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2013.07.20
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カテゴリ: 読書案内
【大塚ひかり/『源氏物語』第二巻 花散里~少女】
20130720

◆源氏、初めての挫折。須磨での謹慎が吉と出るか凶と出るか?!

第一巻 は光源氏の青春期とも言うべき、右かた上がりの輝かしい恋愛絵巻であった。
全てが若々しく、瑞々しく、悲哀なことさえドラマチックで神々しく感じた。
それがどうだ、二巻に突入すると、グッと色合いが渋みを増す。あの絶頂期の源氏の君にも、やや影が差し込み始めるのだ。
これまでの青春恋愛ドラマから、渡鬼的(「渡る世間は鬼ばかり」のような)ホームドラマの要素が加わるのだからおもしろい(?)。
やっぱり紫式部という女流作家はタダモノじゃない。

第二巻の目次はこうだ。花散里→須磨→明石→澪標→蓬生→関屋→絵合→松風→薄雲→朝顔→少女 という具合になっている。
ポイントとなるのは、光源氏が色恋で初めての失敗を犯し、政治的に干されてしまうというくだりだ。
一巻の終わりぐらいに登場する、朧月夜尚侍の君という朱雀帝の寵姫に手を出してしまった源氏の君。このことで反省の意味をこめ、京の都を去り、須磨にて謹慎の身となってしまう。これが源氏にとって吉と出るか凶と出るかは、物語を読んでみれば明白だが、ここでの某姫君との出会いが、源氏のその後を大きく揺るがすこととなる。
ちなみに光源氏をこんな立場に追い込んでしまった朧月夜という姫君は、現代で言うならギャル風の小悪魔的魅力たっぷりのお嬢様である。


さて、須磨では心細い思いをしつつも、源氏の君に新しい恋が芽生える。
明石の上との出会いである。この姫君は身分こそ低いけれど、教養があり、琴の演奏に秀で、率直で優雅な歌を詠む貴婦人である。
しかも美人この上もなく、源氏が放っておくわけがない。
後に、この明石の上が懐妊し、姫君を出産することで都へ上ることになるのだが、第二巻はこの明石の上とのあれやこれやが物語の大きなウェイトを占めている。

日本は平安時代が終わると、長らく武家社会が幅をきかせ、恋だ愛だというフワフワした感情は「見苦しいもの」とされて来た。
ところが平安期におけるモテ男は、イタリア人のような、それはもう歯の浮くセリフで女たちを酔わせていたのだ。つまり、女をくどくのは平安貴族の男たちにとって挨拶代わり(?)だったわけだ。
だから男たちは無粋な歌を詠めないし、笛の一つも吹けなければ女子たちからは当然のごとく相手にされなかった。
要するに、当時の男たちに必要だったのは、ムキムキの肉体美とか寡黙な誠実さなどではなく、朗々と詠う声の良さや、笛や琴、絵などをたしなむアートなセンスだったわけだ。

現代でも使われている“大和魂”という語は、なんと『源氏物語』が初出とのこと。
主人公である光源氏が、息子である夕霧に対する教育論を展開する際に出て来る言葉である。大塚ひかりの解説によれば、「学問を基礎としてこそ“大和魂”も発揮されるといういわゆる『和魂漢才』論」を、源氏が主張する場面で使われているらしい。

第一巻 では、さんざん青春を謳歌した光源氏も、二巻ではすでにエロオヤジに成り下がる場面もあり、人の栄華が永遠のものではないことを克明に教えてくれる。


『源氏物語』第二巻 花散里~少女

※ご参考
大塚ひかりの『源氏物語』
第一巻/桐壺~賢木

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.83)は大塚ひかりの『源氏物語 第三巻』を予定しています。


コチラ





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最終更新日  2013.07.20 05:22:42
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