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2013.05.04
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カテゴリ: 読書案内
【山崎豊子/花のれん】
20130504

◆成功の秘訣はたゆまぬ努力となりふり構わぬ商売根性

この小説を読むきっかけとなったのは、私がもともと大阪のお笑いが好きで、吉本興業の創業者である吉本せいがモデルとなっているのを知り、興味を持ったわけだ。
モデル小説なので完全なフィクションとは違い、ところどころ実在の人物や本当にあったエピソードなどに驚かされる。
それにしても大阪の女性はスゴイ。転んでもタダでは起きないというのは、大阪で生まれた言葉なのではとさえ思った。
たくましい女の生涯を小説にすると、下手をしたら男性社会への批判とか、弱者擁護の主義主張の強い作風になってしまう。ところが『花のれん』にはそういう社会風刺的な要素はなく、純粋に一人の女性が女手一つで商売を成功させるまでの紆余曲折を描いている。
それを、なりふり構わぬ金儲けと捉えるか、大阪商人のど根性と捉えるかは読者の自由だが、少なくともその生き様には脱帽だ。
私も様々な伝記やエッセイなど目にして来たが、どれも共通して言えるのは、成功者のたゆまぬ努力と、やはり目標を一つにしぼることがポイントとなっているようだ。
「二兎追う者は一兎も得ず」とは言ったもので、『花のれん』における主人公・河島多加は、夫を早くに亡くしてからというもの商売一筋に生きた人である。だから、可愛いはずの長男の育児も、女としての恋愛も、潔くあきらめた。
とにかく、片時も商売のことを忘れないのだ。
逆を言えば、そのぐらいでなければビジネスで成功などできるものではないというお手本でもある。


大阪の船場の商家町に嫁いだ多加は、師走の支払いの時期だというのに、金庫には金がなかった。
夫の吉三郎はどこかへ雲隠れしてしまい、取引先には夫に代わって多加がひたすら謝るしかない。
吉三郎の父・吉太が始めた河島屋呉服店は、父の代では繁盛したが、吉三郎の代となってすっかり落ちぶれてしまい、今は借金ばかりが重なった。
そんな状況にもかかわらず、吉三郎は花街に入り浸り、商売を省みなかった。
吉三郎の体たらくを見かねた多加が提案したのは、吉三郎が三度の飯より好きな落語や芸事を、飽きるほど見ることのできる寄席を開くことであった。
そうと決まると話は早く、それまでの呉服屋を引き払い、その資金を元手に小さな寄席を買い取った。最初こそ客入りは悪かったが、なりふり構わぬ多加の采配により寄席は段々と軌道に乗っていく。
一方、吉三郎に商売の才はなく、寄席は多加に全て任せきりにして、自分は妾を囲って小料理屋を持たせていた。
そのことが多加にバレてからは、反って居直るようになり、度々家を空けることが多くなるのだった。

多加の生涯はそれこそ苦労の連続で、女としての幸せは放棄し、ひたすら商売に没頭した印象さえ残る。
一人息子の面倒も女中に任せ、夫の女遊びにも片目をつむり、来る日も来る日も銭勘定に明け暮れる。それはきっと、二度とどん底生活を味わいたくないという切なる思いと、自分には商売しかないという自己実現への限りない欲求と願望に違いない。
ラストは、激動の生涯を送った女に相応しい、宿命的な孤独を感じさせるものだ。


『花のれん』山崎豊子・著

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.66)は夏目漱石の『坊っちゃん』を予定しています。


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最終更新日  2013.05.04 06:46:44
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