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2014.02.22
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カテゴリ: 読書案内
【菊池寛/真珠夫人】
20140222

◆格調高く優雅な通俗小説が昼ドラを席捲

この作品は小説より、むしろ昼ドラで一躍ブームとなったのは記憶に新しい。
私が勤務していた以前の職場で、あまりにハマってしまった同僚が、録画のタイマーをし忘れたとかで、ご主人に電話をして録画を頼んでいたのを思い出す。
とにかくそれほどまで世のご婦人方を夢中にさせた作品である。
昼ドラを侮れないのは、通俗小説とはいえ、著名な作家の作品をきちんと持って来るところだ。
周知のとおり、『真珠夫人』は菊池寛の原作である。
解説によれば(解説は川端康成によるもの)、菊池寛という作家は、「生活第一、文学第二」をポリシーとしていたらしく、純文学小説では食べていけないので、大衆小説の道へと転向したようだ。
また、当時の新聞小説として連載していた『真珠夫人』は、川端いわく、「円熟の小説であるし、また代表作とも見られる」と評価している。
しかし、私個人が感じたことには、川端康成が菊池寛の作品についてあれこれ論評するというよりは、人柄を大変高く評価しているように思われるのだ。
たとえばこうある。

とある。
こういうことをずい分後になるまでちゃんと覚えていた川端康成は、菊池寛に対して並々ならぬ恩義を感じていたのだと思う。
極貧生活を味わった経験のある菊池寛は、「貧しくとも立派な純文学小説の創作」というものには何の意味も見出さず、むしろ生活のためなら何でも書くのを良しとした。
だから才能があっても食べられない後輩作家の育成には余念がなく、援助を厭わなかったのだ。
さて、その菊池寛の代表作ともなった『真珠夫人』のあらすじはこうだ。

唐沢男爵の令嬢・瑠璃子は、杉野子爵の令息である直也と、荘田勝平の主催する園遊会に出席していた。
招待客で溢れた会場を避け、二人は静かな場所で会話を楽しんでいた。
直也は荘田勝平の成金趣味を批判し、名園と言われる荘田の庭も、人工的でコセコセしていると悪し様に言った。
しかし偶然にも二人の会話を荘田勝平が聞いてしまうのだった。
荘田は、まだ年若い学生である直也から、金さえあればどんなことでも出来ると思っている俗悪な成金趣味だと痛罵されたことを、心の底から恨んだ。
この悔しさを一体どうしたら晴らせるだろうかと考えた時、美しい令嬢・瑠璃子の父・光徳が、貴族院の清廉な闘将ながら、その実は借金で火の車であることを調べ上げ、罠にかけてやろうと謀ったのだ。

こうしてまんまとハメられた瑠璃子の父の借金のかたに、瑠璃子は直也との恋をあきらめ、親子ほどの年の差はあったが、荘田に嫁ぐことになる。
だが、瑠璃子の復讐はここから始まるのだった。

とにかくストーリーはドラマチックで、波風が始終ざわついている感じだ。
正に、昼ドラに相応しいストーリー展開である。
登場人物のセリフもそれは大げさなもので、まるで小説の中の宝塚歌劇を楽しんでいる錯覚に陥る。


「ああ苦しい。切ない! 心臓が裂けそうだ!」
「貴女は、僕を散々辱しめておきながら、この上何を仰ろうというのです!」

という具合である。(笑)
これほどまでにフィクションでありながら、いつのまにか作品に惹き込まれてしまうのは、どうしてなのか?
それはきっと、生活のために必死でペンを執る筆者が、寿命の縮む思いで創り出す苦心までも背景に隠されているからであろう。
通俗だ、大衆的だと詰られようと、一生懸命にドラマを紡ぎ出す菊池寛の創作姿勢はすばらしい!
菊池寛、渾身の逸作なのだ。

『真珠夫人』菊池寛・著

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.114)は怪奇小説の筆頭、江戸川乱歩の「幽霊塔」を予定しています。


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★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から





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最終更新日  2014.02.22 05:51:06
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