吟遊映人 【創作室 Y】

吟遊映人 【創作室 Y】

PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

プロフィール

吟遊映人

吟遊映人

カレンダー

2013.06.29
XML
カテゴリ: 読書案内
【花村萬月/ゴッド・ブレイス物語】
20130629

◆バブル期の恋愛小説はやっぱりオシャレ?!

この作品が発表された80年代は、正にバブル全盛期。
ちょっと擦れた19歳の女子がロックバンドを率いて、なんやかんやと頑張ってしまう物語は、ある意味オシャレだ。
恋人だったバンドのメンバーの男が自殺しているというのも80年代的だし、なかなか一人の男に的をしぼれず、いろんな男を渡り歩く19歳のヒロインという設定も、こだわりのなさが現代的で共感を呼んだに違いない。
花村萬月の初期作品ということでかなり期待して読み始めてみたのだが、思いのほか芥川賞作家というハードルの高さは感じられない。つまり、この小説に限って言えば、純文学ではないことは確かだ。
80年代に売れた作家に原田宗典がいるけれど、花村と同様オシャレな恋愛小説をいくつかヒットさせている。主人公のちょっとけだるい語り口調がウケたのだった。だが今となっては時代性を感じないわけにはいかない。
一方、花村は90年代に入ってメキメキと頭角を現し、純文学の登竜門である芥川賞を受賞した。
2013年となった最近も、書店でその著書をちらほらと見かけるので、よくぞ生き残ってくれたと拍手を送りたいぐらいだ。
これは皮肉でも何でもなく、とにかく80年代の売れっ子作家のその後は、明暗がハッキリしていて驚くほどだ。そんな中、花村は過酷なサバイバルに打ち克ったわけで、賞賛に値すると思うのだ。

『ゴッド・ブレイス物語』は、端的に言ってしまえば青春恋愛小説だろう。話はこうだ。


メンバーは朝子以外は男なのだが、ギターを担当するヨシタケは同性愛者だ。それを知っていながら興味本位で体を重ねた。
だが、最後までは上手くいかずに終わる。
その一方で朝子はドラム担当のカワサキとも付き合っている。カワサキはバツイチ子持ちで、健という息子は児童福祉施設に入所している。
そんなカワサキは、どういうわけか、朝子のさり気ない誘いを巧みにかわし、一線を越えることはなかった。
ある時、プロダクションの社長である原田が、ワリのいい仕事を取って来た。
朝子はギャラの良さに目がくらみ、二つ返事で了承する。
だがこれは全てデタラメで、ギャラは前金で先方から原田の口座に振り込まれた後、原田は失踪。
朝子たちメンバーは、タダ働きをするハメになってしまった。

ストーリーはこの後もドラマチックに展開していくが、京都の高級クラブの社長と朝子が、なりゆきなのか必然的なのか、吸い付くように体を重ねる。
これでもかこれでもかと男を渡り歩く姿は、ロックシンガーだから許されても、一般人なら単なる淫乱に過ぎない。
男女が惚れたはれたの恋模様がテーマではないことは間違いない。あえて言うなら、生々しい性の露出を、青春という名のもとに表現した物語だ。

この小説は読者層を10代~20代前半に的をしぼって書かれたものかもしれない。あるいは、漠然とした不安を抱える若者への応援歌かもしれない。
いずれにしても、バブル期の小説に見られる特徴を色濃く持つ作品なので、ジャンルを問わず読書好きの方におすすめしたい一冊だ。

『ゴッド・ブレイス物語』花村萬月・著

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.80)は梅原猛の『隠された十字架~法隆寺論~』を予定しています。


コチラ





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2013.06.29 06:25:38
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: