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2013.05.25
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カテゴリ: 読書案内
【Ali/十五】
20130525

◆十五歳の思春期を思い出し、ケータイ小説に綴った作品

本屋で買うつもりもなくぶらぶらしていると、今どきらしくヨコガキの本を見つけた。帯のコピーには“もしも今、あなたに逢えたら「ありがとう」と言いたい”とある。これは絶対、誰かが病気で死んじゃう話だなと見当をつけながらも、私は手に取ってみた。
ケータイ小説で話題を呼び、講談社から出版にまでこぎつけた作品というものが、どの程度のレベルなのか知りたかったこともあった。
いや驚いた。最初の数ページを読んだら止まらなくなってしまい、結局、購入してしまったのだから。
これは実話系ストーリーだ。名前はさすがに変えられているが、読んでいくうちに、あの俳優がモデルになっているなぁと見当がつく。
そう、これは松田優作との馴れ初めを包み隠さず描写した私小説である。
著者はAliというペンネームを使用しているが、本当は元女優で作家の前川麻子だ。代表作に『鞄屋の娘』などがあり、小説新潮(長編部門)新人賞を受賞し、作家としてデビューを果たしている。
しかし、それより前に『センチメンタル・アマレット・ポジティブ』という戯曲も手掛けているので、女優業のかたわら、書くことを続けていたのかもしれない。
破天荒な思春期の体験がある人物と言えば、柳美里あたりを思い浮かべるところだが、この前川麻子もなかなかどうして負けてはいない。
「おそるべし十五歳」と言った衝撃の体験談である。


私立中学3年になる中川有(アリ)は、広告代理店に勤務する業界人の父と、専業主婦である母との間に生まれた一人娘。
マンションは2つ分を改装工事でくっつけた広さで、玄関も2つあり、両親とアリがそれぞれに使用している。なのでアリの部屋に年頃の男子が遊びに来ていても、親は気づかない。なるべくしてアリは自分の部屋で、ゲーセンで知り合った少年に、処女を奪われた。
学校の宿題で、親の職場見学をするというものが出された。アリは、父親のスケジュールに合わせ、スタジオRにつれて行ってもらうことにする。
そこで偶然にも出逢ったのが有名俳優の岸田多喜雄(タキオ)だった。タキオは、アリの父親がプロデュースした広告のナレーションを担当していたのだ。
タキオはアリに、「電話番号、教えろよ」と言い、そこから二人の関係が始まるのだった。
タキオはすでに妻帯者だったが、時折、アリの部屋に来ては、たっぷり時間をかけてアリを愛撫した。
一方、アリはバーでアルバイトを始める。そこで知り合った大学生の信ちゃんと仲良くなる。
ある日、信ちゃんが風邪をひき、下宿先に見舞いに出向くのだが、その夜、二人は関係を持つ。信ちゃんの方は静岡出身の田舎者で童貞だったため、初めての男女の営みに感激をする。その後、何度か関係を持つのだが、アリは避妊していなかったため妊娠。信ちゃんは「結婚しよう」というが、アリは拒否。そして中絶。それは十五歳の出来事だった。

作中、登場する岸田多喜雄という俳優が松田優作である。
ここに出て来る松田優作は格好良いが、その分、好色でもある。十五歳の少女と交わりながら男の欲望を満たしていたのかと思うと、複雑な気持ちにもなる。だが著者は、十五歳でありながらも女としての悦びを得ていたようだ。それは、ギブ&テイクでこそあれ、一方的なものではなかったと。
飲み会の席で、松田優作が「おしっこ、出ないんだよ・・・」と言って何度か中座する場面が出て来るのだが、このくだりを読むと切なくなる。

この小説はいろんな意味で衝撃的だ。
発信したのは昭和世代なのに、読者はケータイ世代(平成の若者)で、ヨコガキ小説として出版もされた。
十五歳の少女の体験を赤裸々に綴ることで、平成のティーンから多くの共感を得たのだ。さすがは天下の松田優作が目をかけた少女ではある。
早熟の少女も、今や四十代。これから益々執筆に余念がないことだろう。
ケータイ小説を侮る、頭のカタイ大人に、一石を投じる作品だ。



20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.72)は阿刀田高の『楽しい古事記』を予定しています。


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最終更新日  2013.05.25 06:19:52
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