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2014.03.08
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カテゴリ: 読書案内
【寺山修司/書を捨てよ、町へ出よう】
20140308

◆一点豪華主義にこだわり、反バランス主義を貫く男

個性的なキャラという存在は、けむたがられることがままある。
それは今に限ったことではなく、いつの時代にもあった。
“出る杭は打たれる”ということわざにもあるように、何か突出した才能があったりすると、周囲に反感を買ったりするわけだ。
いつのころからか、場の空気が読めない人のことを“KY”と言って非難めいた悪口をきくようになり、ヘタに会話もできなくなった。
ましてやとんちんかんな返答などご法度なのだ。

寺山修司の青春扇動エッセイである『書を捨てよ、町へ出よう』は、多くの既成概念から解放されるような、突き抜けた挑発書だ。
だから、野球で盛り上がるオヤジ世代の中で、寺山はサッカーを高く評価し、トルコ風呂(現在のソープランド)を排泄の場ではなくエデンの園として扱おうと提案したりする。(昭和50年当時)
何やら人生なんてヒマつぶしみたいなものだと言われているようで、人間関係ごときにくよくよと悩んでいるのがバカバカしくなる。
興味深く読んだ箇所がいくつかあるので紹介しよう。


な、なんとサッカーは「はじめは、ボールではなくて、頭の骨でやった」とな?!
「デンマークに支配されていた英国人たちが、裏通りにころがっていたデンマーク兵の頭蓋骨を靴で蹴ったのが始まり」とのこと。
どおりでイギリスの国技として今日まで発展して来たわけだ。
寺山いわく、「野球はピッチャーのナルシズムによる競技」であり、「まるで魅力のない」スポーツだと。
一方、サッカーとは「憎しみから出発した競技」で、「蹴る、足蹴にする、という行為には、ほとばしるような情念が感じられる」というものだ。ううむ、なるほど。
さらにもう一つ。
それは一点豪華主義のススメである。
「三畳半のアパート暮らしをしているくせに食事だけはレストランでヒレ肉のステーキを食う」とか「着るべきスーツはうす汚れた中古の背広一着なのに、スポーツカーはロータス・エランを持っている」などである。
思うに寺山修司という人は、反バランス主義者であったに違いない。
他にも自殺学入門の章も面白く読んだ。
あれやこれやと寺山流自殺論を展開しながらも、その最後には「じぶんを殺すことは、おおかれすくなかれ、たにんをもきずつけたり、ときには殺すことになる。そのため、たにんをまきこまずには自殺もできない時代になってしまった」と書いている。


風俗史として読んでもいっそうおもしろいと思った。
どちらかと言えば若い世代の方が“クール”に感じるかもしれない。
四十代以上の世代には、「若いっていいなぁ」という感傷に近い味わいを覚えるに違いない。

『書を捨てよ、町へ出よう』寺山修司・著

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.116)は芥川龍之介の短編小説「秋」を予定しています。


コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から





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最終更新日  2014.03.08 05:51:49
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