inti-solのブログ

inti-solのブログ

2017.03.28
XML
「幅50メートルにわたり雪崩」=NPO法人現地調査-スキー場8人死亡事故・栃木


雪が割れた破断面は確認できなかったが、雪の状態などから幅50m、厚さ40~50cmの雪が動いたとした。縦にどれくらい動いたかはGPSを使って今後分析するという。
現場は雪崩が起きやすい地形で、その真下を休憩場所として選んだために、多くの生徒が巻き込まれたと説明。短時間に大量に雪が降った直後で、雪の状態が不安定になっていたとの見方を示した。

---

なんとも痛ましい事故が起こってしまいました。栃木県の那須高原で、高校生の春山安全講習会で、まさかの雪崩による8人の死亡事故です。
実は、私は先日上高地に行く前、「どこの山に登ろうか」と考えていた候補がいくつかあったうちのひとつが那須でした。天気が安定していれば、茶臼岳は簡単に登れる冬山入門の山とされているからです。結局、「やっぱり北アルプスがいいかな」と思って上高地にしてしまいましたが。
上高地でも、3月という時期と積雪量から、雪崩の可能性は常に意識して、徳本峠(雪崩があり得る場所です)の一番上までは行かずに引き返しました。(帰宅時間との兼ね合い、という面もありましたけど)

でも、那須は昨年5月に登ったのが初めてで、そのときは積雪皆無でした(昨シーズンは記録的暖冬で雪が少なかった)。まだ積雪期の那須に登ったことがないので、那須がそれほど雪の多い山域とは思っていませんでした。だから、那須岳で雪崩の可能性というのは、今回の事故までは考えたことはありませんでした。
それに、スキー場で雪崩というのは、普通はあまり考えないものです。
ただ、スキー場で雪崩が起きないのは、圧雪されているからです。しかし、現場の那須ファミリースキー場は、20日に今シーズンの営業を終了したそうです。それ以降は、新たに雪が降っても圧雪などはしていなかったのでしょう。圧雪された雪の上に新しく新雪が積もった状態は、かなり雪崩の起きやすい条件です。そもそも、 こちらの記事 によると、雪崩の発生地点はスキー場のコース外だったようですが、やはり凍った古い雪の上に新雪が積もり、表層雪崩が起きやすい条件だったそうです。

この件で、主催者側にどの程度の責任があったのかは、現時点では私にはよく分かりません。※ただ、8人もの前途ある高校生が亡くなってしまった事実は、責任の程度がどうであれ、とてつもなく重いと言うしかないでしょう。仮に不可抗力だったとしても、関係者は一生重荷を背負っていくことになるのだろうと思います。

※追記2に記しましたが、その後雪崩現場の地形図が明らかになりました。この地形で雪崩のリスクを考えなかったとするなら、相当に問題がある判断と言うしかありません。


↓この写真だと、現場の斜度は分かるのですが、この写真のどこで雪崩がおきたのかがよく分かりません。

那須雪崩現場

雪崩の場所は奥の樹林帯のどこかではあるのでしょう。そうすると、あの程度の標高差、樹林帯の中であることを考えると、「雪崩が極めて起きやすい地形」とは認識しなかったとしても仕方がない気はします。

---
追記1
毎日新聞に別の写真が出ています。2枚の写真を照合すると、茶臼岳(上の写真の右側の樹林が切れた一番高い山)で発生した雪崩が、樹林帯の切れ目付近にいた高校生に直撃したようです。樹林の切れている、斜度のある雪面では、確かに雪崩リスクは高そうです。
別記事によれば 、雪崩に巻き込まれた人たちは尾根付近にいたそうです。普通は尾根上は雪崩に巻き込まれるリスクは低いと考えられますが、尾根と言っても幅が広くて、雪崩発生地点からの距離も短ければ、直撃されることもある、ということなのでしょう。※

※追記2に記したように、地形図で確認する限り、実際には雪崩遭遇現場は、尾根ではなく単なる斜面のようです。

那須雪崩現場

---
追記2(4月1日)
たかさんへのコメントの過程で検索したところ、 日本雪崩ネットワークのホームページに、さっそくこの事故の報告が掲載されている ことを発見しました。
それによると、

那須雪崩現場

さらに、現場の地形図はこうなっています。

那須雪崩現場
この地図は、目からうろこでした。この地形図を見ると、遭難現場は尾根ではなく、単なる斜面の途中です。下から見た写真で尾根のように見えるのは、その向こう側が見えないことによる目の錯覚に過ぎないようです。

一般的に、尾根の上で雪崩に遭うリスクは低い(どちら側かの斜面に流れていってしまうので)ので、先に「雪崩が極めて起きやすい地形とは認識しなかったとしても仕方がない」と書きました。しかし、これは下から見た写真による目の錯覚に基づくもので、実際には尾根ではなく単なる雪の斜面だったとすると、かなり雪崩リスクの高い場所だったことになります。
現場にいたわけでもない私が、写真を頼りに現場の地形を想像したのとは違い、当事者は地図を持っていて、現場の地形を把握していたはずです。それにもかかわらず、これを尾根だと判断したとするなら、ちょっと救いようがない気がします。
---


ラッセル訓練中だったそうですが、私の場合は、わざわざラッセルのための訓練はやったことがありません。
ラッセルというのは、「ラッセル車」と同様、雪を掻き分けて進むことです。一人でやる場合もありますが、膝下ならともかく、膝より上まで潜る雪に対してのラッセルは、一人で連続して2時間も3時間もできるものではありません。だから、通常は複数人によるパーティーで交代で行います。複数のパーティーが一緒になってしまえば(前でラッセルをしていれば、後から来た登山者はすぐに追いついてしまう)、複数の団体・単独行者が混合状態になって交代でラッセルをします。
Siragamon10.jpg

2015年1月白毛門にて、前を行くラッセル集団に追いついてしまったところ。前方の集団がラッセルをしているのを見ると、わざと近寄らないような不届き(?)なグループもたまにあるらしく、そういうのは「ラッセル泥棒」などと呼ばれることがあります。

ところで、この講習会の参加者が、誰も雪崩ビーコンを持っていなかった、ということが 報じられています。
正直に申し上げるなら、私も、雪崩救助の三種の神器とされる雪崩ビーコン、ゾンデはもっていません。雪かきスコップは持っていますが、自宅周辺の雪かき専用で、山に持っていったことはありません。(登山用の折りたたみ式軽量スコップなので、山にもっていくことは可能ですが)
私の知る範囲では、山スキーは雪崩のリスクがより高いため、山スキーヤーはある程度雪崩ビーコンを持って入山していると思われますが、一般ルートを歩く登山者で雪崩ビーコンを持っている人は、非常に少ないと思われます。ビーコンやゾンデは、正確なところは分かりませんが、スコップを持っている登山者は、積雪量が比較的少ない八ヶ岳では、皆無に近いし、より積雪量の多い北アルプスでも、10人に1人くらいでしょう。もちろん、スコップがなくてもピッケルである程度雪を掘ることはできますけどね。

雪崩ビーコンは、雪の下に埋まった人を捜し当てる役には立つものの、その前提は、誰か無事な(かつ、ビーコンとゾンデを持っている)人が捜索活動をしてくれる、ということになります。単独行やパーティー全員が雪崩に埋まったら、どうにもなりません。
あれほどの大集団であれば、雪崩ビーコンは捜索の役には立ったでしょうが、それでも雪崩ビーコンがあれば命を落とした人の大半が助かったかといえば、その可能性は低いと考えざるを得ません。ビーコンを持って雪崩リスクの高い場所に行くなら、ビーコンを持たずに雪崩リスクの低い場所に行くほうが、よほど安全です。

雪崩ビーコンはあったほうが良いのは確かですが、ビーコンがないことが決定的に重大な装備不足、とは言えないように思います。

私自身は、幸いにも雪崩に遭遇したことはありません。(だから生きている)しかし、雪崩の怖さを体感することはあります。
たとえば、膝まで潜るような深雪の中を歩いていると、歩いている間はふかふかの雪です。ところが、何かの事情で足を止めると、膝まで潜った足が抜けなくなることがあります。普通に歩いているときはなりませんが、下りで猛烈に飛ばしているときなど、動きが激しいときに急に足を止めると、そういうことが起こることがあります。
ああ、雪崩のときに起こるのもこれなんだな、と思います。
ふかふかの新雪でも、何らかの理由で激しく動かされると(動かされる、ということは圧縮されるということでもある)、動きが止まった数秒以内にカチカチに固まってしまう、という性質があります。そうなったら、雪ではなく氷の中に閉じ込められているようなものだから、自力では身動きができなくなります。

私が、冬山の恩師(職場の元先輩)から聞き及んでいる範囲では、雪崩にあったら

 とにかく走って逃げろ
 巻き込まれたら、必死で泳げ(浮力で上の方に浮き上がる可能性がある)
 止まった瞬間に雪が固まる前に手を口の前に持ってきて空間を作れ(息の続く時間を稼げる)

というのが対策の基本です。それも、まあ気休めよりはマシ、程度ですが。
アイゼンワークの訓練とか、滑落停止訓練というのはあっても、雪崩脱出訓練というのはさすがにありませんから、それを練習で会得する、というわけには行きません。ぶっつけ本番しかない。それで実行できるのかどうかは謎ですけど。

TanigawaDake06.JPG
2014年1月谷川岳にて。雪の斜面に亀裂が入っているのが分かれます。こんなのは、いつ雪崩が起きても不思議はない状態です。

TanigawaDake09.JPG
これも、同じときの谷川岳です。雪が尾根の先の空中に張り出しているのが分かります。これを雪庇(せっぴ)と呼びます。雪庇が崩れ落ちると、その下側では雪崩が発生します。それと同時に、登山者が間違えて雪庇を踏み抜いたりすると、雪ごと転落してしまいます。そういう危険があるので、積雪期に稜線上を歩くときは、雪庇の下も雪庇の上も歩いてはいけません。必ず、雪庇の風上側で、稜線ラインからある程度はなれたところをあるかなければならないのです。この写真でも、トレース(踏み跡)が稜線からある程度はなれていることが分かります。トレースがない場合、どこまでが地面の上の雪で、どこからが雪庇の上なのかが、歩いている本人には分からないから、雪庇踏み抜きによる転落事故が、たまに起こることがあります。

ともかく、冬山に絶対安全はない、というのが現実です。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2017.04.01 10:48:13
コメント(6) | コメントを書く
[登山・自然・山と野鳥の写真] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: