吟遊映人 【創作室 Y】

吟遊映人 【創作室 Y】

PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

プロフィール

吟遊映人

吟遊映人

カレンダー

2016.12.10
XML
カテゴリ: 読書案内
【たまゆら/あさのあつこ】
20161210

父を殺めて山に消えた男を追う、女の情念
久方ぶりのブログ更新である。
最近は読書から離れていたし、映画に触れることもなかった。
朝起きて仕事に出かけ、帰宅したら息つく間もなく夕飯の仕度をし、お風呂に浸かって倒れ込むように寝る。
きっと多くの人々がそういう追われた生活に半ば慣れ、半ば疲れ、あきらめているのだろう。

先日、書店に足を運んだ。
少し行かないうちに、売れている本がガラリと変わった。
ついこないだまで『火花』が売り切れていた。あるいは東野圭吾の本が山積みされていた。
今回はいろんなジャンルの本が目に飛び込んで来て、あまり印象に残らなかった。
本とは関係なく、来年の手帳が所狭しと並んでいるのに驚いた。


そんな中、あさのあつこの『たまゆら』を読んだ。
あさのあつこは岡山県出身で、青山学院大学文学部卒。
代表作に『バッテリー』などがある。
ヤング向けの小説家というイメージがあったのだが、『たまゆら』を読むと、そうでもなさそうだ。
たまゆらというのは古いことばで、万葉集などに使われている音の形容を表すらしいのだが、この小説では犬の名前として扱われている。

カテゴリとしては恋愛小説とか、ファンタジー小説の部類に入るかもしれないが、私個人的には岩井志麻子の影響を受けているのでは?と思った。
岩井志麻子も同じ岡山県出身の作家で、ホラー小説を書かせたらピカイチなのだが、岡山弁でけだるく語りかける文体がおどろおどろしい。
あさのあつこもそれを意識してなのか、作中、岡山弁を駆使している。
平成のことでありながら昭和を舞台にしているようにも思われ、何やら異次元の物語かと錯覚してしまう。

あらすじは次のとおり。
すでに老境に入った日名子は、愛する伊久男とともに暮らしている。

そこは臨界である。
そこで人の世が終わる。
そこから山が始まる。
日名子と伊久男の住む家に立ち寄り、そのまま山へ入って二度とは帰らぬ者もいれば、数日して引き返して来る者もいる。
ある雪の日。

これから山に分け入るとのこと。
真帆子は身を焦がすほどに惚れた陽介を追って、ここまでやって来た。
だが、真帆子と陽介に肉体関係はない。
真帆子は友達の紹介で初めて男を知った。
だが、少しも感じることはなく、むしろ虚しさだけが残った。
男を入れるため、食べ物を入れるため、二つの穴がついているだけの生き物なのではと、自分を恥じた。
あるとき、陽介が事件を起こした。
父親を殺してしまったのだ。
愛しい男が犯した罪の深さを真帆子もそれなりに理解した。
だがそれ以上に真帆子は欲した。
陽介以外に欲しいものなど一つもなかった。
陽介はブログに花粧山へ行くと残していなくなった。
真帆子は身一つで陽介を追って行くのだった。

恋愛というものに、さほど幻想を抱かなくなった私には、リアリティ不足にも思えた。
だが、十代二十代の若い人たちが読んだら、もっと違う感想になるだろう。
これを「本気の恋」と言うのなら、ある種の信仰に近いものがある。(宗教といってもさしつかえない。)
「山」という場所を神聖な域としてとらえ、癒しなど微塵もないと表現していることに、なるほどと思った。

「行の道は死と隣り合わせ。生より死が満ちている。覚悟もないまま、踏み込んではならない」

あさのあつこが表現する世界は、実はシンプルである。
何やら複雑な異界を思わせるシーンが出て来るが、おそらくイメージの世界だと思う。
青春小説から一歩離れたところにある恋愛小説なので、幅広い年齢層に支持されそうだ。
島清恋愛文学賞受賞作品である。

『たまゆら』あさのあつこ・著



コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から



20130124aisatsu





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2016.12.10 07:36:23
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: