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2016.12.25
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カテゴリ: 読書案内
【島本理生/ナラタージュ】
20161225

湧き上がる哀しみを追い越してさらに強い快感をもたらす
今年はあまり映画も見なかったし、読書もいま一つだった。
年の瀬は社会派ミステリーとか、ギトギトした人間ドラマには触手が動かない。
何かどっぷりと浸ることのできる恋愛小説でも読みたいと思って本屋さんに出向いたら、島本理生の小説に目がとまった。
この作家の作品はまだ読んだことがなかったので、半分は興味本位でもあった。
帯のキャッチコピーが衝撃的で、ちょっと生唾を呑み込みたくなるような文だった。

「お願いだから私を壊して、帰れないところまで連れていって見捨てて」

一体どんな過激な恋愛が展開するのだろうかと期待も込めて、結局、購入を決めた。

一読する前に『ナラタージュ』についてその意味を調べてみた。
「映画などで主人公に過去のことを物語らせながら場面をそれに合わせるという手法」 ※三省堂 新明解国語辞典より引用


著者の島本理生は、立教大学文学部を中退している。
十代のころよりその才能を開花させ、さまざまな作品で頭角をあらわしている。
代表作に『リトル・バイ・リトル』などがある。
『ナラタージュ』は、「この恋愛小説がすごい!2006年版」にて第一位を獲得しており、新人ながらベストセラーをたたき出した。

あらすじは次のとおり。
大学1年生の工藤泉は、高校時代より、演劇部の顧問をしていた葉山先生のことをずっと慕い続けていた。
あるとき、ケータイに葉山先生から連絡があり、卒業生にも部活の助っ人として参加して欲しいという要望があった。
泉の他にも同級生で元部長をやっていた黒川、そして志緒にも声がかけられた。
こうして泉は、淡くせつない想いを封印するつもりでいたにもかかわらず、再び葉山先生と顔を合わせることになった。
泉にとって葉山先生は特別な存在だった。
高校時代、いわれのない理由でいじめを受け、死にたいとまで思った泉を全力で救ったのが葉山先生だった。

だが、どれほど泉が葉山先生に好意を寄せようとも、それは叶わぬ恋だった。
葉山先生には妻がいた。
わけがあって別居はしていたが、離婚する気はなかった。
だが心の底ではだれよりも泉を欲していた。
泉も葉山先生を忘れたくて必死にもがいていた。


この作品を、当時20か21歳だった島本理生が書いたとはにわかに信じられない気持ちだ。
というのも、作風が大人びていて、冷静で、それなのに若さゆえのイライラ感やら焦りなどが見事に表現されているからだ。
世間には教師と生徒との恋を扱った作品はあまたあるけれど、この小説はちょっとそういう路線とは違う。
やさしさゆえにズルイ教師と一途な女子大生が、どうしようもない恋愛をして、未来のない恋に絶望しつつも、あきらめるよう努力するという作品なのだ。
愛した人をずっと胸の奥底に秘めて生きていくという悲恋だが、恋愛をめんどうくさがる最近の若い人なら、かえって興味をそそられるに違いない。
小説の世界だからこそのドラマは、架空のこととはいえ、一時のメリハリを提供してくれる。
もう私ぐらいの年齢になると、あまりに繊細でキレイ過ぎて、内容よりも文章テクニックの凄さの方が気になってしまう。
体を重ねるシーンを描いた場面だけは、その当時、著者が実際に体験済みだったか、あるいはまだ乙女で空想をもとに表現したのか、微妙なタッチに思われた。
(私はどうも後者のような気がしてならないが・・・)

クリスマスを一人で過ごす人に読んでもらいたい小説だ。

『ナラタージュ』島本理生・著



コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から



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最終更新日  2016.12.25 08:50:09
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