばちゃん役が杉山とく子から三崎千恵子に交代したことを、改めて実感したのではなかろうか?さすがは天下の山田洋次監督の演出だけのことはある。見ごたえたっぷりの内容となっている。1970年公開【監督】山田洋次【出演】渥美清、倍賞千恵子、長山藍子寅さんシリーズ『男はつらいよ』 コチラ寅さんシリーズ『続・男はつらいよ』 コチラ寅さんシリーズ『男はつらいよ フーテンの寅』 コチラ寅さんシリーズ『新・男はつらいよ』 コチラ
2013.08.04
コメント(0)
【新・男はつらいよ】「とにかくな、人権問題だからな!」「人権だかジャンケンだか知らねぇけどな、俺のやり方に不服ならよ、トットと越してもらおうじゃねぇか、このタコ!」「言いやがったな! よし、じゃ出るとこ出ようじゃねぇか!」「お? なんだ警察か? 警察沙汰にすんのか? おう! 警察結構! 結構毛だらけタコ糞だらけだ!」 この当時の松竹映画の破竹の勢いはスゴイ。というのも、つい前作『フーテンの寅』が公開された1970年同年に、本作『新・男はつらいよ』が封切られている。いくらシリーズ化されたとはいえ、その人気の凄さが垣間見られる勢いというものだ。 松竹にとってこの『男はつらいよ』は、ドル箱ならぬ円箱とも言える作品だったに違いない。なんと言っても寅さんは風を切って肩で歩く姿がたまらなく粋だし、セッタをつっかけてブラリブラリと流す背中に哀愁さえ感じる。だが、やることなすことコミカルで三枚目なのが、単なるヤクザという枠組みから解放してくれる。滑稽さはある意味、人を癒してくれる精神的医術にも通じる。『新・男はつらいよ』のあらすじは、次のとおりだ。金欠の寅さんは神仏に祈るような気持ちで競馬場に来ていた。それが天に通じたのかどうか、大穴を当てることができた。寅さんはさっそく百万円という大金を持って、名古屋から柴又までハイヤーに乗って凱旋する。とらやでは、ハイヤーに乗って帰って来た寅さんに大仰天。商店街じゅうが寅さんの噂で持ちきりとなった。寅さんは、おいちゃんとおばちゃんをハワイ旅行に行かせることにした。というのも、日ごろ何かと面倒をかけている親代わりの二人に何かと恩返しをしたいと思ったからだ。さっそく旅行会社に勤務する舎弟の登に、ハワイ旅行の手筈を整えさせたところ、なんと、登の会社の社長が大金に目がくらみ、持ち逃げしてしまったのだ。こうして、寅さんの恩返しであるハワイ旅行はドタキャンとなってしまった。それからてんやわんやして一ヵ月後、いったんはとらやを去った寅さんだったが、再び帰郷。おいちゃん夫婦の様子を見に寄ったのだ。すると、いつも自分の使っている部屋を他人に貸しているというではないか。半ばふて腐れる寅さんだが、下宿人を見て驚いた。なんと、若くて美しい幼稚園の先生だったからだ。この作品でのマドンナ役、幼稚園の先生・春子に扮するのは、栗原小巻である。いやそれはもうチャーミングで、寅さんがひとめぼれしてしまうのも納得がいく。栗原小巻は俳優座の15期生で、活動は主に舞台の方だ。知的な美しさを感じさせる女優さんなので、幼稚園の先生役というキャスティングも申し分ない。寅さんが春子先生にメロメロといういつもながらの一目惚れから、ストーカー行為一歩手前なぐらい(?)のやりとりも、実にコミカルで笑える。全体的にオーソドックスな寅さんとしてまとめられた作品である。1970年公開 【監督】小林俊一【出演】渥美清、倍賞千恵子、栗原小巻寅さんシリーズ『男はつらいよ』 コチラ寅さんシリーズ『続・男はつらいよ』 コチラ寅さんシリーズ『男はつらいよ フーテンの寅』 コチラ
2013.07.28
コメント(0)
【男はつらいよ フーテンの寅】「どんな人がいいんだい?」「注文なんかある訳ねぇじゃねぇか。どうせしがない旅鴉よ。ぜいたくは言えねぇよ。まぁババァでなきゃ誰でもってとこかな・・・強いて言えばさぁ気立てが優しいことぐれぇかな」「そのとおりだ。女は気立てが良くなきゃな」「他に取り立ててねぇけどね。ま、寝坊の女はいけないな。・・・あともう一つ、亭主に冷やっこい水で面を洗わせるのはよくねぇな。ちゃ~んとあったかい湯が沸いてなきゃあな」 『男はつらいよ』シリーズ第3作目にあたるこの作品は、タイトル通り、任侠映画さながらのソフトな(?)暴力シーンや威勢のいい罵声が飛び交う内容となっている。とはいえ、本来の寅さん像がちょっと残念な方に傾いてしまっているような気がしてならない。無論、いつものコミカルで三枚目な寅さんはここでも健在なのだが、なんというか、コミカルを通り越して単なる厄介者扱いされてしまっているところもあり、「それはちょっとどうよ?」とツッコミを入れたくなってしまうシーンも多々あった。例えばマドンナ役の新珠三千代。この女優さんの演技は本物だし、老舗旅館の女将という役柄に何の問題もない。だが脚本上のためか演出なのか、寅さんを体良く利用しておいて、その好意を知っていながらすかさず無視して自分は大学の教授とくっついてしまうという流れなのだ。ハッキリ言わせてもらうが、こういうマドンナには少しの魅力も感じないし、こういう旅館の女将に惹かれてしまう寅さんの気持ちも今一つ伝わって来ない。要するに、視聴者サイドの思惑に精一杯抗った「ヤクザな男のこっぴどい失恋喜劇」というコメディに作り変えられてしまっているのだ。話はこうだ。テキ屋稼業の寅さんは、久しぶりにおいちゃんおばちゃんのいる柴又に帰って来た。ちょうどそのころ、とらやの面々が寅さんの縁談について話し合っていたところなので、相手に望むことはあるかと訊くと、「ババァでなけりゃ誰でもいい」と言う。ところがその後に、亭主より早起きができて気が利いて料理が上手で・・・と、次々に注文が続き、おいちゃんは呆れて絶句。一ヵ月後、おいちゃんとおばちゃんが慰安も兼ねた旅行先で、ばったり寅さんと会う。 寅さんとはすったもんだあって、喧嘩別れしていたのだが、今はなんと湯ノ山温泉の番頭として働いているのだった。そしてどうやら、美しい未亡人で旅館の女将でもある志津に、寅さんが夢中になっているのだった。この作品においても、寅さんが恋の世話役として本領発揮を見せるところは頼もしい。 他人様の幸せを願ってあれやこれやと骨を折るところはさすがという気がする。(単なるおせっかいという見方もあるが・笑)コメディ映画でありながら、痛ましささえ感じたのは、元テキ屋の清太郎が不自由な体でろれつが回らなくなった状態をさらす場面だ。貧乏で、娘に苦労をかけねばならないというヤクザ家業の行く末を、暗にほのめかしていて、とうてい笑う気持ちにはなれない。第2作目の完成度が高かったせいか、物足りなさの感じる作品ではあった。1970年公開【監督】森崎東【出演】渥美清、倍賞千恵子、新珠三千代寅さんシリーズ『男はつらいよ』 コチラ寅さんシリーズ『続・男はつらいよ』 コチラ
2013.07.21
コメント(0)
【続・男はつらいよ】「人生相見ズ動モスレバ参ト商ノ如シ。今夕マタ何ノ夕ベコノ灯燭ノ光ヲ共ニス。寅、分かるか? この意味が」「ダメだよ先生。俺ぁ英語はぜんぜんダメだよ」「バカだなぁお前は。これは英語ではない、漢詩だ」 一作目もおもしろかったが、この二作目もおもしろいのなんのって!この作品で寅さんの産みの親が登場するのだが、さすがは寅次郎を産んだ母親のことだけはある。寅さんに負けじ劣らじの軽妙な喋りっぷり。この寅次郎の母・菊役に扮したのは、ミヤコ蝶々である。ミヤコ蝶々という人は、実におもしろいキャリアの持ち主で、生まれは東京チャキチャキの江戸っ子でありながら、幼少期に大阪に引っ越して喜劇人となるのだ。関西を代表する芸人でもあるため、いまだ根強い人気を誇る。二作目は見どころが盛りだくさんで、寅さんの葛飾商業学校時代の恩師とのやりとりも一興である。この恩師・坪内先生役に扮するのは、東野英治郎だ。この役者さんは皆さんご存知のとおり、『水戸黄門』における初代・水戸光圀役のベテラン俳優。頑固だけど人情に篤く義理堅いキャラクターは、東野英治郎の持ち味にピッタリだ。勉強のできない寅次郎だったが、純粋で飾り気のない性格を好しとし、どこまでも寅次郎を可愛がるところなど、何となく微笑ましい。また、この恩師が亡くなる場面に遭遇する寅次郎の、純粋さゆえに滑稽な演出というのもお見事。渥美清のリアリティー溢れる豊かな表情に脱帽だ。話はこうだ。久しぶりに柴又に帰郷した寅さんだが、珍しくお茶一杯で懐かしいだんご屋を後にした。 ところが行くあてもなく、ぶらぶらしていたところ、葛飾商業学校時代の恩師・坪内先生のお宅に目が留まる。玄関先での挨拶だけのつもりが、先生の一人娘・夏子に一目惚れ。ついつい長居してしまうはめに。その後、すったもんだあって、寅さんは再び柴又のおいちゃんおばちゃんのところで大ゲンカをし、逃げるように京都へ出向く。京都では噂に聞いていた母親の消息を知りたいと、仲間に頼んでいたのだが、なかなか会う決心がつかないでいた。そんな中、また偶然にも坪内先生とその娘・夏子が観光で京都に来ており、ばったり再開を果たす。寅さんは何気なく赤子のころ生き別れた母親の話をすると、坪内先生は「ぜひとも捜し出して、母親と会うように」とアドバイスをする。また、夏子も「いっしょに捜してあげる」と、寅さんと二人で母親・菊の居場所を捜索するのだった。二作目のマドンナ役は、佐藤オリエだ。親切で世話好きでしっかりとした性格の女性像は、フーテンの寅さんにとってあこがれの的であろう。思わず一目惚れしてしまう衝動がよく伝わって来るストーリー展開となっている。この二作目の成功によって、いよいよ『男はつらいよ』はシリーズ化していくのだ。見ごたえ充分の、人情喜劇である。1969年公開【監督】山田洋次【出演】渥美清、倍賞千恵子、佐藤オリエ、東野英治郎寅さんシリーズ『男はつらいよ』 コチラ
2013.07.14
コメント(0)
【男はつらいよ】「お兄ちゃん、あたし博さんと結婚する・・・決めちゃったの。いいでしょ? ねぇお兄ちゃん、いいでしょ?」「(うんうんと、頷く)」「お兄ちゃん、いろいろありがとう・・・」 松竹が誇るベストヒットシリーズと言えば、この『男はつらいよ』だ。日本人なら誰もがこういう人情喜劇映画に涙するはずなのだが、こればっかりは好みの問題になるので、断定的な物言いは控えることにする。というのも、私の友人の中には「ワンパターンで、水戸黄門の印籠みたいだ」と評した人物もいたからだ。そんな言われ方をしてしまうと、なんだか自分自身を否定されたような気持ちになり、おかしな被害妄想に囚われてしまった。だがそんな私も年齢を経て、どんな名作と言えども人には好き嫌いがあり、それだからこそ民主主義が成り立っているのだと気づくことができた。だから、私にとって『男はつらいよ』は、人の数だけ主義主張があることを教わった作品でもあるのだ。さて、記念すべき映画第一作目は、寅さんが20年ぶりに故郷である葛飾柴又に帰って来るところから始まる。この時の渥美清は本当に若々しく、ギラつくほどの威勢の良さがある。だんご屋を営むおいちゃん、おばちゃんも、まだ寅さんに~です・~ます調で話をするし、いくらか遠慮がちだ。そんな中、妹・さくら役の倍賞千恵子の品の良さと言ったらどうだ!作品上とは言え、渥美清(寅さん)の異母妹とはちょっとムリがあるだろう(笑)・・・それは冗談だが、とにかく清楚でチャーミングなのだ。私はこの倍賞千恵子の可愛さに、目が釘付けになってしまった。マドンナ役として新派の光本幸子が出演。役柄は、題経寺の住職・御前様の娘・冬子役である。こちらもまた深窓の令嬢と言った雅な物腰で、息を呑む優雅さだ。だが光本幸子は、惜しくも本年2月22日に他界している。おそらく、天国の渥美清と再会を果たしたのではなかろうか。特別出演には、黒澤作品では常連の志村喬が博の父親役として登場。いやもうこの役者さんの圧倒的な存在感には驚かされる。博とさくらの披露宴におけるスピーチのシーンでは、不覚にも涙がこぼれた。これが世の中の新郎の父親たる姿であろうと、大いに説得力のある、見事なワンカットだった。(実際の志村喬には、子どもはいなかったらしいが)第一作目が公開された1969年。この時代の世相を反映するかのように、様々なシーンに工夫が凝らされている。例えば、とらやの裏に印刷工場があって、そこの若い職工らを捕まえて「さくらは大学出のエリートに嫁にやるから、お前らは近づくな」と寅さんがふれ回った翌日、家屋の外壁に“暴力断固反対!”とか“出て行け寅!”などの貼り紙がしてあるのだ。ここのシーンは、さながら学生運動の一端を垣間見たようで、山田洋次監督の時代に敏感な映画作りを改めて認識した。古き良き昭和を堪能するのに相応しい名作である。1969年公開【監督】山田洋次【出演】渥美清、倍賞千恵子、光本幸子
2013.07.07
コメント(0)
全8件 (8件中 1-8件目)
1