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2013.04.10
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カテゴリ: 読書案内
【赤川次郎/ヴァージン・ロード】
20130410

◆アラサーの読む少女小説

私がミステリー好きになったのは、何を隠そう赤川次郎作品にハマってからだ、と言っても過言ではない。
もちろん、もともと『刑事コロンボ』シリーズとかヒッチコックの作品は大好きだったが、小説というカテゴリでは、断然、赤川次郎の書くミステリーにどっぷりと浸かっていた。それはもう『死者の学園祭』とか『赤いこうもり傘』を夢中になって読んだものだ。
女子中学生が初めて出合う少女小説への扉を開くように、私にとっては、ミステリアスな世界を覗き見るような感覚だった。
それだけ世の少年少女たちを魅了した赤川作品だが、実はこの作家、ミステリー小説だけを専売しているわけではない。海外作品で例えるなら、『赤毛のアン』に代わるような少女小説も見事に完成させている。
それが『ヴァージン・ロード』である。この作品は、赤川作品にしては珍しくミステリーを扱っておらず、完全なる少女小説である。
『赤毛のアン』においては、孤児のアンが、親切なマシューとマリラの二人に引き取られてすくすくと成長し、やがて優秀な成績でカレッジを卒業し、教師となるまでの過程を鮮やかに描くものだ。ラストは、ずっと首席を争っていたギルバートとのイイ感じの和解で結んでいるが、シリーズを読み進めていくと、アンはこのギルバートと結婚する。
『ヴァージン・ロード』についても、ちょっと似たような形式になっていて、30歳を目前にした叶典子が、友人の披露宴に出席したり、自分がお見合いしたり、弟の結婚についての相談にのったりと、やはり一人の女性の結婚までを追う物語となっている。
平成とは少し違う、昭和のあたたかな時間がのんびりと流れているのだ。

物語はこうだ。

ある時、アパートの隣人がお見合いの話を持って来た。相手の男性はバツイチ子持ち。あまり気の進む話ではなかったが、即座に断って角が立つのもいけないからと、渋々お見合いすることを了承した。
典子の田舎は九州だが、両親も、なかなか結婚の兆しのない典子を心配している。一方、典子の弟にはすでに彼女がいて、結婚は秒読みだった。
そんな中、典子宛に差出人不明の手紙が届く。そこには、「絶えず貴女の姿を身近に見て参りました」と書かれていた。

典子は東京で一人暮らしをするOLだが、結婚までのあれやこれやがまるで違和感なく綴られている。
普通、これだけ単調な小説だと、ムリにでも山場を作ってドラマチックに演出したりして、反って鼻白むことが多いのに、この作品にはそういうミスがない。話にリアリティを感じ、登場人物には好感すら持てる。そこには等身大のキャラクターが、真面目に日々を生活している姿が描かれているからだ。
平成を生きる我々の結婚観は、昭和のそれとだいぶ隔たりがあるとは思う。だが、それだからこそ人生の節目でもある結婚までのプロセスを語り尽くした小説を手に取るのは大切だと思うのだ。結婚について、真摯に向き合う者は幸いだ。結婚に至るプロセスは、人生に何度もあることではないラブ・ストーリーだからだ。
『ヴァージン・ロード』は、少女小説の好きな方にぜひともお勧めしたい。懐かしい、昭和の香りが甘美に漂う作品だ。

『ヴァージン・ロード』上・下巻 赤川次郎・著

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.59)は吉村昭の『冷い夏、熱い夏』を予定しています。


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最終更新日  2013.04.10 06:20:42
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