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2013.04.17
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カテゴリ: 読書案内
【柴田翔/されどわれらが日々-】
20130417

◆時代性を感じるも、青春文学の金字塔

60年代を知らない者にとっては、この作品はかなり手ごわい。芥川賞受賞作だと思って真剣に読んでみたところ、私など自分の解釈にいまだ自信が持てないでいる。
村上春樹の『ノルウェイの森』と同時代を扱ったものでありながら、こちらの『されど』の方は時代性を感じるし、半ば古典的なムードが漂う。
反戦とか全共闘運動が全国的に吹き荒れた60年代、若者たち(学生たち)は激動の学生生活を送った。
何かをせずにはいられない闘志のようなものが漲る中、一方で先の見えない漠然とした不安や、どうしようもない孤独を抱え苦悩する若い男女で、巷は溢れていたのだ。
そういう混沌とした世相を念頭に置いてから読まないと、作中で自殺者が2人も登場することに驚かなくてはならない。そしてその自殺の意味をあれこれ推測していくだけで、疲労困憊してしまうのだ。

話の概略を案内しよう。
主人公の大橋文夫は東大の英文学専攻の大学院生である。いつも立ち寄る古書店でH全集を見つけ、購入を決意するものの、一ヶ月のバイト代では足りないため、分割して買うことにした。
文夫には節子という婚約者がいて、毎週土曜日になると、文夫のアパートを訪れた。
節子は東京女子大学の英文科で、当時、最左翼として知られていた歴研に出席していた。


文夫は、駒場と本郷で平凡な学生時代を送っている間、節子以外の女にも恋をしていた。様々な女と情事に耽り、やがて女たちは文夫から離れて行った。性の解放を主張した世代でもあるため、それは特別なことではなかった。
中に、優子という女がいて、激しい感情のやりとりがあったが、文夫にはそれが恋愛と呼べるものかどうかは分からない。
優子とも当然のごとく肉体的結びつきがあったものの、避妊していなかったことで、優子が妊娠してしまうのだった。
だが文夫がその事実を知ったのは、優子が文夫に対して絶望し、自殺してしまった後のことだった。文夫は自己嫌悪に陥るのだった。

このように、つらつらと話を掻い摘んで整理してみると、青春小説に付き物ではあるが、かなり陰惨な影を落とすものだ。優れた小説にはありがちだが、著者の自己完結とも言えるどうしようもないあきらめムードが全体を覆っている。
婚約者である節子とも、どこか白けた関係で、ある種の投げやりな感じなのだ。節子も本当は文夫のことなど愛してはおらず、ムリして愛そうとしているような節さえ見受けられる。あるいは、もともと節子は文夫のことを愛しているのだが、文夫は節子が文夫を想うほどには節子を愛してはくれなかったため、愕然とし、悲哀に暮れているようにも思える。
世の中が混沌とし、学生の間では主義主張の風が吹き荒れる中、性の解放という言葉だけが虚しく宙に浮いている。
途中、細かい点で気になる箇所はあったが、概ね青春の苦悩を語る小説であることが分かる。
青春文学の金字塔とはいえ、時代背景も現在とはずいぶん異なる上に難解なので、精神史、風俗史として読むと、いく分気が楽になるかもしれない。

『されどわれらが日々-』柴田翔・著

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.61)は山本文緒の『ブルーもしくはブルー』を予定しています。


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最終更新日  2013.04.17 11:29:09
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