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「なんだかなぁ・・・」
放課後、俺はふとつぶやく。
天音と花火を見に行くことになって喜んだのもつかの間。
俺は現実に引き戻されることとなった。
朝はみやびから、昼は夏鈴から花火大会に誘われたのだ。
どちらにも正直に天音と行くから無理だと断った。
・・・
さすがに無理やり連れて行かれるっていうことにしておいたが・・・。
天音にはすまないと思っているが普通は姉に恋愛感情を持つなんてことはないだろう。
ここは自分の保身を優先することにした。
ただどんな理由があろうと人の好意を断るっていうのはなかなか心に響くもので、
二人がどれくらいの気持ちで誘ってくれたのかは分からないにしろ十分に辛かった。
これも仕方ないと受け入れるしかないのだろうか?
「悩んでるみたいだな」
もうあいている俺の隣の席に達也が座った。
あたりを見回すと教室には数えるほどの人数しかいなかった。
「まぁ、な・・・」
と言って俺は机に肘をついて達也のほうを見る。
達也もおんなじような恰好をしていた。
「それで、天音さんには言えたのか?」
そういえば、達也には背中を押してもらったのに何も教えていなかったんだっけ?
「ああ、ちゃんと言えて一緒に行くことになった。ありがとな」
「別に礼を言われるようなことはしてねぇよ。それより、ならなんで悩む必要がある?」
もっともな質問だった。
俺はどうしてここまで引っかかっているんだろう?
答えはすでに出ていた。
みやびや夏鈴を傷つけて自分が傷つくのが怖いのだ。
だから必死に自分が傷つかない方法を探している。
「いや、みやびとかも誘ってくれたけど断っちゃったし、ほんとにこれでよかったのかなって・・・」
なんてことを言う勇気はないので少しだけ変えて言う。
流石に達也相手にもそこまでは言えなかった。
「仕方ないんじゃねぇか?そういうもんだろ、恋愛ってもんはさ」
こともなさげに言う達也。
達也のいうこともわかる。
それが正しいんだろうってことも。
でも・・・
「うまく割り切れねぇなぁ」
そう言って俺は自分の机に突っ伏す。
今まで考えもしなかっただけに俺には難しいことが多すぎた。
「まぁ悩め。それも恋愛の醍醐味だ」
達也はそうとだけ言って行ってしまった。
「醍醐味か・・・」
そうは言われてもよくわからない。
この罪悪感みたいなものはそういうものだと割り切るしかないのだろうか?
そんなことはできそうになかった。
偽善だと言われても仕方ない。
でも、それが本心だった。
「帰るか・・・」
見渡すともう誰もいなかった。
時計を見るとホームルームが終わってから1時間以上たっていた。
どうやら気がつかないうちに結構な時間ここにいたらしい。
かばんを持って昇降口に行くと・・・。
「あ、孝介くん」
みやびに会ってしまった。
断ってしまった手前会うのがつらい。
「よう、今帰りか?」
そんな様子を見せないようになるべく明るく振る舞う。
それが俺に出来る最善だ。
「うん、孝介くんも?」
「ああ、」
言いながら上履きから履きかえる。
どうやらみやびは俺と帰る気らしい。
靴を履き終わっても一向に行こうとしない。
・・・。
これは覚悟するしかないか・・・。
「さて、帰るか」
「うん」
俺の隣をすぐ手が伸ばせる距離で歩くみやび。
その微妙な距離が今の二人を表している気がした。
「天音さんのこと。好きなんだよね?」
「!!」
突然のことに何も言えなくなる。
達也がみやびは気が付いていると言っていたことを思い出したが今は何の意味もなさなかった。
「やっぱりそうだったんだ・・・」
真実を知ってしまって少し落ち込んでいるみやび。
たしかに姉弟間の恋愛なんて普通じゃないだろう。
「・・・」
何かを言うタイミングを逃し、俺は黙ってみやびの言葉を待つしかなかった。
「・・・」
みやびもみやびで何も言えなくなっているらしい。
気まずい空気が出来上がり二人とも黙ったまま歩いていく。
「わたしね、孝介くんのことが好きだった」
ぽつりと、みやびがこぼした。
その言葉で俺の胸は締め付けられそうになった。
「ごめんね、こんな時に言って・・・。でも、でも・・・」
そういうみやびの目から涙が落ちていく。
俺はその涙を・・・拭ってやることすらできなかった。
代わりに・・・俺は・・・
「ごめんな。その気持ちは嬉しい。だけど、その気持ちに答えられない」
正直に気持ちを打ち明ける。
それが俺に出来る最大だった。
「うん、わかってる・・・いいんだ。でもこれだけは言っておきたかったから・・・」
みやびのほうをちらっとだけ見る。
辛いはずなのに、憎まれても仕方ないはずなのにみやびは泣きながら・・・笑っていた。
「ごめんね・・・ほんとごめんね・・・」
泣きながらあやまるみやび。
そんな姿を俺は・・・見ていられなかった。
「じゃあ先に行くから。ほんとごめんな?」
そう言って俺は駈け出した。
少しでも早くここから逃げ出したかった。
みやびのそばにいることが、みやびの泣き顔を見るのがたまらなく辛かった 。
「孝介くん!!」
後ろからみやびの声がして、一瞬無視しようかとも思ったけど結局振り返った。
「がんばってね」
みやびは相変わらず泣いていたが・・・最大級の笑顔を見せてくれた。
「ああ・・・」
その声はみやびには届いていなかったかもしれない。
いや、届いていなかっただろう。
だけど深く心に誓った。
せめて天音だけは幸せにしようと・・・。
前に向き直り再び走り始める。
夕焼けが涙でにじんで見えたのだけは鮮明に覚えていた。
C'est la vie(セ・ラ・ヴィ) 第1話 2012年08月12日
C'est la vie(セ・ラ・ヴィ) プロローグ 2012年08月03日
ギル×オズ 禁じられた遊び(腐+18禁注… 2011年05月22日 コメント(2)