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2014.06.28
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カテゴリ: 読書案内
【阿部和重/グランド・フィナーレ】
20140628

◆行き過ぎた少女性愛と愛娘に対する異常なまでの執着
たいてい小説というものは、読者が作中の主人公に共鳴することで成り立つ娯楽と言えるだろう。
それはたとえば、主人公の持つ弱さや脆さであったり、あるいは正義感や勇気に読者自身が内包する共通のものを感じ取るという具合である。
ところがその主人公に、どうやっても感情移入できなかったり、不信感や違和感を抱いてしまったら、その小説の役目はどうなってしまうのだろうか?
『グランド・フィナーレ』は、そういう意味で全く共鳴できない小説だった。
それなのに、なんでだろう?ものすごく気になる作品なのだ。

著者の阿部和重は、山形県出身の今年46歳。
代表作に長編小説『シンセミア』などがある。
経歴をたどってみると、『グランド・フィナーレ』以前に数々の小説を発表し、いくつもの文学賞を受賞している。
芥川賞というものは、新人に贈られるものだと思っていたのだが、どうやらこの阿部のようにイレギュラーなことも起こり得るらしい。


「わたし」は都内の教育映画製作会社に所属していたが、現在は無職の身である。
「わたし」は妻と愛娘・ちーちゃんと3人で暮らしていたが、「わたし」の大変なしくじりのせいで、その幸せな家庭を壊すはめになってしまった。
というのも、「わたし」は写真に執着し過ぎた余り、妻にポータブルストレージを没収されそうになり、妻を突き飛ばしてしまったのだ。
「わたし」がそこに収めていた写真の被写体は、ちーちゃんだけではなく、10年間に撮り続けて来た大勢の子どもたちの肢体が写し出されていた。
「わたし」のそんなロリコン趣味を、潔癖症の妻は許すはずもなく、離婚調停を突き付けられた。
もちろん、愛娘・ちーちゃんに対しても近づかないでくれと言い渡され、「わたし」の全てを拒絶されるに至った。

主人公は沢見という37歳の男だが、「わたし」という一人称形式で物語はすすめられていく。
この沢見は、少女ヌード雑誌のスチール写真撮影という、半ば自分のフェチシズムを満足させるような仕事も請け負っていた。
ある時、本業である教育映画のオーディションにやって来た美江という小学5年生の少女と懇意になり、やがて肉体関係さえ結ぶのだが、そのあたりの沢見の勝手な思い込みとか、線の細い性質などがものすごく気になるのだ。(これは、私が、女性ならではの嫌悪感かもしれない。)
それはおそらく、男性サイドから見た一方的な性愛であって、女児の秘められた羞恥心や恐怖心が、これっぽっちも表現されておらず、一体この主人公はどうしたいと言うのだろうと、私は歯がゆさに耐えられなかった。
人には言えないような変わった性癖があることは、今さらどうすることもできない。

しかし、それもこれもボーダーラインというものがあって、その一線を越えてしまったらアウトというものがある。
そのラインが“法”であろう。
小説の中で、そのタブーは簡単に破られてしまうものだが、ちゃんとフォローがあって、読者は溜飲を下げる。
ところがこの『グランド・フィナーレ』は、そういうものがない。
後半に至っては、主人公のロリコン趣味における自省の念とか、行き過ぎたフェチシズムの述懐などまるで皆無で、完全に別のストーリーに切り替わっているのも気になる。


そんなわけで、みなさんにもこの小説の一読をおすすめして、それぞれの感想をご友人などと話し合ってみてはどうかと思ったしだいである。
ちょっとした話題づくりには向いている一冊かもしれない。

『グランド・フィナーレ』阿部和重・著 (芥川賞受賞作品)

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☆次回(読書案内No.132)は新田次郎/武田信玄~風の巻~を予定しています。


コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から





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最終更新日  2014.07.02 09:30:00
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