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2014.10.26
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カテゴリ: 読書案内
【三浦綾子/氷点】
20141026

◆汝の敵を愛することは可能か?
予定しておりました村松友視の『幸田文のマッチ箱』は、こちらの都合で後日の公開とさせていただきます。
予定を変更しまして、たいへん恐縮です。

久しぶりの読書案内です。
どうぞお付き合い下さい。

ファッションにしろ音楽にしろ、その時代に流行する傾向みたいなものがある。
どうしてそういうタイプが流行るのか、その都度、大衆にアンケートでも取ってみなければ分からないことだが、後年になって当時の流行の理由みたいなものがおぼろげながら判明したりする。

三浦綾子の『氷点』も、当時は大ベストセラーとなった作品である。
昭和39年に、朝日新聞が一千万円懸賞小説の募集をしたところ、入選したのがこの『氷点』なのだ。
著者の三浦綾子は北海道旭川市出身で、最終学歴は市内の女学校である。(北大医学部を休学のままに至る)

『氷点』は一口に言ってしまうと、何やら壮大なヒューマンドラマにも思えるし、サスペンスドラマとしても捉えられる。
とにかくドラマの中のドラマと言ってしまっても過言ではない。
私が幼いころ、山口百恵・三浦友和のゴールデンコンビで出演していたテレビドラマなどを彷彿とさせる。(宇津井健なんかも出演していた記憶がある。)
今よりもずっと娯楽の少なかったこの時代、これぐらいドキドキハラハラさせられるストーリー展開は、大衆にとってつかの間の刺激であり、渇いた心への潤いであったに違いない。
時代が求めていたのは、正に、『氷点』のような作品だったのだ。

その『氷点』のあらすじはこうだ。

旭川市郊外で、辻口病院長を務める辻口啓造宅で、妻の夏枝と、辻口病院の眼科医である村井が差し向かいで座っていた。
村井は夏枝が人妻であるという立場も忘れ、自分の想いを告げ、迫っていた。
そこへ、夏枝の3歳になる娘・ルリ子が割って入って来た。
ルリ子は遊んで欲しかったのだ。
夏枝は村井の熱情をきっぱり拒もうと思えばできたのに、それができず、ルリ子に「外で遊んでいらっしゃい」と言ってしまう。

村井は自分の感情を抑えることができず、夏枝の唇を奪おうとしたが、夏枝がそれを拒み、結局、夏枝の頬をかすめただけに終わった。
村井が出て行ってしまった後、まるで入れ替わるようにして夫の啓造が帰宅した。
時計が5時半であることに気付いた夏枝は、ルリ子が遊びに行ったきり帰って来ないのが心配になった。
あちこちルリ子が行きそうなところを捜してみたものの、見つからない。
警察にも届けを出したが、結局見つかったのは翌日のことで、しかも川原で他殺体となって発見されたのだ。

同時に、夏枝と村井との間にあったことを疑わずにはいられなかった。
自分が不在の時、ルリ子を外に出しておきながら夏枝と村井は一体何をやっていたのだろうか?
啓造は疑心暗鬼に陥るのだった。

『氷点』がおもしろくなるのは、亡くなったルリ子の身代わりとして乳児院から女の子をもらい、育てるところからだ。
その女の子は陽子と名付けられるのだが、なんとルリ子を殺した犯人の子であるといういわくつきなのだ。
また、夏枝に迫っていた村井も肺結核を患い、サナトリウムで療養することになり、病院を去る。
さらには成長した陽子がそれはそれは清純で美しく、兄妹として育ったのにもかかわらず、兄の徹が陽子を異性として愛し始めてしまうのもドラマチックだ。
とにかく次から次へと絡み合う人間模様から目を離せない。

この作品からは様々なテーマが投げかけられているように思えるが、中でも印象的なのは“汝の敵を愛せよ”という聖句である。
敵を愛するというのは非常に難しい。
そんなことすんなりできるわけがない、キレイゴトに過ぎない、と思ってしまう。
クリスチャンである三浦綾子は、そのことに対しとても謙虚な姿勢で、作品を通して向き合っている。

内容的には時代性を感じさせるものの、この長編小説を読むことで、甘美な恋愛の情緒と同時に、人間の暗さ、罪の深ささえ気づかせてくれる。
生涯に一度は読んでみたい作品なのだ。

『氷点』三浦綾子・著


☆次回(読書案内No.146)は内田春菊の「キオミ」を予定しています。


コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から



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最終更新日  2014.10.26 05:45:37
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