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2015.12.19
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カテゴリ: 読書案内
【葉室麟/散り椿】
20151219

◆清く正しく美しく生きる姿に、胸が熱くなる。
私は今年44歳になったが、中学時代の恩師とはいまだに年賀状のやりとりや、たまのメール交換などをしている。
定年を前にした恩師は、これまで以上に読書の幅を広げ、心の琴線に触れるような作品と出合った際には教え子に惜しみなく紹介していこうと思っているようだ。
最近、久しぶりに届いたメールにも、やはりお勧めの一冊についての感想が寄せられていた。
それが葉室麟(はむろ・りん)の『散り椿』である。
もしかしたら私が、「歴史・時代小説が好き」だと言ったことがあるのを覚えていたのかもしれない。
だとしても純愛をテーマにしたこの『散り椿』という小説は、恩師がこの一冊としてエントリーした作品に相応しいものだとつくづく思った。

著者の葉室麟は、北九州市小倉の出身で西南学院大学卒である。
『銀漢の賦』で松本清張賞を受賞し、『蜩ノ記』で直木賞を受賞するという飛ぶ鳥を落とす勢いのある作家なのだ。(ウィキペディア参照)
この小説を何の先入観もなく読んでいると、もしや著者は平成の新鋭か?と思ったりする。

ところがプロフィールによれば1951年生まれ、御年64歳。
いや、驚いた。

あらすじはこうだ。
瓜生新兵衛は、ゆえあって故郷を離れ、愛妻の篠とともに京都の地蔵院に身を寄せていた。
病床に臥す篠を一生懸命に介護するものの、その甲斐もなく、篠は亡くなってしまう。
新兵衛は生前、妻と約束したことを果たすべく、故郷へと帰藩した
かつて一刀流道場の四天王と呼ばれた勘定方の新兵衛は、その実直さから上役の不正を訴え、藩を追われていたのだ。
帰る家のない新兵衛が身を寄せたのは、篠の妹である坂下里美のもとだった。
里見の夫・源之進は、新兵衛の旧友であり四天王の一人だったが、無実の使途不明金を糾問され、自害していた。
里見と源之進には一人息子である藤吾がいたが、父親の二の舞にはなるまいと、殖産方として日夜励んでいた。
そんな中、藤吾にとっては伯父に当たる新兵衛がやって来たため、心中、穏やかではない。

そんな藤吾の複雑な心境をよそに、母の里見はかいがいしく新兵衛をもてなし、新兵衛もまた遠慮のない気さくな態度で接していた。
一方、藤吾には秘かに武士として尊敬している人物がいた。
それはやはり四天王の一人である榊原采女で、新兵衛の旧友だった。
采女は冷静沈着にして容姿端麗。
いずれ家老にまで昇りつめるのは間違いないと見られていた。


『散り椿』は時代小説なので、厳密に言えば歴史考察に難のある個所はそれなりにあると思われる。
だが、それで良いと思う。
その時代を必死に、懸命に生きる人々を生き生きと自在に描くことに意義があるからだ。
現代人には忘れがちな純粋さや素朴さが際立って美しくよみがえる。
不正を良しとせず、まじめに生きようとする者が追われる世の中であってはならない。
清く正しく美しく生きる姿に、胸が熱くなる。
父から息子への代替わり、純粋な恋、不正を許さぬ誠実さ、すべてがドラマチックに描かれている。
藤沢周平の筆致にも似ているかもしれないが、葉室麟の方がやや現代的で、若い世代にも受け入れられ易いかもしれない。

「読む本がない」と嘆いているあなた、「感動したい」と切望しているあなた、ぜひともこの作品をお勧めしたい。
必読の書である。

『散り椿』葉室麟・著



コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から



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最終更新日  2015.12.19 08:26:55
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