inti-solのブログ

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2011.01.13
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カテゴリ: 環境問題
このブログでは、これまで度々温暖化懐疑論を批判してきました。批判の対象はもっぱら武田邦彦。他に丸山茂徳なども俎上に上げたことがありますが。

丸山茂徳の「地球温暖化論に騙されるな!」(講談社)は購入して読んだものの、武田邦彦の著作は、一読して、とても金を払って読むような価値のあるものとは思えず、基本的に図書館で借りて読みました。と、書くと、図書館は購入する価値のない本を読む場のように聞こえてしまいますが、もちろんそうではありません。

さて、今度は広瀬隆です。
実は、私は昔広瀬隆の本には随分共感したことがあるのです。広瀬隆は反原発派の旗手の一人であり、私も原発に対してはきわめて懐疑的だからです。
チェルノブイリ原発の事故が起こった直後に出た「東京に原発を」という本(最初の版はチェルノブイリ以前に出版されていたようですが)は、なかなか面白かった。そんな広瀬隆の著作ですから、武田邦彦みたいな右翼的かつ粗雑な理論展開を繰り広げる輩とはひと味違った主張が読めるのかなと思い、この本は書店で購入して読んでしまいました。

結論としては、やっぱり武田邦彦と同レベルだった、ということに尽きます。うーーーん、私に中では、広瀬隆の評価ががた落ちです。
基本的に、既存の使い古された温暖化否定論が再度持ち出されており、つっこみどころが満載。事実の間違いが多く、主張の展開やその根拠が粗雑です。

1.気温上昇グラフを「捏造」したのは誰か?

例えは、冒頭からいきなり、以下のような主張が書いてあります。

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問題の地球の平均気温は気象庁のサイトに掲載されています。
http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/temp/an_wld.html
http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/temp/list/an_wld.html

確かに、1998年の気温の平年差は+0.37度となっています。かつて、1998年の世界の気温が平年より0.8度高かったと発表されたというのは、確認してはいませんが、おそらく事実だろうと思います。では、その理由は何故か。

気象庁のサイトに、ちゃんとその理由が説明されています。
上記の平均気温の推移の表の末尾に、更新履歴があります。
http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/temp/rireki_temp.html
です。
これを読めば、気象庁の発表した1998年の世界の平均気温の平年差が、何故年を追うごとに下がっていったのか、その理由がきちんと説明されています。
まず、2000年の発表で0.8度から2002年の発表では0.64度に下がった件は

2001年


ということです。つまり、2000年の時点で使われていた「平年値」は1961~1990年だったけれど、2001年から、それが1971~2000年に切り替えられたのです。「平年」から除かれた1961~1970年の気温は、ほとんど平均以下、新たに「平年」に加わった1991~2000年の気温は全部平均以上なんだから、平年値がぐんと上がったことは確実です。当然各年の気温の平年差は以前より小さくなる。実に当たり前の話です。
時の引用文の中で、「図3の基準として比較した平年値は、どちらも1971~2000年の平均値で、同じである。」とあります。図3というのは、2002年に公表されている「1998年の気温の平年差」と2008年に公表されている「1998年の気温の平年差」の比較です。確かに、2002年と2008年の間には、平年値の切り替えはないので、この主張は間違いではありませんが、2000年との間には平年値の切り替えがあったのに、そのことには触れていない。非常にトリッキーなやり口というしかありません。

さて、では2002年と2008年の差はどこから来たのか。これも前述の更新履歴にちゃんと説明されています。

2005/12/14
世界の平均気温について、陸上で観測された気温データのみを使用した算出方法から、海面水温を含めた算出方法へ変更したことにより、過去の全ての年の平年差・平年比を再計算



http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/temp/land/land_an_wld.html
1998年は平年差0.64度となっています。

というわけで、これは広瀬隆がきちんと調べなかったのか、知っていて隠したのか分かりませんが、変遷の理由がちゃんと説明されているのに、それを無視して陰謀に仕立て上げてしまった例です。

ちなみに、気象庁は10年ごとに「平年値」を更新します。今年2011年がその更新年に当たります。つまり、去年までの「平年値」は1971-2000年の平均気温でしたが、今年からそれが1981-2010年の平均気温に変わるのです。当然、平年値は今までより上がるし、それによって、1998年の気温の平年差は今までより更に小さくなるはずです。ひょっとすると、広瀬隆は「またデータがこっそり書き換えられた」と主張するかも知れませんが、事実はこのとおりですので、今から予告しておきます。

2.温暖化肯定派はCO2以外の環境問題に関心がないのか?


さて、その次にはこんな文章があります。

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私もブログで人を批判するときはかなり手厳しい表現を使いますから、あまり人のことを言えませんけれどけれど、それにしたって程度の差というものはあるわけで、「幼稚園児レベルの知能」とか書いてしまうのはさすがにどうなの?と思います。
それはともかく、CO2の排出を減らすべきであると声高に叫んでいる人のなかで、CO2さえ減らせばそれだけで環境が守れるなんて言っている人がいるでしょうか。CO2のみが環境問題のすべてである、CO2のみが人間社会の問題である、などと言っている人が、いったいどこにいるでしょうか。
最近私はテレビをあまり見ていないのでよく分かりませんが、新聞などその他のマスコミ報道も含めて考えれば、上記に広瀬隆が挙げている様々な問題のすべて、とは言いませんがかなりの部分は、大々的に取り上げられています。そもそも、砂漠化、大気汚染、水質汚染、酸性雨、熱帯雨林の破壊などは、地球温暖化と表裏一体の問題です。
(原発の温排水の問題に限定すれば、確かにあまり取り上げられていないと思います)

むしろ、砂漠化やダイオキシン汚染、野生生物危機などを公然と否定する人は、反温暖化論者の中にいる。言わずと知れた、武田邦彦です。

3.中性の温暖期とか、近世の寒冷期は本当にあったのか

これは、他の温暖化否定論者も同様に主張していることですが、広瀬隆も、中世には「20世紀より遙かに気温が高い」温暖期があったと信じているようです。
中世の温暖期は、確かに存在したと思われますが、地球全体規模としては、おそらく「20世紀中頃と比べて0.5度くらい気温が高い」という程度のものです。20世紀の100年間で、地球の平均気温は0.8度上昇していますから、現在の平均気温はすでに中世の温暖期を超えていると思われます。
一口に「地球の気温」と言っても地域差があります。当時文明が発達していた北半球の温帯域、特にヨーロッパではかなり気温が上がったことは事実ですし、そのために、当時気温がとても高かったという記録がたくさんあるのは事実ですが、世界中がみんなヨーロッパ波に温暖化していたわけではありません。たとえば、グリーンランドと南極の氷床コア分析では、中世の温暖期も、近世の小氷期も、気温変動の痕跡はほとんどないのです。つまり、南極とグリーンランドでは、この時期に目立った温暖化や寒冷化はなかったということです。温暖期や寒冷期が全くなかった、とは言いませんが、氷期のすさまじい気候変動に比べれば、取るに足らないような変動にすぎないのです。

うーーーーん、たった30ページまでの批判だけで、すでにこんなに長文になっている・・・・・・。このままこの本の最後まで批判しようとすれば、10回以上に分けて連載しなければなりません。けれど、そんなにこのテーマを続けたら、きっと読者がいなくなってしまいます。書く私も辛いし。
というわけで、以降は要点を限定して、あと1回か2回の記事に納めることにします。
というわけで、続きは次の記事に。(途中に別のテーマが挟まるかも知れませんが)





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最終更新日  2011.01.14 00:25:07
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Re:広瀬隆「二酸化炭素温暖化説の崩壊」を読む その1(01/13)  
YASUO IKEDA さん
前々から思っていた疑問ですが、真空は熱を伝えないのに熱のままどうして宇宙に放熱できるんでしょうか?、宇宙に行ったことがない僕には本当に宇宙が真空なのかもわかりませんが。 (2022.07.10 20:03:38)

Re[1]:広瀬隆「二酸化炭素温暖化説の崩壊」を読む その1(01/13)  
inti-sol  さん
YASUO IKEDAさん

真空でも熱は伝わりますよ。空気がなければ「対流」による熱伝導はありませんが、放射熱は真空でも伝わります。というか、そうじゃなかったら、地球と太陽の間は真空なのに、どうして太陽の光が地球を暖めるんですか、という話になります。
もちろん、太陽の熱を受けて温められた地球からも、放射熱が宇宙空間にどんどん出ていきます。そうでなければ地球は太陽に暖められる一方で灼熱地獄になってしまいます。
しかし、二酸化炭素などの温室効果ガスは、本来放射熱として地球の外に放出される赤外線を吸収してしまうことによって、大気圏内に熱をため込んでしまう。もちろん、一定程度の温室効果ガスは必要なのですが(温室効果ガスが皆無だと、地球は氷に閉ざされた星になります)、多すぎると問題が生じるわけです。本当に微妙、絶妙なバランスの上に地球の環境は成り立っています。 (2022.07.10 22:11:19)

もうちょっと具体的に説明すると  
inti-sol  さん
YASUO IKEDAさん

対流、放射熱という言葉だけではいささか分かりにくいところもあるので、もう少し細かく説明しますと、真夏のカンカン照りの晴天の暑い日に、部屋の窓を閉め切ってエアコンをガンガンかけると涼しいです。ところが、その涼しい部屋の中でも、太陽の日差しを受けると、暑い外気は入ってこなくても、太陽の熱は感じますよね。(だから夏にエアコンを効率よく使うにはカー店頭で日差しを遮る方がよいです)
あるいは逆に、冬の寒い日でも、晴れた日中であれば、窓を閉め切って冷たい外気の侵入を防いでおけば、そこそこ部屋の中が暖かくなります。

また、白熱電球や電熱器に手をかざせば熱を感じます。空気が暖められた結果ではなく、熱源から直接暖かさが伝わっていることは、体感的に理解できるのではないかと思います。これが放射熱ですね。

それに対して、暑い夏に窓を開け放って、外の空気が室内に入ってきて熱くなるのは、対流による暑さ、ということになります。あるいは、白熱電球や電熱器の後ろにファンをつければ、そうでない場合よりもっと暖かい。これも同じですね。 (2022.07.10 23:10:34)

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